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第42話 邀撃 ②

康太の首の傷を見て、やはり義恭も同じ台詞を言った 「……元‥人に引っかかれたか……らしい」 久遠は……困った顔でそう説明した 「………元……人?なら今は?」 義恭は問い掛けた 「今は妖魔……神ではなく妖魔に身を堕とした」 「……妖魔って熊の様な爪してるのかよ?」 「……親父……」 久遠は義恭を止めた 一通り検査をして、麻酔をかけると、久遠と義恭は康太の傷を縫合した 傷が残らぬ様に丁寧に縫った オペは1時間ちょっとで終わった 「伴侶殿、入院して貰いたい」 「解りました!お願いします」 眠ったまま病室に移されて…… 榊原は慎一に康太の入院の準備と、榊原の着替えを持って来る様に頼んだ そして聡一郎に電話して 「康太は入院になりました 社長室に置いてある仕事を病院まで持って来て下さい 頼めますか?」 『解った!今持って行く!』 聡一郎はそう言い電話を切った 飛鳥井が大変な時だった でも榊原は康太の傍は離れる気は皆無だった 榊原は康太の髪に手を伸ばした 赤い髪は………まだ戻っていなかった 榊原は康太の赤い髪に口吻た キラキラ赤く光る康太の髪は本当に綺麗だった 「綺麗ですよ康太 こんな髪した君を見られるなんて…… 僕は嬉しいです」 榊原はそう言い康太に口吻を落とした 慎一が病院に駆けつけて来た 「……康太は?」 「寝てます!他言は無用ですよ?」 「解ってます」 ベッドに寝ている康太は真っ赤な髪をしていた でも慎一は主を見失う事はない 「康太……命に別状はないのですか?」と尋ねた 「大丈夫です……傷が深いので縫いました それで様子を見る為に入院させました」 「康太の髪……戻るのですか?」 「多分戻ると想います でもね戻らなくても構いません こんなに美しい髪なら毎日触りたいです」 「綺麗ですね」 「皇帝炎帝の髪です」 皇帝炎帝……慎一は康太の髪に触れた 「康太と同じ髪してますね」 「康太ですからね 僕の愛すべき奥さんです」 榊原は康太を愛しそうな瞳で見ていた 聡一郎が仕事を運んで病室に来た 一生も一緒だった 一生は康太のベッドに飛び付いた 「………康太……」 一生は泣いていた 病院に来るまでに聡一郎に話は聞いた 一生は康太の様子が気になって副社長室に顔を出した 副社長室には康太も聡一郎はいなかった 社長室に顔を出すと榊原はいなくて、聡一郎が仕事を鞄に入れていた 一生は聡一郎に尋ねた すると聡一郎は全部一生に話した 夜叉王に首を切り裂かれて病院に行った事も 康太は今真っ赤な髪をしてることも…… 全部聡一郎は話した 「康太……康太……」 一生は康太のベッドに顔を埋めて泣いた 「今は眠ってます」 榊原は一生を肩に手を置いた 「傷は深いのか?」 「………熊に切り裂かれた様な傷だと……言ってました それほどに……深い傷でした」 「………命に別状ねぇのかよ?」 「そしたら僕は生きてはいませんよ?」 一生はホッと息を吐き出した……そして康太の髪を手に取った 「………戻らねぇのかよ?」 「……どうなんでしょう? このままでも僕は構いません!」 「だな!中身は同じだからな!」 一生は意図も容易く言い捨てた 「僕は此処で仕事をします! 手伝って下さい」 「その前に着替えろよ 慎一が取りにいってるだろ?」 聡一郎がナースステーションにオシボリを貰いに行って一生に渡した 一生は榊原の血を拭いてやった 綺麗に榊原を拭いてやる 「……一生もう良いです」 「子供の頃もおめぇは手の掛からねぇ子供だったな…… おめぇの世話なんてした事なかったな…」 一生は青龍を想って呟いた 「………今はその分世話を焼かれてます…」 榊原の言いぐさに一生は笑った 榊原は着替えて身なりを整えた 慎一は榊原のスーツを袋に入れ…… 「………クリーニングに出しても無駄ですかね?」と呟いた 「……グレーのスーツに血糊……ですからね… 捨てて下さい……仕方ありません」 「解りました……処分しておきます それより康太は何を着てました?」 「………スーツですが……久遠先生が脱がせる為に切り刻んで消毒しました 多分病院の方で処分されたと想います」 「解りました!」 慎一は康太の首に巻かれた包帯を……痛々しそうに眺めた 病室がノックされて慎一がドアを開けに行くと…… 魔界で見た四龍の一人がドアの向こうに立っていた 慎一は「どうぞ!」