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第26話 奔走

康太は身躯を八仙の処、崑崙山に飛ばした 八仙は炎帝を見て、深々と頭を下げた 「炎帝殿、今日は本体でお見えですか?」 「八仙、緊急事態だ オレは冥府に渡る 我が夫青龍は冥府には逝けぬ 此処に置いて行くつもりだ」 「解りました! 青龍殿は冥府は渡れませんな… 皇帝閻魔に弾き飛ばされて入るのも叶わぬ 良い機会ですので、虹龍に逢わせましょう」 「八仙」 「何でございますか?」 「弥勒は冥府から戻っているのかよ?」 「…………転輪聖王は冥府から戻って何処かへ行きました……」 「……やっぱな…」 「お気を付けて炎帝殿」 「…………ではな、八仙、青龍を頼むぞ」 「御意!」 「青龍、少し待っててくれ!」 「炎帝……気を付けて……」 それしか望みません…と想いを込めて康太を抱き締めた 榊原が康太を離すと……康太はニカッと笑った 「案するな伊織 オレはお前を残しては死なねぇよ!」 榊原が頷くと、康太は姿を消した 榊原は八仙に 「……冥府に行かれましたか?」と尋ねた 「冥府に渡られた… この崑崙山からは冥府へも魔界へも自在に飛べる 此処は、その為に在る地! ですから炎帝殿は崑崙山に来られたのじゃ」 「………大丈夫でしょうか……」 「案ずる事はない 炎帝は皇帝閻魔のご子息 溺愛されし息子だからのぉ… 傷一つなく返してくれると想う」 「……解りました…」 「青龍殿、此方へ! 虹龍に逢わせましょう!」 八仙は青龍を虹龍に逢わせた 「虹龍!」 八仙が呼ぶと虹龍と呼ばれた存在が振り向いた 黒龍も転輪聖王も口を揃えて、青龍に似ていると謂われた虹龍がそこにいた 青龍は「………虹龍ですか?」と問い掛けた 虹龍はニコッと笑って青龍に深々と頭を下げた 「お初のお目見えですね青龍殿 虹龍と申します」 「青龍です……八仙……僕に似てますね…」 青龍が言うと八仙は笑った 「炎帝殿はオレの青龍の方が男前と仰られます その度に虹龍は拗ねておりました!」 笑うに……笑えなかった 虹龍は「青龍に近付くのは1万年早ぇんだよ…と言われてました……お会いできて光栄です」と深々と頭を下げた 「妻は……僕だけを愛してます故…許してくださいね」 「解っております! 炎帝は口を開けば青龍殿の惚気しか言いません」 青龍は苦笑した 「我は炎帝が魔界に還るまで崑崙山におります 今度お逢いする時は魔界で……ですね」 「虹龍、君の身躯を見せて下さい」 青龍が言うと虹龍は龍に姿を変えた 龍になり天へと駆け上がって行った その身躯は………虹龍と謂われる通り虹色に輝いていた 天空に虹が架かる…とても美しい光景だった 虹龍が現れる時 魔界は世紀末に突入すると謂われる 八仙が青龍に語った 「青龍殿、貴殿は龍を何処まで知っておいでかな?」 「黒、赤、青、地、白、金、銀、黄、そして火 ………ですか?」 「龍族はかなりの龍を失った…… 今は半分以下……そのうち絶滅するのではないか…… 炎帝殿が危惧するのは……そこじゃ」 「………龍族の危機……ですか?」 「金龍と銀龍が守護する天龍は冥府に渡ってバランスは崩れておった 黒龍、赤龍、青龍、地龍の四龍の兄弟の他に在らねばならぬ龍は不在じゃ 山龍、海龍、木龍、そして九頭竜…… 火龍も魔界から消えて……崑崙山に居着いた 魔界から消えた龍のバランスが取れなくなっているのじゃ… 総ての龍は、天龍、地龍、山龍、海龍、水龍、金龍、銀龍、火龍、赤龍、蛟龍、黄龍、青龍、白龍、黒龍、木龍等であり、最高の龍神は天龍であるのだ…… それを欠いた今、虹龍、蜃龍、そして天龍を生み出す……それしかないと炎帝は謂っておった」 「………天龍は誰が産むのですか?」 「…………青龍殿の妻……」 「炎帝は子は成せません…」 「当初は……青龍殿が作る予定でした……」 「………そうでしたか……果てを歪めましたか?」 「…………法皇青龍を継ぐ者……貴殿以外に……作れはしまい…… だが炎帝殿を妻に娶った今……それをすれば炎帝殿は消えてしまわれる…… 天龍を冥府から連れ還るしかあるまいて……と申したばかりじゃ…」 「………一族の者は産めませんか?」 「……無くはないが……命懸けになるのは間違いない‥」 「そうですか……僕は炎帝しか抱けません 炎帝が産むのであれば頑張ります」 青龍はそう言い嗤った 食えない顔で清々しく嗤われたら何も言えなかった 「龍族存続の為に……青龍殿には直ぐにでも法王とか謂っておらず、法皇を継がす様に閻魔には申し出た まどろっこしい事などせずとも、法皇を継いで龍族に活気を与えて下され すればバランスは取れる……」 「八仙、失われた龍は二度と生まれはしないのですか?」 青龍に問い掛けられ八仙は困った顔をして 「………それは炎帝しか解らぬ事だ 炎帝が導き出す明日こそ、存続に繋がる明日へ続く」と答えた 「そうですか…… その事態、父や母は知っているのですか?」 「知っておる……炎帝が崑崙山で伝えた 金龍、銀龍は虹龍に逢って、その事態を痛感したであろうて!」 「炎帝は何度も崑崙山に来ているのですか?」 「………それは本人に聞け…… 人の身躯を酷使しているのは確か…… だが炎帝は…人の世に在っても魔界を見通す その役割は過酷な事に変わりはない」 八仙はそう言い……消えた 八仙は全員喋る訳ではない 彼等は神通力で会話が出来るから話す必要などないのだ 何仙姑、韓湘子、藍采和、李鉄拐、呂洞賓、鐘離権、曹国舅、張果老と言う神々を八仙と言う 「青龍殿、八仙の家へ案内致します」 虹龍が青龍を連れて八仙の家へ向かった 道すがら虹龍は青龍と話をした 「青龍殿、龍が大陸を超えて半世紀…… 消えた龍族の変わりを集めねばならぬ時に来ているのです……」 「僕は今、人の子ですので……何も出来ません」 「……ええ。