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第33話 平和調印式

平和調印式当日 朝早くから天界は慌ただしかった ドア越しにその喧騒が伺えた 天使が炎帝達に食事を運び入れた ワゴンに乗せて運ばれた朝食は豪華だった …………が、炎帝はそれには手を着けなかった 炎帝のお腹がキュルキュル鳴るのに……料理には見向きもしかった 青龍は早々に料理を引き下がらせた 「家に帰ったらお腹一杯食べさせてあげますからね…」 「オレは堪えれるから大丈夫だ…」 料理を見なきゃ……まだ堪えれた 早朝、閻魔は黒龍と共に天界に姿を現した 「我が弟、炎帝!逢いたかったぞ!」 閻魔は炎帝を抱き締めた 「炎帝、お前はこの服に着替えなさい 我の弟に相応しい姿でいなさい!」 閻魔は炎帝が誇りだった 弟を誰よりも愛し誇りに想っていた 青龍が炎帝の服を受け取り、着替えさせていく 慣れた手付きで炎帝の着替えをさせる姿は日々の積み重ねだった 何一つ炎帝にはさせない 青龍がいなきゃ生きられなく……させる 青龍の執着だった 炎帝は紅蓮の紅の大礼服を身に纏った 大礼帽と金のエポーレット(正肩章)をつけた立襟燕尾服 金線と識別線入りの剣帯,長剣の一揃を腰に着けた皇族の正装だった 胸には憲章が光っていた 黒龍から渡された青龍の正装は炎帝と対の大礼服だった 閻魔は青龍に 「青龍は我が弟の婿になりますので、大礼服を新調致しました! 還られたら……と、想っておりましたのに、こんなに早くこの服に袖を通されるとは…… 想ってもいませんでした」 閻魔は和やかにそう言った 青龍の大礼服は蒼で、炎帝の服と全く同じだった 「転輪聖王、貴殿には父から衣装を預かっておる」 そう言い閻魔は弥勒に服を渡した スワンにはあのフリフリの服を……渡した それぞれに着替えて、調印式を待つ 「兄者、天界のモノは口に一切するな」 「………毒でも入ってますか」 「…………そうだ…」 「では何も食べは致しません 私は死ねません! お前が魔界に戻って道を作るまでは閻魔であり続けねばなりませんからね」 炎帝は何も言わなかった ガブリエルが迎えにやって来て、閻魔に深々と頭を下げた 「遠路遙々の起こし、本当にありがとうございます 所でお食事に手を着けられなかった……とか?」 「食ったら冥府に行っちまう食いもんは遠慮するだろ?」 ガブリエルは言葉もなかった 「嘘だと想うなら、あの飯を誰かに食わせてみろよ」 「……見せしめに……やります!」 ガブリエルは神殿に仕える者に食事を運ばせた 「それは朝のとは違うわ 触ってみれば、温度で解るぜ」 炎帝が言うとガブリエルは給仕の者に 「朝、運んだモノを持って来なさい!」 と迫った ガブリエル自ら厨房に出向き、給仕に朝の料理を問い詰めた 「………料理長が処分しました…」 給仕が泣いて言う、ガブリエルは料理長に詰め寄った 「朝の料理は何処ですか?」 料理長はゴミ箱を指さした 「料理に毒を盛りましたか?」 「………私は知りません…… 主天使のドミニオン様が……お越しでした」 ガブリエルは配下の者にドミニオンを拘束しろと指令を出した 「姑息な者がおりました……お許しを…」 「姑息過ぎて笑えるな そのうち勢力争いや派閥争いで殺し合うのか? 愚か過ぎて笑えるな」 ズバズバ真髄を突かれて……ガブリエルは言葉に窮した 「一度、天使の称号の総てを剥奪する必要があるかもな 称号の上に胡座をかいて、姑息な手段で足の引きずり合いばかりじゃな…… 天使の意味がねぇな」 「………言葉もありません……」 「魔界もなオレが人の世に堕とされてる間に貴族制度が出来たりな………腐っちまっていたかんな 新しい風を吹き込んで、改革の真っ只中だ 指針は刻むけど、これからは天界の者が作って行かねぇとな……」 「…………こんな天界……… 本当に一度滅べば良いのに……」 ガブリエルは心の内を吐露した 「滅べば良い……… そう言うけどな、本当に滅んで無になれば、何故なんだ……と問うだろ? そう言うもんだ! ならば此処で踏ん張らねぇとな!」 