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第19話 引っ越し狂想曲

飛鳥井の家族は朝5時には起きて食事を取っていた 康太はポリポリ沢庵を食べながら 「荷造りは完了してるのかよ?」 と尋ねた 父 清隆は目の下に隈を作って……精根尽き果てていた 「康太……父は徹夜で頑張りました 最近……副社長から上がって来る書類の量が半端じゃなく多いので……父はギリギリまで仕事でした」 「………父ちゃん……全部荷造り出来たのかよ?」 「一生が助っ人に来てくれたので、完了しました」 清隆の次は瑛太が窶れて……隈を作っていた 「康太……兄も頑張りました 最近……本当に副社長から上がって来る書類の量は半端ないので……仕事に追われてました」 「………伊織は相当頑張ってるんだな……」 康太はたらーんとなり呟いた 「社員は副社長に上げる書類は命懸け……だと噂してます アメリカンドリームならぬ……飛鳥井ドリームとまで謂わしめています 榊原伊織の目に止まる書類を書ければ……と言われてますよ」 「………所で瑛兄、荷造りは終わってるのかよ?」 「………慎一と聡一郎がヘルプに来てくれてので、間に合いました」 「じぃちゃんの部屋は終わってるのかよ」 康太が聞くと玲香が 「我と京香が手分けして片づけた 源右衛門も本当に瑛太同様……手の付け所がなかったわい」 とボヤいた 源右衛門はくしゅん……となった 「じぃちゃん、もうじき業者が来るからな、そしたら引っ越し終わるまで弥勒の家に行けよ 慎一が送って行くかんな! 迎えに行くまで良い子にしてろよ」 「解った……」 「じぃちゃん、今度の家は茶室を作ってやった オレが茶を立ててやっから待ってろよ!」 「それは楽しみだわい 我も茶を立てれるな」 源右衛門はワクワク楽しそうに笑った 榊原は康太に 「君、お茶を立てれるのですか?」と聞いた すると玲香が「康太は茶も花も師範代の免許皆伝だわな」と康太に変わって答えた 「嘘……免許皆伝……ですか?」 お茶やお花……康太に似合いそうもない事を聞いて信じられなかった 「康太は舞も踊りも免許皆伝だぞ」 玲香は榊原に更に追い打ちをかけた 康太は「精神修行の一環だ」と何でもない風に答えた 「慎一、荷物が運び出される前にじぃちゃんを頼むな」 「解っております 一番最初に源右衛門の部屋の荷物を運び込みますから 業者が入ったら直ぐにお連れします」 慎一は源右衛門を外に連れ出しても良い服装に着替えさせ様子を見ていた 食事を終えると榊原がキッチンの食器を梱包する 康太に渡すと康太がテープをはって段ボールの中へ詰めて行った 2人の息はピッタリ合ってて手際は良かった 最初家族は康太が触ると壊れる……と思ってたら…… 康太は壊すどころか手際良く緻密に計算して詰めてゆくのだ 榊原はキッチンを総て片付けると康太と共に各部屋のチェックに向かった 8時過ぎには引っ越し業者がやって来る 京香は子供を玲香と分けて持つと、託児所に預けに向かった 玲香は「慎一、和希と和馬も預けに行くぞよ」と声を掛けた 「お願い出来ますか?」 「当たり前ではないか! 和希、和馬、ばぁばと一緒に託児所に行くぞよ」 玲香はどの子も変わりなく接していた どの子も可愛い どの子も変わりないのだ 和希と和馬は笑顔で玲香と手を繋いだ かなり慣れていた 子供を託児所に避難させると業者が入って来た 榊原は康太を抱き上げて避難していた 榊原が業者に指示を出すと、業者はその指示通りに荷物を運び出した 榊原の瞳は四六時中業者に注がれていた 雑い作業は許さない!とばかりに容赦のない視線を注いでいた その視線を感じで……業者は気を引き締めた こっちはプロだから!