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第16話 知りたいよ。
暫くは、俺の胸の上で肩を震わせていた雅也。が、突然フッと状態を起こして立ち上がる。
「あ、おい。」
と、手を伸ばすが届かずに。指先は虚しく空を切った。
「失礼しました。バカな事をしてしまった......。」
そういうと、部屋に置いた自分の上着を手に取って帰ろうとする雅也。手の甲で涙を拭うから目尻が赤く腫れてしまうが、それを気にするようでもなかった。
「おい、待てって。もう遅いし、それに酒も少し入っている。良かったら今夜は泊って行かないか?」
「........そ、れは......」
「お前が俺に対して憎しみを抱いても仕方のない事だと思ってる。もし、逆の立場なら.....、きっと俺も同じ様に思っただろうさ。けど、こうして一緒に飯を食って話せたんだ。言いたい事は全部ここでぶちまけてくれ。そして、俺に、お前の親父さんの事を話して欲しい。」
床に視線を落としていたが、その言葉で俺の顔を見つめると、雅也は困った様な表情になる。
「訊きたいんですか?今更..........ずっと知らないままだった人の事を 」
「ああ、訊きたいよ。母さんが俺や父さんを捨ててまで傍に居たいと思った人だ。実の兄だとしても、常識では止められなかったほどの情念を燃やした相手。すごく知りたくなったよ。」
ふーっと息を吐くと、雅也はもう一度手にした上着を床に置いた。
それから俺の近くに腰を降ろすと、目頭を指の腹でゴシゴシと擦り覚悟した様な顔付きになる。目まぐるしく変わる表情に、どれが本当の雅也の顔なのかと思うが、不安定な感情をそれなりにコントロールして生きてきたんだろう。それが外れ掛けているのか.....。俺は、コイツの中の淀みを洗いざらい拭ってやりたくなった。
そしてこの感情が俺にとってどんな意味を持つのか、それさえをも知りたくなった。
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