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第18話 始動
3月中旬
大和市に一生と慎一のファームが完成した
此処で一生と慎一は、父、緑川慎吾が果たせなかった夢を果たす
サラブレッドを生み出し……コースに送り出す
その夢の第一歩が完成した
完成した地に康太は足を踏み入れた
一生と慎一に笑顔を向け
「やっとだな…」と声をかけた
一生と慎一は康太に深々と頭を下げた
「親父の果たせなかった先へゆく
何時かお前へと還せる馬を作る」
と一生は康太に誓った
「俺は飛鳥井を出ません
主は未来永劫、貴方だけです」
と宣言した
康太は苦笑した
それぞれの夢へ向かって歩き出す
その道は果てしなく長い……
でも何時か夢はカタチになって還る
それを日々努力して紡いでゆく
康太は笑顔で、この日を迎えられて安堵していた
白馬から篠崎青磁がやって来て常駐したいと申し出た
白馬は藍崎がスタッフを纏めてやっていける
大和は私が面倒を見よう
と篠崎は申し出て、康太はそれを了承した
ファームを眺める康太の背中を榊原は優しく抱き締めた
「伊織、このファームからパドックに出るサラブレッドが産まれる……」
「ええ。誰よりも強く早く走るサラブレッドを彼等は作るでしょうね」
「………道は分かれても……想いは一つだ」
「康太、君へと続く場所に彼等は必ずいます」
康太は榊原を見た
優しい瞳があった
康太はその瞳に甘やかされて……守られた
康太の想いのその先に……
続く明日へ彼等は逝く
榊原はそう信じていた
康太も真贋の仕事を本格的に再開した
大学も不足の単位を取る為に通う
会社に出勤して榊原の隣の部屋で馬の管理やその他諸々の雑用を片付ける
康太は精力的に動いていた
4月に入る少し前に、飛鳥井の家は完成した
完成を飛鳥井建設まで佐々木蔵之介は告げに来た
「飛鳥井家の建設総てが完成致しました
この度は貴方の仕事が出来て本当に嬉しかっです」
蔵之介はそう言い康太を抱き締めた
「蔵之介、ありがとう」
「お礼を言うのは私の方です!
本当にありがとうございました
康太……貴方、身躯は?大丈夫なのですか?
入院してたと聞きました……何度か伺ったのですが…
タイミングが悪くてお逢いする事も叶いませんでした
気になっていました……」
「もう大丈夫だ!」
「今度食事に誘っても大丈夫ですか?」
「おう!大丈夫だ!」
康太はニカッと笑った
蔵之介は何度も康太を抱き締めて、次の約束を交わし帰って行った
康太は新居の鍵を貰い、飛鳥井の家を見に行く事にした
その前に副社長室へと続くドアを開けた
「康太、どうしました?」
目敏く榊原が康太を見付けて抱き締めた
「伊織、飛鳥井の家が完成した
家族が引っ越す前にオレは結界を張りに行く」
「解りました!一人で大丈夫ですか?」
「おう!一人の方が結界は張りやすい」
「帰ったら顔を出して下さいね!」
「おう!帰ったら顔を出すかんな!
あ!それと東矢覚えてる?」
「ええ。弥勒の所から修行に旅立っているんですよね?」
「還って来るから!
還って来たら常にオレと行動を共にする」
「……え?聞いてません……」
「弥勒が還って来ると教えてくれた
飛鳥井の家には住まねぇ……
東矢には須賀にやろうとした部屋に住まわせようと想う」
「解りました。
君が誰かと一緒なら僕は少しは安心出来ます」
「弥勒が伊織の気苦労を解消してやる為だと言ってた」
「今度甘露酒を持ってお礼に行きます!」
「喜ぶな」
榊原は康太の頬にキスを落として離した
「なら結界を張りに行って来るな」
「気を付けて行ってらっしゃい」
榊原はニコッと笑って康太を送り出した
康太は片手をあげて榊原に背を向けた
そして副社長室を出た
途中で瑛太に逢い捕獲された
「康太、何処へ行くのですか?」
兄の嗅覚の良さに……康太は苦笑する
「飛鳥井の家が出来たんだよ
さっき蔵之介が教えてくれた
で、新居に結界をしに行くんだよ
瑛兄、週末は引っ越しな!