承知しております 貴方が還られる時、我も魔界に還ります その時……欠けた龍族も戻ると想います…」 青龍は何も言わず虹龍を見ていた…… 適材適所、配置するのは……魔界へ還ってからも変わりなく炎帝の役目となるのを実感していた 想いは……炎帝へ それしかった どうか………無事で……… 青龍は天を仰いで……願った 冥府へ渡った炎帝は、皇帝閻魔の元へと向かった 身躯を焔で包み、炎帝は嗤っていた 皇帝閻魔の身辺警護に当たっていた護衛が…… 炎帝の姿を見て……恐ろしさの余り…気絶した 辛うじて……気絶を免れた者が……炎帝に呼び掛けた 「………炎帝様………」 目は驚愕の瞳で見開かれ……引き攣った顔をしていた 冥府から皇帝炎帝が消えた 何故だと想っていたら…… 魔界の神々の手で創られたと聞いた 神としての寿命を全うせぬ限り…… 炎帝に逢う日は来ないと想っていた それが今……目の前に……炎帝が立っていた 「皇帝閻魔に逢いに来た! 通されよ!父者へ繋げ!」 動けずにいる警護の者を薙ぎ倒して炎帝は通って行った 皇帝閻魔はその様子を笑って見ていた 「夫を持ったから大人しくなったと想っておったのに……じゃじゃ馬は健在か?」 漆黒の髪を靡かせて、皇帝しか袖を通せぬ豪華絢爛な衣装を着ていた 「親父殿、ゆっくり挨拶したいけど、夫が心配して待っているのだ! 愛する夫を泣かせたくねぇかんな!」 「では要件を伺おう!」 「誰も知らぬ白狐が姿を現した頃 穢れなき存在が姿を消している…… 冥府で何が起こっているのか聞きに来た」 「冥府には昔、絶対神と言われる神がいた 冥府はその神の者だった…… 冥王ハデスが消滅して……冥府は絶対神はいなくなった オリンポスの神々が……幾億年の時を経て……消滅して久しい… そのハデスの復活を願う者が……チラホラと現れているのだ…… 多分今回も……そう言う輩の仕業だと想う」 「それを転輪聖王に伝えたのかよ?」 「我は転輪聖王には逢ってはおらぬ 吹き飛ばす事はしなかったが……通してはおらぬ」 「………なら転輪聖王は何処へ行ったんだよ?」 「………冥府には色々とツテがある方だ そのツテを辿れば……情報は入手は可能だ」 「風月には逢えたのかよ?」 「鷺尾風月……彼には逢えぬだろう…… 歴代風月は冥府の管轄 継ぎの転生の輪に入った魂を起こすのは皆無」 「……そっか……親父殿 冥王ハデスを復活させられる可能性は?」 「冥王ハデス………復活の時は今ではない…」 「………親父殿、時空が歪んでる…… 世界が少しずつズレでいるんじゃねぇのかよ?」 「完全神を失ったからな…… 天界もかなりの苦戦を強いられておるみたいだ オリンポス時代の神々の加護も弱まっておる… それより、その指輪……お主がはめておるのか」 皇帝閻魔は炎帝の指に輝く指輪に目をやった 「親父殿が遺したモノなんだろ?」 「我が妻に贈った愛の証だ その指輪は持ち主を選ぶ……やはりお主を選んだか…」 「オレと青龍の指にはまっているぜ」 「………お主が蒼い龍を愛するとはな…… お前の幸せそうな顔を見られて父は本当に安心した」 「親父殿、オレが冥府に戻るまでは健在であられよ」 皇帝閻魔は何も言わずに笑った 「継ぐべき者よ! お前に引き渡すまでは護ってみせる」 「………親父殿、またな!」 炎帝は皇帝閻魔を抱き締めて…… 姿を消した 我が息子……皇帝炎帝よ……… お前の逝く先が……穏やかであります様に…… 皇帝閻魔は願いを込めて…… 瞳を閉じた… 冥界を後にした炎帝は崑崙山へと時空の気流に乗って向かった 炎帝が青龍の前に姿を見せると…… 青龍は炎帝に抱き着いた 「…………炎帝……良かった……」 強く……強く……抱き締めて……口吻た 八仙は熱くて堪らんわ……と目を閉じた 虹龍は背を向けた 「青龍、心配かけたな…」 「君が無事なら……」 「青龍、火龍と翼龍に逢わせてやんよ」 「火龍と…翼龍… 火龍は何となく解りますが…翼龍は解りません」 「姿形はケツァルコアトルスみてぇな姿してる なんせ、翼龍の始祖はケツァルコアトルスみてぇな姿してるかんな 魔界から黒龍と金龍を呼び寄せたかんな! 来たら逢いに行くもんよー」 「はい……体調は?辛くないですか?」 「大丈夫だ青龍 オレはまだ死ねねぇかんな! んなに無理なんてしねぇよ」 「なら良かったです」 青龍は炎帝を抱き上げると、そのまま椅子に座った 完全なる二人の世界だった 「炎帝、愛してます」 「オレも愛してるかんな! 青龍だけ愛してるもんよー」 炎帝はそう言い青龍に口吻た 金龍と黒龍が……八仙の所へやって来て…… その光景を目にして…固まった 金龍は苦笑した 黒龍もまたかよ……と困った顔をしていた 虹龍が金龍を見て深々と頭を下げた 金龍は「虹龍か?」と尋ねた 「はい!初めまして金龍」 「堅苦しい挨拶は良い 逢いたかったぞ!虹龍!」 金龍は虹龍を抱き締めた 青龍は炎帝を立たせると、その横に立った 「炎ちゃん!夫婦仲良くて良かった」 金龍は炎帝を抱き締めた 「金龍、話は八仙から聞いてるか?」 金龍は炎帝を離すと、畏まった 「はい!聞いております」 青龍に話したのと同じ話を金龍は聞いていた 「金龍、火龍と翼龍を魔界に還す 火龍と翼龍は魔界になくてはならぬ存在となる また、天龍は生まれ変わって姿を現す 失った龍も継ぎ継ぎに産まれる 龍族は再生の道を辿る事となる 違える事は出来ねぇかんな! 