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第6話 在るべきカタチ ①

康太は大阪から帰って、結構ゆったりと過ごした 取り敢えず大学に通い留年覚悟でも取れる単位は取っておこうと動き出した 康太が大学に通う日に榊原も大学に通った 康太の横を榊原は必ず歩いた もう心ない言葉で康太を哀しませたりしたくなかった 遠巻きに生徒が康太達を見る…… 近くに寄れるのは一部の生徒だけだった 桜林OBは常に飛鳥井康太の応援を前面に出して構っていた カフェで休んでいれば誰か彼か来て話して帰ってゆく 剣持陽人は学内に康太が現れると、必ずカフェで康太と逢っていた 時には大学の理事長の神楽四季とも話をしてお茶する 大学の名物……と化していた 桜林の生徒は飛鳥井康太の悪口を一切容認しなかった 誰かが康太の悪口を言えば、現れて二度と悪口を言えない様に、粛正をした だから……康太は奇異の瞳で見られる事なく過ごせれていた この日もカフェで寛いでいた 康太の横には榊原や一生や聡一郎もいた 慎一は源右衛門を病院へ連れて行っていた 康太に声を掛けようと近寄るが…… 無言の圧力に誰も近寄れない 康太は知ってか知らずか…… かなり寛いでいた 「今年は年末年始は家族で迎えられるな」 康太はしみじみ言った 去年の年末年始は……黄泉に渡り…… 御厨忠和を討ちに行っていた 「そうですね。 その前に大掃除があります」 「……あ!想い出した!! オレが黄泉から還ったら…… オレの小遣い一円も残ってなかった…」 去年、榊原は康太の小遣いで大掃除の後、社員を慰労した それに綺麗さっぱり使われた 榊原は笑って 「社員は喜んでましたよ?」と言った 「………オレ、買いたいゲームがあったのに……」 「買ってあげたでしょう?」 「………かなり酷使されてヘロヘロになって……やっとな……」 「今年もやりますよ? 君のお小遣い半分出しなさい」 「………厭だ……伊織に袴買えなくなる…」 「………僕に袴買ってくれるのですか?」 「おう!真贋の対の袴を買うつもりなんだ 1年前から予約して出来上がるのは年末だ 小遣い徴収されたら買えねぇもんよー」 「解りました! 僕が全部支払います」 「半分瑛兄に持たせれば良いのに……」 「………言い出しっぺが出さないと示しが着きませんよ?」 「………なら小遣い使っても良い……」 康太は唇を尖らせた 「大丈夫です!康太 社員に大盤振る舞いしたって 僕の財布が少し痩せ細るだけです!」 康太は笑った その暖かな笑顔を向けられたいと…… 想う人間は少なくない 康太が笑うと心が穏やかに暖かくなる 人はそれを求めて……康太を欲する また康太の力を手に入れれば…… 世界が自分の手中にあると勘違いしている輩が多すぎる カフェで休んで飛鳥井の家に帰る 途中、近寄ろうとする輩を無言で排除し 榊原は康太を腕に抱いた 「さぁ還りましょうか!」 榊原が康太を誰にも見せずに歩く その横を一生や慎一、聡一郎が並んだ 隼人は12月になっても還って来なかった ハリウッド映画の撮影に入ったと泣きながら毎夜電話して来る 一条隼人の頭の中には時差という観念はなかった 「大学も冬休みに入ります!」 「おう!飛鳥井の家の大掃除しねぇとな……」 「会社の大掃除もあります」 「………年末は大変だな……」 「年の瀬は何処も忙しいのです」 「……年の瀬か……大晦日、オレは飛鳥井から動かねぇわ……」 「なら、僕はお節を作ります!」 榊原は楽しそうに康太と話をして国産の車に乗り込んだ 大学にベンツは無理だから国産車で来ていた 榊原の車に一生が乗り込んで 慎一の車に隼人が乗り込んだ 飛鳥井の家に帰り、榊原は会社に出向いた 康太は……リビングのソファーに寝そべり PCを開いていた 「おい!康太!」 一生が康太を呼ぶ 「あんだよ?」 「おめぇ、隠し事すんなよ!」 康太は首を傾げた 「今日、定期検査に行ったら久遠医師が、坊主を連れて来いよ! 