15 / 100

第15話 礎

真夜中に榊原と一生は屋上へと上がり龍に姿を変えて天高く上って時空を超えた 康太は部屋にいた 力を使わない約束だったから。 榊原と一生は時空を超えて魔界に下り立った まずは金龍の所へ顔を見せて黒龍を掴まえねば… 「赤龍、金龍の家へ行きます」 「一族の長に話を通さねぇとな…」 龍の姿のまま、懐かしい魔界の空を飛びながら話す 金龍の家の前で姿を変えて、家を尋ねる 金龍は歓迎して出迎えてくれた 「青龍、お前一人か?」 炎帝はいないのか?と金龍は尋ねた 「………人の世の炎帝は……死にかけてましたから… 魔界に来れるだけの体力はないんですよ……」 金龍は言葉をなくした 「いつの世も……炎帝は二十代で命を落としてます 今世も……その命……長くはない……」 言葉にする青龍の苦悩が伺えれた 共に……生きて来たのだ 短き人生を精一杯生きて来たのだ…… 「親父殿に話があって来たのです!」 青龍は背筋を正した 横の赤龍も姿勢を正し金龍に倣った 「話とは?聞こうか」 「黄龍と白龍を人間界に呼びたいのです」 「………黄龍夫妻を?何故?」 「親父殿は雅龍をご存知か?」 「知っておる。人の世に見聞を広げに行ったきり帰らぬ黄龍の倅だろ?」 「雅龍が魔界に還って来ます その布石を炎帝は打ってやりたくて僕を使いに出しました 黄龍と白龍を人の世にお連れして孫に逢わせたいのです 夏海と雅龍の子は人の世で使命があります 2人は我が子を残して黄泉へと旅立つ…… その前に……黄龍と白龍に孫を見届けて貰おうと思ってます」 「雅龍が魔界に還るのか…… 我が子と別れて? 何とも……悲しき定めだな…… 魔界から出るのは閻魔の許可が要る 我が許したとて出れる訳ではないぞ」 「閻魔の所には後で参ります 取り敢えず父さんに話を通して受け入れて貰える体制を黒龍と共に取って戴きたいのです!」 「解った。我等一族は雅龍の帰還を歓迎する 雅龍の伴侶の帰還を許す」 青龍は金龍に深々と頭を下げた 「親父殿、ありがとう御座います」 「青龍も赤龍も炎帝の名代で来ているのか… そんなに人の世の炎帝は……調子が悪いのか?」 青龍は悲しげに顔を歪めた 赤龍が青龍に変わって話をした 「炎帝の莫大な力をそのままに人として生きて、その力を使えば………身躯は限界を超える」 魔界大集会の時に逢った炎帝は、更にその身躯に力を秘めて…… 絶対の存在になった 人の体に……神の力 金龍の想像を遥かに超える話だった 「……僕は妻が心配です…… でも僕が来ねば……妻が来てしまいます さっさと片付けて僕は妻の元に還ります」 金龍は言葉もなかった 赤龍は「入院してたんだよ康太は……」と補足した 青龍は赤龍を急かして黄龍の所へと向かおうとする 「親父殿、青龍が妻の所へ還りたいと急かすので、このまま黄龍に話をして閻魔の所へ行き還ります」 金龍は苦笑して「またな!」と言った 青龍と赤龍は金龍の家を後にして黄龍の所へ向かった 「………兄さん……僕は黄龍の家は知りません」 金龍の家を出るなり言われて……驚いた 「黄龍の家もそうですが、僕は一族の家は知りません 興味もないので……覚えようとしませんでした」 寡黙で常に勤勉だった青龍は他との繋がりを持っていなかった 赤龍は「俺は知ってる!安心しろ」と青龍の肩を叩いた 龍に姿を変えて黄龍の家へ向かう 金龍の家から少し離れた区域が黄龍の家族の区域だった 龍は家族で群れをなし、近くに家を建てていた それを区域ごとに分けたのが金龍だった 無駄な諍いをなくす為に一族の長である金龍がルールと秩序を建てて管理していた 黄龍の家の前に来ると姿を変えた 赤龍が黄龍の家の玄関をノックした 家の中から白龍が顔を出した 「……まぁ、赤龍じゃないの!久し振りね」 白龍は赤龍を抱き締めた そして青龍の存在に気付き……固まった 「………青龍様……」 四神に名を連ねる青龍は格別な存在だった 法皇青龍になるべき存在…… 一族の誇りと言うべき存在だった 赤龍が「我が弟が話があると言うから連れて来た」と説明した 白龍は2人を家に迎え入れた 部屋に通されると黄龍がソファーに座っていた そして青龍の姿に……慌てた 黄龍は畏まって青龍に問い掛けた 「………青龍殿……魔界にお還りになったのですか?」 「還ってはおりませんが、妻から頼まれたので魔界に下り立ちました」 青龍は魔界大集会の時に『我が妻は未来永劫、炎帝 唯1人!』