金龍と黒龍には過酷な試練を押し付けるかも知れねぇ……許してくれ…」 金龍は姿勢を正して 「龍族が再生の道を辿るのでありましたら、違える事なく、その道を辿ります! それが龍族の為になるのです」 と覚悟を決めて炎帝に話した 「…………金龍、子を成してくれ…」 「妻と………ですよね? 他なれば……勃起致しません! 妻以外……抱くなら死んだ方がマシです」 青龍ばりの台詞に……炎帝は青龍を見た 「…………嫌と言う程に親子でした…」 青龍は苦笑した 「金龍、他と犯れとは言わねぇよ 銀龍と犯りまくって子を成してくれ!」 「………妻は……妊娠しますかね? もぉ何年も生で中出ししてても妊娠しません…」 生々しい会話に……黒龍は耳を塞ぎたくなった 「金龍、銀龍に飲ませる様に八仙に薬を頼んである 飲ませるのと、塗るのを同時に使えば、濡れ濡れのヌルヌルになって妊娠しやすくなる薬をな頼んであるんだよ 子育ては大変だろうけど……堪えてくれ……」 「濡れ濡れのヌルヌル……ですか? 舐めて濡らさずともヌルヌルの濡れ濡れになるのですか……それは触ってみたいものだな」 金龍はそう言い笑った 「薬を使うと子宮口は狭くなる かなりキツい挿入を楽しめる様になってる」 「では妻を妊娠させれる様に励みます!」 「天龍を産むのはお前達しかいねぇかんな 絶対に妊娠させてくれ!」 「絶対に妊娠させます!」 金龍はウキウキ嬉しそうだった 青龍は炎帝を抱き寄せ 「僕も君を妊娠させれる程、頑張ります」 「……オレは妊娠しねぇってば……」 「ならば、君に尽きぬ愛を注いであげます」 「青龍……」 炎帝は青龍に縋り着いた 黒龍が炎帝を剥がして 「早く火龍と翼龍を見に行こうぜ!」と言った 「黒龍、もうじきお前も子育てしねぇとな…」 「俺は良き父になる 安心しろ!」 黒龍はもぉ自棄糞で謂った 炎帝は笑って青龍に手を伸ばした 青龍は炎帝を抱き上げて頬に口吻を落とした 「行くぜ!この裏山にいるかんな!」 と言い炎帝は青龍の腕から下りた かなり険しい道を進んで行くと岩山に洞穴が見えて来た かなり険しい岩場に、その洞穴は在った その中から紅蓮の色をした龍が顔を出した 「炎帝!!炎帝ではないですか!」 龍は人型にカタチを変えると炎帝の前に傅いた 「お逢いしとうこざいました」 「おめぇの待ってるのは皇帝炎帝だろ?」 炎帝はそう言い笑った 「どちらも貴方様じゃないですか」 かなりナイスバディのグラマラスな肢体をした女が炎帝に抱き着いた 長い髪を靡かせて炎帝に抱き着く様に……… 青龍は蒼い妖炎を立ち籠めた 金龍は「…………おい……」と息子を呼んだ 黒龍は「………青龍………」と弟を呼んだ 面倒くさい性格だぜ……二人は想う 炎帝は火龍を着けたまま、青龍に向き直った 「青龍、火龍だ!」 炎帝が言うと青龍は側に寄り、火龍を剥がした そして炎帝を抱き上げた 「何よ!蒼いの!」 「触らないで下さい 炎帝は僕だけのモノです!」 青龍が言うと火龍はキィーと怒り出した 「久方ぶりの挨拶もさせないなんて! なんて小さい男なのよ!」 「小さい?何処がですが? 小さくないんで炎帝は受け入れるのが大変なんですけどね……」 「誰も股間の話なんてしてないわよ!」 火龍が怒る 炎帝は青龍の腕から降りると、金龍と黒龍に 「火龍だ!」と紹介した 金龍と黒龍がレディに対する挨拶をする 手を取ると、手の甲に口吻 「金龍に御座います お嬢さんお許しを……我が息子は炎帝しか愛しておりませんので……」 「炎帝が愛されて私も嬉しいわ」 火龍はそう言い笑った 黒龍も火龍の手を取ると、手の甲に口吻た 「我が弟は無骨な不器用な奴故、許してやって下さい」 「炎帝だけを愛してるので許してますわ」 火龍は何処から見てもレディだった 「お転婆娘 翼龍を呼んでくれ」 「仕方ないわね」 火龍は息を思いっきり吸うと 「翼龍!今すぐ此処に来やがれ!」と怒鳴った 炎帝は「……おい……夫だろ?」と窘めた 「知っておいで………でしたか」 「お前の事ならな知らねぇ事はねぇんだよ」 「奇特な男なのよ! 好きだって……何万年も言うから… 信じても良いかなって……」 火龍は頬を染めた 「夫婦仲良くな」 「炎帝みたいに?」 「そう。オレみたいに愛されてろ!」 火龍は青龍に抱き締められて幸せそうな顔している炎帝を見た 「初めて青龍殿とのツーショットを拝見しました お二人は何処から見ても……めおとですね…」 「愛があるかんな!」 青龍の愛に満ちて炎帝は笑っていた 火龍はその姿を見て……涙ぐんだ ペットになった頃の炎帝は空っぽだったから… 「………炎帝……」 ポロポロ涙を流す火龍の頭を撫でた 「泣くな……」 「だって…………炎帝が………」 「腹の子に悪いからな……泣き止め…」 「………止まりません……」 炎帝が火龍を抱き締めていると…… 「我の火龍に触るな!」と言う声が響き渡った 炎帝は火龍に「翼龍?」と問い掛けた 火龍は頷いた 物凄い剣幕で来る翼龍に炎帝は苦笑した 火龍の傍の炎帝を弾き飛びそうとすると…… 青龍に腕を掴まれ……ねじ上げられた 「………いててて……」 「我が妻に傷一つでも着けたら生かしてはおかぬ」 青龍の迫力に………翼龍は冷静さを取り戻した 「………青龍殿……何故? 青龍殿は火龍の夫であられましたか?」 「僕の妻は未来永劫、炎帝唯一人!」 青龍はそう言い炎帝を引き寄せた 噂では聴いたが……… まさか本当だとは想わなかった 翼龍は青龍の横に立つ、金龍と黒龍にやっと気付いた 「其方の方は……何方なのですか?」 