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第21話 始まり行く日々 ②

榊原は時計を見ると正午を少し回っていた 意識を失った康太を抱き上げて 浴室で中も外も綺麗に洗って支度をすると1時間近くになっていた もう遼一は来てるかも……とリビングに出向くと誰もいなかった 「康太、誰もいません…」 「なら応接間まで見てくるか?」 康太が言うと榊原は、康太を抱き上げたまま階段を下りようとした 「オレ歩ける…」 「怠いんでしょ? このまま抱かれてなさい」 康太は榊原の胸に顔を埋めた 1階の応接間のドアを開けると、家族や一生達がいた 康太は「遼一はまだかよ?」と尋ねた 慎一が「今会社で資材を調達してる、と電話がありました」と報告した 「遼一も頑張ったんだな!」 康太はニカッと笑った 榊原は康太をソファーに座らせると、その横に座った 慎一が康太の前に紅茶を置いた 「慎一、昼飯食った?」 「まだです! 一生と聡一郎を連れて買い物に出ました そしたら隼人が拗ねてしまったので、まだ作ってません…」 「悪かったな…」 「連れて行けば良かったんですけど… 寝てたので置いて出てしまったのです」 起きて誰もいなかったから……拗ねてテラスでひっくり返っていたのを京香が世話を焼いていたらしい 「京香、悪かったな」 「気にするでない 隼人は可愛い弟みたいなもんだ」 京香はそう言い隼人の頭を撫でた お茶を飲んでると九頭竜遼一が飛鳥井のドアベルを鳴らした 慎一が玄関まで出向きに行くと遼一が立っていた 「遼一さん、突然頼んで申し訳なかったです」 「構わねぇよ!康太には恩がある」 遼一はそう言い靴を脱いだ 慎一にスリッパを用意して貰い応接間に顔を出した 康太はソファーから立ち上がると遼一に飛び付いた 「遼一、悪かった! 仲直りしたのかよ?」 「お蔭様で頑張り倒して気絶させて来ました」 「うし!よく頑張ったな!」 康太は遼一の頭をわしわし撫でた 「絵は?」 遼一の腕の中から下りると康太はテラスに掛けてある絵を案内した 「これだ!遼一!」 遼一は絵を見て言葉をなくした これじゃ素人じゃ無理だった 「デカくないですか?」 「そうなんだよ!頼めるか?」 「解りました!大丈夫です 絵を持って、俺を飾る場所まで連れて行って下さい」 遼一が言うと榊原が慎一に声を掛けた 「飾る場所は3階の僕達の部屋です 着いて来て下さい」 榊原は遼一に声を掛けると絵を持った 慎一が榊原に「大丈夫ですか?」と声を掛けた 「大丈夫です 康太はこの絵は誰にも触らせません ですから僕が持って行くしかありません」 「青龍ですからね……仕方ありません」 榊原は何も言わずに微笑んだ 榊原は絵を持ち、応接間を出て階段を上がってゆく 遼一はその後に続いて上がって行った 慎一が榊原の後ろに着いて康太達の部屋のリビングのドアを開けた 榊原はリビングに入ると絵を床に置いた 遼一は脚立を持って部屋に入って来ると 「何処に付けるんだよ?」 と問い掛けた 榊原は部屋の一番中央に頼んだ パネルを外して、その位置に頼むと作業に掛かった コンクリートに直接杭を打つ そしてコーキングして固定すると乾くのを待つ その間に遼一はパネルを他の場所に掛けようか?と問い掛けた 「お願い出来ますか?」 「おう!お安いご用だ! 何処に飾るんだよ?」 「高い地位でも良いですか?」 