11 / 100

第11話 果ての夢

朝早く康太は目を醒ました ベッドから起きようとして榊原に抱き締められた 「康太、まだ寝てなさい」 「………伊織……」 「起きねばならないのですか?」 「違う……トイレ……」 「連れてってあげます」 榊原に言われて康太は顔を赤らめた 「自分で出来るし……見られたくねぇ…」 「僕は構いませんよ?」 「オレは構うんだ!」 康太は榊原を離してトイレへと駆け込んだ 榊原は笑って康太を見送った 少しして康太がスッキリした顔をして出て来た ベッドに上がると榊原の腕が康太に搦まった 「……止せ……触るな……汚いってば……」 「僕が連れてってあげると言ったのに…」 榊原は残念そうに言い、康太に口吻た 「オレは見られたくねぇ……」 「気にしなくて良いです 子供にさせる見たいに背後から脚を抱えてさせてあげますよ?」 「……ぁん…ゃめ…伊織……あぁん…」 榊原の指が康太の性器に搦みつく 「イカせてあげましょうか?」 「オレだけは……嫌だ……」 「………では、明日まで我慢します」 「………伊織……」 榊原は康太を抱き締めた 「夏海と雅龍に疲れた顔で合わせたくはありませんからね」 榊原はそう言い康太に口吻を落とした 「……伊織……ごめん…… 我慢ばっかしさせて……すまねぇ…」 「気にしなくて良いです 明日は大晦日! 年末年始は、やはり、姫始めでしょ? 姫始めを頑張るのでご心配なく!」 年明けと共に姫始めに突入すると言われて…… 康太は顔を赤らめた 「奥さん、そんな顔をしたらベッドから出したくなくなります」 ペロッと首筋を舐められて、康太は困った 「……伊織が触るから……」 「明日の晩は寝かせませんよ! 僕は君の中に入ったまま新年を迎えます ですから今日は我慢します!」 榊原は立ち上がると康太を抱き上げた 「オレ……身躯が持たねぇかも……」 「君は寝てれば良いです」 「………嫌だ……伊織…乳首吸うし…… 吸わないでぇって言ったのに……吸うから…勃ち上がって服に擦れる……」 「君の乳首が美味しそうなのがいけないんです 美味しそうに勃ち上がって目の前にあれば……貪りついてしまいます」 康太は榊原の首に腕を回した 「愛してる伊織……お前だけ愛してる」 「僕も君だけ愛してますよ奥さん!」 榊原は心から愛の言葉を囁いた 康太は嬉しそうに顔を蕩けさせて笑っていた 浴室に連れて行き身躯を洗って、ゆっくりお湯に浸かった のんびり過ごし、着替えてキッチンに行くと全員起きて椅子に座っていた 榊原は康太を抱き上げたままニコッと微笑み家族や一生達に挨拶した 康太を椅子に座らせると康太の朝の準備をした 慎一がそれを手伝い康太と榊原の前に食事を置いた 榊原は康太の横に座って静かに食事を始めた 笙は康太に謝ろうとした 「笙、夕方まで時間があれば客間にいろよ! 夜は家族や清四郎さん達と外食に出掛けるかんな!」 と楽しそうに言った 「外食……ですか?」 「おう!何処か消化の良い店に食べに行こうと想ってるんだ オレは今、食えねぇかんな…… 消化の良い店でも知ってたら連れてってくれねぇか?」 康太は笙にそう話し掛けた 笙は嬉しそうに 「ならパイの店はどうですか? パイ生地に色んな種類を包んだ店を知ってます パイとワインが合うんです」 ワインと聞けば、瑛太が嬉しそうに 「久しぶりにワインも良いですね」 と呟いた 榊原は源右衛門に 「少しならワインを飲んでも良いですよ」 と話し掛けた 源右衛門は「少しなら良いのか?」と目を輝かせ問い掛けた 「少しだけですよ」 「少しだけで満足じゃ!」 源右衛門はワクワク嬉しそうだった 榊原は笙に 「では兄さん夜に皆で行きましょう!」 と声を掛けた 「後で店の確認するね! 年末だからお休みだったから困るからね」 話は良い雰囲気になっていた 明日菜は康太に紙袋を渡した 「これは?」 「蔵持善之助さんからです」 康太は紙袋を榊原に渡した 榊原は紙袋を受け取り……思い出した 「………君の携帯……善之助さんから着信が凄かったです…… 後、若旦那に三木……安曇さんも電話が来てました…… 君を病院に連れて行く時鳴っていましたね……悪い事をしました」 榊原は康太に着信を伝えた 慎一は「俺の方に電話が来ました」と康太に伝えた 「慎一悪かったな」 「康太は絶対安静です……と言いご遠慮願いました 年が開けたら年始のご挨拶をせねばなりません その時でも構わないと判断しました」 「……で、納得してくれた?」 「………しませんね だから着信が凄いのです そのうち押しかけて来るんじゃないんですか?」 「………やっぱり、そう来るか……」 「今日はご遠慮願っております 安心して出迎えてみせます!」  