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第35話 悲願の花見

康太は三渓園に立って上を見上げていた 桜の花はヒラヒラ………散っていた だが、まだ桜は残っていた 少々不本意…… だが今年は自分達が人の世にいなかったんだから……仕方ない 涙ぐみながら康太は上を見上げた 葉っぱがチラホラ出ている気もする 「天界行ってる間に……」 桜は満開のピークを超した 八重桜がチラホラ咲き始めていた 榊原は悔しそうに桜を見上げる康太を抱き締めた 「こっちにおいで……」 手を繋いで連れられて来た先は…… まだ葉っぱが出てない桜だった 「伊織!」 康太は嬉しそうに榊原を見た 榊原が桜を背負って立っていた 康太はうっとりと……その姿を見ていた 「………綺麗……」 榊原が凄く綺麗だった 「綺麗ですね」 榊原は微笑んだ 康太は泣きたい程に………幸せだった 「…………伊織……」 「何ですか?」 「来年も……その次も……ずっと……ずっと…… 伊織と見たい………」 「ええ……僕も君と何時までも…… 来年も再来年も……十年後も……二十年後も……見たいです……君と二人で見たいです…」 「……約束だかんな…」 「ええ…約束します…」 榊原は見上げる康太の唇に口吻を落とした 「………青龍……」 「愛してます…」 「オレもめちゃくそ愛してるかんな!」 二人して桜を見上げてると足を掴まれた 二人して足下を見ると流生が康太の足に掴まっていた 「かぁちゃ…」 呼ばれて康太は流生を抱き上げた 「流生、とうちゃって言え」 「かぁちゃ」 キャキャと笑って流生は、かぁちゃと呼ぶ 康太は流生を振り回し 「とうちゃって言わねぇと落とすぞ!」 と子供を脅した 「かぁちゃ…かぁちゃ…」 流生が抱き着いて来ると、康太は流生を強く抱き締めた 「誰が教えたんだよ?」 康太は拗ねた顔をしてボヤいた 榊原は流生を貰い抱き上げた 「とぅちゃ…」 流生が榊原に抱き着いた 「かぁちゃと呼ばれるの嫌ですか?」 「嫌じゃねぇけどな…… 幼稚舎に入ると……オレがかぁちゃなのは歪だと気付く……余所の母親は綺麗な女性で…… 自分の母親は男だって……気付く……」 「僕達の子供は、そんな事で怯んだりはしませんよ! この子達にとって「かぁちゃ」は君でしょ?」 「………伊織……」 康太が涙ぐむと太陽と大空がヨチヨチと掴まった 「かぁちゃ」 太陽が必死によじ登ろうとしていた 「かあちゃ」 大空が泣きそうに康太を呼んでいた 康太は両手に太陽と大空を抱き上げた 大空は康太の頬にチュッとキスを送った 榊原が「僕の康太です」とライバル意識を燃やして言った 「かぁちゃ、ちゅき」 康太は笑っていた 幸せだった 子供達がいて、家族がいて…… なくせない友がいて…… 愛する男がいてくれる 康太は太陽と大空を抱えてシートに帰ると、音弥は…… 寝ていた 太陽と大空をシートに座らせて音弥を持ち上げた 「本当にお前はマイペースだな……」 隼人も仕事上がりで……寝ていた 疲れてるなら無理しなくても良いと言うのに…… 隼人は家族と一緒にいる時間を選んだ 康太に抱き上げられても寝ている音弥を抱きしめて…… 康太は隼人の横に並べて置いた 同じ顔して寝ている姿をパシャッとカメラに収めた 翔が康太に駆け寄ろうとして……転んだ 泣かないで我慢する翔を和希と和馬が抱き上げて膝を払ってやっていた そして抱えて康太の処へ連れてきた 康太は翔を貰い、和希と和馬の頭を撫でた 「和希、和馬、学校楽しいか?」 康太が聞くと和希が 「楽しいよ!6年生のお兄さんが優しいんだ!」