放っておくと血を吐くぞ……って言ってた! 調子が悪いなら言いやがれ!」 「一生……」 「あんだよ?」 「子供の頃オレは毒を食らっていた その後遺症で胃の粘膜が薄くなるんだ 毒は抜けても……胃の働きまでは…完全にならねぇんだよ」 「………治らねぇのか?」 「多分……無理だろ? でも前世よりは長生きが出来る 前世よりは体躯は楽だ……」 一生は康太を抱き締めた 「病院に行けよ……」 「おう!時間作って連れて行って貰う 今は真贋の仕事も再開したからな…… 伊織が大変だ……伊織は総ての仕事に付き添ってるかんな……」 「俺等も付き添う……」 「伊織と話をしねぇとダメだな…」 真贋の仕事は榊原が一手に引き受けて仕事を吟味していた 唯でさえ忙しいのに……その総てに榊原は付き添った 「明日……病院に行かねぇとな……正月休みになっちまうもんな……」 「なぁ康太……」 「あんだよ?」 「義泰先生は……どうして消えたんだ?」 「…………それはオレの口からは言えねぇ…」 「そうか……」 「義泰が病気とか……じゃねぇのは確かだ……」 ならば……家族か……愛する者か…… 「康太…明日病院に行こうぜ 真贋の仕事は今年はもうねぇだろ?」 「おう!もう仕事納めだ」 「そうか」 「一生…腹減った」 「おやつ欲しいか?」 康太は頷いた 「一生…」 「あんだよ?」 「大和にファームが出来たら、そっちを優先しろ お前の夢なんだろ? なら夢に向かって突き進まねぇとな 慎一もそうだ。 飛鳥井の家にいるよりはファームで過ごす時間は増える またそうならねぇといけねぇとオレは想ってる」 選ばねばならぬ時期が来ていると康太は言った 両方は選択すると言う事は不可能に近い そんな事は百も承知だった 飛鳥井康太といたい…… だがそれを続ければ……弊害は必ず出る その時期にあると……康太は言った 問題を先延ばしにして来た だが……先送りに出来ないギリギリまで来てしまっていた 来年…大和にファームが出来れば…… それが優先になる… 優先にせねばならなかった…… 一生は苦しそうに……息を吐き出した 「決められねぇ想いはあるのにな……」 「何時かは決めねぇといけねぇんだよ! 決めて前へと進まねばならねぇ時が来る…」 「………康太……」 康太は何も言わず一生を見た 「俺等は……選べねぇ想いが大きい…… なくせねぇのが大きい…… 進む為でもな……選べねぇんだよ」 「………一生、それでも行かねぇとならねぇんだよ」 「………頭を冷やして来る……」 一生はそう言いリビングを出て行った 榊原が仕事から帰ると、康太は榊原を呼んだ 「伊織、座ってくれ」 榊原は康太を膝の上に乗せて座ろうとした だが、康太がそれを拒んだ 「伊織、真贋の仕事だけど、従来通り力哉に管理させる」 「………何故?今……そう言います?」 「来年に持ち越したくねぇかんな! 今年中に決める事は決めておかねぇとな」 「厭です!」 「なら伊織、副社長辞めるか?」 「………っ!!」 「それでなくても忙しいんだろ? 夜遅くまで起きて仕事するなら…… 真贋の仕事に付き合わなくて良い!」 康太を抱いて疲れて眠りたいのに…… 榊原は起きてリビングでPCを立ち上げて仕事していた 「一生や慎一も大和にファームが出来れば、従来通りにはいかないと想っている」 「………それは仕方がないです 彼等の夢なんですから……」 「そうなったら、一生や慎一は飛鳥井の家には来れない日も出て来るだろう またそうならねぇといけねぇとオレは想っている 何時までもオレに付き合わせる訳にはいかねぇ オレもそろそろ誰の手も必要とせず過ごさねぇとな そうして生きて行かねぇと駄目だと想う」 「………一生は何と言いました?」 「頭を冷やすと出て行った……」 「………解ってます…… 頭では理解してるんです…… 君を縛り付けてはいけないと…… でも誰かいないと心配だったんです…… そうですね……大和にファームが出来れば…… 彼等はそちらに行きますね 聡一郎にしても四宮興産が忙しければ……君の側にばかりはいられませんね 何時かは……バラバラになるのは解ってます……」 「伊織、オレ等は絶対の存在だ! 