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7.邪魔者はとことん邪魔をする(25)
毎日裏門から帰っていく要を、佐合さんとヤスくんがエスコートしてくれるおかげで、俺も練習に集中できた。
祥吾とは、相変わらず、普通に付き合ってる。なぜ祥吾の名前が出てきたのか、その説明を亮平からは聞かされていない。そのせいもあって、黒幕っていうのがピンとこないでいたのだ。
「鴻上先輩」
練習の合間の休憩時間、祥吾が少し困った顔で俺に話しかけてきた。
「ん?どうした?」
汗を拭きながら、スポーツドリンクを飲む。
「あの、ちょっといいですか」
「なに?」
「うちの従姉のことで……」
ドキッとした。
こいつの従姉ってのは知っていたことだけれど、わざわざ俺に話してくるって。嫌な予感しかしてこない。
「それって、俺なんかでいいの?」
タオルで顔を隠す。イラッとした顔を見られるのは嫌だから。
「ええ。獅子倉のことなんで」
タオルの端からチラリと見えた祥吾の口元が、少し歪んで笑っているように見えた。
祥吾……?
タオルを外して祥吾の顔を見ると、いつも通り。
「で?」
できるだけ、いつも通りのつもりで、祥吾と話をつづけた。
「ええ、百合が獅子倉のこと、気にいってるのは、鴻上先輩もご存じだと思うんですけど」
なぜか、さっきの口元が思い返されて、祥吾の言葉が嫌味にしか聞こえてこない。
「なんか、全然、獅子倉に相手にされてないみたいで、なんとかしてくれって頼まれまして」
「ふーん」
「で、鴻上先輩からも、言ってもらえないかなって」
「……なんで?」
俺は、祥吾のことを冷ややかな眼で見ていた。
「だって……鴻上先輩の言うことは、なんでもきくでしょ?獅子倉って」
すっと俺の視線からはずした祥吾の顔は、クスッと笑う。なぜだろう、他愛無いことなのに、一々引っかかるのは。
「なんでもじゃない」
「そうですか?でも」
「そういう話なら、俺には無理だな」
「でもっ」
祥吾の、どこか悔しそうな顔。
「もういいか」
そう言って、祥吾から離れる。
俺の中に、ほんの少し。ほんの少しだけ、黒いシミのような気味の悪い疑惑。
ちょうど休憩時間が終わった。武道館の中のだれていた空気が、緊張感のあるものに変わる。
竹刀を振る俺の視界に、祥吾の姿が入る。真剣に練習に取り組んでいる祥吾。
俺が知っているのは、この真剣な顔の祥吾で、"黒幕"みたいなダークなイメージがまったくなかった。
「お疲れ様でしたっ!」
練習が終わり、武道館に全員の声が響く中、頭の中を、ぐるぐると、疑惑ばかりが渦巻いてしまう。
「どうした?」
潤が、心配そうに俺の隣に来る。
「……いや」
試合が近いこの時期に、余計なことを考えさせたくないし、部の雰囲気を悪くしかねない。
「大丈夫だ。気にするな」
フッと笑って、潤の肩をたたく。
「何かあったら言えよ」
「……ああ」
何かあるとは思ってても、無理には聞き出そうとはしない。さすが主将だ。
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