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第16話 運命

康太の体調が落ち着く頃 夏海の出産になった この日魔界から黒龍に連れられ黄龍と白龍が人の世にやって来た 黒龍は飛鳥井の菩提寺に2人を下ろした 慎一が迎えに行き連れて来た 飛鳥井の家族は会社に出勤していた 榊原は黄龍達を見送って会社に出勤の予定だった 飛鳥井の応接室に黄龍と白龍がやって来た 黄龍と白龍は炎帝に深々と頭を下げた 「この度は青龍殿と炎帝殿にお世話になりました」 黄龍と白龍は、こんなに間近に炎帝を見るのは初めてだった その身躯に莫大な力を秘めて炎帝は座っていた 「黄龍、白龍、遠い所を悪かったな どうしても雅龍に逢わせてやりたかった 雅龍の子供を見届けて貰いたかった」 炎帝の愛だった 無償の愛を……炎帝は注いでいた 黄龍も白龍も言葉がなかった 青龍も炎帝の横で幸せそうに座っていた こんな穏やかな顔の青龍を見ようとは想いもしなかった 慎一が黄龍と白龍を飛鳥井の主治医の病院まで送って行った 黒龍は康太の横に座った 榊原は康太を抱き締め、口吻て会社に出勤して行った 何かあったら電話して下さい 何もなくても電話して下さい 愛してます 君だけを愛してます! そう言い会社に出勤するのを黒龍は苦笑して見送った 「………金龍かと想った……」 黒龍がボヤくと一生が 「そうだろ?デジャヴするだろ?」 と兄に話した 「毎日かよ?」 「毎日だな……」 「あんなのを毎日続けてるのかよ?」 黒龍はウンザリした 「そう言うな……」 一生は兄の肩を叩いた 聡一郎は黒龍を見て笑っていた 「炎帝、転輪聖王から秘伝の小瓶は貰ったのかよ?」 「あれ、中身何よ?」 「俺も知らねぇんだわ 八仙と転輪聖王が秘伝の魔法を使った…と魔界じゃ噂になってるけどな…」 「火龍の鱗を1枚とか言ってたな…」 「………知らねぇ方が身のためかもな」 黒龍はそう言い笑った 「早く……元気になりてぇな……」 康太は呟いた 「なるさ……皆がおめぇを死なせたくねぇんだ」 「……青龍が……抱いてくれなくなった… オレ……飽きられたのかな? こんなに痩せたから……抱く気がなくなったのかな? 欲望を我慢してるとかじゃねぇんだ… 勃起しねぇんだ……オレの身躯に魅力がねぇのかな?」 返答に困るつうの! 黒龍は弟を想う…… 「おめぇを大切に想えばこそだ! あんなに愛してる言われて……疑ってやるな」 「……うん……オレは愛されてるけど……」 やはり身も心も繋がりたいのだ 「赤龍、俺を弟の所へ連れて行け 挨拶もしてねぇのに、会社に出勤しやかったからな! 親父の伝言も伝えてねぇ! 黄龍達が還って来たら、俺も魔界に還る」 一生は聡一郎に康太を頼むと、黒龍と一緒に応接室を出て行った 康太は寝室へと戻った 黒龍は弟に「……青龍はどうしたんだ?」と問い掛けた 「……血を吐き……死にかけたからな… 無理させたくないとセーブしてるのかもな…」 黒龍は青龍の想いが痛かった 一生は副社長室をノックした するも榊原がドアを開けた 「一生、黒龍、どうしました?」 2人を副社長室に招き入れ榊原は問い掛けた 「親父殿からの伝言だ 龍の涙を今集めてるから、も少し集まったら渡せるから待っててくれ!って」 「……龍の涙?」 「知らねぇのかよ? 龍の涙は病を治す効果がある それを親父殿はお前に渡したいんだ そしたら人の世の炎帝が……も少し長生き出来るだろ?」 「………兄さん…」 「おめぇ、何で炎帝を抱いてやらねぇんだよ? 炎帝は飽きたのかな?って悲しそうだった! 抱いてやれよ!