慎一はそう言い康太の前に薬の水を出した 榊原に薬を渡すと、榊原は康太の口に錠剤を放り込み、水を口に含み……接吻した 康太がゴクンッと飲み込むまで……執拗な接吻が送られた 康太はクラクラッになり……顔を赤らめた 榊原は笑って康太を抱き上げるとキッチンを後にした 榊原は康太を自室のリビングのソファーに座らせた 康太の後を追って一生達がやって来た 榊原は蔵持善之助のプレゼントを袋から出して康太に渡した リボンの着いた箱を榊原から渡され、康太はリボンを解いた 包装紙を破き箱を開けると万年筆が2本入っていた 康太は「万年筆?」と呟いた 榊原は「Kroneの万年筆…」と呟いた 「知ってるのかよ?」 「クローネ 万年筆 限定品  ウィンストン チャーチル Winston Churchill……700000円は下らない万年筆です……」 「………それが2本……も?」 榊原は箱の中に入ってるカードを取り出し康太に渡した カードには 『康太、伴侶殿 大学入学おめでとう お祝いに最高級の万年筆を贈ります 仲良くお二人で使って下さい  _________善之助 』 と、書かれていた 善之助の想いが嬉しかった だが、今は電話はしたくなった 食事に誘われても……出たくはなかったから…… 「御礼を言わないといけませんね」 「………夕方までは動かねぇ……」 「ええ……見送った後に…… 体調が良ければ……で、良いですよ」 康太は伊織……と胸に顔を埋めた そして静かに……時を過ごした 何も言わず榊原は康太の側にいた 一生達も…康太を見守って…静かに座っていた 昼を過ぎた頃……想いが届いた 『真贋…貴方に頼むべき事があります…』 覚悟を秘めた夏海の想いを受けとると康太は立ち上がった 「康太…どうしました?」 「応接室に行く」 榊原は康太を抱き締めた そして応接室へと行きソファーに座った 午後2時少し前に、一生は下に下りて行った 夏海と雅龍を迎える為に、下へと下りて行った マンションの下に下りて行くと、タクシーに乗った夏海と雅龍が、丁度タクシーから下りる所だった 「夏海、無理をしなくても康太が出向くの に…」 一生はお腹の大きくなった夏海に声を掛けた 「うんん。大丈夫。真贋は?」 「夏海が来るから…って待ってる」 出迎えに行けと…言われたから待ってた と、一生は告げた 「足元に気をつけて着いて来てくれ」 一生は夏海と雅龍に声を掛けた 雅龍は一生を見ていた 魔界で出会った面影を残していたから…… 「………赤龍……?」 雅龍が呟くと一生は雅龍を見てニカッと笑った エレベーターを開けて二人を乗り込ませ、自分も乗り込み最上階を押す 「覚えていたのかよ?」 「………人の世で逢えるとは想ってはいなかった……」 「俺もな雅龍と逢えるとは想ってなかったわ 黄龍と白龍が帰らぬ息子を心配してたぞ」 「…………赤龍……」 雅龍は言葉を失った 親不孝している自覚ならあった 魔界を離れて……生きている息子など忘れてくれて良いのに…… エレベーターは最上階に到着し、一生は二人をエレベーターから下ろした そして飛鳥井の玄関ドアを開けて二人を康太のいる応接室へと連れて行った 康太は何時ものソファーに座っていた その横に榊原が座り、慎一がいて聡一郎がいて、隼人が座って見守っていた 夏海は康太を見ると深々と頭を下げた 一生は夏海と雅龍に「座れよ」と声を掛けた 雅龍は夏海を座らせて、その横に座った 雅龍の目の前に………四神に名を連ねる青龍が座っていた 魔界でみた厳しさはなく、穏やかな表情で炎帝の横に座っていた 雅龍は何だか信じられなかった 「今日は真贋にお話があって参りました」 気丈に夏海は、そう告げ…笑った 康太は何も言わず…夏海を見ていた 覚悟を決めた夏海の瞳を見れば…… どれだけ悩んで苦しんで…… 康太の前に来たのか解るから…… 「私のお腹の子は双子 一人は如意宝珠の玉を抱き産まれる」 夏海が星が指し示す運命を口にした 榊原は、驚愕の瞳を…夏海に向けた 龍の子を産む…… 人と龍と交わっても……人外の子は産まれても 如意宝物珠を抱いて産まれて来るのは…… 意外だったから…… 龍が親から授けられる宝珠……龍の結晶を人が産む子に持たせて出れる事は……皆無だった そんな忌日は聞いた事がない 人の身躯に……龍は産めない 「人が…龍を…産むのですか…?」 榊原は信じられないと…呟いた だから……夏海は…… 榊原は夏海の運命を……… 思い知った 「そうです。私は龍を産みます その子が神楽を支えて…神楽は続く!」 星の指し示す運命を夏海は口にした 神楽の存続……その為だけに夏海は子を産む 家の為に…生きて 家の為に…果てる その行き様は… 飛鳥井康太と酷似していた 「そこで、真贋にお願いがあります!」 「もう一人の子か?」 