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第39話 帰還‥‥その後①

翌朝、駅へ向かう康太と榊原を、安曇の別荘の人間が駅まで送ってくれた お昼まで誂えて貰い受け取り、送りだされ新幹線に乗り込んだ 東京に到着すると電車で横浜まで向かい、横浜に到着するとタクシーで真壁の建築中のビルまで向かった 真壁のビルは宮瀬建設が建設中だった 宮瀬建設には事前に話は通してあり、向かう事を伝えてあった 真壁の建設中のビルに到着すると、康太と榊原はタクシーから下りた ビルの中に入り地下へと進む すると宮瀬建設の主任が康太達を待ち構えていた 「社長から言いつかっております」 「悪いな」 「いいえ!どうぞ!」 主任は設計図にない地下の扉を開くと、深々と頭を下げた 康太は地下の通路に行く前に慎一に電話を入れた 「慎一?」 『はい!康太!』 「おめぇに渡しておいた地下通路の鍵を使って開けといてくれ」 『解りました!今すぐ開けに行きます!』 携帯はぶち切れた 康太と榊原は主任から懐中電灯を渡して貰うと、真っ暗闇の通路を渡って行った 主任は康太達が通路を渡って行くと、通路の鍵を閉めた そして誰にも気取られずに現場に戻った 康太と榊原は何処までも続く果てしない通路を渡って飛鳥井へと向かった 飛鳥井の方へ近付くと明かりが見えた 「康太!」 慎一の声が聞こえた 「慎一、待たせたな!」 康太が言うと慎一は康太に飛び付き抱き締めた 「…………お帰りなさい……」 「待たせたな!」 「………っ!……」 慎一は泣いていたが顔を上げて榊原にも 「お帰りなさい……」と告げた 「待たせましたね慎一」 榊原が慎一の肩を優しく抱き締めた 「さてと、反撃に出るとするか!」 唇の端を吊り上げて康太は皮肉に嗤った 通路から出て飛鳥井の家に入って行くと、日中という事もあって誰もいなかった 「誰もいねぇのかよ?」 「一生と聡一郎は弥勒と共に外堀を埋めに行ってます」 「外堀もかなり埋まったからな、頃合だかんな出て来た」 康太は応接間のソファーに座って足を組んでいた 慎一は康太に「何か食べますか?」と問い掛けた 「おう!ならキッチンに行くとするか!」 立ち上がりキッチンへと向かう 食事の支度をしていると玄関のチャイムがなった 慎一がキッチンのカメラを作動すると、堂嶋正義と戸浪海里が立っていた 「お待ち下さい」 慎一が玄関まで迎えに行き出迎える 何時もの光景だった 戸浪は慎一に「……こんにちは……つい来てします…」と呟いた 堂嶋も「………逢いたい想いばかり……募ります…」と本音を吐露した 慎一は笑って二人をキッチンに連れて行った ガツガツと飯を食う康太の姿を見て……… 戸浪は固まった まるで夢でも見ている様で……戸浪は動けなかった ボタボタ……涙が溢れ出し……声も出なかった 康太は立ち上がると戸浪を抱き締めた 「若旦那、久し振りだな!」 ニカッと笑う顔は飛鳥井康太の顔だった 堂嶋も「……康太……」と言うなり……泣いた…… 何故か解らないが……涙が溢れて止まらなかった 逢いたかったのだ…… それだけしか願っていなかった 逢いたくて…… 逢いたくて…… それだけを願っていた その飛鳥井康太が目の前にいた どんなリアクションを取って良いか…… 解らなかった 嬉しさと…… 逢いたかった想いがせめぎ合い…… 言葉を失わせた 「正義、久し振り」 「坊主……何度も逢いに来た…… お前が逢いたいと言った日逢えなかったから…… 逢っておけば良かったって……どれだけ後悔したか……坊主……逢いたかった……」 堂嶋は康太を強く抱き締めた 強く…… 強く……… 抱き締め……泣いた 「飯食うかんな!少し待ってくれ」 康太はそう言うと食卓に着いて続きを食べ始めた 慎一は戸浪と堂嶋も席に着かせて、珈琲を立てて前に置いた 康太は食事を終えると、お茶を飲み一息着いた 「長い事留守にして悪かったな…」 と康太は謝った 「オレが還って来た事は、まだ内緒にしておいてくれ… でねぇと付け狙って来る奴がいるかんな…」 康太が言うと戸波と堂嶋は「「解りました」」と答えた 戸浪は「ですから、聞かせて下さい」と言った 堂嶋も「教えてくれないか?」