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第24話 苦難 ①
康太は会社に出向き副社長室にいた
雅龍に夕方逢いに行くから、榊原の副社長室に朝からずっといた
「雅龍、神楽の家に行くから」と告げると雅龍は
『飛鳥井に伺います』と告げて来た
「あん時に来るんだよ?」と問い掛けると
『午後3時には行けます
今日は子供の検診があるので…』
「なら3時には飛鳥井で待ってる
慎一を迎えに行かせようか?」
『……良いです、大丈夫です』
雅龍の声は気丈に張り詰めていた
夏海が相当弱って来てるのだろう……
子供が2歳になる前に……
旅立つだろう
来年の神楽の年末は喪中になる……
康太は電話を切ったなり黙ったから榊原は心配して康太に声をかけた
「……康太、どうしました?」
「雅龍が3時には飛鳥井の家に来るって…」
「……そうですか…
夏海は調子が良くないのですね
神楽に出向けば夏海は無理しますからね…」
飛鳥井家 真贋 飛鳥井康太を夏海は心酔していた
康太は榊原の顔を驚いた瞳で見た
「……夏海調子が悪いの解るのかよ?」
「解りますよ……夏海にとって君は特別な存在
その君が神楽に出向けば夏海は無理しますからね
雅龍にしたら…夏海を無理させたくないのですよ」
康太は榊原の膝の上に乗った
「伊織……愛してる…」
康太は辛かった……
日々弱り逝くしかない夏海の運命が……
それを見送る雅龍も辛い時期なのは嫌と言う程に…
解っていた
榊原は康太を強く抱き締めた
「僕も愛してます」
康太は榊原の胸に顔を埋めた
「何も悪い事なんてしてねぇのにな……」
総て家の為に生きてるのに……
家の為に生きれば……
その命を縮めるしかないなんて……
「康太……死は終わりではありません…
二人の始まり……夏海と雅龍は死しても共にいます
君と僕みたいに…だから哀しんだら駄目です」
「………伊織…お前と離れるならオレは消滅する
お前を失って生きてはいけない……」
「僕も一緒です……
きっと雅龍も……そんな想いでいたのです」
榊原は康太の顔を上げさせた
康太の濡れた瞳を……手で拭い……口吻た
「泣かないで……康太
僕は君に泣かれたら……どうしたら良いか解りません……
不器用な男です……こんな時……どうしたら良いか解らなくて…君を抱き締めるしか出来ません」
「抱き締めて…伊織
オレはそれだけで幸せになれる
お前のぬくもりさえあれば……オレは生きていける」
榊原は強く……強く……康太を抱き締めた
自然と唇が合わさり……接吻をした
………………完全に二人だけの世界だった
ノックしてもドアが開かないから、ドアを開けた瑛太は……固まった
まさか副社長室に康太がいるなんて思わなかったから……
固まる瑛太を押し退けて、栗田が入って来た
「副社長!何故!あの企画は弾かれたのか教えて下さい!」
かなり怒り浸透で榊原に迫った
榊原は康太を抱き締めたまま、栗田に向き直った
「コストが高すぎです!」
榊原は一蹴した
「コストは少し高めですが!
それ以外は文句はなかった筈です!」
榊原は冷たい冷徹な瞳を栗田に向けた
「本当にそう想いますか?」
グッと栗田は押し黙った
康太は榊原の膝から下りると栗田に手を差し出した
栗田は康太に図面と計画書を渡した
康太は榊原の膝の上に戻り、それに目を通した
「一夫」
「はい!」
「あんで伊織が蹴ったか解るか?」
「………コストですか?」
「違う、この地質を見ろよ
コストはもっと跳ね上がるかもよ?」
栗田は康太の持ってる詳細の書類に飛び付いた
康太は地質の所を人差し指でコンコンと叩いた
「リスクを負ってまでする仕事じゃねぇと判断したんだろ?
ならお前は食って掛かる前に、対策を打ってくれば飲んだかもな……
この男は頭ごなしに蹴らねぇんだよ
蹴るにはそれなりの理由がある」
栗田は押し黙った
「貴方は……何故副社長室に?」
「オレ?オレは伊織が通した書類に判を押してる
オレがいた方が効率はいい
しかもオレも馬関係の仕事をしねぇとな
それが片付いたら伊織の仕事を手伝う
伊織の仕事が片付いたら、オレの仕事を手伝って貰ってるんだよ」
「………仲が宜しくて栗田は安心です」
「オレ等夫婦は助け合って生きてんだよ
夫の仕事を妻が手伝い、妻の仕事を夫が手伝ってる
オレ等はそうして生きてんだよ」
康太はそう言い笑った
「一夫、城田に一度見せてみろよ
木瀬より城田の方が現場に出てた分
地質に強いかもな」
「なら、そうします!」
栗田は深々と頭を下げて副社長室を出て行った
瑛太は「兄は栗田を連れて来ただけです」と言った
「瑛兄、珈琲位飲んでけよ」
瑛太は激しい接吻をしていたのを……ぶち壊した手前躊躇した
「………お邪魔じゃないなら……」
「オレと伊織が瑛兄を邪魔にするかよ!」
康太はそう言いソファーに座った
瑛太はその手前に座った
榊原は珈琲を淹れて来ると瑛太の前と自分の前に置いた
康太にはカモミールの紅茶を置いた
「伊織は地質に詳しかったのですか?」
瑛太は疑問を投げ掛けた
「伊織はうちが建築屋だかんな、専門用語とか地質の計算、その他にも色々勉強してんだよ
脇田誠一とチャットして疑問は聞いてっからな、かなり詳しいかもな」
脇田誠一と聞いて瑛太はギョッとした
あんな忙しい人がチャットなんて出来るのですか……
「伊織とチャット出来て誠一は喜んでたな
伴侶殿とのチャットは愉しいし、勉強する意欲が半端ない!俺も初心に返って建築に携わりたくなった…って言ってたかんな!」
「そうなんですか……」
「瑛兄、んな事より花見だよ
ちらほら咲き始めたもんよー」
康太の瞳はキラキラしていた
「三渓園に予約を入れます
人数の把握しとかなきゃなりませんね」
「瑛兄、それは慎一に任しとけ!