康太は…やっと言葉を放った 「そうです。 この子もこの世に使命を持って産 まれると、星が指し示しました」 「お前の星は…見えてる」 だから康太は…もう言うな…と夏海を止めた 「それでも言わねばならぬのです!真贋!」 「言えば…違えは出来ぬ! それでもか?」 康太は苦しげに言葉にした 言わなくても良い…… 夏海の想いのまま……してやるつもりだったから…… 「それでも!私は貴方に頼むべき事がありま す!」 夏海は、言いっきり康太の瞳を射抜いた その瞳は…… 自分の運命を受け入れていた 総て受け入れ…… 逝くしかない人生を悔いなく過ごす……覚悟をみた 我が子の行く末を案じ…… 我が子を手放す決意をする 総ては我が子の為…… そう想い………夏海は我が子の星の指し示す先へ子供を託す為に…… 康太に逢いに来た…… 「もう一人の如意宝珠を持たぬ子も…龍の血を 引く…龍の子 人にはなれぬ…だが、星は示す この子は戸浪海里の子として育つ…と。」 「………夏海…我が子を引き裂き… 育てさせるのか? それをお前がするのか?」 康太は…胸を押さえ…苦し気に…言葉にした 我が子の行く末を誰よりも案じて…… 誰よりも解っているのは夏海だから… 「貴方は適材適所配置するが役目 我が子も適材適所…配置して見届けて下さ い!」 母の想いだった この手で育てられぬ… 母の思いだった 母の想いは… 深く大きく 誰も叶わぬ… 愛だった 「…………夏海……言えば引き返せは出来ないぞ……」 「………ええ!真贋……解っております!」 夏海の瞳は揺るぎなかった 総てを受け入れてても…… いざとなったら………離れたくない想いの方が強いのに…… 夏海は何処までも潔かった 稟として前を向き……逝く日の為に悔いのない日々を紡ぎ出す気心が垣間見えた 夏海…… 康太は夏海を見ていた 子供の頃、紫雲の所で一緒に修業した やんちゃで意地っ張りでお転婆娘だった 康太と一緒で泣かない………子は 家の為に日々辛い修業を送っていた その夏海が……母になり康太の目の前にいた 「真贋…何時か…互いの分身がいる事を… 私に変わって…教えて下さい 私と雅龍の想いも…伝えて下さい お願いします…」 夏海は深々と頭を下げた 康太は…天を仰ぎ… 「神楽の姫は…皆…無茶な願いを押し付け る…」 堪え切れずに…一筋の雫を…流した 「私は…雅龍と共に逝きます」 二人して…消えてなくなろう……と覚悟の瞳をしていた 龍が…人と……生きる世界が違う 魔界と人間との時間の流れは違う 共にはいられないのは解っている ならば…この命が…消え去る時 二人して…消えてなくなろう 見つめ合う夏海と雅龍は、覚悟を決めていた 共に……何処までも一緒に…… その想いなら康太と榊原にもあった その想いで……共に生きて来た 康太は雅龍に 「夏海の命の焔が消えた時、二人で黄泉に渡 り…魔界へ行くが良い お前の叔父の黒龍が段取りしてくれている お前の両親や、兄弟は受け入れる準備をしてい る 水神は…夏海に…雅龍の分だけの寿命を与えると約束してくれた 二人は…死しても…共に生きるが良い」 康太の最大の…プレゼントだった 「炎帝…」 雅龍は…康太を見て呟いた 信じられなかった まさか……夏海と共に魔界に還れるなんて…… 想ってもいなかった 雅龍は康太を見た…… 「夏海を幸せにしてやってくれ 夏海を愛してやってくれ そしてお前も幸せになれ」 雅龍は泣いた そんな言葉を貰えると思わなかったから…… 夏海と共に…… 消滅する気だった 親不孝をばかりして…… 出て来た不徳の息子だった それだけが心残りだった 夏海は膝に顔を埋め泣く雅龍の頭を撫でた 優しく……微笑み雅龍を撫でていた 雅龍は顔をあげると夏海に言った 「愛してる夏海…… 幸せにするから…我も幸せにしてくれ…」 雅龍の精一杯の言葉だった 雅龍は不器用な男で…… 言葉より行動に出てしまう そんな雅龍を夏海は愛していた 雅龍だけを愛していた 「誰よりも幸福にしてね 私も幸せにするから!」 雅龍は何度も頷いた 康太と榊原はそんな二人を優しく見守っていた 「夏海と雅龍の宝を貰い受けるんだからな それなりの…事はしてやる お前達の果ても…お前達の子供も… オレはちゃんと見届けてやる この命に換えても…約束は守る!」 康太は夏海と雅龍に約束した 我が子を遺して逝かねばならぬ二人に変わって見届けると約束した その言葉を受け 夏海は微笑んだ とても嬉しそうに…微笑んだ 康太が…夏海の果てを見て…危惧していた想い が…消えて行く 夏海は選んだのだ 運命を受け入れ、その為だけに生きている事を 知る 二人でならば……乗り越えられない壁はない 榊原が康太に言ってくれた言葉を思い出した   二人なら…… どんな障害にでも立ち向かう事が出来る 人の世に堕ちた炎帝に青龍がいてくれたからこそ乗り越えられた日々があった様に…… 夏海と雅龍も乗り越えて逝けるだろう…… 「帰りは慎一が送る」 「ありがとうございます」 「夏海 」 「はい。」 