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第25話 苦難 ②
弥勒厳正は姿を現すなり叫んだ
『坊主!我は忙しい!』
怒る厳正を他所に康太は問い質した
「美濃部一徳、知ってるかよ?」
『…………ほほう……奇妙な名前を口にするな坊主』
「仕事を依頼してみたいんだよ」
『坊主、美濃部一徳に依頼せぬとも、そこの慎一に視させれば良いではないか!
それ位の予見予知は出来ぬ事はない
お前が一番知っておろうが!』
「………それを言うか?」
『美濃部一徳は存在せぬ存在』
「……?存在せぬ存在?
あんだよそれは?」
『存在すらしておらぬのだ』
「………また気持ち悪い事を……
存在してねぇのに名前はあるのかよ?」
『予知予見の美濃部一徳と言われておるが、その所在は誰も知らぬ
美濃部の一族のモノだと言うけれど……
美濃部の一族は滅んだ
我が最後の血筋……ありえんだろうて…
なのに何故が美濃部の名前が使われ……所在も解らぬ…者が存在してると謂われてる
我が聞いてみたい位だ……』
「………厳正……訳が解らねぇ……
あんだよ?それは??」
『我も解らぬからな答えようがないわ!
それよりその男、深淵を探ったろ?
力が戻っておる……一番の適任だと想う』
「……力など要らない男に……不要なモノだ」
『あるのは使え!
ではな!坊主!差し入れを忘れるな』
「解ってんよ!」
厳正は気配を消した
応接間は沈黙が広がった
「あの海坊主……」
康太はボヤいた
慎一は康太に
「……康太、俺が視ます!」と申し出た
「お前にさせるのは嫌なんだよ……」
「あるのは使いましょう!
俺は貴方の期待に応えられます」
「……慎一」
「お気になさらずに
俺は貴方の為に在る存在!」
榊原は康太を引き寄せ抱き締めた
「慎一、康太は君に力を使わせたくないのです…」
「解っています
ですが今は、視るしかないと想います」
「出来ますか?」
「はい。やってみます
部屋に行って集中力を高めて来ます
遡って探る位は出来ると想います」
慎一はそう言い応接間を出て行った
康太は慎一を見送って……
「……海坊主め……」
とボヤいた
「慎一は君の役に立ちたいのですよ…それより
康太、人手がないので、食べ物とお酒
注文して配達して貰います」
「頼むな……」
「解ってます」
「んとによぉ!あんでこうも気持ち悪いのが続くんだよぉ!」
「………本当に続きますね…」
「さてとオレも本気出すかな?」
「………康太?」
康太の身躯から妖炎が上がった
「………康太……力を使わないで……」
榊原は苦しそうに……そう言った
「動けぬ真贋はいらねぇんだよ伊織
例えな……寿命を縮めても……オレは果てへと繋げねぇとならねぇ使命があんだよ!」
そう言われれば……榊原は黙るしかなかった
そうして榊原は幾度も炎帝を見送るしか出来なかった……
愛しているから……
止めたりしたくはなかった
康太の不本意な事は………したくはない
康太は天を仰ぐと…………
姿を消した
「康太!」
榊原は慌てて後を追った
一生と兵藤は唖然として………
事の成り行きが……理解出来ずにいた
「………赤いの……」
「………解ってる…」
「俺達は俺達にしか出来ねぇ事する!」
「………だな……貴史……消えるよな!」
「………消える前に仕事しろ!と怒鳴られる前に成果を出しとく……」
「だな……」
「働かせた代価は徴収してやるけどな!」
兵藤はそう言い嗤った
「やっぱし、そこに行くか……
でもお前……真っ赤なアウディなんて乗りやがって…キザ過ぎるだろうが……」
「あの車か?………あれな、堂嶋がくれたんだよ
康太に俺の好きそうな車をわざわざ聞いたらしくてな………アイツ……俺に嫌がらせしやがった…」
一生は唖然として言葉もなかった……
「働いた代価らしくてな……
だからな乗るしかねぇんだよ!」