「構わねぇぜ」 榊原は部屋に入って直ぐに見れる正面の高い位置に付けてくれと頼んだ 遼一は脚立をその位置に立てるとコンクリートにじか打ちして固定した パネルを掛けて風で動かない様に下にビズを打った 固定した場所を確認すると 「絵を掛けて良いぜ デカいからな固定する場所は二カ所だ 誰か向こうから持って掛けるのを手伝ってくれ」 遼一が言うと一生がリビングを出て行き脚立を持って戻った 脚立に上るのは慎一 遼一と慎一が絵を上げて引っ掛けると、遼一はビスを打ち込み、固定した 「歪んでねぇな確認してくれ」 遼一が言うと榊原が中央に立ち確認した 「大丈夫です!歪んでません!」 榊原が言うと遼一は脚立を片付けた 「落ちる事はまずねぇ! ビスで固定してあるから地震が来ても相当デカいものじゃなきゃ大丈夫だと思う」 遼一はそう言いリビングを出て行った 下まで下りて帰ろうとする 康太は「お茶でも飲む?」と聞くと 「一緒にいられる時間は一緒にいてやりてぇから…」 と言い帰る気満々だった 榊原は胸ポケットから封筒を取り出すと遼一に渡した 「………え?」 「ただ働きなんてさせられません! 気持ちです!」 榊原が言うと遼一は辞退した 「俺は康太に恩がある 康太には返しきれねぇ恩があるんだ 康太の望みならなんでも聞いてやりてぇんだ」 「遼一、木瀬と美味しいモノでも食べに行きなさい 休日に恋人の傍から呼んだ詫び分です」 榊原はそう言い遼一のポケットに封筒を突っ込んだ 「僕の康太は喜んでます その気持ちの分です!」 康太はニコッと笑って榊原に手を伸ばした 榊原は康太を抱き上げた 「遼一、恋人と仲良くな! 幸せになれ! オレはそれしか望んでねぇよ」 「……康太……ありがとう」 「遼一助かった! お前に頼んで期待外れと言う事は一度もねぇ おめぇは信頼出来る職人だ 胸を張って自分を卑下するな!」 「……康太…」 「ほれ!恋人との時間だ! またな!今度現場に差し入れ入れるな」 遼一は深々と頭を下げると帰って行った 康太は榊原の腕から下りると、階段を上って行った リビングに戻り、掲げられた絵を眺める 何処から見ても青龍だった 天空に上って気流に乗ってゆく青龍だった 『康太、風月が水月に逢わせると言っている』 弥勒の声が頭上から響き渡る 「本当か?何時だ?」 『明後日、午後1時に我の家に迎えに来てくれ その時、何処で逢うかは教えてくれるそうだ』 「解った!明後日の午後1時な!」 康太が言うと弥勒の気配は消えた 榊原は弥勒の声が消えると 康太を背後から抱き締めた 「伊織、オレの青龍だ……」 「君の好きな青龍ですね」 康太は榊原を見上げた 「お前だろ?」 「そうですが……」 「オレはお前じゃなきゃ愛さねぇよ」 「康太……」 榊原は康太の肩に顔を埋めた 「明後日、鷺尾水月に逢わせて貰う オレの青龍を此処まで再現した人間に逢いたくてな……無理言った」 「僕も行きます! 僕も逢ってみたいです 行くギリギリまで仕事をしてます」 「なら一緒に行くか」 「ええ。一緒に行ける時は一緒に行きましょう 最近、仕事をそこまで溜めてないので、少しなら余裕です 副社長決済で止めてましたからね……頑張りました」 「伊織の遣りたい事があるのに…本当に悪いって…想う」 「僕は君の守る会社や家族を護りたいのです 君と一緒に生きていたいのです 幾ら夢を叶えても君がいなきゃ意味がない…」 「……伊織…」 康太は榊原の方へ向いて抱き着いた 榊原はキツく康太を抱き締めた 慎一はリビングに来て、抱き合う2人に声を掛けた 「康太、今宵は和室に席を設けますか?」 「お!それ良いな! 応接間も良いけど飲むなら和室の方が良いよな」 康太は嬉しそうに言った 「慎一、そろそろ運ばれる時間ですか?」 