不安がるな! オレは何処に行こうとも必ずお前の処へ帰る! オレはお前がいない場所では死なねぇ!」 榊原は康太を抱き締めた 「………ええ。ええ……僕も君のいない場所では死にません…… 高校の頃は……離れて過ごしましたね 僕が執行部があると君は別行動でした 何時から……こんなに離れたくなくなったんでしょうね 君が心配で……僕の我が儘でした」 「伊織、送り出してやってくれ……」 「ええ。……康太、何処か行く時は言って下さいね 僕が必要な時は言って下さいね…… 僕は何時でも君の側に行きます でなければ……一緒に暮らしている意味がありません 康太……離れても僕達は一緒です」 閻魔に貰った指輪に榊原は口吻た 「解りました……」 「オレはこまめにメールとか見ない……」 「解ってます。 ですから何かあったなら電話して……」 「解った……伊織、ごめん……」 「良いんです 頭では解ってたんです こんな時は永遠には続かない……って だけど……甘えでいたんです 側にいてくれたから…頼っていたんです……」 「離れても……アイツ等は家族だ……仲間だ」 「ええ……君のいる場所に集まった仲間です 離れていても必ず君のいる場所に還って来ます そしたら僕達は迎え入れれば良いのです…」 「ん。来年になったら飛鳥井の家が建つ そしたら還ろうな伊織…… あの場所がオレとお前の家だからな…」 「………康太……」 康太を抱く榊原の腕は震えていた 「伊織、オレは強いんだぜ」 「知ってます!」 「なら心配するな」 「……愛してるから心配なんです……」 「愛されてるからなオレは」 康太……と榊原は激しい接吻をした 康太の口腔を犯し……執拗な接吻をした 「……んっ……伊織……メシ……」 「奥さん、着替えて来ます」 榊原は康太を離した 「おう!着替えて来い」 康太はそう言い見送った 着替えて来ると榊原は康太を連れてキッチンに向かった 「母ちゃん、来週には京香も子供も還って来る」 と玲香に告げた 「そうか。解った」 「それと京香が来たら慎一はキッチンに入らなくても良い」 慎一は驚いた顔をして康太を見た 「慎一は3月に出来るファームに専念しろ ファームが出来たら、オレの事は気にしなくて良い オレは今まで一人でやって来た これからも出来ない事じゃねぇ! オレの事は一切気にするな! ずっと仲良く何時までも……なんてのは無理だ 互いの目的の為に歩み出す時が来た!」 康太は言い放った 康太の言う事は当たり前の事だった だが……敢えて言われれば……離れたくないと想ってしまう 「………康太……」 「何時かは言い出さねばと想っていた 大和にファームが出来る今敢えて言った お前達兄弟の悲願だろ? ならば、両方は無理だ! 無理をすれば長続きはしない! 見極めねぇと……共倒れだぜ?」 「…………康太…頭を冷やして気まず……」 慎一はそう言うとフラッと外に出て行った 兄弟して……そっくりで……康太は胸を押さえた 玲香は何も言わず見ていた 康太の決める事に一切口を出す気はなかった そんなに………ずっと一緒にいられるとは…… 玲香だって想ってはいない…… だが……それを決めねばならぬと言うのなら…… 酷な選択だと……玲香は想った 康太は少しだけ食事をするとお茶を飲んだ 玉露でなく急須のお茶を飲んで…… 榊原より先に部屋へと戻った 片付けをしている榊原に玲香は 「何とも……酷な選択だのぉ……」と呟いた 「康太は僕にも真贋の仕事はやるな……と言いました 夜遅くまで起きて仕事するなら……副社長を辞めろ……と言いました…… 康太が心配で……付きっ切りだったしわ寄せが来たのは解っていたんですが…… 離れていてる時に……怪我をされると……離れたくないと想ってしまいました」 榊原の辛い胸の内を……玲香は聞かされて…… 言葉もなかった 一緒いたいのは誰よりも康太だろうに…… 心を鬼にして……先に行かねばならぬ 皆……解っていても…… 選択なんか出来なかった 榊原が部屋に戻ると康太はソファーにいた 榊原は背後から康太を抱き締めた 「康太……愛してます」 「オレも愛してる 愛してるから負担にはなりたくねぇんだ 同じ駆けて逝くにしても……お前の負担になり続けるのは嫌なんだ……」 「解っています!」 