片付けておかねぇと困んぜ!」
瑛太は情けない顔をした
「……京香に任せっきりだと怒られますよね?」
「京香は子育ても忙しいかんな!
そりゃぁ怒られるよな?
瑛兄、京香とエッチしてる?」
「してますよ。
しないと君が怒るでしょ?」
「……子供も産まれたしな、もう口は出さねぇよ」
「でもね幸せにしないと怒るでしょ?」
「そりゃぁな!」
「ですから毎週頑張ってエッチに励んでます!」
瑛太はそう言い笑った
「瑛兄、ならオレは新居に行くかんな!」
「気を付けて行ってらっしゃい」
瑛太に送り出されて康太はエレベーターに乗り込んだ
そして地下駐車場まで向かう
地下駐車場に行くと康太はミニに乗り込んだ
そして飛鳥井の家へと向かう
飛鳥井の家は完成していた
外観を損なわない煉瓦造りのビルは地下駐車場を完備した地上3階のビルだった
元の家は住宅と駐車場が別だった
今度は地下駐車場を作って敷地面積を広く取って建ててあった
康太は家の前に車を停めると、門塀を眺めた
高いフェンスが飛鳥井を取り囲んでいた
木々が生い茂り全容は前とは全く違っていた
門を開けて玄関に向かう
飛鳥井の家の鍵は最先端の電子キーだった
予備はない……と言われる鍵は申請した者しか持つ事は許されない……鍵だった
康太は鍵を差し込みドアを開ける
康太が中に入るとドアは閉まりガチャッとロックが掛かった
1階は30畳はあるテラス付きの応接間、そして広々としたシステムキッチンを配備した食堂…と言いたい程の広さのキッチンがあった
1階には源右衛門の和室の部屋があり
茶室も源右衛門の部屋の部屋の横に作った
玲香と清隆の部屋も1階に作った
各部屋2DKは確保されててバストイレ付きだった
2階は瑛太と京香、そして子供の住む部屋があった
そこは子供部屋も入れて3DK
隼人の部屋は妻を娶った時の事を考えで3LDK
妻と子供とで飛鳥井に住むと言う
一生、聡一郎、悠太、力哉の部屋は2DKは確保されてて
慎一は子供の事を考えで3DKはあった
各部屋の前のフロアには大きな観葉植物が配置されていて
それぞれの空間に緑を入れる事によって、癒して迎えてくれる空間が作ってあった
3階は康太達と子供の部屋だった
子供部屋が6部屋
ワンルームで子供が成長する過程を視野に入れバストイレは完備した
子供部屋の前には大きなフロアがあって、このフロアも観葉植物が生い茂り広々とした空間があった
その向かい側に康太と榊原の部屋があった
従来通りリビングがあり簡易キッチンがあり
バストイレがあり寝室があった
そして3階から屋上に出ると、屋上は人工の庭園が広がっていた
ちょっとした公園みたいだった
ソーラーパネルを上手く配備して、回りとの調和が取れ違和感なく配置されていた
飛鳥井の各部屋のベランダには邪魔にならない程度に木々が植えられていて
その木々は屋上で集めた雨水を流し込む設定になっていた
屋上の雨水のタンクが一旦雨水を集め、不要な分は流して行く
それを一定量木々を潤す為に流し込まれる
康太は総ての部屋を見て満足だった
そして結界を張る
邪魔な侵入者は許さない
康太が真贋でいる限りは守られる結界をはる
康太が結界を張ろうとすると
『我も手伝おうか?』
と声がした
「龍騎、手伝ってくれるのかよ?」
声の主は紫雲龍騎だった
『我は飛鳥井の家の無病息災を結界に込めよう』
「オレは家を護る!」
『なればお前の結界の後に続こうぞ』
康太は力を込めて天を仰いだ
そして両手を開くと呪文を唱えた
康太の手から蜘蛛の糸の様な細い銀糸状の糸が気に乗って流れていく
その後を紫雲の放った結界が追って絡み付き壁を這う
家全体に総結界を張る
誰にも破れない結界を張る
結界を張り終えて、康太は息を吐き出した
「龍騎助かった」
『誠、綺麗な結界であった
この結界なら誰も破れはせぬ』
「龍騎、ありがとうな」
康太は子供のような顔で笑った
紫雲は康太を優しく抱き締めて……
一陣の風になり消えた
康太が結界を張り終えて家を出ると車の前に兵藤が立っていた
「よっ!貴史!」
「やっと還って来るのか?」
「おう!週末には引越だ!
