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第13話 年末年始 ②
相賀が前に来た時には、足の短かな犬が一匹だったよな?と記憶を総動員する
相賀はまさかと想い
「二匹に増えたのですか?」と問い掛けた
「……ええ。貴史の家のシュナウザーが子犬を産んだので義母さんが貰い受けました…」
貴史は初耳だった
「美緒が?」
「ええ。美緒さんが義母さんに託してくれたのです
………そして名前も……どう言う訳がイオリになりました
コオもイオリも♂です……」
榊原は苦笑した
「……♂同士かよ?
仲悪いのかよ?」
「…………いいえ。頗る仲良しさんです…」
「なら良いじゃねぇかよ」
貴史はホッとした
「貴史も見れば解ります……
犬アレルギーの方はいませんか?」
全員、首をふった
全員犬を飼ってるらしくてアレルギーはないから応接室に移動した
慎一が先に応接室に向かって家族に皆が来る事を伝えた
清四郎は「連れてらっしゃい」と言ってくれた
榊原に伝えて応接室に皆で向かった
家族はほろ酔い加減で皆を歓迎してくれた
清四郎が皆が来るからと、お寿司を注文していた
皆が応接室に来る前に届けられテーブルの上に乗っていた
慎一は全員を座らせてお酒の準備をした
一生はつまみやお寿司の準備をして、聡一郎はお酒を作った
隼人は康太に抱き着き……寝た
貴史は30畳はある応接室の片隅に置かれたゲージを見た
そこにはコーギーのコオとシュナウザーのイオリが仲良く寝そべっていた
シュナウザーのイオリは甲斐甲斐しくコオの身体を舐めてやっていた
兵藤が近付くとイオリは、ウゥゥ~と唸った
前足でコオを隠しイオリは唸る
兵藤は軽いデジャブを覚えた
兵藤は榊原に「♂同士だよな?」と聞いた
「ですから見れば解ると言ったでしょ?
その二匹……盛りに関係なく交尾します……」
「………おい…まぢかよ……」
「コオを盗られるんじゃないかと…イオリは威嚇します
康太が家族に牙を向いたら殺処分するかんな!と言い聞かせてるので、この応接室に来た人間には吠えません」
「………犬も……お前らみてぇに新婚かよ……」
兵藤が言うと榊原は嫌な顔をした
「………僕をそこのヒゲの駄犬と一緒にしないで下さい」
榊原は言い捨てた
シュナウザーのイオリはコオよりも立派な首輪を付けていた
この首輪はチャンピオン犬しか付けれない首輪だった
美緒ならチャンピオン犬は家に残しておきそうなのに……何故?
兵藤が考えていると玲香が説明した
シュナウザーの子供が先の大会でチャンピオンになった時
美緒は飛鳥井の家にシュナウザーを見せに来た
その時、シュナウザーはコオに一目惚れして、美緒が連れ帰ろうとしても踏ん張って帰りたくない……とストライキをおこし
無理矢理連れ帰ったら翌日から餌も食べなくなって痩せ細った
仕方なく飛鳥井に連れて来たら………
シュナウザーはコオを組み敷いて……腰を揺すっていた
で、シュナウザーの名前はイオリになって、飛鳥井が引き取る事になったのじゃ……
と、玲香は説明した
モサモサのヒゲのお人好しのシュナウザーが犬相悪く威嚇してる
足の間にコオを挟んで……威嚇していた
康太はイオリに「コオを盗らねぇから唸るな!」と怒った
イオリはくしゅん……とコオに擦り寄った
コオはイオリを舐めてやっていた
まるで……榊原と康太を見ている様だった
「イオリの母親がタカシ……なんだ
本当は他の犬のはずだったのにな…イオリが梃でも動かねぇの……居座ったんだよ…あの犬は…」
康太がボヤいた
居座った犬……何とも……酷い言い様だ
愛犬家の安曇がイオリに近付くと尻尾を振っていた
須賀も近寄ると撫でられ様と頭を出していた