と病室に迎え入れた 榊原は立ち上がって……兄を見た 病室に現れたのは黒龍だった 黒龍は眠る康太を見た そして赤い髪に触れると…… 痛々しそうに…康太を撫でた 「閻魔からの使いで来た」 黒龍はそう言った 「………閻魔から?」 榊原は呟いた 「皇帝閻魔から、閻魔の方に八仙を通して伝達がありました 夜叉王が引き裂いた傷は……このままだと治りはしない…と。」 「……え?……炎帝は死ぬのですか?」 榊原は唖然として………黒龍を見てそう言った 「早く手を打たねば……肉体は滅ぶ……」 榊原はガクンッと目眩を憶えて倒れそうになった 一生が榊原を支えた 「兄貴……何か方法はないのかよ?」 「だから俺が使いに出された この液体を炎帝に飲ませろ…… 皇帝閻魔から預かって来た」 「………解りました……」 榊原は康太を見た すると康太は目を開けていた 「………康太…痛いですか?」 「伊織……悪かった」 「僕は君が生きていてくれたら…… それだけで良い……生きていけます」 康太は榊原に抱き締められ……黒龍を見た 「黒龍、お使いか?」 「炎帝!おめぇは無茶ばっかしかやがって! 弟の寿命を縮めるのは止めてやってくれ…」 黒龍は炎帝の赤い髪を……手にした 「戻らねぇのか?」 「………解らねぇ……何万年ぶりの姿だからな… オレも検討がつかねぇんだよ」 「皇帝閻魔が心配していたそうだ…… 八仙から連絡を受けて崑崙山に行ったそうだ そしてこの小瓶を皇帝閻魔から託されたと渡されたそうだ」 「………そっか……」 榊原は「飲みますか?」と尋ねた 康太は口を開けた 榊原は兄から小瓶を渡してもらい、康太の口に垂らした そして嚥下した すると康太がベッドの上で苦しみだした 喉の傷を掻き毟らんばかりの勢いで苦しんでいた 榊原は康太を抱き締めた 黒龍は慌てた 「………炎帝!どうした?」 炎帝の身を案じた 暫くすると炎帝は気絶した 「………毒じゃない………ですよね?」 「………俺が炎帝を殺すかよ!」 黒龍は叫んだ 一生は康太の脈を取った 脈はドックン…ドックンと脈打っていた 「………死んではいねぇ……」 榊原は康太を抱き締めた 「…なら何故……」 榊原は康太を抱き締めて泣いた…… 黒龍は……「…………炎帝……目を開けろよ!」と泣いていた そこへ閻魔が姿を現した 「………炎帝は気絶しましたか?」 黒龍は「……意識を失ってる……」と涙を拭いて言った 「………皇帝閻魔が多分……意識を失うだろう……と言っていました…… 死んだりしないので……大丈夫です」 閻魔は康太の傍に寄った 「炎帝は生まれた時、赤い髪で赤い瞳をしてました…… それが成長と共に今の姿になって行きました 懐かしいです……炎帝の赤い髪は……」 閻魔は康太の髪を手にした 「意識さえ戻れば、この髪も瞳も、消えて行くと想います」 榊原は閻魔に深々と頭を下げた 「青龍……苦しめて……ばかりですね 炎帝と共に生きるのは大変でしょ?」 榊原は閻魔の瞳を射抜き 「炎帝が生きていてくれれば、僕はどんな困難にだって立ち向かえます 炎帝が僕を抱き締めてくれるなら……僕は生きて行けるのです」 青龍の本気の想いを垣間見る…… 炎帝と人の世に堕ちてから…… 青龍は幾度となく……炎帝を見送り…… 共に転生して来てるのだ…… 青龍の想いを考えれば…… 「青龍……弟は夜叉王が爪に仕込ませた毒を解毒したせいで意識をなくしたが……まだ死にはしない 青龍、炎帝と共に生きてやって下さい…… 魔界に還られたら、大々的に結婚式を執り行います! 炎帝の伴侶は未来永劫、青龍、君だけです」 「………閻魔殿……」 榊原は閻魔に深々と頭を下げた 「魔界や天界でも……四天王の活躍は…… 知ることとなりました 冥府の四天王……彼等が冥府以外に……姿を現す事は皆無でした 冥府は中立を誇示している その冥府の四天王が……人の世に現れ…… 冥府の門を開いた……驚きです 有り得ない事を成し遂げた 魔界や天界は……皇帝炎帝を脅威に想った事でしょうね……」 「僕の妻です! 誰が恐れようが構わない! 炎帝は未来永劫、僕の妻です!」 榊原は言い切った 閻魔はニコッと微笑むと 「青龍はもう代わりのいない存在 混沌とした魔界の道標となる炎帝の伴侶なのですからね!」 閻魔は手に小さな小瓶を取り出すと 康太の口を開き、小瓶の蓋を開けて康太の口の中に中身を垂らした 「これで意識が戻るであろう…」 「……ありがとうございます……」 「青龍……炎帝を頼みますね……」 「はい!共に……それしか願ってはおりません」 閻魔は微笑んだ 「黒龍、還りましょうか?」 