95 / 122
7.邪魔者はとことん邪魔をする(16)
教室に戻ると、佐合さんも戻ってきていた。たぶん、少し顔色がよくなかったせいもあるのかもしれない。ヤスに心配そうな顔をされてしまう。
「要、長かったな。腹でも下したか?」
「ち、違うよ」
「そうか?」
「だったら、これ食べられる?」
そう言って佐合さんが出してきたのは……団子?
「あんこと、ずんだの餡と、みたらし?」
「おおおおっ!俺、ずんだ好きぃぃぃっ!」
佐合さんのお皿から、ずんだの団子を一気に2つ、プラスティックのフォークに突き刺して、頬張った。
「……んまい!」
この瞬間だけは、柊翔のことを忘れられた気がした。食い物って偉大。目の前の団子は、どんどん俺たちの胃袋におさまって、あっという間に消え去った。
「次、何つくるの?」
「今度は、シュークリーム!」
「おお!佐合さん、期待してるね!」
「任せなさい!」
すっかり胃袋を掴まれてる俺も含め、みんなで食い物の話で盛り上がりながら、教室を出た。
俺は甘い物が食べられれば十分なんだけど、
「お菓子ばっかじゃなくて、今度はご飯ものとか、お腹にたまりそうなのが食べたいよ~」
などとヤスが我儘を言う。
「だったら、ヤスくん、一緒に料理研究部に入る?」
冷たい目で見る佐合さんに、そう言われて、一瞬立ち止まって考え込むヤス。
「本当に入るかもよ?」
「それならそれで、いいかなって」
ヤスを後に残したまま、クスクス笑いながら、俺と佐合さんは校門に向かっていると。
「獅子倉くん!」
……百合さんが一人で待っていた。
「なんで連絡くれないの?」
うるうるした目で、そう言いながら、俺にすり寄ってくる。
「あ、え、いやぁ……」
上手い言い訳が頭に浮かばない俺は、ジリジリと後退してしまう。
「ああっ!この前の!」
百合さんの姿を見るなり、猛ダッシュしてきたかと思えば、そう言って俺の背中を押しまくるヤス。クソッ、完全にパワー負け。
「お、おい、押すなって!」
「何言ってんだよ~!もう、モテ男っ!」
俺の気持ちなんてお構いなしに、グイグイと百合さんと密着させようとするから、
「きゃっ♪」
完全に、百合さんが俺の胸元に抱き付くような位置にいるじゃないかっ。
「ヤ、ヤス、やめろよっ!」
「何真っ赤になっちゃって~、要ちゃんてば、照れてるの~?」
"このこの~!"と、肘で俺の脇腹を押す。
「痛いってーのっ!」
ヤスの頭にチョップをくれてやった。
「ヤスくん、やめなよ」
いつもよりも、ちょっと声のトーンの低い佐合さんの声に、ヤスがびっくりして、俺から離れた。
「さ、佐合さん?」
俺も驚いて、彼女のほうをみると、なんだかジト目で、俺を見てる。
「あ、茜ちゃん、お、怒ってる?」
ヤスもびびって、佐合さんのところに戻ってオロオロしだした。
「ヤスくんって、意外と鈍感なのね」
キッと睨みつけられて、"ヒッ!"と逃げ腰になってるヤスを放って、佐合さんは俺を見ると、
「獅子倉くん、帰ろう?」
と、俺の腕を取ろうとしたら。
「悪いけど、私との話は終わってないんだけど。」
佐合さんの目の前に、百合さんが立ちはだかった。
……二人の間に、火花が散っている気がする。
美人な百合さんの怒りの表情は、それはそれで迫力があるんだけれど、佐合さんが思いのほか、本気で怒ってるっぽい。
「さ、佐合さん、大丈夫だから」
佐合さんを宥めながら、ヤスに目をやると……ヤスはヤスで泣きそうな顔になっている。
「ヤ、ヤス……佐合さん、連れてけよ」
「獅子倉くんっ!」
「また、明日ね」
相変わらず泣きそうな顔のヤスは、佐合さんの腕を取ると、ずるずると駅のほうに向かった。手を振って見送っていると、
「獅子倉くん、ありがと」
そう言って、百合さんが、俺の胸にすがりついた。
ともだちにシェアしよう!