また裏のよしみで宜しくな」
「あのマンションは敷居が高くてな……中々行けなかった
前に来るなら掴まえられるな」
兵藤も笑った
「お前、顔付きも変わったな
正義に相当鍛え上げられたんだな」
「あの男は容赦がねぇな
でも、送り出してくれる時
『次に君と向かって立つ時は聖域ですね!
聖域でお逢いしましょう!』って言葉を貰った
俺は逝くぜ!
堂嶋正義の所まで上りつめてやる!」
「頑張れ!」
「所でお前一人かよ?」
番犬の姿がなかった
「これからは、一人で行動も多くなるな」
「あんでだよ!」
慎一と一生が離れる日があるなんて皆無だと想っていた
「大和にファームが建った
あいつ等は夢へと向かって行くかんな!」
「もう出来たのかよ?」
「おう!もう始動している」
すると……今までの様にはやはり行かなくなるのか……
兵藤は嘘みたいな現実を受け入れられずにいた
絶対!何があっても!
離れないのが一生と慎一だと信じていたから……
「大学行く時は呼べよ
一緒に行く位なら出来るぜ」
「……お前も留年だもんな」
康太が言うと兵藤は……
「ズバッと言うな……
俺は落ち込んでるんだからよぉ!」
と康太の肩を抱いた
「………まさかな……この俺が留年だぜ……」
生徒会長までやった男の嘆きだった……
全身に言い顕せない哀愁が滲み出ていた
「………貴史……オレも留年だ!気にするな!」
慰めにしては……説得力がない
「………お前は家を理由に学校に行かなかったじゃねぇかよ!」
「………貴史……」
「何だよ?」
「………藤森と……同じキャンパスで並ぶ事になったな……」
トドメを刺した
どよ~ん と貴史は落ち込んだ
「……言ってくれるな……友よ……」
「……なら言わねぇ……」
「……大学……海外でスキップして来ようかな…」
「おう!海外に行って来い!」
半年……康太と離れていて、駆け付けて行けれぬ苦汁を飲まされた
「………お前が大人しくしてたら海外に行けるのにな…」
「あんでオレのせいだよ!」
「じゃじゃ馬のお転婆なお前から目を離す方が…
落第の憂き目を見そうだからな…止めとく」
「なんつう屁理屈だよ?」
「新居に越して来たら祝い持ってくな!」
「祝いなんて要らねぇよ!
遊びに来いよ!」
康太は笑って兵藤を抱き締めた
そして離れると車に乗り込んだ
「貴史またな!」
「おう!ぶつけんなよ!」
「………お前も言うのかよ?」
康太が言うと兵藤は手をふった
康太は車を走らせた
そして飛鳥井の家の入ってるマンションへと還って行った
マンションに還ると、副社長室をノックした
ドアを開けた榊原は笑って康太を迎え入れてくれた
「お帰り」
榊原は抱き締めてキスを落とした
「貴史に逢ったぜ」
「還ってるんでしたね」
「おう!留年がかなり堪えていたな
海外でスキップして来ようかなとか言ってた
けど、オレが大人しくねぇから落第しそうだから行かねぇとかぬかしやがった」
榊原は苦笑した
駆け付けて来れぬ距離に行きたくないのだと伺える
そんな遠くに行ったら……手に付かなくてら落第の憂き目は避けられない……
「君は荷造りしないで下さいね」
「………貴史にぶつけんなよ……って言われた」
榊原は背中に冷たい汗を感じた
康太はどよ~んとしていた
「康太……僕が総てやってあげます!」
「そう言ってトイレも来ようとするよな?」
榊原は引き攣る顔で……笑顔を作った
「やってあげますよ?」
「なら伊織も、してやろうか?」
………切り返しされて榊原は降参した
「………もうトイレまでは……しません」
康太は笑った
「伊織、オレは帰るな」
「何処かへ行くなら連絡して下さいね」
「……行かねぇよ……寝てぇんだ
今も伊織が挟まってる感じがする……」
榊原はたらーんとなった
「……ごめんね…止まれませんでした」
「……寝て来るわ」
「後で部屋に行きます
寝てなさい」
康太は榊原の唇に口吻ると離れた
そして片手をあげて部屋を出て行った
康太は榊原を安心させる為に、何処かへ行く時は必ず榊原の所に顔を出す
メールや電話も欠かさなかった
康太なりの配慮だった
副社長室を出ると佐伯明日菜とでくわした
明日菜は大きなお腹をしてまだ働いていた
8か月になっていた
今月一杯で産休に入る事になっていた
「明日菜、無理すんなよ」
「大丈夫です!