飽きたなんて言わねぇよな? そんな事言ったら親父殿に殺されるぞ」 「………飽きたりなんてしません! そんな事言いません!勿体ない!」 「ならなんで、抱いてやらねぇんだよ!」 「………無理させたくないんです……」 「………勃起もしねぇって炎帝は悲しんでた まさか……インポになった訳じゃねぇよな?」 榊原の額にピキッと怒りマークが浮かび上がった 「……ちゃんと勃起します! 何で兄さんにそんな事を報告せねばならないんですか?」 「勃起するのに……抱かねぇなんて…男じゃねぇ…」 「兄さん!」 榊原は怒った 「とにかく!抱いてやってくれ! 頼むから炎帝を抱いてやってくれ!」 とにかく抱いてやってくれ!と頼まれて…… 返答に困る…… 「……兄さん……」 「炎帝を不安がらせるな お前をずっと想って泣いていた炎帝なんだ もう……泣かせないでやってくれ……」 炎帝を支えた黒龍なればの言葉だった 「兄さん、炎帝を幸せにするのはこの世で僕だけです 魔界に帰っても僕だけのモノです! 誰にも触らせません! 僕から炎帝を奪うなら容赦はしません!」 榊原はそう宣言した 「なら抱いてやれよ……」 黒龍はボヤいた 「すみません……心配が募りました… 年が明けてから……してませんでした」 榊原が言うと一生が 「そんなにかよ!」と叫んだ 1月15日…… 年明けてから15日も……何もなかったのかよ… 嘘みたいな話だった 「一生、今日は君が仕事して下さい 僕は康太を抱いて来ます!」 「……俺が……あんでだよ?」 「力哉にそう言っておきます! 頼みますね 兄さん、暫くのお別れです!」 黒龍は笑って 「またな、我が弟 青龍」 と片手を上げた 榊原は力哉を呼び出し 「今日は一生が僕の代理です 扱き使って仕事をさせて下さいね!」 と言い、黒龍と共に飛鳥井の家に帰った 飛鳥井の家の応接室を覗くと聡一郎がいた 「聡一郎、我が兄を頼めますか?」 と声をかけた 「ええ。解りました!」 「では、お願いします」 榊原は聡一郎に、兄を託して寝室へと向かった 榊原はリビングを見たが……康太はいなかった 寝室を覗くと…… 康太はベッドの上で……妖しく艶めいていた 「……あぁん……んっ……」 康太は自分の乳首を摘まみ……下半身を扱いていた 榊原は「一人だけ気持ちよさそうですね」と声を掛けた 康太は驚いて飛び上がった ブラウス一枚羽織っただけの肢体は露わになっていた 「伊織……何で……」 康太は真っ赤な顔をして榊原を見た 榊原はベッドに腰を掛けると、康太の艶めいた乳首を摘まんだ 「こんな時間に……オナニーですか?」 「………ごめん……伊織……」 「そう言えば半月触ってませんからね…… 時々、触っていたのですか?」 康太は頷いた 「……出しとかないと……伊織と寝るだけで…勃つちゃうから……」 康太は勃起しちゃいけないと想っていたのか? 「何で……欲しいなら言ってくれれば……」 康太は首をふった 「伊織が欲しがらねぇのに……感じたくなかった」 康太の赤く尖った乳首が美味しそうだった ブラウス1枚だけ羽織って……下肢は何もつけず…… ベッドに座っている康太に欲情した 必死で我慢して来たと言うのに…… こんな康太の痴態を見せられたら……我慢出来なくなる 榊原は寝室の鍵を掛けると、スーツを脱ぎ捨てた スーツを脱ぎ捨てた榊原を、康太は唖然として見ていた 榊原は康太を抱き締めた すると康太は身を強張らせた 「厭?触られたくないですか?」 「……違う……何で抱いてくれるのか……解らないから…」 「君を愛してるから……ですよ? 解りませんか?」 「………飽きちゃった?オレの身躯?」 「飽きてません! 僕は君しか要りません!」 