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第41話 邀撃 ①

飛鳥井の主治医の病院へ、玲香と真矢と清四郎を乗せて向かう 清四郎はそわそわ心配だった 康太は久遠が診察に当たり 榊原は義恭が診察をした 真矢と玲香は総合病院の知り合いに来てもらった そして診察をする 玲香と真矢は、一通り検査を受けた 血液、尿、組織細胞を検査に出した そして清四郎も検査を何故か受けていた 全員が検査を受けて、終えると診察室に呼ばれた 「まずは飛鳥井康太 あまり言い数値ではないな… 食べない日もあったのか……胃腸が動くのを拒否ってるな…… 当分消化の良いモノを食べる様にな 後で慎一の所へ電話入れとく」 久遠はカルテを書きながら、康太に告げた 変わって義恭が 「榊原伊織、伴侶殿! 伴侶殿も不摂生をして、食べなかったりして来たのですか? 胃腸がかなり弱っています 少し薬を続けて経過を見てみたいと思うので続けてください」 榊原は「はい。お手数掛けます」と観念した 久遠は「次は榊原清四郎さん」とカルテを見ていた 榊原は驚いて清四郎を見た 「……え?父さん……何かありましたか?」 「……解らないんだ 皆が検査に行ったのを見送っていたら……捕獲され検査されました…」 「父さん…無理させましたか?」 榊原は苦しそうに……そう問い掛けた 「伊織……大丈夫だ!」 清四郎は榊原を抱き締めた 「清四郎さんは元々腸炎になり易いので気を付けて下さい 今、坊主並みに胃腸が弱ってる 少し薬を飲んで貰って経過を見ようと想っています」 久遠がそう言うと、大学病院から派遣された医者が 「飛鳥井玲香さん」と病状説明を始めた 玲香は緊張した顔をした 「玲香さん、検査の結果を待たねばなりませんが……子宮頸がんの疑いは拭えません 一度病院へ来てください もっとしっかり検査しましょう」 玲香は……俯いた 榊原は玲香を抱き締めた 「義母さん、僕達が病院に付き添います 絶対に治しましょう! 早期なれば怖がる事はないのです! 義母さんは、絶対に治して貰います!」 榊原の言葉に玲香は泣いた 「玲香さんは村瀬先生のお姉さまであられるとか? 村瀬先生にはお世話になりました! 絶対に治してみせますので信頼して下さい」 玲香は頷いた 「次は榊原真矢さん ………至急入院して処置をしたいのですが、大丈夫ですか?」 その言葉に……真矢はガクンッと崩れ落ちた 康太が真矢を支えた 「真矢さんは……何だよ?」 「子宮外妊娠……です」 「……え?妊娠してたんですか?」 「子宮に定着しなかった……子宮の外に定着した…… 子供は子宮外では育ちません……そのうち激痛に襲われます 子供が育つ場所でないので…」 真矢は泣き出した 「………その子は……処置するしかないのですか?」 「子宮に戻す事は出来ません… 子供は育たないのです……多分真矢さんのお子さんは……亡くなってます…」 真矢は泣いた 玲香は真矢を抱き締めた 「………なら真矢さんは直ぐに入院させます 総合病院へ行けば良いですか?」 「村瀬先生の所でお願いしようと想ってます 私が執刀いたします 飛鳥井の家の側に建つ病院で私は働く事に決まっております!真贋そうですよね?」 「おう、渡瀬涼 頼むな」 「はい!玲香さん真矢さん、村瀬先生の所へ行きますか? 真矢さんの荷物は後で持ってきて貰うとして、早めに処置しないと……辛いだけです」 榊原は「母をお願いします!入院の道具は父と共に取りに行きます」と渡瀬に頼み込んだ 榊原は父親を支えた 康太は真矢を支えていた 真矢を抱き締めて… 「……真矢さん……その子は絶対にまた真矢さんの所へ還してやる……」 「………康太……ありがとう…… その子は……貴方が育ててね…」 「……え?