「お腹の子は元気すぎて…8ヶ月で産んでも 元気に生きる。 案ずるな、その命…何としてでも守ってやるか ら!」 「では、8ヶ月で産んでも安心ですね! 重くて…産み月まで我慢出来るか…心配でし た!」 夏海は、そう言い笑った 「重くて…」康太は絶句した 母の慈愛に満ちた笑顔をしていた その口で…重くて…産み月まで我慢出来るか… と来る 夏海らしくて笑った どんな事をしてでも護ってやる…… 康太は夏海を見た 夏海は康太の瞳に……背負わせる重さを痛感した 「……真贋……」 「お前はお転婆で、オレは嫁の貰い手があるか……心配してた 良かったな夏海!嫁に貰ってもらえて! 龍は頑丈だし、生涯一人の人としか添い遂げねぇらしいからな…… オレの青龍はバツイチだがな……」 と笑った 榊原は困った顔をして康太を抱き締めた 「………真贋……バツイチは余分です」 「……そうか?」 「そうです!」 「雅龍に幸せにしてもらえ」 「はい!嫁にしてくれたからには浮気はさせません! 私だけを見て貰い幸せにしてもらいます!」 康太は微笑んだ 雅龍はニコニコと夏海を見つめていた 榊原は康太だけを見つめていた 話が付くと夏海は、立ち上がり、康太に頭を下げようとし て… 「おととと…っ」とふらついた 迫り出したお腹が想う様にならなかった 雅龍が支えて…苦笑する 夏海はお腹の大きさを考慮して動かないから……目が離せなかった 「では真贋宜しくお願いします!」 夏海は元気良く言うと、雅龍と共に応接室を、 出て行った 慎一が二人を送る為に、一緒に出て行った 康太は…夏海と雅龍を見送って 「母は強いな…」と呟いた 「ええ。本当に母は強いですね」 「あんな強い姿を見せられると… オレも…お前の子を産んでみてぇって思うな」 「産みたいのですか?」 「産めねぇ…けどな」 「僕は…我が子と解っていても…君が触るのは 許せません…嫌です!絶対に!」 康太を抱き寄せ 「だから産めなくて良いです」と囁いた 康太は笑って恋人の胸に顔を埋めた 願わくば… 夏海が悔いなく… この世を終えれます様に…… と、祈るだけだった 榊原は康太を膝の上に抱き上げ 「僕は雅龍を初めて間近で見ました 黄龍と言うより我が父金龍に似ていますね」 金色の鬣と瞳が父を思い起こさせた 「オレは青龍しか見てねぇかんな解らねぇな‥‥」 「君は僕だけ見てれば良いのです! 他を見たら息の根を止めますよ?」 「ん。止めて……青龍に止められるなら…… オレは笑って逝ける……」 すっかり二人の世界だった 一生は「……おい!」と声を掛けた でもイオリーブラウンに蹴り上げられるのは御免だった 榊原は笑って一生に 「家族を呼んで構いませんよ」と告げた 康太は榊原の胸から顔を上げなかった 榊原の胸に顔を埋めていた 家族が応接室にやって来ても…… 榊原に抱き締められて顔を埋めていた 家族や清四郎達は何も言わずにソファーに座った そのうち康太は眠りに堕ちた 榊原の胸の中で幸せそうに眠っていた 動きのない康太に瑛太は心配して榊原に声を掛けた 「………康太は?」 「寝てます」 まさか……寝てるとは想わなかった 瑛太は「……寝ているのですか?」と聞き返した 「……寝てます。 僕の服が淀で濡れています 食べられないから……食べてる夢でも見てるんでしょうか?」 榊原は苦笑した 「起きたら外食に行きますか?」 「ええ。そうして下さい 榊原は康太の頭を撫でた 愛する康太を抱き締め……優しく撫でていた 康太は緊張していた 覚悟を決めた相手では太刀打ちなど出来る人間はいない…… 榊原は康太を休ませていた 慎一は榊原の耳元に 「若旦那からですが、どうしますか?」 と尋ねた 榊原は康太を抱き締めたまま立ち上がると応接室を出た リビングへ向かいソファーに座ると慎一に手を差し出した 慎一は榊原の手に携帯を置くと、康太をソファーの上に寝かせた 榊原の膝に頭を乗せさせ寝かせても康太は起きなかった 「お電話変わりました」 榊原が電話に出ると戸浪は安堵の溜息を着いた 『……やっと話せます……康太の調子はどうなんですか?』 「良くはないです……本来なら入院後せねばならない病状です」 『………っ!何故……康太は、そんなに弱ってしまったのですか?』 「力を使い過ぎているんです…… 康太は焔を使います すると新陳代謝が活発になってしまうみたいで……身躯が人の倍の速度で働いてしまうんです すると内臓にかかる負担は大きくて……内臓が働かなくなったのです…… 今は殆ど食べれません……」 『……康太に逢いたいのですが……』 「康太は逢いたくはないと想います 弱った姿など……誰にも見せたくはない! 