と負けそうになる気を建て直し、受けて立っていた テキパキ業者が荷物を運び出す 大きな荷物はクレーン車を窓の近くまで伸ばして出し入れする 一生はコオを抱き上げ 源右衛門を送って戻った慎一がイオリを抱き上げ 業者から避難させていた 源右衛門の部屋の荷物を全部運び出す 向こうの新居には聡一郎と隼人が向かって業者が来るのを待ち構えていた 業者が「これより向こうに荷物を運び入れたいと想います」と告げると 榊原は聡一郎に電話を入れた 「聡一郎、業者が源右衛門の荷物を入れに行きます」 『了解!義母さんと京香が新居に来てます 源右衛門の部屋の片づけをしてくれると想います』 「頼みますね」 榊原はそう言い電話を切った 「次はキッチンと瑛太さんの部屋の荷物を運び出します」 業者が告げた 「お願いします」 榊原はそう言い、空になった部屋の掃除を始めた 榊原が掃除機をかけた後、康太にワイパーを持たせて掃除をさせていた 次々に家具が運び出され荷物と共に瑛太や清隆も新居に移る その空き部屋を康太と榊原は掃除した お昼になると、慎一がお弁当を運び込んでくれた ガラーンと家具のなくなった応接室で床に座ってお弁当を食べた 康太は弁当を美味しそうに食べていた 「お昼からは一生達の部屋と僕達の部屋の引っ越しですね」 一生が「何か新居の方てんてこ舞いだったな」とボヤいた 「何がだよ?」 「伊織がいないと解らない……って言ってたからさ 旦那、行って見て来て遣ってくれよ」 「解りました。 先に僕達の部屋の荷物を運び出して 新居を見に行きたいと想います」 榊原はため息を着いた 榊原は昼食を食べると午後一番に康太達の部屋の荷物を運び出させた 荷物が全部運び出されるのを確認すると 康太を抱き上げて部屋を出た 「慎一、僕は新居を見て来ます! 最終確認には戻って来ます 少しお願いします」 「解りました!」 榊原は慌ただしくマンションを出て新居に向かった 新居に到着すると… 応接室の荷物は……手付かずだった キッチンもそのまま…当然源右衛門の部屋もそのままだった 瑛太が「伊織、荷物が片付きません……」と助けを求めた 「義兄さん、引っ越し業者に片付けスタッフの依頼はしてあります! 後で見るので触らなくて結構ですよ」 榊原は忙しくそう言い見て回った 榊原達の部屋の荷物は窓から入れられていた 一生達の荷物が到着して運ばれていた 榊原は手の空いた業者に指示を出し 応接間のカーペットを敷かせてテレビやサイドボードを手際良く配置させた そしてソファーを配置させてカーテンまで付けさせた 応接間が目処が立つとキッチンに向かい テーブルを置かせた 椅子をテーブルの中へ入れさせ キッチン用品は食器棚に並べた 調理器具もシステムキッチンの引き出しの中に入れて片づけて行く 手際良く片付けると、源右衛門の部屋に行った 畳の上に畳のラグを敷き簞笥を置いてゆく 今回源右衛門の寝室にはベッドを入れた 布団を敷いて寝るのは体力的にキツいだろうと榊原が手筈を整えて変えさせた ベッドも引越には合わせて運び込まれていた それを指示を出して配置してゆく 源右衛門の部屋が終わると清隆の部屋に行き カーペットを敷き、その上に家具を配置させた テキパキと榊原が業者に指示を出すと 清隆の部屋も何とか片付いた 榊原はこの調子で玲香の部屋と瑛太夫婦の部屋の配置を手伝い ある程度片付けると自分達の寝室へと出向いた 康太と榊原の寝室はカーペットが敷き詰められていた その上にダブルベッドを置いて、その横にソファーを置いた リビングもカーペットを敷きソファーを置いて サイドボードを置き 壁に榊原と笙兄弟のパネルを付けさせた 家具を配置させると 榊原は康太をソファーの上に座らせた 「疲れたでしょ?」 