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8.俺の隣(14)

「今日の鴻上くんの最後の試合、見てましたか?」 「もちろんです。」 「……いつもの彼らしくない、と思いませんでしたか?」 「確かに、いつもよりも動きが鈍くなっていたとは思いますが。さすがに疲れが出たのか、とも……」 「亮平さんと、あんなにやりあえるのに?」 「……」 「最後は少しふらついていたように見えました。そして、試合の終わった後、誰かと一緒にどこかに移動していく姿を、うちの者が見かけました。そして、救護室にでも連れていくのかと思ったら」  一瞬、眉間にシワがよる。 「そいつは、ある場所に連れ込んだわけです」 「っ!!?」 「そのまま、彼に何かするのかと思ったんですが、すぐにその場所から離れて、自分のと鴻上くんの荷物を取りに行ったんです。そして、鴻上くんに手を出す寸前に、我々が確保したわけです。」 「……それって。」  チラッと隣の太山に目をやる。 「……名前は言いませんよ」  太山はゴクリと喉を鳴らした。柊翔の荷物を取ってくることができるなんていうのは、同じ剣道部の人間にしかできないことだ。その上、柊翔が体調の悪い身体を任せる相手なんて、かなり身近な人間しか考えられない。 「その……主犯格のヤツは……」 「……たぶん、鴻上くんも獅子倉くんも、警察沙汰にまではしたくないでしょう。獅子倉くんの今までの対応を考えても。ですから勝手ながら、うちで処理させてもらいます」 「……処理って……」 「……ご想像にお任せします」    宇野の浮かべる冷笑に、太山の背中がゾクリとした。亮平の家が、かなりの金持ちだということは聞いていたけれど、ここまで、色々するなんて。 「馳川くんの家って……」 「いたって普通のお金持ちですよ」  普通のお金持ちって、なんだ?と思いながら、座席に身体をもたれた。

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