後、同窓会な、この会社の上でやれよ」
「え?………会社の上って前に飛鳥井が住んでた所ですか?」
「そう。場所に金をかけねぇ分料理を調達出来るぞ
酒と料理をふんだんに用意出来るし、時間を気にせずに集まれるじゃんか
ホテルだと時間までで、二次会に繰り出すだろ?
その分此処で飲めば良い!
酔い潰れても絨毯だしな大丈夫だろ?」
「良い案ですね……兄は途方に暮れてました…」
「一生と聡一郎を動かせばなんとかなる
料理はやっぱし慎一だな」
「……頼めますか?」
「それは瑛兄が言えよ
オレはもう伝えてあるかんな
詳しい詳細は瑛兄が詰めてくしかねぇもんよー」
「解りました!
帰ったら頼む事にします」
瑛太は珈琲を飲みながら、ゆったりとした時間を送っていた
珈琲を飲み終わるとソファーから立ち上がった
「休み過ぎると榮倉に怒られるので帰りますね」
「おう!またな瑛兄」
康太は片手をあげて笑って見送った
「……不器用だかんな……」
「………それ…僕に向けてます?」
「違ぇよ!瑛兄だかんな!」
「…変わりませんよ……僕とたいして…」
「…伊織には愛がある!」
「ええ。愛だけで乗り切ってます!」
榊原はそう言い笑った
キリの良い所まで仕事を終わらせると
榊原は康太に手を差し出した
「奥さん、自宅に帰りましょうか?」
「おう!」
康太は榊原の手を取った
そして二人でエレベーターへと向かう
上がって来たエレベーターに乗り込み地下駐車場まで向かう
榊原の車に乗り込み、飛鳥井の家に帰った
飛鳥井の家に帰ると慎一が出迎えてくれた
「あれ?慎一牧場は?」
ここ最近は別行動が多かった
一生と慎一は牧場が忙しくて飛鳥井に帰って来ない日も増えて来ていた
「牧場には一生がいます
篠崎さんが白馬からスタッフを呼び寄せてくれたので、少し時間を作れる様になりました」
「忙しいなら迎えに来なくて良いぞ」
康太がそう言うと慎一は怒って
「どれだけ忙しかろうと、貴方に仕える時間は確保します!」
と康太に告げた
康太は困った顔をした
無理させたい訳じゃないのだから……
榊原は康太の肩を抱いて
「慎一の想いです」と優しく促した
「慎一、3時頃に雅龍が来ます」
「解りました!
お茶の用意をしておきます」
「義兄さんが同窓会の相談をすると想います
その時は力になってあげて下さい」
「解りました!」
「着替えて来ます」
榊原はそう言うと自室に向かった
寝室の鍵を開けて康太を部屋の中へ入れた
クローゼットを開けてハンガーを取り出すと
康太のスーツを脱がせてハンガーに吊した
そして当たり障りのない私服に着替えさせた
榊原もスーツをハンガーに吊して着替えた
私服に着替えると
「応接間に行きますか?」と問い掛けた
2人して応接間に行き何時ものソファーに腰を下ろした
そんな2人に慎一はお茶を置いた
「慎一、飯食ったか?」
「………まだです」
「奇遇だな!オレ達も食ってねぇんだ」
康太は立ち上がるとキッチンへ向かった
「飯、食うもんよー」
康太が言うと慎一は昼食の準備をした
手際良く親子丼を作ると康太と榊原の前に置き、自分も食べ始めた
味噌汁を付けて、康太の沢庵も付けた
康太は瞳を輝かせ沢庵を食べていた
まだ沢山は食べられないが、それでも食べられないよりは良い
食事を終えると、康太は緑茶を飲んだ
最近は胃に優しい緑茶にしていた
「康太、そろそろ来ますかね?」
榊原も食事を終えて康太に問い掛けた
「そろそろ来るな」
康太が言うと玄関のインターフォンが鳴り響いた
慎一はキッチンに備え付けてあるカメラを作動した
「康太、雅龍です」
「応接間に通してくれ」
「解りました」
慎一は解錠すると玄関に向かった
康太と榊原も応接間に出向いた
ソファーに座ると雅龍が入って来た
「炎帝殿、青龍殿、お久し振りで御座います」
「堅苦しい挨拶は抜きにしようぜ!
雅龍、仕事して来てくれたんだろ?」
康太は足を組むと雅龍に問い掛けた
「はい!白狐ですね
彼は記憶すらありません
まるで生まれたての赤子の様でした」
「……記憶がねぇのか?」
「俺の得意とするのは予知、予見、透視
その俺の目に何も映りませんでした
まるで彼は俺の子供の凰星や煌星と変わらない存在だと想いました」
「でも生まれたてじゃねぇだろ?」
「年の頃なら…1000年は生きねば白狐にはなりませんぬから…」
「だろ?だから解せねぇ話なんだよ
毘沙門天、おめぇも調べたんだろ?