来月から産休に入ります
ボロッと産んで復帰するので待ってて下さい」
ボロッと……康太は苦笑した
「我が子は大切に育てろ」
「ええ。大切に育てます
でも産んで半年は……育児に専念ですけど……」
「絶対に無理すんなよ!」
康太はそう言い明日菜と別れてエレベーターに乗り込んだ
飛鳥井の家に行くと聡一郎が弥勒が待ってると教えてくれた
応接室に行くと弥勒がソファーが東矢と一緒に座っていた
「……弥勒、珍しいな……飛鳥井に来るなんて…」
「東矢を連れて参った!
やっとお主に還せる…」
弥勒はそう言い安堵の瞳を康太に向けた
「東矢、お帰り!」
康太が声を掛けると東矢は康太に深々と頭を下げた
「康太、やっと君の為に仕事が出来ます」
「お前が還ると聞いたからな、このマンションの下に家を用意した
そこにお前は住むと良い」
「………康太……君の秘書と逢って色々と今後の事は話をして付き添おうと想う」
「榮倉はオレの変わりにおめぇに逢ってたんだよな?」
「はい。修行中も何かと気に掛けて貰いました」
東谷は嬉しそうに笑った
康太はその顔を見て弥勒に向き直った
「弥勒、返してくれてありがとう」
康太は弥勒の方を向いて礼を言った
弥勒は康太を抱き締めた
「身躯は大丈夫なのか?」
「お前がくれた薬を飲む様になって楽になった
あの薬何が入ってるんだ?
焔が体内に浸透しない気がする……
力を使っても新陳代謝が活発になるのを抑えてる気がする」
弥勒は……もの凄く言い難い顔をして
「よいではないか……身躯の調子がよくなったのであれば死にそうになって集めた甲斐がある」
「……だから何を?」
「…………それは内緒って事で……」
弥勒の言い方に康太は笑った
「なら聞かねぇでおいてやんよ!」
弥勒は笑顔の康太の顔に……
涙が溢れた……
「………お主の……その笑顔……見ていなかった…」
「泣くな……弥勒……」
康太は弥勒の涙を拭いてやった
「伊織が甘露酒持って行くって言ってたぜ!」
「伴侶殿が?
それは嬉しい!
伴侶殿の持って来てくれる甘露酒は絶品
親父殿も喜ぶな……最近臥せっておるからな…」
「……厳正が?体調悪いのか?」
「………今は起きれない程にな…弱っておる」
「……弥勒、厳正は今何処で寝てるんだよ?」
「親父殿は今うちに来ておる」
「なら見舞いに行く」
康太はそう言い立ち上がった
弥勒も立ち上がり東矢も立ち上がった
「僕が運転して行きます」
「東矢、今日は新居を聡一郎が案内するからな休んでて良いぞ
オレは弥勒と一緒に出掛ける」
聡一郎は東矢の荷物を持つと
「君は新居に行きますよ」と言い案内しに行った
康太は弥勒と共に飛鳥井の家を出た
エレベーターに乗り込むと榊原に電話を入れた
「伊織?」
『康太、どうしました?』
「オレ、出掛けるな」
『どちらへ出掛けるのですか?』
「弥勒と一緒に厳正の見舞いに行って来る」
『厳正、調子悪いのですか?』
「みたいなんだ…行って来るな」
『気を付けて行ってらっしゃい』
榊原はそう言った
康太は「おう!気を付けるな」と言い電話を切った
地下駐車場まで向かうと康太は弥勒をミニの助手席に乗せドアを閉めてから運転席に乗り込んだ
エンジンを掛けて車を走らせる
地下駐車場を出た辺りで一生の車と出会したが、康太は片手をあげて通り過ぎて行った
