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第29話 葬送
東矢の葬儀告別式はしめやかなに行われた
桜林学園からOB、在校生が詰め掛けた
喪主は飛鳥井瑛太
参列者は飛鳥井康太の大切な存在の葬儀と認識して参列していた
告別式の会場に康太の姿はなかった
それが余計に涙を誘った
本当なら誰よりも……傍にいたいだろうに……
出来ない康太の想いが……痛かった
告別式の会場には三木繁雄の姿があった
堂嶋正義や戸浪海里の須賀直人の姿もあった
一生、聡一郎、隼人の姿はあるのに……
榊原と康太の姿は何処にもなかった
榊原は会社も休んでいた
飛鳥井の家で康太と一緒に東矢を送っていた
清家静流が一生に
「伊織と康太は……やはりおらぬか…」
と声をかけた
「康太は出られねぇからな……
旦那はそんな康太を置いては行けねぇよ…」
「………一番見送りたいであろうに……」
清家は涙を堪えて言った
一生は「………皮肉だよな……」と清家を抱き締めた
堂嶋正義は瑛太に
「康太の大切な存在と聞いた……ので、参列させて戴きました
康太は………?」
と問い掛けた
「康太は飛鳥井家真贋……人の生き死に‥‥には立ち会えないのです……
歪みを正して無に返してしまいますから……」
「………一番見送りたいだろうにな……」
「……ええ……康太の為に……命を落とした子ですからね……悔やんで……見てられません……」
瑛太は康太の憔悴ぶりを伝えた
「慎一もまだ入院してます……康太の胸の内を思えば……」
瑛太は泣いた……
それでも喪主として東矢を見送る為に、気丈に振る舞っていた
戸浪は妻と万里とで参列した
千里は学校の方から参列していた……
告別式の会場に……
嗚咽が響き渡った
康太が今……どんな想いで……
過ごしているか……
想えば涙は止まらなかった
告別式が中盤に差し掛かって来ると
喪主の挨拶ではなく
康太からのメッセージがマイクを通して流された
『本日は弥勒東矢の葬儀告別式に多数の参列をありがとうございます
東矢は飛鳥井康太の身代わりとなって命を落としました
まだ20年間しか生きていないのに………
東矢は人生の幕を下ろしました
無念だった事と想います
弥勒東矢は亡くなりましたが……
意思は消えたりは致しません
今日は本当に遠路遙々起こし戴いてありがとう御座います
東矢はこんなに沢山の人たちに送られて……
ビックリしている事と想います
不遇に生きた人生のまだ半分も幸せに出来なかった……悔やんでなりません
それでも東矢は飛鳥井康太の為に……逝きました
そんな東矢の為に本当に今日はありがとう御座いました』
康太の声だった
会場に来れない康太の声だった
康太の無念を想えば……
涙が止まらなかった
飛鳥井瑛太は参列者全員に献花をして貰い
白い花で東矢は埋め尽くされた
ニコッと微笑んだ顔が……
死に逝く速さを物語っていた
弥勒東矢は微笑んで……最期を迎えていた
主に仕えた人生の最期を迎えた顔は幸せそうだった
献花を終えて、瑛太が参列者に礼を述べ
出棺の時間になった
霊柩車は飛鳥井の家の前を通って、桜林学園を通って火葬場へと向かう
康太は飛鳥井の家の前に立っていた
瑛太に家の前を通ります……と言われて……
榊原と二人で、家の前に出て……その時を待っていた
「康太、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ伊織…」
康太は少し熱を出していた
榊原は康太を抱き締めた
家の前を黒塗りの霊柩車が速度を落としクラクションを鳴らした
康太と榊原は深々と頭を下げ、東矢を見送った
火葬場に着いて行く堂嶋と三木が康太を見付けて近寄った
堂嶋が「康太……」と呼び掛けた
康太は憔悴しきっていた……
「正義、忙しいのに……本当にありがとう」
「お前の大切な存在なんだろ?」
「そう……不遇な時を送っていたから、これこら幸せにしてやりたかった……」
康太は儚げに……笑った
堂嶋はそれを、やるせない想いで受け止めた
まだ泣いてくれた方が……楽だった
「帰りに寄って良いか?」
「あぁ……構わない…」
堂嶋が離れると三木も近寄った