出て来いよ!」
康太が言うと雅龍は驚愕の瞳を康太に向けた
毘沙門天は飛鳥井の応接間に姿を現した
「雅龍の眼には赤子と出ましたか……厄介な事この上ねぇじゃねぇかよ?」
毘沙門天は姿を現して呟いた
「まぁ座れよ」
毘沙門天はソファーに座った
「空狐に今調べさせてる
空狐は八仙の処へ行ったが、情報収集は期待は出来ねぇと想う」
「あんでこうも解らねぇかなぁ…」
「梵天が今冥府に渡った
先代の風月は冥府を渡ったらしいからな…
本人に聞くのが一番だと、閻魔に許可を貰った」
「それが一番早いわな」
「あと少し待っててくれ
そしたら何か知らせれるかも知れねぇ」
「解った!
飯食ってけよ毘沙門天」
康太が言うと毘沙門天の瞳は輝いた
「良いのか?」
「良いぜ!」
康太は慎一に毘沙門天に何か食わせてくれ!と頼んだ
慎一は困った顔して康太を見た
「………何を作れば宜しいですか?」
「毘沙門天は好き嫌いねぇんだよ
だからあるのを食わせてやってくれ!」
「解りました!フルーツもあるので沢山食べて行って下さいね」
慎一がそう言うと毘沙門天は飛び上がって喜んだ
「炎帝、俺は食ったら勝手に還る!」
「おう!頼むな!」
慎一は毘沙門天をキッチンへと連れて行った
毘沙門天がキッチンに消えると康太は雅龍に向き直った
「雅龍、オレは人の世に堕ちて、総て20代で命を落として来たんだよ」
静まり返った応接間に康太の声が響いた
え?………雅龍は驚愕の瞳を康太に向け
「青龍は弱って死に逝くオレを何度も看取った
そうしてオレと青龍は幾多の転生を繰り返した
今世もオレは長生きは出来ねぇ…
じぃさんになるまで……青龍と生きたかった……
でも……オレは今までは夏海と変わらぬ年で人生を終えた」
雅龍は康太の言葉を聞いて…胸が痛んだ
青龍は幾度となく……
炎帝を見送ったと言うのか?
そして手に手を取って……転生を繰り返したと言うのか?
「………死に逝く者の傍にいるのは辛い
痩せ細り……日々弱って行く……者を見ていかねばならねぇからな……
雅龍……辛くなったら青龍に逢いに来い……
青龍は死に逝く恋人を見送らねばならぬお前の気持ちは誰よりも解るぜ……」
康太が言うと雅龍は泣き出した
「………何も出来ない……
日々弱って行く夏海に何もしてやれぬ」
榊原は雅龍を抱き締めた
「雅龍……夏海は君が傍にいてくれれば、それだけで良いと想います……
何も望まない……一緒にいたいだけなのです…」
「一緒にいたい心なら誰にも負けぬ……」
「それで良い……その想いさえあれば乗り越えて逝けます
僕は……何も出来ませんでした……
祈っても……願っても……日々弱って行く愛する人を……
何も出来ずに傍にいました
僕達は無力です……抱き締めるしか出来ません
でも信じて明日を生きたいと想っていました」
雅龍は何度も頷いた
「辛い時は泣きに来なさい
そしたら、また笑っていられます
子ども達に最高の笑顔を遺して行ってやれます」
榊原に抱き付く雅龍は嗚咽を漏らして泣いていた
日々……辛かったのだろう……
無力な自分を責めてしまう程に……
変われるなら……代わりたい……
愛する人を手放さなくても良いなら……
こんな命をなんか要らない……
そう思って日々を生きていたのだろう……
辛く………それでも大切な日々だった
刻む時は一分一秒だって惜しい
「煌星を戸浪に渡したら…
飛鳥井の菩提寺に通うと良い
鏡を作れ!黄泉に渡っても今世と黄泉と繋がる鏡を造って逝け
そしたら成長する我が子を見ていられる
龍騎には伝えておいた
菩提寺の住職には毎日迎えに行かせるかんな!
行って造って来い…
多分何ヶ月も掛かるけどな、夏海には大切な日々だ」
雅龍は頷いた
「解りました!煌星を渡したら菩提寺に通います」
「定めは……過酷だな…
だけど夏海は過酷だなんて想ってねぇぞ
夏海はもう先を見ている
今に囚われて泣く時間なんてねぇと想ってる
日々大切な愛しき時間だからな……」
「炎帝!青龍殿!本当に有難う御座います
悔いのない日々を送ります!」
「悔いのない日々を送れ!
夏海を頼むぞ雅龍!」
「はい!」
「慎一が送る!
また来い!子供を連れて来い!」
「はい!今度は子供を連れて来ます」
雅龍が立ち上がると慎一が傍に立った
「行きますか?雅龍さん」
「はい!頼みます」
雅龍は何度もお辞儀をして、慎一に送られて応接間を出て行った
榊原は「………辛いでしょうね……」と呟いた
康太は榊原に抱き着いた
榊原は強く康太を抱き締めた
「康太……最近、源右衛門を見ませんね…」
「鎌倉まで源右衛門を乗せて行って欲しいんだ」
「良いですよ」
「友の別れは堪えてるんだ…」
「共に生きた人なれば……想いは募りますからね…」
榊原は立ち上がると康太を抱き上げた
そして源右衛門の部屋のドアをノックした
ノックしても源右衛門は出なかった
ドアを開けると源右衛門は、ボーッと空を見ていた
榊原は康太を下ろすとクローゼットからバッグを取り出した
そこに着替えを詰めて行った
「康太、準備は出来ました」
「うし!ならじぃちゃん行くとするか!」
「何処へ行くのじゃ!」
源右衛門は抗った
「鎌倉!厳正の処へ少し行って来いよ」
「………厳正……死にかけておった…」
「大丈夫だって!海坊主は殺しても死なねぇよ」
酷い言い方である
「……ならば、行くとしようかな……」
「那智も帰って来たし
城ノ内や切嗣もいるじゃんか!
