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第15話 涙のわけ
身体を横にすると、さっき食べた物が一気に喉奥まで上がってくる様な気がした。
それでも雅也から目を外す事が出来ず、必死で喉をゴクリと鳴らす。どうしてこんな状況になったのか、記憶を遡ってみるが訳が分からない。
「本当にオメデタイ人。和人さんは母親が失踪してもグレずにまっとうな道を歩んできたんですね。」
「何を云ってるんだ?お前だってそうだろ。ちゃんと大学出て建設会社に就職して、充分まっとうな道を進んでるじゃないか。今のこの状況を除けば、だけどな。」
俺の言葉を相変わらず見下ろしながらの冷たい視線で聞いている雅也。
その瞳の奥の碧い炎が、心なしか潤んできたような気がした。と、俺の頬に何か滴が落ちた。
「まっとう?........僕の何処がまっとうなもんか。」
滴は雅也が話すたびに俺の頬に落とされて、それが雅也の涙だと分かると俺の心も不安になった。
「俺が憎いか?......自分の家族の幸せを壊した女の息子で、お前の父親の血を引く兄で。こんな事をするほど憎いのか?」
もう抵抗をする気にはなれなかった。
俺を痛めつける事で雅也の気が済むのなら......
何も知らずに生きてきた俺が、雅也の憎しみを一心に受ける事でコイツの心が解放されるのならそれでもいいと思った。
「.....憎い、憎いですよ!」
「じゃあ、好きにするといい。雅也の気が済むように、殴りたければ殴ればいいし。ただ俺は、お前が俺と一緒に食事をしてくれて、此処へ来てくれただけで嬉しいよ。雅也の事を知らないままだったかもしれないのに、こうして血を分けた弟が居たって事実が分かって良かった。」
「............っう、.......」
一瞬、低い呻き声をあげた雅也の身体が、仰向けの俺の身体に乗って来た。
俺の胸に顔を埋めて咽ぶ泣く姿に驚くが、跳ね返す事も出来ずにじっと横たわったまま。
手首をきつく掴んでいた指が解かれると、雅也の指先は俺のシャツをギュッと掴み、なおも強く顔を擦りつけた。
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