……」 「私は……多分…子育てするには体力的に無理です……ですから貴方に託して良いですか……康太…」 「………解った……」 真矢は康太を抱き締めた 「母ちゃんも病院で検査して治して貰えよ まだ子供達も小さいからな母ちゃんの力が必要なんだ……」 玲香は気丈に「……解っておる…」と答えた 「母ちゃん……母ちゃんを亡くして父ちゃんが正気でいられると想うのか? 母ちゃんを亡くせば……父ちゃんは後を追うぜ…」 康太は泣きながら……玲香に訴えた そして泣きながら父親に電話をした 「父ちゃん……」 泣きながら電話をしてくる康太に清隆は不安を覚えた 『どうした康太? 何かありましたか? 父に出来る事ならしてあげます』 「父ちゃん……母ちゃんが……」 『玲香がどうしました?』 清隆は慌てた 康太は泣きじゃくり榊原が電話を変わった 「義父さん……義母さんが子宮癌の疑いがあるのてす これから村瀬の病院に向かいます 榊原の母も子宮外妊娠で処置しに村瀬の病院に向かいます」 『……私は……行けません…… 伊織……頼めますか?』 清隆の言葉に康太は電話を掴んだ 「今すぐに病院に来い! オレが会社に行く!そして会長決済は終わらせてやる! だから今すぐに母ちゃんの所へ来い!」 康太は泣き叫んだ 解っているのだ…… 清隆の背中には飛鳥井建設の社員の生活が掛かっている 妻の病気にも駆け付けていけない 仕事優先……そうしなければ社員に示しがつかなかった 清隆は『……なら玲香の所へ行きます……康太……父さんを許して下さい…』………清隆は泣いていた 妻が病気なら駆け付けて行きたい思いはある 総てを捨てさせて妻にしたのだ 玲香が惚れて猛烈にアタックされた 清隆には許嫁がいた しかも玲香は……医者になるべき存在だった なのに……清隆と共に生きたい……と玲香は総てを捨てた 愛人でも良い…… 清隆の側にいられれば…… 玲香はそう言った そんな玲香のひたむきで……猛烈なアタックに清隆は陥落した 許嫁は断った 源右衛門は了承してくれた 『惚れた女なら幸せにしてやれ!』 そう言い清隆の背中を押した 村瀬の家は猛反対して、玲香は家を捨てた 家族を捨てた 京香が出産する時に……弟に頼むまで…… 玲香は村瀬の家とは絶縁だった 康太が村瀬の家と……取り持ってくれた そして行き来出来る様になった だが……清隆は会長だ 妻のために安易に動ける存在だとは想っていなかった 玲香は康太を抱き締めた 「……康太……泣くでない……」 「………オレ、村瀬に送ったら会社に行く そしたら夜には清四郎さんと歌舞伎に行く…」 玲香はハンカチを取り出すと康太の涙を拭った 「……清隆を恨むでない…」 玲香はそう言った 「……解ってるよ母ちゃん…… でも………母ちゃんの側にいねぇ父ちゃんは許せねぇんだよ……」 「………不器用な男だからな……」 「オレの伊織も不器用だ……」 真面目すぎる面白味のない男だった 玲香は困った 「……康太……我は死んだりはせぬ」 「あたりめぇだ!死なせるかよ!」 康太は玲香に縋り付いた 渡瀬と共に村瀬の病院に向かった 真矢と玲香は寄り添って座っていた まるで姉妹の様に……互いを支え合っていた 「姉さん……」 「真矢…」 二人の姉妹は……手を握り締めていた 村瀬の病院に行って、先に真矢がオペ室に入った 玲香が付き添った 玲香は真矢の手をずっと握り締めていた 「真矢……大丈夫だ……皆がおる」 「…姉さんがいてくれて良かった…… 私には親も兄弟もいません……なので今…… 姉さんがいてくれて……本当に良かったと想います」 「真矢、我も妹はおらぬ…… 家族とも距離を取っておった だから真矢がいてくれて心強い……」 「姉さん……私が終わったら姉さんの番です 私が付き添います…姉さん乗り越えましょう!」 