27 / 100
第27話 哀しみの果て ①
康太は意識を失っていた
榊原は兵藤に
「地下に行き戸浪万里達を救って来て下さい!」
と叫んだ
「一生も聡一郎も頼みます!
でなければ屋敷は崩壊する!
康太が此処まで来た意味がなくなります!」
榊原の言葉に、兵藤や一生、聡一郎は動いた
パラパラと崩れ落ちる粉塵に時がそうないのを知った
男が立っていた所を調べると地下への入り口を見つけ
兵藤達は下りて行った
榊原は康太を抱き上げた
康太に口吻た
その唇は…………康太の熱を伝えていた
康太は目を醒ますと
「弥勒、飛んでくれ……」と頼んだ
「さっき龍騎に頼んだ……
アイツは東矢の心臓を掴んで行ったんだ
東矢は胸騒ぎを覚えて人型をオレに渡した……
東矢を死なせたくない……弥勒頼む……」
「………康太、解った!
アイツを掴まえて心臓を取り戻して来る!」
弥勒はそう言い封印を解いた
黄金に輝き神々しい色を放って………弥勒は消えた
「伊織………東矢が……」
榊原は康太を強く抱き締めた……
「胸騒ぎがずっと止みませんでした……
君を失うかも知れない不安が……消えませんでした
康太……君を失ったら生きてはいけません…」
榊原は泣いていた
「伊織、崩れるぞ!
早く出ねぇとやべぇぞ!」
「立てますか?」
康太は立ち上がった
すると地下から兵藤達が万里達を連れて現れた
「貴史!出るぞ!
出ねぇと下敷きになる!」
康太は叫んだ
榊原は康太を抱き上げて外へと向かった
兵藤達は万里達を先に行かせて急がさせた
「崩れる前に出やがれ!」
兵藤は叫んだ
命からがら外に出ると………
屋敷は音を立てて崩れ始めた
「おい!全員いるかよ?」
「慎一は?」
辺りを見渡した一生が問い掛けた
榊原は「慎一!何処ですか?」と叫んだ
慎一はまだ屋敷の中にいた
転んで歩けない子を支えていた
「大丈夫ですか?」
「………お兄さん危ないよ……先に行って良いよ…」
男の子はそう言った
パラパラ崩れる瓦礫に当たり……
慎一は額を切っていた
「置いてはいけない」
慎一はその子を背負って走った
康太は崩れかける屋敷の中に入って慎一を探した
「慎一!」
「康太……危ないです…」
康太は慎一の腕を掴むと走り出した
榊原が康太の側に来て、康太を抱き上げた
「慎一!あと少しです」
慎一は一生に背中の子を渡した
そして出ようとすると………
屋敷が崩れて壁の一部が……慎一に突き刺さった
「慎一!」
一生は慌てて慎一を助けに入った
慎一は瓦礫の下敷きになり……意識を手放していた
兵藤は叔父に連絡を取り、救急車と救助隊を依頼した
捕まっていた子は全員で15名……
予測よりも多い人数だった
みな……疲れ切っていった
崩壊する屋敷を見ながら……
榊原は康太を抱き締めていた
慎一の背中は……Yシャツを赤く染めていた
康太は榊原の腕から離れると、慎一のYシャツを捲り上げた
慎一のシャツを破き止血をする
間に合わなければ失血死も……避けられない状態だった
静まり返った闇を切り裂く様に、ヘリコプターが屋敷傍の空き地に下りた
「怪我人は!」
ヘリコプターから下りた隊員が怪我人を救助する為に近寄った
兵藤は一番手当の必要な慎一をヘリコプターに乗せてくれと言った
少し遅れて、警察や消防の車、救急車が何台も停まった
兵藤は本当の事を言っても信じて貰えないと想い
叔父に事情聴取は適当に……と頼んだ
保護されて……救急車に乗せられる……
康太は榊原に抱き上げられて救急車に乗り込んだ
一生は慎一に付き添ってヘリコプターで病院に向かった
康太の救急車に兵藤や聡一郎が乗り込んだ
兵藤は「康太……大丈夫かよ?」と声をかけた
康太は榊原の胸に顔を埋めて………
肩を震わせていた
泣いているのだ……
「………康太……」
榊原が兵藤に
「………康太の身を案じて東矢が人型を渡しました
東矢は……康太の身代わりになったのです……」
と説明した
兵藤は言葉もなかった
誰かの犠牲になってまで………
康太の口癖は何時もそれだったから……
『康太、僕は貴方の為に生きて行きます』
東矢はそう言い笑った
家の為に……翻弄された存在だった
それを拾って……修行に出した
これから幸せに………と想っていたのに……
康太は悔しくてたまらなかった……
何故?
何故………こんな目にあわねばならないんだ!
康太の身躯を怒りの焔が包んだ
「東矢が何をしたって言うんだ!」
康太は叫んだ
胸が痛くなる程の……叫び声だった
康太の嗚咽が響き渡った
紫雲龍騎に東矢の魂を繋ぎ合わさせた……
だが、心臓が戻らねば……
東矢は確実に…………死ぬ
救急車は秋田で一番大きな病院へと向かった
康太は胸ポケットから携帯を取り出すと
「義恭……慎一を助けてくれ……」
と電話を入れた
『……康太……我はもう……人は見ぬ……』
「義恭……慎一が怪我した……
オレのせいだ……だから下手な奴に見せたくねぇんだよ!義恭……頼む……」
悲痛な叫びは……飛鳥井義恭の胸に……響き渡った
『………慎一は何処へ運ばれるのだ?』
「お前がいる総合病院……ヘリポートで運ばれる」
『……解った……』
義恭は電話を切った
榊原は「義恭先生ですか?」と尋ねた
「義恭の愛する人が息を引き取った……
……義恭は離れずにいた…」
榊原は言葉をなくした……
総合病院へ到着すると
行方不明になってた子達が次々におろされて
病院の中へと運ばれて行った
戸浪万里は康太に抱き着いた
「康太君……怖かった……」
康太は万里を強く抱き締めた
「もう大丈夫だ!
