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俺はオメガで司はアルファで。突然こんなことになってこれが発情期だとも思えないけれど、司も匂いだって感じていた。もし何かあった時、迷惑をかけてしまうことになる。空き教室に着いたら帰ってもらおうと思っていたのに、司は俺を置き去りにすることはなく、あげく強く抱きしめてきた。 「落ち着くまでこうしててやる」 「んっ、」 「薬を飲んだらしばらくすれば治まるのか? 俺何も知らなくて」 「たぶ、ん、すぐとはいかなくても、治まる」 「ならそれまで傍にいるわ」 これまでの発情期は、一人で部屋にこもって、ベッドのシーツにしがみついて苦しんでいるだけだった。誰かに頼ったことはないし、発情期の時に他人の温もりを感じたこともない。傍に自分以外の誰かがいてその体温を感じる時、これほどまでにその熱を求めてしまうものなのかと、司に抱きしめられながらそんなことを思った。 抱きしめられているだけじゃあ足りない。もっと、もっとって、そればかりが頭に浮かんでは消えていく。 「真人、大きく息吸って、それからゆっくり吐け」 「ふっ、はぁ、ッ、ぁ、」 「落ち着いて、俺、何もしねぇから」 落ち着けるものか、今だってどうにかなってしまいそうで、自分のうるさい鼓動で耳も痛いくらいなのに。それでもなぜだか、その中に安心感があるように思えた。本能的にアルファを求める反面、邪魔するものはなく直接触れている彼の体温は優しさをくれているようで。 「ふ、」 「司っ、」 「大丈夫だって。何も、しねぇから……」 いつも何かと言い合いになってばかりで、司の態度にはウンザリだった。司だって俺に対して好意を抱いてはいないだろうに、こうして俺が垂れ流しているこの匂いに絶えながら俺の傍にいて抱きしめてくれる理由は何なのだろう。どうしてこうも安心するのだろう。 「……ばか」  「ひどいこと言うなよ」 「ばかだよ……っ」 行き場を失っていたその手を彼の背に回した。これまで発情期の度に握ってきたシーツの代わりにでもするかのように強い力でしがみつく。 「……にしてもやっぱりオメガのこの匂いってやっべぇな」 ふっと鼻で笑った司にの俺を抱きしめる力が強くなり、指先から彼の我慢が伝わった。 「全部、お前のせい、だからな」 「はいはい、俺が良い男過ぎてその匂いにやられたんだもんな」 「っ、ちが!」 否定はしたもののそれは事実だろう。俺のこれはいつもの発情期とは違って、ただ司の匂いにあてられて瞬間的に発情してしまっただけのもの。司が原因とは気に入らないけれどこれがもし他の奴だったらと思うととても怖い。司だから何もせずにこうして抱きしめてくれているのだろうし。 「司、ごめんなっ、」 「……それは俺の台詞だろ? 俺もごめんな」 司の匂いでこうなったのに、この匂いに今は安心感をもらっている。少しずつ落ち着きを取り戻してきた自分の体に安堵するも、手の届かない奥深くで何かに火が灯ったような感覚がした。 「真人が俺の腕の中にいるのって変だな」 「お前が、俺を抱きしめていることが、そもそも変だろ」 「ははっ、それもそうだわ」 今日のこの出来事は忘れてしまいたいに決まっているのに、段々と落ち着いていく俺の体は、司のこの熱をまだ感じていたい、忘れたくないと訴えていて、灯ったその火も消さないで大切にしてほしいとそう語りかけてくるようだった。 「俺、なんか変だ」 「大丈夫、さっきより呼吸が落ち着いてきてるぜ」 「そうじゃあなくて、……ううん、やっぱり何でもない」 何かを感じたのは俺だけ? と、聞くのはやめた。これは認めてはいけない、気づかない振りをしなければならない、そんな感情に思えた。

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