と答えた 続いて和馬が 「そう!ながしぇかずやくんが優しく面倒見てくれた」 と言った 康太は笑った やはり繋がる存在は……黙っていても引き寄せるか…… 「かずやくんは優しいんだよ」 和希はニコニコ康太に学校の出来事を話した 和馬は康太の膝に座り満足して笑っていた 北斗は源右衛門の膝の上だった 康太は……厳正の想いを感じ取っているんだろうも想った 1度は妻と呼んだ女がこの世に落とした子供だから……厳正は雪を護った 北斗の半身は魔界へ送った 禁忌を犯した子は真っ赤な髪に鬼の角を持って産まれた 産まれた瞬間……雪は喋った 康太は北斗と雪を切り離した 赤い髪して鬼の角を持った子は魔界へ送り 人の世に繋ぎ止めた子は一生の養子にさせた 感受性の強い北斗は動物の言葉が解る 何時か一生や慎一の牧場を継ぐ存在として飛鳥井に残した その北斗も小学校に入学した 瑛太は我が子を腕に抱いていた……が、直ぐさま康太に渡した 「重いです……」 少しだけ愚痴も言う 「んとによぉ!育ちすぎだろ?瑛智!」 康太は重そうに瑛智を抱っこした 康太はあまりの重さに……清四郎に渡した 清四郎は瑛智を貰って……苦笑した 「翔も重いですけど、瑛智はそれ以上ですね」 「瑛智は瑛兄と言うより飛鳥井忠義の転生だかんな……」 「………その方は……何代位前の方なんですか?」 清四郎は問い掛けた 「源右衛門の父親だ」 清四郎は源右衛門を見た 源右衛門は微笑んで 「確かに瑛智は飛鳥井忠義の産まれ変わり 我の父は結構良い体格をしておった なれば瑛智もかなりの体格になるであろうて!」 と嬉しそうに言った 「京香と母ちゃんが大変だかんな 保育所に連れて行ってくれる人間を頼もうと想ってるんだ」 「………確かに……重いですし大変ですね」 「ヘルパーを頼もうと想ってるんだ」 「その方が良いですね」 「笙の子はどうよ? かなり大きくなったのかよ?」 「………笙、かなり落ち込んでます 最近は明日菜に八つ当たりして……明日菜は泣いていました 子供を抱えて……応接室にいる姿を何度も見掛けました 哀れです……」 「………オレもかなり逢ってねぇもんな… 笙の子供も見てねぇしな……逢いに行くわ」 「泊まって行って下さい 飛鳥井の方も全員泊まられては如何ですか? 一度も泊まって貰ってませんからね」 「おお!それ良いな! 京香も子育ては皆に任せて息抜きしろよ!」 「子育ては楽しい 子供はどの子も可愛い だから苦ではないけどな、息抜き出来るならする」 「おお!たまにはな!」 「我は康太がいてくれれば生きてゆける…」 康太は何も言わず京香を撫でた 懐石料理を食べて、花見を存分に満喫して 全員で清四郎の家へと向かった 送迎用のバスで榊原の家の前まで来ると、皆はバスから下りた 清四郎は門を開けて、玄関の鍵を開けた 「どうぞ!入って下さい!」 清四郎が笑顔で招き入れると……… 「煩い!黙ってろ!」 と言うの笙の声が響いて聞こえた パシンッと 叩く音が響いた 康太は顔色を変えて、清四郎を押し退けた そしてスタスタ応接室に入って行くと笙を睨んだ 「喧嘩かよ?」 康太はソファーに座って足を組んだ 笙は唖然として康太を見た 「………康太……」 「女を殴るのは感心しねぇな 明日菜は幸せになる筈じゃなかったのかよ?」 「……康太……すみませんでした……」 明日菜は泣いていた 我が子を抱き締めて……泣いていた 「何があった?」 