「ん……少し疲れた…」 「僕は新居と向こうのマンションを見て来なければなりません 君は寝ていて構いません ベッドはまだ布団はないですからね……」 榊原は康太に毛布を被せた 「これでも着てて下さい 良い子にしてて下さいね」 康太が頷くと榊原は康太にキスを落としてリビングを出て行った 子供部屋には家具はまだ入れない だから子供部屋は構わなくても良かった 榊原は2階に出向き瑛太夫婦の部屋を覗いた 瑛太はあっちこっちの荷物を出して……途方に暮れるタイプだった 榊原は「義兄さん…触らなくて良いです」と声を掛けた 「伊織……手間を掛けます…」 「義兄さん、片付けスタッフを呼びます その人に任せておけば良いです」 榊原はそう言い片付けスタッフを瑛太の部屋に配置した 榊原が大体の指示を出すと片付けスタッフは作業に掛かった 榊原は一生の部屋を覗いた 「一生、片付けてますか?」 一生の部屋は榊原の心配を余所に順調だった 「旦那、心配するな! 俺は片付けだけは上手い男なんだ」 「義兄さんの所を気にして覗いて下さい」 「了解!あと少しで終わるぜ あれ?康太は?」 「寝かせて来ました 少し疲れた顔してましたからね… ベッドは使えないのでソファーに寝かせています」 「そうか……後で覗くな」 「お願いしますね」 榊原はそう言い部屋を出て行った 聡一郎は几帳面で、慎一も几帳面だから片付けは手際良くテキパキやっていた 悠太が……茫然自失になってて 榊原がスタッフに指示して家具を配置させた そして聡一郎に「悠太を見てあげて下さいね」と頼み 下へと下りて行った 榊原は一旦マンションに向かった 飛鳥井の部屋に行くと荷物は総て運び出されガラーンとした空間があった この部屋はリフォームして企業のテナントにして売りに出す予定だった 売りに出すのは飛鳥井建設が出て行った後 会社に当ててた階を企業向けにリフォームして、飛鳥井が居住区に当ててた最上階をペイントハウスとして売りに出す予定だった 最終確認して部屋の戸締まりをして榊原はマンションを出た そして飛鳥井の家に戻ると…… トラブル発生 源右衛門の簞笥の鍵が…無くなっていた 簞笥が開かない……と玲香は慌ててた そこに康太が起きて来て 「その段ボールの中だよ」と指さして教えた 玲香は康太の教えてくれた段ボールを開いて…… 中身をぶちまけた すると中から鍵が出て来た 「あった!」 源右衛門は喜んで簞笥の鍵を差し込んだ 榊原はブチッと怒りマークを付けていた 「確認して荷物を詰めなかったんですか?」 呟くと玲香と源右衛門はくしゅん……となった 「伊織、怒るな」 康太が言うと榊原は康太を抱き上げた 「寝てなくて大丈夫ですか?」 「大丈夫だ伊織」 「なら手伝って下さいね」 「おう!手伝うかんな!」 榊原は康太を抱き上げて源右衛門の部屋の片付けを始めた 玲香や京香など足元に及ばない緻密で敏速な片付けだった 片付けを終えると榊原は康太と共に部屋を出て行った 玲香と源右衛門は……ほぅ……と息を吐き出した 榊原は自室に戻り、サイドボードの中身を段ボールから取り出して並べていた 康太が箱から包装紙を破いて榊原に渡した 榊原はサイドボードの上に2人の写真を並べてゆく 結婚式の写真は一番大きな写真に立てに収まっていた サイドボードが終わると書斎に榊原の仕事の荷物を運び込み 寝室のクローゼットの中に服を吊して並べて入れた 康太の用品は別のクローゼットの中に収めた その中に康太のPCも入れられていた 「康太、寝ますか?」 ベッドの布団を整えながら榊原は康太に問い掛けた 「良い起きてる」 「なら応接間を片付けます 手伝ってくれますか?」 「おう!行く!」 康太は立ち上がると榊原に手を伸ばした 榊原は康太の手を取り強く握り締めた 下へと下りて行くと慎一が2階の廊下で立ち尽くしていた 「どうしたよ?慎一」 「隼人が見つかりません……」 「いないのかよ?」 「目を離したらいませんでした…」 「隼人は多分屋上の芝生の上にいると想う アイツは忙しない場所は嫌いだから、本能的に静かな場所へと移動するんだよ!」 「………屋上ですか?」 「あぁ、多分いる」 子供の時からスタジオで育ったと言っても過言ではない だからか静かな場所を好んで移動する 「慎一、後で連れに行けば良い」 「解りました! 貴方は何処へ行かれるのですか?」 「オレか?