22 / 32
第22話 モトサヤにはなれない
「和人の料理、懐かしいなー。」
後ろから覗き込む橋本。そして、何故か手は俺の肩に乗っかって、肩を抱き寄せられる様な格好になる。
「邪魔、.....」
手の置かれた肩をぐるんっと回せば自然と手は離れて行く。
慣れ慣れしい態度は相変わらず。それを性格と割り切ってやりたいところだが、同居するとなったら話は別だ。一線は引いておかないと、ずるずるモトサヤになりそうで.....。
「和人、お前ここに独り暮らしって、この先もずっと?」
「.....ああ、そのつもりだけど。.....親戚はこの家を売ってマンションでも買えっていうけどさ、めんどくさいし.....」
確かに、父さんが亡くなってこの家にひとりで暮らすのはちょっと淋しい気もする。
5部屋分の掃除も正直面倒だった。それに、家は住む人がいないとどんどん寂れていってしまう。橋本が住んでくれるのはいい事かもしれない。
「結婚する訳じゃなくてもさ、パートナーは欲しいじゃん。今、いないのか?....まあ、いたらオレを住まわす訳ないか。」
「ああ、いないし、当分はそんな気にならないかも。ただ、...........」
と云いかけて、雅也の顔が頭に浮かんだ。
急に現れた俺の弟。今まで知らなかったのに、アイツと言葉を交わすうちに俺の中に何かが芽生えた気がした。
あの可愛げのない態度が、少しづつ変わっていく様子はちょっと新鮮かも。
それに、ご飯を美味そうに食べてくれて.......
たった半年でも、俺の方が年上だとなれば庇護欲みたいなものが芽生えるんだろうか?!
もっと懐いてくれたらどんな風に変わるのか、それを確かめてみたい気もする。
「さあ、出来たから食おうか。.....中華丼。」
「おお、美味そうー」
* * *
相手が橋本でも、俺の作った飯を美味そうに食べてくれるのは嬉しい。
大学の頃も、たまにうちに来てはこうやって食べていたっけ。父さんは俺がゲイだって知らなかったけど、橋本の事は特に不快に思ってはいなかった。友人が多いのは良い事だと思ってたからかな。ただ、女の子にはモテないと思われていたのかもしれない。
晩飯のあと、少し酒を飲んで話していたら11時になってしまい、仕方なく橋本を泊める事にした。
「ほーんと、悪いな、泊めて貰っちゃって。来週から荷物運ばせてもらうけど、いいかな?」
「ああ、いいよ。俺は平日夕方からの仕事だし、土曜日と日曜日は午前から夕方までだから。俺のいる時に引っ越し出来れば。」
「助かる。ホント、恩に着るよ。」
「ふっ、.....なんだかお前らしくないな。.....彼氏に逃げられて、実は相当弱ってるのか?」
「......思い出させるなよ。それなりに長く付き合ってきたんだぜ?結局女に取られるって.....」
「まぁ、仕方ないさ。今度からバイのヤツはやめるんだな。」
「マジで、そうする。.....だけどなー、こればっかりは.....。恋は盲目っていうじゃん、相手が何であれ、恋に堕ちたらどうしようもないんだよ。」
「.....そんなもんかな?俺にはよく分からないけど。まあ、今夜は客間に布団敷いてやるから、そこで寝て。」
「ああ、サンキュ。」
橋本を客間に案内して、俺は片づけをしながらさっきの事を思い出していた。
雅也の顔が浮かんだのはどうしてかな.........。
ともだちにシェアしよう!