笙はそっぽを向いて……頑なに口を閉ざした 榊原は飛鳥井の家族をソファーに座らせた 京香は明日菜を優しく抱き締めた 玲香は明日菜の腕の子を貰い抱き締めて、康太に渡した 「美智留……んな不安な顔をするな」 康太は笙の子を美智留(みちる)と呼んだ 康太が授けた名前だった 康太は美智留の目を見ていた 美智留は康太に何かを話しているみたいだった 話なんて出来ない乳飲み子なのに…… そんな風に見えた 「そうか……良いぞ、思いっきり泣け…」 康太が言うと美智留は思いっきりオギャーオギャーと泣き出した 康太は笙を睨み付けた 「笙、明日菜の心配は要らねぇか? 要らねぇなら明日菜の身の振り方を考えねぇといけねぇからな! 美智留がいても明日菜が欲しいと言う男は引く手あまただろうからよぉ!」 「………明日菜も美智留も手放す気はありません!」 康太は嗤った 笙はその顔に……恐怖を感じた 「明日菜の父親の代理はオレだ! 忘れたのかよ?笙!」 「………忘れてはおりません……」 「よくもオレの目の前で明日菜を叩いたな!」 「…………申し訳御座いませんでした……」 「話しは美智留に聞いた」 笙はギョッとした顔をした 「美智留をただのガキだと想うな この子は転生した魂だぜ!」 思い知らせされる現実は重かった 「伊織、久遠に今から行っても良いか聞いてくれ」 榊原は「はい。」と言い応接室を出て行った 「明日菜、笙は先の検診で引っかかったんだろ?」 そこまで言われて明日菜は観念した 「………はい……病院に行って下さいと何度も頼みました……」 「病院に行けば即入院だな 美智留は飛鳥井で預かってやる お前が嫌でないなら笙に付き添えよ」 「嫌ではありません 夫ですから……私は笙を支えたい…… だけど……それが笙を苛立たせた… 笙に愛されてるのか……解らなくなった…… 悲しいけど……私がいて悪化するなら…… 私は別れるしかないと想ってる…」 明日菜の言葉を聞き、笙は焦った 甘えていたのだ……妻に…… 甘えて……格好の悪い自分に自己嫌悪に陥り…… 悪循環になっていた 「明日菜、愛してるんだろ?」 明日菜は康太を見て 「はい……愛してます」と答えた 康太は明日菜の言葉を聞いて……榊原に 「………これって犬も食わねぇヤツか?」 と尋ねた 榊原は康太を抱き締めて笑った 「多分……うちのコオもイオリも食べないヤツです」 「………だよな?たかが胃潰瘍で……癌と勘違いして…… 悩んでるヤツだもんな……」 康太の言葉に笙は、え?と言う顔をした 「吐血が……胃癌と勘違いだぜ! 少し前に胃癌で倒れる医者役やってたけどさ… 自分が胃癌だと決め付けて八つ当たりしてるんだもんな……」 「そうなんですか……早く病院へ行けば解るのに……」 「伊織、犬も食わねぇの……オレは食いたくねぇ…」 康太は榊原の胸に顔を埋めた 榊原は康太を抱き締めて 「兄さん、今度明日菜を殴ったら…… 奥歯が折れると覚悟しなさい!」 と榊原は宣戦布告した 笙は両手を上げて降参した 「康太が殴らないのなら我がはたく!」 と京香が笙を叩いた 「産後の女を苦しめるでない!」 京香は怒っていた 「京香」 「何だ?康太」 「犬も食わねぇかんな怒るな」 「解った!清四郎、飲み明かすとしますか!」 清四郎は立ち上がると笙と明日菜に 「伊織が電話してくれました 今すぐ飛鳥井の主治医の病院へ行きなさい」 と応接室から出した 清四郎はお寿司やデリバリを頼むと、楽しく飲み始めた 康太と源右衛門は薄い……お酒を少しだけ貰った そして乾杯した 真矢は「御免なさいね!」