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第21話 よく聞く話

 橋本の事が気になりながらも、授業を終えた俺は帰り支度をするとビルを後にした。 雅也に作った食材がまだ残っているし、橋本に食べさせる義理はないが自分の晩御飯も用意しなきゃならない。飲み物だけをスーパーで購入すると家のある方へ歩き出す。   今頃になって俺に頼み事とか....... ちょっと不気味ではある。  家の前に着くが、橋本の姿は見えずそのままカギを差し込むと玄関ドアを開けた。 「あ、おかえり」  急に背中から声が掛かって、ハッとなって振り向くと橋本がビニール袋を手にして立っていた。 「なんだ、お前も何か買ってきたのか?」 「ああ、つまみと酒。」  俺に袋を寄越すと、後に付いて家の中に入って来る。 ガサゴソという袋の音が、シンと静まり返った部屋に響くと、それをテーブルの上に置いた。 「変わんないなー、この家。ちょっと年季が入ってるけどさ。前に来たのって、親父さんが亡くなった頃だっけ。」 「ああ、そうかも。忘れたけど....」 「相変わらずだよな、和人は。」  橋本は自分が買ってきた缶ビールを袋から取り出すと一口飲んでからそう云った。 コイツの云いたい事はなんとなく分かっている。俺は昔から人に執着がない。というか、多分母さんが出て行ってからそういう性格になったのだと思う。 「何でもいいけど、俺は腹減ってるから飯を作るけどさ、お前、食べるの?」 「おっ、いいね~、オレの分もお願いしまーす。」  調子のいいヤツ。と思いながら俺は台所へと行った。  時間も遅いし、簡単に丼ものですまそうと調理を始めたら橋本がビールを片手に台所へやって来る。 「.....ところで頼み事って何だよ。」  野菜を炒めながら橋本に訊けば、テーブルにビールを置くなり「ここに居候させて」と云った。 「.....はあ?此処って、......家は?」  手を止めて振り返ると訊く。 「実はさぁ、一緒に住んでる男がいたんだけど、そいつ田舎に帰って結婚すんだってさ。んで、あのマンションは引き払うとぬかしやがって、追い出されたんだ。オレ、地元じゃないし新しく部屋を借りるったって敷金とか払えないし。ちょっと金が貯まる迄、ここに置いてくんねぇ?もちろん金はいくらか出すし。」  あー、.......ゲイバーとかでよく聞く話だ。  若い時はいいけど、三十路を前にしてバイのヤツは女と結婚する事がある。 選択肢が多い分、あいつらは同性との恋愛を軽くみてる。まあ、みんながそうじゃないだろうけど.......。 「.....そういう男に引っかかったお前が悪いんだけど、.....まあ、敷金が貯まるまでっていうなら別にいいけど。どうせ、俺もひとり暮らしだし、部屋数はまあ、あるし。」  断るのも面倒でそう云った。 「やっぱり和人は優しいな~、恩に着るよ。マジ感謝。」  ホッとしたのか、橋本は又ビールの缶を持つと俺が調理している横に立ち、俺が作るのをじっと眺めている。

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