察して下さい若旦那……」 『………逢えませんか…… 少しで良いのです……少しで良いので逢えませんか?』 「今宵は康太は家族と食事に行きます」 『………そこに伺ってはいけませんか?』 「飛鳥井には来られてもいないので、そこに来て戴くしかないと、言っているのですよ若旦那」 『………伊織……ありがとう……』 「今の康太は……前の面影はありません 本当なら今の康太は誰にも見せたくはないのです」 『………康太を見ていたいのです……』 「若旦那、今宵……飛鳥井に泊まって下さいませんか? 康太から話があります……」 『解りました 何処で食事をなさるか教えて戴けるなら、そちらへ伺います』 「慎一に確認させて電話させます」 戸浪との電話を終えると、慎一に携帯を返した 榊原は慎一を見て苦笑した 「やはり押しかけて来ましたね…」 「仕方ありません…… 康太はこの一ヶ月誰とも逢ってないのですから…… ここ最近は電話にすら出ない…… 皆さん心配の度が過ぎてます 他の方も年明けと共におみえになると想いますよ」 「康太が食べて、も少し元気な姿になってれば……安心されると想うんですがね… 今の康太を見られれば…… 泣き出すのではないかと……想ってます」 「…………泣くかも知れませんね…… それは康太にとって不本意なんでしょうね 出来たら逢わせたくは……ないですね」 慎一は何故そっとしておいてくれないのか… と想う 榊原は康太を起こした 「康太……康太、外食に行きますよ」 揺すって起こすと康太は目を開けた 「伊織、おはようのキスは?」 「奥さん、夜なんですが……」 と苦笑しつつ康太に口吻けた 慎一はソファーから立ち上がるとリビングを出て行った 「愛してます奥さん」 「オレも愛してるもんよー」 榊原は康太を抱き締めた 「外食に行きますよ」 「もうそんな時間?」 「6時は回ってます」 「なら行くとすっか!」 「コートを持って来ます 少し待ってて下さい」 「おう!待ってるかんな!」 康太はニカッと笑った 榊原は寝室の鍵を開けて部屋の中にはいると、クローゼットを開けてコートを取り出した 自分のコートと康太のコートとマフラーを取り出し 寝室を出た 寝室に鍵を掛けて、ソファーの上にいる康太を立たせた そしてコートを着せてマフラーを巻いた そのマフラーはクリスマスに榊原に買って貰ったお揃いのマフラーだった 榊原もコートを着てマフラーを巻くとリビングを出て電気を消した 応接室へ出向くと、皆揃っていた 「行きますか?」 榊原が声を掛けると、皆一斉にコートを取りに走った 榊原は笑って玄関へと向かった 康太の靴を下駄箱から出すと、康太の前に並べた 「履かせてあげましょうか?」 榊原の愛でズブズブに甘やかされる 康太は笑って自分で靴を履いた 榊原は踵を踏んでないか確かめた そこへ飛鳥井と榊原の家族が来て玄関を占領する 榊原と康太は玄関を開けて外に出た 笙が榊原に 「駐車場がないからね、タクシーを呼んだから!」 と大人数での移動に……車を停める場所がないと踏んでタクシーを呼んだ エレベーターに乗り込みマンションの下へ行くと、正面玄関の前には…… バスが泊まっていた 笙は「大移動だからね20人乗りの小型バスを頼んだんだよ」と苦笑した 皆、一斉にバスに乗り込んだ 榊原は康太を抱き抱え、座席に座ると膝の上に乗せた 一生と慎一は榊原達の後ろの座席に乗り込んだ 「旦那、康太の具合はどうよ?」 「さっきまで寝てましたからね 悪くはないと想いたいです」 清四郎と真矢も心配しつつ仲良く座り 清隆と玲香も仲良く座った 聡一郎は隼人と座り、瑛太は慎一を掴まえた 笙と明日菜は仲良く座り、源右衛門は1番前の席に力哉と座った 笙は全員座ると人数を確かめた 「全員揃いましたね! あれ?悠太は?いないんですか?」 と一人不在に呟いた 慎一が笙に 「悠太は多分師匠のお供なのでは? 日本にはいないと想います」 と告げた 「日本には…って…何処に行ってるのですか?」 「悠太は今ニューヨークです 脇田氏が急な仕事で足止め喰らってるのです 当然、同行者の悠太も帰れません」 笙は成る程……と納得して、バスを発車させた バスは目的地へと向かって走り出す 康太は榊原の膝の上でご機嫌だった 「オレさ初詣年明けから行きてぇ」 「無理ですよ 多分君は串刺し状態ですからね」 「………年明けたら初詣だろ?」 