もう怖い事なんてねぇからな!」
万里は何度も頷いた
「万里、警察の人が若旦那に連絡を入れてくれた
オレは慎一に着いていてぇかんな……
診察を受けて……若旦那を待っていろ!出来るな?」
万里は何度も頷いた
康太は病院の関係者に万里を渡すと、慎一のいるオペ室の前に向かった
祈るように………
康太は両手を握りしめていた
慎一
死ぬな……
東矢……
死ぬな……
康太は祈った
病院の関係者が康太の手当てをしようとしても
康太は振り払い……誰にも触らせなかった
榊原は「康太に触らないで下さい!」と言い人払いをした
戸浪が来ても………
康太は戸浪は見なかった……
榊原は戸浪に
「………慎一が今大変なのと……
康太を守って東矢が心臓を奪われました…
こんな事話しても理解は不能だと想いますが……
遠く離れた横浜の地の東矢も……死にそうなのです
ですので、今日はご遠慮願います」
「慎一は息子達を助ける為に………
怪我をしたのですね……万里が言っていました」
「今は本当に………すみません………」
榊原はそう言うと戸浪に背を向けた
康太の側に行き抱き締めていた
『康太……東矢の心臓を取り戻した…
だが……手遅れであった……
東矢は運ばれた病院で息を引き取った……
康太……すまぬ……我がもっと早く……』
悲痛な弥勒の声が響き渡った
「東矢は何も悪い事なんてしてなかった!」
康太は叫んだ
死なせたい命なんて一つもない……
弥勒は無力さに泣いた……
「弥勒……おめぇが悪い訳じゃねぇ……」
康太は泣いていた
兵藤は立ち上がった
「康太、俺が黄泉まで東矢を連れて行こう」
「貴史?……」
康太は兵藤の顔を見た
「お前に変わって導いてやんよ!
俺程に適任はいねぇだろ?
魂を自在に操る俺なれば……東矢の心臓を掴んだ奴を無間地獄に落として、東矢を再生させるのも可能だ
生き返られるのは無理だけどな、輪廻の輪に組み込ませ……お前に還す事は可能だ……」
「………朱雀……お前が手を汚さなくても良い…」
「俺は手を汚さねぇ……
司命があの家から出る存在に標(しるし)を付けた
人一人の命を奪っておきながら、生きながらえるなんて……不可能な事だ」
兵藤が言うと聡一郎も
「手繰り寄せて懐柔するのは僕の得意とする幻術
魔界でのうのうと書記をしていた訳ではない
本領発揮してやります!」
と言い嗤った
「………聡一郎…」
聡一郎は康太を抱き締めた
「君の大切なモノを奪う奴は許しておきたくないのです!
職権乱用と言われても良い!
僕は君に笑っていて欲しいんだ
その為になら、この命だって……僕は要らない…」
「……聡一郎、話があるって言ったじゃねぇか!
その前に消えるのは許さねぇかんな!」
「解ってます!
ですから還って来ます」
康太を強く抱き締めて聡一郎は康太を離した
兵藤も康太を強く抱き締めた
「泣くな……俺はおめぇが笑っててくれるなら
何でもしてやる!この命が欲しいならくれてやる
だがお前はそんな事は望まねぇ……
ならば、望む事をしてやる!
オリンポスの神々か何だか知らねぇけどな!
好き勝手させる気はねぇんだよ!
司命、行くぜ!」
「朱雀、行きましょう!」
兵藤は康太を離すと聡一郎と共に出て行った
院内には静けさが戻った
戸浪海里は動けずにいた
康太は天を仰ぐと両手を開いた
「ガブリエル!此処に来い!」
康太が言うと天空を切り裂き、一筋の光が差し込んだ
夜中だと言うのに……目映い光は康太の前に差し込まれた
「お呼びですか?炎帝」
九枚羽根の大天使が姿を現した
キツい瞳がガブリエルを射抜いた
「一部始終見てたんだろ?」
「ええ……貴方が見ろと仰ったのではないですか…」
「オリンポスの十二神の復活……だそうだ……」
「愚かな……」
「古代ギリシャの神々の加護も薄れてる……
冥府は帝王ハデスの復活を、描いていた
皇帝閻魔では役不足と言う事だ……」
「なれば、天界はゼウスでも産み出す気ですか?
と言う事は今おられる絶対神では役不足…と言う事ですよね?」
「そう謂う事になるな
これは多分‥‥‥始まりにしか成り得ないだろう‥‥
本質はもっと違う方に向いてて、それらの復活を目論んでいるのかもな‥‥」
「他に何を目論んでいようとも、天界も黙ってはいられはしないでしょう
阻止せねばなりません!
オリンポスなど不要の長物ですから!」
「此処は手を組むしかねぇと想う!」
「………ですね……
貴方の大切な方の命を奪う奴などに神を創らせはしません!」
「オレは天界に行くぜ!」
「………皇帝炎帝としてですか?」
「違ぇよ!現閻魔大魔王の弟としてだよ
冥府は介入はしねぇ!
今までもこれからも……な!
冥府は中立な立場を貫く!」
ガブリエルは康太に傅いた
「これよりオレは東矢の追悼を迎える
死者の穢れを払拭した7日後!
オレは天界へと上がる!」
「お待ちしております!」
ガブリエルは深々と頭を下げた
「天界と魔界は二度と違えねぇ!
その刻印を天界に刻んで来る!」
「我等は無駄な血は一滴も流す気はない…」
「天魔戦争の遺物のオレが刻印を刻むに1番相応しい……」
康太は唇の端を吊り上げ皮肉に嗤った
「お待ちしております……」
「ミカエルにでも呼びに来させろよ」
「解りました……では……」
ガブリエルは姿を消した
目映い光が煌めき……穢れを払拭する
康太は「ぜってぇに許すかよ!」と呟いた
康太は携帯を取り出すと電話を掛けた
「瑛兄……頼みたい事がある……」
『康太……何処にいるのですか?』
「………瑛兄……頼むから……」
康太の声は震えていた
泣いているのが解った
『康太……兄に何を頼みたいのですか?』
「東矢が死んだ……」
『……え?………』
瑛太は息を飲んだ
「本当はオレが死ぬ筈だった……
なのに東矢が代わりになって……死んだ」
『………康太……兄に話して下さい……』
康太は瑛太に戸浪万里の事を話した
救助に行って、影を掴まれ心臓を奪われた
本当なら康太が死んでいた
だが……東矢が身代わりの人型を渡したせいで……
代わりに死んでしまった………と瑛太き話した
「瑛兄、オレは葬儀には参列出来ねぇ……
だから瑛兄……総て頼む…」
『解りました!
君に変わって総て取り仕切ります』
「瑛兄、慎一が怪我して今オペ中だ……」
『康太…慎一は君を置いて死にはしません…』
「瑛兄……東矢はオレが殺したも同然だ……」
『康太!東矢の想いだったのです!
