2 / 100

第2話 大阪狂想曲②

笙は明日菜を抱き締めた 『明日菜、皆に認められ笙の妻になれ 妻になったら夫を愛し 夫の家族に尽くせ お前が選んだ夫を死ぬまで愛せ… 絶対に拒むな……拒めば……溝が出来るぞ 何でも話し合い、隠し事のない夫婦になれ それをオレは望んでいる』 康太の殴り書きした様な字だった 明日菜の頑なな心が……康太の言葉に…… 溶けてゆく 明日菜は気張っていた 笙よりも笙の親を気にして…… 素直に甘える事が出来なかった 「………愛してる……笙…」 明日菜は呟いた 笙は「僕も愛してますよ!」と言い泣いた 初めて聞かされる明日菜の言葉だった 飛鳥井の家族も、榊原の家族も 優しい顔をして二人を見ていた そして一言 瑛太は「安定期までは腹の子に気を付けなさい」と釘を刺した 妻を孕ませた男の言葉は重かった 慎一は、さり気なく笙に一冊の本を差し出した 「……主からです……」 妊娠中のセーフセックスと題された本を笙に渡した 「主はこれを良く読め!と言ってました オレは妊娠しねぇかんな……解らんもんよー ……と付け加えてました」 笙は真っ赤な顔をした 明日菜も真っ赤な顔で俯いた 清四郎は「流石康太!」とワインを高らかに掲げた 真矢も「本当にね妻の鏡ね!」とカチンと乾杯した 清隆も瑛太も玲香も源右衛門も乾杯した 一生達はジュースで乾杯した 「部屋に移って飲み明かしましょう!」 真矢が言うと家族全員賛同した 「一生達も来なさい!お部屋に戻っても康太はいないわよ」 真矢は笑ってそう言った 「ええ。では俺達で宴会の場は用意する」 一生と慎一は、そう言い食事を終えると走って宴会の調達に出た 聡一郎はコップとか貸し出して貰えるモノは借りに出向き 宴会の場を作り出した 真矢は笙に「夫婦水入らず過ごしなさい」と告げた 「明日菜、無理しない程度に笙の世話をお願いしますね」 「お母様……解りました」 「明日菜、母さんで良いわよ 私達は家族よ?様はいらない 私は明日菜の母さんよ! 笙に言えない事でも何でも相談してね」 明日菜は泣きながら頷いた レストランを後にすると笙と明日菜は部屋に帰った 飛鳥井と榊原の家族は宴会に突入した そして朝まで笑いが消える事がなかった 楽しい夜だった 一生達もその輪に入って過ごした 康太は朝早くから起きていた 全裸のまま窓の外を見ていた 榊原は目を醒ますと隣の康太を探した 胸の中に収まっていた筈なのに…… キョロキョロ辺りを見渡すと康太は窓の前に立っていた 「……康太?どうしました?」 「伊織、大阪の街を見ていた」 榊原はベッドから下りると康太の後ろに立った 康太は背後から抱き締める榊原の体温に仰け反り榊原を見た 「僕は君と暮らす街が好きです」 「オレも伊織と暮らす街が好きだぜ」 康太は榊原の腕に頬を寄せた 「切れてませんか?」 「ん。沢山舐めてくれたから切れてねぇ」 「なら良かったです」 榊原はそう言い康太の頬にキスを落とした 「ゆっくりとお湯に浸かりますか?」 「たまには良いな」 榊原は康太と共にバスルームに向かった 浴槽に湯をためて、お湯がたまるまで体躯を洗った 中も外も洗ってお湯に浸かった 榊原と膝を合わせて迎え合わせに湯に浸かった 「暖まるんですよ?」 「ん。伊織、今日は笙の挙式だな」 「ええ。そうですね」 「腹に子がいるからな大変だな」 「康太は僕の子が欲しいと想いましたか?」 「………化け物が孕んだら……やっぱし化け物しか出ねぇのかな?」 康太は榊原を見ずに答えた 「………康太?」 「オレは……母親の腹に宿る前の記憶もある… 母親の腹から出て……かなりの年月子供のままでいた… 青龍が産まれる前からオレは存在してんだよ」 榊原は驚いた瞳を康太へ向けた 「天魔戦争後オレは生まれた」 「………何故今……その話を? 僕は君がどんな器で出来て様とも 天魔戦争後に生まれて様とも構いません そう言いませんでしたか?」 「………伊織の子が生みたいと想った事はある だが……オレは男という前に……化け物だ… そんなオレが孕んだとしても化け物しか産み出せねぇよ……」 「僕の康太を化け物呼ばわりは許しません!」 榊原は康太にそう言い康太を抱き寄せた 「………ごめん……伊織……」 「何かありましたか?」 「………夢を見てた……」 「どんな夢ですか?」 「………魔界での夢だ…」 「……聞かせて下さい」 「……聞いても面白いもんじゃねぇ」 「君の事なら何でも聞きたいです」 「…………伊織…」 「僕の康太は化け物じゃありません! 