近いうちに、皆で迎えに行くからな!
それまでは骨休めして来いよ」
源右衛門は頷いた
榊原と共に地下駐車場まで行き、ベンツに乗り込む
源右衛門を後部座席に座らせると、榊原は荷物をトランクに入れて、康太を助手席に座らせた
シャッターのリモコンを押してシャッターを開けると、エンジンを掛けた
滑らかなにスロープを駆け上がり道路に出ると、一生の車と出くわした
一生は窓を開けて
「何処かへ行くのかよ?」と尋ねた
「鎌倉に行くんですよ」
「車停めて来るから待っててくれ!」
榊原は「解りました!少し前で停まってます」と言い車を走らせた
そして路肩に車を停めた
一生は地下駐車場に車を置いて来てた
シャッターを下ろすと、榊原の車の後部座席に乗り込んだ
榊原は車を走らせた
「なぁ康太、最近聡一郎、いなくねぇ?」
と後部座席に座った一生が声を掛けた
「白馬に行ってるんだろ?」
「仕事で?」
「四宮の仕事でだと想うぞ」
「…俺、あんにも聞いてねぇ…」
「聡一郎は今、悩んでるかなら…」
「子供の事かよ?」
「知ってたのかよ?」
「聡一郎がおめぇの子を見る瞳は刹那過ぎた…」
「悠太が女を抱いて出来た子を……と言うのがネックなんだよ
オレも伊織が女を抱いて出来た子なら………見れねぇと想う……」
「………康太……僕は君しか抱きたくないので大丈夫です
「伊織……」
康太の瞳は潤んでいた
「…………子供には罪はねぇけどな……」
複雑な胸の内は……介入出来ない
自分で解決するしかないのだから…
「…………聡一郎は許せねぇのかな?…」
「許すとかじゃねぇ…なんて言うんだろ?
現実を突き付けられてる……それを認めたくねぇんだろ?」
「……現実……そっか……俺には多分理解出来ねぇわ」
「………一生…」
「俺は聡一郎じゃねぇからな……」
「………オレ、悠太に全部話そうと想ってる
悠太だけ蚊帳の外じゃ……聡一郎は浮かばれねぇからな…」
「何時話すのよ?」
「今日!じぃちゃんを鎌倉に送って行ったら桜林に行く!
ついでに見てぇ奴もいるかんな!」
「誰?」
「桜林の高等部に新任した教師」
「………教師?」
「そう。彦ちゃんに言って逢わせて貰うつもりだ」
「なら俺も着いてく!」
「一生が遠慮する方が台風が来るかんな!」
康太はそう言うと笑った
一生は唇を尖らせて拗ねた
「あんだよ?その言い分は……」
一生が拗ねると源右衛門が、一生の頭をポンポンと撫でた
榊原の車は鎌倉へと向かう
鎌倉の山沿いに建つ屋敷に今、厳正達は住んでいた
屋敷の前に車を停めると榊原は車から下りた
トランクを開けて、後部座席を開けた
榊原は源右衛門を支えながら車から下ろした
一生は一足早く下りてトランクの荷物を取り出し閉めた
榊原は助手席のドアを開けると康太を下ろした
康太は正面玄関から入って庭へと出た
庭掃除していた神取那智に声を掛けた
「よぉ!那智、海坊主はいるかよ?」
康太が聞くと那智は箒を置いたまま
「師匠ぉぉ!康太さんです!」と呼びに行った
奥から弥勒厳正が姿を現した
「坊主!何か用か?」
「厳正、源右衛門を頼めるか?」
「………どうしたのじゃ?」
「戸浪宗玄を送った頃から……引き籠もりがちになって外に出ねぇんだよ
このまま籠もると体にも悪いかんな頼めるか?」
「………友をなくすのは……キツいからな…
解った!差し入れを期待して預かろう!」
「後から誰かに頼んで差し入れを持って来させるかんな、頼むな」
「良かろう!源右衛門、ボケるのはまだ早い!
庭掃除して焼き芋を焼くぞい!
お前達はさっさと帰るがよい!」
厳正に追い出され、康太達は帰る事にした
車に乗り込むと那智が現れた
「康太さん、厳正が何故こんなに弱っているのだ?と聞いて来いと言われました」
「引き籠もりがちになって飯も食わねぇんだよ」
「……お辛かったのですね……
源右衛門は元気になるまでお預かりすると厳正が申しておりました」
「頼むぞ那智」
那智は深々と頭を下げると、康太達を見送った
榊原は車を走らせた
「康太、桜林ですか?」
康太はメールを打っていた
「おう!生徒会室に来いって言われた
なんと、彦ちゃん!生徒会の顧問だそうだぜ」
「それはそれは……一番生徒を見ている人ですからね
生徒は遣りづらいでしょいね…」
「………伊織、許可は取ったらしいからな、来客者の駐車場に車を停めて生徒会室に行くもんよー」
「解りました」
康太は桜林に到着するまで榊原の肩に凭れ掛かっていた
康太が甘えて榊原を離さないから……何かあったのか…と想う
「旦那、康太何かあったのかよ?」
「雅龍が来てたんですよ……」
榊原の言葉で……総てが解った
亡くせない想いは……誰よりも強い……
「旦那、ご苦労だったな…」
榊原は何も言わなかった
車は見慣れた街並みを辿り桜林学園の来客用の駐車場へと向かい、車を停めた
車から下りると
「おーい!よく来たな!」
と生徒会室の窓を開けて、佐野春彦が手をふっていた
「伊織、彦ちゃん……変わらねぇな」
康太は苦笑した
榊原と一生と共に生徒会室へと向った
足音がすると佐野は生徒会室から出て康太に飛び付いた
「康太!逢いたかったぞ!」
「彦ちゃん、悠太を貰いに来た」
「おお!持って行け!