兵藤は怒ってPCに向き直った
一生も気分を切り替えて康太からの依頼を遂行する事に考えを向けた
しかし………真っ赤なアウディ……
貴史の趣味にしては………と想ったら康太が言ったのかよ…
一生と兵藤がPCに向き直ってると、何処からとなく桐生夏生が現れた
「朱雀は生命の色、赤を身に纏えば運気も上昇するので、赤を選ばせたのです」
と夏生は優雅に笑いソファーに座っていた
兵藤はあの赤い車は康太の当て付け課と想ったら…
そんな経緯があったのかと……今更ながらに知った
「よぉ!スワン!」
一生が言うと夏生は笑った
「赤いの、さっさと仕事なさい!」
怒られ、PCに集中する
流石、康太の頭脳……
兵藤も集中して、追跡に没頭した
慎一が応接間に戻ると……
康太は何処にもいなかった……
榊原の姿も………
何処にもなかった…
慎一は一生に
「康太は?」と尋ねた
「解らねぇ…消えた…」
一生の台詞に……慎一は理解出来なかった
「何か想う所があって……消えたんだ…」
「………康太……」
慎一は主に想いを飛ばした
一生は慎一に
「何か視えたのかよ?」と問い掛けた
「遡っても痕跡は掴めませんでした……
多分……康太は結果は解ってたんでしょうか…」
慎一の呟きに兵藤は
「解ってたら、わざわざ視させねぇよ!
解らねぇから視させたんじゃねぇかよ!」
と言った
「貴史……今回俺は胸騒ぎが止まりません…
何故…こんな気持ち悪い事が続くんですか……」
「解らねぇからな……
康太は何処かへ飛んだんじゃねぇのかよ…」
「そうですね……
そっちは何か掴めましたか?」
「全国で万里位の年の奴が行方不明だって…
16、17、が全国で軽く10人は行方不明らしい……」
「………16、17……年齢限定ですか…」
「慎一、おめぇはこれをどう詠むよ?」
「行方不明の子の共通点が真面目、穢れなき存在…
ならば………儀式……ですかね?」
想像してなかった慎一の言葉に兵藤は
「…………儀式………あんだよ…それは…」
と、呟いた
「何か復活させい存在がいるのだとしたら……
穢れなき存在は生贄に………持って来い…かと…」
慎一の言葉に一生は
「万里は若旦那に似て融通が利かない男だ
トナミを背負う存在……誰の手も着いてない…と言う事か……」
と呟いた
「……おい…17なら誰彼構わず寝る年だろうが…」
と兵藤は穢れなき存在を否定しようとした
「……確かに……俺とか貴史……は穢れ過ぎてるわ」
一生はそう言い爆笑した
慎一は一生を止めた
「一生……下半身事情は似たり寄ったりです
言うだけ虚しくなりますよ…」
「お前……穢れなき存在っぽい顔してるのにな…」
「………俺は子供もいたし、生きてく為に……客と寝てた……穢れ過ぎてますよ」
一生は………後悔した
こんな事を慎一に言わせる気じゃなかったから…
兵藤は建て直して
「儀式って……何を想像する?」
「復活……が大きい……と」
夏生は黙って座って、その経緯を視ていた
「俺は深淵を探られて……封印した筈の力が戻った
俺に視えないモノはない……視ようとすれば視える
それが何も視えなかった……
意図的なモノを感じずにはいられませんでした」
慎一の言葉に兵藤は考え込んだ
夏生は静かに口を開いた
「康太は多分……冥府に行ったと想います…
今回は視えない事の方が多い……
八仙の所に青龍を置いて……炎帝は冥府を渡られた
事の発端は冥府にあると想ってらっしゃるのだと…」
兵藤は「冥府……」と呟いた
魔界の者でも冥府に渡るのは至難の業だった
魂の最終地点、冥府
神は寿命を迎えると冥府に渡り……
魂だけになり……消滅を待つ
その冥府を取り仕切っているのは皇帝閻魔
魔界を統治して古(いにしえ)の神々を魔界に住まわせ魔族との調和を測った英雄…
彼の息子が皇帝炎帝……
絶対の力で魔界を統治して恐れられた神……だった
今の魔界では絶対の存在は欠いていた