「僕は年明けから君を食べたいので、我慢して下さいね」 「甘酒飲みたい……」 年越しと同時に行けば甘酒とか色々飲めて楽しい 「僕が作ってあげます」 「………伊織……」 「僕の腕の中にいなさい」 榊原はそう言い康太を抱き締めた 清四郎は初詣位行かせてやれば良いのに……と想う 真矢も……行きたいと言うなら……連れて行ってあげれば良いのに…… と息子の性格の悪さを……想う 一生は「元旦なら何時でも甘酒は出る」と慰めた 「………一晩中はオレの体力が持たねぇ…」 「君は寝てれば良いです」 バスの中の全員が……それは気絶と言うんじゃないのか……と想う 「嫌だ……気絶すると伊織……乳首吸うから…おちおち気絶も出来ねぇかんな!」 康太の言い草に全員が笑った 「そんな事を言うお口は塞いでしまいますよ?」 康太は潤んだ瞳を榊原に向けた 康太は榊原の耳に 「乳首は吸わないで……」と頼んだ 榊原は康太の胸を指で確かめた 「……ゃあん……」 想わず漏れた声に……康太は赤面して榊原の胸に顔を埋めた 康太の乳首は勃ちあがって榊原の指に歓喜して震えていた 榊原は困った顔して康太を撫でた 一生は「……旦那……」と名を呼んだ 「何ですか?一生」 「………康太を弄るな…」 「それは無理です! 愛が募り過ぎているのです 康太を触っていなければ、狂います!」 「………家に還ってからにしなはれ」 「家に還れば触れません 今夜は外せない話をせねばならないのです…」 そんな訳があって今触ってるのか……と一生は納得した…………が、一応止めとく 「旦那、家族がいる場所は……」 「一生」 「あんだよ?イオリーブラウンに蹴り飛ばされる……って言うんだろ?」 「違います!君、熱は?」 榊原は苦笑して一生に問い掛けた 「微熱は引かねぇかな?」 「無理するからですよ!」 一生は困った顔をして榊原を見た 「今度熱出したら力哉に頑張って貰いますかね? 力哉ので蓋をさせてますよ?」 一生はプルプル首をふった それは勘弁願いたかった 一生は挿れられるより、挿れたい側の人間だったから…… 力哉が味を占めて犯り出したら困る…… 「無理せず薬を飲みなさい」 「解った……旦那……虐めるな…」 「虐めてませんよ 動けないのが嫌なら気をつけなさいと言ってるのです 君は何故動けない……と自分を責めるでしょ?それはさせたくないんですよ」 「………気をつける」 榊原は一生の頭を撫でてやった 目的地に到着してバスが停まる 榊原は康太を抱き上げ様とした それを康太は断った 榊原の腕を押し退けると、立ち上がり歩いて行った 康太は人の多い場所では距離を取る バスの外に下りると榊原は静かに横に立った 全員バスから下りると店の中に入って行く 笙は一足早く店の中へと行き到着を告げた すると店のオーナーが出迎えてくれた 深々と頭を下げ、出迎えてくれる 「お連れ様がお待ちです」 とオーナーが告げると笙は首を傾げた 榊原は「どの席ですか?」と尋ねた オーナーは「ご案内致します」と席へと案内した 席には戸浪海里が座っていた 康太は「若旦那……」と榊原を見上げた 「お電話を貰い、お店に出向いて戴いたのです! 今宵は飛鳥井に泊まって戴きます そしたら君は話が出来るでしょ?」 康太は本当なら……こんな弱った姿は見せたくはなかった も少し……血色が良くなって元気になるまで……誰とも逢う気はなかったのに……と想った 回れ右して還りたい‥‥‥ 動かない康太を促して、榊原は戸浪の横の席の椅子を引いた 康太を座らせて、その横に榊原は座った 戸浪は康太の痩せ細った腕に触れた そして尖った顎に触れ……頬に触れた 「体調が悪いのですか?」 「………少しな……此処で話せる話じゃねぇ」 「大丈夫です!この店は今日は貸し切りです この店のオーナーは私の妻の従兄弟になります ですので無理を聞いて貰いました」 「………オレは焔を使うかんな…… 身躯の組織が新陳代謝が人の倍の速度で活発になるんだよ 前世は総て20代で命を落として来たかんな オレはそんなには長生き出来ねぇと想ってる それが定めだ……力を使えぬ真贋など不要だ オレは飛鳥井家真贋でいてぇかんな…」 戸浪は言葉を失った 「安曇さんや相賀さん達に逢われないのは…何故なんですか? 善之助さんは寝込んでしまいました… 三木は君の主治医の所に入り浸りで、病状を聞いては私に電話をくれます 堂嶋さんは連絡がつかないんだ…と、私や三木に毎日電話をして来ます 彼等に逢われないのは……何故ですか?」 「こんな姿見せてぇもんじゃねぇかんな 善之助から貰った時計も……嵌められねぇ程に痩せちゃった そんな姿…好んで見えてぇ奴はいねぇだろ? も少し血色が良くなるまでは逢う気はなかった……」 「………康太……」 戸浪は康太を抱き締めた その身躯は明らかに痩せて……儚いモノになっていた 「私達が毎日康太の食べれるモノを差し入れします!」 「………それは大変だから良い……」 「お気になさらずに! 