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第3話 大阪狂想曲 後半

朝、家族がレストランに行くと康太と榊原は既にレストランの席に座っていた 康太は元気なく俯いていた 瑛太は榊原に「康太はどうしました?」と尋ねた 「今朝方…熱くてベッドの下で眠ったみたいで…悪夢を見たみたいです…」 「………そうですか……君の愛で康太を包んであげて下さい」 「ええ。愛なら溢れまくってますので大丈夫です」 榊原はニコッと笑った 瑛太は康太に「大丈夫?」と問い掛けた 「……ん。伊織がいれば生きてゆける…」 康太は呟いた 瑛太の横にいた一生が康太を背後から抱き締めた 「お前には伊織がいる」 「解ってるよ一生…」 「なら良い!お前には俺達も家族もいる」 「忘れねぇよ!」 康太はニカッと笑って親指を立てた 榊原は食事をしながら笙に 「昨夜は素敵な夜が迎えられましたか?」 と尋ねた 笙は真っ赤な顔をして弟を見た 「………そう言うデリケートな事は聞かないで……」 「何言ってるんですか!兄さん! 今日挙式を挙げるんですよ! 喧嘩してないか聞かないでどうします!」 榊原は真顔で兄に食って掛かった 笙は「……素直な奥さんと愛し合いました」と降参して榊原に言った 「それは良かったです! 佐伯、素直に夫に愛される女性になりなさい」 「……はい。」 明日菜は真っ赤な顔でそう答えた 「兄さんドレスは持って来ましたか?」 「持って来た!」 「なら安心ですね そのドレスは大切に取っておいて何時か我が子に贈ると良いです 康太のドレスは須賀に贈ります 世界一幸せな奥さんの着たドレスです験担ぎに贈ると決めてるのです」 繋がれて引き継がれる愛の証 笙は胸が一杯になった 康太は何も言わず座っていた 相当テンションが低かった こんな康太も珍しかった 食事も……少し食べて終えようとするから… 「膝の上に乗せて食べさせられたいですか?」 と榊原に言われてた 康太は涙で潤んだ瞳を榊原に向けた 「食べなさい 食べれないなら僕が食べさせますよ?」 「………食べる…」 「無理しなくても良いですが、もう少し食べましょう」 「……ん。」 「今夜も僕の愛を注いであげます!」 それは……嫌だった 怠いのに…… まだ挟まってる感じがするのに… 「今夜は乳首だけでイキますか?」 康太はプルプル首をふった 一生が見かねて「旦那、虐めるな!」と怒った 聡一郎も「伊織、康太を虐めないで下さいね」と怒り 清四郎も「伊織、康太を虐めるなら今夜は私の部屋で寝かせますよ!」と釘を刺した 真矢も「そうです!本当に貴方は性格が悪い……」と愚痴った 慎一は黙ってそれを見ていた 瑛太も清隆も玲香も源右衛門も何も言わなかった 「康太、こんなにも君は想われてるんですよ 父さんや母さんなんて息子より君が大切なんですからね!」 と榊原は肩を竦めた 康太は席を立ち上がると榊原に抱き着いた 「………伊織……」 その腕は震えていた 「君は気にしすぎなんですよ 僕は何も不安に思わなくても良いと言いませんでしたか?」 康太の感情は引き摺っていた だから敢えて言ったのが解った 「も少し食べれますよね? 慎一に持ち帰りを用意させます 何時でも食べたくなったら言いなさい」 康太は頷いた 慎一が立ち上がると康太を椅子に座らせた そして持ち帰りを頼みにオーダーを入れに行った 一生は榊原に「何があったよ?」と問い掛けた 榊原は一生の耳に 「魔界大法廷で裁かれた時の夢を見た見たいです…」 と低い声で呟いた 一生は頭を抱えた 炎帝の時の記憶も康太にはある なれば、炎帝の時の夢を見る可能性もある筈だ それをすっかり忘れていた…… 「………それは旦那……キツいわ……」 一生は聡一郎の耳に榊原に聞いた事を告げた 聡一郎は苦しげに目を顰めた 「………あの頃は……孤独な子供でしたからね……」 聡一郎は呟いた 何時も独りで過ごす子供を……閻魔の邸宅で何時も見ていた 聡一郎は胸を押さえた 独りで過ごす炎帝に司命は冷たかった 取るに足らない存在とあしらった……時代があった ……炎帝に救われる前の話だった…… 康太は聡一郎を見て 「気にすんな!