「……真矢……」 玲香は真矢の手を強く握り締めた オペ室に玲香の弟が入って来た 「榊原真矢さん、執刀医の村瀬英明です 子宮外妊娠の処置を致します」 渡瀬も顔を出した 「院長が是非執刀医に……と申し出て下さいましたのでお願い致しました このオペの後、飛鳥井玲香さん、精密検査を致します 入院になると想います、宜しいですか?」 「はい……お願いします」 真矢は麻酔をかけられて眠りに落ちた その間に……子宮外妊娠した子供は処置をされた 玲香はずっと真矢の手を握り締めていた そして処置されてオペ室を出ると……… 清隆が来ていた 「玲香……」 清隆は妻を抱き締めた 「……会社は?」 「……伊織が瑛太に電話したのです 瑛太が今直ぐに行きなさいと言ってくれたので来ました 私は君の側に着いています 仕事は……瑛太と伊織と康太に任せます」 「………あなた…我は大丈夫だ……」 「君を亡くしたら……私も死ぬと約束したではないか…」 「…清隆……」 玲香は泣いた 夫の存在がこんなにも嬉しい… 惚れぬいた相手だった 好きで好きで……総て捨てて清隆に猛烈なアタックした相手だった 結ばれるとは想わなかった 清隆には許嫁がいたから…… 愛人でも良かった 清隆に振り向いて貰えれば……それで良かったのだ 総てを捨てても……悔いなんかない 清四郎は妻と共に病室に向かった 榊原が清四郎に着いて行った 「母ちゃん…父ちゃんも来たかんな」 玲香は康太の頭を撫でた 「大丈夫だ康太……」 「母ちゃんは定期的に検査に行かねぇとダメだな 主治医の病院を飛鳥井の近くに呼んだ 真壁の土地に建ててるビルの中に入れた 母ちゃんは定期的に通わねぇとダメだな」 「………康太……母は大丈夫だ…」 「母ちゃんの母親、癌だろ?」 「………ぅ!……」 それを言われると……何も言えなくなる 「父ちゃんも定期的に病院に行って検査しろよ! 何かあってからじゃ手遅れになるぜ」 清隆は降参した 「……解った…」 玲香は検査の為に処置室に向かった 清隆はずっと妻に着いていた 康太は真矢の病室に向かった 真矢は眠っていた 榊原は康太を抱き締めた 「清四郎さん、明日菜を呼べよ 明日菜に真矢さんを見させてる間に荷物を取りに行けよ」 「………入院は……そんなに長くないので……笙に買って来て貰おうと想っています」 離れたくないのだ……妻の側を…… 「………真矢は……不遇な子供時代を送っていました… 家族を知らないのです…… 私も……兄が死に母も死に施設に入れられました そこで、真矢と出会ったのです 真矢は………叔父達に……良いように弄ばれて…… 人間恐怖症でした…… そんな真矢と気があって……結婚しました ずっと側にいてくれたのは……真矢です 私は真矢を失ったら生きられません……」 清四郎は泣いていた 妻の手を握り締め…泣いていた 榊原は兄に連絡を入れた 笙は入院に必要なモノを買って明日菜と共に病室にやって来た 康太は玲香の側に行った 玲香は検査を終えて……点滴をしていた 「……検査……終わった?」 