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7.邪魔者はとことん邪魔をする(19)

「……明日って」  呆然と見送る俺。 「要、帰ろう。」  柊翔も不機嫌そうな顔になっている。そりゃ、そうだろう。気になってる子に、ずっと無視されてるんだもの。 「し、柊翔さん、大丈夫ですか?」 「ん?なにが?」  あ。あれ?いつも通りの顔。 「い、いや、なんか機嫌悪そうだったから……」 でも、今は、そうでもないかな。 「そ、そうかな」  あ、でも、焦ってるから、やっぱり図星なんだろう。なんだか、複雑な気分。  初めて来た場所なのに、柊翔は迷いなく駅までの道を選んでいく。土地勘のない俺は、ただついていくだけ。 「……要さ」 「はい?」 「あの子のこと、好きなの?」  振り向きもせず、聞いてくる。 「え、いや、全然、そんな風に思ってないですっ」 「本当に?」  ……そんなに気になるんだ……我慢しなきゃ。  俺は柊翔の目の前に回り込んだ。 「本当です。俺、なんとも思ってませんからっ!」  言い切った俺に向けて見せたのは……満面の笑顔。 「そっか……」  ……そんなに嬉しいんですね。  なんだか悔しくて、寂しくて、柊翔の顔が見れなくて、早足になる。 「お、おい、要、駅はそっちじゃないよ」  柊翔が何か言ってたのに、俺の方は耳に入ってこなかった。 「要っ!」 「うわっ」  急に腕を引っ張られて、柊翔の胸元に倒れこんだ。 「な、なんですかっ!?」 「なんですか、じゃないよ。道が違うって」  ヤバイ。柊翔の顔が、こんなに近いなんて。慌てて離れたけれど、柊翔の制汗剤の匂いが、俺の鼻先をかすめて、心臓の鼓動を早くさせる。 「す、すみません……」  俺が赤くなってることに気づかれないようにと、俯いたけど、すぐに柊翔の手が、俺のおでこに触れてきた。 「熱でもあるのか?」  ……もうっ!そんなこと、しないでください。 「ね、熱なんてないですっ。鴻上さん、心配しすぎですよ」  心配しなきゃいけないのは、百合さんのほうでしょ? 「……そうか?要だから心配なんだけどな」  そんな優しいこと言われたら……気持ち抑えなきゃって思ってるのに……柊翔の顔が見られない。  電車に乗っても地元の駅につくまで、まともに会話もできなかった。俺は窓の外を見ていて。柊翔は、参考書を見ていて。  テスト終わったのに、と思ったけれど、柊翔はもう三年で、受験生なんだってことを思い出した。  そうだ。柊翔と同じ学校に通えるのも、来年の春までなんだ。  隣に立つ柊翔をチラッと見ると、柊翔も俺のほうを見て"何?"と、目線で聞いてきた。こんな時間も貴重なのかもしれない。そう思いながら、頭を振って"なんでもない"と伝える。  フッと笑って再び参考書に目を戻す柊翔の横顔に、俺の心臓がドキッと跳ねた。

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