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第32話 天界へ

榊原と康太は道場に出向き、禊ぎをして心身を清めた 康太は弥勒を呼び寄せた 弥勒は康太の傍に姿を現すと厳重な結界を施した 「もしも……の事態が勃発したら夏生と共に天界に来てくれ……」 『………解った……』 「……頼むな弥勒…」 『解っておる!』 「歓迎されてねぇ…かんな」 『…………だから掃除なのであろうて』 弥勒は結界を切ると姿を消し去った 禊ぎを済ませ、寝室へ行き服に着替える 天界に行くのだから……二人とも白のスーツを着て ソファーに座っていた 約束通り、ミカエルが康太と榊原の前に姿を現した 「ガブリエルの命により、お迎えに来ました」 迎えに来ましたと言いつつ、ミカエルは慇懃無礼な態度で、二人を睨み付けて侮蔑した瞳を向けていた 二人に下げる頭はないと言うばかりにふんぞり返っていた 康太と榊原は立ち上がった 「なら行くとするか‥‥」 榊原の手を取ると、榊原は康太を抱き寄せた ミカエルはニャッと嗤うと、呪文を唱えた……… 呪文が放たれると、時空は歪んだ そしてふかふかの雲の上へと飛ばされた だがふかふかの雲の上だが…… 当たりには何もなかった………… 天界に間違えはないが……神殿の在るガブリエルの所でないのは、景色を見れば解った ミカエルは他の天使と合流した 他の待ち構えていた天使に、康太と榊原を渡した 「連れて来たぜ……」 ミカエルがそう言うと天使はフンッと鼻を鳴らした 「どっちが化け物だ?」 「小さい方……」 「…………この様なものに驚異的な力があるとは思えぬな……」 「……だろ?ガセじゃないのか?」 「………なら、何故ガブリエルは天界に入れたりするのだ?…」 「………………」 「まぁ、よい。 北の幽閉塔に押し込めておけば良い… ガブリエルだとて無傷では済ませはしまい!」 そう言った天使はミカエルと同じ九枚羽根を持っていた 康太は皮肉に唇の端を吊り上げて 「ラファエル」と呟いた するとラファエルと呼ばれた天使は顔色を変えた 「流石…化け物なだけはある だが、お前などに名を呼ばれたくはないわ!」 ラファエルは手にした棒で康太を殴ろうとした 榊原が康太を抱き締めて………阻止した すると棒が榊原の額を抉って……傷付けた 榊原は額から血を流しながら……睨み付けた 康太は身躯から焔を立ち上がらせて…怒っていた 榊原は康太を抱き締めた 「……康太……天使に手を出したらダメです…」 「……オレの伊織を傷付けた! 万死に値するだろうが!」 「……康太、ダメです……」 康太がグッと堪えると… ラファエルは手下の天使に、康太と榊原を北の塔に連れて行く様に命令した 凍える様な寒い地に北の塔は建ってい 康太と榊原は囚われて塔に押し込まれた…  その塔は光も差し込まぬ閉ざされた塔だった これで逃げらぬだろう……天使は残忍な笑みを浮かべて出て行った 康太と榊原を塔に無理矢理押し込め、幽閉するとドアにも門にも鍵をかけた 何重にも鍵をかけてラファエルは笑った 「天界に魔物など無用! 魔物の介入を許すガブリエルにも…… それ相応のお咎めが在る筈! お前達二人はこの地で朽ち果てて消えれば良い…」 ラファエルはそう言いミカエルと共に去って行った 康太は榊原を抱き締めた 「伊織……傷は?」 「大丈夫……と言いたいですが、止まりません」 榊原は白いスーツを真っ赤に染めていた 「伊織……伊織……」 康太は泣いていた 怒りに震え……康太は天を仰いだ 「神よ!これが貴方の答えだと言うのか!」 