崑崙山に棲み着く龍は……外部との接触は皆無だった 炎帝は「お前ら夫婦に逢いに来たんだよ」と答えた 金龍は翼龍と火龍の傍に行くと 「金龍です! 嫁がお二人に逢わせてやると申すから遙々と来たのです お二方とは………一度もお逢いした事が有りませんでしたね」 龍の一族を束ねているのが金龍と聞いた 黒龍も二人の前に立つと深々と頭を下げた 「金龍が息子、黒龍に御座います そこにいる青龍は我が弟に御座います」 閻魔の側近、黒龍………名前だけなら知っていた 炎帝は火龍と翼龍に 「八仙から龍族の危機を聞いてねぇのかよ?」 と問い掛けた 翼龍が「聞いております」と答えた 「お前と火龍が産む子は2頭 飛龍と蜃龍!珍しい蜃龍の誕生だ 虹龍も還る!大陸に散らばってる龍は殆ど オレが還る時に還って来る! お前ら2人も魔界へ帰れ! お前の子供を龍族に入れろ 明日の魔界を担ってゆく駒に収まるべき存在 龍族は役割を持って活気付く! その為にお前達と子供は必要なんだよ」 炎帝の言葉を受けて金龍が続けた 「火龍殿、翼龍殿! この極寒の地での生活は過酷と想われます お嫌でないのでしたでしたら……我が龍族に加わって下さい! そして明日の魔界を築く手伝いをして行って下さい」 金龍は深々と頭を下げた 翼龍は困っていた 妻の嫌がる事はしたくはないのだ…… 火龍は金龍に 「我は冥府の者……皇帝炎帝のペットなり…」 と言った 「冥府の………龍が魔族に加わる事は……無理だと想う」 だから……八仙の住む崑崙山に居着いた 何時か……我が主……炎帝に逢える様に……と願うのはそれだけだった 金龍は笑い飛ばした 「冥府の者だとて、何も言わせぬ力ならまだある! 炎帝に頼まれし存在を違えた事は一度もない! もし……違えるのなら……我が息子青龍が黙ってはおらぬ…… 青龍は妻の為だけに在る存在! 炎帝を敵に回す者は、この魔界には存在せぬ! ですので、案ずる事はないと想います 龍族の絶対は青龍……四神に名を連ね、法皇を継ぐ者 誰も青龍には異存など持たぬ…… そして青龍の妻は炎帝…… 魔界の者なれば知らぬ者などいない」 金龍は言い切った 火龍は翼龍を見た 翼龍は「お前の好きにして良い」と妻にべた惚れだった 「炎帝が必ず魔界に還るのならば、魔界に住んでも良い……我は炎帝のモノなり! 主に仕えるのは当たり前だからな!」 火龍は炎帝以外の存在にはならぬと宣言した 金龍は笑顔で 「炎帝は次の転生はない 魔界に還られる身だ! 炎帝の還られる魔界に来られるなら 一族は貴殿達を何としてでも護ると誓う!」 先の保証を口にした 「ならば、魔界に行く…… 初めての出産だからな……心細かった」 火龍は心の内をポロッと零した 「我と倅の黒龍とで、万全の態勢を取ると保証しよう! 我が息子、黒龍は我の後を継ぐ者! 金龍は他に産まれ様とも、一族の長は黒龍が継ぐと決めてある! 黒龍は友の大切な存在ならば、何としてでも護る男だ!安心してくれて良い」 父の言葉を受けて黒龍は 「我が友炎帝の大切な存在なれば、俺は何としてでも護るぜ! 誰にも何も言わせねぇよ! そうだろ?炎帝?俺は一度も違えちゃぁいねぇよな?」 黒龍がそう言うと炎帝は 「この男は誰よりも信頼出来る男だ!」 と満面の笑顔で黒龍に抱き着いた 黒龍は炎帝を抱き締め 「我が弟に泣かされてはおらぬか?」と聞いた 「オレは誰よりも愛されてるかんな オレも誰よりも青龍を愛してるもんよー」 「お前が幸せなら俺は嬉しい 幸せでいろ炎帝……」 「おう!オレ程に幸せな奴はいねぇぜ! 初恋が実ってるんだからよぉ!」 「何か……ムカつくけど、お前だからな……」 「そうそう!」 炎帝はそう言い艶然と笑った とても幸せそうな綺麗な笑顔だった 青龍は黒龍から炎帝を引き剝がして抱き寄せた 「君だけを!愛してます」 「オレも、お前だけを愛してるかんな!」 抱き合う姿は誰より恋人同士だった 炎帝は金龍を見上げ 「金龍、頼めるか?」と聞いた 「任せておいて下さい 住む場所も既に用意して来ました 何時でもお迎えする準備万端です」 「なら安心した! さてと伊織、還るとするか!」 「そうですね!奥さん」 「火龍、身躯に気を付けて元気な子を産め 翼龍、オレの大切なお転婆娘だかんな泣かせるなよ!」 火龍と翼龍は頷いた それを確かめて炎帝は微笑んだ 「金龍、黒龍、頼めるか?」 金龍は「ご安心下さい!明日の龍族を繋ぐ為!炎帝が還られる時に納得される様に致します」と深々と頭を下げた 黒龍も「大丈夫だ!炎帝!総てはお前の想うままに……だろ?」と笑った 炎帝は片手をあげると「またな!」と言い…… 抱き締める青龍と共に……姿を消した 黒龍は友と弟を見送って…… 「慌ただしいな…」と苦笑した 金龍は火龍と翼龍夫妻に向き直り 「一緒に行きますか?」と問い掛けた 火龍と翼龍は頷いた 託された火龍と翼龍と共に…龍に姿を変えて 時空を掻き分けて魔界へと向かった 炎帝…… お前の想うままに…… 魔界は続くからな…… と黒龍は友に想いを馳せた 金龍は魔族の在るべきカタチを取り戻して来つつ在る現状に気を引き締めた 明日の魔界を担って生きて逝く 龍族の存亡……それは欠かせない 亡くした龍族の方が多くなった今…… 思案に暮れていた それを炎帝が戻して軌道に乗せてくれた…… 龍族の魔界での働きを要求されている 違えられない重さに…… 金龍は長としての重さを噛みしめた 炎帝は青龍と時空を切り開き、現世へと向かう 崑崙山から引き上げて直ぐの頃から炎帝は嬉しそうに笑っていた 「炎帝……どうしました?」 