「……明日、大きな検査をして今後の治療方針を立てるみたいです」 「父ちゃん、会社に出なくて良い」 「………ええ……玲香に着いていてやりたいです 何もかも捨てて……私の所へ来てくれた人です 私は玲香の総てを奪った…… それでも泣き言一つ言わずに玲香は飛鳥井を支えてくれました…… 支えられるばかりで……私は何も玲香には還してません…… 玲香と共にいてやろうと想います」 「オレ、会社に行くな」 清隆は立ち上がると康太に深々と頭を下げた 康太は清隆に背を向けると、病院を出て行った そしてタクシー乗り場でタクシーに乗った 携帯は電源を落とした 飛鳥井建設に行くと、康太は会長室のドアを開けた 康太は会長室の電話を取ると 「一生、聡一郎、力を貸してくれよ」 と電話した 一生は『何処にいるのよ?』と問い掛けた 康太は「会長室」と答えた 『直ぐに行く』 一生はそう答えて電話を切った 暫くして会長室にやって来ると、榊原も一緒にいた 「………康太……勝手に消えないで下さい…… 心配するでしょ……」 榊原は康太を抱き締めた 「………伊織……真矢さんは?」 「まだ意識は戻ってませんが……君が帰って来ないから……病院中探しました 一生に手伝って貰い探して貰おうとしたら…… 仕事を手伝ってくれと電話あったぞ……と教えてくれてので……来ました…」 「………伊織……悪かった… 親だからな……側にいさせてやりたかった…」 「………それを言えば君も……親の側にいさせてあげたかったです…」 「父ちゃんの変わりをしねぇとな…」 「なら義兄さんに会長代理をさせれば良いのです 僕は社長代理をします 妻の君は副社長代理をお願いします」 「……解った」 「なら義兄さんを呼んで来ます」 榊原はそう言うと康太を離して会長室を出て行った 暫くすると瑛太が榊原と共に会長室にやって来た 「会長代理をやります 伊織は社長代理を、康太は副社長代理を!お願いします!」 瑛太はそう言った 一生が聡一郎と共に「なら副社長決裁を上げていく手伝いをする」と言った 「オレは副社長室に行く 伊織は社長室に行け」 康太はそう言い榊原に背を向けた 榊原は通り過ぎようとする康太を抱き締めた 「同じ部屋でやりましょう?」 「……それはオレの仕事が不安だと言う事か?」 「……違います……」 「なら伊織は社長室に行けよ!」 康太はそう言い榊原を振り払った 榊原は哀しそうな顔をして…… 康太を見送った 何故? 何故……離れなきゃならないんですか? 榊原は悔しそうに唇を噛むと……社長室へと向かった 一生は康太を掴んだ 「………離せ一生」 康太は一生を睨み付けた 「………康太……」 「離さねぇなら切るぞ! オレは駄犬は要らねぇんだ!」 康太はそう言い捨てた 一生は康太を離した そして背を向けた 康太は気にする事なく副社長に入って行った 聡一郎は康太を見ていた 「あんだよ?聡一郎? おめぇも出て行け!」 「僕は何も言ってませんよ?」 「なら鍵を掛けろ!」 「………え?……」 「早く!」 康太は叫んだ 康太は真贋の部屋に続くドアの鍵を掛けた 聡一郎は副社長のドアの鍵を掛けた 「……聡一郎……オレと共に死んでくれ……」 康太はそう言った 聡一郎は「ええ!君と一緒なら悔いはありません」 と康太に告げた 「……離せ…聡一郎…」 康太が言うと聡一郎は康太を離した すると聡一郎の前に壁が出来た 「……なっ!……康太!」 聡一郎は壁を叩いた そして「康太!康太!」と叫んだ 康太の横に………見た事もない男が立っていた 漆黒の髪を床に投げ出して……長い爪を康太に食い込ませ……嗤っていた 「お主の伴侶を殺せなくて残念だ……」 男は康太に口吻た 「………夜叉王…お前に青龍は殺させねぇ!」 康太は言い捨てた 「………何時から解った?」 「………病室に行った時から……」 「流石だ炎帝 愛してる炎帝…」 夜叉王は康太に口吻た 執拗な接吻で康太を貪った 康太は目を開けて……人形のような感情のない瞳をしていた 「………お前をこの手に抱ける日を夢みていた…」 夜叉王は康太の服を捲り………素肌を撫でた 康太は顔色一つ変えなかった 「離せ夜叉王! オレはお前のモノにはならねぇ!」 