途中で榊原が良く買いに行く酒屋に寄って甘露酒を買って弥勒の自宅に行く
弥勒の家の前の駐車場に車を停めると、康太は車から降りた
その後を一生が車を停めた
「あんだよ?一生」
「お前が出るなら俺も着いてく」
康太は何も言わず弥勒を促した
弥勒は玄関を開けると康太を客間へと連れて行った
襖を開けると厳正が寝ている姿が見えた
康太は部屋に入った
「厳正、調子悪いのか?」
「………坊主……久しいの……」
弥勒は康太から受け取った甘露酒を厳正の枕元に置いた
「まだ逝くのは早ぇよ厳正
お前は源右衛門を護る存在
逝くのは源右衛門と共だろ?」
「………坊主……下手したら源右衛門より一足早く逝かねばならぬかもな……」
「………何故……そんなに弱ったよ?」
「寿命が尽きようとしておるのだ」
康太は厳正を視た
厳正の命の灯火は……消えかかっていた
「………八仙……」
康太は空を仰いで呼び掛けた
すると時空を切り裂き八仙の一人が姿を現した
「お呼びか?炎帝」
八仙の一人は康太に平伏した
「厳正は何故こんなにも弱ってるんだよ?」
『この男は……お主を永らえさせる為に……
冥府に向かったのだ……
冥府に向かえば……その命……縮めると解っていて…
止めるのも聞かずに冥府に向かったのだ』
「………冥府に……?」
康太は厳正を見た
厳正はバツの悪い顔をした……
「お主がいない世界には倅は生きる気はない
お主を永らえさせる手掛かりは…冥府にしかないではないか……」
「オレは冥府の者だかんな……」
「皇帝閻魔に『御前の来る所でないわ』と弾かれた…」
「………皇帝閻魔……懐かしいな…
元気だったかよ?」
「……元気も何も……一瞬で弾かれた…」
「そうか…」
「………お主の……知る存在か?」
「……父親だ……」
厳正は驚いて康太を見た
「八仙、皇帝閻魔の所へ行って厳正の寿命返して貰って来てくれ」
「…………それは無理だわい」
「そうか……あんでそんなに無茶すんだよ?
何とかならねぇのかよ?」
康太は八仙に手立てはないかと尋ねた
「冥府の毒を抜けば……何とかならないか……と想ってな解毒を作って参った
皇帝閻魔が送り届けてくれたから……それで大丈夫だ想うがのぉ~」
八仙はそう言い厳正に解毒の薬を飲ませた
鼻を摘まんで口を開けると……
その口の中に……小瓶の中身を流し込んだ
そして口を押さえられたら飲み込むしかなかった
ゴクンと飲んだ厳正を確認して
「炎帝様、これで源右衛門の寿命程は伸びたと想います」
「ご苦労だったな
呼び寄せて悪かった」
「いいえ。炎帝様のお役にたてるならこの老兵何処へでも参じますとも!」
八仙はそう言い消えた
「厳正、身躯はどうよ?」
「………何だか……楽になっておる」
「良かったな!もう冥府になんて行くなよ!」
「解っておる……」
「厳正、甘露酒だ!
調子が良くなったら飲め」
「悪かったな……」
「ならな弥勒、オレは帰るな」
弥勒は康太を抱き締めた
「ありがとう康太……
父だからな……亡くしたくはなかった」
康太は立ち上がると弥勒の肩を叩いた
「またな弥勒」
弥勒は康太を抱き締めた
「あぁ。また逢いに来てくれ」
「また来るな!」
康太はそう言うと弥勒の家を後にした
駐車場へ行くと一生が康太の傍に寄った
「体調はどうよ?」
「悪くねぇかんな、出てるんだよ」
「無理するなよ」
「おう!大丈夫だ!