その笑顔についつい問い掛けてしまうのだ 「金龍に塗り薬と飲み薬を渡した その時の……瞳の輝き……親子だなって……」 まるで、媚薬を手にした榊原と重なって…… 銀龍はあんあん……鳴かされて孕むだろうな…… と苦笑した 「………似ているのです……嫌になる程に…… 僕は……金龍には似てないと想っていました…」 「そっくり……だな」 「………あのスケベ親父……見事孕ませますね」 「だな」 康太は爆笑した 榊原は康太を強く抱き締め…… 飛鳥井の自分達の寝室に身躯を飛ばした 「伊織……身躯が怠い……」 「……今夜は僕も怠いので大人しく寝ます」 康太は榊原に抱き着いた 榊原は康太を強く抱き締めた 「どうしました?」 「………青龍の妻が……天龍を産む予定だったんだ…」 「八仙から聞きました…… 僕は……無理です…君しか欲しくないんですから…」 「………龍族の果てを狂わした……」 「君のせいじゃありませんよ 定めです……そう言う定めだったのです」 「龍族の明日を築く必要があったんだよ…」 「我が父は奮起して妻を抱けて幸せだと想います ヌルヌルの濡れ濡れの妻を抱けるんですからね 興奮しまくりでしょうね……」 気にする必要などないと榊原は言い捨てた 「奥さん、お腹が鳴ってますよ?」 榊原はそう言い康太を抱き上げた 「……腹減ってるかんな!」 「応接間を覗いてみてからにしましょう」 「だな!」 榊原は康太を抱き上げたまま、階段を下りて行った 応接間を開けると、誰もいなかった 「………誰もいねぇのかよ?」 康太は呟いた すると背後から「康太!」と言う慎一の声がした 心配する慎一に康太は「腹減った」と告げた 「何処へ行くかとも告げずに消えたら心配するでしょ!」 慎一は心配しすぎで怒った 「緊急事態だった……許せ……」 謝る康太を慎一は抱き締めた 「…………心配しました……」 「悪かった……」 「何も視えませんでした…… 痕跡すら掴めませんでした そしたら和希が結界の中にいるから…と言ってました 和馬が予知で雪が降るよ……と教えてくれました」 「慎一、悪かったな まさか和希と和馬に視させようとは……」 「視るのは悪い事ではないと教えたのは貴方です 曲がらず導いて下さったのは貴方ではないですか! その貴方を失えば…………」 慎一は泣いていた 榊原は康太ごと慎一を抱き締めた 「慎一、奥さんのお腹の虫は……鳴り止みません」 そうしてる間も康太のお腹はキュルキュル鳴っていた 慎一は笑って 「用意はしてあるのです! 何処で食べますか?」と問い掛けた 「キッチンに行く」 康太と榊原はキッチンで夕飯を食べる事にした 夕飯を食べてると兵藤と一生が還って来た 「一生、腹減った……」 兵藤が言うと 「ならキッチンに行くか…」 とキッチンに向かった キッチンに顔を出すと……… 沢庵を咥えた康太が 「よ!お帰り!」と言ったから…… 兵藤も一生も康太に飛び付いた 康太は腹を満たすべく、茶碗は持ったまま迷惑そうな顔をして食べ続けていた ポリポリ「食わせろよ!」と怒鳴ると 兵藤と一生は康太を離した 一生はキッチンに立ち、食事の準備を始めた 兵藤の前に夕飯を置くと、自分の前にも夕飯を置いて 食べ始めた 慎一も食べていた 康太は「和希と和馬は食ったのかよ?」と問い掛けた 「和希と和馬はもう食べました 今は寝ています」 「そっか……9時には寝るよな子供は…」 午後10時を時計の針が指していた 「瑛兄や母ちゃんや父ちゃんは飯を食ったのかよ?」 「既に食べ終えて自室に戻られました」 「そっか……慎一、オレ少し寝るわ…」 康太は怠そうに…そう言った 一生は「冥府に行っていたんだって?」と問い掛けた 「おう!スワンに聞いたのかよ?」 「伊織も?」 「………伊織は無理だ…… オレは元々冥府のモノだからな…… でなきゃ皇帝閻魔に弾き飛ばされて入るのも不可能だ」 冥府………知らない存在だった 「怠いんだよ……少し寝たら直るかんな 話はそれからでも良いか?」 康太が言うと兵藤が 「おう!それまでに詰めとく! 和馬が良い情報を教えてくれたからな… それと照らし合わせて、教えれる様にしとく」 と伝えた 食事を終えると康太と榊原は寝室へと向かった 兵藤と一生と慎一は夕飯を食べていた するの玄関から続く廊下から足音がした キッチンに顔を覗かせたのは聡一郎だった 「あれ?康太は?」開口一番、康太を聞いて来た 「冥府から戻って怠いから寝に行ってる」 と、一生は本当の事を教えた 聡一郎は怪訝に「………冥府?」と呟いた 一生は「今さっき戻って来たんだよ」と答えた 慎一は聡一郎に 「康太は君に話があると謂ってました 多分明日になります 逃げないで下さいね」 と釘を刺した 「話があると言うから帰って来たんだよ」 「ええ。話し合いをする予定です ですから、消えないで下さいね 俺らは聡一郎が白馬に行ってる事すら知りませんでした…… 何も言わすに消えるなら……二度と康太の前に現れないで下さい」 慎一からのキツい一撃に……聡一郎は黙って頷いた 一生が「まぁ食えよ」と言って横を指さした 聡一郎は何も言わずに……夕飯を食べた 康太は朝の五時頃、目を醒ました 康太がムクッと起き上がると榊原が 「起きましたか?」と声を掛けた 「伊織は寝なかったのかよ?」 「寝ましたよ 少し前に目が醒めました」 「今何時?」 「午前5時…」 「寝過ぎた?」 「ええ……少し寝過ぎました」 「起きて話をしねぇとな」 康太はそう言い立ち上がろうとした 榊原はそんな康太を引き寄せて抱き締めた 「………君が……女性に抱き締められて…… 妬かないと想いましたか?」 