康太は泣きながら怒りに震えていた…… ならば……天界になど来させなければ良い…… 康太はハンカチで榊原の額を抑えた 「ヒーリングの能力が欲しかった…」 「大丈夫ですよ康太 僕は君を置いて逝きません」 康太は榊原に抱き着いた 「此処は天界だからオレが誰かと連絡取るのは不可能だと想ってるんだよ……アイツ等……」 康太はクックッと馬鹿にした様に嗤った 「この後、如何するのですか?」 「取り敢えず閉じ込められておく」 「その後は?」 「その頃には弥勒と夏生がガブリエルを尋ねて行くだろう?」 「……夏生がガブリエルと逢えますかね……」 「まぁ、いざとなったら力を解き放ってやるさ この塔に入れられて力を使えねぇのは天使だけだろ? オレは生憎天使じゃねぇんだよ! まぁな、天使の様に優しいと言われるけどな! 天使じゃねぇんだよ」 榊原は………う~ん……それはどうだろ? と困っていた やんちゃな悪戯っ子が天使の様に優しい……とは言えないから… 榊原は笑っていた 殺されるかも… 死んでしまうかも…… でも炎帝と共にいられるのなら…… 怖いものなど何もなかった 康太は天を仰ぐと呪文を唱えた 天使如きに封印される力じゃなかった この塔は能力者を幽閉する為の塔だった そこそこの能力を見越して、この塔に幽閉して餓死させるのを目論んでいるのは伺えた 飢えて死に絶えて消えろ…… 思惑は見えていた だが、こんな塔に閉じ込めただけでは 康太の……嫌、炎帝の力は封印されはしなかった 天使はそれを知らない 炎帝の力を知らない 「青龍、いざとなったら龍に姿を変えろ!」 「解りました! 僕は君と力を継承した龍です この程度の塔に幽閉されたとしても、何の弊害にはなりません こんな塔に入れられたとしても、鍵が掛かってないに等しい ナメられたもんですね!」 「アイツ等は天魔戦争再び……と言う絵図を描いているんだろうな 天使が一番………魔族など下等な存在を受け入れるなら……魔族など滅んでしまえ…… そう想ってるんだ…… 神は………知ってて知らん顔してやがる! オレの青龍が傷付けられたと言うのに! オレには青龍がいるから……暴走しねぇと見越して黙秘を決め込んでいやがる」 「僕は君のストッパーですからね……」 「伊織、寒い……」 康太はそう言いブルッと震えた 榊原は康太を抱き締めた 「夏生……いつの間にか天界も腐っちまったんだよ…」 康太は空を仰ぎ……呟いた 『炎帝、僕は弥勒と共に天界の神殿を目指します 貴方は自力で神殿を目指せますか?』 「……オレが先に行けば焼き尽くすぜ! オレの青龍を傷付けて血塗らせたかんな! 顔を見ればオレは焼き尽くすぜ!』 『………ならば、僕が天界に行くまで待ってて下さい…』 「…それも腹が立つからな! 青龍の背中に乗って神殿まで行ってやんよ! オレは……天使なんかにやられねぇぜ! 夏生、傍にいれば……解るよな?」 『………ええ。貴方は……天使が束になっても負けは致しません……』 「オレはその為の存在! だがな!オレの青龍傷付けられて黙ってる気はねぇんだよ!」 『………炎帝……堪えて下さい…』 「ならお前が来るまで待っててやるよ……と言いたいけどな、そう言う訳にもいかねぇぜ!」 『………解っております…… 正しい道に導くのは僕の使命ではありません 僕は炎帝のスワン! それ以外にはなる気はないのです!』 「…ならな!お前が神殿に到着するのを見越して神殿に行く!」 『解りました!弥勒と共に天界へ逝きます』 夏生はそう言い気配を消した 康太は榊原の額に触れた 「今すぐ血を止めねぇと神殿を焼き尽くすぜ!」 康太は天空を仰いで叫んだ 本気の形相で康太は叫んでいた “………誠……お前は………” 天空から声が響き渡った 「オレの総てはこの男だからな! 一滴の血だって許せねぇんだよ!」 “………悪かった………青龍を傷付ける気はなかった” 「オレの青龍を傷付けたんだぜ! 無傷では済ます気はねぇんだよ! この塔は不要だろ?