君を心配する人間は私だけではありません 日替わりで差し入れるつもりです」 「若旦那……」 「病人は言う事を聞きなさい!」 料理を運ばれて話はそれで終わった 話題は変わり清四郎や飛鳥井の家族と楽しく談笑して話が弾んだ 戸浪は嬉しそうに食事をしていた 康太は榊原に食べれる様にしてもらい少しずつ食べていた 戸浪が特別にオーナーに頼んで造らせたプリンを運んで貰い康太さそれを食べたい オーナーはご挨拶に顔を出して 「今回康太様の所望のプリンを作らさせて戴き、シェフが気を良くしてメニューに入れようかと言う程でした お口に合いましたでしょうか?」 「美味しかった!ありがとう」 「お持ち帰りも作ってあります! 私よりの気持ちで御座います 覚えておられませんか?康太君…」 オーナーは康太を懐かしそうに眺めて、そう言葉にした 「覚えてるぜ!元気! もしかしたら元気かな?とは想った」 「覚えていてくれましたか!嬉しいです!」 オーナーは嬉しそうに笑った 榊原や家族の視線を受けてオーナーは苦笑した ついでに戸浪からも 「お知り合いだったのですか?」と問われた 「僕は飛鳥井の菩提寺で修行僧してました 大学時代海外協力隊で難民キャンプのボランティアをしてたんですよ 自分の無力を痛感させられて……日本に還って参りました 供養をする為に家の近所にあった飛鳥井の菩提寺に頼んで修行僧として受け入れて貰いました その時、康太君は修行中で僕の作る食事を 『うめぇ!』と言って食べてくれたのです そして康太君は『おめぇは僧侶になるべき人間じゃねぇ!』と言って送り出してくれたのです それから料理界を修業して歩きました あの時、僕を送り出してくれなかったら今の僕は存在しません」 「定めだ元気 定めと違う場所では人は生きられねぇ お前は定めの場所にいちゃいけなかっただけだ」 そう言い康太は微笑んだ 「僕を解き放ってくれたのは君です 何時かお会いしたいと想っていました ですから逢えて本当に嬉しいです」 オーナーは皆に一礼すると 「遅くなりましたが、私はこの店のオーナーの春宮元気と言います 以後お見知りおきを!」 と自己紹介した 笙が「オーナーが戸浪さんと従兄弟だったり、康太と知り合いだなんて知りませんでした……」と言うと オーナーは「言ってませんからね」と笑った 清四郎や真矢は「良いお店ですね」と賛辞を述べた 皆、食事を終えると笙が支払いに向かった するとオーナーは 「戸浪様が支払われてます」と、精算は済んでると言われた 康太は「若旦那……」と困った顔を向けた 「今夜は飛鳥井にご厄介になります なので、せめてもの気持ちです!」 戸浪は康太のプリンを受け取ると、席を立ち上がった 笙は、帰りのバスを呼んだ バスが来ると皆で乗り込んだ 「若旦那、車は?」 「置いてタクシーで来ました」 「なら一緒に帰れるな」 康太はそう言うと、嬉しそうに笑った バスに乗り込み飛鳥井の家に帰る 飛鳥井の家の前にバスが停まると、全員バスから下りた 慎一が先に下りてドアを開ける 一生も後に続いた エレベーターのボタンを押して、直通で行ける様に鍵を差し込み皆を待つ 皆が乗り込むと、一生はドアを閉めた 最上階の飛鳥井の家まで行くと一生は一足先に下りてドアを開けに行った 榊原は戸浪を先に上がらせて康太を行かせた 康太は戸浪の手を掴むと自室へと連れて行った リビングのドアを開けてソファーに戸浪を座らせた 慎一はキッチンに向かいお茶の準備を始める 一生達は清四郎達と応接室に入って行った 康太はコートを脱いだ マフラーを外し榊原に渡した 戸浪もコートを脱ぐと、榊原がハンガーに吊した 慎一がお茶を持ってリビングに来ると榊原はドアを開けた 戸浪の前にお茶とお菓子を置くと、慎一は一礼してリビングを出て行った 康太は重い口を開いた 「沙羅はそろそろ産み月か?」 「はい。来月子を産みます」 「若旦那……オレはお前に……お前の子が生まれる頃…… 時期を同じくして産まれる子がいる その子が戸浪の社長になる定め……と言ったよな?」 「はい。お聞きしております 我が子以上に愛して育てろと君は言いましたね 私達夫婦はその覚悟で日々過ごしております」 「年を越したら産まれる お前の子と時を同じにして産まれる」 「………そうですか」 「……母親の名は……神楽夏海と言う 来年高校を卒業する年の女の子だ……」 康太は母親の名前を戸浪に教えた 戸浪は若すぎる母親に言葉をなくした 「………総ては家の為だ…… 我が子と離れてぇ母親なんていねぇ…」 「……解っております…」 「だがな……来年……夏海は……命を落とす」 「……え……」 戸浪は言葉を失った 「我が子の行く先を見届けたら…… 夏海は黄泉へと旅立つ……」 「………若すぎる……」 戸浪は目頭を押さえた 「夏海の言う通りにしてやってくれねぇか? 