「…………天使で在るのが辛いなんて想わなかったけど………今は天使を辞めたい……」 ガブリエルが言うとスワンは想いっきり頬を張り飛ばした 「………え?……」 ガブリエルは唖然となった 「そんな事は言うな! お前が輝ける天使でいたから僕は堕ちて逝けた それも総てはお前が輝ける天使で在ったからだ! だから!そんな事は言うな!」 スワンは叫んだ 泣きながら……叫んだ 炎帝はスワンを抱き締めた 「泣くなスワン」 頭を優しく撫でて、抱き締められる腕を見てた ガブリエルは羨ましいと想った 孤高の天使は……… 何もない事を思い知らされる そして願うのだ やはり………君しか友はいない……と。 「ルシファー」 「その天使は死んだよ 僕は炎帝のスワン…… それ以外になる気はないんだ」 「…………君は今……幸せか?」 「ええ……自然にいられる 僕は炎帝の為だけに在る ならば、君に聞こう 君は今、幸せですか?」 「…………友を亡くしてから…… 孤独に慣れすぎた………幸せかと聞かれたら… 私は……孤独過ぎた……と言おう」 「幸せになれよガブリエル 生きてる今を噛みしめて刻んで行けよ」 「……君はもう……天使の姿は………捨てたのかい?」 「最期に一度だけなら……… 君の知っている………姿になっても良い… 君にお別れを言ってなかったからね…… 調印式が終わったら………」 ガブリエルは頷いた ガブリエルは姿勢を正すと役務に着いた 「調印式の会場までお越しください!」 ガブリエルは傅いた 「兄者、逝くとするか?」 炎帝が言うと閻魔大魔王は立ち上がった ガブリエルは閻魔を見た もっと怖い存在なのかと想っていたら……… 深紅の正装を身に付けかなりイケメンの紳士だった その後ろに漆黒の正装を身に付けた男が控えていた 炎帝はガブリエルに 「兄者の後ろにいるのは我が伴侶の兄、黒龍だ」 と教えた 彼も龍なのかと……改めて想った 黒龍は深々と頭を下げて挨拶した 「魔界からは我が兄と、兄を乗せて来た黒龍だけだ! 兄者に何かしたら……オレは黙ってねぇけどな…」 炎帝はそう言い唇の端を吊り上げて嗤った 「その時は我が命散らしてお守り致す所存 そこまでの愚か者なと……いないと想いたい」 ガブリエルはそう言い背を向けた その背の後に続いて調印式の会場へと向かう 閻魔大魔王がガブリエルの後ろに着き 黒龍が護って歩いていた 炎帝と青龍はその後に歩き 弥勒とスワンはその背を護りながら歩いていた 天界の大聖堂 そこへ天界の者総てが集められた 黒龍はカメラを構えた その映像は魔界の広間に用意したスクリーンに投影され、ヴィジョンとなり魔界の者が見る事となる 今、この瞬間を、リアルタイムに魔界に流れていた 天界もスクリーンに映し出されて総ての者に知らしめていた 調印式に現れた魔族のトップ 閻魔大魔王の姿を天界の者は初めて目にした 鬼のような形相の……閻魔大魔王を想像している者は多かった 閻魔大魔王の深紅の皇族の正装姿に、感嘆の息が漏れた 髪を後ろに撫で付け貴族然とした姿に…… 魔界のイメージは崩れた 神の扉の前に誂えた席に天界と魔界の代表者が着いた 調印式のテーブルには閻魔大魔王が着いた 天界からはガブリエルが着いた 閻魔大魔王の左右には炎帝と青龍が並び 黒龍は撮影に余念がなかった 閻魔はガブリエルや天界の者に始終和やかな笑みを浮かべていた 「閻魔です 右に立つ者が我が弟、炎帝 左に立つ者が炎帝の伴侶の青龍 撮影をしている者が青龍の兄の黒龍です どうぞ、お見知りおきを!」 