と謝った 「明日菜は本当に家の為や笙の為に尽くしてくれてます 私は明日菜がそこまでしてくれるとは想いませんでした 社長秘書を務めた女ですからね……何処か気位が高いんじゃないか……と想っていました 明日菜は常に私や清四郎を想ってくれる そして笙を愛して尽くしてくれる あんなに榊原の家の事や笙の事を想ってくれる女はいません 笙は明日菜に甘えきってて…… 別れたらダメになるのは笙でしょうね…」 と本音を吐露した 「真矢さんは明日菜を気に入っているのかよ?」 「娘ってこんな感じかな……と想えるのよ 二人でランチに行くのね すると必ず娘さんですか?と聞かれるの 物凄く嬉しいの……私も明日菜に家の事は任せっきりで、別れられたら困ります……」 「笙が頑張って子供でも作るだろ?」 「そうしてくれなきゃ困ります」 真矢は康太から美智留を貰い腕に抱いた 「美智留は本当に良い子なのよ」 そして撫でて玲香に渡した 「美智留……康太の子に似ておるな」 玲香は嬉しそうに美智留を手にした 清隆が覗きこみ 「本当に太陽と大空に似てますね」 と嬉しそうに言った 榊原は康太を膝の上に抱き上げ 一生は太陽と大空の世話をして 聡一郎は永遠と翔を持っていた 真矢は永遠を貰うと 「永遠、やっと逢えましたね!」と言い頬にキスを落とした 清四郎は永遠の顔を見た 「………流石……飛鳥井の血ですね 並べたら翔と永遠は双子に見えなくもない…」 清四郎がそう言うと瑛太は 「清四郎さん、私の方が男前ですから!」と釘を刺した 悠太は苦笑した 散々、兵藤には瑛太の出来損ない……と言われ続けたし…… 康太は爆笑した 「瑛兄、子供に張り合うな…」 「いえ!手を抜けば私より男前にだと言い出しますからね! 今から不戦は張っておかねばなりません!」 康太は瑛智を抱き上げて 「瑛兄より男前になれ!」と言った 瑛太は康太から瑛智を取り上げると、瑛智を悠太に渡した 「康太、兄が一番男前と言う事にしておきなさい」 「仕方ねぇな」 康太が言うと全員爆笑した 飲んでいると笙が明日菜を連れて帰って来た 応接室に入るなり笙は康太に深々と頭を下げた 「康太、本当にすみませんでした」 「明日菜を大切にな!それしか望んでねぇよ!」 「はい!僕は明日菜に甘えていました…」 「絶対に明日菜を殴るな!良いな!」 「はい!誓います!」 「伊織……犬も食わねぇよ……」 榊原に抱き着き康太はボヤいた 「一発して来ましたか?」 「もぉな仲直りしはバッチしして帰って来やがった」 「喧嘩の後は仲直りですからね…何時もの倍、頑張るしかないんですよ」 榊原にいわれては笙と明日菜は真っ赤な顔をした 「オレの伊織は喧嘩しなくても何時も倍頑張るけどな……」 「君の愛が募り過ぎてるのです…」 「………伊織……酔ってる?」 「ほろ酔いです、康太愛してます」 瑛太が激アツの二人は放っておいて笙と明日菜をソファーに座らせた 「康太……君、良い匂いです」 ほろ酔いの榊原はタチが悪かった 康太は話題を変えた 「入院は?しなくて良いのかよ?」 康太が問い掛けると明日菜が 「いえ、明日から取り敢えず3日間入院します 入院の用意をして明日病院へ向かいます あ!康太、あなた病院へ来い!と久遠先生が言ってましたよ?」 「あ……忘れてた 伊織、オレも明日で良いよな?」 「ええ。明日会社に行く前に病院へ行きましょう」 そう言い榊原は康太に口吻た それは更にエスカレートして…… 康太の服の中に手を忍ばせ……耳を舐めていた 一生が榊原を止めた 「……旦那……手付きが妖しい… 止めなはれ!皆がいると康太は嫌がるでしゃろ?」 「解りました!