もう大丈夫だ!」と笑った 「なぁ、悠太は留守番かよ?」 と気を取り直して康太は聞いた 「悠太は脇田さんとニューヨークに行ってます 知りませんでしたか?」 瑛太が康太に説明した 康太は「……オレ知らねぇぞ」と零した 「悠太がパスポートってありますか? と尋ねて来たので、ありますよと教えたら 二週間ニューヨークに行きますと言ったのです 遊びで行くのですか?と尋ねたら仕事で行きます、と答えたので、康太に変わって支度をしてやりました 荷造りを慎一に手伝って貰って羽田まで送り届けました」 と、瑛太は康太に説明した 「………ニューヨークかぁ、悠太、英語出来たっけ?」 康太が呟くと聡一郎が 「毎日の会話は英語、日本語を話したらお仕置きしました!なので話せると想いますよ?」 と康太に教えた 「お仕置きって、あにしたんだよ?」 聡一郎は立ち上がると康太だけに教えた 康太は爆笑した! 「聡一郎……今度オレにも見せてくれ」 涙を拭きながら康太は笑っていた 「さてと、結婚式だな! 真矢さん着てみます?」 真矢は、え?と康太の顔を見た 「結婚、30年! 区切りに着れなかったドレス着てみますか?」 「………康太……」 「笙の式が終わったら真矢さんはドレスを着て清四郎さんと写真だけ撮すと良いです」 「………康太ありがとう……」 清四郎と真矢は挙式は挙げていなかった 結婚当初は貧しく何も持たない役者としても駆け出しだった 二人で合わせてやっとこさ生活出来る暮らしをしてたら……結婚式なんて夢だった 康太の結婚式の日 着たかったな……と真矢は思った 生涯に一度、愛する人の為に……ウェディングドレスを着たかった 役では何度もウェディングドレスは着た 何の感情もなく着て、役を演じた だが康太と榊原の挙式を見て ウェディングドレスが神聖なものに見えた そう思ったら想いは募った 康太はそれを知っていたのだ…… 「幸せな花嫁になってください!」 「………康太……」 真矢は泣いた 清四郎は妻の肩を抱き寄せた レストランを出ると教会に向かった 全員でバスと電車を乗り継いでの大移動となった 教会に着くと笙と佐伯は別室に連れられた 控え室で康太は榊原の膝の上に向かえ合わせで座って抱き着いた 「落ち着きましたか?」 「おう!もう大丈夫だ! オレの愛も揺るぎねぇ……揺れてちゃ青龍の愛に報えねぇかんな!」 「そうです!僕の愛に生きなさい」 「昨日より今日、今日より明日……日々伊織を想う想いは募ってゆくかんな!」 「僕なんか募りすぎて暴走しまくりです」 榊原は笑った 一生はそこは笑えねぇだろ?……と心の中で呟いた 想うは全員……暑苦しい新婚の二人に向けられていた 「笙の式より伊織を見ていたい」 康太は爆弾発言を落とし榊原に抱き着いていた 「僕も奥さんだけ見ていたいです」 「伊織の花婿姿、王子様みてぇだったな」 「全部君のモノです!」 「伊織、愛してるかんな!」 「僕も愛してます!」 完全に二人だけの世界…… 何時もの光景だった 真矢も清四郎も最近これに慣れて来て、逆にこれがないと不安になっていた 誰も何も言わず、二人を見守る ドアがノックされ式場のスタッフが現れた 「新郎新婦のご準備が調いました!」 そう言われ康太は立ち上がった 「明日菜はどこよ?」 スタッフに康太は聞いた 「ご新郎様はこの突き当たり ご新婦様は2階の突き当たりで御座います」 康太は2階の佐伯明日菜の控室に向かった ドアをノックすると「はい。」と言う明日菜の声がした 康太はドアを開けた そこには綺麗な花嫁が座っていた 「明日菜、おめでとう 本当なら…おめぇの父親も呼びたがったがな オレの都合で悪い事をした」 「構いません、式場にムービーの依頼をなったとか? 父に見せる為ですか?」 「おう!