「康太……顔色が悪い…」
「大丈夫だ繁雄…
慎一の見舞いに行く時に診察もしてくるかんな」
「また連絡します」
三木は康太を抱き締めて離すと、堂嶋と共に車に乗り込んだ
榊原は康太を抱き上げて家の中に入れると、応接間に連れて行きソファーに座らせた
「診察券を持ってきます
此処で待ってて下さいね」
「おう!何処に行かねぇよ
伊織と離れて生きていけねぇかんな」
榊原は康太を抱き締めて、離すと自室に向かった
康太の上着と診察券とか入ってるバッグを持つと寝室の鍵をかけて下へと下りていった
「康太、病院に行きますよ」
榊原は心配そうな顔で康太に声をかけた
「慎一を見て来ねぇとな」
榊原は康太を抱き上げると、地下駐車場へと続くドアを開けた
地下駐車場まで行き、ベンツの助手席に康太を座らせると運転席に乗り込んだ
シャッターをリモコンで開けると、エンジンを掛けた
ゆっくりと車がスロープを上って行く
道路に出るとシャッターを下ろし、榊原は主治医の病院へと向かった
病院の駐車場に車を停め、診察を受けるべく受付をした
「大分待たないとならないなら、お見舞いを先に行ってくるつもりです」
受付の女性に診察の具合を聞くと
「では、先にお見舞いをなさって来て下さい
院内放送で流すので、そしたら診察にいらして下さい」
と言われて慎一の所へ向かった
ドアをノックして「どうぞ!」と慎一の声がした
榊原はドアを開けて康太を病室に入れた
そしてソファーに座らせ、慎一の傍に行った
慎一は心配そうな顔をして榊原を見た
「熱を出しているのです……」
「ショックは大きいですからね…」
慎一は主の想いに胸を押さえた
「具合はどうですか?」
「夜中に発熱したので、聡一郎が付き添っててくれたので、医者を呼んでくれました」
「聡一郎がいたのですか?」
「出勤前に玲香と京香が寄って、和希と和馬を見せてくれました
清隆さんも来てくれて飲み物とか置いて行ってくれました
一生が着替えを持って来て着替えさせてくれたし、本当に俺は幸せ者です」
「そうですか!和希と和馬はどうでした?」
「早く治せよ父さん!と言って怒っていました」
榊原は苦笑した
「清四郎さんや真矢さんも来てくれました
お忙しいのに……有り難かったです」
「そうですか……僕は今、両親とは連絡は取ってませんので、誰か教えたのでしょうね…」
「………え?連絡してないんですか?」
「ええ。康太から目を離したくないんです」
榊原の想いを想えば……理解出来た
「笙さんの所、産まれたそうです」
「………そうですか……
今は行きたくないですね……
失う命あれば……生まれ出る命あり…ですか…」
「……本当に皮肉ですね……」
慎一が呟くと院内放送が掛かった
『飛鳥井康太さん、診察室に起こし下さい』
榊原は立ち上がった
「慎一、また来ます」
「無理しないで良いです」
榊原はニコッと笑うと康太を促して病室を出た
そして診察室へ向かうと看護婦が待ち構えていた
「先生がお待ちです」
そう言い診察室のドアを開けた
榊原が康太を抱き上げて診察室へ入ると、久遠の前の椅子に康太を座らせた
久遠は榊原を見て「熱出してるのか?」と尋ねた
「ええ…上がる一方です……」
「………精神的なモノが大きいな……
点滴を打って検査をする
時間は大丈夫か?」
「大丈夫です」
「検査の間、傍にいて良い」
「すみません……」
「伴侶殿を探して脱走するからな……」
久遠は笑った
康太の手に点滴を打って、検査に回る
採血をして、一通りの検査をすると、午後1時を過ぎていた
榊原は処方箋出して貰って、精算をして近くの薬局に薬を出して貰って帰宅の途に着いた
飛鳥井の家に帰ると一生が出迎えてくれた
地下駐車場に顔を出して
「何処に行ってたんだよ?」と問い掛けた
「病院に行ってたんですよ」
榊原は車から下りると助手席のドアを開けて康太を抱き上げた
ドアを閉めてロックすると、一生と共に地下駐車場を後にした
「何処か悪いのかよ?」
一生は心配そうな顔をした
「熱が下がらないのです
精神的なのもありすが……一応ね…」
「応接間に皆いる……」
「無理ですね……今の康太を見れば……帰れませんよ」
「………困ったな……」
「なら寝室に顔を出して貰いますか?