堪えます」 榊原はそう言い笑った 飛鳥井の家族や榊原の家族は楽しげに飲んでいた 子供を早々に寝かせて宴会は盛り上がる その夜はかなりハイテンションに皆が酔っぱらい…… 榊原はやはり始終康太を触っていた 一生は酔うとかなり危ない奴だと……榊原を認定した 康太と榊原も一緒に客間に雑魚寝した …………翌朝……かなりの被害者を出したのは言うまでもない…… 飛鳥井の家族は、榊原の家で朝食を戴き我が家へと帰って行った 康太と榊原は一旦家に帰って、病院へと向かった 康太と榊原が診察室に行くと久遠が待ち構えていた 久遠は康太を掴まえると、再検査に向かった そして顔色の悪い榊原も掴まえて、検査をした 「伴侶殿、顔色が悪い…」 「飲み過ぎでしょうか?」 「いや…違うな…検査をします!来て下さい!」 「……え?…………嘘…………」 榊原は久遠に引っ張って行かれた 康太は一通り検査をされて、解放されて榊原を探した 「康太、伴侶殿は今検査してる」 榊原を探す康太に声を掛けた 「………え?何処か悪いのかよ?」 「それは調べて見ないと解らん かなり青い顔をしていたからな念の為だ」 「………かなり流血したからかな?…」 「過労一歩手前だな…」 「久遠……伊織も入院させて良いかんな!」 「貴方がいなきゃ脱走しますよ?」 「オレはずっと付き添うから大丈夫だ! それより、同居はどうよ?」 「居心地良すぎです… 拓美と拓人も物凄く大切にされて…… 志津子さんと悟が二人を連れて歩いてます 二人もすっかり懐いて……出る訳にいかない」 「ずっと暮らせば良いじゃんか」 「悟が結婚したら、そう言う訳にもいかないでしょ?」 「大丈夫だ、悟は結婚しねぇからな…」 「………え?…」 「悟はオレ等みたいにゲイだからとかじゃねぇぞ 心底愛している妻をを亡くしてるんだよ 命をかけて愛していた…… 妻を亡くし悟は何度も何度も妻の後を追おうとした 後を追う悟をこの世に引き止めたのはオレだ……」 「初めて聞きました……」 「志津子が泣いて……助けを求めた で、オレが悟をこの世に引き止めて仕事をさせた でねぇと悟は後を追っていたからな…… 生きてれば……今年小学校に入る子供がいた…」 「………悟は………何も言いませんでした」 「悟の口からは死んでも言わねぇよ…… おめぇが気にする事じゃねぇ 悟は二度と結婚はしねぇ…… だから、おめぇが来てくれてホッとしてるのは確かだな…」 「………詳しく聞かせて下さい」 「飛鳥井に来てくれるならな……」 康太はそう言い笑った 「解りました! 伴侶殿は家に帰してやろう」 久遠はそう言い笑った 「写真を見せてぇからな…… うちに来てくれて……」 「解った!それより坊主! てめぇ来いって言った時に来やがれ!」 「痛いのは嫌なんだもんよー」 久遠は康太の頭をクジャッと撫でると、検査中の榊原の処へ向かった 暫くすると榊原が康太の側にやって来た 康太を見るなり榊原は康太を抱き締めた 「伊織……調子悪かったのか?」 「………何時もより体躯が重いだけです… 君を抱こうとすれば出来なくはないです!」 「何度も言ってるじゃねぇかよ! 辛い時は言ってくれってよぉ!」 榊原は泣きそうな康太に口吻て 「本当に辛くないのです 君の側にいられない方が僕は辛いのです…」 「………伊織……」 「泣かないで……」 榊原は強く康太を抱き締めた そこへ久遠が現れた 「診察室に来い!」 言われて立ち上がって久遠の後ろに着いて診察室に行った 倚子に座ると久遠はPCを起動させた 「まずは、飛鳥井康太からな 康太は内臓が弱ってる……また食事は制限する一歩手前だ」 「…………胃の粘膜が……弱ってるのですか?」 「と言うより、内臓そのものの動きが悪い 入院する程じゃないが、気を付けていかねば吐血する事になる」 「解りました……沢庵は封印ですか?」 