代価はこの塔で良いか 寒いからな少し焚き火をしねぇとな!」 “……でかい焚き火だのぉ…… まぁよい!この塔は不要だからな” 榊原を優しい光が包むと……榊原の額の傷は治った 「ガブリエルが家に幽閉されてちゃ、夏生も弥勒も神殿に行っても捕まっちまうな…」 “お前がガブリエルを連れて神殿に行けばよい” 「ならこの塔に火をつけた瞬間、オレをガブリエルの所に飛ばしやがれ!」 “…本当にお前は……憎めぬ我が子よのぉ……” 「オレは天使じゃねぇんかんな! おめぇの我が子にはならねぇよ!」 創造神はホホホッと笑った 康太は塔の最上階へと上がって行くと、階下目掛けて衝覇を放った 業火が勢い良く燃え滾り焼き尽くす 創造神は炎帝と青龍の身躯を包み込むと…… ガブリエルの所へ飛ばした ガブリエルは自宅に幽閉されて、出られぬ屈辱を噛み締めていた 何としてでも出なければ…… と、想っていると………… 何もない空間から突然、康太が飛ばされて…… ゴロンッと床に転がった 「痛ぇよ!くそぉ!」 康太は毒突いた!! お尻をさすりながら……いると榊原が近寄った 「お尻……打ったのですか?」 「おう!痛ぇ……当分……伊織とはしねぇ……」 「……え?それは辞めて下さい……」 「……だって触るだけで痛い……」 榊原はガブリエルに向き直るとニコッと笑った 「ガブリエル殿、僕の炎帝の痛みを取って下さい」 「………え?……痛み?……それより…… 何で君達がここにいる訳なの?」 「お迎えに来たミカエルがラファエルと結託して僕達を北の塔に幽閉したんですよ 創造神とやらがガブリエルの所まで飛ばしてやると言うので、炎帝が北の塔を爆破させて、その瞬間飛ばしてもらったんです!」 榊原は説明した 「飛ばしたのは良いですけど、康太がお尻を打ちました 癒して痛くない様にして下さい!」 榊原の迫力に……ガブリエルは康太のお尻をヒーリングで癒やした 「痛くないですか?」 「おう!痛いのなくなった!」 榊原は「良かった~」と言い康太を抱き締めた 炎帝は姿勢を正すと 「さてと、こっからは炎帝として、おめぇに話をする」 「はい!炎帝」 「魔界の者を天界に入れるのは許せない輩がオレと青龍を抹殺しようとした オレの青龍を血で染めやがった! その代価は取らねぇとな! 天魔戦争再びを描く馬鹿達に、血塗られた悲劇は二度と起こさせねぇと思い知らせねぇとな!」 ガブリエルは青龍を見た すると青龍のスーツは血で染まって……… 赤黒く変色していた 「………青龍殿……着替えられますか?」 「いいえ!天使と言う仮面を付けた愚か者に制裁する為に着替えは無用です! 天使はそんなに魔界の者を見下す程に偉いのですか? 僕は天使を間近に見て……何故理由もなく侮蔑の瞳を向けられるのか……意味が解りませんでした 魔界の者は下等な………取るに足らない存在ですか?」 「…………青龍殿……」 「『天界に魔物など無用! 魔物の介入を許すガブリエルにも…… それ相応のお咎めが在る筈! お前達二人はこの地で朽ち果てて消えれば良い…』そう言い僕を鉄の棒で殴りつけたのです… 僕達魔族は…虫螻みたいに扱われる存在ですか? 天魔戦争は二度とおこさせない! だけど意識改革をせねば………戦いは再び起きますよ?」 「…………ですから……炎帝殿に依頼したのです… まさか幽閉と言う暴挙に出られるとは想いもしませんでした……」 「ガブリエル! オレは天使が束になっても負けねぇぜ! なぜならば! オレはその為に在る存在だかんな! 神も承知の力で、天界を滅ぼしてやろうか? いっそ無にして綺麗に掃除して、新しい天使を生み出し教育した方が簡単だと思うぜ!」 「………ええ。無にして新しい天使で始めた方が簡単です……」 「その権利はオレに託された オレが無理だと想ったら【無】に返す! そうだろ?