我が子の結婚式だ見たくねぇ親はいねぇよ 横浜に帰ったら、もう一度それを着て佐伯に見せてやれ」 「……はい。康太…本当にありがとうございました」 康太は明日菜の横に立ち頬を撫でると 「頑なな女にだけはなるな 夫を立てて仕えろ! 夫の悪口は言うな……愛した男の品位を下げるぞ 愛した男は盛り立ててこそ価値が出る それだけ忘れなかったらお前は世界で二番目位には幸せになれる」 「………何で二番目ですか?」 「それはな、佐伯! 世界一幸せな花嫁はオレだからな!」 康太は笑った! 明日菜は「なら二番目で良いです!」と笑った 「明日菜、笙は不器用な男だが、単純な奴だ お前がニコッと笑っていれば幸せだと惚気る そんな夫を誰より愛して感じさせてやれ 体躯で籠絡して離すな!」 「………私にはテクがない…… マグロの一歩手前だ……」 「明日菜、大丈夫だ 愛してると言う感情は効果絶大だぜ 濡れまくれば相手は夢中になる テクじゃねぇ!愛だ! テクだけあっても愛がなきゃそれはなオナニーと変わらねぇ行為にしかならねぇんだよ!」 「解った!愛なら溢れてる! こんなに愛した男はいない…… 離したくないと想った男もいない」 「なら大丈夫だ! 誰よりも幸せになれ! オレはそれしか祈ってねぇ!」 佐伯明日菜は誰よりも誇らしげに笑みを零した 「幸せになります! 笙を誰よりも幸せにします!」 「うし!その想いを忘れるな」 明日菜は頷いた 想いに一本絶対の芯を通す! 揺るがない想いを通す! その瞳を見て、康太は花嫁の控室を後にした そして笙の控室に向かった 「笙、やっとこさ結婚式だな」 花婿姿の笙は男前だった 「康太、ありがとう」 「幸せにしてもらえ そしてお前も幸せになれ」 「ええ。僕は世界一幸せになります!」 「世界一は無理だ」 「え?何でですか?」 「世界一はオレ達夫婦が独占してるかんな!」 康太は笑ってそう言った 「なら二番目で良いです!」 夫婦してその台詞を言うから真矢は笑った 「おめぇは言葉が足らねぇ…… あと少し言えば良いのに引いちまう ちゃんと言葉にして伝えろ! 言葉にして伝えてても…些細な誤解とかはある 長い人生を共に歩む 嵐だって来るさ、穏やかな日々だけじゃねぇ それを乗り越えるのは互いの愛しかねぇんだ ……愛し合ってても別れる夫婦もいる…… そうならない為に日々互いを確認して生きてゆけ」 「はい!心に刻んで日々を送ります」 「結婚おめでとう! この日を待っていたのはオレだ そして明日菜の父……佐伯朗人だ!」 グレて非行に走った明日菜を救ったのは飛鳥井康太だった 死の淵に明日菜はいた 絶望という死の淵の上の危うい均衡は、どちらに転ぶか解らなかった 唯言えるのは放っておけば、一年後……佐伯明日菜は生きてはいない それだけだった それを拾って育てた 康太に仕えさせる気はなかった 幸せな日々を送ればそれだけで良かった 「明日菜は康太と出逢った経緯を総て話してくれました 父と母のいる前で総て話してくれました 父も母も明日菜を受け入れてくれました それも康太、君がいたからこそです 君がいなくば……母は……嫁だと認めはしなかった そして僕は……生きてはいなかった」 「お前が頑張ったからだ 諦めずに頑張ったりから、その先に来れたんだ」 笙は康太を抱き締めた 誰よりも幸せをくれる人 自分の命を擲って……助けてくれる人 この人に出逢えたから…… 今の笙はいる 今の榊原の家がある 家族が存在する 家族に祝福され笙と明日菜は挙式を挙げた 花嫁の父親不在と言う事もあって、花嫁をエスコートしたのは康太だった 榊原は無論引かない 明日菜は康太と榊原にエスコートされてバージンロードを歩いた 「オレなんてさ瑛兄と父ちゃんだろ? 捕獲された宇宙人見たくなってたな……」 康太がボヤいた 榊原も明日菜も笑った 「君は誰よりも綺麗でしたよ奥さん」 榊原が花嫁の横で……妻の賛辞をする ………全くもって失礼な話だった バージンロードを歩き、その先の笙に明日菜を渡した 康太は「泣かせるなよ」と明日菜を渡した 榊原は「鳴かせるのはベッドの上だけになさい」と明日菜を渡した 笙は苦笑した 康太と榊原は参列者の席に戻った 一生が康太に「大丈夫かよ?」