「だって……」 康太は泣き出した 半月……触られなかった身躯が…… 榊原に触れられたら止まれない 「……無理させたくなかったんです…」 「……オレは触って欲しかった…… 触ってくれないから飽きたのかと想って……」 一人でしていた…… と康太は泣いた 康太を悲しませてまで……我慢すべきではなかった… と、榊原は後悔した 「愛してます……だから……許して下さい… 君を壊したくなかった……抱けば止まりませんからね… インポではありませんよ?」 榊原は康太を抱き締め、熱く滾る股間を康太に押し付けた その硬い性器はドクッン…ドクッンと脈打ち康太の股間を刺激した 榊原は康太に執拗な接吻を送り、乳首を摘まんだ 「こんなに我慢してるのに……君は一人でしてたんですね……」 「………ごめん伊織……」 「気絶しても止まりませんよ」 「ん。お前ので一杯にして……」 榊原は康太のお尻の穴に指を挿し込み 「ここ……指を挿れたのですか?」 「挿れてねぇ……」 「ここは僕だけの場所ですか?」 康太は頷いた 「伊織だけ……青龍だけの場所……」 榊原は康太の乳首を甘噛みして股間を弄った そこは既に濡れていた 「……濡れてますよ?」 「……伊織が触るから……」 「違うでしょ? 僕が触る前から濡れてんでしょ?」 「……伊織……イジメないでぇ……」 康太は泣いた 「僕が欲しい時は言って下さい」 「オレは何時も……伊織が欲しい……」 榊原は康太の股を開き脚を押し曲げるとお尻の穴に口吻た 舌で舐めて指を挿し込むと腸壁が蠢いた 戦慄く穴を舐めて解した 康太の脚がシーツを引っ掻いた もの欲しそうな腰が動いて催促していた 「伊織……欲しい……」 「もう少し解さないと切れちゃいますよ?」 「……あぁっ……我慢出来ねぇ……伊織……ねがっ……」 康太が榊原に哀願すると榊原は枕元からローションを取り出した 榊原は康太のお尻の穴にローションを垂らした そして自分の性器にもローションを垂らして康太の脚を抱えた 「息を抜いて……でないと切れますよ……」 康太は深呼吸した 深呼吸して身躯の力を抜いた…… 榊原は康太の穴に肉棒を埋め込んだ 亀頭の部分が埋まると……康太は身躯の力を抜いて榊原を受け入れた 久し振りの榊原の体積に……康太は圧迫感に押し潰されそうになった 榊原は時間を掛けると康太への負担が大きいと一気に貫いた 痛みと……圧迫感が康太を襲う…… 康太の瞳が涙を流すと…… 榊原はその涙に口吻を落とした 「……全部君の中に入りました……痛いですか?」 「………伊織……久し振りだから……キツい……」 「痛い?……一旦抜きますか?」 榊原は抜こうとした それを康太は止めた 「………抜くな……抜かないで……」 「………康太……君を苦しめたくないんだよ?」 「……お前の大きさを思い出すから……抜くな…」 康太の腸壁が蠢き榊原に纏わり付く 「………康太……愛してます」 「……動いて……もう大丈夫だから……」 康太が言うと榊原は抽挿を早めた 康太の中を掻き回して引っ掻いてゆく 「……あぁっ……伊織……気持ちいい……」 「僕も気持ちいいです……君の中…僕を離しません」 「離したくねぇもんよー 伊織はオレのもんだかんな……はぁん……イクッ…」 「僕も……イキます……ぁっ……康太……一緒に…」 榊原は康太の中に総て注ぎ込んだ 康太はそれを受け止め……あまりの熱さに身震いした 「………熱い……伊織の……あぁん……また……硬い…」 「止まりません……康太……」 榊原は再び快感に翻弄され康太の中を掻き回した 狂った様に求め合い 互いを抱き合った もう何度、イッたか解らない程求め合い 康太は意識を飛ばした 榊原は康太の中から抜くと、抱き締めたままゴロンと寝転がって康太を胸の上に乗せた ギュッと強く抱き締めた 榊原は康太を抱き締めたまま……眠りに落ちた 心地いい眠りだった 目が醒めた時、部屋は夕焼けで染まっていた 康太は榊原に「………掻き出さなかったろ?」