戸浪も三木も一頻り犬で盛り上がり、触る
コオもイオリも嬉しそうだった
だが兵藤が近寄るとイオリはウゥゥゥ~と唸った
「俺に喧嘩を売るのは100年早ぇんだよ!」
兵藤はイオリの首根っこ掴んで解らせた
イオリがキュンッと言うまで、上下関係を教え込み
何とか言う事を聞かせた
康太は笑っていた
「……貴史って案外小さいかもな……」
康太のその発言に兵藤は
「どこがだよ!」
と食って掛かった
「人間性が小さいって言ったんだぜ」
「………俺は小さくねぇ!」
「誰もアソコとは言ってねぇぞ?」
「見てねぇのに小さいとか言うな!」
「そうか!なら今度見とくわ」
康太は笑った
「見るな!見せるかよ!」
兵藤は怒鳴った
康太は兵藤を抱き締めた
「美緒に電話してやれ
寂しがってるかんな」
康太が言うと玲香が「呼べば良いではないか」と言った
「一生、おめぇ貴史を連れて美緒呼びに行けよ」
「……歩きはキツいぜ」
「適当に乗ってけよ
オレのミニでも良いぜ」
「なら適当に乗って連れてくる」
一生は兵藤を連れて応接室を出て行った
暫くして兵藤が美緒を連れて戻って来た
玲香は喜び、美緒も喜んだ
美緒はイオリを眺め……
「本当に仲良しだのぉ…あの二匹は…」と溜息を着いた
「離れぬからのぉ……」
と玲香は困った顔を美緒に向けた
そして「さぁ、飲もうぞ!」とお酌した
美緒は兵藤を見ていた
この数ヶ月で見違える程に兵藤は成長を遂げた
顔付きで……解る
身の熟し総てが前と違っていた
堂嶋正義に預けられ鍛えあげられ、成長を遂げた
嬉しい反面……淋しい想いもあった
玲香は「良い男になって来たのぉ」と笑った
美緒は嬉しそうに笑って飲んでいた
年を越すまで飲んでいて、年明けと同時に初詣に繰り出す
玲香も美緒も、瑛太も清隆も……源右衛門も初詣に行くと言いだし、異例の大移動となった
コートを着てぞろぞろと初詣に出向く
家の近くに結構有名な神社があるから、そこに向かった
行列に並んでお詣りをして、おみくじを引いた
康太は中吉で榊原は大吉だった
木に結んで、御守りを買いに行った
冷えて飛鳥井の家に帰り、ぬくぬくの部屋へと向かう
コートを脱いでテレビを付けてダラダラ飲み明かす
瑛太は三木や須賀、戸浪と仲良く話をして飲んでいた
相賀と善之助は清四郎と真矢と飲んでいた
源右衛門もちびちびと楽しそうに飲んでいた
康太は榊原は膝に座って眠そうに寝ていた
時折……苦しそうに息をしていた
「……康太、痛いのですか?」
「………違う……」
康太はそう言い榊原の胸に顔を埋めた
朝まで飲み明かし……
昼過ぎには、皆は家に帰って行った
皆が帰ると榊原は康太を寝室に寝かせに行った
服を脱がせベッドに寝かせると康太は一生を呼んでくれ…と頼んだ
榊原に呼ばれ真実に顔を出すと康太は一生を頼み事をした
「一生……頼みがある…」
「あんだよ?」
「堂嶋幸哉、覚えてるか?」
「おう!ラインで毎日遣り取りしてるぞ」
「一生、耳を貸せ」
一生は康太に耳を近付けると、ヒソヒソ ゴニョゴニョ かくかくしかじか……と話をした
顔を上げた一生は「了解!」と言って寝室を出て行った
榊原は康太を抱き締めた
康太は榊原の耳に……一生に言った事を告げた
榊原は……苦悩に満ちた顔をした
「………定め……ですか?」
「………定めだとしたら……皮肉だな」
康太はそう呟いた
「伊織…」
「何ですか?」
「子供の頃、オレは瑛兄のベンツを破壊した
大人になったら弁償してやる……と約束した
瑛兄にベンツを弁償してやるつもりだ
だからな、その前に伊織のベンツを買ったんだ
瑛兄のベンツ……今のタイプの新型で良いよな?」
「……喜びますよ義兄さん」
「それには稼がねぇとな!