と声をかけた 「大丈夫だ!」 「おめぇには伊織がいる 家族がいる俺達がいる!」 「おう!解ってる」 笙の挙式を優しい瞳で見ていた 挙式が終わると新郎新婦は教会の外へと出て来た 康太はライスシャワーを新郎新婦に向けて打ち上げた 写真を撮って挙式は終わった 披露宴は横浜に戻ってから 笙の知人や友人を集めて開く予定だった 康太はその席には参加しないと……前もって言ってあった だからの挙式だった 式が終わると康太は真矢と清四郎を連れ出した 笙の結婚式の準備に当たったスタッフが二人を待ち受けていた 真矢の姿を見ると花嫁担当のスタッフが真矢を連れて行った 清四郎を見ると新郎担当のスタッフが清四郎を連れて行った 康太と飛鳥井の家族は控室で待っていた 暫くするとスタッフが 「ご準備が調いました」と呼びに来た 康太は二人を迎えに行った 真矢は純白のウェディングドレスに身を包んでいた 清四郎は純白のタキシードに身を包んでいた 「清四郎さん、真矢さん、その衣装はこの結婚式場の方から特別に貸し出して戴いた衣装です 話をしたら特別にご厚意でご準備させて下さいと式場のオーナーが仰って下さったのです 笙の挙式はオレが持ちましたが、真矢さんと清四郎さんは、この式場のオーナーのご厚意です」 康太はそう言うと二人を教会に連れて行った 写真だけ………だと想っていた 教会のドアをスタッフが開く すると中央の祭壇に司教が待っていた 「お待ちしていました! さぁ、此処へ」 司教は新郎新婦を祭壇の前へと招いた 「これより榊原清四郎、真矢夫妻の結婚式を執り行います 宜しいですか?」 清四郎も真矢も「「はい。」」と返事をした 「榊原清四郎、汝は真矢を生涯愛し抜くと誓いますか?」 清四郎は感極まって……「はい。」と返事した 「榊原真矢、汝は清四郎を生涯愛し抜くと誓いますか?」 真矢も泣きながら「はい。」と返事した 「指輪の交換をなさい」 そう言うとスタッフが指輪を差し出した 清四郎は指輪は用意してなかった なのに?何故?? 神父様を見た 「この指輪は貴方の息子、伊織さんが造らせた指輪です」 と優しい笑顔で答えた 清四郎は指輪を真矢の薬指にはめた 真矢も清四郎の薬指に指輪をはめた 「誓いのキスを……」 清四郎は真矢のヴェールを持ち上げると軽く口吻た 二人とも涙が止まらなかった 写真だけと聞かされていたから 飛鳥井の家族は盛大な拍手を贈った 康太は立ち上がると、清四郎と真矢に 「清四郎さん真矢さん、貴方達の前に立っておられる司教がこの結婚式場のオーナーです 鳴宮高臣さんです! 今回、急な話ですが快く引き受けて下さいました 写真だけのつもりでしたが、鳴宮さんのご厚意で司教の前で誓えました 鳴宮さんは中々お逢いできない方です 今回は本当に偶然、式の予約に行った時におみえになられて力になって戴きました お二人の写真を式場のロビーに飾る その条件で引き受けて下さいました 誰よりも幸せなお二人の写真をこれから撮ります ですから笑って下さい!」 清四郎と真矢は司教に深々と頭を下げた 鳴宮は 「お二人の結婚式に立ち会えて本当に感無量です! 良いご子息を持たれましたね 康太さんも伊織さんも両親の為にサプライズをしたがっていた 私はそのお手伝いをさせて戴きたく想いました こちらの方こそ、本当に良いお式を挙げさせて戴き感謝したい程です お二人の写真を、これからお式を挙げる方達に見せたいのです 年月重ねて尚愛し合う夫婦の美しさを…… こちらの方こそご無理を申しました」 スタッフがやって来て、場所を移す 写真館の方へ異動して真矢と清四郎は写真を撮った とても幸せそうな笑みだった 康太は清四郎と真矢に 「末永くお幸せに!」 と言葉にした 二人の薬指には…… 榊原が贈ったプラチナの指輪が光っていた 挙式を終えて、私服に着替えると榊原は康太に 「命のお店に行きませんか?」 