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第30話 兄弟じゃなくて従弟か.....
昼までに家事を済ませると、食事の用意をする。
キュウリとハムを細切りにして、錦糸卵を乗せた冷やし中華を作ると、それを居間のテーブルに置いた。それから雅也が休んでいる部屋に行く。
「雅也、起きれそう?」
声を掛けてドアを開けると、横になってはいたが目を覚ましてこちらを見ている雅也の顔が見えた。朝よりも随分顔色は良くて、俺も安心する。
「うん、もういいみたい。頭痛もないし......お腹も減った。」
「そうか、良かった良かった。冷やし中華だけど食べようか。」
「うん」
ニコリと微笑むと、薄掛けの布団を剥いでベッドから起き上がって来る。
しっかりと足も踏ん張れている様で、ふらつくことなく居間まで歩けたから、もう大丈夫だと思った。
「和人さんは塾の方いいの?」
そう訊かれ、今日は3時からの授業があると伝えた。
「夏休み中は朝から授業あるんだね。僕も塾に通ってた頃はそうだったかなー、もう昔の事で覚えてないけど。」
「学校が休み間の方が忙しいんだよな、俺らの仕事って。学校が始まれば夕方からの授業だし、そっちの方が楽かな。まあ、夜は遅い時もあるけど。」
「ふうん、塾講師も大変なんだね。」
「まぁな、でも、そっちの方が気候によっては大変じゃない?今みたいに猛暑とかさぁ、俺だったら一日持たないよきっと。」
「これは慣れもあると思うけど。まあ、僕も暑いのは苦手だ。」
二人で麺を啜りながら、他愛のない話をすると時間の過ぎるのも早かった。
「今夜も泊って行けよ。その方が俺も安心するし。」
そう云うと、雅也は少し考える仕草で口を一文字にしたが、うん、と頷いた。
それから暫くは黙ったまま、食べ終わるまで言葉はなかった。
「あー、それから.......、同居している橋本って男。今日は朝から釣りに行っててさ、接待らしいんだけど、多分俺がいない時に帰って来ると思うから、顔見たら俺の親戚だって云っといて。」
「親戚?」
「うん、......弟っていうのは.....。アイツ、俺が一人っ子だって知ってるからさ。説明するのめんどいし。」
「ああ、......分かった。聞かれたらそう云っとく。」
橋本と雅也が顔を付き合わせて話す事もないだろうが、でも一応。
俺たち兄弟の関係は、やっぱり説明が難しくて。戸籍上はあくまで従弟でしかない。
そうか、従弟って説明すればいいんだよな。
俺はなんか納得すると、食べ終わった食器を片付ける。
雅也も運んでくれると、洗うのを手伝ってくれた。
二人並んでこうしていると、なんとなく嬉しい様な恥ずかしい様な。
でも、雅也が嫌がらずにいてくれて良かったと思った。
始めて出会った頃の様な、まるで刃を向ける様な態度や表情はすっかりと消えていて、それだけでも俺にとっては良かったと思える。この距離が続けば嬉しいんだが.....。
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