オレは伊織と応接間の整頓に行く コオとイオリも一生の所から連れて来ねぇとな」 「なら俺がコオとイオリを連れて応接間へ行きます」 「なら頼むな」 康太はそう言い榊原と共に下へと下りて行った 応接間に入ると榊原は犬のゲージを組み立てた そしてテラスの方に設置した ソファーのカバーを外してテーブルの固定を外した 康太はそんな榊原をうっとりと見ていた 「どうしました?」 「力仕事してる伊織ってカッコイイ……」 「康太……ベッドに行きたくなる台詞は禁止です」 「………惚れた男だかんな見とれてた……禁止?」 「もぉ……康太は誘うのが上手すぎです」 「誘ってねぇぜ んとに組み立ててる姿はカッコイイ… オレ、伊織の二の腕……見てるの好き」 「僕もうっとり見てる康太を見るの好きですよ 僕を愛してる光線をバリバリ感じます」 「愛してるからな! 伊織しか愛せないかんな」 「僕も君しか愛せません もぉ……ベッドに行ける体力を温存しておけは良かったです……」 「伊織……」 榊原は康太を抱き寄せて接吻した コオが応接間に飛び込んで来て康太に飛び付いた 「うわぁ……コオ……お前突然来るなよ」 康太は笑ってコオを抱き上げた 榊原はいじけてコオを見ているイオリを抱き上げた 「イオリ……コオと喧嘩でもしましたか?」 榊原が声を掛けると……鼻水と涙を垂らして榊原に訴えた 榊原は慎一の方を向いた 「喧嘩してたのですか?」 「喧嘩と言うかコオが康太の声に喜んで行こうとするとイオリが噛み付いて邪魔したんです… で、コオが怒って康太に飛び付いたのです」 榊原はイオリを抱き上げて 「イオリ、コオを噛み付いたら駄目でしょ!」 と怒った イオリはくしゅん……と泣いた 康太はイオリを撫でてやった 「妬くな、コオはお前のもんだ!」 イオリは康太をペロペロ舐めた 榊原がイオリを康太から離した 「僕の康太を舐めるのは禁止です」 大人げない台詞に……康太は苦笑した 榊原はゲージの扉を開くと「ハウス!」と呼んだ コオとイオリはゲージの中へと入って行った 「ご飯とお水は後で用意します 少しの間大人しく待ってなさい」 榊原はそう言いコオとイオリを撫でた 「慎一、応接間は終わりました 後片付いてない所はないか見て来て下さい 僕は隼人を探しに行きます 康太はソファーに座ってなさい も少ししたら夕飯にします」 榊原が言うと康太はソファーに座って手をふった 応接間で寛いでるとインターフォンが鳴り響いた 康太はカメラを作動すると清四郎が立っていた 康太は「今開けます」と言い応接間を出て行った 玄関を開けて清四郎を迎え入れる 「清四郎さんいらっしゃい! 1人ですか?」 「ええ。妻は舞台で当分は名古屋です 笙は千葉にロケです 私は映画の撮影も終わりました で、前を通ったので寄りました」 「清四郎さん、お茶でも……と言いたいけど…… てんてこ舞いだ……飛鳥井は伊織がいねぇと回って行かなくなった…困った家だわ……」 康太は清四郎にスリッパを出すと応接間に招き入れた 「伊織は今隼人を探しに行ってる 少ししたら来ると想う……」 「お手伝いしましょうか?」 「………伊織が仕切ってるかんな…… 大方片付いたんです! 清四郎さんは夕飯食べて泊まって行ってはどうですか?」 「明日菜が家にいます」 「笙は帰って来るんだろ?」 「と、想います」 「なら泊まっていけよ清四郎さん」 「では、笙に連絡を入れます」 清四郎はそう言い笙に電話を掛けた 通話の最中に榊原が隼人を連れて応接間にやって来た 「父さん……」 榊原は電話中の清四郎に声を掛けた 隼人は康太に抱き着いた 電話を終えると清四郎は榊原に 「引っ越しだから手伝おうと思って来たのです」 「父さん、殆ど終わりました だから大丈夫です 飛鳥井の家を案内します 父さん達が泊まっても良い様に客間もあります」 榊原は康太を抱き上げて座った そして慎一に話し掛けた 「慎一、殆ど終わりました 家族はもう限界です…もう終わりましょう デリバリを頼んで夕飯を食べて寝ましょう」 「それが一番ですね……俺も疲れました」 「デリバリの注文お願いしますね」 「解りました」 「そう言えば一生は?