と声をかけた 新婚旅行中にもう一度行くと約束した だから命のお店に皆を連れて行きたかった 康太は笑顔で「おっ!それ良いな!」と答えた 榊原は飛鳥井や榊原の家族に 「美味しい珈琲を飲めるお店で寛ぎませんか?」 と申し出た 清四郎は「では連れて行って下さい」と答えた 真矢も「美味しい珈琲を飲みたいわ」と微笑んだ 飛鳥井の家族も異存はなくて 皆で百目鬼命の父の経営する喫茶店へと出向いた 店の前に行くと榊原が店のドアを開けた 「家族で大人数ですが大丈夫ですか?」 と榊原は秋人に声をかけた 「………大人数って何人位?」 秋人が呟くと命が顔を出した 「秋人、14人位やから大丈夫やで!」 と答えた 命は「どうぞ!」と招き入れた 店内に入って来る顔ぶれに…… 秋人は唖然となった 榊 清四郎、榊原真矢、榊原笙、そして一条隼人 経済新聞のトップを常に飾る……飛鳥井建設会長と社長……そうそうたるメンバーに秋人は固まった 命は皆を店に入れ座らせた そしてオーダーを取る 殆どがカフェラテで康太はミルク、聡一郎が紅茶だった 秋人は珈琲を立てて、ミルクを暖め、紅茶を蒸した オーダーが出来上がると命は席へと運んで行った 康太は命に皆を紹介した 「オレの家族だ!飛鳥井建設の会長と社長と副社長と専務、そして祖父だ そして伴侶の両親の榊清四郎さんも榊原真矢さんと、伊織の兄の笙さんだ 一条隼人はオレの子だ オレには五人の子供がいる そして仲間、お前に戦略を教えるのが緑川一生 そしてPCを駆使するのが四宮聡一郎 オレに仕える緑川慎一だ! 以後お見知り置きを!」 康太は秋人と命に頭を下げた 命は慌てて「こちらこそ!」と深々と頭を下げた 玲香が「本当に美味しいわね」と感嘆した 清隆も瑛太も頷いた 清四郎は 「私は仕事柄大阪や京都は良く来ます 大阪に寄った際には、また来させて貰います」 と珈琲の美味しさに次を約束した 榊原は命に 「写真でも撮りますか? 飛鳥井の家族は…痕跡を遺せばご迷惑になります ですが我が父や母、兄や隼人なら珈琲を飲みに来られた方が喜ぶと想います」 と提案した 秋人は「ええんか?迷惑にならへんのか?」と逆に心配した 笙は「色紙があればサインするよ?」と言った 命は色紙とマジックを取りに行った そして清四郎や真矢、笙と隼人の前に差し出した 秋人は「なんや、信じられへん……」と漏らした 命は「お客さんは喜ぶやろな」 と嬉しそうに答えた 榊原は康太のミルクを一口飲んで温度を確かめると 「飲んでも良いですよ」と言った 康太はミルクに口をつけた 「丁度良い温度でしょ?」 榊原が甲斐甲斐しく世話を焼く 家族は優しい瞳で二人を見守っていた 清四郎達はサインを命に渡した そして写真を撮った 秋人は深々と頭を下げた 「記念になりました! 本当にありがとうございました!」 康太は笑って「良かったな」と答えた 命は一生や聡一郎と話をしていた 小難しい話をしていた 一生は「俺よりも康太はすげぇんだぜ!」と言った 命は「テレビでやってるハッカーとかみたいに凄いんか?」と尋ねた 悪意はない言葉だった 「……………」一生は言葉を失った 命は何か悪い事をしたのか焦った 康太は「そこら辺のハッカーよりはオレは上だぜ」と笑った 「PC貸してみろよ」 康太が言うと命は部屋まで取りに行きノートを渡した 康太はPCを立ち上げると、物凄く速い速度でキーボードを弾いた 「これが藤崎工務店のメインだろ? この中に入るのに1分は掛からない」 「………無理でしょ?セキュリティ掛けてありますよ?」 「んなん、オレの前では通用しねぇ」 康太は命の目の前で藤崎工務店のメインPCのセキュリティを破って中へと侵入した 1分……掛かってなかった…… 「オレはペンタゴン以外は破れねぇセキュリティはねぇ」 「正義さんは知ってるんですか?」 「さぁな?