「伊織、今日は寝たい……」 「………良いですよ……僕がずっと抱き締めていてあげます」 榊原は寝室に康太を連れて行くと服を脱がした そして榊原も服を脱ぐと…… ベッドに入り込み抱き合って眠った 飛鳥井の家も…… 飛鳥井に関わる人間も…… 変革期に突入していた 新しい生活の分岐点に来ていた どっちに転がるか解らないが…… 康太はそれを受け入れるつもりだった 星が……無くすと指し示した…… 要らないモノは総てなくし必要なモノだけ残る……と。 分岐点に差し掛かり、行く道を示す 康太は榊原の背に縋り付いた なくしたくないのは……… 昔も今も…………青龍………唯一人 翌朝になっても一生と慎一は還っては来なかった 聡一郎は康太に 「何があってのですか?」 と問い掛けた 康太は総てを話した そして聡一郎にも同じ事を言った 「聡一郎、お前も四宮興産の仕事で忙しい時もあるだろう そんな時は……関わらなくて良い オレはずっと一人でやって来た 出来ねぇ訳じゃねぇ そうだろ?聡一郎 オレは何時も一人じゃなかったか? 遥か昔も……今世も……オレは一人で生きて来た だから自分のやるべき事を最優先しろ! オレは誰かいなくてもやっていける! 昨夜伊織とも話し合った このままでは……共倒れだ 本来の事が出来なくて……オレの側にいる意味はねぇ そうだろ?聡一郎」 聡一郎は言葉もなかった ズバッと核心を突かれて……言葉なんか出なかった やる事ばかり増えて……本来の自分の事が出来なかった 夜遅くまで仕事して……疲れ果てて眠る そんな毎日だった 「今後、オレを追うのは許さねぇ!」 聡一郎は……立ち上がった そして………「頭を冷やして来ます……」と出て行った 榊原はそんな康太を見ながら……会社に行く支度をした 康太の着替えは「自分でやる」と言われて……出来なかった 榊原は会社に行った 康太はそれを見送った 飛鳥井の家は……源右衛門以外……いなかった 康太は支度をすると家を出た 直通で地下駐車場まで出向き車に乗り込んだ キーを差し込みエンジンを掛ける 今日は清四郎からプレゼントされたミニに乗った 榊原は仕事が手に付かなかった…… そりゃぁ……何時かは……各々の道を行かねばならないのは知っていた 永遠……なんて無理なのは知っていた だが……康太を一人で……出すのは嫌だった 榊原は力哉を呼び出した 「力哉、君は康太から真贋のスケジュールを立てる様に聞いてますか?」 「ええ。伊織は忙し過ぎるから……負担になる と康太は言ってました……ですから従来通り僕が管理して仕事に行かせます 仕事場には一人で行くと言ってましたが……それは出来ない…と言いました」 「………康太はどうしたんでしょうか?」 「伊織が抱え過ぎなのも有ります 後、一生達を離す気なんです 康太といれば……夢から程遠くなる 一生もそうですが……飛鳥井全部が変革期に突入したみたいです」 「………変革期……昨夜言ってましたね……」 力哉は榊原に 「今日は康太は?」と問い掛けた 「家にいると想います」 「………そうですか 一番辛いのは康太ですね」 「………ええ。僕は今、康太を見て来ます」 榊原はどうしても康太が気になり……見に行った 上までエレベーターに乗り見に行く 飛鳥井のドアを開けると……静まり返っていた 榊原は寝室へと向かった …………そこには康太の姿はなかった 榊原は寝室や浴室、トイレ……部屋中をくまなく探した ………が、康太は何処にもいなかった 「………康太……!」 榊原は不安で仕方がなかった リビングの机に 『何処へ行ったんですか? 