と宣誓した 妻と言うと………炎帝……が? 黄龍は何だろう……と落ち着かなかった 青龍は黄龍に一礼すると用件を伝えた 「お主の倅の雅龍の妻が子を産む それを見届けに人の世に下り立ち見届けて欲しいと、我が妻は言ってます 雅龍と妻は子をこの世に送り出して、根回しを総て整えた翌年、黄泉に渡り魔界へと来る その布石だ! 我が父、金龍は雅龍と妻が魔界に還るのを許した 一族は2人を受け入れて歓迎する その布石の為に人の世に来て孫を見届けてくれ と妻が言っておりました 雅龍と妻は……子と永遠の別れをして……魔界に還る 子と離れたい親などいない…… お二人にはその腕に抱ける最後のチャンスです 人の世に置いて来る子を……どうかその手で抱き締めてやって下さい 我が妻、炎帝の……雅龍と夏海に贈る愛です」 黄龍と白龍は泣いていた 我が子と別れたい親などいない 人の世に下り立った我が子を一日たりとも忘れてはいない 雅龍は我が子と別れて……妻と魔界に還ると言うのか? だとしたら……何とも辛い…… 黄龍は青龍に 「人の世に……我が息子の傍に……出向き 嬰児をこの手に抱き締めさせて戴きます 青龍殿、どうぞ……宜しくお願いします」 と頭を下げた 「青龍殿……奥様は?」 金龍からベタベタの甘々だった……惚れまくりの青龍の話を聞かされた 青龍が赤龍と……いるのが不思議だった 魔界にいる間に何度も炎帝を抱き締めて離さない青龍を見た 金龍の言うのが嘘だとは想わなかったが……あの青龍だから……信じられなかった だが今は……青龍の傍には炎帝はいなかった 「我が妻は死にかけました……ですから家でお留守番です」 青龍はそう言い優しく笑った 「………大丈夫なのですか?」 「まだ魔界には還りません 人の世でやる事があります」 黄龍はそれ以上は聞くのは辞めた 「人の世の1月15日、黒龍が迎えに来ます その足で人の世に下り立って下さい」 黄龍と白龍は承諾した 青龍は黄龍の家を後にした その足で閻魔の邸宅に向かう 閻魔の邸宅を尋ねると弥勒が待ち構えていた 「……弥勒?」 青龍が呼ぶと弥勒はニカッと笑った その身躯は傷だらけだった どれだけ熾烈な闘いをして来たのか…… 弥勒は苦笑して「龍の爪は癒しは効かないからな……治りも遅い…」と青龍に告げた 「黒龍に癒して貰えば良いです」 ヒーリングが得意な黒龍の名をあげると、弥勒はもう癒やして貰った……とバツの悪い顔をした 良く見れば黒龍がソファーに座っていた 「兄さん」 青龍が言うと黒龍はニカッと笑った 「炎帝に頼まれてたからな! 黄龍とは話は着いたのかよ?」 「ええ。人の世に来て下さる事になりました 後は閻魔が許可を出して下されば夏海の出産の日に人の世に来て戴けます」 青龍が言うと閻魔は 「許可なら既に出してます 我が弟の頼みなら、兄は何を差し置いても聞くと決めているのです!」 と職権乱用を仄めかし笑った 「では総ては万端と言う事ですね? 僕は妻が気掛かりで……還りたいのです」 青龍が言うと閻魔は苦しげに眉を顰め… 「血を吐かれた……とか…」 「ええ。今の炎帝は完全体になられました 人の体に神の力……バランスが取れていないのです 魔界にいた頃より炎帝は力を増しています ほぼ、完全体になられた今……人の体が悲鳴をあげています」 「この前お逢いした時に気付きました 力を増して……ほぼ冥府におられた頃と変わりない 絶対の存在になられた……人の体では……あの力は耐えられぬ……」 「………それでも僕は諦めてはいません 僕は炎帝と一分一秒でも長く共にいたいのです 冥府に還って無になる瞬間まで共にいたいのです 無になり総て溶け込み一つになり消える……」 それしか望んでない……と青龍は言った 弥勒は「んな、簡単に逝かせるかよ!」と怒鳴った 「人の世も……神に戻ってからも! んな簡単に逝かせるかよ!」 「………弥勒……炎帝の力は神の身躯でも……長らくは生きられませんよ?」 弥勒は青龍を睨み付けた その瞳が総てを物語っていた 「知っておいででしたか? 弥勒、僕は妻の所へ還りたいのです!」 そんな話より康太の傍に還る…… そう言われたも同然だった 「我も人の世に還ります! 青龍殿、我を乗せて還ってはくれませんか?」 「ええ。一緒に還りましょう では閻魔、お願いします」 「我が弟、炎帝に身躯を大切にする様に伝えて下さい」 閻魔は心より弟を想い言葉にした 「伝えておきます! 