正義がオレを何処まで知ってるかは 解らねぇ 話した事もねぇかんな」 康太はデーターをデリートしてPCを再び立ち上げた そして復元して電源を切ると命に返した 「命、情報は操作されると化ける化け物だ 操作する方が飲まれたら……元も子もねぇんだよ それを頭に入れて人も情報も使うんだ おめぇはまだまだ伸びる そこを正義は買ってるんだろうな そしてオレに巡り合わせたと言う事は、仕込んでくれと言う事だ 仕える奴にして返さねぇと飛鳥井家真贋の名が廃る」 康太と百目鬼命を出逢わせた意味が…… やっと見えた 命は言葉もなかった 「まずは緑川一生に戦略のノウハウを叩き込まれろ その後、四宮聡一郎に情報の攪乱のノウハウを叩き込まれろ そしたら仕上げは夏生を出してやる」 使える男にならねば……と命は気を引き締めた それだけ言うと康太は興味もないのか、榊原を顔を見つめていた 「どうしました?」 「伊織、通天閣に上ろうか! ビリケンさん拝んで帰ろ!」 「良いですね、この後移動しましょうか?」 「おう!父ちゃん美味しかったか?」 康太は珈琲通の清隆に声をかけた 「ええ。美味しかったです! 大阪の出張の時は寄ります」 「命に聞けば穴場の店とか教えてくれる」 「それは助かります」 清隆は嬉しそうに答えた 珈琲を味わい、静かな珈琲館で寛いだ 「そろそろ行くかんな!」 と康太が言うと清隆は支払いに立った 「あんだよ?父ちゃんが払うのかよ?」 「ええ。今夜の食事は私が奢ります」 「父ちゃん!食い道楽なんだぜ! 食い物が一杯あるんだせ! オレは迷っちまうぜ……」 康太の台詞に清隆は笑った 支払いに行った清隆は命に 「たらふくお腹の膨れる店、ありますか?」 と問い掛けた 命は笑ってお釣りを返し、たらふくお腹の膨れる店を教えた そして飛鳥井と榊原、一生達の大移動が始まる お店を後にすると静けさが残った 秋人は「お口にあったんやろか?」と呟いた 「大丈夫や秋人! 秋人の珈琲は評判ええんやで 自信を持つとええわ」 「………しかし……早々たる顔触れやったな……」 秋人はごちた 命も「あれは反則やな……」と呟いた 「あんな顔触れと何時もいたら……緊張してしまうな……」 「伴侶の親は芸能一家か……顔が良い筈やわ」 「…………一条隼人……子供だと言ってたな……」 「………秋人……康太さんの方が子供みたいな顔やのに……なんて想った?」 秋人は押し黙り……頷いた 「俺もな、そう想ったけどな……安心しきった顔みたら……子供なんやな……想えたわ」 「飾ると……騒がれそうやな……」 「ケースに入れて飾ればええやん 店に来た人は珍しいのが見れて嬉しいやろな 榊清四郎はサインはしないんだからな……」 写真も嫌いで撮らせない だから写真集もないのだと言う噂だった 秋人と命は……脱力していた 飛鳥井と榊原の家族パワーに…… 狐につままれた気分だった 通天閣に行き、大阪の街を堪能して 命に教えて貰った店でたらふく食べて ホテルへ戻った 大阪ラストは康太達の部屋で宴会になった 何故康太の部屋かと言うと、一番大きい部屋は康太達の部屋だったからだ! お酒を持ち寄り、ツマミをオーダーで運ばせた 今夜は笙も明日菜もいた 家族と一生達で過ごす時間 夜明けまで楽しく飲んだくれて……ラストを過ごした 榊原は康太を膝に寝かせて静かに烏龍茶を飲んでいた 瑛太は榊原に 「本当にありがとう伊織」 と礼を言った 「義兄さん、礼を言うのは僕達の方です 今回、僕達の結婚式とか旅行でお金を使わせました 僕達は恵まれています……」 「普通は新婚旅行に着いてゆく家族は敬遠されますよ?」 「義兄さん、康太の場合……家族が着いて来なくても一生達が着いて来ますよ? 胃潰瘍なのに退院しちゃう子ですからね……」 榊原は苦笑した 瑛太も苦笑して…… 「………そうでした!飛鳥井よりも強者がいましたね」 「離れられないなら傍にいれば良いんです 僕は引き離す様な事はしたくない……」 「………引き離しても食らい付いて来ますよ……多分」 瑛太は笑った 一生はバツの悪い顔して榊原を見ていた 口を尖らせて拗ねる姿は可愛かった 「一生、可愛いだけですよ?」 