康太を寝かせたいのです…」
「解った……少ししたら寝室に顔を出して貰う」
榊原は康太を抱き上げたまま寝室へと向かった
服を脱がせて、パジャマを着せてベッドの中へ寝かせた
康太は眠そうだった
久遠が眠るように点滴の中に眠る薬を入れたせいでもあった
ベッドに入るなり康太は寝息を立てて眠りに堕ちた
榊原はベッドに腰掛けて……康太に口吻た
暫くすると寝室のドアがノックされた
「空いてます!どうぞ!」
榊原が言うと一生が顔を出した
「通して良いか?」
「はい……」
一生は皆を寝室へと招き入れた
康太は……眠りながら……涙を流していた
幾度拭っても……その涙は止まる事はなかった
堂嶋正義はその光景を見て……胸を痛めた
戸浪や、三木、須賀直人は……立ち尽くすしか出来なかった
榊原は立ち上がって
「こんな姿の康太は見せたくはありませんでした
……出来るなら……元気な姿をお目にかけたかった」
そう言い深々と頭を下げた
そこへ清四郎が真矢と共にやって来た
幾度榊原に電話をしても繋がらず……痺れを切らして来たのだ
飛鳥井に連絡を入れたら慎一が入院してると言われ、慌てて見舞いに行った
一体……何が起きてるのか……
清四郎は胸騒ぎが止まらなかった
清四郎は一生に寝室まで連れられて……その光景を目にして動けなかった
「………伊織……」
清四郎が呼ぶと榊原は「父さん……」と呼んだ
榊原も憔悴しきっていた……
「伊織……大丈夫ですか?」
「父さん……少し待ってて下さい…」
榊原が言うと清四郎と真矢は頷いた
「康太は熱を出して久遠先生に点滴を打って貰い寝させてます
元気になるのは……もう少し掛かります……
少し待ってやって下さい……」
堂嶋は榊原を抱き締めた
「君も疲れ切った顔してます
どうぞ!寝てください!
栄養のつくのを飛鳥井に運ばせます
三木と若旦那と須賀と話し合いました」
「………正義さん……」
「それしか出来ませんが……
サポートさせて下さい
病院に行って慎一の見舞いもして来ます
一日も早く康太の傍に戻れる様にサポートさせて下さい!」
「本当にありがとう御座います……」
「今度は起きてる時に逢いたいな」
「はい!ご連絡します」
三木も戸浪も須賀も榊原と話し、励ますと帰って行った
榊原は清四郎の傍に行った
「父さん、兄さんの処が産まれたそうですね」
清四郎は榊原を抱き締め
「ええ……産まれました……
が、私も真矢も……君に連絡が着かないので…
胸騒ぎがしてました……」
「ご心配掛けました……」
「瑛太が電話に出て話してくれました
康太の身代わりに東矢が……亡くなったのもお聞きしました……
で、私達夫婦も葬儀に参列させて戴きました
惜しまれて逝かれました……」
榊原は驚いた顔をして父を見た
「………父さん……葬儀に参列してくれたのですか?」
「ええ……真矢と共に参列しました」
「………東矢は康太の身代わりになって逝きました…」
「瑛太に聞きました……康太は辛いでしょうね…」
「それでも……立ち止まってはいられません…」
明日の飛鳥井を築く為に……
立ち止まる暇なんてなかった
「………伊織……」
真矢は息子を抱き締めた
気丈に立っている息子が痛々しかったから……
「………母さん……」
「無理して気丈に振るわなくても良いのですよ
弱音吐いても……大丈夫です!
