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7.邪魔者はとことん邪魔をする(17)
「あ、いや、あの……」
彼女を無理やり剥がそうとするけれど、思いのほか力強くて。彼女の付けている香水なのか。甘い匂いが俺たちを包み込んでいるような気分になった。
「ゆ、百合さん?ちょ、ちょっと離れましょうか」
そう言ってるのに、離れてくれない。むしろ……む、胸が当たるんですが。
「離さないから」
俺の顔を見上げながら、じっと見つめてくる。一瞬、彼女の青みがかった黒い瞳に吸い込まれそうになって、息が止まる。
「あ、あの……ここ、学校なんで……困るんですが……」
なんとか、それだけ言うのが精いっぱい。だけど、なんとか離れてくれた。
「じゃあ、別の場所なら、いいのね?」
強引に俺の手をとって歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ」
ほんと、この人、見かけによらず力があって。本当に女子かって思ってしまう。
「だって、学校じゃまずいんでしょ?」
うっ。この人の笑顔が、真面目に怖いと思った。"捕まえた獲物は逃がさない"そう言ってる気がする。
「そ、そうですけど、そうじゃなくて」
なんとか腕を振りほどこうとするのに、うまく外せないのは、俺が"女性"だからと、遠慮してしまうからか。
「い、いい加減にしてくださいっ」
それでも、俺も我慢の限界で、大きく手を振りほどいた。
「きゃっ!」
「あっ」
勢いありすぎたせいで、百合さんが、よろめいて、そのまま尻餅をついてしまった。
「いった~い!」
顔を真っ赤にして、俺のことを睨みつけた。う、綺麗な分、迫力が……。
「す、すみませんっ」
ああ、俺、何やってるんだろう?慌てて、彼女を立たせるように、手を伸ばす。
すると、彼女はニコっと笑って、そのまま素直に手をつかむと、思い切り勢いよく立ち上がって……再び俺に抱き付いてきた。
「捕まえた♪」
……なんか、この人、懲りない人だな……
段々と、諦めの境地に陥りそうになった時。
「……要っ!」
後ろから、焦ったような柊翔の声がした。振り向くと、俺に抱き付いている百合さんを見つめる柊翔が、なぜだか、一瞬、顔を歪めたような気がした。
「あ」
「ご、ごめん、邪魔だったかな……」
「い、いや、これはたまたまっ」
「うん、邪魔」
……え。
ニッコリ笑って、俺にしがみついてる百合さんは、ものすごいストレートに言い放った。
「い、いや、百合さん、俺、もう、帰りたいんだけど……」
「えー。百合のこと送ってくれないの~♪」
……いつの間にか、キャラが変わってきてないか?
「お、俺、百合さんの家知らないし……」
ああ、助けて……という視線で柊翔を見るけど……柊翔は、さっきの百合さんの言葉のショックで、呆然としたまま。
「男の子だったら、女の子のこと送ってくれたっていいんじゃない?」
そう言うと、俺の腕を再び抱きかかえると、
「それじゃ、鴻上くん。またね!」
俺を引っ張っていこうとした。
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