榊原が慎一に祝い膳が到着する頃かと問い掛けた 「まだですが俺は用意があります! 俺は魚政まで出掛けて頼んどいたモノを受け取りに行きます」 「気を付けて行くんですよ? 何を頼んだのですか?」 「マグロを半分! 凍った状態で貰い受けるのです」 「………マグロを半分……また凄いですね」 「格安に競り落としてくれました 何時も買いに行く魚屋の大将に頼んで落として貰いました! 短冊状に切り分けて渡してくれると言うので貰いに行かねばなりません!」 「1人では無理です」 「一生と聡一郎と隼人を連れて行きます」 「………隼人は戦力にはなりませんよ?」 「そうでもないですよ? 出会った頃の隼人なら使えませんが、今は違いますよ? 買い物も一緒によく行くので買い方も覚えて、料理も作る時に、よく見てるので教えたら、かなりの要領の良さは発揮しています」 「……え?本当に?」 「隼人は料理も出来ますよ?」 「知りませんでした 買い物も手伝えるようになったんですね 男の子ですね……何だか言葉もありません 何も出来ない隼人だと想ってました…… 子供の成長は本当に早いですね」 榊原がしみじみ言うから…… 慎一は苦笑した やはり隼人は、この人達の子供なのだ…… と、こんな時、思い知らせられる 慈しみ育てているのだと……想う 「僕達の長男は成長しましたよ?康太」 「隼人は育児もしてんぜ?」 「オムツ変えるの上手いですよね? 何だか淋しいですね…… 隼人の成長を誰よりも喜ばねばならないのに……」 「隼人は何処にも行かねぇかんな この飛鳥井に住むために戻って来たんだ この家の半分は隼人が金を出したんだぜ! アメリカに長期に渡って仕事してたのは纏まった金を用意する為だかんな!」 「でしたね……隼人はこれからも成長してゆくのですね」 「おう!人間、此処までで良いと言う事はねぇかんな! 日々成長してゆくんだよ 成長しねぇのはオレの身長くれーのもんだ」 榊原はたらーんとなった 慎一はどう言って良いものか……悩んだ 一生が慎一を呼びに来て 「おい!慎一、隼人が待ちくたびれてるぜ!」 慎一はホッと息を吐いた 「康太、美味しいお魚用意するので待ってて下さい 貴方の為だけに俺は日々食事を作ってます」 「慎一、今から楽しみにしてんぜ! 美味しいんだろうな……でも生物は……あんまし食えねぇ……もんな」 「大丈夫です!康太 焼きも美味しいんです! では、行って来ます」 慎一は2人に会釈すると一生と共にリビングを出て行った 康太は榊原に抱き着いた 「伊織、生物少しなら良い?」 「蕁麻疹……出なきゃ良いんですけどね」 「……痒いのは嫌だ…」 「様子を見て食べましょ? まだ胃腸は油断ならない状態だと久遠先生に言われたでしょ?」 「………過剰にアレルギー反応起こすかも……だろ?」 「ええ……食べたいモノも食べれないなんて…」 榊原は哀しそうに仕方がなかった 変われるものなら変わってやりたい 榊原は何時も想っていた 食べるのが好きな康太なのに…… 好きなものも自由に食べれない そんな日が来るなんて想ってもいなかった 榊原は辛かった…… 「伊織、夜まで少しあるし寝るか?」 「良いですね 君と惰眠を貪りましょうか」 「服脱ぐ?」 「脱ぎましょう 下手に着て寝ると疲れます」 「だな」 康太と榊原は寝室に服を脱ぎ捨てるとベッドに入った 抱き合い眠りに落ちる 榊原は腕の中の康太を強く抱き締めた 慎一と一生と聡一郎と隼人は買い物から帰って来ると準備に取り掛かった 聡一郎と隼人は和室に机を並べ座布団を置いた テーブルの中央に花を飾った この花は康太が生けた花だった 免許皆伝と言うだけあって見事な生け花だった 準備が整うと清四朗と真矢、笙と明日菜が明日会の家にやって来た 出迎えた慎一に清四朗は 「康太と伊織は? どうしたのですか?」