神よ!」 炎帝が吠えると天空から声が響いた “天界の総ての権限を炎帝に帰属する 我の代わりに炎帝を派遣をする! 失礼のない様に扱われる様に……な!” 神の啓示が響き渡った 「それをミカエルとラファエル……強いてはウリエルに言いに行けよ! 神の存在も薄くなって来てるからな…… 神の告示、やって来いよ!」 “………本当に……お前に掛かったら形無しだのぉ我は! 愛しき子よ……お前の言う通りにしてしんぜよう!” 「だから、オレはおめぇの愛しき子じゃねぇってばよぉ!」 炎帝はふて腐れた ガブリエルは「………愛しき子よ?」と呟いた 「オレは神の愛しき子じゃねぇ! だが創られた存在だかんな! 神の知りうる子と言う事じゃねぇのか? おめぇら天使も我が子よ……って言うじゃねぇか! そんな意味はねぇよ! 我は建御雷神と天照大神の子だ! 現閻魔大魔王の弟、炎帝! それ以外にはなる気はねぇんだよ! オレは魔界の道標になる! 違える事のねぇ明日を示す為にオレは此処にいる!」 ガブリエルは炎帝に深々と頭を下げた 「………お呼び致しましたのに……… 青龍殿に傷を付けました……お許しを……」 「許す気は皆無だ!気にするな! さてと、転輪聖王と夏生が危害を加えられそうだ 行くとする! ここの天界の奴らは、神の声すら聞く気がねぇみたいだしな!」 炎帝は青龍に向き直った 「青龍、この家をぶっ壊しても良いかんな オレの蒼い龍になってくれ!」 青龍は微笑んだ 炎帝に口吻を落とすと……強く抱き締めた 「君の好きな蒼い龍になります」 青龍はガブリエルの家を破壊しつつ、龍に姿を変えた 「オレの蒼い龍がこれ以上血を流せば…… オレは天界を【無】に返す!」 炎帝はガブリエルを貫いた ガブリエルは頷くしかなった 目の前で……蒼い龍がとぐろを巻いていた 屋根は吹き飛び……壁は崩壊し……… 一瞬にして……ガブリエルの家は……破壊された 「ガブリエル、飛べるんだろ?」 青龍に乗せる気はないと言われたも同然の台詞だった 「はい!飛べます!」 「なら先に飛んで行け!」 ガブリエルは九枚羽根を広げると大空に優雅に飛んで行った 青龍は炎帝を頭上に乗せると、ガブリエルを追って気流に乗った 神殿に行くと夏生と弥勒がいた 捕獲され拘束されていた 「今すぐに夏生と弥勒を離せねぇとオレの蒼い龍が火を噴くぜ! オレの蒼い龍の噴く火はオレの浄化の焔と変わらねぇ! 総て無になり昇華してやんよ!」 炎帝が言うと……… 夏生と弥勒を離した 「青龍、下ろしてくれ」 炎帝が言うと青龍は炎帝を頭上から下ろした そして人型になり炎帝の横に並んだ 「ウリエル、ミカエル、ラファエル! さっきは世話になったな! オレの蒼い龍を怪我させた罪は万死に価すんぜ! オレを塔に閉じ込めて安泰だと想ったか? オレはあんな陳腐な塔に閉じ込められる奴じゃねぇ! さぁ、文句あるなら来いよ! お前等全員、オレの焔で焼き尽くしてやんからよぉ! 天使が束になっても来ようとも! オレは構わねぇぜ! オレの焔は天使も昇華するかんな! キレイさっぱり昇華して、新しい天使を創れば、天界の秩序も守れると言うもんだ 神の声すら聞けねぇ奴は天界には要らねぇんだよ!」 焔を撒き散らし炎帝は吠えた ラファエルは炎帝に 「古来の神々が創った傀儡の癖に! 人形が偉そうに天界までしゃしゃり出て来るな!」 と叫んだ 「おう!オレは神々が創りし傀儡かも知れねぇけどな! オレは冥府の者なり! ちゃんとオレのオリジナルは要るんだよ! 我が名は皇帝炎帝! 我が父の名は、皇帝閻魔! かって冥王ハデスの血を与し者なり! オレもなその血を引く者なんだよ 天使の力など皆無に等しい 来いよ!相手になってやんよ! 