と哀願した 康太は「応接間に行って話す」と言い立ち上がった 榊原が康太の横に寄り添った そして応接間に席を変えた 応接間のソファーに座り足を組むと……… そこには何時もの康太がいた 戸浪は「………何故消えられていたのか……話せる範囲で教えて下さい…」と訴えた 「オレはずっと命を狙われていたんだよ」 康太は意図も簡単に………伝えた 堂嶋は「……ずっと?……」と訝しんだ 「飛鳥井康太を殺す………多分2年前襲われた暴漢から始まってると想う オレは何度も自分を刺して犯そうとした男と面会した 男達は操られていたかの如く……何も覚えちゃいなかった…… 一生の背中を刺した奴も…… オレを犯そうとした男達も… 何かに操られたかの様に……罪だけを悔やんで日々送っていた…… オレは何者かの意図を感じずにはいられなかった…… 今想えば……その当時から……始まっていたんだよ そして去年執拗に車をぶつけられ……ガードレールを突き破った その事故で殺されかけた…… 相手はトドメを刺す気満々だった そして……消える前は……オレを一人に追い込み…… 周りの人間達と切り離した…… 若旦那や正義と連絡着かなかったのは……… そんな意図が働いたからだ…… オレを孤立させて………一人で動いている時に拉致って……いたぶって殺す…… アイツらしいシナリオにオレは一旦、立て直すしかなかった 伊織も血を流して疲れ切っていたからな…… 倒れるのは時間の問題だった…… 行く所、行く所で付け狙われて命を狙われる 食えば間違いなく……あの世の食事を…… まさか……無関係でなくてはならない場所でやられた時に……後はないと想った 還れば孤立させて一人に追い込まれる所だった 一生や聡一郎……仲間や家族も……操られていたかの如く……離れて行って…… 気持ち悪い現状は確実にオレを追い詰めていた… 家族に火の粉が降りかかるからな……消えたのもある それが総てだ… そして‥‥‥それは終わりじゃねぇ‥‥ 今オレを付け狙っている奴も駒の一つにしか在らず‥‥‥って事だ」 戸浪はそんな前から付け狙われていたのか……と驚愕の瞳を康太に向けた 言われてみれば………何故こんなにも追い打ちを掛けられるのか…… 何時も想っていた 「………ならまだ……狙われるんですか?」 「………多分な……始まりは‥‥2年前……オレに伴侶が出来たと大々的に公言した頃から始まっていた…… 出る杭が出たと知らせたみてぇにな‥‥」 「………何故ですか?」 「まだ始まったばかりで全容は解らねぇか‥‥ だが今オレを狙っている奴の狙いはオレだ それは……オレを殺したい位愛してるからだろ?」 康太はそう言い嗤った 「…………冗談は……」 戸浪が言うと榊原が 「冗談ではないんですよ…… 康太が手に入らないなら……いっそこの手で…… と想ってるんでしょうね……」 と呟いた 堂嶋は「………また……とんでもないのに愛されてるな……」と言葉にした 「請われてもな……オレは何処へも逝くきはなかった 総てを与えてやると請われても、何も欲しくなかったかんな……… オレは………何もなかったからな 欲しいモノが何もなかった……頃の話だ…」 「今、坊主には伴侶がいる!」 堂嶋は康太の頭をポンポンと撫でた 「そう!今のオレには伊織がいる…… 昔のオレとは違う……」 「これからどうするんだよ?」 堂嶋は康太に問い掛けた 「これから?邀撃に出るに決まってるやん!」 戸浪と堂嶋は「「私達に出来る事は有りませんか?」」と全面協力を申し出た 「その時になったら頼むな! その時じゃなくても飯でも食いに行こうな!」 「何時でも声をかけて下さい 美味しい料理を食べに行きましょう」 戸浪は嬉しそうに答えた 「何時でも誘ってくれ! 