還ったら……副社長室に顔を出して下さい』 と紙に書いて……リビングを出て行った 副社長室に戻ると力哉に 「康太はいませんでした……」と告げた 力哉も不安を隠せなく……胸を押さえた 「何処へ行ったんでしょうか…」 「力哉、仕事をしましょう! もう仕事を持ち込まない様に……集中します」 榊原は気を取り直して仕事に集中した でなければ壊れてしまう…… 康太…… 康太…… こんな事は慣れたくないです…… 幾ら……一緒にいられないと言っても…… 君を思わずに……いられません 康太は神楽の本家に来ていた お婆様が目敏く康太の姿を見つけ側に寄って来た 「真贋、何の用じゃ…」 「夏海に気付かれたくねぇ…こっちに来い」 人気のない蔵の裏に身を寄せて康太は言った 「本家の跡継ぎの根回しに四苦八苦してるんだろ?」 康太は単刀直入に言った 「……春海……では役不足だからのぉ……」 「飛鳥井家真贋が出て黙らせてやろうか?」 「………やはりそこに来るかのぉ…… では真贋……宜しく頼むかのぉ…」 「あぁ、祓い魔神楽を遺したのは……オレだ 本来なら神楽は破滅を迎えていた 神楽茜は神楽の存続だけを願って……飛鳥井家真贋に頼みに来た オレは頼まれた責任がある」 「………真贋……夏海をどうか……」 お婆様は康太の手を掴み頼んだ 「夏海が息絶えた瞬間、雅龍は解き放たれる そしたら共に黄泉を渡り魔界へと逝く 雅龍が生きてるうちは、夏海は共に在る それがオレが贈る餞だ……」 「ありがとうございます……」 お婆様は曲がった腰を更に曲げて、康太にお礼を言った 「ならな、雅代!」 「はい。真贋……本当にありがとうございます」 康太は神楽の家を後にすると、飛鳥井の家に向かった 地下駐車場に車を停めて上に上がる 康太は途中で下りる事なく最上階へ向かった 飛鳥井の家の玄関を開けて家に入る 静まり返ってた部屋に玄関の音が響いた 康太はリビングに向かった すると榊原の文字の紙を見つけた 康太は榊原に電話を入れた 「伊織?」 『康太!何処に言っていたんですか?』 「……伊織、電話を入れ忘れた」 『………何処か行くなら電話を下さい』 「伊織、オレは時々忘れて行ってしまうかも知れねぇ でも還って来るから不安になるな!」 『………康太……』 「オレはまた出掛けるぞ?」 『気を付けて……それだけです』 「おう!気を付けて行ってくるかんな!」 榊原は電話を切った そして机の上で手を握り締め額を乗せた…… 「こんな想い……何故?しなきゃいけないんですか?」 誰に言うでもなく榊原は呟いた 康太は榊原との電話を切ると、再び家を出た 地下駐車場まで下りてミニに乗り込んだ 車で発車する前に榊原にメール 「伊織、ちょっくら行ってくるかんな!」 と送信した 榊原からの……返信はなかった 一生と慎一と聡一郎は飛鳥井の家に還って来た 頭を冷やしても…考える事は唯一つ 離れたくはなかった それだけだった 部屋の中には誰もいなかった…… 一生は康太と榊原の部屋を開けた リビングには誰もいなかった 寝室は鍵が閉まっていた 一生は寝室をノックした 聡一郎はテーブルの上の手紙を見つけた 「一生!伊織の手紙が有ります」 一生と慎一は覗き込んだ 「………と、言う事は康太は一人で動いてるのか?」 と一生はごちた 一生は榊原に電話を入れた 『……一生?』 榊原の声が聞こえた 「康太は何処へ行ったんだよ?」 『………解りません……』 「………旦那……何時か俺達はそれぞれの道を逝かねぇとダメだけど…… 選べる筈なんてねぇ!」 一生は叫んだ 『……一生……今夜話し合いましょうか?』 「それしかねぇよ……」 『では……仕事します…… 最近……康太を抱いた後仕事をしているのを言われました 真贋の仕事に着いて動けば……しわ寄せが来ました』 「………旦那……」 『それでもね、側にいたかったんです……』 榊原はそう言うと電話を切った その夜、康太はかなり夜遅くに帰って来た 飛鳥井の家族や榊原、一生達が応接室に集まり待っていた ガチャッと言う玄関の音に……榊原は飛び出した すると、そこには康太と久遠医師がいた 「……康太……何がありましたか?」 