何万、何億、束になって来ようとも、オレには勝てねぇぜ! たかが天使の分際で神を恐れぬとは良い度胸だ! 冥王ハデスの復活は有り得ねぇ 何故ならな、ハデスの身躯は我が父が受け継いでいる それと同様、オリンポスの神々の血や身躯は神々に脈々と受け継がれ生きてんだよ だからな、復活なんて有り得ねぇ…」 炎帝はそう言い東西南北に在る幽閉の塔を目掛けて衝覇を飛ばした 爆発音が張り響き………建物が崩壊する音が鳴り響いた 天使達は動けずにいた 炎帝は天使の階段を上がって行った 夏生を掴む天使の腕を掴むと……ねじり上げ……折り曲げた ボキッと音を立て……腕がねじ曲がった 炎帝は顔色一つ変えなかった 「汚い手で触るな! オレのスワンが穢れるだろ?」 夏生の無事を確認して、弥勒の方を見た 弥勒を捕まえてた天使は……… 弥勒を離し、後退った…… それを捕まえて、ニャッと嗤うと、鳩尾に拳を入れて………蹴り上げた そして焔を巻き上げて、天使の階段を上がって行く 止めようとする天使を近付ける事なく衝覇で薙ぎ飛ばし……天使の最上階へ立った 最高上位の天使しか立てぬ階段に……… 炎帝は立った 「要らねぇもんは昇華すっか!」 そう言い炎帝は嗤った 「スワン!、オレの後に続け……」 炎帝が言うとスワンは頷いた 銀色の髪を靡かせて……スワンが微笑む 慈悲深きその姿は……… 最高上位四天王に名を連ねていた………天使に重なった 康太は天使目掛けて昇華の呪文を唱えた スワンは炎帝の昇華の呪文の後を追い……放った 深紅の焰に銀色のルーンが重なり…天使を包んだ 天使達は…………バタバタ倒れた ガブリエルは何が起こってるのか……解らなかった だが………神の許した事なのだと…… 何も言わずに……見届けていた 「ついでに、天界の澱んだ空気も一新して 天空の目立つ所に刻んでやんよ! 青龍、天界を旋回して来てくれ…」 「良いですよ ちゃんと終わったらキスして下さいね」 「解った……キスする……」 「なら行って来ます」 青龍は龍に姿を変えると、天空を旋回した 炎帝は青龍が飛ぶ気流に向かって呪文を唱えた スワンは浄化のルーンを同時に放った 「スワン!刻むぞ!」 「はい!」 天使の階段の最上階から見える門の上に… 炎帝は証を遺した 【天界と魔界の闘いは二度とおこしてはならぬ 一滴の血も流さぬ誓いを此処に!】 深紅の文字が刻まれて遺る 天界の何処からでもその文字は目にする事は出来た だから、そこへ宣誓を刻んだのだ…… 「天界も魔界も争いなど望んではおらぬ! この混沌とした人の世を照らして導く義務を忘れるな 我等は何故存在するのか忘れるな どちらが、上位で………どちらが下等と傲った心は捨てられよ! どちらもこの世の理に必要な存在故に生かされてるのを忘れるな! 我等、魔界の者は天界との平和を望む 今後も冥府は中立な立場を崩さない 魂の最終地点、冥府はこれからも中立な立場で存在する 我等魔界の者は適材適所配置されて違える者などおらぬ! 天界も存在意義を違えるな! 我等は創造神の駒にしかならぬ事を忘れるな!」 炎帝の声は天界全土に広がり……… 神がかりな響きで宣誓された ガブリエルは炎帝の前に跪いた 「我等天使は存在意義を忘れずに日々精進して参ります…… 本当にありがとう御座いました……」 炎帝はガブリエルを視た 「ガブリエル、おめぇの心は孤独だな おめぇはこの天界で誰よりも孤独で‥‥ 誰よりも空虚だ 友を持たねぇ、側近も持たねぇ 誰も信用しねぇで、己の道を唯逝く おめぇの為に身を呈して動いてくれる友を持て そしたら、もっと早く手は打てたと思うぜ」 キツい一撃を食らわされてガブリエルはグッと詰まった 友ならいた かけがえのない友ならいた 共に泣いて 共に分かち合った………友ならいた その友を失って以来……… ガブリエルは友を作らなかった