何処にいましたか?」 「自分の部屋でくたばってました 一生も限界ですね ではデリバリの注文をして家族を連れてきます」 そう言い慎一は部屋を出て行った 「父さん……お茶も出さなくてすいません…」 「良いんですよ 気にしなくて良いです」 清四郎は憔悴している榊原を気にして 「それより伊織、大丈夫ですか?」と声をかけた 「疲れました…父さん 仕事の方が楽です」 榊原の言葉に清四朗は笑った 慎一が呼びに行った家族が応接間に顔を出した 慎一が榊原に「引っ越し業者の方が引き上げても宜しいですか?と尋ねてます」と問い掛けた 榊原は康太をソファーに座らせて立ち上がると応接間を出て行った 清四朗は飛鳥井の家族に 「お疲れの様ですね」と尋ねた 瑛太は「……私達より伊織の方が疲れてます…」と恐縮した 玲香が「今回の引っ越しの指揮は総て伊織が執ったのじゃ!誠見事な采配であった 引っ越しの代金も見事家族で折半して徴収して行った もぉ伊織がいないと飛鳥井は回ってゆかないな……」と呟いた 清隆も「伊織がいればこその飛鳥井ですからね…」と榊原の重大さを思い遣った 「清四朗さん伊織が戻ったら案内してもらうと良い」 「ええ。そうします」 清四朗は微笑みそう言った 引っ越しの業者を見送って榊原が戻って来ると、清四朗を連れて家の中を案内した 1階には応接間とキッチン源右衛門の部屋と清隆、玲香の部屋の他に客間が誂えてあった 用途に合わせて使える客間は襖を外せば20畳はある部屋となり 襖を閉めれば個室として使える、純和風の趣を醸し出した部屋だった 和室や茶室、源右衛門の部屋からは日本庭園風の庭が見えた 「この設計の指示を出したのは康太ですか?」 清四朗は問い掛けた 「そうです。今回も康太が飛鳥井の行く末を視て図面を引かせました」 「伊織、お疲れ様でしたね」 「父さん、大丈夫です やっと帰れました………」 「長かったですね……」 「ええ。長かったです マンションも良かったですが、僕は飛鳥井のこの土地に建つ家が好きです」 榊原は清四朗と話ながら飛鳥井の家を案内した 全部案内して戻って来ると…… 飛鳥井の家族も康太も……寝ていた 榊原は康太を抱き上げると 「疲れましたか?」と問い掛けた 「ん……腹減った…眠い……疲れた……」 「何か全部言いましたね」 榊原は苦笑して康太の唇にキスを落とした デリバリが来るまで、榊原は優しく康太を抱き締めていた 慎一が部屋でくたばってた一生を連れて戻って来た 聡一郎も力哉も応接間に戻って来た頃、デリバリが届いた 慎一が榊原に渡されたカードで支払に向かった 玄関の鍵を解錠してゆくと、注文より多い料理を渡され……一生と聡一郎が手伝い運んで行った 慎一は料理を持って来た人に 「………多くないですか?」 と問い掛けると兵藤が顔を出した 配達のお兄さんは「この方から依頼がありましたので…」と兵藤からの注文だと告げた 「よぉ!デリバリ頼む時に康太のデザートもな上乗せしとこうと思ってな!」 と兵藤は笑った 兵藤の横から美緒も顔を出し、慎一は応接間に招き入れた 応接間には疲れ果てた飛鳥井の家族がいた…… 美緒は「精も根も尽き果ておるな…」と呟いた 兵藤は康太を見て「お疲れかよ?」と声を掛けた 「もぉな……疲れすぎ……」 「大丈夫かよ?」 「大丈夫じゃねぇ……死にそうやん」 康太が言うと兵藤は笑った 「プリン運ばせたぞ」 「本当か!」 康太は起き上がった 何という現金な……でもそれが康太だった 「後で慎一に出して貰えよ」 「ありがとう貴史」 「後、これ、堂嶋から預かってる」 兵藤はそう言い大きなパネルを運び込んだ 「………何よ……それ……」 「解らん……そもそも、こんなデケぇの俺んちに運び込ませる方が面倒なのによぉ…… あの人……飛鳥井じゃなく俺んちに運び込ませた」 「悪かったな貴史」 「広げて中身を見せてくれよ」 兵藤に言われて康太は包装紙を解いた でも……頑丈過ぎて……康太はテラスに寝そべった 「……ギブアップ……」 康太が言うと兵藤は怒った 「んとによぉ!