と尋ねた 「寝室で寝ていると想います」 「起こしに行きましょうか?」 清四朗が問い掛けると、慎一は 「お願いします」と言いキッチンへと入って行った 清四朗は真矢達のスリッパを取り出すと靴を脱いで下駄箱に入れた 真矢も靴を脱いで下駄箱にいれると笙と明日菜も靴を脱いで下駄箱に入れた 応接間の奥に行くと階段があり、清四朗達は階段を上がって行った 3階まで上がって行くと清四朗はリビングのドアを開けた そして寝室のドアをノックした 「…………」 シーンとして返答がないと清四朗はドアノブを捻った するとドアが開き、清四朗達は寝室に入った 部屋の中は電気も点ってなくて真っ暗だった 清四朗は電気を点けた すると榊原は眩しそうに……顔を隠した 「伊織…」 清四朗が声を掛けると、榊原は瞳を開けた 「父さん……」 榊原は身躯を起こした 上半身は裸だった 横で寝ている康太も裸だった 何だか……悪い所に来た気分になった 「伊織……眩しい……」 康太は榊原に縋り付いた 「もう父さん達が来る時間ですか?」 「今は午後5時30分頃です」 「もうそんな時間ですか……」 「そろそろ起きなさい」 「父さん達に絵を見せたいです リビングで待ってて下さいますか?」 榊原がそう言うと清四朗達は寝室を出て行った 榊原は康太を起こすと服を着せた 榊原も服を着ると髪をとかしセットした 康太の髪もセットして、身なりを整えるとベッドを直した 「行きますか?奥さん」 「おう!伊織、行こうぜ」 榊原は康太を抱き上げると寝室を後にした リビングに行くと清四朗達は壁に掲げた絵を見ていた 「堂嶋正義さんからのプレゼントです」 榊原は絵を見ている家族に話し掛けた 「綺麗ですね」 清四朗は心からそう言った 「手は触れないで下さい 康太のモノですから……」 康太が気に入って誰にも触れさせない絵 それだけで清四朗と真矢は誰なのか解った 真矢は榊原の腕の中の康太を撫でた 「康太、体調は?」 「悪くはねぇけど……食いたいもんはまだ食えねぇ」 「まだ本調子じゃないのですね…」 「んなに直ぐに変化は見られねぇけど、前よりは良いな でも食いたいもんは食えねぇし……まだ柔らかいものしか食えねぇ」 好きなモノはまだ食べられないと言う 清四朗は可哀想になった 真矢も康太を抱き締めた 「下へ行きますか?」 「ええ。皆さんおみえになる頃ですね」 榊原はそう言い清四朗達と行こうとすると、康太はソファーに座って動かなかった 「康太?」 「伊織、正義と幸哉が来るかんな連れて来てくれ」 「解りました! ちゃんと座っていて下さいよ?」 「解って、待ってるかんな連れて来てくれよ!」 榊原は清四朗達とリビングを出て行った 暫くして榊原が堂嶋と幸哉を連れてやって来た 「康太、正義さんと幸哉君です」 榊原に呼ばれて康太は立ち上がった 「正義、ありがとう!」 康太はそう言い絵の前に立った 堂嶋は「この絵……ですか?」と康太に問い掛けた その人の望むモノを絵にする空想画家、鷺尾水月を紹介され、康太の写真を持って向かった 気難しいとされる水月は 「要件だけ承ります 結果、ご期待に添えない時もあります ご了承下さい」 と前置きをして、堂嶋に手を差し出した 堂嶋は水月の手の上に写真を置いた 水月は写真を見るなり微笑み 「ご依頼を承ります! 