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第28話 ちょっと嬉しくて
雅也に俺の部屋を使わせて、俺は仏壇のある部屋に布団を敷いて寝た。
久しぶりに仏壇をじっくり眺めて、此処に父さんと母さんの位牌があるのが変な気分で。
どうして俺だけ残っているんだろう。考えてみたら、この歳で両親を亡くすなんて想像もしていなかった。
瞼を閉じる前に、もう一度暗闇の中の仏壇に目を向け「おやすみ」と心の中で声を掛けるとゆっくり瞼を閉じる。
外が明るくなった気配がして、時計を見ると5時40分。
身体を起こすとゆっくり立ち上がった。今日も一日熱いんだろうな......。
洗面所で顔だけを洗うと台所に行くが、そこには橋本がいた。
「おはよー、親戚、大丈夫?」
コップにアイスコーヒーを入れながら俺に訊いてくる。
「おはよ、大丈夫だよ。シャワーも浴びれたし、まだ寝てるかもしれないけど、その内起きてくるだろ。」
「オレはコレ飲んだら出掛けるから。」
「早いな、仕事か?」
「あー、仕事っていうか、上司の機嫌取りで釣りに。ホントはこのクソ暑いのに海なんか行きたくねぇんだけど。......オレも大人になったと思わない?」
「ははは、とうに大人だわ。三十路前の男が。」
「はははは、お前もな。じゃあ、行って来る。」
「うん、行ってらっしゃい。」
廊下をスタスタと歩いて行く橋本の後ろ姿を見て、サラリーマンも大変だなー、なんて心の中で呟いた。
サラリーマンの事なら、雅也は仕事どうするんだろう。今日は土曜日だから休みなんだろうか。
俺の部屋に向かうと、そっとドアを開けて雅也が寝ているか確かめる。
まだ眠っているのか、ゆっくりとした寝息が聞こえて一応は安心した。具合、良くなってればいいが.............
簡単に朝食を済ませると、もう一度雅也の顔を覗きに行く。
そっとドアを開けると、雅也はベッドから起きて布団を整えていた。
「おはよー、具合はどう?」
「あ、おはようございます。もう大丈夫です。」
「だから、.....敬語。」
「ぁ、......」
「まあいいや。起きれるんなら良かった。朝飯食う?トーストとサラダしかないけど。」
「うん、.....食べる。」
ははは、やっと普通に喋ってくれた。
少しづつだけど、俺と雅也の距離は確実に近づいている。そう思ったら子供みたいにワクワクした。新しい友達と仲良くなれた気分だ。
「ところで仕事、今日はあるのか?」
テーブルについてトーストにかじりつく雅也に訊く。
「流石に今日は休むよ。一応昨日までの工程は終わらせてあるし、さっき後輩には連絡入れておいた。」
「後輩って、昨日の?」
「そう、......同じ大学だったから」
「そうか、......大学も会社も同じって、心強いよな。」
「.....うん、そうだね。」
雅也が食べる姿を横目で見ながら、俺は洗濯をしようと洗面所へ向かった。
途中、雅也の服も一緒に洗ってしまおうと、部屋に入ると昨日の作業服を手に取る。
上着からは、汗と土埃のすれた匂いがして、男の匂いを感じた。でも、この匂いと雅也の顔が一致しなくて、ひとり可笑しくてプッと吹き出す。あんな顔で土木作業とか、やっぱり想像がつかないや。
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