と恨みがましい瞳を向けた 掻き出すのも忘れて………眠りに落ちた 「……ゴメンね……お腹痛いんですか?」 「………痛い……」 康太はトイレに駆け込んだ 榊原は苦笑してシーツを剥がした シーツを洗濯機に放り込み、榊原はバスタブのお湯をためた トイレからゲッソリとした顔をして出て来る康太を浴室に連れ込み、身躯を洗った 中も外も綺麗に洗って自分の身躯も洗うと 二人でお湯に浸かった 「お腹痛いの治りましたか?」 「………何かゴロゴロ……おかしい…」 精液を残しておけば下痢すると解っていたが…… 久し振りの情交に……榊原の意識も飛んだ 「ゴメンね……切れてないですか?」 「………洗った時に染みたからな切れてるかも……」 「……エラが出すぎでしたね…… 後で薬を塗ってあげます…」 「でも伊織に抱いて貰えて嬉しい」 康太はそう言い嬉しそうに笑った 「康太、会社に顔を出して来ます」 「おう!オレは応接室にいるかんな」 「なるべく早く帰って来ますからね!」 榊原はそう言い康太に口吻た 浴室から出て康太を拭いて髪を乾かし支度をする 榊原も髪を乾かし会社へ行く支度をする 康太を抱き上げて応接室に連れて行くと、聡一郎に頼み、榊原は会社に向かった 聡一郎は怠そうだけど幸せそうに笑ってる康太を見て、嬉しかった やはり康太が幸せそうにしてると嬉しい 康太が榊原とエッチしている間に、黒龍は黄龍と白龍を連れて還ったと報告された 康太が応接室で寛いでると来客があった 慎一はカメラを作動すると雅龍だった 慎一は康太に「雅龍です」と訪問を告げた 「慎一連れて来てくれ」 康太が言うと慎一はマンションの下まで迎えに行った 暫くして慎一が雅龍を連れてやって来た 雅龍は康太に頭を下げた 「あんだよ?雅龍?」 康太は笑って雅龍に問い掛けた 「親を呼んで下さって本当にありがとう御座いました 想ってもいなかったので……驚きました そして親不孝してたなって……痛感させられました」 「魔界に還ったら親孝行してやれよ」 「………本当に……返しきれない恩があります…」 「返さなくて良い 夏海を幸せにしてやってくれれば、それで良い」 「………本当なら魔界に還れず……夏海と二人……消えるつもりでした…… 我は還れても……夏海は……連れて行けれない 夏海と二人……跡形もなく消え去る覚悟でした」 「雅龍、幸せになれ 夏海を幸せにしてやれ」 「………炎帝……」 雅龍は泣いた 人の世に炎帝が墜ちていなければ…… 有り得ない奇跡だった 龍族が……人間と結ばれて魔界に住めるなんて…… 前例がない もし魔界に逝けたとしても…… 魔界の外れにひっそりと生息する以外に術はなかった それが魔界に還って良いと言われた そして……夏海も一緒に受け入れて貰えるなんて…… 夢のような話だった 雅龍は涙を拭いて炎帝を見た お婆様が言うには炎帝は入院していた……と言ってた 体調が悪いのに……本当に炎帝には感謝しても足らない 「炎帝……容態は……大丈夫なのですか?」 「大丈夫だ!まだ死ぬ訳にはいかねぇかんな! オレには5人の子供がいるんだよ その子達が軌道に乗るまでは……逝けねぇな」 「………炎帝……」 「血を吐き倒れようともな…… オレは何時の世も20代でその命を……終わらせた 青龍は死に逝くオレを何度も見送った 雅龍……辛くなったら……青龍に逢いに来い 青龍ならお前の辛さは解ってくれる」 雅龍は炎帝に深々と頭を下げた 「一緒にいられるなら……乗り越えられねぇ壁はねぇ……と青龍は言ってた 離れなくて良いなら……共に乗り越えられる 共に在れ雅龍!