榊原が聞くと久遠医師は 「座らせろよ!」と言って強引に康太を引き摺った ソファーに座り、康太を座らせた 「神野が今、うちの病院に入院してる それで見舞いに来たんだよ坊主は!」 久遠はそう言った 「神野?退院したんじゃないんですか?」 想わず榊原は聞き直した 「無理して悪化させて舞い戻って来た 坊主は見舞いに来たからな掴まえた そしたら俺の顔を見るなりぶっ倒れた」 榊原は顔色をなくした 「胃の粘膜が弱ってると言った 血を吐くかもよ?と言った 血を吐き続ければ……貧血になるよな?」 「康太は血を吐いてたのですか?」 榊原は叫んだ 「最近食ってねぇだろ? これから入院させるからな報告だ! うちは完全看護だ、付き添いは許可しない!」 榊原は一歩も引かなかった 「厭です!絶対に付き添います! 康太から離れる気は皆無です!」 と言い放った! 久遠はため息を吐いた 「そうなるからな……入院はしなくて良い だが、大人しく寝かせておけ! 出来なければ入院だ! 守れるなら置いて帰ってやる!」 「絶対に無理はさせません! 薬もちゃんと飲ませます!」 「年内点滴を続ける 数値が上がらねば入院は避けられねぇぞ」 「解りました!」 「当分は沢庵禁止な」 榊原は……康太の沢庵……と想った 「解りました! 心を鬼にして沢庵を封印します」 「今日は点滴を打った メシは多分受け付けねぇ 寝かせとけ」 「解りました」 「俺は康太の小さい車を運転して来てやった だから俺を送って行け!」 久遠がそう言うと慎一が立ち上がった 「久遠先生、お送り致します 病院で宜しいのですか?」 「おう!俺は今は彼処に住んでるからな だから容態が悪化したら電話して来い」 「ではお送り致します」 慎一は久遠を連れて送って行った 榊原は康太を抱き上げた 「調子悪かったの?」 「………何時もの事だ……」 「何で言ってくれなかったのですか?」 「………唯でさえ忙しいのに……言いたくはなかった」 榊原は康太の頬を叩いた 榊原が康太を叩くと言う事は滅多となかった 一生は立ち上がった 「旦那!康太を叩かないでやってくれねぇか……」 一生は訴えた 聡一郎も立ち上がり 「……弱った康太を叩かないで!」と訴えた 「何故……話してくれないのですか? 急に距離を取ろうとして……」 「急にじゃねぇよ! 夢があるなら留めてはいけねぇと想っていた オレを抱いた後に仕事するなら手を出すなよ伊織 忙しいなら抱かなくて良い!」 康太は言い捨てた 榊原は康太を抱き締め……肩に顔を埋めた 「………君に触れないなんて厭です!」 「……抱かれた後で一人になるなら抱かれたくねぇ…」 寒くて目が醒める…… そしたら榊原はいない…… 瑛太は康太を榊原から取り上げた 「伊織、康太は疲れてます 寝かせないなら私が連れて行きます!」 榊原は立ち上がると……瑛太に頭を下げた 「……義兄さん……僕から康太を奪わないで下さい…」 「なら今夜は寝かせてあげて下さい 明日、体調が良いなら話し合いましょう」 瑛太はそう言い康太を榊原に渡した 榊原は康太を抱き上げると……寝室に帰って行った 榊原は寝室のドアを開けると、康太を寝かせて鍵を掛けた 「………自分でやりますか?」 「おう!」 康太はサクサク服を脱いだ 榊原はパジャマを康太に渡した 「要らねぇ!」 康太の腕には……点滴の後のテープが貼ってあった 「点滴したの?」 「………みてぇだな……」 「………康太……」 榊原は康太の上に重なり額を合わせた 「許容量を超えていたのは認めます…… ですが、君に関しては手を抜きたくはなかったのです」 「オレは伊織が抱え過ぎるなら……一人でやった方がマシだ」 「……僕が服を着せるの厭ですか?」 