自分を責めては東矢が浮かばれませんよ!』
「………瑛兄………」
康太の悲痛な声に………瑛太はもどかしさを感じていた
本当なら……側に行って抱き締めてあげたかった
『康太、側に伊織はいますか?』
言われて康太は榊原に電話を渡した
「義兄さん……」
『伊織……康太を抱き締めていて下さい……
東矢の葬儀は私が総て執り行います』
「義兄さん頼みます」
『慎一は………どうなんですか?』
「まだオペも終わってません……
オペを終えたら……横浜に転院させようと想っています」
『そうですね……
所で君達は今、何処にいるのですか?』
「秋田です」
瑛太は絶句した……
「義兄さん、東矢は紫雲龍騎が誰かに頼んで病院に運んだそうです
紫雲に聞いて……葬儀を執り行って下さい」
『解りました』
瑛太はそう言い電話を切った
一緒に飲んでいた佐野が何かあったのかよ?と問い掛けた
「東矢と言う子が亡くなりました……」
「桜林に通ってた弥勒東矢……だろ?」
「……多分……」
「康太の大切な存在だからな
桜林OBも葬送の儀に則って葬儀に参加する」
「……え?……」
「ほら、病院に行くぜ!瑛太」
瑛太は佐野に引っ張られ、病院へと向かった
タクシーの中で佐野はLINEのタイムラインで呼び掛け
TwitterやFacebookを使い呼びかけていた
瑛太の想いは……
泣いていた弟へと向かう
泣くな……康太
兄が出来る事はしてやるから……
泣くな……康太
慎一は瓦礫の下敷きになって、破片が突き刺さっていた
破傷風からの感染症を予防して、瓦礫の破片を取り除き
傷を縫って……かなり大掛かりなオペとなった
執刀医は飛鳥井義恭
康太の依頼を受けて義恭はメスを握った
もう二度と……
握るつもりのなかったメスを握った
本来の意味を痛感する
飛鳥井義恭と言う医者がまだ……
必要とされている事実を知った
オペは朝になっても続いていた
5時間ちょっとのオペを終えて
飛鳥井義恭がオペ室から顔を出した
「ったく無茶を言うなお前は!」
開口一番、義恭は愚痴を言った
「……義恭……本当にありがとう……悪かった
慎一を転院させてくれ……
そしたらお前も横浜に戻れ……」
「………愛する者を失って哀しみにも浸らせてくれぬのか……」
「横浜の海の見える一等地に墓を買ってやった
何時もデートしてた……場所の側だ……」
「……お前は………本当に……」
義恭はそう言い涙を流した
「義恭、お前の愛する女の顔を見させてくれ……
そしたら……黄泉へ送らせる……」
義恭は康太を抱き締めた……
「送ってくれるのか……我が愛した人を……」
「あぁ……逢わせてくれ……」
「康太と伴侶だけ……来い……」
義恭はそう言った
一生に「少し慎一を頼めるか?」と言うと
「解ってる……行ってこいよ」
と送り出した
義恭は慎一を病室に運び込むと、康太と榊原だけ連れて行った
一生は戸浪を抱き締めると……
病室へと連れて行きソファーに座らせた
「大丈夫か?若旦那……」
「……一生……ずっと万里の行方を捜していました
見付かったと連絡を貰い駆け付けると……
康太達がいた……
我が子達は無傷だったのに……
何故?康太や慎一は血だらけなのですか?
そして……何故……東矢と言う子は……死なねばならなかったのですか……
私達は……万里の生存を……諦めていました
まさか………康太が助け出てくれていたなんて……
知りませんでした……」
「若旦那……俺達は一旦帰る……
慎一も飛鳥井の病院へ転院する
俺達は東矢の葬儀に出る……
康太は出られねぇからな…その分見届けてやらねぇとならねぇ…」
一生の言葉に戸浪は首を傾げた
「……葬儀に出られないのですか?
私の父の葬儀には出てくれましたよね?」
「戸浪宗玄の葬儀は……康太が若旦那の自宅に出向く前に、弥勒厳正に黄泉へと導かれた後だったからだ!
直接康太が関わる事を避けて、源右衛門に付き添って…果てを歪め無に返す事はないと判断したから参列出来ただけだ
飛鳥井に組み込まれた存在なら……
康太は歪みを正してしまうんです
康太が出る事により無に還るしかない
飛鳥井家真贋は人の生き死には関われない
関われば……時空の歪みを正す様に、人の生き死にも正して無に還してしまう……
康太が親族の葬儀に出れるとしたら源右衛門の葬儀だけだと聞きました」
「源右衛門‥‥‥だけですか?
何故、源右衛門の葬儀には出られるのですか?」
戸浪は訳が解らなくて問い掛けた
「現飛鳥井家真贋だけが、黄泉へと真贋だった者を導き輪廻の輪の中へ転生させられるからです‥‥
飛鳥井でしか生きられない真贋だった人間を送れるのは、現真贋だけだそうです」
「‥‥‥そんな日は‥‥‥来ないで欲しいですね」
康太が苦しむ日など来ないで欲しい‥‥
戸浪は心から祈った
一生は現実を口にする
「康太は東矢の葬儀には参列出来ない
だから瑛太さんに総てを託したのは……そのせいです」
「………ならば、戸浪を上げて……見送らせて戴くよ
康太は我が子を助けに入って殺されかけたのですから…
康太がいなくば……我が子は永遠に見付けるのは不可能だった……
その東矢が命を懸けて康太を護った……
謂わば戸浪万里の命を救ったも同然……
慎一の入院費は戸浪が持ちます!