絵はできあがったら本人様に送ります 貴方は彼から絵を見せて戴いて下さい 写真はお返し出来ませんのでご了承下さい」 堂嶋は兵藤の住所と名前と電話番号を渡して帰宅した 堂嶋は不器用な男だから飛鳥井康太の気に入るモノが解ららなかった だから政局の人間に紹介して貰い、水月を訪ねるしかなかった 堂嶋はやっと完成した絵を目にした 絵は荒れ狂う空に蒼い龍が上って行く絵だった 康太の望むモノが……これなのか? 堂嶋は不安になった 康太は愛しそうに龍を眺めていた 「この絵が坊主の心から望む…カタチなのか?」 写真を見て、その人の欲しいモノをカタチにする空想画 「オレの愛して止まない青龍だ! 此処まで見事に再現されてるとはな……驚いた」 愛して止まない青龍…… 益々……訳が解ららなかった 榊原は康太をソファーに座らせた 堂嶋と幸哉もソファーに座らせると、慎一がお茶を持って来た 「………あの絵は本当に坊主の心から望むモノなのか?」 不安な堂嶋は康太に尋ねた 「おう!あれはオレが心から望むモノだ オレの愛する存在は今も昔も唯一人 青龍しか愛せねぇよ! 青龍だけ愛してるんだよ 正義見てみろよ!あの鱗一枚綺麗に輝く龍を…」 堂嶋は榊原の前で…なんと言って良いか困った 「オレの青龍は魔界で1番美しい! 誰にも見せたくねぇ程にな!」 「坊主……」 「心配するな浮気とかじゃねぇかんな! オレの蒼い龍は、ちゃんとオレの横にいるかんな!」 「…………え?……」 「四神の一人青龍! 知ってるか?青龍と言う龍を?」 「青龍、玄武、白虎、朱雀……の青龍ですか?」 「そう!それ!それはオレの愛する青龍なんだよ!」 「………お聞きして良いのですか?」 「オレに青龍の絵をくれたかんな 正義には何故オレの望むモノが青龍なのか教えておかねぇと……と想っている」 「では、お聞き致します あの蒼い龍を愛してると仰る真意を聞かないと気になって……仕方ありません」 「あの龍はな、オレの愛する青龍なんだよ 神の時の名は青龍! 四神に名を連ねる神だ! 人の世に落ちた今は榊原伊織、オレの伴侶だ」 堂嶋は驚愕の瞳を康太に向けた 「オレが愛するのは未来永劫青龍唯一人! 幾度生まれ変わろうともオレは青龍しか愛さねぇ それがオレの愛だ……」 「……では伴侶殿は……この姿が……本当なのですか?」 「そう。青龍の本当の姿は、 龍だ」 「………坊主も龍……なのか?」 「オレか?オレは違う オレは炎帝、焔を司る神だ」 「……神であられましたか……」 堂嶋は息を飲んだ 幸哉は青龍の絵を見て 「綺麗な龍だね」と賛辞を述べた 「ありがとう オレの愛する青龍だかんな!」 康太はそう言い笑った 榊原は静かに座っていた 康太は榊原の膝に跨がり座った 「伊織、そろそろ下に下りねぇと皆が来るかんな」 「解りました。 正義さん幸哉君、下に下りて行きましょうか」 榊原はそう言い康太を抱き締めたまま立ち上がった 慎一が迎えに来て、一緒に下りてゆく 応接間に行くと皆が来ていた 神野も顔を出していた 「晟雅じゃん…足は治ったのかよ?」 「治りました!康太……逢いたかったです」 神野はそう言い康太に抱き着いた 「避けてのは、おめぇじゃねぇかよ?」 「貴方に怪我をさせてしまったショックでした でも限界だし笙に永遠に逢わねぇとも伝言もありましたし……逢いに来ました 引っ越し祝い飾って下さったのですね」 「おう!