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第3話

「桃ちゃーん、どこ行くの?」  声を掛けて来たのは、幼馴染みの友流(ともる)。  友流は豪遊仲間だ。肩まで伸びたブロンズ色の髪を靡かせ、黒目がちの甘い目許を武器にして人の懐に入り込むのがうまい。  ワンコのように俺の香りをかいで、興味津々に腰に付けた巾着袋を見てくる。 「なにこれ? 美味しそうな匂いがするー」 「きび団子。お前にやるよ。俺、今から仕事探しに行かなくちゃならないんだ」 「えーっ、桃ちゃんもついに働くの? これから雨でも降るんじゃね?」  腹が減っていたようで、友流は団子をモグモグと食べ始める。  なぜこんな事になったのか一部始終を話すと、友流はなにかピンときたように俺の肩に手を回し、耳元でささやいた。 「いいじゃん鬼ヶ島。財宝が眠ってるって噂だし」 「お前、そんな噂本気で信じてんのかよ」 「でも行ってみる価値あると思わない? そこの金塊をごっそり持ち帰ればしばらく金に困らないし、働かなくてもいいんだよ? それに、そこには絶世の美女も住んでいるっていう噂もあるし」 「行こうか」  例え金塊が見つからなかったとしても、絶世の美女をお持ち帰り出来たら万々歳だ。  俺は物心ついた頃から性欲が爆発している。これまで誰かれ構わず声を掛けやりまくってきたが、未だに絶世の美女とは出会った事が無い。 「けど、鬼になんて勝てんのかな。何匹いるのかも分からないし」 「俺と桃ちゃんだったら大丈夫だろ。一気にやっちゃおうよ」 「まぁ、そうだな」  友流も俺も喧嘩で負けた事は無い。自分一人では少々不安だが、二人なら心強い。本当はもう一人くらい仲間が欲しいものだが…… 「駄目だよ、そんな所へ行っちゃ!」  その声にはぁーっと深いため息を吐いたのは友流だった。  振り向けば、仁王立ちでこちらを睨み付けているハルヤの姿があった。といっても全然怖くない。茶色い短髪のハルヤはまだ十四歳。俺たちから見れば生意気なガキだ。 「じじ様とばば様が言ってたよ!そんな危ない所へ行くと神隠しにあうって!」 「いつもウルセェなぁハルヤは。いちいち俺たちの後をついて来てんなよ」  友流はハルヤの方に向かってしっしっと手を払う。ハルヤは負けじと友流の腕にしがみつき、鬼ヶ島へ行くのをやめさせようとしている。  友流は「俺たちの後」と言ったけど、ハルヤのお目当ては友流だ。近所に住むハルヤは友流に恋をしているようで、しょっちゅう後をつけ回している。その事に気付いていないのは村中で友流本人だけだと思う。イケメンだけど鈍感だ。 「お子ちゃまが一緒に来る所じゃないの。お家に帰ってばば様のお手伝いでもしてなさい」 「嫌だ!友流が行くって言うんだったら俺も行くぞ!」 「……お前は本当に聞き分けのねぇ……」 「まぁまぁ、ハルヤが行きたいって言うんだったらいいんじゃねぇの? 一人でも多い方がお宝を手分けして持ち帰れるわけだし」 「……まぁ、それもそうだね」  こうして俺は友流とハルヤを引き連れて、鬼ヶ島へ美女とやりに……鬼を退治しに行くことになった。ハルヤにもきび団子をあげ、自分も一つ口にほおり投げて海辺を目指す。  歩きながら、肝心な事を忘れていた事に気付く。

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