「………ならば永遠に我のモノにするだけだ…… 長かった……本当に長い間……お前の夢を見ていた」 「勝手に見てろよ…」 康太は唇の端を吊り上げて皮肉に嗤った 「………この瞳……えぐり出してやろうか? 腹を切り裂いて内臓を全部出してやろうか? 血の一滴までも……お前は美しいんだろうな… それとも……お前の蒼い龍を……切り刻もうか?」 「………んな事をしたら…お前を殺してやる」 「その瞳……ゾクゾクする…… 龍になどくれてやる気はない…」 「悪ぃなオレの総ては青龍のモノなんだ!」 「もぉ遅いわ!」 夜叉王は康太の首を爪で引っ掻いた 鋭い爪の先が……康太を切り裂いた…… 溢れ出た鮮血で康太のスーツは真っ赤に染まって逝った 夜叉王は康太の鮮血に下を這わせて舐めた 康太は夜叉王の手を振り払った 「我から逃れられると想っておるのか?」 「お前にトドメを刺してやんよ!」 康太はそう言うと天を仰ぎ呪文を唱えた 「冥府の門を護る者! 今此処に出て参れ! 東に皇帝閻魔 西に皇帝炎帝 南に皇帝風神 北に皇帝阿修羅 今…現世に集結する時が来た! 来たれ!此処に!皇帝炎帝の元に来い!」 康太は紅蓮の妖炎を上げて嗤った 康太の姿が………変わっていく 真っ赤な瞳を見開き……康太の髪は腰まで伸び真っ赤に変わった 体躯からは……紅蓮の妖炎を撒き散らしていた 「我が名は皇帝炎帝! 我に触れるな!夜叉王」 夜叉王は少しだけ怯んだ…… 皇帝炎帝の真紅の衣装を身に着けて、毅然立つ姿からは…… 飛鳥井康太の面影はなかった 皇帝炎帝の真っ赤な髪が風に靡く 皇帝炎帝の横に………厳つい男が並んだ 「我を呼ぶのはお前か?皇帝炎帝?」 鬼の形相で来たのは冥府の門を護る者 南の皇帝風神だった 「皇帝風神久し振りだな!」 「皇帝炎帝、相変わらず………変なのに愛されてるな…」 皇帝風神は嗤った 皇帝炎帝は皇帝風神を睨み付けた 少し遅れて皇帝阿修羅がやって来た 「久方ぶり過ぎて…空気が悪くなってるな…」 とボヤいた 「まだマシになってんだせ? 光化学スモッグで外に出られねぇ日とかあったんだぜ……」 「………それは何時の話だ?」 「………高度成長期……」 「………それは解らんな…」 「だろうな……」 皇帝炎帝は笑った そして皇帝炎帝を抱き締めて現れたのは 皇帝閻魔だった 「我が息子、皇帝炎帝よ!呼んだか?」 「おう!呼んだ!」 「東西南北、我等は冥府を守護する 我は東の門を守護する皇帝閻魔!」 皇帝閻魔は叫んだ 「我は西の門を守護する皇帝炎帝!」 皇帝炎帝は夜叉王をロックオンして叫んだ 「我は南の門を守護する皇帝風神!」 厳つい体躯で腕を組み、睨み付けた 「我は北の門を守護する皇帝阿修羅!」 四人は円陣を組む! 古来の神々の姿をして… 皇帝炎帝は呪文を唱えた 『冥府の門よ開け!』 皇帝炎帝は叫んだ 「冥府門を開けた! オレは夜叉王、おめぇの為に冥府の番犬を呼び寄せてやった! あの時……オレの手で……昇華してやるべきだった… おめぇを封印したのが間違いだった… 延命なんて……望んでねぇだろ?夜叉王…」 「…あぁ……お前の手にかかれるなら…… 幾度そう思った事か………」 それこそが本望だと‥‥‥夜叉王は口にした 「オレはおめぇとは逝けねぇ…」 「龍なれば………共に逝けるのか?」 「そうだ……オレは青龍だけを愛している」 空っぽの皇帝炎帝は…もういない 愛に満ち溢れ、生き生きした瞳をした皇帝炎帝がいた もうその瞳に何も映さない……存在ではない 夜叉王は………自分が満たしてやれない存在なのを痛感させられた その時、榊原が副社長室のドアを叩いた 「開けなさい!