東矢の葬儀も戸浪海里が命に懸けても……
見送る事にします」
「若旦那……」
「万里は神隠しにあったように……消えたのです
警察から経由して、兵藤貴史からの伝言がありました
秋田で待機しろ……と言われて待ってました
半信半疑でしたが……我が子の手掛かりなら……
と、待機していたのです……
そして連絡を貰って病院にやって来たら……
我が子達は無傷で……慎一や康太は血だらけでした
何故?………私は唖然として動けませんでした」
「慎一は後れた子を助けに行った
康太は慎一を助けに入って瓦礫に当たった」
「……私は……康太に力を使わせたくなかった
飛鳥井の為に……死にそうになっても……康太は歩みを止めない……
私は……手掛かりすらない万里を想い……
心の中で何度も康太に助けを求めました
助けて欲しい想いと………
康太を苦しめたくない想いとが入り交じって…
本当に辛かったです
病院で康太を見掛けた時………
康太は……私を見てくれなかった……
その瞳に映されない事が……
こんなにも辛いだなんて……
想いもしませんでした」
「………若旦那……
許してやってくれ……
康太はそんなに強くねぇんだ……
東矢を大切に想っていた
不遇の時を過ごした東矢を幸せにしてやりたかった……
康太の想いはそればかり……
自分の元に還した存在の幸せだけを願ってるんだ
東矢も……これから愛する人を得て幸せな時間を送らせてやるつもりだった……
その為に飛鳥井の近くに呼び寄せたんだ……」
一生は泣いていた
静に……東矢を悼んでいるのだと伺える
「………一生……東矢の幸せを奪いました……
万里を助けにいかなければ…
その方は……」
一生は戸浪を強く抱き締めた
「言うな………それは言うな……
康太の為に死んでいった東矢を否定する事になる…」
「……一生……」
戸浪は一生の胸で泣いた
止めどなく………
涙が溢れ……止まらなかった
康太は榊原と共に………
飛鳥井義恭の大切な存在の眠る安置所に来た
ドアを開けると線香の臭いがした
白い布を外すと……義恭は……眠る女に口吻た
「妻にはなれなかった女だ……
愛して……愛し抜いた女だが……妻には出来なかった
何故なら……我には妻がいる……子供もいるからだ…」
飛鳥井義恭は弱りゆく愛した女の側にいる為に……
何もかも捨てて……
最期の時間を過ごした
「………此処にいるのを何故解った?」
「お前が……消える前から視ていた……
お前は……何もかも捨てて消えるのは解っていた」
「………我には何もかもなくなった………」
「義恭……家に帰れ」
「…………無理です……
妻に合わせる顔すら御座いません」
「お前の妻は……お前を待ってんぜ
お前の息子も……お前の帰りを待ってる…
久遠譲……おめぇの息子じゃねぇのかよ?」
義恭は康太を驚愕の瞳で見た……
「………何時……知りました?」
「隼人が刺されて主治医になった時から……」
「……本当に……貴方の瞳は…誤魔化せませんね
久遠譲は……この女性との間に出来た子です…」
「おめぇの妻と逢ったぜ
おめぇに逢ったら、早く帰れ!と言ってくれ
って頼まれた……
飛鳥井志津子……実によく出来た女だな
久遠はおめぇは還らねぇと言った……
詫びて……志津子に尽くしてる
志津子の子の悟とも仲がいい……
迎える体勢は出来るんだよ
還れよ、それがその女性の願いでもある…」
「……康太……」
「後を追おうなんて100年早ぇんだよ!
おめぇが還らねぇなら志津子を呼ぶしかねぇわな」
「………え?………それは……」
「オレなら愛人作る男なんて御免だけどな!
志津子はおめぇを待つんだとさ!
何時か還る日まで待つんだとさ!
悟も父を待つって言ってた
だらしのない父でも、僕には父はこの世で1人ですから!と言ってたぜ!
で、オレが連れ帰ってやんよ!言っといた
志津子と悟はな、オレの仕事で使ってるかんな…
断る訳にはいかねぇんだよ!観念しろ」
義恭は康太に抱き着いて泣いた……
この罪深き男を許すと言うのか……
妻や息子を捨てて………
最期の時間を愛する女と過ごした……
男を許してくれると言うのか……
添い遂げる事は出来なかった……
生まれて初めて愛した女だった
だが医者になるには金が要った……
愛する女も食わしていけない現実があった
貧乏学生の身では……その日の生活すら大変だった
女との結婚など……夢だった
そんな時、竹を割った様なサッパリとした性格の飛鳥井志津子と出逢った
援助してやるよ!
と言い無償の愛をくれた
義恭は飛鳥井志津子と結婚した
医者になり……望まれるまま、飛鳥井の主治医に収まった
だが………愛していたのは……
昔も……今も……妻には出来なかった女だけだった
志津子は知っていた
それでも義恭は妻を愛そうとした……
嫌、愛している
だが……別れた女性が………最期に逢いに来て……
想いが再燃した……
何もかもなくしても良い……
最期の時間を刻みたかった
添い遂げれなかった女と……
最期の時間を愛して尽くしたかった……
その為に義恭は総てを捨てた
「志津子は悔いてた
惚れた男でも……金にあかせて義恭を盗るべきではなかった……ってな…
志津子は離婚届も用意してた
お前が望むから……別れる用意は出来ていた
お前を愛してるから……送り出してやるんだ
志津子の想いを……これ以上踏みにじってやるな…
お前が離婚したいなら別れる……
結論はお前が出せ!解ったな……
それには逃げてちゃ出せねぇだろ?
だから横浜に還れと言ってる
逃げて答えが出る訳がねぇんだからよぉ!」
「……康太………ありがとう……」
康太がいなかったら……
還ろうとは想わなかった
還れるとは………想わなかった
背中を押されて……妻と……過ごして来た軌跡を想う
愛してくれた妻を愛しいと想っていた
燃えるような愛じゃなく……
穏やかな愛をくれた人……
何も言わず……送り出してくれた人
最大の裏切りをして………泣かせた人
すまない想いなら何時もある
…………許されない想いなら……
義恭は覚悟を決めた
愛してくれて人の為にケジメをつける……
無償の愛をくれた人の為に……
望む事をする……
義恭の瞳は覚悟を決めていた
「義恭、総てはオレが取り計らってやる
お前は遺骨を抱いて横浜に還れ
そしたら話し合う席を設けてやる
飛鳥井家真贋がお前の果てを見届けてやる」
義恭は康太に深々と頭を下げた
「宜しくお願い致します……」
「久遠由美子は紫雲龍騎に送って貰っている
黄泉へと渡り……輪廻の輪に入る事を……
本人は望んでいた……
お前は妻の元へ還る様に……言っていた
最期の時間をお前と送れて幸せだった……と感謝していた……」
「………もう黄泉へと渡られたのですね……」
「久遠由美子の魂は紫雲龍騎に導かれて黄泉へと渡った……」
「………本当にお手数掛けました……」
「義恭、慎一を横浜に移してくれ
話は総て横浜に戻ってからだ!」
「はい……手配致します」
義恭はそう言い霊安室を出て行った
康太も榊原と共に霊安室を出て、慎一のいる病室へと向かった
病室のドアを開けると………
一生に抱き着いて戸浪が泣いていた
「若旦那、万里の側にいなくて良いのかよ?」
康太が声を掛けると……
涙で濡れた瞳が康太を見た
「………万里は精神的にショックを受けてます
カウンセリングを受けて、妻が寄り添ってます」
康太は戸浪の横に座った
「若旦那、泣くな……」
康太はそう言い戸浪の涙を拭った
「康太……私は横浜に帰ります
東矢君を君の代わりに見送ります」
「若旦那、無理しなくても良い…
寝てねぇんだろ?