慎一と伊織がやってくれた」 康太は神野を離すとソファーに座った 慎一は堂嶋と幸哉をソファーに座らせた 安曇も戸浪も相賀、須賀、蔵持善之介も顔を揃えていた 慎一は全員に 「和室に席を御用意しております 皆さん和室にお移り下さい」 と言いドアを開けた 慎一に案内されて和室へと移る 康太と榊原も和室へと移った 飛鳥井の家族も榊原の家族も席に座り 一生や聡一郎が祝い膳の用意をする 榊原は慎一の手助けをして マグロを一人ずつ盛り合わせたモノを並べた 料亭の膳ものより豪華だった 榊原は全員に 「このマグロは慎一がマグロの半身を買い付けて下ろした新鮮なマグロなので食べてみて下さい」 と新鮮なマグロを絶賛した 清四朗が「飛鳥井家、引っ越し祝いおめでとうございます!」と乾杯の音頭を取った 康太の前には生物じゃなく焼きの入ったミディアムな刺身が置かれていた 康太は榊原を見た 「慎一の想いですよ」 康太は頷いた 美味しい料理に舌鼓を打ちながら会話に花咲く 飛鳥井の新居で迎える初めての宴だった 三木は康太の横に座ると 「体調はどうですか?」 「悪くねぇけど……食いてぇもんはまだ制限されてるな……」 「まだ食べれませんか…… あの狸親父……康太を何故治せねぇんだ…」 「言ってやるな……精一杯治療されても限界と言う事もある……」 「康太……」 三木は康太を抱きしめた 「飲んで来い! 最近忙しいんだろ? またには想いっきり飲んでストレス発散しろ」 「そうします」 三木は席に着き飲み始めた 安曇は康太を抱き上げた 「康太、新居のお祝いを持って来ました! この家には茶室があるとか」 安曇は年季の入った箱を康太に渡した 康太は箱を空けると…… 「勝也……これはダメだ……」 利休の茶器だった 「お気になさらずに! 安曇総太郎のコレクションから一つ持って来ただけです 登紀子が見繕って持たせてくれました これでお茶を立てて下さいね 私はお茶には疎くて宝の持ち腐れなんですよ」 「伊織……」 康太は榊原を見た 榊原は茶器を慎一に渡した 「慎一、茶室の用意をしてください」 榊原が言うと茶室と続きになってる襖を慎一は開いた 釜に火を入れ茶釜を沸かず 相賀は榊原に「お茶を立てられるのですか?」と問い掛けた 「ええ。康太が立てます このテーブルの上の華は康太が生けました」 全員が驚いた 「康太、湯が沸きました」 慎一が言うと康太は茶釜の前に正座した 慣れた手付きで茶を点てる 安曇は康太の前に座った 見事な手前で茶を点てられ安曇は感心していた 茶を差し出されて安曇は受け取り茶器を回した 茶を飲むとまろやかな味に安曇は舌鼓を打った 「見事なお点前でした」 「お粗末様でした」 「凄いです康太 此処までまろやかなお茶は初めてです」 康太は賛辞に 「精神修行の一環で点ててるだけだ 何時でも点ててやるぞ!」と何の事はないと気軽に答えた 「飛鳥井の家に遊びに来るのが楽しみになりました」 「ついでだから全員に点ててやんよ」 康太が言うと慎一が茶器を用意した 全員が茶室に入り茶を点てて貰う その味に全員が舌鼓を打って感嘆した 清四朗や真矢もあまりの美味しさに感嘆した 茶を点て終わると康太は和室に戻った 慎一は片付けをして茶器を洗って釜の火を落とした 戸浪は康太に「私も絵ですが……」と言い頑丈に梱包した箱を康太に渡した 一生が梱包を解いて康太に渡した 「水墨画 山水……見事です! こんなの戴けないです……」 「お気になさらすに! 祖父、宗玄のコレクションの中から持って参りました…… 祖父の形見です……お納め下さい」 「……え?……宗玄は黄泉に渡られたか…… 何時?……」 「……今朝方……息を引き取りました 祖父が生前私に託した絵を持って参りました」 「………通夜か?