何故鍵を掛けているのですか!」 胸騒ぎがして副社長室に来ると…… 鍵が掛けられていた 真贋の部屋から副社長室に行こうとしたが…… そちらのドアも閉められていた ドアを叩いていると…… 聡一郎がドアを開けた 「………伊織……」 聡一郎は泣いていた 榊原は副社長室に飛び込んだ そして副社長室の中を見て…榊原は息を飲んだ…… 副社長室の中は……… 異空間と現実と……混在して……… 異空間の先に……真っ赤な髪をして、真っ赤な瞳をして………真紅の衣装を身につけた……… 飛鳥井康太とも……… 炎帝とも……… 着かぬ存在がいた だが……青龍が愛した炎帝に間違いはなかった 皇帝炎帝は青龍の方を見た 「……来なくても良いのに……」と呟いた 「炎帝!僕を置いて何やってるんですか!」 榊原は叫んだ 目の前には目に見えないが壁が出来ていた 入ろうにも……入れなかった 「……青龍……黙って見ていろ」 「嫌だ!僕は君の伴侶です!」 「…………それは飛鳥井康太のだろ?」 「炎帝の夫です」 真っ赤な髪、真っ赤な瞳……真紅の衣装を着た皇帝炎帝は嗤った 「我が名は皇帝炎帝! お前の愛する存在じゃねぇ!」 「君は僕の愛する存在です!」 青龍は1歩も引かなかった 皇帝閻魔が時空を切り裂いた 「青龍、我が息子、皇帝炎帝の傍に来るがよい!」 皇帝閻魔は青龍を招き入れた 青龍が入ると………時空は閉じた 「此処は冥府の一部だ……身体的な保証は出来ぬ…… それでも構わぬか?」 青龍は皇帝閻魔の瞳を射抜き答えた 「構いません! この体躯が滅びようとも僕は妻の傍にいます!」 「なれら、我が息子の傍に逝け!」 青龍は皇帝炎帝を抱き締めた 抱き締めたなら……康太の匂いがした 愛して止まない炎帝の匂いがした 姿は………違うかも知れないが…… 青龍の愛すべき存在だった 「愛しています」 青龍は皇帝炎帝に口吻た 皇帝風神は「夫を得たのは本当だったのか?」と尋ねた 「我が夫は未来永劫、青龍、唯一人!」 皇帝炎帝はそう言った 皇帝風神は「幸せにな!皇帝炎帝!」と祝辞を述べた 「冥府に還ったら祝いを届けさせる」 皇帝風神は嬉しそうに言った 皇帝阿修羅も「結婚祝いをせねばな!」と言った 皇帝閻魔は「我が息子を娶ってくれる存在がいて本当に良かった!」と喜んだ 夜叉王は青龍の登場に………憎しみの焔を燃やしていた 青龍に抱かれた皇帝炎帝は幸せそうだったから…… 青龍は蒼い妖炎を立ち上げた 皇帝炎帝の首に………切り裂いた様な怪我があった その怪我からは今も血を流していた 「僕の妻を傷付けたのは……君ですか?」 青龍は夜叉王を睨み付けた 「龍如きがほざくな!」 夜叉王は吐き捨てた 「たかが龍に何が出来る?」 夜叉王は青龍を馬鹿にした 青龍は怒りに任せて龍に姿を変えようとした 「………青龍止めろ!」 「………何故です?噛み殺しても足りません! 僕の妻に傷を付けた奴を八つ裂きにしても足りません!」 「青龍、動くな……冥府の門が開いている」 「………え?……」 「我ら四天王は冥府の門番をしている 我ら四天王しか冥府の門は開けられない 今、冥府の門を開けた……もう止められねぇんだ 冥府の門から……アイツらが出て来る…… だから青龍動くな……」 青龍は息を飲み込んだ…… 冥府の門………ブラックホールみたいな空間の裂け目から…… 首が三つに分かれた犬 ケルベロスが2頭が姿を現した 「お呼びか?皇帝炎帝!」 2頭のケルベロスは皇帝炎帝の前に傅いた 「永遠の安らぎを夜叉王に…… 眠らせて…転生させてやってくれ!」 「………転生……で御座いますか?」 