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8.俺の隣(10)
戻る途中に、会場付近の大きな地図のかかれた看板に気が付いた。
「ヤス、そっちじゃないっ」
『裏手の駐車場』は、思いのほか近かった。広々とした駐車場に止まっている車は、ちらほらあるだけ。その中の一台、黒い車の側にタバコを吸いながら佇んでいる男の人の姿が見えた。俺とヤスは彼のもとに全力疾走した。
「う、宇野さんっ」
俺もヤスも肩で息をしながら、宇野さんの前に立った。
「お疲れ様」
深く煙を吐き出してそう言うと、タバコを携帯灰皿に押し付け、それを仕舞った。
「鴻上くんなら、車の中にいるよ」
車の中を親指で指すから、言われるままに車の中を覗き込む。中にいると思われる柊翔の影は、身動き一つしない。
「し、柊翔は……?」
隣に立っていた宇野さんに、尋ねた。
「大丈夫、今は眠ってるだけ」
「え、なんで?」
「ん~、簡単に言うと、私たちが襲われそうになってた鴻上くんを救い出したってところかな」
まさか、と思った。柊翔は俺なんかよりも身体もデカイし、運動してるから、ちょっとやそっとの相手に、遅れを取るとは思えない。
「……相手が悪かったんだよ」
「だ、誰ですか、そいつはっ!?」
「……君は知らなくてもいいよ。それよりも、鴻上くんのそばにいてあげなさい」
そう言うと、車から離れながら、スマホを取り出して、誰かに電話をかけはじめた。
「ヤ、ヤス、太山さんに連絡できる?」
「いや、連絡先、知らない」
「じゃあ、俺のスマホで」
太山さん宛に電話をかけると、そのままヤスに渡して、後部座席のドアをあけ、柊翔の隣に座った。驚いたことに、柊翔は剣道着のままで、スヤスヤと眠りこんでいる。覗き込んだ顔や、目に見える範囲にはケガなどをしているようには見えなくて、ホッとした。
「よかったぁぁぁ……」
安心したせいか、涙をポロポロと流しながら、ギュッと柊翔の身体を抱きしめた。
「……ん~?」
俺が強く抱きしめすぎたせいか、柊翔が目を覚ました。
「あ、あれ?要?」
「うっうっう~!」
涙を止められずに、唸ってる俺と、眠そうな目で見つめる。
「ど、どうし……た……?」
「なっ、なんでもないっ……ヒック……ヒック……」
身体をだるそうにしながら、ぼーっと俺の頭を優しく撫で続ける柊翔。
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