だから、それを言われるのが一番堪えた 「………友なら………いました……」 「過去の話じゃねぇ! これから作って行けよ」 「…………私には………」 「おめぇの友は逝った もう何処にも……いねぇんだ」 ガブリエルは涙した 認めたくなくて……… 友を焦がれた…… 「友が無理ならば…… この天界で懐刀を作れ おめぇの為に何を差し置いても動いてくれる 存在を作ると良い……」 炎帝は神と同じ事を言った 神は…… “孤独に苦しむではない 友を作りなさい……” と言った ガブリエルが首をふると “なれば、信頼出来る懐刀を作りなさい お前の為に動いてくれる存在を作りなさい” そう言った…… 「人を育てるのは信頼と愛情 厳しいだけでは、教えてる奴の目線は解らねぇぜ 上から教えるのは、教えるとは言わねぇ 命令だ! 命令は対等の存在にはならねぇよ」 ガブリエルは脳天を殴られた様な衝撃を覚えた 「やりなさい……これは命令だ 侍従関係にしかならねぇよ! 信頼があれば、それでも良いがな 不満を抱かれたら……暴徒と化すぜ! そしたら誰を動かすよ? 今回おめぇが自宅に幽閉された時、駆けつけるべき存在がいたら……とか想わなかったかよ? おめぇは最高位の天使かも知れねぇけどな…… 不完全な魂にしか見えねぇんだよオレには! 天界を守るべき存在になれ!ガブリエル それがおめぇの亡くした友の想いだ! ウリエル、ラファエル、ミカエル……彼らは無垢な存在にしてやった! オレの昇華はもう無にする愚かな道具じゃねぇんだよ! オレには愛する夫がいるかんな! 愛すべき存在の為にオレは闘うと決めている! ガブリエル、平和条約を結ぼうぜ! 未来永劫、変わらぬ信頼と平和を刻もうぜ!」 「はい!調印式まで、天界においで下さい 直ちに準備を致します! 明日、平和条約を締結される調印式を開きます」 「なれば、我が兄、閻魔大魔王を呼ぶしかねぇな」 炎帝が謂うとガブリエルは不安げな瞳を向けて 「おいでになられますか?」と尋ねた 「呼ぶんだよ!来ねぇなら呼びに行けば良い」 本当に何でもない風に言われてガブリエルは苦笑した 「呼ぶ………どうやって?」 「時空を魔界と繋いで呼び寄せる」 ガブリエルは言葉をなくした……… そんな無謀な事……… 「ガブリエル、オレ達はどこにいたら良い?」 「………え………」 「客を持て成す気はねぇのかよ?」 「いえ………では神殿の奥の間の来賓の間に……」 「解った!夏生、弥勒、 行くぜ!」 康太はそう言い榊原と手を繋ぐとスタスタ歩き出した 夏生も弥勒もその後に着いて行った 神殿の奥の間の来賓の間のドアを開けると……… 調度品に囲まれた部屋が出て来た 康太はソファーにダイブすると、寝そべった 「光もささねぇ塔に幽閉されたんだぜ弥勒 オレの青龍を傷付けるしよぉ! 天界を破壊し尽くしてやろうと想ったぜ」 冗談にならないから………怖かった 青龍がいなくば…… 焼き尽くされ……天界は無になっていたかも知れない 「実際……青龍が止めなきゃ……暴走してたかもな… カッとなってたしな……青龍は身を呈して盾になりオレを止めるのは解ってる…… オレは愛する青龍をこの手に掛けるなら……狂って総てを破壊し尽くすしかねぇかんな……」 青龍は強く炎帝を抱き締めた 「青龍、此処に黒龍を呼んでくれ…」 龍なれば……願えば呼ぶのは容易かった 青龍は炎帝を抱き締めたまま願った 「我が兄 黒龍!側に参れ!」………と。 黒龍は青龍の前に姿を現した 炎帝はその姿を見て微笑んだ 「我が友 黒龍! 呼び寄せて悪かったな」 「炎帝!我が友よ! おめぇが呼ぶなら俺は何処へでも現れるぜ …………と、言いてぇが………天界かよ…」 「まぁ、文句は我が兄が聞く」 炎帝の言い草に黒龍は笑った そして炎帝を抱き締めた 「では閻魔に文句を言ってやる!」 