「沢庵は消化に悪いからな……でも本人の一番好物だろ? 封印はしたくねぇからな数を減らして咀嚼をさせろ!」 榊原は厳しい現実を聞かされ‥‥ 「…………解りました…… 1週間何も食べない日があったので…… ガッツついて食べる康太を止められませんでした それも悪かったのですね……」と現実を受け止めた 「そして伴侶殿、何があったのですか? 血液検査は後暫く掛かるが……あまりにも良い数値ではない…… 気力で 動かれてる……だけだと想う それが続けば……倒れるのも時間の問題……だな」 言われて榊原は目を顰めた…… 健康管理を怠った 下手したら……また康太を泣かせる所だった… 「………すみません……少し無茶しました……」 「流血されたとか?」 「………ええ……意識がなくなりそうな程……」 「それで何事もなく生活されてたのですか?」 「……血は止まったので……大丈夫かな……と」 「………伴侶殿……義恭でしたら即入院ですよ?」 「………その義恭先生は?お休みですか?」 「義恭は志津子さんと答えを出す旅に出てます 丁度、志津子は白馬に行かねばならぬ用が出来たので……坊主が志津子に義恭と二人きりで話をしろと言ったみたいだな……」 「………答えを……出す? なら離婚も有り得ると言う事ですか?」 「………それは……あの二人が答えを出す事で俺は関知しねぇ事だ……」 「そうなのですか……拓美と拓人がこの病院の跡継ぎなのに……康太の果てが狂わなければ良いのですが…」 榊原の言葉に久遠はギョッとなった…… 康太は「それもな飛鳥井に来た時に話す」 と言った 「伴侶殿、本当は入院して様子を見たいのだが…」 久遠が言うと榊原は「嫌です」と断った 「だと想ってな通院で勘弁しておいてやるよ! その代わり薬はちゃんと飲みやがれ!」 「はい!康太に飲ませる時に飲みます」 「でもな、検査の結果如何によっては入院も避けられねぇかもな……」 「その時は康太も入院させて下さい ついでに康太も治しときましょう!」 榊原の言い分に久遠は苦笑した 「今日は処方箋を持って精算したら帰って良いぞ」 「兄の様態は?どうなんですか?」 「榊原笙……か?」 「そうです」 「あれは……ストレスと不摂生し過ぎたツケみてぇなもんだろ? まぉな役者には多いんだよ……職業病みてぇなもんだろ? 吐血が凄かったからな今回は入院して完全に穴を塞がねぇとな……で入院だ」 「とことん診てやって下さい! 治らなくば退院させなくても良いので!」 榊原は爽やかに笑った 久遠は苦笑して「では、念を入れて診てやろう!」と言った 診察を終えて、処方箋を貰い精算して薬局に寄ってから、榊原は康太を連れて飛鳥井の家に帰った 家に着くと榊原は寝室に向かった 「君は今日は何しますか?」 「オレは今日は家にいる」 「外に出ませんか?」 「出たくねぇ…」 「なら家にいてくださいね」 「伊織は?」 「会社に行って急ぎの仕事だけ片付けて来ます」 「ならオレも手伝う」 「一緒に行きますか?」 「おう!」 榊原は康太にスーツを着せた そして自分もスーツを着ると、二人して階下に下りて会社へと向かった 副社長へ榊原が入ると、康太は真贋の部屋に入って行った 康太は真贋の部屋で仕事をしてる力哉に声を掛けた 「力哉…」 「何ですか?」 「最近一生とは?どうよ?」 「彼には逢ってません……けど?何かありましたか?」 「逢ってねぇ?……何時から?」 「飛鳥井の家に越して来た頃からです…」 「良いのかよ?」 「………もうね、慣れました…… 一生は恋人向きではないんですよ」 「オレもな最近一生に逢う回数が減ってる …………何してるんだ?