国会の答弁中じゃない限り連れていくつもりだ」 と堂嶋も笑った 「また逢いに来ます…」 戸浪はそう言い康太を抱き締めた 「また逢いに来るからな」 堂嶋もそう言い康太を抱き締めた そして二人とも忙しそうに、仕事に向かった 康太は天を仰ぐと 「弥勒、外堀は埋まったのかよ?」 と声を掛けた 『あぁ、ほぼ外堀は埋めて行った もう身動き取れなくなって来てるのは確かだ!』 弥勒がそう言うと一生が『……康太?』と弥勒に問い掛けた 『そうだ、康太と話しておる』 『康太!元気なのかよ!』一生は叫んだ 「一生、元気だぜ! 飛鳥井に帰って来いよ!」 康太が言うと一生は『今すぐ帰る!』と断言した 康太は笑って榊原に抱き着いた 「相変わらず一生だわ」 康太が言うと榊原も笑いながら康太を強く抱き締めた 「一生ですからね…」 懐かしい…… 絶対の存在… 絶対の友 どんな時でも必ずいてくれる友だった 暫くすると玄関が開いて……駈けてくる足音が響き渡った バターン!! と扉を開けると一生は康太に縋り着いた 「……………逢いたかった………」 康太を抱き締めた腕が震えていた 聡一郎は出遅れて……それを見ていた 康太は手を伸ばすと聡一郎に 「ただいま!」と告げた 聡一郎は康太の手を握り締め……一生ごと康太を抱き締めた 「……お帰り………」 聡一郎は泣いていた 「待たせたな……」 「………ずっと………っ……ぅ……ぅ……」 ずっと待ってましたと言う言葉が……嗚咽で消えた 逢えなかった日々は…… 康太も辛かった…… 本当なら……離れたくなんかない だが、建て直さねばならぬ現状に… 姿を消すしかなかった 抱き締めた康太は………かなり細くなっていた それだけで……康太の苦悩が伺えれた 榊原も細くなっていた 姿を隠して日々過ごす事は容易でないのは解る 康太と榊原は……そんな落ち着けない日々を過ごして来たのだ 側にいれば…… どれだけ悔いても……傍にはいられなかった時間が悔しい 一生は姿勢を正すと 「弥勒と共に動ける限りの事はした」 と告げた 聡一郎も姿勢を正し康太を見た 「ネットの上でも追い詰めて、僕の出来る限りの事はしました…」 と康太に告げた 康太はニコッと笑って 「ありがとう……悪かったな…」と言った 一生は康太の頬に手をあて 「久遠が心配してた……病院に検査に行けるようになったら顔を出して安心させてやってくれ」 「………こんな姿見たら……怒られるな…」 「………こんなに痩せやかって……」 「気にすんな……」 「気にしねぇ訳ねぇだろがぁ!」 一生は強く康太を抱き締めた 康太は弥勒を見た 「高徳、悪かったな…」 弥勒は康太の側に行き……康太を抱き締めた 一生は弥勒に康太を渡した 「お前が生きていれば………それでけで良い…」 「簡単には死なねぇよ! オレには明日の飛鳥井の礎を遺す義務があるかんな! 次代の真贋もまだカタチになってない……翔るに渡すまでは……逝けねぇよ」 「お前が笑っていてくれれば……それだけで良い… お前の幸せだけを願ってる……」 「大丈夫だ弥勒 逝く時は一緒だろ?」 ニカッと笑う康太の顔は変わりかなった… 「公に顔を出せば狙われるけどな、逃げてばかりいる訳にもいかねぇかんな 仕事や株にも影響がでるかんな 邀撃に出ねぇとな!」 「お前を……手に掛けさせはしない!」 「ありがとう弥勒」 「何があっても共に……」 「 あぁ!共に……逝こうぜ弥勒! この闘いはまだ‥‥‥序章にもなってねぇかんな!」 「気の長い闘いになりそうだわな‥‥」 「だから一つ一つ片付けて逝かねぇとならねぇんだよ!」 康太は唇の端を吊り上げて皮肉に嗤った 「なら、我は帰るな」 「弥勒、悪かったな」 弥勒は康太を抱き締めて……慎一に送られて帰って行った 一生は康太に 「これからどうするのよ?」 と問い掛けた 「会社に行く! そして清四郎さんと歌舞伎の観劇を観て 真矢さんとテレビに出る予定だ」 「……え?