「そうそう!八仙の甘露酒でも飲ませて貰え」 「良いな!それ!」 黒龍は一頻り炎帝を抱き締めて笑うと、離して姿勢を正した 「では、お聞きいたそう! 我を呼び寄せた理由は?」 炎帝は黒龍射抜き 「我が兄、閻魔大魔王を明日 天界にお連れしてくれ! 魔界と天界の平和条約を締結される その為の調印式を開く 明日は魔界と天界をヴィジョンで繋ぎ、大々的に放送する 魔界の者を広場に集結させておいてくれ!」 炎帝は意図も簡単にサラッと謂った だが聞いた黒龍は驚愕の瞳で炎帝を見た 「……………お前さ……意図も簡単に言ったよな?」 「おう!」 「………明日?」 「おう!」 「広場にヴィジョン?」 「おう!」 「………閻魔大魔王を天界に…?」 「おう!」 「…………簡単言うね……?」 「やってくれるだろ?」 「…………やりますとも!」 「ありがとう黒龍!」 炎帝はニコッと笑って黒龍に抱き着いた スワンは「………小悪魔……です……」と呟いた 青龍はスワンに 「小悪魔程育ってないので……ニョロリです」 と伝えた 「………ニョロリ?」 「小悪魔程育ってないので小悪魔ニョロリです」 …………なる程…… 小悪魔にはなりきれない炎帝を想った 「黒龍!魔界に還ったら飲み明かそうぜ!」 「………俺は先に酔いつぶれる……イヤだ…」 「んな事言うなよ! オレとおめぇの仲じゃねぇかよ!」 炎帝がそう言うと青龍がピクッと睨み付けた 「兄さん、炎帝とどんな仲なんですか?」 黒龍はたらーんとなった 「………俺が聞きたい……」 黒龍がボヤくと炎帝は 「一緒に寝たやん」 青龍の顔は更に険しくなり 黒龍はブルンブルン首をふるった 「僕の炎帝に触ってませんよね?」 目が据わっていた…… 怖いってば……… 「炎帝、我が兄を困らせるのも……その辺にしておきなさい」 「そうか?残念だな」 炎帝はそう言い青龍に抱き着いた 「……もぉ言うこと聞くの止めてやる!」 黒龍が怒ると炎帝は慌てた 「黒龍!んな事言うな!」 黒龍は炎帝の頭をグリグリすると 「無理難題ばっかし押しつけやがて!」 とボヤいた 「オレの蒼い龍が傷付けられたかんな…… 本当なら平和条約を締結させる気なんてなかったけどな……」 炎帝はボソッと呟いた よく見てみれば………青龍は血濡れていた 「怪我したのか?」 「………そうだ……オレの青龍に……」 炎帝は悔しそうに泣いた 黒龍は炎帝を優しく抱き締めた 「………良く堪えたな…」 青龍に傷を負わせて……炎帝が暴走しなかった 「………青龍がダメだって……」 「そうか……人の世に還ったら活力剤を差し入れる そしたら変わりなく元気になれるぜ」 「本当か?」 炎帝の瞳がキラキラ光った 本当に青龍を愛して止まないのだと解る 「では、閻魔大魔王に伝えます そしたら魔界全土にリアルタイムに伝えれる様にヴィジョンを作って流せる手筈を整えます!」 「黒龍、青龍の服がねぇ…」 血塗られた服では調印式に出せれなかった 「なれば、青龍の燕尾服を持って来ます 人の世に活力剤を持って行った時にでも返して下さい」 「頼むな黒龍!」 黒龍は深々と頭を下げると姿を消した 「青龍の服もGET出来たし、調印式を待つばかりだな さてと、天界を見て歩こうかな」 炎帝はそう言うと立ち上がった その時、ガブリエルが部屋に入って来た 「青龍殿に着替えて戴ける様に着替えを持って参りました」 ガブリエルはそう言い青龍に服を差し出した 炎帝はそれを受け取るとガブリエルに 「明日の調印式に閻魔は必ず出る 黒龍を呼び寄せて頼んだかんな!」と告げた 「………え?天界ですのに?」 「オレの青龍は龍だ! 