会議が終わってから捕獲しておいたからな!」
「ありがとう彦ちゃん
新任の教師は?」
「もうじき来ると想う!」
佐野が言うとドアがガラッと開いた
「佐野先生、何か御用ですか?」
「康太、彼が長瀬匡哉だ!」
康太は長瀬を見ていた
長瀬は訳が解らない顔をしていた
「長瀬先生、彼が貴方が逢いたがっていた飛鳥井康太です」
長瀬は驚愕の瞳で康太を見た…
「飛鳥井康太だ!」
「長瀬匡哉です」
長瀬は康太に手を差し出した
だが康太は握手はしなかった
佐野は長瀬に
「康太の隣にいるのが、伝説の執行部 部長の榊原伊織だ!」
と紹介した
「榊原伊織です!」
と榊原はペコッと頭を下げた
「長瀬匡哉、悠斗は、幾つになったよ?」
「……4月から幼稚舎に入ります……」
「そうか…和哉は6年か…そろそろ還る頃か」
「…あの?」
「天宮東青から聞いてねぇのかよ?」
「……聞いてます……」
「聞いてるからオレに逢って見たかったんだよな?」
「………そうです…」
「おめぇをあの家に住まわせて、作る子供は飛鳥井の一族の始祖返りとなる
飛鳥井の一族の輪に組み込む運命だ
もう代わりはいねぇ、だから父であるお前に伝えた」
「………解っています…
ですが、子を盗られるんです…
抵抗する算段位……させて下さい
僕とひなちゃんの愛の結晶なんですから!」
榊原は堂々と言ってしまえる長瀬に……
同じ匂いを感じていた
「子供は定めに従って生きてる
オレが奪うんじゃねぇ!
飛鳥井に返る運命なんだ!
力を持った子供に手を焼くのはお前達の方だとオレは想う
今お前達から貰わずとも、飛鳥井に返る運命だ」
長瀬は言葉を失った
飛鳥井康太は謂わば恩人だった……
天宮東青は長瀬に言った
『私の主はこの世で唯一人
飛鳥井康太だけです
私は彼の為にしか動きません!
康太は果てを見て、私を貴方の処へ導いたのです
私が動くには総て理由があるのです
飛鳥井家真贋 飛鳥井康太の明日に繋がる定めなのです!』
………と。
長瀬は飛鳥井康太に逢ってみたかった
たまたま新任した学校で……
伝説となって語られていた
桜林学園の四悪童
飛鳥井康太の伝説を……
長瀬は天宮に桜林学園の飛鳥井康太と、貴方の言われてる飛鳥井康太とは同一人物なのですか?
と問い質した
『そうです。康太は桜林学園に去年まで通っていました。
康太の時代は他には飛鳥井はおりません!
飛鳥井康太と言われる人こそ!我が主で御座います』
それで余計……飛鳥井康太に逢ってみたくなった
どんな人なんだろ?……
そう思っていた
優秀な大人を使いこなす飛鳥井康太
だが逢った…………飛鳥井康太は……
中等部?……と聞きたくなる程の子供だった
瞳の色が……違っていた
長瀬が康太を凝視していると、榊原が康太を隠した
その前に一生が立ちはだかった
「僕の康太を見るのは辞めて下さい」
榊原は長瀬に言った
長瀬は「……僕の?」と呟いた
佐野春彦は長瀬に
「この二人は夫婦なんです
去年結婚式を挙げた新婚さんです」
「………佐野先生……男同士ですが?」
長瀬が言うと一生が睨み付けた
「だから、何なんですか!」
一生は長瀬に食って掛かった
佐野は一生を押し止め
「不用意な発言は辞められよ
彼は、稀少の真贋
その人脈は貴方の想像を絶する筈だ
彼等はそんな人脈の方々に祝福され結婚式を挙げた
彼等は夫婦なんです
桜林OBはそう認識しています」
佐野の言葉に……長瀬は言葉を失った
榊原は長瀬に
「解れとは言ってませんので御安心を!
理解しがたい人にまで理解は求めてはおりません
貴方に理解されなくとも僕達は共に在る!」
と喧嘩腰に言った
康太を護って抱き締める姿はどこから見ても恋人同士だった
長瀬は深々と頭を下げた
「お許しを!」
「康太は何時も奇異の瞳で見られ続けました
康太の眼なら貴方の総てが見えますよ?
人は康太の眼の前では総て晒される
ですから貴方が今、此処に立っていられるのです
飛鳥井の始祖返りをこの世に送り出すからこそ!
貴方の子は飛鳥井に還るが定め
何も親子の縁までは切りは致しません!」
「愛する我が子なのです……」
「長瀬さん、子を持つ親の心なら僕達も解っています
僕と康太には5人の子供がいます
我が子を想う親の気持ちなら負けません!」
長瀬は想った
男同士で、夫婦なのは……解った
男同士で何時から妊娠出来る様になったんだ?
5人の子供が……
男で産めるご時世なのか?
佐野は嬉しそうに微笑んだ
「康太の子が来年、3歳で幼稚舎に入園する
3年待ったら初等科に来るんだよな?