「……そうですね…… 青龍、炎帝を頼むぞ」 黒龍は青龍を抱き締めて離した 「はい!炎帝を護って見せます!」 黒龍は閻魔の側に立った そして時空の裂け目に身を乗り込ませ……消えていった 榊原は康太の側に近寄った 赤い髪を撫でて、口吻た 眠っている康太の横で榊原は仕事を始めた 力哉を呼び出し副社長決裁、社長決裁をしていく 聡一郎と一生も手伝い仕事をしていた 慎一は康太の入院の用意をしに一旦家に帰って、戻って来た 「……伊織、康太の下着とか……はかせますか?」 「……はかせて大丈夫ですかね?」 「久遠先生に聞いてきます」 慎一は病室を出て行った 「………髪が戻るまでは面会制限して貰いますかね?」 榊原は呟いた 康太は……気にする 自分の姿を嫌った様な発言をする 榊原はどれも愛する康太であり炎帝なのだ どの姿も愛すべき存在だった 一生も「………康太は気にするからな……」と一生も榊原の想いに賛同した 暫くして慎一が戻って来た 「伊織、パジャマを着せても良いそうです」 「そうですか……血糊は拭いちゃダメですかね?」 「それも聞いて来てます ナースセンターでお絞りを取りに行って拭いても良いそうです 俺、お絞りを貰って来ます!」 慎一はお絞りを取りに行って榊原に渡した 康太の体躯を榊原は綺麗に拭いた そしてパジャマを着せた 赤い康太の髪に口吻を落とすと、康太は目を醒ました 「伊織……」 「康太……」 榊原は康太を抱き締めた 「痛い所とか辛い所ありますか?」 「怠い……」 「かなりの血が出ましたからね」 康太は腕に落ちて来た髪を……掴んで 「………まだ直ってない……」 と呟いた 「………康太……閻魔が来てくれました 意識さえ戻れば、その髪も元に戻ると言ってくれました」 「………戻るのかな?」 「戻らなくても僕は構いません 愛する君に変わりはないんですからね」 「………伊織……」 康太は榊原の胸に顔を埋めた 「愛してますよ奥さん」 「オレも愛してるもんよー」 「奥さん、約束のミニスカートデート 凄く楽しみにしてるので、行きましょうね」 「………本気?」 「頗る本気です! 家族でCM撮影の前にデート行きましょうね」 「………伊織がしたいなら……」 康太は顔を赤らめた こんな仕草でさえ可愛い 榊原の愛する妻だった 「奥さん、少し仕事を片付けますね」 榊原はチュッと唇にキスを落とした 「うん……オレはも少し寝る…」 康太はそう言い……眠りに落ちた 榊原は精力的に仕事を片付けた 仕事を会社に持って行った聡一郎が、玲香の検査結果を聞いて戻って来た 「伊織、玲香さん……オペは避けられませんでした 明日オペに踏み切るそうです」 「………え?義母さん……子宮癌……だったのですか?」 「………そうでした…… でも早期発見だったので全摘ではなく部位の摘出だそうです…」 「………義父さん……辛いでしょうね…」 「瑛兄さんも病院に行きました…… 康太の事を聞かれました……」 「………やはり……聞きますよね?」 「………病院に来ますよ?多分……」 「………困りましたね…… 康太は見られたくないでしょうね…」 榊原が呟くと……慎一が 「安曇さんが飛鳥井の家を尋ねたそうです 全員留守なので……電話が来ました……」 「………康太に逢いたい……ですよね?」 「………はい……」 「………髪が戻れば良いのですが……」 榊原は康太の髪を撫でた 病室のドアがノックされて……慎一はドアを開けた すると瑛太が安曇と共にいた 「………伊織……瑛兄さんと安曇さんです」 やはり心配性のこの人達は……押し掛けて来るか… 榊原は立ち上がった 「………僕が目を離した隙に…… 康太は怪我をしました……」 瑛太は……「酷いのですか?」と尋ねた 「…………縫う程に……」 「………何処を?」 「首です……」 「………逢わせては貰えないのか?」 瑛太は弟の容態が気になっていた…… 「………まだ意識が戻りません 意識が戻るまでは静かに迎えたいのです」 「………顔だけでも……」 「…………康太は今……見られたくないと想います… 帰って戴けませんか?」 榊原は一歩も引かなかった 「………見られたくない……?」 「………そこに立っていて下さい 絶対に動かないで下さい!」 瑛太と安曇は頷いた 榊原は康太の枕元に立つと……… 康太の髪を……一筋掬った 「……!……」 真っ赤なその髪に……… 瑛太と安曇は息を飲んだ 「………康太の本来の姿……だそうです 僕も……この姿は知りませんでした 僕の愛する妻です…… どんな姿をしていようと… 僕の愛する妻です!」 