何時そんな予定決めたのよ」 一生は驚いていた 「消えてる間に晟雅を動かして予定を立てさせた」 食えねぇ奴が多すぎる‥‥ 「………最近神野を見ないのは、そう言う訳があるのね…」 無事が解ってるから神野は来なかったのだ… 一生は悔しそうに…そう言った 「着替えて来るかんな!」 「………お前達の不在の間に…… 清四郎さん達や若旦那、堂嶋や三木がスーツを作って運んでる」 クローゼットを見ると…凄い事になってるかも… と一生は言った 「瑛兄さんや清隆義父さん達も……せっせと二人のスーツを作ってた」 「………毎日違うスーツ着てけと言う事か?」 「広報宣伝部の統括本部長が……毎日のように力哉を訪ねて来るんだわ…」 「水野?」 「……そう。俺がいる時も訪ねて来てた」 「顔出さねぇとな……」 「何か用なのか?」 「CMが頓挫してるからな……それか?」 「解らねぇよ……番犬付きで来やがるからな…… 話し掛ける訳にもいかねぇよ」 「一色か?番犬?噛みつかねぇだろ? 「噛みつかねぇけどな威嚇は半端ねぇわ」 「許してやれ…」 「許してるけどさ……」 一生は拗ねた顔をした 「なら着替えて来るな」 康太はそう言い立ち上がった 榊原も立ち上がり荷物を持って自室へと向かった 3階に上がり、留守にしてた自室のドアを開ける 懐かしくもある……自室だった 榊原と一緒に暮らす寝室だった 榊原は寝室の鍵を開けた 窓を開けて空気を入れ替えると…… 裏の家の住人と目が合った 榊原はニコッと笑った 「待ってろ!消えんなよ!」 裏の家の住人は叫んだ 榊原は苦笑して康太を着替えさせるべく、クローゼットを開けた すると…………入りきらない程のスーツが吊されていた 「………伊織……」 「………此処までとは…想いませんでした」 気を取り直して着替えさせる 康太に似合うスーツを着せると自分も着替えた 姿見でチェックして階下に下り応接間へ行くと…… 裏の家の住人が怒った顔してソファーに座っていた 「久し振りだな貴史!」 康太が言うと 「何処へ行ってたんだよ!」 とかなり拗ねて怒っていた 「話せば長ぇぞ! 長編小説一本分の長さだけど良いのかよ?」 「短く言え!」 「軽井沢!」 「軽井沢?」 予想を覆して……意外なことを言った康太に驚きを隠せなかった 「横浜から消えて軽井沢に潜伏していた その間に人を動かしメドがたったからな出て来たんだよ!」 外堀を埋めれば本陣本丸狙い撃ちしかないのは解っていた 「これからどうするんだ?」 「向こうもかなり追い詰められて余裕がなくなっている筈だ…… こっちも、これ以上の引き伸ばしは無理だ どの道衝突は避けられねぇのなら……出るしかねぇじゃねぇかよ?」 「俺等はお前を逝かせはしねぇ! お前が動くなら俺等も動く!」 「オレはこれから会社に行き、死亡説を打ち消さねぇとな!」 「おお!行って来い! そのかわり、晩飯は一緒に食おうぜ!」 「おう!待っててくれ! じゃぁ、行って来るかんな!」 康太は立ち上がった 「配置はバッチリだ! 連携もバッチリだ!安心して行け」 「悪かったな貴史…」 兵藤は立ち上がると康太を抱き締めた 「気にするな! 俺はお前が生きててくれればそれで良い」 「ならまた後でな」 「おう!」 康太は片手をあげると背を向けた 応接間を出て地下駐車場へと続くドアを開けた 地下駐車場に行くと、榊原のベンツが停まっていた 榊原はキーでロックを解除すると助手席のドアを開けて康太を乗せた そして運転席に乗り込みエンジンをかけた 地上に上がるスロープを上がり車が出るとシャッターを閉まった 榊原は会社に向けて車を走らせた 飛鳥井建設の地下駐車場に車を停めると、康太と共にエレベーターに乗り込んだ 役員専用の階まであがり下りると、社長室を出て来た瑛太と偶然出会った 「………康太……」 瑛太は持っていた書類を総て落とした 康太は書類を拾いながら 「瑛兄ただいま」 と笑った 瑛太は康太を抱き締めた 「………康太……」 「………瑛兄…書類……」 康太を抱き締める瑛太の腕は震えていた 瑛太は康太を離すと榊原を抱き締めた 「お帰り伊織……」 「義兄さん……ただいま…」 瑛太は涙を流しながら……喜んだ 「瑛兄、後で寄るから父ちゃんと母ちゃん呼んどいて」 「君は?」 