そしたら俺は初等科の教師になる
康太の子が高等部を卒業したら定年だ
そしたら余生を妻と送るつもりだ…」
「彦ちゃん世話になるな
オレの子だかんな問題児なのは間違いねぇな」
「お前の子なら愛されて止まねぇだろ?」
長瀬は……機能停止した
康太は笑って佐野に
「世話かけたな彦ちゃん!」
「康太に逢えて俺はラッキーだった」
「なら弟を貰って行くぜ」
「おう!持ってけ!」
佐野が言うと悠太は佐野と長瀬に深々と頭を下げた
「では失礼します!
康兄、逢いたかった…」
悠太は康太に抱き着いた
その大きい身躯を折り曲げて康太に懐いていた
「そう言えば最近逢ってねぇな」
「俺が帰る頃、貴方は寝てたり出掛けてたりでしたから……
時間が合いませんでした!
義兄さん、今日はお手間掛けました」
榊原は悠太を抱きしめた
「話は飛鳥井の家ではしません
ホテルに部屋を取ってあります!」
悠太は覚悟の瞳を榊原に向けた
「はい!では行きましょうか?」
悠太は姿勢を正した
佐野と長瀬に深々と頭を下げると、悠太は背を向けた
桜林学園 高等部1年 4月からは2年に進級する
生徒会執行部 部長
………飛鳥井悠太は伝説と比べれば劣るが、そこそこ手腕を発揮していた
長瀬は悠太を知っていた
大人びた顔立ちが印象的だった
あんな無条件で懐く顔する人間には見えなかった
康太達は生徒会室を出て行った
佐野は窓から身を乗り出して、康太達を見送った
そして長瀬に向き直った
「長瀬先生、飛鳥井康太の印象はどうでした?」
「………子供の様な顔に騙されると……
喉元噛み切られる存在だと解りました」
「それだけ解れば上出来だ!
敵に回らぬ限り康太は反撃には出ねぇ
敵に回れば……確実に息の根を止める
それを忘れるな!」
佐野は長瀬を貫いて、そう言った
「康太は我が友、飛鳥井瑛太の大切な存在
康太の兄も伝説の執行部 部長をしていた
その友の宝を護る為に俺は此処にいるんだからな!」
飄々とした男の本気を見せられた
長瀬は……共に在るなら知らねばならぬ……
と実感した
「佐野先生、僕は敵に回る事は皆無なので、ご安心を!」
「当たり前だ!
敵に回るなら確実に息の根を止めてやる」
佐野はそう言い笑った
「飛鳥井悠太の笑った顔を初めて見ました…」
寡黙な大人びた少年の子供じみた部分を……
「悠太は康太にしかしねぇんだよ
アレは康太の子供みてぇなもんだからな!」
「……佐野先生……彼等が夫婦なのは解りました
……彼は子供を産んだのですか?」
長瀬は真面目な顔で聞いた
佐野は……驚いた顔して……長瀬を見た
「……幾ら康太でもな……子供は産めねぇよ」
「……………ですよね……」
「戸籍上ならな、我が子はいる
だけどそれは康太の子じゃねぇ
明日の飛鳥井の為だ……康太は飛鳥井の為だけに生きている……」
過酷な逝く道を示されて……長瀬は言葉を失った
悠太を乗せて榊原はホテルニューグランドに向かった
桜林に行くまでに一生に部屋を取らせておいた
ホテルニューグランドの車寄せに車を停めるとベルボーイに鍵を渡してホテルの中へと入って行った
一生がフロントへ向かいキーを貰いに行く
案内は断り戻ると、一生は榊原に鍵を渡した
榊原は康太と悠太を促して部屋へと向かった
キーの部屋の前に止まると、キーを差し込みロックを解除した
ドアを開けると、榊原は全員を部屋に促しドアを閉めた
榊原は悠太をソファーに座らせた
榊原は悠太に
「悠太、康太が話があります」と告げた
「聡一郎の事ですか?」
悠太は身に覚えがなくて尋ねた
「違ぇよ!聡一郎の事もあるけどな
今日、おめぇに話すのは聡一郎の事じゃねぇ!」
康太はそう言い、単刀直入に話に入った
「悠太、おめぇ、4年近く前に抱いた女
どうなったか知ってるか?」
「…………知りません
俺には関わりなき者になった方です
存知ません……」
「なら、おめぇの子供が産まれたのも知らねぇよな?」
康太の言葉に悠太は……
瞳を開いて……瞬きすら忘れて康太の顔を凝視した
「………俺……子供を作ってたんですか?」
「避妊してたのかよ?
おめぇ、ゴムはめた記憶あるのかよ?
ゴムはめてて出来たら、おめぇの子じゃねぇよな?」
「………ゴム……はめてませんでした…」
「なら妊娠の可能性があった筈だぜ?
おめぇは1度も子供が出来てる可能性を考えなかったのかよ?」
「……もしかしたら……と想いました
でも……あの日で関係は終わりました‥‥‥俺が連絡を取る事はなかったので…」
「おめぇには生涯、教えるつもりはなかった
オレは生みたいと言う女の気持ちを尊重して産ましてやった
そして、産んだ後も出来る限りの事はしてやった
女は納得して、再出発して行った
伊織、四宮永遠、見せてやってくれ!」
康太が言うと榊原は胸ポケットから携帯を取り出し
カメラのフォルダーから永遠の写真を開いて悠太に見せた
「……誰?……」
悠太は恐る恐る問い掛けた
「おめぇの子供だ!」
「………四宮?……何で飛鳥井じゃないの?」
「聡一郎が後継者に据えると決めたからだ!」
「………聡一郎が?」
「だが今、聡一郎は悩んでる
永遠はお前が女を抱いて出来た子だ
……子供には罪はない………
だけど、嫉妬してしまうのは仕方ねぇ…」
「……聡一郎……何処にいるの?