今夜……」 「そうです…… が、今夜は飛鳥井の家の祝です 辛気くさい話はこの辺で……」 戸浪は康太の側を離れると皆に礼をした 源右衛門は泣いていた 清四朗が源右衛門を支えていた 「……友よ……」 源右衛門はそう呟いて顔を覆った 「じぃちゃん!友を集めろよ! 宗玄を旧友全員で送ってやれ!」 康太がそう言うと源右衛門は立ち上がった 「一生、頼む」 康太が言うと一生が立ち上がった 戸浪は恐縮していた 「……申し訳ありません。 私が言わなければ……良かったのです」 「若旦那、教えてくれてありがとう! じぃちゃんは友を送れる! 桜林の友を集めて宗玄を送れる 聡一郎、霞に連絡を取ってくれ 桜林学園OB会を駆使して葬送の儀に乗っ取って送る段取りを取ってくれ!」 「了解!」聡一郎は和室を出て行った 「飛鳥井の新築祝だ! 皆飲んでくれ! そしたら明日、戸浪宗玄を送る 黄泉に逝かせてやらねぇとな」 康太は天を仰いだ 「龍騎、戸浪宗玄を送ってくれ」 『その者は弥勒厳正が自ら葬送の儀に乗っ取って送る者だ… 我は手を出せぬ…』 「厳正?旧友じゃねぇよな? あんで厳正なんだ?」 『源右衛門と共に晩年は何時も一緒にいた 酒を飲み交わし友となった者だそうです』 「それでか……」 『康太……我も冥福を祈ろう』 「龍騎ありがとう」 康太は礼を口にした 『康太……何かあったら連絡する…』 康太の廻りを一陣の風が吹き……紫雲は気配を消した 「若旦那、今宵は飲んで泊まってけよ 明日、オレ等は若旦那と共に戸浪の自宅へ行く 戸浪宗玄を追悼の儀に乗っ取って送る」 「………康太……」 戸浪は康太に深々と頭を下げた 安曇も「では私もお送りいたしましょう!」と言い戸浪の酌をした 三木も「私も見送ります!秘書に礼服を持って来させます」と言った 相賀も「無論、私もご一緒致します」と戸浪に言った 須賀も「礼服を持って来させます!私もお見送りさせて戴きます」と言い 堂嶋も「お邪魔でなくば、私もお送りさせて戴けますか?」と問い掛けた 「正義さん……父も喜びます!是非……」 康太は戸浪の横に座ると戸浪の頭を掻き抱いた 「戸浪宗玄は厳しい祖父だったが、誰よりも孫の幸せを望んで祈った 戸浪の跡継ぎを見届けて黄泉に旅立った 弥勒厳正が黄泉まで見送ったそうだ! 黄泉に逝くまでに迷子になっちゃいねぇ… だから泣け……泣いて……送ってやれ」 康太が言うと戸浪は康太の肩に顔を埋めた 「飛鳥井のめでたい席で言うべきではありませんでした……」 「でも宗玄の最期を伝えたかったんだろ?」 「……はい……父は源右衛門殿に宜しく……永久の別れを言えずに申し訳ない……そう言い逝きました せめて……源右衛門殿に……最期だけでも伝えたく想いました」 「宗玄は戸浪の栄華を信じて逝った」 戸浪の嗚咽が部屋に響いた 戸浪は康太に縋り付いて泣いて……疲れて眠った 慎一が「寝せますか?」と問い掛けた 「席を半分にして襖を閉めて布団を敷いてくれ」 「御意!」 慎一は部屋を縮小して襖を閉めると布団を敷いた 榊原が戸浪を抱き上げると、慎一は布団を捲った 榊原は下着だけ残し、スーツを脱がせた 康太は席に玲香の隣に座ると 「母ちゃん、兵藤んちを気にしてやってくれ」 と頼んだ 「何かあるのか?」 「なきゃ良いけどな…」 「解った!気にして声を掛けるとするぞ」 頼むな、と言い康太は榊原の隣に座った 夜更けまで飛鳥井や榊原の家族は飲んでいた 相賀、安曇、須賀、善之介、神野は静かに飲んでいた 夜明けまで……弔いの酒を飲む 辛い戸浪に変わって酒を飲んでいた 夜明け前に……雑魚寝で寝て…… 目を醒ます

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