夏海と共に……」 雅龍は炎帝に縋り付いて泣いた 炎帝は雅龍の頭を撫でた 「パパになったんだろ? 子供の前では笑ってろ! 子供の細胞に……笑った顔を刻め そしたら子供も笑って過ごせる」 「……はい……」 一頻り泣いて……雅龍は立ち上がった 「慎一が送ってゆく」 「……悪いです……」 「遠慮するな!慎一、頼むな」 慎一は雅龍の横に立つと 「では行きましょうか?」と声を掛けた 雅龍は慎一と共に飛鳥井の家を後にした 雅龍と入れ違いに榊原が会社から帰って来た 「奥さん……辛くは有りませんか?」 と心配しまくりで、何時もの榊原だった 「愛してる伊織…」 「僕も愛してます奥さん!」 チュッと口吻けて榊原は康太を抱き上げた 康太はゲッソリしてソファーに座った一生に声を掛けた 「どうしたんだよ?一生」 「………旦那の代わりに仕事をやらされた…… 力哉が容赦のねぇ鬼と化して……仕事をやらせるんだ もぉ……立ち直れねぇかも俺……」 康太は笑って榊原と共に応接室を後にした 榊原が着替える為に康太を抱き上げ寝室に向かう 榊原はスーツを脱ぎ捨てて、私服に着替えた 着替えが終わった榊原と共にキッチンに向かうと慎一がカウンターに立っていた 帰って来た京香が料理を作っていた ……慎一がほぼ作ったのだけど…… 康太は最近になってやっと、普通食を食べれる様になっていた 弥勒がくれた薬は毎日飲んでいたが、最近終わった その頃からか身躯が楽になっていた 紫雲が冥府に渡って師匠から貰い受けた、何だか変な……果物も食べた そのお陰か……少しずつ楽になりつつあった が、まだ沢庵は食べれなかった 康太がご飯を食べていると悠太が姿を現した やっとニューヨークから帰って来れたのだ だが、冬休みは終わって……新学期は始まっていた 悠太は生徒会もやってて忙しそうだった 康太は食事を終えると慎一に薬湯を入れて貰い飲んだ その薬湯は弥勒厳正が調合した薬湯で、飲めと持って来られたモノだった 慎一は康太と源右衛門に薬湯を、煎れていた 薬湯を飲むと……榊原にキスをせがんだ 榊原は康太に甘いキスを贈った それが最近の飛鳥井の夕飯の風景になっていた 康太は榊原に抱き着いていたが………身躯を強張らせ…… 目付きが変わった 「慎一、貴史に電話してくれ!」 と叫んだ 慎一は兵藤に電話を掛けると康太に変わった 「貴史、動いた!」 『直ぐに手筈を整えて、そっちに行く!』 「リビングで待ってる!」 康太はそう言い立ち上がった 一生が康太の変調に 「動きがあったのかよ?」と問い掛けた 「あぁ、動きがあった 今弥勒が教えてくれた 伊織、正義を此処に来るように言ってくれ!」 榊原は堂嶋に電話を入れた 「榊原伊織です」 『………何かご用ですか?』 堂嶋は問い掛けた 「今直ぐ飛鳥井へ来て戴けませんか?」 『……今は無理だ…』 「直ぐに来ねば取り返しの付かない事態になると言っても……同じ台詞が言えますか?」 堂嶋は息を飲んだ 『………直ぐに伺います』 そう言い電話を切った 康太はノートPCを出すと、物凄い集中力でキーボードを叩き出した 兵藤もやって来て、持参したPCを繋いだ 「貴史、オレの行く後を着けて来い!」 「了解!」 