兄さん、宜しくお願いします」 青龍は黒龍を見てそう言った 「解ってる!炎帝に無理すんなと伝えといてくれ!」 「解りました。」 青龍はそう言うと弥勒に向き直った 「行きますか?」 弥勒は笑って、おう!と腰を上げた 閻魔の邸宅の外に出て青龍と赤龍は龍に姿を変えた 閻魔と黒龍が見送る中、弥勒は差し出された青龍の頭に乗った 「では、失礼します」 青龍と赤龍は天へと駆け上がり時空の彼方へ消えて行った 閻魔と黒龍はそれを見送った 「本当に慌ただしい奴……」 黒龍がボヤくと閻魔は 「炎帝の命は風前の灯火……離れたくないのですよ」 と慰めた 「……今世も青龍は……」 短き命を散らす炎帝と共に……逝くのか…… 「魔界に来る日は遅くて構わぬのにな…」 魔界になど早く来なくて良い…… 少しでも長く生き長らえさせたい兄の願いだった 「完全体に……人の世でならなくても良いのに……」 黒龍は呟いた…… 天を見上げ……涙して…… 「………弟の幸せを奪うなら…… 神をぶん殴ってやる…」 閻魔は黒龍を抱き締めた 「殴りに逝く時は……共に……」 兄……2人の願い……だった どうか……あの2人を何時までも幸せに…… 願って止まなかった 閻魔と黒龍は何時までも天を仰いでいた 青龍と赤龍は時空を超えて人の世に還って来た 飛鳥井のマンションの屋上に下り立ち姿を変えた 弥勒はやけに軽装で……寒そうだった 榊原は弥勒を連れて非常階段を下がった そして飛鳥井の家に辿り着くと、一生が玄関を開けた 家に入ると慎一が出迎えてくれた 「慎一、熱い飲み物をお願いします」 慎一に飲み物を頼み榊原は弥勒をリビングへと連れて行った リビングのソファには康太が座っていた 「伊織、お還り! 弥勒も一生もお還り ニカッと笑って出迎えられ……弥勒は康太に飛び付いた 「起きてて大丈夫なのか?」 痩せ細った身躯を抱き締め……弥勒は訴えた 「大丈夫だ、心配するな弥勒」 「お前を心配せずに生きていられない」 弥勒はそう言いポケットから小瓶を取り出した 「これを一滴ずつ垂らして飲め 1週間飲ませ続けてくれ!伴侶殿」 弥勒は康太を離すと榊原に小瓶を渡した 榊原は小瓶を受け取り「毎日一滴ずつ必ず飲ませます」と約束した 「弥勒、何か食って帰るか?」 「良いのか?」 「ろくなもん食ってないんだろ?」 「……八仙は霞を食ってるらしいからな…… 食い物には有り付けなかったな……」 「八仙だって食うぜ! オレは何時も馳走して貰うぜ!」 「………あのクソ老人……」 「虹龍に逢った?」 「虹龍殿にお逢いした 彼は炎帝が魔界に還ったら山を下りると決めておる 姿は……地龍と言うよりは青龍殿……に酷似しておる」 「………やっぱしお前もそれを言うのか… オレの青龍の方が格好良いかんな!」 「………並べば……兄弟に見える……」 「オレの青龍に並ぶ日は来ねぇよ」 弥勒には意味が解らなかった 「青龍は魔界に還ると法皇を引き継ぐ 歴代の青龍の中で法皇を引き継ぐのはオレの青龍だけだ 法皇青龍の傍に並ぶのは……虹龍では役不足」 弥勒はあぁそう言うと事かと納得した 「…………何気に惚気てる?」 弥勒が聞くと康太はニカッと笑って 「解った?」と言った 「お主の惚れ抜いた御亭主だからな惚気は大目に見てやろう」 「惚れてるかんな共に沫となり消えるんだ」 「させねぇけどな! んなに簡単に逝かせるかよ!」 「‥‥‥弥勒‥‥ありがとな」 弥勒は康太を見た 急に改まって言われるとドキッとする…… 「何を改まって言うんだ?」 「改まってじゃねぇぜ! 何時も想ってた オレを生かそうと必死になってくれる 本当にありがとう」 「これは我の我が儘だ…… 逝かせなくない……それだけだ」 慎一が「食事の準備が整いました」と呼びに来た 一生が弥勒と共に食べに向かった 榊原は康太を抱き締めた 「辛くないですか?」 「大丈夫だ 伊織は?魔界から還って来て怠くねぇのかよ?」 「怠いです……寝てしまいそうです」 「なら寝るか」 康太はそう言った 「弥勒が帰るまで待ちましょう」 榊原に言われて康太は頷いた 食事を終えた弥勒は康太を抱き締め、慎一に送られて還って行った 榊原は康太と共にベッドに入った そして深い眠りに落ちた…… 康太の温もりが榊原を包む 離したくない…… 離れたくない…… 榊原は康太を強く抱き締めた

ともだちにシェアしよう!