飛鳥井の家に還ったら荷造りしろよ!」
「そっか……引っ越しか」
「週末には引っ越すかんな!」
「大丈夫だ!御前の部屋も手伝えるし
瑛兄さんの部屋も……やらねぇと不味いよな?」
「……多分な…瑛兄はマメじゃねぇかんな」
「……飛鳥井の人間は繊細じゃねぇからな」
一生はそう言い笑った
康太は「……聞いたら怒るぞ」と呟いて車に乗り込んだ
車を走らせ飛鳥井に向かう
地下駐車場に車を停めると榊原が迎えに出ていた
車から下りると榊原は康太を抱き上げた
「安全運転でしたか?」
「おう!大丈夫だ伊織」
「一生も一緒だったのですか?」
「おう!出る時に逢った
そしたら着いて来た」
榊原は康太を抱き上げたままエレベーターのボタンを押した
開いた扉に乗り込むと榊原は
「厳正はどうでした?」
と尋ねた
「厳正、冥府に出向いて毒気にやられたらしいな」
榊原は言葉を失った
「………冥府……ですか?」
「八仙を呼んで毒気は抜いたから元気になるだろ?」
「……無茶しますね」
「思い立ったら動くかんな」
康太は笑った
最上階まで向かい康太を家まで連れてゆく
榊原は康太を寝室に連れて行くと寝かせた
「怠いんでしょ?」
「おう!」
「なら寝てなさい
僕が帰って来たら起こしてあげます」
そう言い榊原は康太を布団に寝かせた
そしてキスを落とすと寝室を出て行った
康太は眠りに落ちた
榊原と激しく愛し合った翌日は怠い
太いから……挿れられれば……翌日も挟まった感は抜けない
でも愛してるから幾ら怠くても挟まった感が抜けなくても……
榊原を欲する
自分の身躯で感じて欲しいのだ
仕事を終えて榊原が部屋に戻っても、康太は寝ていた
「奥さん……奥さん……」
榊原は康太を起こした
康太は目を醒ますと榊原に接吻した
「愛してる伊織……」
「熱烈歓迎ですね」
榊原は嬉しそうに康太の頬に口吻を落とすと抱き上げた
そしてチュッと唇にキスするとベッドに座らせた
榊原はスーツを脱いで私服に着替えると康太を抱き上げた
そしてキッチンへと向かう
椅子に座らせると榊原は康太の食事を用意した
最近沢庵が解禁された
久遠医師が沢庵を食べても耐えれる胃腸だろうと、解禁してくれたのだ
食卓に康太の沢庵を食べる音が鳴り響く
康太が夕飯を取ってると、瑛太や清隆、悠大もやって来て食事を始めた
源右衛門は夕方には夕食を終える様にしてる
慎一が康太に薬湯を用意する
康太は薬湯を見て
「オレに薬湯を用意する暇に自分が飲めば良いのに……」とボヤいた
康太は薬湯を飲み終えると榊原にキスをねだった
榊原は康太の唇に口吻た
榊原は家族に
「引っ越しの荷造り、そろそろお願いしますね」
と告げた
京香は「………瑛太の部屋は驚く程に汚い…」とボヤいた
聡一郎は「瑛兄さん……本当に懲りませんね」と苦笑した
「京香……部屋は汚くも愛する男でしょ?」
榊原は京香に問い掛けた
「伊織……離れてる間に言う様になったな……」
京香は情けない顔をした
榊原は笑った
「やっとこさ還れるな……」
康太が呟いた
家族は1年以上経つ日々を想いを馳せた
「還るかんな!」
康太が言うと榊原が引っ越しの概要を伝えた
「今度の引っ越しは午前と午後からに分けます
午前中に応接室とキッチン
源右衛門と義父さん義母さんの部屋の引っ越しをします
義兄さんの部屋も午前中に運び込まれますよ?
荷造りして下さいね
午後から一生達の部屋と僕達の部屋の引っ越しに掛かります
明日、飛鳥井の新居を案内出来ます
鍵は特殊なキーになります
なくしたら……部屋には入れません
スペアーを作るのに一ヶ月掛かります
皆さん気を付けて下さいね!」
家族は言葉もなかった
「……荷造り…」瑛太が呟いた……
一生が苦笑して「手伝いうから大丈夫だ瑛兄さん」と慰めた
康太はニカッと笑って
「オレも手伝ってやろうか?瑛兄」
と問い掛けた
瑛太は康太の破壊を熟知しているから……
「……康太、お前は休んでなさい」
と逃げた
「オレは引越には役に立たねぇかんな
その間飛鳥井の菩提寺に行こうと想う」
康太が言うと榊原が
「却下」と一蹴した
「あんでだよ?伊織」
「君は何もせずとも家にいないと、気になって何も手に着かない人達ばかりです
そしたら週末の引っ越しは皆無ですね」
「でもな菩提寺に行かねぇといけねぇのは本当なんだぜ!