万里の行方が解らなくて苦しんでいた筈だ
もう苦しまなくて良い……良いんだよ若旦那」
「………康太……君に逢いたかった……
だけど君に逢えば……勘の良い君に知れてしまう
力を使わせたくなかったんです…」
「万里が消えたら、明日のトナミの果てが狂う!
我が子をおめぇき渡す夏海の想いを裏切る様な事はぜってぇにしてはならねぇんだよ!
狂った果てを渡す気はねぇんだよ!」
「……康太……」
「………オレは横浜に還る……
そして7日間東矢を偲び穢れを祓ったら
天界に行く……見てたんなら知ってるよな?」
「………ええ……知っております……」
「オレは許す気はねぇんだよ
オレの元に還って来た東矢を幸せにしてやりたかった……
幸せにしてやる義務がある……
何時か愛する人と幸せな家庭を持って暮らして欲しい……そう想ってたのに………
東矢の幸せを奪う奴は許したくねぇんだよ」
「…………康太……無理はなさらずに……」
「大丈夫だ、若旦那
夏海の子の行く末を見守ってやる義務が、オレにはあるんだよ
来年早々、煌星を貰い受けて軌道に乗せて導く義務がある!
だから心配するな……」
「………康太……」
「今回は……オレも予期せぬ出来事があり過ぎた
少し前から……小骨が取れない様な気持ち悪さを抱えていた……
調べれば調べる程に……訳が解らなくなった……
予測不可能だったんだ………
だから手を打つ事が出来なかった……」
康太でさえ予測不可能な出来事だったとしたら……
戸浪は逆立ちしても万里を探し出す事は出来なかった筈だ……と痛感した
「若旦那、飛鳥井に来るか?」
「………え?ご迷惑では?」
「迷惑なんかじゃねぇよ!
沙羅と万里を連れて飛鳥井に来い
万里は弥勒と紫雲に一度見せた方が良い
下手なカウンセリング受けるより、深層心理まで入って確かめて来てくれる
2人を飛鳥井に呼んでやる」
「………君の優しさに何時も甘えてしまいます……
何かあると私は……何時も君を想ってしまいます
情けない……結局万里も君に助けられた……」
「万里の行方不明を伝えのは桜林の教師だ
佐野春彦、桜林の理事長の一番の理解者だ
話を聞いて怪異だと気付いたんだろ?
だから弟の悠太を通じてオレの耳に入れた…」
「………え……初めて聞きました……」
「神楽四季、桜林の理事をしてる男は力持ちだかんな
そう言うのは敏感に察知するんだよ
悠太を使えば確実にオレに届くと知ってて悠太を使った
悠太がオレに伝えねばならぬ事ならば、地の果てまでも追って伝えるかんな
そう言う様にオレが育てたかんな」
「………慎一は直ぐに転院になりますか?」
「……どうだろ?義恭が手筈を整えている」
「沙羅と万里を連れて参ります」
「おう!待ってるかんな」
戸浪は深々と康太に頭を下げて、病室を出て行った
一生は康太を抱き締めた……
「………大丈夫かよ?」
「一生……大丈夫だ
横浜に還らねぇとな……
東矢を送ってやらねぇと……
オレは出られねぇけどな……」
「彦ちゃんがTwitterやFacebook、ラインのタイムラインに乗せて呼び掛けて拡散してる
かなりの人が東矢を送りに来るんじゃねぇかな…」
「……彦ちゃん……あぁ瑛兄に電話した時横にいたな…」
「東矢を偲ぶ為に桜林の俺らの同級生は殆ど参列すると連絡が入った
清家も来るとメールが来た
皆……東矢をお前の代わりに送ってくれる……
だから……心配するな……」
「……一生……」
「東矢は後悔なんてしていねぇよ
俺だって、そうだ!
お前が死なないでくれるなら……
この命……懸けても良いと想っている
東矢もそうなんだ……
胸騒ぎが止まらない……だからお前に何かあったら身代わりになるつもりだった……
総てはお前を護る為だ……
悔いなんて残しているかよ……」
「オレは……東矢の犠牲の上に生きていたくなんかねぇんだよ……」
「お前はそう言うけどな………
目の前でお前を失いたくねぇんだよ……
自分は死んでも……お前が生きていてくれたら……
本望なんだよ…東矢の想いだ……解ってやれ…」
「………一生……不遇な時を生きていたから……
オレの側で幸せにしてやりたかった……」
「東矢はおめぇに還る
再び逢える日を夢見て……
おめぇに還って来る!
だから泣くな……康太…」
「オレは許す気はねぇんだよ
神だか何だか知らねぇがな!
許しておく気は更々ねぇ!
総て潰して掃除してやんよ!」
歩き出した康太はもう………止まらない
東矢を奪った奴を消し去るまで……
その歩みは止める気はないのだろう……
飛鳥井義恭が慎一の病室にやって来て
「あと少しで久遠譲が来る!
そしたら慎一を搬送する」
と段取りは総て着いたと伝えた
「ありがとう義恭
無理言ったな……」
「本当に……坊主の無茶ぶりは昔から変わってはおらぬ!」
「義恭、愛する女を荼毘に付したら還れ
もうじき手配した葬儀屋が総て執り行ってくれる
そしたら……お前は横浜に還れ
横浜に着いたら電話をくれ
そしたら墓地を案内する
そこに入れて見守って行くと良い…」
「……本当に……言葉が出ない……」
義恭は泣いていた……
「お前は医者が天性だ!
他になろうにも、なれねぇんだ!
メスを握って嫌って言う程に実感したろ?」
「……はい!嫌と言う程に……捨てれは出来ぬと実感致しました…」
「ならば、還らねぇとな!
お前のいる場所は此処じゃねぇ!
飛鳥井を護る場所にいねぇとな」
義恭は何度も頷いた
「康太から連絡を受けて直ぐに、譲に連絡をした
譲に此処に来て貰わねばならぬからな……」
「口が悪い所がお前にそっくりだ!
似た者親子だな……お前達は……」
康太はそう言い笑った
久遠が慎一の病室に顔を出すのは、それから直ぐだった
「…一晩中窮屈な思いして来てやったんだ!
