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第12話 誘い
足を止めてしまえば不思議なもので、雅也の顔をじっくり見ると俺の知らない実の父の面影を探す。二重瞼が羨ましいと思ったことがある。
テレビや映画の中のイケメンと呼ばれる男は、大抵が二重瞼のくっきりとした顔立ちばかり。
どこかで憧れを持っていたのか、俺の付き合う男もみんな二重瞼のヤツだった。
さっきまで、腹の底から憎たらしいと思っていた男に親近感を覚えると、このまま繋がりを断ってしまうのも惜しい様な気がして来る。
「この家、このままずっと維持するの大変だな。親戚から何も云われないか?」
「........どうしてそんな事......?」
「いや、俺も尾道の父が亡くなった後で親戚に云われてさ。家を売ってマンションでも買ったらどうかって。」
「.........、それ、僕も云われてます。確かに、掃除も行き届かないし使っていない部屋は扉を開けるのも怖いですよ。」
「だろ?!.....男独りにこの屋敷は大きすぎる。それに、.....」
「なんですか?」
俺は云おうか迷った。
空気の淀んだこの屋敷の中に居たら、雅也の精神がまいってしまうのではないか。
ふと自分の住まいと比較してしまう。
「俺の事嫌ってるのかもしれないけどさ、.....気が向いたらうちへ来ないか?」
「え?」
「そっちの仕事は時間も関係ないだろ?夜遅く帰って来るのがこの家じゃ......、なんかさ、」
「.....は、......変な人だ。僕に襲われたってのに、誘ってるんですか?」
「ああ、まぁな。.....一応、俺の弟だから。」
「.............」
「家は知ってるよな。気が向いたらでいい。俺は学生が休みに入る迄は昼過ぎからの仕事になるから。夜はちょっと遅いんだが、電話くれたら都合つけるし。」
「.........行くとは言ってません。でも、.....気が向いたら、.....」
「うん、....じゃあ、今日は帰るよ。突然来てしまってすまなかった。電話待ってる。」
雅也の視線が少し揺れたのを見届けて、俺は襖を開けると玄関へと向かった。
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