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第25話 頼っていいよ
車の中では、特に気持ち悪いという事もなく、ただ静かに眠る雅也だった。
この夏の陽射しの中で、現場仕事は過酷だろうな、と自分と比較してみる。
教室は、常に生徒が勉強しやすい環境になっていて、夏は冷房、冬は暖房が当たり前。
その中に居る俺も、そういう環境に慣れてしまっている。雅也たちの様に外気に当たる仕事なら、俺はきっと一日でバテるだろうな。
車を玄関横に着けると、そのまま後部座席の雅也に手を貸して歩く。
「どう?少しは楽になったか?」
玄関のカギを差し込んで訊けば、雅也は小さな声で「はい、だいぶイイです。」と云った。
「取り敢えず俺の部屋で寝てて。......あー、一応シーツは替えておくから。」
「......ぁ、はい。」
雅也を居間で待たせると、自室に行きベッドのシーツや枕カバーを剥した。
新しいものに変えると、エアコンを入れて部屋の温度を下げる。
「狭くて悪いけど、今、空き部屋に荷物が突っ込んであって......。あとでちょっと片付けるからさ、それ迄此処で我慢してくれ。」
「はい、すみません、迷惑を掛けてしまって....。夜になって具合が良くなったら家に戻りますから。」
すまなそうに立ち上がるとそういう雅也。
「いいって、今夜は泊っていけ。食事もろくに摂れないんじゃ益々身体が弱るばかりだ。俺が晩飯作るから、それ食って元気になるまでは此処にいろ。」
「でも、....」
「こういう時には頼ってくれていいんだから。俺も、その内困った事があったら雅也に頼るし。」
「...........はい、......」
雅也に着替えを貸してベッドに寝かせると、一応俺もホッとした。
入院するほどじゃなくて良かった。家でゆっくりっていっても、あの家じゃな....。
俺だってあそこの家で寝込んだら、もっと具合が悪くなる様な気がする。
廊下に出ると、橋本が運び込んだ荷物が置いてある空き部屋に向かう。
.....アイツ、片付けるのが面倒でこの部屋にガラクタを突っ込んだな
見廻すと、さほど必要のなさそうなものばかり。前の男の家にこれだけの荷物が入ってたのか?帰ってきたら絶対捨てさせよう。
ひと通り物色した後で、台所に向かうと冷蔵庫を開けてみた。
雅也の枕元にペットボトルの飲料水を置きに行くと、俺のベッドで気持ちよさそうに寝息をたてている。さっき事務所で見た時よりは、幾分か顔色も良くなっていて、俺が部屋に入ったのも気付かない程ぐっすりと眠っていた。
雅也の寝顔を見ながら、ふと、前に訊いた事を思い出す。
自分の顔は父親似だと云っていた。
俺が見るに、確かに童顔で建設現場の仕事が務まるとは思えない程の顔立ち。これじゃあ、作業員につけ込まれるだろうな。もっと強面の人ならまだしも.....。こんな可愛い顔じゃぁ、.....
長い睫毛を羨ましそうに眺めると、俺は部屋を出た。
今夜の献立を何にしようかと、頭の中で思いをめぐらせながら台所へ向かった。
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