私はお前の母です……お前は私の大切な息子なんですからね……」
「………母さん…」
榊原の気丈に張っていた心が緩む……
「………僕は無力です……
東矢を逝かせてしまいました……
なのに……康太が逝かなくて良かったと安堵したのです……」
そんな自分が許せなくて……
榊原は苦しんでいた
真矢は榊原を抱き締めて、頭を撫でた
清四郎も妻に抱かれた息子を抱き締めた
清四郎は
「愛する者を失いたくない……その気持ちは大きい
私がお前の立場だって、そう思う
愛する人を亡くさなくて良かったと……想う
だからお前は悪くなんかない……」
「………父さん……」
「……伊織……慎一を見舞いました」
「慎一は肩の骨を骨折して……瓦礫が突き刺さっていたので……縫いました
当分は帰っては来られません……」
「慎一も泣いていました…
康太の傍にいられないのが……もどかしい……
と、慎一は泣いていました…」
「慎一は康太の為に生きてますからね……」
「君の周りは……皆そうでしょ?」
清四郎はそう言い笑った
「伊織、私は連絡すら付かない息子に、胸騒ぎを覚えても近くに行く事すら出来ませんでした
私も‥‥もどかしいです……
こんなに近くに越して来たのにね……」
「父さん……すみませんでした」
「あ!そうだ!忘れていました
康太の車を電気自動車に変えようと想ってるんです!
色んな機能が着いてますからね今の自動車は
なので、ミニを引き取り、電気自動車を納車させようと想って連絡を取っていたんですよ!」
「………すみません……秋田に行ってました」
「………電波が届きませんでした……」
「山の中に隠れてましたから……電波がなかったのと、電話に出られなかったのがあります」
「ディラーが車を持って来るから立ち会って下さい」
「解りました!
僕の康太も起こします」
「あら、起こさなくても良いのよ……」
真矢は言った
「僕がいない時に目を醒ますと探しに回るのです
弱ってる時の康太を一人には出来ないのです…」
清四郎も真矢も胸が痛かった
「ディラーは何時に来ますか?」
「後2時間位です」
「なら大丈夫です」
清四郎と真矢は「源右衛門は?」と問い掛けた
「源右衛門は今、鎌倉に行ってます」
「鎌倉?」
「ええ……友を亡くしてからの源右衛門は、外にも出ず……引き籠もって……哀しみにくれてました
このまま家に置いておいたら……身体的にも肉体的にも…良くないので弥勒厳正に預けて来ました」
「………そうなんですか……
新築祝いの後、仕事が忙しくなり来れなくなりました
気になっていたのですか、夜中に尋ねる訳にもいかず…素通りしてました……」
「厳正の所で元気になったら戻します」
「なら逢いに行くわ!ねぇあなた!」
真矢は清四郎にそう言った
榊原は「差し入れを入れに行くので今度一緒に生きましょう」と約束した
その前に………遣ることは山積していた……
康太はパチッと目を醒ますと起き上がった
「伊織、悠太と聡一郎を呼んでくれ!
明日は義恭が来るかんな……悠長な事はしてらんねぇ」
「……ホテルを取りますか?」
「……んな時間ねぇかんな、リビングに呼んでくれ」
「解りました!
良い子に寝てて下さいね」
「おう!寝てるかんな…」
榊原は寝室を出ると応接間まで向かった
清四郎は康太に「大丈夫なんですか?」と尋ねた
「大丈夫だ!清四郎さん
笙の所、やっと生まれましたか?
手の甲に十字架……入ってましたか?」
「入ってました!