兵藤は康太の後を追跡してゆく 物凄い集中力で兵藤はPCのキーボードを叩いていた 堂嶋正義が飛鳥井のリビングに通された時…… そんな2人が視界に飛び込んで来た 康太と兵藤は一心不乱にキーボードを叩いていた 物凄い速さでキーボードを叩く姿を…… 堂嶋は唖然として見ていた 康太が追跡して、兵藤が解析して地図におこしてゆく 2人の息はピッタリ合っていた 堂嶋はこんな2人は知らなかった 康太は堂嶋を見て嗤った 「オレの得意分野はハッカー! まぁアニノマスの様な無差別ハッカーじゃねぇから安心してくれ! まぁ、内緒だがな! 政府の仕事も時々するんだぜ! この前のハッカー捕まえる依頼受けたかんな 四宮聡一郎は撹乱が得意分野だ 緑川一生は戦略が得意分野だ 命に伝授しろと言ってあるかんな、も少し使える駒になる筈だ」 康太の瞳は画面から離れない 手はキーボードを弾き……話していた 「貴史!捉まえた!」 「了解!」 「配置させてくれ」 康太が言うと兵藤は携帯を取り出した 携帯で電話しながら片手でキーボードを弾いていた 「叔父貴、飛鳥井の家真贋が秘密裏で動いてくれと要請があった!誘拐だ!」 叔父と言う人間と話しながら、的確に指示だしていた 康太は立ち上がるとPCを聡一郎に渡した そして手にはタブレットを持っていた 「行くぜ!」 康太の髪は風もないのに靡いていた 「………康太……力は使わないで下さい…」 「伊織、心配するな! 勝機を呼び寄せたんだ! でねぇと負け戦になるかんな! 心配しなくても今のオレなら大丈夫だ」 そう言われれば榊原には、何も言えなかった 「正義、幸哉が帰らねぇだろ?」 単刀直入に聞かれて堂嶋は言葉を失った 「………なんで……」 教えてないのに……何故…… 堂嶋は驚愕の瞳を康太に向けた 「オレを誰だと想ってるんだよ 飛鳥井の家真贋だぜ! オレの知らねぇ事はねぇんだよ! オレは言ったよな?横浜に来るなって!」 「………横浜に来なくてもアイツは幸哉を消すだろ? アキレス腱だからな… 俺は幸哉を隠して脅えさせて暮らさせたくなかった…… だけど帰って来ないから…」 死にたくなる程心配していた そしてら電話があった 本当なら幸哉を待っていたかった だが……このタイミングで来いと言われるのなら… 幸哉の事だと思い堂嶋は車を走らせて来た 「慎一、バスを手配してくれ!」 慎一は部屋を出てレンタカーを借りに行った 暫くして慎一から榊原の携帯に電話があった 「降りて来て下さい」 榊原は康太にコートを着せて暖かく包んだ エレベーターに乗り下に下りて行く 兵藤は康太に「大人しくしてろよ」と心配していた 「堂嶋正直が主のケツを拭きに来たいと言ってたかんな、呼び寄せてやったんだ! 今、正義の横に立ってる 後で今生の別れを言わせてやるかんな!待ってろ! 死しても正直は幸哉を護っていた その幸哉を……消すならな正直も黙ってはいられねぇと言う訳だ タカを取るのはオレじゃねぇ、正直だ!」 堂嶋は康太に驚愕の瞳を向けた 「誰よりも息子の行く末を案じていたのは正直だ! 息子の行く末を見届けれずに逝かねばならねぇ親父の無念を……解ってやれ」 「……親父……」 恨んだ事もあった 身勝手に死にやがって…… と親父を憎んだ 親父の姿は何時も背中ばかり…… ちゃんと正面を見て話したのは……何時までだった? 親父を避けていたら……突然……死んだ…… エレベーターを下りると慎一が運転するバスに乗り込んだ 康太はタブレットをナビに差し込んだ 「慎一、このタブレットが案内するかんな 目的地まで連れ行ってくれ」 榊原は康太を抱き締めた 「伊織、弥勒のくれた薬な あれで大分身躯は楽になってるんだ 中身が怖いけどな……良く効いたな 中身聞いたら……飲めなかったけどな」 「無理しないで下さい 君を亡くせば僕は生きてません…」 榊原は康太を抱き締めた 「伊織、無理なんてしねぇ! でもそろそろ動かねぇと、ダメだかんな 手始めに腕慣らしだ!」 