そう言い閻魔は深々と頭を下げた ガブリエルは立ち上がり 「四天王 熾天使 ガブリエルに御座います 神の意志により平和締結調印式を行いたいと想っております」 ガブリエルの横には熾天使、主天使が整列していた 閻魔は「2度と無益な血を流さない事を祈っております」と口にした ガブリエルも「天魔戦争は2度と再び起こしてはならないと想っております!」と伝えた 「天界と魔界は(人の世の)平和を願う!」 「そうです!天界と魔界の平和を願います!」 閻魔は調印式の書類にサインした 調印した書類をガブリエルに向けた ガブリエルもサインをした 天界と魔界の代表者の手により 天界と魔界は2度と闘わないと締結を宣言した 閻魔は晴れやかに笑っていた ガブリエルも清々しく笑みを浮かべていた 閻魔とガブリエルは立ち上がると堅く握手をした 炎帝は「確かに!平和締結を見届けました!」と声を高らかにあげた 「ガブリエル、天界に新たな結界を張れよ!」 炎帝はそうガブリエルに告げた 「……え?」 「平和締結をよく想ってない輩が、愚かな行いをしない様に、天界の境界線に結界を張り巡らせ 強いては天界の為になる!」 「解りました 貴方達が天界を後にした後に総結界を張り巡らせます 天界は2度と愚かな過ちをおこさない! それを此処に誓います!」 ガブリエルは宣誓した 炎帝は右手を胸に掲げると 「宣誓!我等魔界の者は2度と天界と闘わない事を此処に誓います! 愚かな伝記は伝えて行かねぇとな! 忘れ去られるべきではない!」 と誓いを立てた 閻魔は立ち上がると 「天界と魔界の更なる功労を! この世のバランスを崩せは出来ぬ その為に我等は日々身を尽くしていきましょう」 と言いガブリエルに手を差し出した ガブリエルはその手を取り 「啀み合う時は終わりを告げた この世のバランスを狂わせる事なく 我等は日々精進して行きます」 と言い堅く手を握りあった 手を離すと一歩後ろに引いて 天界の者に向けて閻魔は深々と頭を下げた 横に控える炎帝と青龍も深々と頭を下げた 弥勒とスワンも倣って頭を下げた 調印式は滞りなく終わり、会場を後にした 晩餐会に誘われたが閻魔は断り、黒龍と共に魔界に還って行った 控え室にガブリエルが来ると、スワンは……… 封印していた天使の姿をガブリエルに見せた 四天王の中でも十二枚羽根の天使はルシファーしかいなかった 神が溺愛し我が子だった…… ガブリエルはスワンを抱き締めた 「…………ありがとう……」 「………君は………天使の寿命を全うする日まで輝き続けてくれ……」 「………何時か逢おう……ルシファー」 「…………ええ……何時か逢おうガブリエル…」 スワンはそう言うと炎帝のスワンに姿を変えた 「炎帝、晩餐会には出られないのですか?」 「家に還らねぇとな…… 人の世は何日位過ぎてる?」 「君は3日間はいましたよね? 軽く1週間は超えてます……」 「………1週間かぁ……キツいな なら還るな、ガブリエル!」 「本当にありがとう御座いました」 ガブリエルは深々と頭を下げた 炎帝はガブリエルをキツく抱き締めると 子供みたいな顔で笑った 「諦めなきゃまた逢えるさ! ずっと願えば、願いは叶う」 「……ええ……諦めません…」 「ならな、ガブリエル」 「はい!」 「オレ等を家に還してくれ…」 ガブリエルは呪文を唱えた すると時空がグニャッと歪んだ 炎帝は青龍に抱き着いた 衝撃に耐えて……地に足が着いた感覚に…… 目を開けると……… 飛鳥井の康太達の部屋だった リビングのソファーに康太はドスンッと座った 「やっと帰れた……」 康太は呟いた

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