「企画宣伝部に行ってCMを詰めねぇとな…」 「なら待ってます」 「他の部署にも顔を出して来ねぇとならねぇし 飛鳥井康太の死亡説も流れてるかんな…」 「………知ってましたか?」 「明後日、生放送でテレビに出るかんな 大々的に動いて飛鳥井家真贋は健在と知らしめねぇとな」 「………康太…伊織……必ず戻って下さいね」 「おう!父ちゃんと母ちゃんに逢って、強請るもんもあるかんな」 「………強請る?何をですか?」 「………それは秘密……」 康太は笑って瑛太にウィングした 「力哉に顔を見せてから行くな」 「……ええ。喜びますよ」 榊原は瑛太に落とした書類を渡した そして二人して副社長室へと向かった 副社長室のドアを開けると、力哉は黙々と仕事をしていた 少し…窶れていた…… 「力哉!」 康太が声をかけると…力哉は顔を上げた 驚愕の瞳で康太を見て…… そして泣いた 「……康太…本当に康太ですか?」 「淋しい思いさせたな力哉…」 力哉は号泣した 淋しかったのだ 飛鳥井康太の為だけに…… 力哉は存在するのだ 康太の為にだけ在る存在だった 康太の為にだけ仕事をする 還って来るのを信じて…… それだけが力哉を動かしていた 「もぉ……何処にも……行かない?」 しゃくり上げ……子供の様に力哉は聞いた 康太は力哉を撫でて 「あぁ!還って来たんだからな!」 「なら僕……もっと頑張るよ!」 「力哉、こんなに痩せて……飯食ってるのかよ? もぉ、当分頑張らなくて良いかんな! おめぇは休んでろ! そのかわし一生を扱き使えよ!」 「うん!そうする!」 「これから部署回りして来るかんな」 「うん。行ってらっしゃい」 康太は力哉の頭を抱き締めた 「無理しなくて良い……おめぇを無理させる為に傍に置いてる訳じゃねぇんだぜ?」 「………康太……」 力哉は……また泣いた 「……待ってられるか?」 力哉は涙を拭いた そして、うん!と頷いた 康太は力哉の腕を掴むと社長室まで行ってドアを開けた 「瑛兄、少し力哉を預かっててくれ そしたらオレ等も仕事するかんな!」 瑛太は力哉を預かりソファーに座らせた 力哉の横に大きなネズミを置いて、瑛太は笑った 「力哉は預かっておきます」 「頼むな瑛兄」 康太と榊原は社長室を後にすると、五階まで階段で下りて行った 康太と榊原の姿に……社員は唖然とした 泣き出す社員もいた 康太と榊原は広報宣伝部の部署まで行くと 「千秋はいるかよ?」 とズカズカと部署の中に入って行った 「康太君!」 水野は康太の顔を見るなり……飛び付いた 「……康太君…君がいなきゃ僕は……」 水野は泣いていた すんすん……鼻をすすり……康太に縋り付き泣いていた 「………泣くな千秋…」 「だって僕は君の為にいるのに…… 君がいなきゃ僕は……」 「何処にも行かねぇから大丈夫だ!」 「……康太君……」 「オレに用があったんだろ?力哉が言ってた」 水野は姿勢を正すと涙を拭いた 「暗礁に乗り上げてたCMを、やはり向こうの要望で何としてでも……と言われてるのです」 「向こうの要望で……って?誰よ?」 「榊 清四郎さんの事務所サイドと榊原真矢さんの事務所サイドです」 「なら、スケジュールを詰めて場所の確保しておいてくれ!」 「解りました! それと、真壁のビルの売り出しが始まります それも真贋と詰めていかねばならないのです」 「そっか…真壁のビル、そろそろ完成だな と言う事は、飛鳥井建設もそろそろ出来上がるか…」 「ええ。そしたらレストランは下に来ます 託児所は幼稚園に格上げになりました それも真贋と詰めていかねばならないのです」 「明日から仕事に来るかんな! そしたら詰めて行くとして、どうよ?」 「………え?……」 「新婚生活は順調かよ?」 康太が聞くと……水野は頬を赤らめた 「………はい。」 「それは良かった!」 康太は水野の頭をポンポンと撫でた 康太は笑って立ち上がろうとすると 「あ!