まだくたばってる暇じゃねぇかんな」
「僕達の子供も還って来ます
稼がないといけませんね!」
「オレ、頑張るな」
「君はそんなに頑張らなくて良いです
義兄さんも君が無理する事なんて望んでません」
「………伊織……」
康太の瞳がトロンッと眠たげに閉じてゆく
榊原は康太を撫でていた
ずっと、ずっと、康太を撫でていた
そして寝室を出て行った
榊原はコートを掴むと、飛鳥井の家を出て行った
バタンッと玄関の閉まる音で慎一は飛び出した
康太の寝室を覗き、榊原の不在を確かめると出て行ったのは榊原だと確信した
慎一は応接室に向かうと
「………伊織が家を出て行きました……」
と告げた
瑛太は「喧嘩したの?」と問い掛けた
一生は「さっき寝室に行ったけど、喧嘩なんてしてなかったぜ」と首を傾げた
清四郎は息子の携帯に電話を入れた
だが……榊原は出る事はなかった……
暫くして清四郎の携帯に榊原から電話があった
『父さん何かありましたか?』
「君こそ!誰に何も告げずに出て行ったら心配するでしょ!」
と怒った
『すみません……康太の寝息が苦しそうですから先生に大丈夫か聞きに出てしまいました』
「今…何処ですか?」
『飛鳥井に向かってます
久遠先生も一緒です』
「………そうですか……慎一に伝えておきます」
清四郎はそう言い電話を切った
「伊織は久遠先生をお連れする様です……」
慎一は立ち上がると応接室を出て行った
瑛太は「………無理したのでしょうか…」と呟いた
清四郎は言葉もなく……掌を硬く握り締めた
榊原しか解らない……些細な変化だった
康太は笑っていたから……
暫くすると榊原が久遠と共に帰って来た
瑛太は榊原に「………心配しました……」と告げた
「義兄さん、康太の息つかいが気になり……出てしまいました……」
すみませんでした…と榊原は謝った
久遠は慎一に連れられ寝室の康太を診に行った
寝室に行くと康太は寝ていた
苦しげな息遣いをして康太は寝ていた
久遠は康太の服の前をはだけて聴診器を当てた
「…………吐血が気管を堰き止めてる
だから息苦しそうにしか息が出来てねぇ…」
久遠は康太の脈を取った
「一旦病院に連れて行く
そこでしか処置は出来ねぇ
カテーテルで吐血を吸い取る
続くようなら入院は避けられねぇな……」
「……入院せねばならないのなら…お願いします」
「病院に連れて来い
誰か俺を一足早く病院に乗せて行け」
久遠がそう言うと瑛太が「乗せて行きます」と申し出て一緒に出て行った
榊原は康太に服を着せて支度をした
コートを着せてぬくぬくにして抱き上げた
榊原が寝室を出ると慎一が鍵をかけた
そしてドアを開け榊原の手助けをした
康太を抱き上げたままの榊原に変わって先に歩き手助けした
榊原の車のキーでドアを解錠するとドアを開けた
助手席に康太を座らせると慎一がドアを閉めた
そして後部座席に一生と共に乗り込んだ
一生は榊原に「何時から苦しげなんだよ?」と問い掛けた
「昨日の夕方にはもう息苦しそうでした
様子を見てたら……詰まった様になって来たので久遠先生に大丈夫なのか問い合せに出ました」
「………気付かなかった……」
「康太も気付いてません…」
榊原は苦笑して車を走らせた
主治医の病院に到着すると久遠が待ち構えていた
「オペ室に連れて来い」
久遠はそう言い早足で病院に入って行った
榊原は康太を抱き上げてオペ室に向かった
久遠は康太を診察台に寝かせすと、ライトを照らしカテーテルを挿入した
モニター画面を眺めながら気管に挿入する
カテーテルを入れて行くと血溜まりが現れ久遠はそれを吸い取った
康太の息を堰き止めていた血溜まりが取り除かれた
康太は点滴を打たれて酸素を着けられた
「様子を見てぇからな入院してもらう」
「はい。お願いします」
「個室は用意してある」
康太は眠ったまま病室へ運ばれた
榊原は康太に着いて病室へと向かった
目を醒ました時に……顔が見えないと康太が不安がるから……
榊原は慎一に鍵を渡して
「慎一、クローゼットの中に大きな鞄があります
康太が何時入院しても良いように準備しておきました……それを持って来てくれませんか?」
慎一は鍵を受け取り病室を出て行った
榊原は康太の手を握った
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