笙はそれを見て泣いていました
康太に逢わせたいと言ってました…」
「……今はオレは逢いたくねぇんだよ……
笙には悪いけどな………亡くした東矢を偲びたい」
清四郎と真矢は言葉もなかった……
産まれる魂があれば、消えて亡くした魂が………あった
皮肉すぎて康太が逢いたくないと言うのは当たり前だと理解できた……
榊原が戻って来ると康太を着替えさせた
清四郎は「……話し合いなら……私達は同席は避けた方が良いですね…」と問い掛けた
康太は「清四郎さん、真矢さん、同席して下さい」と頼んだ
「…え?…良いのですか?」
「おかしいと想ったら口を挟んで下さって構いません…」
「解りました…」
清四郎と真矢はリビングのソファーに座った
康太もソファーに座ると、榊原が階段を下り応接間へ呼びに向かった
応接間に顔を出すと一生が榊原の姿を見て飛び出して来た
「旦那!何かあったのか?」
「聡一郎と悠太をリビングに呼んで下さい
康太が話があると言ってます」
「………ホテルは……もう取る余裕もねぇわな?」
「そうなんです……
問題は山積してます
一つずつ片付けて行かないと……ダメですからね」
「……だな……悠太を桜林まで呼びに行く
そして聡一郎を掴まえて、リビングに行くわ」
「お願いします」
一生は榊原の肩を叩いて応接間を出て行った
榊原は3階まで上って康太の処へ戻った
リビングのドアを開けて
「一生が動いてくれています」と伝えた
清四朗は康太に「辛くないですか?」と尋ねた
「大丈夫だ清四朗さん」
康太が言うと真矢が
「大丈夫じゃないでしょ?
康太は無理ばかりしますからね…」
と言い康太を抱き締めた
「真矢さん……」
「花見に行かなきゃね
でしょ?康太」
「真矢さん、花見の前に和希と和馬と北斗入学式があります…
多分……慎一は入学式は無理です…」
「あら……可哀想ね……
ばぁばが入学式に出るとしますか!」
真矢が言うと清四朗も
「なら、じぃじも頑張らねばなりませんね!」
そう言い笑った
「………ありがとう御座います……」
「慎一は家族も同然です!
その子ならば、私達にとっても家族です」
真矢はそう言い菩薩の様な優しい笑みを浮かべた
暫くすると一生が悠太と聡一郎リビングにやって来た
一生が聡一郎と悠太を座らせると、お茶を煎れに向かった
榊原は康太の横に座ると、そっと引き寄せて抱き締めた
「聡一郎……お前の答えを聞かせてくれ…」
聡一郎は康太を見つめて……泣いていた
「人は……明日の事なんて解りゃしねぇ
明日死ぬなんて……東矢は知らなかった筈だ
人の命は……保証なんてされてねぇ…
だからこそ美しく光り輝いて明日を夢見るんだ
そんな明日を担うためにオレ達は子供を育てている
明日の飛鳥井を継がせる為に……明日を正して行こうと想うんだ……」
康太の言葉は重かった……
榊原は聡一郎に
「別れると言ったそうですね……」
と単刀直入に問い掛けた
「………悠太はどうするんだろうと……想った
我が子がいると知ったら……どうするんだろう…
そう思った……
一生を見てたら……やはり我が子は可愛いんだな
……そう想った……
我が子だもんね……血を分けた子だもんね
愛しいに決まってるよね
だけど僕は……それを認められるのかな……
ずっと考えていたんだ…ずっと……ずっと……
考えていた……
僕は……悠太が彼女を抱いて作った子を……
愛せるのか……自信がなかったんだ……
悠太は良い父親になれるよ
康太の子を子守りてしてる時の悠太は良い父親になれるなぁ……って何時も想っていた……
悠太に子供を還そうと想うんだ……」
聡一郎は苦しい胸の内を明かした
康太は何も言わなかった
悠太は聡一郎に
「康兄から聞いた……全部聞きました
俺の子供がいると聞いても……実感が沸きませんでした
俺は……あの人が子を産むのも知らなかった……
全部康兄に任せっきりで……知りませんでした
そんな俺には……父親になる資格はありません
聡一郎が育ててくれるなら……
一緒に育てたい……
そうでないのなら……俺は子供に近寄る資格はありません……」
悠太はずっと考えていた事を聡一郎に告げた
「聡一郎、永遠には罪はねぇんだ
愛して育ててやれねぇのなら……永遠は里子に出そうと想ってる
勝也が欲しがっていたからな……
望まれて貰われた方が幸せかもな……と想った
永遠は今を生きて育ているんだ
ちゃんとその成長を見届けてやれねぇのなら
お前ら二人には育てる資格なんてねぇ……」
康太はかなりキツい言葉を聡一郎と悠太に投げ掛けた
清四朗は「ちょっと良いかな?」と声をかけた
「良いですよ!清四朗さんの想いを聞かせて下さい」
「子供は玩具ではないんです
あっちこっちにやられて育つのがどれだけ辛いか……解りますか?