「消滅ではなく転生だ その魂に安らぎをくれやってくれ… 次の人生は……違えない様に……眠らせろ」 「了解した……でも此奴は沢山の人間を死なせすぎた……」 「それは生を与えて償わせるしかねぇ…… 消すのは容易い……だが……空っぽの魂を消滅させて何になる? 何も入ってない魂を消滅させるんじゃねぇ…… 生きて償わせる道を与える」 「……その方が残酷だろうが!」 ケルベロスは毒づいた 「ポチ、蹴り上げられたけなくば連れて行け!」 榊原は言葉を失った…… 地獄の使い魔 ケルベロス…… ケルベロスが魔界から姿を消して久しい まさか冥府にいたのも驚きなら…… ポチ……と呼ばれていたのも驚きだった 「……その名で呼ぶでない…」 ケルベロスは嫌な顔をした 「おめぇらはオレが育てたんだろ? ポチ、ゴン太……うしうし!大きくなったな」 「………お前に掛かったら俺等は形無しだ…」 「そう言うな!連れて行け!」 2頭のケルベロスは夜叉王の左右に立った そして夜叉王の腕を噛むと呪縛した 「動くな!動けば喉元噛み切るぞ」 ケルベロスは唸った 夜叉王は……… 「………皇帝炎帝……最後に一度…… お前を抱き締めさせてくれ……」 と訴えた 皇帝炎帝は夜叉王の傍に寄った 「オレを連れて行く気か? 残念だが…オレはおめぇとは逝けねぇ…」 そう言い皇帝炎帝は夜叉王に口吻た 「………愛していた…… お前だけを……愛していた…… お前が手に入るなら……我は悪魔に魂を売っても良かった……」 「………オレはお前を愛せねぇ…… 幾ら請われても……お前を愛してやれねぇ…」 「………空っぽだったのにな……」 「オレの愛する男に詰められた オレはもう空っぽじゃねぇ……」 夜叉王は瞳を閉じた 涙を流し……断ち切る様に……瞳を閉じた 「……抵抗はせぬ……連れて行け…」 ケルベロスは夜叉王を連れて、冥府の門を潜った そして姿を消した 冥府の門がケルベロスと夜叉王を飲み込んで……… 閉じて行った 皇帝炎帝は青龍を離すと、円陣を組んだ そして四人で呪文を唱え、冥府の門を封印した 2度と開く事のない様に……封印した 皇帝炎帝は息を吐き出した…… 「我が息子、皇帝炎帝よ! 立派でした!見事な手腕でした」 皇帝閻魔はそう言い息子を抱き締めた 「………父者……呼び出して悪かった…」 「父はお前の頼みなら、何でも聞いてやっていたではないか!忘れたのか?」 皇帝閻魔はそう言い息子の頬に口吻た そして青龍を見た 「青龍殿、我は皇帝炎帝の父、皇帝閻魔に御座います」 と青龍に深々と頭を下げた 皇帝風神も青龍に 「我は皇帝炎帝の次兄、皇帝風神だ! 弟を幸せにしてくれ!それだけだ!」 そう言い青龍を抱きしめた 皇帝阿修羅も青龍の前に立ち 「我は皇帝炎帝の長兄、皇帝阿修羅だ 我等ば冥府の四天王として冥府を護っている存在 弟の婿になられる青龍殿とは義兄となる!宜しく頼む」 と皇帝阿修羅は青龍を抱き締めた 皇帝閻魔は皇帝炎帝を離すと 「我等冥府の者がこの世に留まるのは許されぬ 達者でな……我が息子よ!」 「……父者……兄者達…本当に助かった」 皇帝炎帝は深々と頭を下げた 皇帝閻魔は片手をあげ、微笑むと……… 時空を閉じた 静まり返った部屋に……異空間は消えていた 炎帝は崩れ落ち……気絶寸前だった 榊原は慌てて康太を抱き締めた 「………康太……」 「……伊織…ごめん…」 「………何で僕を弾いたのですか?」 「………夜叉王を見て解らなかったか? 青龍がいれば逆効果だ…… オレが四天王を呼ぶ前に手を出されたら… オレは永遠に……青龍を失う…… 夜叉王は青龍を消滅させれる力は持っていた 青龍を消滅させられたら……オレは狂う…」 康太の想いを聞かされ……榊原は涙が止まらなかった 康太の首からは……まだ血が流れていた 「……康太……病院に行きますか?」 