「厭じゃねぇよ」 「……なら着させて…… 康太の支度は僕にさせて…」 「真贋の管理はしなくて良い 今度は手を抜かねぇ……もう金庫を空にはしねぇから… 伊織は伊織の仕事をしろよ」 「………仕事よりも康太を優先したい… 僕が生きている上で大切なのは康太だけです… 嫌なら着替えは諦めます……」 「嫌じゃねぇって言わなかったかよ? 伊織にされて嫌な事なんて一つもねぇ! 嫌なのは…オレが足を引っ張ってると想う事だ 目が醒めて……いねぇなら……抱かれたくはねぇ…」 康太は本音を吐露した 「……康太……もう離さないから許して下さい 君を一人で寝かさないから…許して……」 「伊織……忙しいなら本当にオレは気にするな」 「君を気にしなくてどうするの? 君を愛してるから側にいるんだよ? 気にならないなら……側にいなくても変わらない」 「………伊織……」 「今夜は寝ましょう」 「ん。伊織、抱き締めて……」 「ええ。抱き締めてあげます」 「……服脱いで……」 榊原は立ち上がると服を脱ぎ捨てた そして康太の横に入り込み康太を抱き締めた 康太は少しだけ……骨張って……痩せていた 体調の悪さが伺える 榊原は忙しさに追われて康太を見ていなかった…… と後悔した 「……血を吐いたんですか?」 「………最近ムカムカした」 「なんで言ってくれなかったのですか?」 「そんなに大した事じゃねぇ……」 「何回も?」 「ん………貧血……おきた」 「知らない方が辛いよ?」 「………ごめん……伊織……」 「年末年始、君の為に料理を作るんですよ? 君が食べてくれないなら僕は作る意味がない…」 「……良くなるから……」 「ええ。良くなって下さいね 頬……痛かったですか?」 榊原は叩いた頬を撫でた 「痛くねぇ…腕の方が痛かった……」 「何処へ行ってか聞いても良いですか?」 「今日は神楽に行って、一旦帰って来た で、また出掛けた 神楽の本家に行って来て、小鳥遊から電話が有ったから電話を入れた そしたら悪化して入院だと聞いたかんな見舞いに行った そしたら捕獲されて倒れた……だから点滴された……」 康太はその日の出来事を全部榊原の話した 「康太愛してます…… 僕の愛は……束縛します…… 邪魔ですか?窮屈ですか?」 康太は榊原の頬に手を掛けた 「違う!伊織、そうじゃねぇ! 伊織にされて嫌な事は本当にねぇんだ 大和の地に立って……色々考えたんだ 何時までも仲良く……オレが繋ぎ止める訳にはいかねぇって…… 背中を押して送り出す……それをしなきゃって思ってた 伊織にしても無理するんなら…… ……自分でやらなきゃ… そう思っただけだ……伊織が束縛するとかじゃねぇ オレは伊織なら束縛されても構わねぇ… 愛してるのは昔も今もお前だけだ……」 「……康太……愛してます だから離れたら不安で……仕事なんて手に着きません…… 何故?こんなに愛してるのに…… 何故……離れようとするのですか? 僕は君といたいから飛鳥井に住んでます 離れて過ごすなら飛鳥井にいる必要などない… 僕は君を離したくないんです……」 榊原の心からの言葉だった 「伊織……お前と愛し合った後に…… 一人で寝るのは辛いんだ…… オレは我が儘だから……伊織を独占する そのしわ寄せで……仕事をしなきゃならねぇのを 見ると自分が許せなくなる…… 冷たいベッドに……一人は嫌なんだ……」 榊原は康太を、抱き締めた 「ゴメンね……康太 もう、一人で寝かせないから…… 許して…… それとも……もう許してはくれませんか?」 「………伊織……許してるに決まってる オレの我が儘だ……」 榊原は康太に口吻た 康太に触れば火が点く…… だが……点滴を打った康太に無体は働けなかった 「寝ましょうか?」 「……ん?しなくて良いの?」 「点滴を打ったんです……無理は止めましょう」 「……ん……多分寝ちまう……」 「寝て良いですよ… ずっと抱き締めてますから…」 康太は深い眠りに落ちた 榊原は康太を抱き締めていた

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