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第2話

 俺は世にも奇妙な事に、果物の桃から産まれたらしいのだ。到底信じられない話だったが、今では桃から産まれて良かったと思っている。  この話をすると女にウケて、俺に興味を持ってくれる。そしてすぐに関係を持てるからだ。  ヘラヘラ笑っていると、父は俺の頭にゲンコツを落としてまた怒鳴り散らした。 「確かに俺たちはあの時思ったよ。お前が健康で幸せに育ってくれればそれでいい、他には何もいらないとな。でもなぁ、もうお前も十八だ!それなのにろくに働きもせず、毎晩クラブやパーティーだ? 甘ったれるのもいい加減にしなさい!もうこのお家にはそんな贅沢できるほどのお金はありません!」 「うわぁ〜ん」  ついには床にひれ伏せて泣き始める母。  「母さん……」と憐れむようにその背中をさする父を見ると、空気は読まない系の俺も流石に気まずくなってきた。 「……あー、ごめんね二人共。悪かったよ。来月からはちゃんとバイトするから」 「馬鹿者!来月じゃなくてすぐに働きに出るとか言えないのかお前は!そういうところがダメなんだ!」  親父は畳を拳で殴り、もう完全にキレた目つきで俺の耳朶を引っ張って玄関に向かった。  外に放り投げ出された俺は尻もちを付く。後から続くように荷物もポイポイと投げられた。 「いいか!これから職業安定所へ行って仕事を見つけて来い!決まるまで帰ってくるんじゃないぞ!」 「え、無理でしょ。仕事って一日で決まるもんじゃ無いし……」 「ならせめて、鬼ヶ島へ行って鬼退治でもして来い!鬼がなんかこう〜……悪さしてるって噂だから!」 「えぇー超ふわっとした情報。やだよ、鬼退治なんてダセェし」 「つべこべ言わずにとっとと行け!」  親父はピシャリとドアを閉める。  しばし呆然としたまま動けずにいると、ソロソロとドアがまた開いて、中から母が出てきたのでホッとする。  だよねだよね、今のは冗談だよね? 「桃ちゃん」 「お袋」 「これ、きび団子よ。お昼にでも食べて。お母さん、桃ちゃんはやれば出来る子だって知ってるわ。頑張ってくるのよ」 「……」  母は俺の腰に小さな巾着袋を付け、満面の笑みで俺を見つめてくる。顔には「早く行け」と書いてある。  えぇーお袋もすっげー怒ってんじゃん。さっきのは泣き真似だったんじゃん。  後が怖いので、俺はノロノロと立ち上がり、とりあえず職安のある方へと歩み始めた。  鬼退治に行くなんて頭の隅にもなく。 「急に言われてもなぁー。まいったなぁ」

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