「……女性って火龍?」 「………そうです……」 「……ペット…」 「君は僕だけのモノなのに!」 榊原はそう言い康太に口吻た 「伊織……夜まで待って…」 「待ちます…だからキスだけ…」 深い執拗な接吻に翻弄される…… 榊原は康太を味わうと唇を離した 「支度をしましょうか…」 「……力が入らねぇ……」 康太はそう言い笑った 「愛が募りすぎているのです…」 「青龍しか愛さねぇのに……妬かれても…」 「君を愛して止まないのです許しなさい」 「許してるもんよー 伊織しか愛せねぇかんな!」 榊原はベッドから降りると、康太を起こした そして、服を着せてゆく 榊原の支度も終わると、二人して手を繋ぎ1階へと下りて行った 応接間のドアを開けると兵藤と一生は仮眠を取っていた 聡一郎と慎一は起きてPCを見ていた 康太が入って来るのを見付けると慎一は立ち上がった 「何か飲み物をお持ちしましょうか?」 慎一が問い掛けると、榊原が「頼みます」と言った 慎一は応接間を出て行った 聡一郎は康太に 「話って何ですか?」と問い掛けた 「待て!緊急事態が起きたかんな… お前は、少し待ってくれねぇか?」 「はい……解りました 冥府……に行かれていたとか……」 「おう!少しな聞く事があったかんな」 「貴史から聞きました 戸浪万里が消えた………とか」 「若旦那も万策尽きている頃だかんな…」 早く何とかしてやりたかった… 康太の声に兵藤と一生は目を醒ました 兵藤は「よぉ!もっと早く起きて来るかと思ってたじゃねぇかよ…」とボヤいた 「想ったより冥府に行ったのが……応えたかんな 眠っちまっていた……人の身躯では限界だった」 「ったく!無茶しやがる! で、あんて冥府に行ったのか教えやがれ!」 「…………人が消えるのは昔も今も……… 儀式の為……復活させたい存在の為だ…… それをこの目で冥府に行き確かめたかった 流石に人の身躯で冥府は応えた…… でもな収穫はあった……」 「あんだよ?」 兵藤は収穫を言えと迫った 「冥府の帝王ハデスの復活…… 皇帝閻魔では役不足と……暗躍する輩がいると言う事だ……」 兵藤は言葉をなくした 一生や聡一郎も顔色をなくした…… 「皇帝閻魔は『オリンポスの神々の加護も消えつつ在るのが現状だ……』言った 絶対神を産み出す……血塗られた歴史を…… 再び始めようとする輩がいると言う訳だ…」 兵藤は康太に 「おめぇは!ハデスとか言うの知ってるのかよ?」と尋ねた 「………知らねぇよ…… 皇帝閻魔も見た事のねぇ存在をオレが知ってる可能性は皆無だ! 名前だけならな……冥府に轟き響いている でも………幾億年前に姿を消した神など…オレは知らねぇよ」 「…………復活……かぁ……」 兵藤は呟いた 「器さえあればな……呼ぶのは容易いかもな… オレみてぇにな………傀儡を創るのは簡単かもな…」 康太の台詞に榊原は怒った 「康太!」 榊原は康太を抱き締めた 「………ごめん……伊織…」 康太は榊原の胸に顔を埋めた…… 榊原は兵藤に 「万里の居所は割り出せそうですか?」 と尋ねた 「共通点は秋田…山岳地帯…付近だ」 「なら……結界を探し出せるかも知れませんね…」 「どうやって!」 「上空を飛ぶしかないです 上空から視るしかない……」 「だな……それと、叔父貴から聞いて来た この行方不明者の共通点 それは美化活動だった 山岳地帯の美化清掃活動をしてたんだよ で、最後に出向いた場所が…」 兵藤はPCを開いて榊原と康太に見せた 「この秋田の山岳地帯! 此処いらへんは既に捜索はされている だが結界をしてれば……別だよな?」 「……ですね!」 「で、どうやって責めようか……思案してたんだよ」 「なら上空から探りを入れて……それだと地上の子達が危ないですかね?」 榊原と兵藤は考え込んでいた 康太は黙って目を瞑っていた 『一日に一回は必ず中の人間が外へと出る その時、結界は少し弱くなり出入りする所は綻びとなる……』 天空から声が響き渡った 弥勒の声だった だが康太は無視して瞳を瞑っていた 『……康太?……』 呼び掛けても………康太は無視だった 『伴侶殿……康太はどうされてのですか?』 分けが解らず弥勒は榊原に声を掛けた 榊原は康太の顔を見つめて 「康太…」と名前を呼んだ 康太は何も答えなかった 弥勒は心配になり…… 『飛鳥井に向かう……待っておれ……』 と言うと康太は 「少し待て!来なくていい!」 と言い捨てた 『………康太……何故だ?……』 「…………あんでもだ!来なくて良い」 『…………行く……来るなど言われても……すぐに向かう……』 弥勒はそう言い気配を消した 「厄介なのが来やがる……」 「康太、何があったのですか?」 「それまで待てねぇかもな……」 「………え?……」 「直ぐに動くと言えば、弥勒も着いて来るかんな…」 『当たり前であろうて!』 弥勒は康太の目の前に立っていた 「康太……無視は止めてくれ……死にたくなる…」 「無視してねぇよ! 少し待て…言ったじゃんか!」 弥勒は康太に抱き着いて……泣いた 「呼び掛けても答えないから…… 切り捨てられたのかと想った……」 大きなナリした弥勒が……ベソベソ泣いていた 「弥勒、泣いてる暇はねぇんだよ…」 「解っておる!」 「おめぇ!冥府に誰に逢いに行ったんだよ」 「逢いに行ったと言うよりは確かめに行ったのだ オリンポスからの護りが……どれ程か確かめに行った 冥府に天界へと続く加護を受けた道がある 冥王ハデスが兄や弟と繋がっていた加護の道を確かめに行った」 康太は弥勒を見て笑った 「何時……解った?」 