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第17話 おもいで

 雅也が話す父親の事。 名家といわれた中での暮らしは、今では想像もできない程窮屈なものだったらしい。 雅也の母の実家はそこそこの家系で、二人は家同士が決めた結婚をしたにすぎない。でも、工さんはデザインや建築やそういったものに興味があって、海外に留学をしたかったらしいが、結婚が決まってそれも出来なくなった。  俺の母親である妹とは、美術館巡りや映画、演劇、個展に行くようになり、いつしか周りで噂の種にされたようだ。こんな狭い世界で、共通の楽しみを見つけていただけなのに、周りの目はやがて二人をがんじがらめにしてしまう。  母がどういうつもりで俺を身籠る事になったのかは分からないが、多分工さんしか信じられる人がいなかったんだろう。そして、工さんの結婚話はどんどん進んでいって、もうどうにもならなくなった。だから母は身を隠したんだ。 「僕が和人さんの家を覗きに行った時、初めて目にしたあなたを見て驚きました。そして、あなたのお父さんを見た時確信した。あなたは父の子だと。」 .............工さんには似ていないのに、どうしてそう思ったのか不思議だった 「母には云えませんでしたが、僕にはなんとなく兄弟の繋がりというか、そういうものを感じてしまったんです。」 「俺の知っている母は、尾道の父と仲良く笑い合っている姿しかない。父も俺の事を大事にしてくれたし、母の秘密を知っている様には思えなかった。」 「知らなかったのでしょうね。でも、天涯孤独っていうのはどうでしょう。そこは知っていたけど知らないふりをした、とか。」 「............そうだろうか...。」

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