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7.邪魔者はとことん邪魔をする(16)

 教室に戻ると、佐合さんも戻ってきていた。たぶん、少し顔色がよくなかったせいもあるのかもしれない。ヤスに心配そうな顔をされてしまう。 「要、長かったな。腹でも下したか?」 「ち、違うよ」 「そうか?」 「だったら、これ食べられる?」  そう言って佐合さんが出してきたのは……団子? 「あんこと、ずんだの餡と、みたらし?」 「おおおおっ!俺、ずんだ好きぃぃぃっ!」  佐合さんのお皿から、ずんだの団子を一気に2つ、プラスティックのフォークに突き刺して、頬張った。 「……んまい!」  この瞬間だけは、柊翔のことを忘れられた気がした。食い物って偉大。目の前の団子は、どんどん俺たちの胃袋におさまって、あっという間に消え去った。 「次、何つくるの?」 「今度は、シュークリーム!」 「おお!佐合さん、期待してるね!」 「任せなさい!」  すっかり胃袋を掴まれてる俺も含め、みんなで食い物の話で盛り上がりながら、教室を出た。 俺は甘い物が食べられれば十分なんだけど、 「お菓子ばっかじゃなくて、今度はご飯ものとか、お腹にたまりそうなのが食べたいよ~」  などとヤスが我儘を言う。 「だったら、ヤスくん、一緒に料理研究部に入る?」  冷たい目で見る佐合さんに、そう言われて、一瞬立ち止まって考え込むヤス。 「本当に入るかもよ?」 「それならそれで、いいかなって」  ヤスを後に残したまま、クスクス笑いながら、俺と佐合さんは校門に向かっていると。 「獅子倉くん!」  ……百合さんが一人で待っていた。 「なんで連絡くれないの?」  うるうるした目で、そう言いながら、俺にすり寄ってくる。 「あ、え、いやぁ……」  上手い言い訳が頭に浮かばない俺は、ジリジリと後退してしまう。 「ああっ!この前の!」  百合さんの姿を見るなり、猛ダッシュしてきたかと思えば、そう言って俺の背中を押しまくるヤス。クソッ、完全にパワー負け。 「お、おい、押すなって!」 「何言ってんだよ~!もう、モテ男っ!」  俺の気持ちなんてお構いなしに、グイグイと百合さんと密着させようとするから、 「きゃっ♪」  完全に、百合さんが俺の胸元に抱き付くような位置にいるじゃないかっ。 「ヤ、ヤス、やめろよっ!」 「何真っ赤になっちゃって~、要ちゃんてば、照れてるの~?」  "このこの~!"と、肘で俺の脇腹を押す。 「痛いってーのっ!」  ヤスの頭にチョップをくれてやった。 「ヤスくん、やめなよ」  いつもよりも、ちょっと声のトーンの低い佐合さんの声に、ヤスがびっくりして、俺から離れた。 「さ、佐合さん?」  俺も驚いて、彼女のほうをみると、なんだかジト目で、俺を見てる。 「あ、茜ちゃん、お、怒ってる?」  ヤスもびびって、佐合さんのところに戻ってオロオロしだした。 「ヤスくんって、意外と鈍感なのね」  キッと睨みつけられて、"ヒッ!"と逃げ腰になってるヤスを放って、佐合さんは俺を見ると、 「獅子倉くん、帰ろう?」  と、俺の腕を取ろうとしたら。 「悪いけど、私との話は終わってないんだけど。」  佐合さんの目の前に、百合さんが立ちはだかった。  ……二人の間に、火花が散っている気がする。  美人な百合さんの怒りの表情は、それはそれで迫力があるんだけれど、佐合さんが思いのほか、本気で怒ってるっぽい。 「さ、佐合さん、大丈夫だから」  佐合さんを宥めながら、ヤスに目をやると……ヤスはヤスで泣きそうな顔になっている。 「ヤ、ヤス……佐合さん、連れてけよ」 「獅子倉くんっ!」 「また、明日ね」  相変わらず泣きそうな顔のヤスは、佐合さんの腕を取ると、ずるずると駅のほうに向かった。手を振って見送っていると、 「獅子倉くん、ありがと」  そう言って、百合さんが、俺の胸にすがりついた。

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