ニューヨークから帰って来てから……逢ってない
LINEもメールも無視されてる……」
「だから悩んでるって言ったろ?
聡一郎は今、白馬に行ってる」
「康兄……俺はどうしたら良い?」
「おめぇはどうしたい?
確実におめぇの子供はこの世に生まれ出て生きてるんだ……」
「………俺の子……何か信じられない……」
「おめぇはどうしたい?」
「……子供より聡一郎がいてくれれば良い…
聡一郎を苦しめてるのが俺なら……どうしていいか…解らない……」
「我が子を育てるか?悠太?」
悠太は首をふった……
「聡一郎を苦しめるから……」
「子供には罪はねぇんだよ!
罪を背負った子供なんてな、いねぇんだよ!
子供は宝だろうが!」
「康兄………」
「我が子なれば、傍にいてぇだろ?」
「……我が子でも……俺は抱く資格はない
知らなかった……我が子がこの世に生まれ出てるのに……俺は知らなかった……
そんな俺に親を名乗る資格なんてありません…」
康太は悠太を抱き締めた
「悠太……罪を作ったのは全部…
この兄が作ったんだ……お前は悪くねぇ…
お前に内緒で事を片づけたオレが総て悪い…」
「………康兄の所為ではありません
俺が……だらしなかったから……
ガキの癖に……女に世話になって……逃げた
康兄は何も悪くありません……」
「………それでも、だ!
お前に内緒で……やる事じゃなかった」
康太はそう言い泣いた
榊原が康太を持ち上げて抱き締めた
一生は悠太の頭を抱き締めた
一生は見ていて辛くて…口を開いた
「悠太、流生は俺の子だって……
おめぇは知ってるよな?」
一生が聞くと悠太は頷いた
「流生は本当なら……よそに里子に出される所だった
それを康太が若旦那に言って貰い受けてくれたんだ
悠太、例え父と名乗れなくてもな、俺は我が子の傍で暮らせて幸せだぜ!
血を分けた我が子が……傍にいる
ずっと見守っていける……それだけでいい
康太は何時か名乗りを上げろと言うけど……
俺は名乗れなくて良いと想ってる
我が子を見ていられれば……俺はそれで良いんだ
お前だって……我が子がいるとなれば……
傍で見ていたいと想う……我が子だからな……
血を分けた我が子だからな……
幸せに笑っててくれたら……それだけで良いと……
祈るような気持ちで……日々を送ってる
我が子は愛した証だ……愛した日々が詰まった存在なんだ……」
一生が言うと悠太は号泣した
「………あの時……妊娠していたら……
想わない日はなかった
傷付けた……あの人も……幸せでいてください……
願わなかった日はありません……
そして……もし……我が子が出来ていたとしても……
俺はペナルティー犯したから……父にはなれないんだ……と想いました
だから……想わない様にして康兄の子供を育てて行こうと想ってました……」
「逢いたいか?悠太……」
悠太は首をふった
「俺は聡一郎に内緒で逢う事はしたくありません」
「………聡一郎と話し合え……」
「………2人だけでは無理です……
聡一郎は本心は言いません……
逢いたいなら逢えば良い……そう言い取り付く島もありません……」
榊原は「聡一郎ですからね……」と呟いた
「最近、俺は聡一郎に一方的に別れを言われました
ニューヨークから帰って来て直ぐです
俺は別れない!と言っても……本人が捕まりません」
「………オレが倒れて入院してたかんな……
全く知らなかったら……別れまで切り出してたか…」
康太はボヤいた
榊原は「話し合うしかありませんね」と言った
一生も「だな!聡一郎だからな……苦戦は目に見えてる……がな…」と呟いた
「悠太、話し合おう!
聡一郎を捕まえたら呼びに行く
例え授業中でもオレが迎えに行ったら出て来い」
「はい!ぶっ千切って駆け付けます」
「うし!話はそれだけだ!」
「なら、俺も話があります」
「あんだよ?」
「高2になる戸浪万里……学校に出て来ません
寮にも家にもいないそうです」
「………え?万里?千里じゃなく?」
「行方が解らないそうです」
「誘拐?……」
「……神隠しみたいに消えて……いないのです
康兄に言っとかねば…と想いました!」
「お前は何で知ってる?」
「佐野先生が理事長しか知らない情報を教えてくれました
俺に言えば康兄に伝わると思ったんでしょうね」
康太は悠太を撫でた
悠太は嬉しそうに笑った
榊原も悠太を撫でて抱き締めた
「悠太、お腹減ってませんか?」
「ペコペコです
佐野先生……昼も食わせてくれずに捕獲してるんですから……」
「ならホテルを出たらファミレスに行きましょう」
榊原がそう言ってる間も康太はタブレットを出して何か思案していた
そして胸ポケットから携帯を取り出すと
「陽人?戸浪万里、調べてくれねぇか?」
と電話を入れた
『戸浪万里?この時期に?』
「え?何か合ったのかよ?」
『警視庁ハイテク犯罪対策課から依頼がありました
俺は飛鳥井康太の許可なく動けない……と言いました』
「調べてくれる?」
『お安いご用です』
剣持陽人は電話を切った
康太は天を仰いだ
「弥勒、犯罪の匂いする?」
『今は冥府におる……我は関われぬ…』
と弥勒は言った
「すまねぇ!冥府から戻ったら教えてくれ」
『解った!力になれずすまない康太!』
康太は腕を組み思案した
「康太、帰りますか?」
「おう!帰りファミレスな」
「解ってます」
榊原は考え中の康太を促して、ホテルを後にした
康太はタブレットでなにやらやっていた
榊原は何時ものファミレスの駐車場に車を停めると、康太を車から下ろした
康太は真っ赤のアウディを確認すると、店内に入って行った
店員が「何名様ですか?」と尋ねると
「連れが先に来てるんだ」と言い店内に入って行った
康太は兵藤が座ってる席に来ると、真横に座った
「悪いな急に呼び出して」
「大丈夫、お前の用程に大事なモノはねぇからな!