榊原が言うと瑛太は 「どんな姿をしていようと私の弟です康太は!」 と言い榊原を抱き締めた 安曇も 「どんな姿をしていようと、私の息子だと言う気持ちは変わっていません!」 と言い榊原の側に立った 「………義兄さん……勝也さん……」 安曇と瑛太は康太の顔を覗き込んだ 首には包帯が巻かれて痛々しそうだった 「………首……どうしたんですか?」 瑛太は榊原に問い掛けた 「………僕が社長室に行って見てなかったので… 詳しい詳細は解りません…… 僕が副社長室に行った時には……血を流していました…」 榊原がそう言うと聡一郎が 「……こんな事を言っても信じられないでしょうが…康太は夜叉王と言う者の爪で切り裂かれたのです……」 と説明した 「………久遠先生と義恭先生は……熊か猛禽類に切り裂かれてのか……と仰ってました…… それ程の傷でした……」 「………そうですか……」 瑛太は康太の髪を撫でた 康太は瑛太の手を叩いた 「……オレに触るな!」 目を開けた康太は睨み付けていた 真っ赤な瞳をして……… 康太は身を起こしていた 「……康太……」 「…………帰れよ瑛兄……」 「……何故?……」 「オレは誰にも逢いたくねぇんだ!」 「………康太……」 康太はそっぽを向いた 「………兄の心配は……要りませんか?」 「…………こんな姿してるのは……おめぇの弟じゃねぇよ!」 瑛太は康太を抱き締めた 「私の弟です! 誰が何と言おうと! お前は私の弟です!」 「………瑛兄……」 「……こんな怪我をして……」 瑛太は康太の傷を……撫でた 安曇も康太を抱き締めた 「康太、こんな怪我をして…… 何か食べたいものはありますか?」 「………勝也……あんでいるんだよ…」 「飛鳥井の家に行ったのですよ そしたら誰もいなくて……飛鳥井建設に行きました それでも……会社にいないので慎一に電話をしました そしたらこの病院に入院してると慎一が教えてくれたので来ました」 「…………オレは死んでねぇし…… こんな姿は伊織にも見せたくねぇんだよ あんで放っておいてくれねぇんだよ……」 瑛太は康太を撫でて 「どんな姿をしていようと君は私の弟です 弟の心配をするのは当たり前でしょ? 勝也さんは君の父親なんでしょ? ならば父が子供の心配をするのは当たり前でしょ? こんな怪我して……伊織を心配させて……」と謂った 「……瑛兄……母ちゃんと真矢さんは?」 「母さんは父さんか付き添ってます そして村瀬先生は姉を必ず助けると約束して下さいました 真矢さんは貧血が酷いので入院してます でも安定したら退院する様です 私は君に変わって毎日見舞いに行ってます 京香も君の変わりに毎日見舞いに行ってます ですので、君は治す事だけを考えていなさい」 「…………会社が大変なのに……」 「………会社が大変でも榊原伊織がいる限り…… 会社は安泰ですよ……… 物凄く速いスピードで仕事を上げています 父さんの不在はあんまり関係ない……かもしれませんね」 瑛太はそう言い「父さんには内緒ですよ」とウィンクした 安曇は「何か欲しいのはありますか?」と問い掛けた 「………プリン……」 「では買って来ますね 私の秘書がスィーツ好きでね 美味しいプリンを知ってると想います 待ってて下さいね!」 「………勝也……悪かった……」 「構いません! 少し駄々っ子な君が見られて良かったです」 安曇はそう言い笑った 安曇は「また来ますね」と康太の頬にキスを落として帰って行った 瑛太も康太を疲れさせては……と想い 「康太、また夜に来ます」と康太を抱き締めて帰って行った 康太は溜め息を着いた 「…………誰にも逢いたくなかったのによぉ…」 康太がボヤくと榊原は笑って 「仕方ないですよ 心配性の溺愛兄と父でしょ?」 康太は恨みがましい瞳を向けた 「そんな瞳しないの…… ベッドに押し倒したくなります」 「…………此処では嫌だ…」 「解ってます ですからミニスカートデートしましょうね 服を用意したので今から楽しみです」 榊原は至極本気だった 康太は諦めた 愛する男の願いなら聞いてしまう自分を知っているから…… 慎一は康太の赤い長い髪を両サイドで三つ編みにした 食事の時とか邪魔になるから…… その姿が可愛くて…… 榊原はこっそり写真を撮った 本人に言えば嫌がるのは解っているから…… こっそり……なのだ 康太の傷は徐々に治りつつあった 康太は5日間入院して、6日目に退院した

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