榊原は笑った 瑛太は一生の頭を撫でた 「…………康太は……まだ悪夢に魘されてるのですか?」 瑛太は今朝の康太を気にして榊原に問い掛けた 「………康太はかなり昔の記憶も持ってますからね… 遥か昔……不遇の時代を生きていたのです 力を持ちすぎなんですよ……この子は…… 傍から見たら……それは驚異にしかならない…… そんな時代の夢を見てしまったんです……」 「康太を愛してあげて下さい」 「ええ。義兄さん、康太の抱える闇は大きい 僕は康太を闇には堕とさせません! 僕の愛で曲がらずに生きて行くのです」 瑛太は頷いた 撫でていた康太がパチッと目を醒ました 康太は榊原の上を下りると、窓を開け空を仰いだ 「星を詠んでいます……」 榊原はそう答えた 最近、康太は暇があれば空を仰いでいた 「……何かあったの?」 瑛太は問い掛けた 「僕はまだ知る事は出来ません 果てが歪むので康太は口にしません」 「………伊織……」 瑛太は榊原の肩を叩いた 星を詠み……康太は泣きそうな顔で榊原の膝の上に向かえ合わせに座った 「…………伊織、抱き締めて……」 榊原は康太をキツく抱き締めた 「伊織、オレは横浜に帰ったら黄泉に渡る」 「僕もお供しますよ 君一人黄泉へは渡せません!」 康太は頷いた 「力哉には笙の記者会見の準備をさせている オレは出ねぇが準備をしねぇとな 戦略は練って軌道修正掛ける」 「ええ。君の好きになさい 僕は君と何処までも着いて逝きます」 「そしたら……」 「…………若旦那に言わないとね…」 康太は榊原に縋り着いた 「…………オレは……酷な事ばかりする……」 「君は悩まなくて良い 定めなのです……」 後はもう何も言わなかった 朝が来て、各々の部屋に散らばり支度をする チェックアウトすると、康太は新幹線で帰ると言った 清四郎と真矢も新幹線で帰る事にした 何故かちゃっかり清隆と源右衛門も新幹線で帰る組に入っていた 瑛太は新幹線の乗り場まで康太達を送って行った 一生と慎一は乗車券と席を取りに走った 乗車の時間待ちをしていると、国会に戻る堂嶋正義と擦れ違った 康太は無視して通り過ぎた それを堂嶋は掴んだ 「無視すんじゃねぇよ坊主」 「オレといたら……奇異の目で見られるぞ……」 「別に構わねぇさ! 横浜まで行くんだろ? なら私も同席しよう!」 堂嶋はしれっと言った 秘書に席の変更させに行った 偶然、康太達の横の席が空いていて堂嶋はちゃっかり康太の隣に座った 「………正義、幸哉を気にしてやれ……」 「………解ってる」 「嫌……おめぇは解ってねぇ… 無くしたくねぇなら…気にしろ」 「………坊主、それは忠告か?」 「そうだ!今はそれしか言えねぇ オレは在る果てを狂わせてはならねぇ 果てを狂わせれば……オレは狩られる」 堂嶋は康太の頭を撫でた 「言えない事は言わなくても良い お前が狩られる事はしなくて良い……」 堂嶋はそっと抱き寄せた 「俺は命を懸けて護る……お前と出逢った時からそう決めてる……」 「…………正義……すまねぇ……」 「気にするな…… それより俺は飛鳥井瑛太に殴り飛ばされると覚悟して行ったのにな……肩透かしだったな」 「………おめぇが瑛兄に喧嘩売るからだろ?」 「まっ!昔の事だ!」 堂嶋は笑った 横浜まで共に行き、康太達は新幹線を下りた 横浜に着いたら地下鉄と電車とバスで移動して帰って行った 清隆は久々の交通機関の移動に 「……久し振りに電車やバスに乗りました!」 と少しお疲れ気味だった 飛鳥井の家に帰ると、まだ車組は帰っていなかった 康太と榊原は自室に帰って行った 康太は自室のカーテンを開けると、空を仰いだ 榊原は康太を背後から抱き締めた 「………伊織……星が……終焉を告げてる 何度見ても……終焉しかねぇ……」 榊原は康太を振り向かせると強く抱き締めた 「僕は……明日滅ぶと解ったとしても…… その日まで精一杯生き抜きます! 