目的地に到着すると警察が周囲を固めていた 車を停めると兵藤が車から下りた 指揮官が兵藤を見ると頭を下げた 「総ては真贋の言われていた通り配置致しました」 兵藤はありがとう、と礼を述べた 「康太、お膳立ては出来たぜ」 「幸哉を拉致ってるのは蜥蜴の尻尾だ 価値もねぇけどな拉致った以上は罪を償わねぇとな!」 その瞳で見られたなら……身も凍る恐怖に陥れられるだろう……と言う程に 冷酷な瞳は総てを見透かし丸裸にするまで容赦なく追い詰める 「突入させてくれ!」 康太がそう言うと周りの捜査官は突入態勢に入った そして強硬に突入した 突然、突入された犯人は……パニックになり幸哉にナイフを突き付けた 康太は悠然と犯人の前に出ると……ニコッと笑った 「幸哉、こんな場所で出逢うなんて奇遇だな」 幸哉はナイフを突き付けられ……青褪めていた…… 「………康太君……来ちゃだめ!」 幸哉は叫んだ 幸哉は裸にされて……身躯を切り刻まれていた 昔…康太が助けに入った時の様に…… 「幸哉、犯られたのかよ?」 「……犯られたら僕は舌を噛み切る……」 「幸哉、動くな!」 康太は叫ぶと犯人を蹴り飛ばした 倒れた犯人の頭を踏み付けた あの日と同じ様に…… 「動くな!動けば首が逆方向に向くぜ」 康太はそう言い……嗤った 「あの時、殺しておけば良かったな また性懲りもなく幸哉を拉致ったのかよ?」 犯人は押さえ付けられながらも康太を見た すると……記憶の片隅にあった……憎きクソガキだった 康太は犯人の頭から足をどけると 「お前はどの道逃げられねぇぜ!」 と挑発した 犯人は立ち上がり幸哉を掴もうとした…… が、康太が庇って幸哉には近付けなかった 犯人は一目散に立ち去ろうと外に出た すると廻りを取り囲んでいた捜査官に発砲されて倒れた 捜査官は康太の傍に来て深々と頭を下げた 「人質の身が危なかったので射殺致しました!」 「ありがとう!桜庭には後で礼を言っておく」 康太は捜査官から渡されたタオルケットを幸哉に掛けた 「事情聴取は、どうするよ?」 「犯人死亡と言う事で処理致します 医者に掛かられますよね?」 「おう!傷の具合を見ねぇとな」 「医者に写真と診断書を提出して戴く様に申し付けておいてください」 「なら、連れてって構わねぇか?」 「はい。病院まで誘導致します」 康太は堂嶋を呼んだ 「正義、お前が抱き上げて病院に連れて行け」 堂嶋は幸哉を抱き上げ康太に頭を下げた 「長居は無用だ!正義行くぜ!」 康太は兵藤を拾いバスへと戻った 座席に座り康太は悔しそうに呟いた 「あの男……7年前に殺っとけば良かった…」 堂嶋は康太の名を呼んだ 「………どうして……射殺させた?」 堂嶋は問い掛けた 目の前で……犯人とは言え……人間一人が射殺された 「生きてればとことん着き纏うぜ! それこそ幸哉に安住の地はなくなる 二階堂が前回の事件も手を回した 精神障害者と言う事で無罪だ 今回もその手を使われたら……罪には問えねぇぜ? そしたら幸哉を殺すまで執着するぜ! 「捜査官に話してあるから、アイツの部屋を見せて貰うと良い 見ても同じ台詞が吐けるなら……オレは何も言わねぇ」 「………それでも射殺はすべきではなかった……」 人の命が軽んじられて良い筈などないから…… 堂嶋には信じられなかった こんにも簡単に闇から闇に葬られて……しまうなんて…… 康太は何も言わなかった 堂嶋は幸哉を病院に連れて行き、康太は帰った 帰りのバスの中で榊原は康太を抱き締めた あんな責められる事を言われるなんて想ってもいなかった 康太が悪い訳ではないのに…… 堂嶋からしたら何故服役させなかったのか…… 理解に苦しんだのだろう…… 「伊織、大丈夫だ!