康太君……建築、施工、製図部の統括本部長の栗田一夫さん…… 貴方がいないから……ぶっ壊れました」 水野の言葉に康太は 「………え?一夫?あにがあったんだよ?」 と問い掛けた 「倒れて……意識不明です…」 「何時の話よ?それ?」 「……2日前…… 僕も……君が帰らなきゃ… ぶっ壊れてました…」 「………千秋……一色がいんだろ?おめぇには…」 「それとこれは違うんです! なら栗田さんには恵太さんがいるじゃないですか!」 「………どう言う屁理屈よ?」 一色は「千秋にとって真贋は特別みたいです…」と拗ねて言った 一色はめちゃくそ機嫌が悪かった 「……伊織……」 康太は榊原に手を伸ばした 榊原は康太を抱き締めて…… 「僕の康太に八つ当たりしないで下さい!」 と、一色を怒った 「副社長、泣いてばかりの恋人を抱く訳にもいかなくて…… かと言って元気にもさせられなくて…… 触れるのも……無理な憐れな男の気持ちわかりますか?」 どうやら一色はお預け食らわせてられていた……みたいだった 目が据わって……迫力だった 榊原は一色の耳元で 「康太も還って来ました ですから水野を連れ帰り好き放題したらどうですか?」 と悪魔の囁きをした 一色の瞳がピカッと光った 「………良いのですか?」 「ええ。明日から本格的に始動します 今日はもう仕事を上がって構いませんよ? 還って……あんな事やこんな事を埋め合わせて貰えば良いのです」 一色は立ち上がった 「副社長!ありがとうございます!」 そう言い水野の腕を掴み……ズンズンと歩いて行った 「……え?………ええっ?……和正…仕事は?」 水野の声が響き渡った 一色は聞く耳は持たず……連れ帰った 榊原はクスっと笑った 他の社員はそれを見ていて…… 悪魔だ…… 悪魔の囁きだ…… と、榊原と目を合わさない様に緊張した 「んとにもぉ」 康太はボヤいた 榊原は笑って 「愛してます奥さん さぁ次に行きましょう!」 と、次の部署にも促した 飛鳥井建設 副社長 榊原伊織  彼は……悪魔の様な男だった 違うってばよぉ!龍だってばよぉ! 康太が聞いたなら言いそうだが…… 十分に……悪魔だった 人事、人材育成部へ行き顔を出すと 人事、人材育成部 統括本部長である陣内博司が康太に飛び付いた 「康太!貴方何処へ行っていたんですか!」 「………少しな新婚旅行だ」 「仲良くて良いけど! そんなの誰が信じるよ!」 「解ったか…」 「貴方に言われた通り、仕事はしました!」 「悪かったな」 「お前がいればこそ!俺は仕事する お前がいない飛鳥井なら……俺は仕事する気はない」 「大丈夫だ!オレは消えねぇかんな!」 「当たり前だろ! 消えても追い掛けるからな! 俺を使い熟せるのは、おめぇしかいねぇだろうが!」 「陣内、忙しくなるぜ!」 「構うかよ!そろそろ仕事を放り出してお前を探しに行こうと思ってた所だ! 探しに行く前に還って来てくれて良かった!」 「ならバリバリに働いて貰うからな!」 「望むところだ! それより栗田の事聞いたかよ?」 「……何があったのよ?」 「飲まず食わずで……仕事してたんだよ……あの人 俺等も……人の事言えねぇけどな…… 栗田は誰の言葉にも耳を貸さない…… 社長が休めと言っても、会長が休めと言っても…… 恋人の恵太が休めと泣いて頼んでも…… 栗田の耳には……聞こえねぇんだよ…… 栗田一夫を生かしてるのは飛鳥井康太…… 栗田は康太の声しか聞く気はないみたいだった 恵太が可哀想でな……」 「解った!後で見に行く!」 「そうしてやってくれ!」 「ならな陣内!」 「これからは会社に来られますか?」 「おう!オレは飛鳥井家真贋だかんな! 会社に出るに決まってるじゃんか!」 「なら良いです! 俺は死ぬまで貴方の駒です!」 康太は陣内の肩を叩いて、横を歩いて行った 監査、総務部 統括本部長 飛鳥井蒼太の傍に行くと、康太はニカッと笑った 「………康太……」 蒼太は康太の姿を見て……泣き出した 「………康太……僕は君の為に会社にいるのに…… 君がいなきゃ僕は……会社にいたくないです…」 「蒼兄、んな事を言うなよ! オレは消えねぇかんな!