で、呼び出した要件は何よ?」
康太は無言でタブレットを差し出した
タブレットを受け取り……兵藤は固まった
「………で、俺に何をしろと?」
「情報収集!飛鳥井の応接間に住み着いても構わない
客間が良ければ客間でも良いぞ」
「解ったよ!一生サポートに出してくれる?」
「良いぞ!それかオレの頭脳、付けてやろうか?」
「……スワン?」
「そう!オレと寸分違わず動いてくれる」
「ならスワンと一生を使う」
「今頃飛鳥井の家にいると想う」
「……でもな解せんな……
理由もなく……人って消えるかな?」
「千里なら理由はあったんだよ…
万里は若旦那に似て、完璧な奴だからな……
消える理由なんてないんだよ……」
「………それが消えた?」
「………解せねぇだろ?
最近……解せねぇ事ばっかしやん」
「他にもあるのかよ?」
康太は白狐の事を話した
「絵……って堂嶋が贈った奴か?」
「そう……」
「…………解せんな……何だろ?
小骨が……刺さって取れねぇ感じ…」
「弥勒もそう言ってたんだよ…」
「……何か気持ち悪い……」
「……だろ?」
康太はそう言うと食事を始めた
後は黙々と食事をして、飛鳥井の家へ帰って行った
飛鳥井の家の玄関を開けると、慎一が出迎えてくれた
一生は「牧場は良いのかよ?」と尋ねた
「俺は主命なんで、夕飯を作りに帰るのは篠崎さんは知ってます
それより君、定期検診ぶっちぎって何処に行ってたんですか!」
慎一は怒っていた
「慎一、一生はオレと行動を共にしてた
定期検診だったのかよ?悪かったな」
康太が言うと慎一は
「康太、お腹減ってませんか?」と問い掛けた
「大丈夫だ、慎一
食って来たからな!」
「なら安心です!」
「慎一、頼みがある」
「何ですか?」
慎一が聞くと康太はしゃがめ……と合図した
腰をかがめると慎一の耳元にヒソヒソ ゴニョゴニョ かくかくしかじか…と話をした
慎一は姿勢を正すと「解りました!」と奥へと行った
康太は応接間のドアを開けると、何時ものソファーに座った
兵藤も応接間に入って来てソファーに座った
「俺、PC取りに行かねぇとな…」
と兵藤は呟いた
「あれから、どうよ?」
康太は兵藤に問い掛けた
「あれから、親父の目線で生活した
………俺等……何も見てなかった……
親父は倒れるし……退院するまでお前に合わす顔ねぇからな……看病していた
美緒も玲香に説教されてたよ!
夫を蔑ろにするな!と説教されて美緒は泣いてた
玲香はすげぇな……総ての手筈をしてくれて、役に立たねぇ俺等に変わってやってくれた
聞けば、おめぇに頼まれてた…って言ってた
親父が倒れても………って、あぁ、この事かぁ……と思って俺も反省した!」
「大切にしてやれ!」
兵藤は何も言わずに康太の胸をポンッと叩いた
「貴史、オレがPC持って来てやろうか?」
康太が言うと兵藤は慌てた
あんな部屋を見られたくはなかった
「行くな!行かなくて良い!
行くなら手伝わねぇかんな!」
「なら取って来いよ!
一生を連れて行けば、わざわざインターフォン慣らさなくても良いかんな」
「そうする!」
兵藤はそう言い一生を引っ張って出て行った
慎一はそれを見計らって
「聡一郎に連絡取りました
明日の朝には帰って来るそうです」
「そっか……なら慎一、部屋を取ってくれ」
「解りました!」
「慎一」
「何ですか?」
「和希と和馬の入学式
オレも行くかんな」
康太が言うと榊原も
「勿論、僕も行きます!」と告げた
「………え?……本当に……ですか?」
「本当……だ
初等科に入ったら…2人は修行させる
そろそろ……人と違うと解る頃だからな…」
「はい。お願いします」
「それよりも今は戸浪万里…だな……」
康太は独りごちた
「万里、何かありましたか?」
「跡形もなく消えた……」
「……え?消えたのですか?」
「……そう……消息不明…」
「神隠し?」
「………そう……」
「……誘拐でなく?」
「身代金の要求もない……そうだ」
「………なら……目的は何なんですかね…」
「……気持ち悪いだろ?」
「……はい……」
一生が兵藤と共に戻って来るとPCをセッティングした
康太は天を仰ぐと
「龍騎、予知、予見の能力者は知らねぇか?」
『美濃部一徳』
「何処に住んでるよ?」
『解らない…』
「………それは……困ったな…
誰か知ってるのいねぇのかよ?」
『厳正なら…』
「海坊主かよ?
さっき逢ったばっかだぞ…」
『厳正は元は美濃部の者』
「時間がねぇかんな呼び寄せてやる
またな龍騎!」
『……康太……胸騒ぎがするのじゃ……』
「龍騎、オレは負けねぇ!
心配すんな!」
『………何かあったら呼んでくれ』
「あぁ……解った」
紫雲は気配を消した
康太は空を仰いで呪文を唱えた
「おい!海坊主!現れよ!」
雷が轟き……稲光を光らせて厳正が現れた
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