おめぇは!」 「貴史、開けて……」 康太は意図も簡単に言った 惚れた弱みで、兵藤はそれを聞いてやる 兵藤は梱包を手慣れた手付きで剥がして行った そして康太に「剥けたぞ!」と声を掛けた 堂嶋正義の送ったのは絵画だった 80号はある特大の額縁に…… 蒼い龍が天高く上って行く絵画だった 「…………あんで………青龍?……」 炎帝が青龍を見間違える筈がなかった…… だけど何故? 康太は首を傾げた 絵の下にサインがあった 榊原がそれを読み上げた 「SUIGETSU SAGIO……知ってますか?」 「鷺尾……風月?」 「いえ…SUIGETSUです」 康太は首を傾げた 「弥勒、鷺尾水月って誰よ?」 と空を仰いだ 『今話題になってる風月の後継者と謂われる人物じゃ! 写真を見ればその人の望みのものを書けると言う空想画を書く』 「未来画じゃなく空想画? オレ知らねぇんだけど……」 『お主が知らないのも無理はない 最近頭角を現してきたのだからな 逢いたいか?風月に申し入れれば逢わせてくれるぞ』 「逢ってみてぇな…… 弥勒、オレの蒼い龍だよな?どこから見ても…」 『あぁ、誠見事な青龍殿である』 「あんで正義はこの絵を描く人物と知り合いなんだ?」 不思議だった…… 『それは逢った時に聞けばよいではないか』 「ありがとう弥勒」 『ではまたな』 弥勒は気配を消した 「伊織、この絵はオレの部屋に飾ってくれ」 「デカくないですか?」 「オレの青龍を誰かに見せるのは嫌なんだ 手で触れられたら………狂う……」 榊原は康太を抱き締めた 「解りました 明日で良いですか?」 「おう!明日で良い 誰にも見せたくねぇ……オレの我が儘だかんな…」 「我が儘じゃないですよ 君だけの青龍ですからね」 榊原はそう言い康太の唇に口吻た 清四朗は流石と……皆の前だから止めた 「……伊織…皆さんの前ですよ」 榊原は康太を抱き締めたままソファーに座った 「康太、正義さんにお礼を言わないと駄目ですよ」 「おう……お礼を言う」 康太は応接間を出て行った 応接間を出た外で電話を掛けた ワンコールで正義は電話に出た 「正義、貴史に絵を貰った」 『新居の祝に……と想った 祝だから坊主の望むモノを…… そう想って……絵にした 気に入ってくれたか?』 「すげぇ気に入った! 正義は絵を見てねぇのか?」 『見てはいない 鷺尾水月と言う作家は本人が見る前に見せるのは禁じてる 坊主の写真を見せて坊主の望むモノを絵にして貰った』 「正義、絵を見に来いよ もぉな……誰にも見せたくねぇ… 出来なんだぜ…… 誰かに触れられたら……オレは狂うな…」 『お邪魔でないなら……伺いたい』 「正義、何時でも好きな時に来れば良いと言わなかったか? 伊織は遺恨は残す奴じゃねぇ 近くに来たんだから幸哉も遊びに来させろよ」 『………ありがとう 明日叔父貴が飛鳥井を尋ねる その時にご一緒させて貰う』 「おう!待ってんな!」 康太はそう言い電話を切った 応接間に戻ると…… 酔っぱらいがご機嫌で飲んでた 青龍の絵はカバーを掛けて壁に立て掛けてあった 康太は榊原の膝の上に座った 榊原は康太を抱き締めた 慎一が康太を榊原の上から退かせてソファーに座らせた そしてデリバリを取り分けて康太に差し出した どう言う訳か…… 酔っぱらいに交ざって兵藤も酒を飲んでいた 「あんで、おめぇが飲んでるんだよ」 康太が文句を言うと兵藤はニカッと笑って 「俺様は先月20才を迎えました!」 と自慢気に言った 「……なんかムカつく……」 「お子様はジュースを飲んでな!」 「あ!オレも2月に20才になってるじゃねぇかよ!」 「やっと気付いたのかよ?」 「でも酒はいいや」 「調子悪いのかよ?」 