何か飲むものを寄越しやがれ!」
病室に入って来た久遠は壮絶だった
目の下の隈が凄く……髪はボサボサで……
目が据わっていた……
想わず康太が榊原に抱き着く程の迫力だった
「……伊織…」
涙目で榊原を見る康太は震えていた
「大丈夫です康太……」
榊原も迫力に負けつつ……康太を抱き締めた
一生は大急ぎで病室を出て飲み物を買って渡した
久遠はそれを飲み干し……
何も言わず……義恭を抱き締めた
父と………呼べぬ人だった……
久遠は何も言わず……生きていてくれて本当に良かったと胸を撫で下ろした
ひょっとして……母が死んだら……この人も後を追うのではないか………
と、想っていたから……
久遠は康太を見た
康太はあっちこっち切って…血を流していた
手当てもされずに……その血は乾いていた
「おい、坊主!」
久遠は康太を掴んだ
「あんだよ?何か食いたいのあるのかよ!」
「違う!何で傷を放置してるんだ!
小さな傷でも破傷風の恐怖はあるんだぜ!
しかも……瓦礫の残骸も付けてやがるし
ほれ、来い!手当てしてやるからよぉ」
久遠は康太を持ち上げると椅子に座らせた
「痛くねぇのかよ?」
まだ瓦礫の破片が……顔に刺さっていた
久遠は手早く康太の血糊を拭き取り処置を始めた
康太は久遠に
「……東矢が……死んだ……」と訴えた
「看取ったのは俺だ!
手の施し様もなかった……」
「………え?……久遠が看取ってくれたのか?」
「紫雲が行けと行って来たからな……
管理人に鍵を出させて搬送したけどな……
意識を戻す事なく……バイタルは低下し続けた」
「悪かった……」
「心臓が全く機能していなかった……
機能し始めた頃には……脳はダメージを食らって…
持ち直す事なく……逝かせるしかなかった……」
「瑛兄……来た?」
「佐野って言う奴が総て手筈を整えていた
瑛太は……泣いていただけだな……」
瑛太らしくて……康太は苦笑した
「坊主!まだ力をフルに使うな!
還ったら検査してやる……
お前を長生きさせねぇと恨まれるからな!」
久遠は釘を刺して、手当てを済ませると慎一の側に向かった
「バイタルは安定してるけど、術後と言う事もあるしな……空から搬送して先に病室に運ぶ事にしたわ」
「なら、オレらも飛行機で還るとするか
伊織、飛行機のチケット取ってくれよぉ…」
「解りました!」
榊原は鞄からPCを取り出すと飛行機のチケット予約を始めた
「貴史と聡一郎は直接横浜に行きますかね?」
「………だろ?転院するの知ってるし……」
「なら君と僕と一生だけで良いんですか?」
「若旦那と沙羅と万里も取っといてくれ…」
自動車だと……半日潰れる……
「羽田からどうしますか?」
「羽田まで迎えに来てくれる奴いねぇかな?」
康太は思案した
「あ!いた!」
と言い、携帯を取り出して電話を掛けた
「繁雄?オレ!」
『………康太ですか?』
やけに甘えた声に……ついつい警戒してしまう
「頼みがあるの」
やっぱりか………と三木は苦笑した
『なんなりと申し付け下さい』
「羽田まで6人は乗れる車で迎えに来て欲しいんだ……」
『お安いご用です………が、君、何処にいるんですか?』
「秋田!」
『……秋田……ですか?
それよりもお聞きしたい事がありました』
「あんだよ?」
『桜林OB会が弥勒東矢を偲ぶ会を発足しました
佐野春彦が音頭を取ってやっています
弥勒東矢………彼は君の駒ですよね?』
「……あぁ……オレは葬儀には出れねぇかんな
総てを瑛兄に託した………
東矢はオレの身代わりになって………死んだんだ」
『…………康太……!
何時に羽田に着きますか?』
「飛行機に乗る前に連絡する」
『解りました!何時でも動ける用意はしておきます!』
三木はそう言い電話を切った
榊原は康太を引き寄せて抱き締めた
「羽田に迎えに来てくれるんですか?」
「おう!羽田から帰るの大変だかんな…」
「慎一を見送ったら駅に向かいますか…」
「おう!三木に搭乗手続き終わったらメールしといてくれ!」
「解りました!」
榊原は康太を離すと、PCを鞄に入れて帰り支度をした
久遠が総ての手筈を整えて、病室にやって来た
「これより慎一は空輸のヘリで横浜に向かう事になった
お前達も横浜に向かうんだろ?」
「おう!飛行機を予約したかんな
直ぐに横浜に向かう……」
「では向こう病院に来て下さい」
久遠はそう言い慎一を運び出し屋上へ向かった
榊原は康太を抱き上げた
「一生、若旦那に連絡を!」
一生は「あいよ!」と言い携帯を取り出して電話を入れた
ワンコールで電話に出ると一生は
「若旦那、慎一の入院費の精算したら横浜に還るので、正面玄関で待ってて下さい」と伝えた
『解りました!正面玄関で待ってます』
一生は電話を切ると榊原の荷物を持った
「旦那、行くとするか……」
「そうですね…僕は精算して来ます
康太を頼みます」
榊原はそう言い病室を出て行った
一生は康太の腕を掴むと「行くぜ!」と声を掛けた
康太は何も言わず一生の手を外して歩き出した
正面玄関に行くと榊原が戸浪達と一緒にいた
「康太、慎一の入院費は若旦那が支払った後でした
慎一の輸送代も若旦那が支払いました」
康太は驚いて戸浪を見た
「若旦那……それはダメだ……」
「万里を救ってくれたのは君達です
当然の事です……まだ足らない……」
「若旦那……気にしなくて良い……」
「……康太……慎一の治療費は総て私達が持ちます」
「気にしなくて良いって言ったじゃんかよ!
ほれ!行くぜ!」
康太は歩き出した
病院の外に止まってるタクシーに分かれて乗車した
榊原と康太と一生
戸浪と妻と万里
2台のタクシーに分かれて空港へと向かった
搭乗手続きをして飛行機に乗り込んだ
康太は戸浪の手を握り締めた
「……康太……」
「………もう気にするな……良いな?
万里が還って来たんだ……」
「はい…」
東矢の犠牲の上に還った命だった……
戸浪は重く受け止めていた
行は車でお尻が痛くなるの耐えて出向いたが、帰りは半分以下の時間で成田に到着した
成田到着してターミナルに出ると三木が待ち構えていた
康太を見付けると三木は「康太!」と叫んだ
康太は三木を見付けると傍へと寄って行った
「繁雄……悪かった……」
「お前に呼ばれるんなら地球の裏側でも行きますとも!」
三木はそう言い笑った
三木に促されて、車へと移動する
三木は小型バスをチャーターしていた
バスに乗り込むと三木は戸浪に
「万里さん見付かったのですね」
と言った
戸浪は驚いた顔して三木を見た
「貴史が叔父貴を使っていた
叔父貴は救助用のヘリの要請を通してくれと言って来たんだよ
で、教えて貰っただけで、漏れている訳ではないです!