菩提寺の住職が戻って来たかんな
挨拶にいかねぇとならねぇんだ」
「僕も行くので少し待ちなさい」
「………もう良い……」
康太は席を立つとキッチンから出て行った
一生が榊原に「何かあったのかよ?」と問い掛けた
「何もないです……」
榊原は呟いた
慎一は「引っ越しに自分だけ何も触れないってのが嫌なんだと想います……」と告げた
家族は……雑い康太が触ると破壊された数々を想う
榊原は「なら康太も仕事させます!」と言った
立ち上がると「後お願い出来ますか?」と慎一に頼んだ
「やっておくので康太を見て来て下さい」
慎一は康太が気掛かりだった
榊原は康太を心配して部屋へと戻った
部屋とドアを開けると康太はリビングのソファーで寝そべっていた
PCを叩きながら、何かをやっていた
「康太…」
榊原は康太の名を呼んだ
だが康太は聞こえないのか……一心不乱にPCを叩いていた
榊原は康太の身躯を持ち上げると強く抱き締めた
「………伊織、少し待て……」
「待ちますよ……でも無視は辞めて下さい」
「………解った」
榊原はソファーに康太を置いた
「康太、何やってるんですか?」
「聞くな」
「何か怒ってるんですか?」
「怒ってねぇよ……
オレが触れねぇのは何時もの事じゃねぇかよ」
榊原を見ないで康太は話す
「………康太……僕を見て……」
康太は榊原の顔を見た
「伊織……引っ越しの時はオレは邪魔じゃねぇかよ
何も触れねぇのにいたくねぇんだよ
皆忙しそうでオレだけ……暇……ならいたくねぇ」
「なら君も荷造りして下さい」
「……もう良い……やらねぇ!」
「何故?」
「引っ越しの日は菩提寺に行く」
「君がいなきゃ引っ越しなんて出来ませんよ?
家族や、一生達は気になって君の方に行ってしまいます……そしたら引っ越しそのものが出来ません」
「………ならいるよ」
「康太……言って
何が君をそんなに怒らせてるのか…」
「………オレは雑いからな……
解ってんよ!そんな事!
だからもう良い!」
榊原は康太を抱き締めた
「康太……愛してます
君しか愛せません……
そんな僕は要りませんか?」
康太は俯いて榊原の胸に顔を埋めた
「………愛してる伊織……」
「君が何を怒ってるか教えて下さい」
「怒ってる訳じゃねぇんだ……
本当に引っ越しの時……いるだけで邪魔だな…
って前回の引っ越しで想ったんだ
だから今回は邪魔になるから……
引っ越しの時は余所に行こうって想った」
「君を邪魔になんてしてませんよ?」
「忙しく動く家族や一生達を……
何もしないで見てるだけしか出来ねぇ……
これって邪魔って言わねぇのかよ?」
康太に何もさせないで来てしまった
康太は雑いから……と家族は康太に触らせない
それが康太を傷付けていたなんて……
気づかなかった……
「………僕から離れないで……
君をなくせば……僕は狂う……」
「………伊織……」
「今回の引っ越しは君も手伝ってくれれば良いのです
率先してやって下さい!
そしたら飛鳥井の家族も一生達も安心して荷造りが出来ます!」
「……オレが触ると壊れる……」
「大丈夫です
壊れたら買ってあげます」
「………ん……」
「君と僕は協力し合って、助け合って生きてゆくのです
君は僕の手伝いをして下さい」
「どんな?」
「僕が梱包した段ボールをガムテープで止めて行ったり、袋に入れて下さいって頼んだら袋に入れて下さい
そしたら早く片付きます!