龍は、その気になれば何処へでも互いを呼び出せる」 「………知りませんでした……」 「青龍が着替えたら天界を見て回る」 「異存は御座いません…」 「ガブリエル、人を束ねるなら常に視線は同等にしねぇと何も見えねぇぜ 上から見下げても真実は見えて来ねぇぜ!」 「………解っていても中々実行に移すのは難しいので御座います……」 康太は笑って立ち上がった 「オレ等の事は明日までお構いなしで構わねぇ」 ガブリエルは「はい!」と言い頭を下げて出て行った ガブリエルが出て行くと青龍は着替えた 白のブラウスと白のズボンだった シンプルな姿だけど青龍に似合っていた 「青龍は白も似合うな」 うっとりと囁く言葉に、青龍は二人きりなら押し倒していたのに……と苦笑した 炎帝を引き寄せて頬に口吻を落とすと 「出掛けますか?」 と、弥勒とスワンに声を掛けた 弥勒は「伴侶殿、怪我の方は?」と尋ねた 「炎帝が半ば神を脅して治して戴いたので…今は治ってます」 弥勒は炎帝らしくて苦笑した スワンは「では行きますか?」と声を掛けた 炎帝は頷いた 神殿を出て階段を街並みを見て回る 天使達は炎帝達を忌諱の目で見ていた だが何か言う者はいなかった 神が許した者を……… 何か言う事は皆無だから…… 「スワン、天界ってこんなにプライドばかり高けぇ奴の集まりなんだな…… 自分達より下と見下した見方しか出来ねぇ奴が…… 人を助け慈悲など与えれる訳ねぇよな?」 その言葉を受けスワンは天使時代に想いを馳せた 「天使は特別な存在と言う意識は大きいですからね…」 「お前もそうだった?」 「ええ!僕も誇り高き天使として尊大な身構えは崩しませんでした……」 「なら昔からか……」 「……でも昔は神は絶対でした……」 「…なら今は自分が最高になっちまったのか……」 「………僕は炎帝のスワンですから……… 今こうして見てみると……歪な存在なのだと解ります プライドばかり先行して……本質がどこにあるのかすら解らない……愚かだと想います…」 炎帝と青龍、弥勒、スワンと天界を歩く もう何もしては来ないが……… 侮蔑した瞳はなくならなかった…… 「いっそ、束になって掛かってくれば…… 総て無にしてやんのによぉ……」 炎帝が呟くと弥勒が 「これこれ……お主がそれをやってはいかん」 と苦言を呈した 「あんでだよ?弥勒」 「そこに生きる者の権限や尊厳を奪えば、それは支配や侵略にしかならぬからだ」 「………なる程……… なら、気の遠くなる教育や意識改革をして行かねぇとな……」 「それは天界の者がやる事で我等は関与は出来ぬ」 「………少しは関与しろと天界に招いてくれたんじゃねぇかよ! 招かれた以上は、より強い恐怖を植え込んでやらねぇとよぉ!」 「…………お主が悪役にならなくともよいのに…」 「オレは青龍がいて解ってくれる奴がいれば、それで良いんだよ! なくさねぇなら、大きな傷跡になってやんよ!」 「……もう傷は残したではないか……」 バタバタ倒れた天使達がいた……… 「あんなん序の口に過ぎねぇもんよー」 炎帝はそう言い嗤った 「……あれは……死んだのか?」 「まさか……天使の様なオレが殺生なんてする訳ねぇやんか!」 弥勒は言葉を失った 青龍を見て「…………天使?」とボヤいた 青龍は「………天使の様に清らかだと言ってました…」と困った顔して弥勒に教えた 「………小悪魔であろうて……」 「………小悪魔になるのは……少し足らないんです」 小悪魔の様で小悪魔になれない 「なので、ニョロリ……と言ってます……」 「………ニョロリ?」 「小悪魔ニョロリ……が相応しいかと……」 「…………ほほう!ニョロリとな! 流石、伴侶殿だ!」 弥勒は笑った スワンも「それが1番しっくり来ますね」 と言い笑った 仲良く天界を闊歩して神殿に還って行った

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