「あの白狐はまやかしの存在 何も覚えていない……神の眷属など有り得ない なれば、どんな意図で動かしてる傀儡なのか…… 探りを入れた所、鷺尾水月の周りで……行方不明者が多発しておった 戸浪万里は幾度となく秋田に行っていたそうだ 他の子も幾度となく秋田へ向かっていた 足取りはそこで消える… 式神を見張りに付けていたら……焼かれた ある程度の知識を持った存在を感じすにはいられなかった…… そして繋がるのだ……水月と何者かの存在が…」 「繋がり……って…あんだよ?」 「何だと想う?」 「北緯40度……と…か?」 「そうだ……北緯40度で人が消えている…」 「オリンポスと同経緯か…… きな臭い……感じが拭えねぇよな…」 「であろう……それで調べておった…」 「万里の命が尽きそうだ……悠長な事はやってらんねぇかんな!」 「解っておる!チャンスは1度」 「うし!それに掛けるかな…」 「お前は出なくても良い…」 「あんでだよ?」 「炎帝が出て来るのは範疇内なのであろうて! だなら敢えて戸浪万里が囚われた…… 我はそう視ておる……」 「……?オレを誘き出す為か?」 「それも否めない……」 「それでもなオレは行くぜ! 何故オレを狙うか知らねぇけどな…」 康太はそう言い嗤った 動き出した康太を止められないのは……誰よりも痛感していた 「………なれば逝くしかあるまい……」 弥勒は覚悟の瞳を康太に向けた 「弥勒!共に逝くぜ!」 康太はそう言い立ち上がった 「慎一、バスをチャーターして来い」 「解りました!」 慎一はそう言い応接間を出て行った 玄関を出ると弥勒東矢が立っていた 東矢は深々と頭を下げると康太に人型を渡した 「康太、これを肌身離さず持っていて下さい」 康太はそれを受け取ると胸ポケットにしまった 「東矢、どうしたよ?」 「胸騒ぎが止まりません…… 僕が行けば足手纏いになります だから……人型だけでも持って行って貰おうと想いました」 「ありがとうな」 東矢は呪文を唱えて康太に向けて放った そして深々と頭を下げると……康太を見送った 康太は家の前に停まったバスに乗り込んだ 東矢はそれを見送った 弥勒や一生、聡一郎、慎一、兵藤がバスに乗り込むと……バスは走り出した 東矢はずっと………康太を見送っていた 「…………康太……この命に懸けても………」 東矢は呟いた バスは秋田に向かって走って行った 早朝と言う事もあって、道路は空いていたが…… 約8時間近くかかった 途中で昼食を取り、日が沈むのを待って目的地へと向かった 康太は胸ポケットの人型を握り締めた…… 胸騒ぎは収まらなかった 口に出して言わなかったが…… 鷺尾水月に逢った日から……続く胸騒ぎが収まらなかった 紫雲龍騎も東矢も…胸騒ぎを覚えていた 口に出さぬけど、バスに乗ってる全員…… 同じ想いを感じていただろう… 秋田に到着すると、気配を消して移動した 兵藤と弥勒の導き出したポイントへと進む 進めば進む程に……妖力が高まっていた バシバシ妖力が匂うポイントへ近付くと…… やけに静まり返って…不気味な程だった 「………弥勒……此処…なのかよ?」 「あぁ…結界を張ってあってもプンプン匂う…」 「………静かすぎねぇか……?」 「………あぁ……見張りもいない……」 「………弥勒……結界が弱まった……罠かな?」 「だろうな……招き入れているみたいだな……」 弥勒は康太を押し留めた 康太達の到着に合わせて…… 結界は弱まった…… 来るのを知っている者の仕業としか想えなかった 様子を伺っていると…… クスクスっと笑う声が聞こえた 『いるのは解ってるんだよ……おいでよ』 真っ白な髪を靡かせて……見知った顔が姿を現した 「やっぱし……おめぇかよ……」 「解っていたの?流石だね」 水月はニャッと嗤った 「お前の中身は空っぽだ……あたりめぇだよな? おめぇは傀儡だもんな……造られた存在だかんな」 康太がそう言うと水月は康太を睨み付けた 「そう言うお前だって創られた人形だろ?」 「お前とオレとは格が違うんだよ!」 康太はそう言い……唇の端を皮肉に吊り上げた 「格の違いか……そうだね 君の中には……我らが望んだモノがある…」 「雑魚がほざくな!」 康太は水月を押し退けると、奥へと進もうとした 水月は康太目掛けて斬りつけようとした 康太は振り向き様に始祖の御劔で水月を斬り付けた 「転生など出来ぬ様に消し去ってやんよ」 そう言い「昇華!」と叫んで消し去った 「さてと、邪魔者はいなくなったし行くとするか!」 歩を進め、奥へと行く 水月は駒だ……奥に行けば…… 何か罠があるのも知っていた 険しい道を掻き分けて進むと…… 漆黒の闇に包まれた洋館が出て来た 戸浪万里の気配は、屋敷の中からしていた 誘き出すつもりだったのは一目瞭然 無防備な洋館がそこに在った 「………逝くしかねぇな……」 康太は独り言ちた…… 本当なら行きたくない…… だが……自分を誘き出す為に…… 罪もなき子達が捉えられているのなら…… 行かなければ……ならなかった 康太はスタスタ洋館の中へと歩いて行った 途中、幾度となく弥勒が康太を押し留めた 「先に逝くな康太……」 「どうぞ来て下さい……と待ち受けてるんだ 行かねぇと何も始まらねぇぞ……」 「それでも、だ! お前は伴侶殿に護られていろ!」 