奥さん、僕達は助け合って生きて生きましょう」
「ん……やる」
「荷物を運び出す時は、危ないので荷物に近付かないで下さいね
君に何かあったら僕は生きてはいません!」
「伊織の横にいる」
康太は榊原の首に腕を回し、唇に口吻た
そこへ一生が顔を出した
康太が心配で……
後ろには全員控えていた
「……旦那……」
一生が声を掛けると榊原は笑った
「もう大丈夫ですよ
僕の奥さんは少し拗ねてただけです」
「康太…」
康太は顔を上げなかった
榊原の胸に顔を埋めたまま……皆を見なかった
「一生、気にしなくて良いです」
「………無理だろ?それは……」
「なら、もう少し後になさい」
「始めたら……アウトですがな…」
「今夜は始めませんよ
昨夜、康太を無理させました
今夜もは……康太の身躯が限界です」
濃い……話をされても……
一生達は仕方なくリビングを出て行った
「康太、どうしたんですか?」
「………んな事で拗ねた顔なんて恥ずかしい…」
だから見せたくないと……康太が言うと榊原は笑った
「僕しか見せない顔ですか?」
「……ん……オレの全部は伊織のもんだ」
「……奥さん……このままベッドに行ってしまいたいです…」
「行けよ、オレは何時だって伊織が欲しい」
「身躯……キツいでしょ?」
「伊織に抱かれれば……んなん忘れて気持ち良くて訳解んなくなる」
「………凄い……誘われたいのですが……荷造りしないと不味いです」
「オレは子作りがしてぇけどな」
ブチッと言う音がして榊原は康太を持ち上げて抱き上がった
「では奥さん、子作りに励みますか?」
「おう!」
榊原は笑って寝室へ引き上げようとした
「無理なの知ってて言ってるでしょ?君」
「おう!リビングの外に張り付いてる奴がいるもんな」
「顔を見せたら荷造り始めます
奥さんサポートお願いしますね」
「おう!任せとけ!」
康太はニカッと笑った
榊原がリビングのドアを開けるとその瞬間に……
ドアに凭れてた一生が飛び込んできた
「おっとととと……」
バランスを崩して部屋に入り込んだ一生を康太が止めた
「あにしてんでよ!」
榊原の腕から下りて一生を怒ると
一生は康太に抱き着いた
「………お前が拗ねてるから……」
何も手に着かない……
一生はボヤいた
「一生、東矢って知ってるか?」
何故今、そんな事を聞くのか……
一生には訳が解らなかった
「……覚えてる」
「東矢がオレに還った
今後オレは東矢と動く!
その為に弥勒がオレに還してくれたんだ」
「……康太……俺等は要らねぇのかよ!」
一生はそう言い泣いた
「んな訳ねぇだろ?
だから、気にすんなと言う事だ」
「……お前を気にしねぇでどうするよ?」
ベソベソ泣いて……訴える
榊原は康太に……
「だから言ったじゃないですか……」
と呟いた
「一生泣くな!
荷造りしねぇと引っ越せねぇぞ!」
「……お前が泣かせたんじゃねぇかよ!」
「泣くな……」
康太は困った
すると聡一郎が一生の首根っこを摘まんだ
「一生、瑛兄さんの所もやらねばならないのに……
源右衛門も無理は出来ない……やる場所は満載
さぁ、行きますよ!」
聡一郎に引き摺られて……一生は荷造りをしに行った
榊原はリビングの部屋の荷造りを始めた
各部屋に既に段ボール箱は運び込まれていた
榊原はガムテープを手にすると段ボール箱を作り上げて、底にガムテープを張った
そして手際良くサイドボードの中を片付ける
梱包したモノを康太に渡すと、康太はテープで固定して段ボール箱に入れた
康太は段ボール箱に入れるモノも緻密に頭で計算して無駄なスペースを省いて梱包した
「……君……凄いです!」
案外使える康太に榊原は感激した
「奥さん、引っ越しまで我慢します
その変わり引っ越したら……良いですか?」
「………引っ越しの当日は嫌だ…」
疲れてるし……犯りたくない
「解りました!
引っ越しの当日は僕も疲れて眠ってしまいます
では、その翌日は良いですね」
「嫌だ…」
「………え?……」
まさか断られるなんて……榊原は立ち直れなかった
「その翌日は……引っ越し祝いに……皆が来るかんな
無理だと想う……」
「………大丈夫です
途中で抜けて寝室へ向かいましょう」
「なら良いもんよー
伊織を補充しねぇとな!」
康太は楽しそうに荷造りをしていた
最初からこうして2人でやれば良かったのだ……
可哀想な事をしたな……と後悔した
キリの良い所まで荷造りして、榊原と抱き合って眠りに落ちた
互いの体温だけを感じて……眠る
康太は榊原の胸に顔を埋め眠っていた
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