私と真矢は施設で育ちました
真矢は親はいても育てられなかったのです
親戚中をたらい回しにされて……子供の真矢に………
手を出す奴もいた………
私と真矢はそんな大人の理不尽に耐えて生きてきたのです……
そんな子供の想い……考えた事がありますか?
覚悟がないのであれば、子供を引き取るべきではなかった!
康太はそれが言いたいのだと想います
だから……私達を同席させた……」
清四朗の悲痛な言葉に……
聡一郎は言葉もなかった
「悠太、君は子を成したのであれば男にならねばなりません!
この命を賭したとしても子を護る覚悟を持たねばなりません!
その覚悟がないから……子供を作るべきではなかった!
子は愛して育てる存在だ!
親の身勝手にさせるのであれば、子供は不幸にしかなりません……」
悠太は自分の未熟さを悔いた……
甘えていたのだ康太に……
真矢も重い口を開いた
「永遠君って言うんだよね?
貴方達の子供……
康太の子供は愛されて日々成長しているわ
慎一の子供も愛されて日々輝いている
悠太の子供は何処にいるの?
何故、此処にいないの?
飛鳥井の家族は子供に差をつけたりしないわよ
どの子も同じ様に愛を注ぎ込んでるわ
私達も子供に差を付ける気はないわ
飛鳥井にいる限り!
私達はどの子も変わりなく可愛がると決めています
貴方達の子供も、幸せになる権利はあるでしょ?
子供の可能性や愛を奪う権利は誰にもないわ!
私と清四朗は施設で育ちました
私は殴ったり蹴ったりする親といるより……
夜になったら触りに来る親戚や義父達といるよりは……
施設の方が楽だと想った……
そんな哀しい子供……私は見たくないの……
他人の中で生活するって……大変よ?
だから、ちゃんとした答えを出して欲しいと思うの」
真矢は思いの丈を聡一郎と悠太にぶつけた
康太は悠太と聡一郎に
「二人で話し合って答えは出せば良い!
今、此処で結論を出す必要はねぇ!
唯……今を生きてる時は二度と来ねぇと……
知って欲しかった……それだけだ!
東矢は親のエゴで……オレを殺しに来た
死ぬ覚悟で……オレに手を掛けようとした
オレに手を掛ければ生きてはいないと解っていて……
東矢は来たんだよ……死にに来たんだよ
オレは東矢に違った人生を送らせたかった
幸せに笑って過ごさせたかった……
それしか望んじゃいなかった……
幸せになる権利は誰にもある
不幸になるのなら……オレは永遠を幸せにしてくれる人に渡す覚悟は出来てるんだよ
永遠の人生は始まったばかりだ……
なのに……何故永遠は他人に育てられるんだ?
音弥は何時か神楽に養子に出すべき存在だけどな
誰よりも幸せに育てて……託そうと想ってる
神楽音弥になったって、音弥の親父はオレだ!
適材適所、配置するがオレの使命だ!
違えればオレは動く……それだけ覚えておけ
話はそれだけだ!」
康太はもう二度と、この話はしないだろう
結果を出さねば……永遠を幸せにしてくれる人に手渡すだろう……
何故なら……飛鳥井康太には幸せにする義務があるからだ
あの女の人の願は……我が子の幸せだけ……
それを受け継いだ康太は、永遠を幸せに導く義務がある
聡一郎は「悠太と話し合います!」と康太を真摯に見て答えた
悠太も「俺も覚悟を決めます!」と言い深々と頭を下げた
そして聡一郎と共にリビングを出て行った
康太は息を吐き出した……
聡一郎達が部屋を後にして直ぐ、清四朗の携帯が鳴り響いた
電話に出ると車のディーラーからだった
『納車に伺って宜しいですか?』
「はい!来てください」
清四朗は了承して電話を切った
「康太、車が来ます!