弥勒はそう言い先頭に立って歩き出した 榊原が康太を掴むと、手を握った 強く……強く…… 康太の手を握り締めた それだけで康太は安心が出来た 愛する者の体温を味わえる幸せを噛み締めていた 洋館のドアは開いていた 来るのが解っていたかの様に…… 無防備だった 「此処までお膳立てされてたらな……」 嗤うしかねぇわ……と康太は呟いた ドアを開けて中へ入る 聡一郎はドアを紐で括って柱に結び付けた そして呪文を唱えた 洋館の中へ入ってエントランスから家全体を見渡した かなり広い洋館の全部のドアを開けて確かめるのは時間が掛かり過ぎる 思案してると聡一郎が 「この部屋で一番大きそうな部屋って何処ですかね?」 と尋ねた 弥勒は思案して…… 「こう言う洋館造りの家って1階の奥にないか?」 と尋ねた 聡一郎は「この家ならあるかもね……」と言い先へ歩き出した 「四宮の家ってこんな造りだったよね?」 聡一郎はそう言い嗤った 一生と康太は聡一郎の家を思い浮かべた 妻の為に…… 妻の為だけに……建てた家だった 「当主はやはり奥の館の中心部を好むものだよ?」 聡一郎はそう言いエントランスから突っ切った奥の部屋のドアを開けた 部屋の中には……… 首が二つに分かれた犬が…… 唸って康太達を見ていた 今にも飛び掛かりそうな勢いで……唸る犬を 「伏せ!」と黙らせた男は優雅にソファーに座っていた 闇に紛れると存在さえ見てないだろう…… 漆黒の長い髪に漆黒のタキシードを着ていた 「ようこそ!」 男はニコッと嗤った 「ケルベロスか……」 康太は呟いた 魔犬ケルベロスは冥府の奥深くの門の番をしている存在 こんな人の地にいて良い筈の生き物ではなかった 「良くご存知で!」 「ゲームしてっと出て来るからな」 康太はゲームの世界で見てるからと答えた ゲームの世界でなくば…お目に掛かる事なんてない 首が二つに分かれた犬なんて、中々見れなかった 「君のペットに差し上げましょうか?」 「オレはもうペットいるかんな、要らねぇ」 「そうですか?それは残念です」 「この家にいる人間を解き放てよ!」 康太が言うと男はニャッと嗤う 「君の心臓をくれるなら………ね」 「オレの心臓? 毘沙門天の心臓を勝手にやる訳にはいかねぇかんな!」 「なら渡せません」 「なんでオレの心臓なんだよ?」 「より強い魂を…… 復活には君ほど強い魂でなくば……意味がない それに君のは‥‥あの御方を継ぐ者‥‥ですからね」 「はい、そうですか……とやれねぇけどな」 「でしょうね…」 話し合いは平行線にしかならなかった…… 「では強引に頂きますかね?」 男は康太に近付こうとした 弥勒が康太の前に出て阻止をした 「マイトレーヤ如きが私に勝てると想うな!」 男は敵意むき出しで弥勒を睨んだ 「貴様……何者だ?」 「勿体ないので名乗りません 唯言えるのは神々の加護は失われて久しい そんな神々も復活を遂げられ、オリンポスの山に集結する!その時も近い……」 「神々の復活か…… その神々は創られた傀儡かよ? 神の威厳も尊厳もねぇ張りぼての人形かよ?」 「黙れ!神々を愚弄するな!」 男は興奮して怒った 「愚弄してるのは、おめぇらじゃねぇのかよ? 復活を神々は望んだのかよ? 復活して求められても請われても……傀儡は復活なんて望んじゃいねぇよ! 安らかに消えゆく時を待っていただけだ……」 「それは君の意見ですか?炎帝」 「オレか?オレは唯の傀儡じゃねぇ! そこら辺の張りぼての傀儡と一緒にすんじゃねぇ!」 「確かに……」 「こんな事してても時間の無駄だ!」 「なれば実力行使、なさったら?」 男は余裕で康太にそう言った 実力行使する先に罠がないとも言えない 康太は動けなかった 一番早く動いたのは聡一郎だった 聡一郎は駆け回って部屋のドアを開け始めた 予測は着いている 全部のドアを開けても……… いないだろう事は…… それでも動かねば始まらない 聡一郎に続いて一生も屋敷中の部屋を開け始めた 「探しに行かないの?」 男は問い掛けた 「部屋にはいねぇからな…」 「なら、 何処にいると?」 「地下」 「なら地下に行けば?」 「地下へ通ずる道は、おめぇの下 おめぇを倒さねぇと出て来ねぇよな…」 康太は妖炎を立ち上げて男を睨み付けた 「本気で来ますか?どうぞ!」 男の前にケルベロスが立ちはだかる 近寄る康太にケルベロスは飛び掛かろうとした…… その瞬間!……………榊原が槍で突き刺した 串刺しにされた犬はそれでも唸って槍の柄を噛み切った 兵藤が朱雀の剣で斬り裂き……灰になって散った 「これは……小賢しい事をなさいますね…」 男の顔付きも本気になってきた 揶揄する余裕もなく本気を見せた 「さぁどうするよ?」 「私は影遣いなんですよ? どんな影でも掴めば想いのままです」 男はそう言い康太へと手を伸ばした かやかやとした蛍光灯の下には…… それぞれの影が出来ていた 確実に男は康太の影を掴み 「飛鳥井康太!君の影を捉えました!」 男の手には……… 康太の影が握られていた 康太の前の影は………なくなっていた 康太は呪縛にあったみたいに……… 動けなくなっていた 男は影の心臓の部分に手を差し込んだ 「本体を触らずとも………影でも用は足りる」 男は康太の心臓を鷲掴みにして…… 心臓を取り出した 影から………心臓が取り出された…… 男の手には……血塗られた心臓が脈打っていた 男はニャッと嗤って 「これさえ手に入れば、後は用はない 早く探さないと……屋敷は崩れますよ!」 そう言い男は影を床に捨てた 捨てられた影からは夥しい血が溢れて流れ出ていた 弥勒は康太に近寄った! 「康太!」 榊原も康太を抱き締めた 聡一郎や一生も声を聞きつけ戻った 床には夥しい血が……… 飛び散っていて 康太は動かなかった

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