皇帝閻魔と皇帝炎帝が冥府に渡って以来……
混沌とした世界は続いていた……
そこへ天魔戦争が勃発し……多くの神々を失った…
皇帝閻魔と皇帝炎帝がいれば………
また違っていただろう……と謂われた神のいる冥府に……
兵藤は言葉を失った……
夏生は慎一に
「君は儀式を知っていますか?」
と尋ねた
「俺自体は儀式はやりません……
だが儀式は見た事があります………
穢れなき存在の血と肉を捧げる事によって……
復活すると信じている輩もいるのを見た事があります…」
「今回はそれに酷似していると?」
「………ええ……気のせいなら良いのですが…」
「慎一がそう言うなら、気のせいじゃないと僕は想うよ……
なら早く見つけなきゃ……あの?血と肉……って別々にするの?」
「……血を身躯から一滴残らず抜くのです
すると身躯は肉の存在にしかならない……ので血と肉と言う言い方をしてました」
夏生は想像して……吐きそうな顔をした
一生は夏生を抱き締め
「……大丈夫かよ?」と心配した
「………悪魔的儀式は受け付けないみたいです…」
「おめぇに何かあったら康太に怒られる…
辛いなら寝てて良いぞ
それか何か飲み物でも持って来るか?」
「………なら飲み物を……」
「おめぇの好きな葡萄ジュースがあんだよ」
一生はそう言い応接間を出て行った
慎一は夏生に謝った
「………すみません……俺が変な事を言いました」
「気にしなくて良いよ…
多分、間違ってないだろうからね…」
兵藤は思案して……独りごちた
「何処で万里は目を付けられた?」
考えはそこに行った
一生は夏生にジュースを渡して
「そこなんだよな……行方不明になる共通点がある筈なんだよな……」
と呟いた
兵藤は立ち上がった
「俺、叔父貴に聞いて共通点、探して来るわ」
「俺も着いてく!」
と言い一生も立ち上がった
そして二人して応接間を出て行った
夏生はジュースを飲み終えると
「慎一、僕は屋上にいます」と言い屋上に上がって行った
慎一は自分の部屋に戻り、和希と和馬を抱き締めた
「父さん、元気ないね」
和希が慎一に抱き着いた
「父さん、元気分けてあげる」
和馬が父の頬にキスを落とした
愛しき我が子を腕に抱け……慎一は幸せだった
そして想う……
戸浪海里の苦悩を……
戸浪は康太に力を使わせたくなくて……
連絡すら取らないのだろう……
その想いが痛かった
「父さん、この人ね視れないのはね
結界の中だからだよ」
和希は慎一が置いて行った写真を手にしていた
「和希……」
「結界が弱まれば、何処にいるか解るのにね…」
「………和希……お前、人前で力を使ったらダメだよ」
「父さん、解ってる!
僕達、ここに来るまで紫雲さんの所で修行してたんだ
人と違う力を持っているからと言って、それは悪い事じゃないんだよ……って康太君が教えてくれた
力は困った人の役に立てれるんだよ
だから、ちゃんと修行して間違った方向へ行かないようにしようねって言ってくれたの」
康太の想いに感謝する……
有りの儘の姿を……
子ども達は受け入れていた
力を使う本来の意思を違えないで育て様としてくれてる康太の想いが……伝わって慎一は泣いた
「父さん」
和馬が慎一の涙を拭いた
「父さん、泣かないで……」
「ごめんな和馬…」
「僕達は父さんがいてくれれば幸せだよ
父さんがいて康太君がいてくれる
そして皆がいてくれる
じぃじとばぁばがこの前、お子様ランチ食べさせてくれた
玩具も一杯買ってくれたよ
僕達、ずっと此処にいたい…」
「ずっといような……」
和希も慎一に抱き着いた
離れたくない想いは一つだった
「和希、和馬、お前達2人は父さんの宝だ!」
慎一は大切な存在を抱き締めた
なくせない存在を強く…強く、抱き締めた
そして想いは………
康太の処へ……
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