今の自動車は機能が良いので君向きです」
「え?………車?……ミニじゃなく?」
康太は訳が解らなかった
榊原が経緯を話して、康太は納得した
「清四朗さん…本当にありがとう御座います」
康太は礼を言った
「康太、今の車は色々と機能も豊富だからね
私達も車を変えたんだよ
そしたら真矢が康太の車も変えた方が良いと言いだしたんです
伊織の心配の軽減の為にね!」
清四朗は楽しそうに笑った
榊原は康太を抱き締め
「車は僕も変えようと想っていました
君に運転させるなら……と想っていたので嬉しいです」
「……オレの運転は雑いからな!」
康太は拗ねた
榊原は康太の唇に口吻て
「愛する男は何かと心配性なんです!
許しなさい」
と笑った
惚れ惚れとする笑顔で………
康太は榊原に抱き着いた
「惚れた弱味でオレは、あんでも聞くしかねぇじゃんかよぉ!」
榊原は康太を抱き締めたまま立ち上がった
「何でも聞いて下さいね!」
と嬉しそうに……少し卑猥に笑った
「…………伊織……スケベな顔になってる…」
「最近お預け食らってるんで……
少しスケベになるのは……愛、故です!」
榊原は笑いながら、康太を抱き上げ清四朗と真矢と共に地下駐車場まで向かった
地下の駐車場のシャッターを開けてディラーを待つ
暫くするとディラーが地下駐車場まで車を運転して来た
ディラーが運転して来た車はピンク色の可愛い車だった
小回りが利きそうな可愛い車、パッソだった
康太に似合いそうで榊原は嬉しそうだった
「康太、私が選んだのよ!」
真矢が選んだ車に康太は少しメルヘンチック過ぎだろ……と苦笑した
榊原は本当に嬉しそうに
「母さん、康太に似合います!」
と言い、ご機嫌だった
ディラーは新車を納車してミニを持って帰って行った
清四朗は地下駐車場に停まっていた、キューブを指差して
「この車は誰のですか?」と尋ねた
康太の車並みに可愛らしかったからだ
榊原が「その車は慎一のです!」と答えた
「……え?慎一ですか?」
「子供が喜んで乗るので、それにしたみたいです」
「ならこの日産リーフは?」
「それは聡一郎と一生の車です」
意外だった
「聡一郎とか、一生はもっとスポーツカーとか乗ってそうなイメージなのにね…」
真矢が呟い
一生は苦笑しつつ「燃費の良くない車は乗れません…」と答えた
「そうよね!私達も燃費の良い、しかも色んな機能が着いた車に変えたのよね」
と真矢もしみしみ言った
地下駐車場にいると、玲香と京香が帰宅した
子供を車から下ろすと康太に渡した
「ぅ……大空……お前重くなりすぎ…」
とボヤいて真矢に渡した
真矢も「あらまっ!本当に重いわ…」と清四朗に渡した
榊原は太陽を渡して貰い、頬にキスを落とした
「和希、和馬、北斗、おめぇ達の入学式
皆で行くかんな!」
康太は和希と和馬と北斗の頭を撫でた
「北斗、ちゃんと名前書けるか?」
康太が聞く北斗は「書けるよ」と言いノートを出した
「みどりかわほくと」と書いていた
「お!すげぇな!北斗」
一生は感心して北斗を撫でた
「此処は危ねぇかんな!部屋に行くとするか!」
康太は翔を抱き上げて通用扉を開けた
それぞれ子供を持って飛鳥井の家に入って行く
康太は応接間に子供を遊ばせて「とぅちゃ」と榊原に抱き付く子供を見ていた
翔、流生、太陽、大空、音弥は最近
榊原を「とぅちゃ」
康太を「かぁちゃ」
と呼ぶようになっていた
何時からそうなったのか……
康太は時々、かぁちゃと呼ばれて顔が赤くなった
この前までは……両方とぅちゃ……だったのに……
「和希、和馬、慎一いねぇから淋しいか?」
と康太は2人に問い掛けた
和希は「父さんは口うるさいから……たまには静かで良いよ」と強がっていた
和馬は「大人しく寝ててくれれば良いけどね…無理するもんね父さん…」とよく見ていた
康太は2人の頭を撫でた
和希と和馬は康太の子供の面倒をよく見る
北斗はご本をよく読んでやっていた
皆が協力して日々成長していた
翔の最近のお気に入りは京香の産んだ子『瑛智』
やはり兄弟の血が呼ぶのか……翔は寝ている瑛智の世話をよく焼いていた
「京香、瑛智はよく寝るな…」
康太が話し掛けると京香は苦笑した
「腹が減ったら手が着けれない程泣く
で、腹が膨れたら、ひたすら寝てる…」
「手間暇かからねぇ子だな」
康太は笑った
京香は「慎一がいないから夕飯を作って来るのだ」と慌ただしくキッチンに向かおうとした
「おう!大変だけどなあと少しだかんな」
「慎一は何事にもパーフェクトに熟しすぎなのだ
慎一に任せてたら……凄く困ったのだ……」
「……京香……堪えてくれ…」
「解ってる
言ってみただけだ」
「最近、瑛兄とはどうよ?」
「喧嘩なんてしねないよ?