アイツは?」 「………解りません…… 聡一郎にも最近は逢いませんよ? 隼人が淋しそうにしてる時が多かったです ですから会社まで連れて来たりしてました」 「聡一郎は白馬に行ってたんだよ 向こうでプロジェクトがあるからな」 「なら一生は?」 「…………知らねぇ……」 「………解らない事ばかりですからね……」 「おめぇはそれで良いのかよ?」 「僕は君がいて家族がいれば……それだけで生きていけます ですから……もぉね、一生は君のパーツとして見て行こうかと想ってます」 「オレはおめぇが幸せなら……それで良い」 力哉は康太を抱き締めて笑った 「僕は幸せですよ? 仕事も遣り甲斐があるし、家族は何時も優しい 時々、飲みに誘ってくれる同僚もいますしね! 僕は会社の方に気が向いてるのもあります 一生より会社の仕事を優先してる…… 僕も恋人向きではないみたいです」 「……少しは気を抜けよ……」 「ええ。適度に遊んでます」 康太はそれだけ話すと副社長室へ続く扉を開けた ドアが開くと榊原が嬉しそうに近寄って来て康太を抱き締めた 「力哉と何かありましたか?」 「ん、最近一生を見ねぇからな… 力哉とどうなってるのか聞いてみた」 「……一生、浮気してますか……?」 「浮気とかじゃねぇ……何だろ? この前から総てがしっくり行かねぇ事が多くて……んとに嫌になる」 「………君も想ってましたか……」 「天界に行く前に誰も掴まらなかった… アレを引き摺っている……」 「呪詛?……」 「呪詛なら弥勒が勘付くだろうからな……」 康太は黙り込んだ まるで、何かの妨害みたいに…… しっくり行かない…… まるで、東矢の呪詛みたいに……バラバラになりかけていた 「あんだろ?………気持ち悪さが払拭出来ねぇな…」 「白狐から……こっち、多いですね…」 「………そのうち毒でも盛られたりしてな……」 榊原はギョッとして康太を見た 「家族を少し離すか?」 「………離れませんよ?今度は絶対に…」 「………ならオレ等が出て行くしかねぇか……」 「ですね……狙いは君なんでしょ?」 「………だと想う」 「では様子を見る為に出ますか?」 「………伊織……入院するか?二人で…」 「………病院じゃ君を抱けません……」 「ならホテル……嫌……姿を消すか?」 「それしかないですね……」 「………そして誘きだす……か?」 「向こうが焦れるまで……消息を消して…… 焦れた頃に情報を与えれば飛び付くと想います」 「伊織……オレを離すな……」 「離すもんですか!勿体ない!」 榊原は強く康太を抱き締めた そして康太を離すと、榊原は物凄いスピードで仕事を片付けた 康太は副社長決済の印鑑をポンポン押した 二人の集中力はかなりのもので……鬼気迫っていた 榊原は殆どの仕事を片付けた 後は副社長の決済がなくても……社長へと上げれる仕事だけ残し…… かなり遅くに会社を退社した だが…………康太と榊原は……… 飛鳥井の家には帰らなかった 康太は瑛太にメールを送った 『瑛兄、オレ等は暫く消える 行き先は誰にも告げねぇ… でも還って来るからな待っててくれ』 そのメールを見て瑛太は……… 「兄の元に還って来なさい! 約束するのであれば、留守は守ります」 と返信した 『還るに決まってるやんか!瑛兄 オレは飛鳥井の明日を築く為にいるんだらよぉ! 瑛兄、還ったら顔を出すかんな!』 それを最後に…… 康太と榊原は姿を消した 誰が探しても康太と榊原は見付からなかった…

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