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第24話 驚きと不安と

***  季節は夏。  橋本との同居生活にも徐々に慣れた頃。学生たちは夏休みとなり、俺は朝からの授業で忙しく働いていた。そんな俺のもとに一本の電話がかかって来る。 「あの、聖華建設の本永と申しますが、尾道和人さんの携帯でよろしいでしょうか?」 「え?.....はい。」  なんだろうと、おもわず小声で答えると、続けて雅也の名前が出てくる。 「本庄雅也さんですが、仕事中に熱中症で倒れまして。」 「は?......」 「病院に連絡しようと思ったんですが、尾道さんに連絡してほしいと云われて。救急車は呼ばなくていいというので.....。」 「え?熱中症で倒れたんなら救急車の方が、」 「それが、一応頭はしっかりしている様で、ただ本人、最近あまり食べてなかったみたいで、体力的に弱っているらしいんです。でも、入院するほどではないっていうので、.....どうすればいいか、一応連絡させてもらいました。」  驚いた。が、俺の名前を出したという事は、俺に迎えに来てほしいという事だろう。 「分かりました。救急でなければ俺が迎えに行きます。それから病院へ行くか決めますので。どこに向かえばいいのか教えてください。」 「はい、....」  午前の授業が終わったところで良かったと思った。 住所を訊くと、午後は別の講師に代わってもらい、俺は雅也を迎えに行く。  車を走らせながら、不安に胸が潰されそうな程痛みを覚える。 母さんが見つかったと知らされたあの日を思い出した。あの、なんとも言えない胸のざわめき。 「あ、.....すみません。尾道ですが」  そう云うと、建設現場の事務所に入る。 「ご苦労様です。こちらです。」  対応してくれたのは電話の人だった。施工業社の社員で、雅也の会社の下請けらしい。 「雅也、.......」  事務所の奥に間仕切りされた部屋があって、そこの長椅子に横たわる雅也の顔を見て声を掛けた。夏の陽射しで日焼けはしていたが、顔は土気色で覇気のない表情で俺に視線を寄越す。 「すみません、呼んでしまって、.....」 「いいんだよ。それより、救急車呼ばなくていいのか?」 「はい、......仕事中なんで色々面倒で。.....取り敢えず休めばなんとかなると思います。けど、家には.......」 「あ、...ああ、そうだな。俺のとこに来ればいいよ。歩ける?」 「はい、多分」  そう云うと、本永という人に背中を支えられてゆっくり身体を起こす。 「悪いけど、後は任せていいかな。一応今日の確認は終わっているから、明日またチェックするけど。」 「はい、大丈夫です。暑いし、みんな休みながらやってますから。本庄さんも今日はゆっくりしてください。ちゃんと食べないとダメですよ?」 「ああ、ごめん、迷惑かけて.....」 「いえいえ、尾道さんに来てもらって安心しました。よろしくお願いします」 「はい、.....じゃあ、」  雅也に肩を貸すと、ゆっくりした歩幅で通路を歩いて行き事務所を後にする。  後部座席に座らせて、俺は運転席に戻るとハンドルを握った。 バックミラーに映る雅也の顔は、どことなく安堵の表情を浮かべている様で、俺が来た事は雅也にとって良かったのだと思うと俺もホッとした。  

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