悔いなんて遺しません きっと………悔いなんて遺さない程に……天晴れな人生を遂げると想います」 「………それでも………だ…… 子と別れたい親なんていねぇ……」 「親なれば……子の幸せを望まない人は……いません 親なれば……子の傍にいたい筈です……」 側にいて…… 育つ日々を……見守りたい筈だ 康太は胸を押さえた 「今夜……黄泉に行く この部屋を閻魔の邸宅と繋ぐ……」 「僕も行きます! 君と離れる気はありません」 榊原の寝室がノックされても榊原は出なかった 康太を抱き締めて……過ごした 康太は部屋に慎一を呼び出した 「お呼びですか?康太」 「今宵オレは黄泉に行く! この部屋を黄泉に繋ぎ、オレは黄泉へと渡る」 「この部屋に誰も近付けるなと言う事ですか?」 「違う……おめぇも黄泉を渡れ……」 「……え?……俺は無理です……」 「大丈夫だ!来世はおめぇは炎帝に仕えれば良い…」 「…………康太……」 「今世必死に仕えなくても来世も黄泉で仕えろ」 「…………貴方は……突然すぎます……」 「慎一、気に掛けて貰いたい存在がいる」 「解りました……康太に変わって護りたいと想います」 康太は頷いた 一生がドアをノックして、ドアを開けた 「何度もノックした……」 一生は最中かと想って遠慮したが胸騒ぎが止まらなかった 「………何処かへ行くのかよ?」 気配を察知して一生は言葉にした 「おめぇは本当に鼻が効くな……」 康太は肩を竦めた 「今夜は黄泉に渡るんだよ……」 「……黄泉に?何でだよ」 魔界の粛正は終わった筈だ…… 「水神に逢って来る……」 「水神に?」 「頼み事だ……直ぐに帰る」 「俺も行く!」 一生は言った 「慎一を連れて行くなら俺も連れて行け」 一歩も引かない一生の瞳に……康太は諦めた 「一晩だ!今晩行って翌朝には帰る 時空を繋げてを……魔界に行き帰って来る」 物凄い強行軍で行くと言う 「上等だ!俺の寿命を削ってやる!」 言うなり康太に頭を叩かれた 「時空を繋げるのに寿命は削らねぇよ!」 「おめぇといてぇんだよ!」 一生は噛み付いた 「ならいれば良いじゃん」 一生は頷いた 「腹拵えして来ねぇのかよ?」 「…………応接室には行きたくねぇ……」 車組が帰って来る頃だ 下手に顔なんか逢わせたくない…… 「なら俺と慎一で食い物を調達して来る」 そう言い慎一と一生は寝室を出て行った 榊原は康太を抱き上げるとリビングのソファーに座り膝の上に乗せた 「体調はどうですか?」 榊原は康太の服の中に手を忍ばせ、聞いて来た プクッ尖った乳首を弄び……引っ掻いた 「伊織……ダメっ……」 「しませんよ……悪戯なこの手がイケないんですね」 榊原は笑った 一生と慎一はリビングに食料を調達して帰って来た そして余分なもんも沢山付けて来た 榊原は康太の服の中に手を入れていた 康太は潤んだ瞳をしていた 「………旦那……」 一生は想わず呟いた 「一生、気にしなくて良いです」 榊原は放っておけと言った 康太の服の中から手を出させ、康太をソファーに置く 瑛太は少し疲れた顔をしていた 「瑛兄、疲れたんなら寝て来いよ」 「一生達が食料を調達して行くのを見たので顔を出したんですよ」 「明日は会社だろ?」 「ええ。伊織は?」 瑛太は榊原に問い掛けた 「僕は大学は留年を狙うので行きません 明日は慎一と康太の消毒に行きます 後、一生も検査入れないと心配です 会社は帰ってから向かいます」 「無理しなくても良いですよ?」 「義兄さん、無理はしてません」 リビングに玲香や清隆もやって来て、夕飯を食べる 慎一は康太の前に沢庵と食料を確保して置いた 康太はガツガツ食べていた 食事を終えると、それぞれ自分達の部屋へと帰って行った 慎一はリビングを片付けると、鍵を掛けた 康太はメラメラ妖炎を撒き散らし立っていた 手には炎帝の剣が握られていた 「行くぜ!」 康太は言うと時空を切り裂いた

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