大丈夫だ」 「会社に来ても君に逢えないし…… 瑛兄に聞いても……還って来てないから解らないって言うし……僕は……」 蒼太は泣いていた 「………泣くな……蒼兄……」 「君が…いないから……」 「蒼兄、飛鳥井は潰されねぇ為に踏ん張らねぇとな! 泣いてる暇なんてねぇんだよ!」 蒼太は姿勢を正すと笑った 「君が還れば乱世の中へ入っては行くのは解ってます!」 「宙夢と遊びに来いよ オレの子も大きくなって来たぜ」 「今度伺います!」 「待ってるかんな!」 康太は蒼太の肩を叩いて、横を通って建設施工部へと向かった 建設施工部には統括本部長は不在だった 城田琢哉が康太の姿を見ると飛んで来た 「真贋!」 「城田、おめぇが統括本部長代理か?」 「俺には代理は勤まりません…」 「恵太は?」 「栗田に付きっ切りです…」 「なら城田、おめぇが本日付で統括本部長代理だ 栗田が還って来たら、おめぇのポジションは統括本部長補佐だ!解ったな!」 「……え?良いのですか?」 「相応しいから言ってるんだよ おめぇはオレの駒だろ?」 「はい!俺は飛鳥井康太の駒です!」 「ならな、そろそろ、ちゃんとしたポジションに来いよ!」 「解りました!」 「オレは社長室に顔を出して栗田を見舞うわ」 「はい!貴方の声なら栗田は目覚めると想います」 康太は城田の肩を叩くと、社長室に向けて歩き出した 社長室をノックすると中から清隆が顔を出した 「康太!逢いたかった……」 清隆は康太を抱き締めた 玲香は榊原を抱き締めて、社長室に招き入れた 「伊織……痩せたな…」 窶れた頬を……撫でた 榊原は「直ぐに戻ります」と玲香に心配させない様に言った 瑛太は榊原を抱き締めた 「美味しいものを食べに行きましょう」 「………まだ仕上げてないので……無理です 家族で出掛けて……毒を盛られるのは御免です」 榊原が言うと……玲香は何も言わずに榊原を抱き締めた 「……伊織……背負わせて本当に申し訳ない……」 「僕は飛鳥井康太の伴侶です! 康太と共に散るのであれば本望です!」 天晴れな笑顔だった…… 瑛太は康太に 「お強請りは何なんですか?」 と、問い掛けた 「母ちゃん、父ちゃん、瑛兄、旅行に行こうぜ! それまでにはカタは着ける!」 「………楽しみにしておくわ… 翔達も大きくなって来たしな……旅行に行くのは楽しいわいな…」 「その前にな片付けねぇといけねぇ事があるけどよぉ!」 家族は何も言わなかった 康太が無事で還って来て…… 榊原と笑って居られれば……それだけで良かった 「所で、栗田はどこに入院してるのよ?」 と尋ねた 「栗田は飛鳥井の主治医の病院に入院してます」 「なら、診察に行くついでに見舞いが出来るな」 康太は、家族に話をして、榊原と共に急な仕事を片付けて飛鳥井の主治医の病院に向かった 飛鳥井の主治医の病院の駐車場に車を停め、診察券を入れると…… 直ぐに名前を呼ばれた 「飛鳥井康太さん、榊原伊織さん」 纏めて呼ばれて診察室に入って行った 診察室に入ると……久遠が康太を抱き締めた 「……坊主!来いと言ってるのに消えたら心配するだろうが!」 久遠は怒っていた 「伴侶殿も!体調はどうなんですか!」 久遠が怒ってると……診察室のドアが開いた 入って来たのは……… 飛鳥井義恭……だった 康太は義恭の姿を見て笑った 「義恭、答えは出たのかよ?」 「………志津子を焚き付けたのは…… お主であろうて……アイツは言いよった 『離婚はしてあげるわ その変わり病院は譲に継がせるまでやってね! それが真贋の言葉です 私は今更…離婚しようが…一緒に住んでいようが…構いません! 貴方のお好きになさい!』 と言いやがったんだぞ!」 「………で、離婚したのかよ?」

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