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8.俺の隣(7)

* * *  柊翔の試合は、残念ながら、準決勝で負けてしまった。今回は、最後まで応援できて、悔し涙まで流してしまった。 「くぅっ!鴻上先輩、惜しかったなぁっ!」  剣道部でもないのに、俺と一緒に悔し涙を流すヤスに、「しょうがないなぁ」と、ハンカチを渡す佐合さん。ナイスカップル♪  ほのぼのとした気持ちで二人を見ながら、会場を後にしようとした。 「獅子倉くん」  俺たちがちょうど会場の出口を出ようとした時、太山さんが声をかけてきた。 「あ、お疲れ様でした」 「うん、あのさ、柊翔、知らないか?」 「え?」 「集合場所に来てないんで、もしかして、獅子倉くんと一緒なのかな、と思ったんだけど……ったく、どこに行ったんだかっ」  太山さんのイラッとした顔に、少しだけビクついてしまう。  そしてなんとなく、ゾワリとした感覚が背中を這い上って来た。なぜだか、あの日のことが、プレイバックする。  柊翔には、俺みたいなことは起きないと思うのに、つい自分のことと重ねてしまう。 「スマホに電話してるんだけど、出なくてさ。もし、見かけたら、俺に連絡くれるように言ってくれる?他のやつらは先に帰らせるんで」 「あ、はい」  太山さんは、俺たちに片手をあげて挨拶をして、去っていく。 「鴻上先輩、どうしたんだろ?」  小首をかしげる佐合さん。  柊翔が何も言わずにいなくなるなんて、おかしい。俺とヤスは、なんとはなしに、目を合わせる。 「……」 「……」  まさかね。 「ヤス」 「行ってみるか?」 「お前、わかるか?」 「ああ……いないと思うけどな。」 「……いないことを確認しに行こう」 「佐合さん、ここで、ちょっと待っててくれる?」 「えっ……?」  佐合さんの返事を聞かずに、俺とヤスは走り出していた。

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