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第18話 血縁
少し話しているうちに落ち着いたのだろう。雅也の表情も柔らかくなり、俺が泊まって行けと云った言葉にも素直に頷いた。
「一応、新しい洗面道具とかスウェットもあるから、気兼ねなく使ってくれ。」
そんなに広くはないが、客を泊める部屋はある。
尾道の父が男の割には掃除好きで、それを見習った訳じゃないが俺も整った部屋に身を置くことは好きだった。
母の死から少しだけ我を忘れそうになってはいたが、雅也を迎えるという事で気分的にも掃除が楽しくなったのは事実。
客間に布団を一組敷いて、そこに着替えを置いておく。
雅也に使うように云うと、頭を下げて「ありがとうございます。」と云った。
思い出を聞かせてもらおうと思ったが、雅也の口から父親への愛情は感じ取れなかった。
むしろ、避けて生きてきたようにも思える。
そりゃあ、そうするしかなかったのかも.......
高校生の時に失踪されて、駆け落ちの相手が俺のオフクロだという事を知っていたのだから。
俺だって、もしも知っていたらどんな顔をしていたか......
憎んでいたかもしれない。
先に風呂へ入った雅也は、出てくると居間で本を読む俺に「ありがとうございました。サッパリしました。」と礼を云った。
「あ、.....うん。じゃあ、俺も入ってくるから。雅也くんは休んでくれていいよ。朝は何時に起こす?明日は休みだろ?」
俺が立ち上がって雅也に訊く。
「.....雅也、でいいですよ。くん、とか付けられると変な感じで。.....あと、朝は和人さんが起きたら起こしてください。」
「....ぁ、そう。じゃあ、雅也って呼ぶ。朝はだいたい7時頃に起きるから、もし寝ていたいならそう云って。」
「はい、僕もその前には起きてますから。仕事がら朝は早いので.......。でも、明日は和人さんが起こしてくれるまで寝ているつもりです。」
「うん、分かった。じゃあ、おやすみ。」
「おやすみなさい。」
まだ他人行儀な感じは否めないが、兄弟と分かってから日も浅い。それに、俺たちの置かれた境遇はかなり特殊なもの。心開く迄は時間もかかるだろうと思った。
浴室へ向かい、服を脱いで鏡に映る自分の姿を見る。
あの雅也が俺の弟か......。この身体の中に巡る血は、アイツと分かち合ったものが入っているのだと、変なところで納得した。同じ父親の血。そして俺に至っては、更に濃い血縁を持っている。
生物学は俺の不得手な所だが、今更ながらにこの身体に宿るモノが理解できなくて、将来的に何も起こらなければいいが、と思った。
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