君でも許しませんよ!」 榊原がビシッと謂うと康太は口を開いた 「………オレは……長い間一人だったんだ 父や母や兄は……愛してくれた…… だが……他は逃げて行くんだ…… 子供の姿で3000年過ごした 父や母は……子供なら……と安堵するんだ そして成長してゆくと……危惧するんだ 炎帝の存在は驚異だと…… 大人が集まって……消せと……言うんだ 炎帝など存在してはならぬ……と言うんだ…」 榊原は康太を抱き締めた 「君は驚異などではない! 魔界に戻っても、そんな事は言わせません 僕の妻を貶める事は絶対に許しません」 「………伊織……」 「誰にも何も言わせません! 僕は親の期待通り法皇青龍になります! 僕の妻は未来永劫炎帝、唯一人! 君は何も気にしなくて良いのです 僕の愛は何も変わりません! もし君が龍に変身したって、受け入れる事が出来ます」 「伊織……龍は無理だぜ」 康太は笑った 「君しか愛せません 君だけ愛してます」 青龍の言葉に何時も救われる…… 存在して良いんだよ……と愛される 青龍の愛があればこそ…… 炎帝は立っていられた 離れれば正気でなど要られない…… 「………遥か昔は僕は君を護れませんでした だけど次に魔界に戻る時は、君を護ります 僕の妻は未来永劫 炎帝 唯一人!」 「………ごめん……伊織……」 「夢見が悪かったんですね そんな時こそ僕に抱かれて眠っていなさい 一人で窓の外を見てるから……要らない事を考えてしまうんです! 僕は本当に君がどんなカタチで出来ていようが気にしません! 君の器に、君の魂が入っていれば…… 僕は君が犬でもヒヨコでも愛せます 愛して愛して愛し抜きます! ですので、僕は君の器や、出来た過程は気にならないのです 化け物……と言うのは辞めて下さい 君は僕の愛する康太……嫌……炎帝を愚弄しているのですよ? 僕の愛してるのは……化け物だと言ってるのですよ? 僕はこの瞳に化け物なんかに映りません 愛する存在、飛鳥井康太で在り、炎帝なのです 愛してます炎帝、未来永劫君しか愛しません 僕の言葉は君に届いてますか?」 康太は榊原を見た 「届いてるよ……届いてるからオレは生きていける 青龍をなくせば……正気でなどいられない… オレは青龍がいるから……自分を保っていられる」 「なら良かったです! 僕は君だけの為に在るんですから!」 榊原はそう言い康太を抱き締めた 榊原は康太を持ち上げ膝の上に乗せた 榊原の温もりが康太を包んだ 「何で悪夢なんか見たんでしょうね……」 「………暑くてベッドの下で寝てた……」 「………転がったのですか?」 榊原は尋ねた 榊原も昨夜の情交で疲れ果てて眠っていた ………から気付かなかった 「………寒くて身震いした 身震いしながら……寒かった時の夢を見た」 「此処の下はカーペットは敷いてありません…… 床の上は寒いですよ……」 「ん……でも暑くて……落ちてた ベッドに戻るのも怠くてそのまま寝てたら…… 一番見たくない夢を見た…… 魔界大法廷で……神々が炎帝など要らない遺しておくな……と言ってた……夢を見た……」 「君は夫を得たのです 妻の権利は総て夫にあるんです 忘れましたか?」 「魔界の法廷文書?」 「そうです。妻は夫の帰属である! 魔界の決め事です。 君は青龍の正式な妻になります 両家の両親達は魔界全体に知らせる為に婚礼を開くと言うのです 婚礼を挙げた正式の妻を夫に無断で処分する事など出来ない 君は夫のモノなのです!総て僕のモノなのです!」 康太は嬉しい……と言い榊原に抱き着いた 「だから何も考えなくても良い 僕の事だけ考えてれば良いのです!」 「……ん。青龍……青龍……」 「逆上せてしまいますよ? 支度をして食事を取りに行きますか?」 「ん。腹減った……」 榊原は康太を抱き上げたまま立ち上がるとバスルームから出た 体躯を拭き髪を乾かし支度をする 康太の支度が終わると、自分の支度をした 康太に普段の履き慣れた靴を履かせ、自分も履き慣れた靴に変えた 支度が終わると榊原は康太に手を差し出した 「おいで!」 榊原が言うと康太は榊原の手を取った 恨む心を……愛に変える 淋しかった空っぽの心を愛で埋める 青龍の愛だった 青龍の愛で埋めて曲がらず導く 青龍の存在は…… 炎帝に残された唯一の愛だった 青龍…… 愛してる

ともだちにシェアしよう!