子供が一歳になる前に夏海に逢わせる だから……その時は総て夏海の想いのまま……聞き入れてやってくれねぇか?」 「承知しました! 総て夏海さんの想いのまま…… 聞き入れたいと想います…」 「……無理言ってすまねぇ……」 「いいえ……トナミ海運が先へと続くのなら… 私達は貴方の言う通りにします 貰い受ける子のお母さんを知れて私達夫婦は良かった…… 沙羅は夏海さんに変わって愛します 子と別れて平気な親などいない…… 我が子と離れるのは相当な理由があるのだと想っておりました 命と引き換えに……お子を生まれますか…」 「家の為だ……夏海の人生は総て家の為だった 神楽の家の存続……その為だけに……より強い子を産む…… 夏海の相手は龍だ……人ではない そして夏海は双児の龍を産み……命を落とす 夏海は死んでも……我が子が神楽を継ぐ ………神楽の家はより強い能力者を輩出して永らく続く事となる」 「………総ては家の為ですか…… 君も家の為に……生きてますね」 二人は似てると……戸浪は言った 「お転婆でな、オレに何時も喧嘩を売ってた 負けても泣かねぇんだよ…… 唇を噛み切って堪えるんだ…… 気の強い……お転婆が子を産む…… 夏海の形見だ……オレが貰い受け様と想っていたが……子の星が……戸浪海里の子になると示している お前の子となりトナミ海運を背負って行く定め……だ お前に託すしかねぇんだよ 戸浪も変革期に突入してんだよ 他の血を入れて一新せねば滅び行く定めに来てる……」 「私の代で滅ぼす気はありません お子を明日のトナミの後継者に致します 総ては君の想いのままに……明日を紡いで参ります」 「若旦那……ありがとう……」 「ですから………」 戸浪は康太を抱き締めた 言葉の端々から苦悩が伺えた 「君は苦しまなくても良い……」 戸浪は康太を強く抱き締め……泣いた 「君の想いのまま……私は引き継ぐから… 君はもう……苦しまないで下さい…… こんなに弱って……」 「……大丈夫だ若旦那…… 後13年位は生きられるそうだからな」 「………え?……」 「オレは総ての転生で20代で人生を終えてる…… 今世は……10年プラスされるらしいからな… 総ての布石を見届けて逝けそうだ…」 「………嫌です! 私より早く亡くなるなんて嫌です! 私より若いんだから……私を看取って下さい」 「無理言うなよ……」 「伊織だって……飛鳥井や榊原の家族だって 私達だって……みすみす君を逝かせません 簡単に逝けるなんて想わないで下さいね! 私は絶対に君より先に逝きます!」 康太は困った顔を榊原に向けた 「諦めなさい……」 「………伊織……」 「君を死なせたい人なんていない! 君といたいんです 君のいる場所にいたいんです 君へと続く場所を目指したいんです」 康太は俯いた 「オレだって……早く逝きたい訳じゃねぇ 夏海だって……そうだろ? そんなに若くして逝きたい訳じゃねぇ… 無限の可能性に満ちた年に……先をカウントして誰が生きてぇ? 嫌に決まってる…… 恨んでも嘆いても……何も変わらねぇなら… 受け入れて先に逝くしかねぇからな… 精一杯遺された時間を生きようと思うんじゃねぇかよ…… 逝きたくなんかねぇんだよ……誰も…」 戸浪は康太を抱き締めて号泣した 解っている…… 誰も死にたい訳じゃない 遺された時間は…… 変えられないのなら…… 悔いを遺さず精一杯生きるしかなかった 解っている そんな事は解っている…… 多分自分の時間も短いと解るなら…… 悔いのない人生だと……言える様に頑張るしか道はない でも……人はそんなに強くはない 世を儚んで……恨んで……運命を呪う…… そんなに受け入れられる程…… 人は強くはなれない 康太は戸浪を優しく抱き締めた 慰めたいのに…… 慰められ……甘やかされて…… 康太の温もりに泣いている 康太…… 私は君をなくしたくない…… 君をなくして…… その先……私はどう生きたら良い? 君だけにしか…… こんな姿は見せないのに… 「………康太……時間の許す限り…… 君といさせて下さい……」 「若旦那……直ぐじゃねぇ…… そんなに不安がるな……」 「………康太………君を亡くした先を考えたくない……」 「考えなくて良い……」 康太は戸浪を抱き締めた 「寝るか?若旦那? 一緒に寝ようぜ!」 康太はそう言い立ち上がった 戸浪を手を差し出すと戸浪はその手を掴んだ 寝室に向かうと康太は戸浪の服を脱がすとベッドに押し込んだ 榊原は康太の服を脱ぐすとベッドに潜り込んだ 榊原も服を脱ぐとベッドに潜り込み康太を抱き締めた 三人で温もりを分かち合い眠る 康太の温もりに戸浪は安心して眠りに堕ちた

ともだちにシェアしよう!