極秘で秘密裏に動いていたのは確かです」
三木と兵藤は従兄弟同士なのが伺えれた
「何処に行けば良い?」
「飛鳥井の主治医の病院に下ろしてくれ」
「………病院?何処か悪いのか?」
三木は心配そうな顔で問い掛けた
「慎一が怪我して秋田から搬送されてるんだよ」
「………慎一が?
どんな具合なんだ?」
「…瓦礫の下敷きになって……瓦礫が突き刺さっていた
緊急オペをして……飛鳥井の主治医の病院に搬送させたんだよ」
緊急搬送……秋田に置いとけないのは解るけど……
かなり話がハード過ぎていた
「康太も怪我したのか?」
「………瓦礫で切った程度だ……」
バスは飛鳥井の主治医の病院へと到着した
「繁雄、おめぇ、どうするんだよ?」
「この後会食が入ってるんだよ…
残念だけど、お前達を下ろしたら帰る」
「忙しいのに悪かったな」
「お前の頼みなら何でも聞いてやるさ
スーツが欲しいなら作ってやるぞ
ゲームが欲しいなら会社ごと買い取ってやろうか?」
三木はそう言い笑った
「おめぇはオレのパトロンかよ!」
「そう!ほれ、パトロンに笑って見せてくれよ」
康太はニコッと笑って三木の頬に口吻を落とした
「おお!言ってみただけなのに……」
「ならな、繁雄…」
「後で慎一を見舞います!」
「おう!待ってるかんな」
康太はバスを下りた
榊原や、一生、戸浪達もバスを下りた
三木は走りゆくバスの中から康太に手をふった
康太はバスが走りすぎるまで見送って、病院の中へと入って行った
病院の中へ入って行くと、久遠が待っていた
「………康太……あの人の命を救ってくれて……
本当にありがとう御座いました」
そう言い久遠は深々と頭を下げた
「義恭は分岐点に立っていた
悲しみの方が重くて……その比重は……
ヤバかったのと……やはりアイツは飛鳥井から離れられねぇんだよ
タイミングがピッタし合って……呼ぶしかなかったからな……
医者を捨てるなんて……出来ねぇんだよ」
「………二度と還らぬと想っていました……」
「………二度と還らぬ想いは強いけどな……
志津子や悟を捨てれるか……賭だった
そして、お前を捨てれるか……賭だったな」
「………俺は……生きていてくれるだけで良い……」
親子と名乗れぬとも……
生きていてくれるならそれで良かった……
「久遠由里子も黄泉を渡ったしな
そろそろ、歪んだ想いも軌道修正しねぇとな
話し合いの場におめぇも出ろ!
それは飛鳥井志津子と悟の希望でもある!
志津子は馬関係の仕事を、悟はオレの仕事の土地関係の仕事をさせているんだよ
飛鳥井の一族の絶対はオレだかんな
真贋が見届けてやるから、カタを着ける
その為に義恭は横浜に来る!
おめぇもそろそろ在るべきカタチになりやがれ!」
「………え?……」
「話はそれだけだ
慎一はどうなってるんだよ」
「慎一の怪我は肩の骨折も有るから…
当分は入院だな!
肩の傷だけなら、そんなに重くはないが……
肩を複雑骨折している……
無茶はさせられない現状だ」
「瓦礫の塊がまともに慎一を直撃したかんな……」
骨折は当然の事か……康太は呟いた
「脱走しねぇように、釘刺しとけよ!」
「解った……慎一は?」
「これから連れてってやる!」
久遠はスタスタと歩いて行った
康太はその後を追って行った
久遠に案内されて病室に向かい、ドアを開けると
慎一はベッドの上で起きていた
「慎一!起きてて大丈夫かよ!」
康太は慌てて慎一に近寄った
「無理するなよ!慎一」
「無理は出来ません……
誰よりも自分の体は解っています…」
「骨折したんだよ!
無理したら骨が引っ付かなくなるんだぞ!」
「解りました!
退院して良いと言われるまで入院してます…」
「………そうしてくれ………
お前まで……失いたくねぇんだよ……」
慎一は康太を抱き締めた
「大丈夫です康太……
貴方を置いて死んだりはしません……」
慎一は主を大切に腕に抱いた
「慎一 また来るな……」
「……ええ……」
「誰か着けようか?」
「良いです……」
「慎一」
康太は慎一を抱き締めた
「早く良くなれ……
オレに仕えるのは今までも、これから先もおめぇだけなんだからな……」
「康太……」
「一生と聡一郎には東矢を見送って貰う……」
「はい……」
「そしたら……おめぇの所に着いていてくれる」
「………康太、俺は無茶はしません
無茶をして貴方の傍に行くのが遅くなるのは嫌です…」
「和希と和馬の心配はするな…」
慎一は頷いた
康太は慎一を抱き締めると、久遠に慎一を頼み
病院を後にした
タクシーを拾って飛鳥井の家へと向かう
戸浪達を連れて飛鳥井に到着すると、瑛太が玄関から顔を出して出迎えてくれた
「康太……お帰り…」
瑛太の顔を見ると康太は走って……
瑛太に抱き着いた
「……瑛兄……ありがとう……」
「康太…兄が総べてやります……
だから悲しまないで…」
瑛太は康太を抱き上げ、戸浪達を迎え入れた
そして榊原に康太を渡した
「伊織、ご苦労様でした…」
「義兄さん……」
康太ごと瑛太は榊原を抱き締めた
瑛太は応接間のドアを開けると皆をソファーに座らせた
「若旦那、疲れたろ?
先に寝るか?」
「……康太……」
「大丈夫だ……もぉ大丈夫だからな…」
康太がそう言うと戸浪は康太に抱き着いた
「今、龍騎が弥勒を載せて来るかんな」
康太は戸浪の頭を撫でた
沙羅は……甘える戸浪海里と言うのを……
初めて目にした
気丈に何時も張り詰めた緊張感を常に持ってる男だった
家族にも……
誰にも……
戸浪はポーズを崩さない
なのに……
今いる戸浪は誰?