「調子は悪くはねぇけどな 新陳代謝を早めたくねぇんだよ」 悲しませたくないのだ 愛する人達を…… 飛鳥井家は既に酔っぱらいの巣窟だった 康太はゆっくりと咀嚼して消化の良いものを食べていた その時、部屋にインターフォンのベルが鳴り響いた 慎一がカメラを作動すると笙が明日菜と一緒に立っていた 「今開けます 康太、笙と明日菜です」 慎一はそう言いロックを解除した 玄関まで迎えに行き応接間に招き入れた 笙は足を踏み入れて…… 既に酔っぱらい巣窟なのを知った 「康太、引っ越しの手伝いも出来なくて申し訳なかったです!」 笙は康太に詫びを入れた 「座って何か食えよ」 「引っ越しは?」 「何とか片付いた 伊織が指揮して業者を動かしてたからな サクサク引っ越しは片付いた 家族は伊織に頼りっきりだ」 康太は困った顔をした 「康太、これ、引っ越し祝です 神野と小鳥遊からも預かってます」 「晟雅はどうしたよ?」 「もう変わりなく歩いて仕事してます が……貴方を怪我させた…とお逢い出来ない…と言ってます」 「笙、晟雅に逢いに来なかったら永久に逢いに来なくて良い!って言っといてくれ」 「解りました!伝えておきます」 笙はそう言い大きな箱を3つ康太に渡した 「あんだよ?これは?」 「ですから引っ越し祝です 神野と小鳥遊と僕達夫婦からです」 康太は開いてみた ……が開ける力もなくて断念 「誰か……開けてくれ……」 康太が言うと一生が包装紙を剥いて康太に渡した 神野は……絵だった 「あんだか今日は絵が多いな……」 ラッセンの20号……笙はかなり重かった…と文句を言った 「慎一、この絵は応接間にでも飾っといてくれ」 「解りました。明日飾ります」 慎一は絵を壁に立てかけた 一生は次の贈答品の包装紙を剥がすと康太に渡した 花束みたいな綺麗な薔薇の花があしらわれていた 「………これは……何よ?」 康太が困って聞くと兵藤が 「壁時計じゃねぇのかよ?」 と言った 「壁時計……なのか?」 康太が呟くと一生が持ち上げた 壁に掛けると……時計だった 何とも……ゴージャスな時計なんだよ……と康太は想った 「慎一、配置頼めるか?」 「解りました! あれこれ試行錯誤してやってみます」 「悪いな……」 「貴方は気にしなくて良い 俺は貴方の為に在る存在ですのでお気になさらずに」 慎一は和やかにそう言った 一生はラスト笙夫婦の包装紙を破いた 箱を開けると……陶器が並んでいた 茶碗だった ただの茶碗でなく、似顔絵の描かれた茶碗だった 康太は榊原の絵が描いてある茶碗を手に取った 「……伊織だ……」 何処から見ても榊原だった 康太は玲香の茶碗を手に取った 「母ちゃん若いな」 「………幾つの時の写真を使ったのじゃ…」 玲香は茶碗を手にして呟いた 茶碗は榊原の家族の分もあった 清四朗と真矢の分もちゃんとあった 笙は別の箱を兵藤に渡した 兵藤は箱を貰って「……え?俺?」と戸惑った 「修行から帰って来た君に!」 笙はそう言い笑った 兵藤が包装紙を破くと箱が出て来た 箱の蓋を開けると、そこには兵藤の絵の描かれた茶碗が在った 美緒も昭一郎の分も在った 「君の家で使って下さい」 笙が言うと美緒が茶碗を手にして 「本当にありがとう!」と礼を言った 「気に入って貰えて良かったです」 「何時産まれるのじゃ?」 「5月です!あと二ヶ月で産まれます」 「そしたら我も祝をしょうぞ」 「ありがとうございます」 笙は嬉しそうに笑った 「明日菜は貧血気味で産休に入る事にしました」 美緒は明日菜の手を取って 「無事元気な赤子が産まれるのを祈ってます」 と言った 笙は涙ぐみ、頭を下げた この日は……朝まで…酔い潰れても飲み明かした 飛鳥井で迎える第1日目…… 応接間は酔っぱらいが力なく寝て…… ソファーを占拠した 康太は客間に布団を敷かせると兵藤を連れて早々に眠りに着いた 付き合ってらんない… 疲れた…… と康太は応接間を後にした

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