「……今は無理だ……まだ姿が戻ってない…」 康太はまだ真っ赤な髪と、真っ赤な瞳をしていた 「構いません! 僕は君がどんな器に入っていようとも気にならないと言ったでしょ?」 「………伊織……」 康太が呟くと、聡一郎が 「康太を病院にお願いします! 僕は慎一に言って康太の着替えを持って行きます!」 と、言い部屋を出た 榊原は康太の首をタオルで押さえた そして抱き上げると、副社長室を出てきて行った エレベーターに乗り込むと直通で下まで行き 康太を隠す様に車に乗せた そして運転席に乗り込むとエンジンをかけた 榊原は康太の髪を手にした 「これが冥府での君の本当の姿ですか?」 赤い髪を手にして接吻した 長い赤い髪も似合っていた 「そう……これが皇帝炎帝の姿だ…」 「そうなんですか……綺麗です 君の魂の赤みたいに綺麗です」 康太は真っ赤な瞳で……榊原を見た 「……こんな化け物みたいな姿が綺麗な訳ねぇ」 榊原は康太の頬を叩いた 「僕の炎帝を愚弄するのは君でも許しませんよ!」 「………青龍……」 康太の瞳から…涙が零れた 「僕はどんな君だって愛せると言いませんでしたか?」 「………言った……でも…… こんな姿は青龍に見せたくなかったのだ…… 榊原は康太を抱き締めて接吻した 「愛してます…愛してます奥さん 君は龍の僕は愛せませんか?」 「龍の青龍も愛してる……」 「ならば僕は皇帝炎帝の君も愛してます」 「………お前に……こんな姿……見せたくなかった…」 「……だから離れたのですか?」 「……違う……夜叉王は確実に青龍を亡き者にするつもりだった…… オレから青龍を奪う気だった…… オレは青龍を失って……生きていけない……」 榊原は強く康太を抱き締めた 押さえたタオルが真っ赤に染まるのを見て 榊原は康太を離した 榊原は車を走らせた 「康太……辛くないですか?」 「………伊織……怠い……」 血を流しすぎると怠さが襲う 榊原は車を飛ばした 主治医の病院に到着すると久遠が待ち受けていた 久遠は真っ赤な髪と真っ赤など瞳をした康太を目にした 髪の地肌から変わらぬ色を放っていた……と言う事は自毛で、瞳も同じ色素を放っていた これが本来の姿と久遠は納得した 今更……何が出て来ようとも……久遠は動じたりはしなかった 「傷を見せてみろ」 久遠が言うと榊原はタオルを外した 深くえぐられ切り裂かれた様な傷が…康太の首に出来ていた 「伴侶殿此方へ」 久遠は榊原に康太をだきあげて連れて来いと命じた 榊原は康太を抱き上げた 康太は榊原の首に縋り付いた 康太の赤い髪が榊原に纏わり付いていた オペ室まで康太を運ぶと榊原は康太の手を握っていた 「この傷は……どうしてついた?」 獣に引き裂かれた様な……選別の付かない傷だった 「……夜叉王の爪が……オレを切り裂いた…」 「………爪……熊か、猛禽類か?」 「………違う……昔は人だった奴だ…」 「人の爪がこんなに鋭利な傷を付けるかよ…」 久遠はイソジンを康太の首に掛けて消毒をした 「………っ……」 康太は痛みで眉を顰めた 榊原は久遠に「麻酔して下さい!」と頼んだ 康太が痛いのは嫌なのだ 変われるなら………代わりたい 「麻酔はこれからする! その前に血液検査とか感染症の疑いもしねぇとないけねぇからな!」 久遠は怒鳴った 義恭もオペ室に入ってきて、真っ赤な康太の髪と目を目にして驚きつつも処置に当たった 「………熊にでも引っかかれたか?」

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