こんな風に抱き締められて泣いて……
安心した顔をする……
こんな戸浪は見た事がなかった……
沙羅は………飛鳥井康太にしか見せない一面なのだと理解した
戸浪海里を支えているのは飛鳥井康太だった……
康太は戸浪を抱き締めたまま沙羅を見た
「沙羅、疲れたろ?」
「……はい……生きた心地致しませんでした
私がお腹を痛めた子です……
明日の戸浪の為に送り出さねばならなくても……
私の子供なのです……心配しました…」
「沙羅来い」
沙羅は康太の膝の前に跪き、康太を見上げた
康太は沙羅の頭をポンポンと撫でた
「頑張ったな沙羅
もう大丈夫だ……
お前の子供は何処にも行かねぇよ」
康太の言葉が………胸に染み渡る
沙羅は…知らないうちに泣いていた
「気張ってばかりじゃ……壊れるぞ
おめぇもな……
おめぇら夫婦は似てるな
ギリギリまで本心を晒しもしねぇ…」
沙羅は康太の膝に顔を埋めて泣いていた
万里は……気丈な父や母の泣く姿など……
想像もしなかった
何でもパーフェクトに熟す両親のそんな姿など……
見る日は来ないと想っていた
両親を苦しめて…泣かせた
万里は悔やんだ
両親に愛されてる実感を………全身に味わっていた
沙羅は涙を拭うと、立ち上がり万里を抱き締めた
強く……強く……万里を抱き締めて確かめていた
戸浪も康太から離れると万里と妻を抱き締めた
静まり返った部屋に……
啜り泣く声が響き渡った
康太はそれを何も言わずに見ていた
榊原は康太を引き寄せて抱き締めた
静まり返った部屋にインターフォンの音が鳴り響いた
一生は玄関に出向いてロックを解除すると
紫雲龍騎と弥勒高徳が立っていた
一生は二人を応接間に通した
紫雲は康太を抱き締めた
「…………康太……すまない……」
東矢を……死なせてしまい……紫雲は謝った
「龍騎……お前のせいじゃねぇ……」
弥勒も康太に抱き着くと謝った
「………東矢を逝かせてしまった……」
弥勒は泣いていた
「高徳……おめぇは最期まで諦めずにやってくれた
おめぇのせいじゃねぇ……」
「東矢の魂は朱雀と司命が黄泉へと送った
我はそれを見届けて……還って参った…」
「………そうか……東矢は逝ったか……」
「朱雀は必ずお前に還してやると言ってた
お前に還す為だと……輪廻の輪に入れた」
「………あんまし待たせると……
オレはいねぇかも知れねぇけどな……」
「職権乱用………しておった……
門番と司命が話しておる間に……割り込ませた
閻魔は視てても……視て見ぬふりするだろ?」
「…………セコくねぇか?」
「気にするでない……
朱雀の想いだ……
朱雀が東矢の想いを紡いでおった
………還ったらお前に見せる気だ…」
「………弥勒、疲れてるのに……悪かったな…」
「気にするでない
さぁ、戸浪万里の深淵を探るとするか……
戸浪万里、此処へ!」
弥勒が万里を呼ぶと、万里は立ち上がり弥勒の傍に立った
紫雲が万里をソファーに寝かせた
弥勒が呪文を唱えると、紫雲が万里の深淵を探りに行った
弥勒は目を閉じて、その時を待っていた
紫雲は万里の深淵まで潜って行き……
万里の心の奥深くへ下り立った
万里は脅えて震えていた
真っ白な髪をした男が万里の身躯から……
血を抜いた……
尖った爪で引っ掻き血を流させた
死なない程度に血を抜かれ……
放置された
血を抜かれたら……見向きもされなかった
真っ暗の空間で……
何時殺されるのか……震えていた
男が雪が降ってるじゃん……と言う程の寒さに身を震わせていた
恐くても……泣けなかった
恐くても……叫べなかった
助けて……
助けを求めても……
誰も助けてくれないのを知っているから……
万里の深淵には絶望しかなかった
紫雲は一度万里の中から出ると……
「………絶望しかない……この深淵を……どうする?」
と康太に尋ねた
「オレを下ろせ…」
紫雲は息を飲んだ
「………貴方が逝かれますか?」
「植え替える訳には行かねぇなら
救いはあると植えねぇと万里は壊れるしかねぇじゃんか!」
「なれば、我等がサポート致します……」
康太は立ち上がると万里の前に立った
榊原がその背後に立った
康太は意識を集中すると、紫雲に導かれて……
万里の深淵まで入って行った
ガクンッと崩れる身躯を榊原は支えた
康太を抱き上げて榊原はソファーに座った
康太は万里の深淵に潜って行った
そこはあの日の暗闇の中で止まっていた
怖いよ……
助けて……
言葉にならぬ叫びが聞こえた
『万里!万里!助けに来たぜ!』
康太は万里の深淵に呼び掛けた
心配する戸浪と沙羅の想いも紡いで……伝える
『………万里……無事でいて下さい……
神様……我が息子を……助けて下さい……』
戸浪海里の声がする
万里は「父さん!」と叫んだ
『万里……私の可愛い息子……
絶対に生きて還ってきてくれると信じています…』
沙羅の想いに……「母さん!」と叫んだ
万里は泣いていた
父と母との思いを知って……万里は泣いていた
『万里!皆がおめぇを心配していた!
皆がおめぇを案じて不安に押しつぶされそうだった
おめぇは一人じゃねぇ!』
康太が叫ぶと万里は頷いた
「康太君!僕は…怖かったんだ…」
康太は万里を強く抱き締めた
「怖い時は怖いって言って良いんだ
強がらなくて良い……」
「康太君……康太君……」
「おめぇは誇り高き龍神の血が入ってるんだぜ
龍神だって毎日強い訳じゃねぇ
弱くても良いんだ
泣いたって良いんだ
立ち上がって立ち向かえる勇気さえあれは
それで良いんだ万里!」
「……康太君……解った……」
「うし!もぉ強がらなくて良いかんな……」
万里は康太に抱き着いた
「還って来い万里!」
目の前の康太が消えて行った
万里は康太を追い掛けて………
目を醒ました
万里が目を醒ました時、康太も目を醒ました
榊原は安堵して……息を吐き出した
万里は立ち上がると両親に深々と頭を下げた
「父さん!母さん!……僕、死ぬって覚悟しました
僕はそんなに強くはない……
恐くても……身動き出来なかった……」
戸浪は万里を抱き締めた
沙羅も万里を抱き締めて泣いていた
「生きていてくれれば……」
戸浪は後は言葉にはならなかった…
ともだちにシェアしよう!