心配するな」 「僕は許せません!」 榊原は怒っていた 幸哉を助けたのに……何故康太が責められる? 「目の前で人が射殺されれば……何故と想うのは至極当たり前の感性だと想うぜ オレは何とも想わねぇけどな……」 今回は犯人の射殺……を事前に桜庭官房長官に頼んでいた 精神障害者で逃げるから捕まっても無罪は免れない そしたらまた幸哉をつけ狙う 此処で抹殺しておくべきだと、康太は判断した 康太は天を仰いだ 「弥勒、正義に逢わせてやってくれねぇか? オレが逢わせるつもりだった……でも無理だなんな」 『厭だ……御前を愚弄する奴の為に動きたくない』 「………弥勒、そしたら正直は浮かばれねぇじゃねぇかよ! 命を落としてまで正直は我が子と幸哉を護ったのに…」 『………解った……本体で出向いて逢わせてやる 一発位殴っても良いよな?』 「………弥勒……」 『御前は間違ってはおらぬ……』 「弥勒、オレは自分を信じて動いてる 間違ってるか……正しいかは、その人の判断だ オレはそんな事は説いて動いてねぇかんな仕方がねぇかもな 弥勒、オレの完遂出来なかった仕事をやり遂げてくれ、頼む」 『………解った!本体で警察署に出向いてやる』 「なら一生を運転手に回す 御前は一生が到着するまで待ってろ」 『………解った』 弥勒は、気配を消した 「一生、頼むな」 「………厭だ……あんで御前を理解しねぇ奴の為に動かねぇとダメなんだよ」 一生も弥勒と同じ台詞を吐いた 「一生……厭なら行かなくても良い 他に誰か行かせるかんな」 康太が言うと慎一が「俺が行きます」と告げた 「なら頼むな…」 一生は悔しそうに唇を噛みしめた 「一生……」 康太が名前を呼ぶと兵藤が「俺も行くわ」と告げた 「弥勒が殴り飛ばすなら俺も殴り飛ばしてやる!」 「貴史……」 「幸哉を救った人間に言う言葉じゃねぇわ 許しておけるかよ!」 「貴史……目の前で人が射殺され闇から闇に葬られる それ見て……意義を唱えるのは当たり前なんだよ 堂嶋は至極真っ当な考えの持ち主だと言う事だ 本当ならオレと関わる人間じゃねぇんだよ」 「…………それでもな一発は殴っとかねぇとな俺の溜飲が下がらねぇんだよ!」 「………貴史……」 康太が呟くと榊原は康太を抱き締めた 「誰が死のうが僕には興味がありません! 康太、辛くはないですか? 力を使わないでって言ったのに……」 「伊織、ずっと動かねぇ訳にはいかねぇかんな そろそろ動き出さねぇとな!」 「無理しないで下さい 僕は君だけが大切です!」 「大分楽になって来たかんな そんなに心配は要らねぇよ」 榊原は何も言わず康太を抱き締めていた 飛鳥井に帰ると康太はバスから下りた 慎一はバスを一旦駐車場に停めて、自家用車に乗り換えた その車に兵藤が乗り込み、一生も飛び乗った 榊原と康太と聡一郎はバスから下りて飛鳥井の家へと向かった エレベーターの中で聡一郎が 「堂嶋は後悔するんでしょうね……」 と呟いた 榊原は「後悔しても遅いのです!」と冷たく一蹴した 飛鳥井の家に帰ると日付は変わろうとしていた 榊原は康太を抱き上げると寝室へと向かった 服を脱いで、ベッドに入り 強く強く……康太を抱き締めた 康太は榊原の愛に支えられ…… 眠りに着いた 僕の腕の中で…… 眠れば良い 誰も君を傷付けたりなんかさせない 愛してる康太…… 君だけを愛してる…… 榊原の祈りにも似た抱擁に 康太は榊原の胸に顔を埋め眠りに落ちた 榊原は静かに怒っていた

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