エッチも程々にして、何処にでもいる夫婦と大差ない生活を送らさせて貰ってる」
「なら良かった……」
「最近の瑛太は優しいな
子育ても手伝ってくれるし
疲れてると肩を揉んでくれる
愛されてるな……と、想えるな、そう言う時は…」
「不器用な男だけどな……」
「不器用だけど精一杯してくれるのは…
泣ける程に嬉しい……」
「良かったな」
京香は頷いた
そして康太を抱き締めて、食事を作りに行った
榊原は康太を抱き寄せ
「良かったですね」
と、頬に口吻た
康太は、うん…と言い榊原の胸に顔を埋めた
清四郎と真矢は、そんな2人の光景を何時までも見ていた
夕飯が出来て、清四郎と真矢も食卓に着いて夕飯を食べた
「清四郎さん、明日休みなら泊まっていきますか?」
「明日は源右衛門に逢いに行こうと想います」
清四郎は康太にそう告げた
「じぃちゃんに逢うなら、連れ帰ってくれて構わねぇ
子守もして貰わねぇとな!」
康太が言うと真矢が
「なら、どの子か連れて行こうかしら?」
と笑って言った
「どの子でも良いですが、太陽と大空は離すと泣きますよ……離さないなら連れて行けますが、離すと……一日中泣いてますからね……」
「あら……双子は離れないのね……」
「みたいです…」
「なら和希と和馬を連れて行こうかしら?」
「それ良いですね
幼稚舎を卒業して小学校に行くまで暇ですからね」
「入学式、私達も行くからね!」
「喜びます!」
「なら2人を連れて行くわ
誰か道案内してくれないかしら?」
真矢が言うと聡一郎が
「僕が道案内します」と告げた
「お願いね!聡一郎」
真矢は優しく笑った
榊原は康太が食事を終えると薬を飲ませて、寝室まで抱き上げて行った
真矢は2人を見送り
「康太……調子悪いのね…」と呟いた
聡一郎は「熱出してます」と言った
「その前から調子悪かったみたいね…」
「え?そうなんですか?」
「着替えさせた時、康太の肌……
綺麗なものだったもの……」
何時もは紅い跡が散らばってるのに……
それがない……と言う事は……
体調が悪かった……と言う事しかなかった
「………え?知らなかった……」
聡一郎は……普通にしてるから解らなかった
秋田に行った康太は……何時もと変わりがなかったし…
清四郎は「………2人が仲良くしてれば安心です」と息子に想いを馳せた
仲良く……
離れないで……
それしか願っていなかった
榊原は寝室に康太を連れて行くと服を脱がせた
自分も服を脱ぎ、康太と一緒にベッドに入る
腕に抱く康太は少し熱かった
「熱、出ましたか?」
「……ん……少し熱い…」
「解熱剤、飲みますか?」
榊原が言うと康太は榊原に縋り着いた
「良い……このまま眠る……」
「無理して欲しくないんですよ?」
「無理してねぇよ…伊織といられる時は離れたくねぇんだよ」
榊原は康太を強く抱き締めた
「眠りましょう…」
「ん……」
眠りに落ちる瞬間まで……
抱き締めていて伊織……
愛してるから……
伊織だけ愛してるから…
康太は榊原の熱を感じ
眠りに落ちた
眠っても感じる
愛しい男しか愛せない
愛してる……
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