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第48話 撮影旅行 記録 ②

長瀬は「申し訳ありませんでした…」と謝罪した 康太は「後でな」と言い北斗を抱き上げ去って行った 長瀬の長男の和哉は北斗を見送って 「北斗君はね足が悪いんだよ 何時も無理してるの……解るんだ……」 と父親に説明した 「知ってる子なのか?」 「緑川和希君、緑川和馬君は双子なんだ そして緑川北斗君はね、同じ緑川だけど従兄弟なんだって」 …………複雑だ…… 和哉の説明で……更に解らなくなった 朝陽は「………あの人が飛鳥井康太さん?」と尋ねた 「ひなちゃん……そうです」 「………可愛い」 「ひなちゃん……」 長瀬は妻の言葉に……ショックを受けた 悠斗は康太の姿を何時までも見送っていた 「………やっと逢えた……」 悠斗はそう言った 朝陽と長瀬は顔を見合わせた 宿命なのだろう…… それが嫌と言う程に解った 撮影場所を移した康太は、3カ所で撮影をして その日は解散にした 「ビデオをチェックして、不出来なら取り直しすけど、取り直しの部分がなければ、撮影は終わりです」 康太の言葉に榊原は息を吐き出した 「奥さん……僕はカメラの前には……無理です」 「良い男だったぞ」 康太は榊原に腕を回し抱き締めた 「……君が撮るから……堪えられました」 康太は榊原を抱き締めたまま……長瀬に向き直った 「長瀬、部屋に来い」 「……はい!」 「水野、一色!後頼めるか!」 康太が声を掛けると 「「はい!了解しました!」」 と2人同時に返事がされた 康太は笑いながら水野の肩を叩いた そして長瀬に向き直り 「長瀬、紹介する! オレの伴侶の榊原伊織だ そして伴侶の両親と兄だ!」 長瀬は会釈した 朝陽は「榊原真矢さんだ!感激です!」と興奮していた 真矢は朝陽と握手して抱き締めて遣った 「康太、此方の方はどなたなの?」 「長瀬匡哉とその家族です 長瀬の次男は飛鳥井の先祖返りで、眼を持って生まれた子です ゆくゆくは飛鳥井に還る存在なのです ………ですが、飛鳥井に還る……… それは親子の決別……なので……」 「………まぁ……我が子と離れたくなどないのに……」 「真矢さん、これから話し合いになります 来ますか?」 「………一緒にいて良いのかしら?」 「………オレは飛鳥井の定めの為なら…… 常軌を逸脱する事もやりかねない なので真矢さんは見ていて変だと思ったら…… それを言って下さい」 「解りました康太…… 清四郎は?駄目かしら?」 「清四郎さんも構いませんよ これからオレの部屋へ行きます」 康太はそう言うと榊原を離した 「ひな!」 康太が呼ぶと太陽は康太に手を伸ばした 「オレの子供の太陽だ! 太陽とかいて、ひなたと読ませる 朝陽、おめぇと同じ呼び方だな」 康太は太陽を朝陽に見せた 「かぁちゃ、ポンポン」 お腹減ったと太陽は訴えた 「……伊織……この子は腹減りだ……」 榊原は太陽を貰い抱き上げた 「かな!」 大空を呼ぶと大空は康太の傍に走って来た 康太は大空を抱き上げた 「この子は太陽と双子なんだ 大空と書いて、かなた と読ませる この子は真矢さんがオレにくれた子供なんだ」 「………え……」 朝陽は……言葉もなかった 「かぁちゃ、ポンポン」 「伊織この子も腹減りだわ」 榊原は笑っていた 「音弥!」 康太が呼ぶと隼人と音弥が来た 「康太……お腹が空いたのだ」 隼人と空腹を訴えた 「………伊織この子も腹減りだ オレの長男の一条隼人だ そしてオレの子の音弥だ! 音弥は隼人が亡くなった妻との間に出来た子だ」 「かぁちゃ、ひゃやと!」 仲良くしてるとアピールしていた 康太は音弥を抱き上げた 「仲良くしてるか?よしよし!」 康太は音弥を撫でた 「慎一!」 そして慎一を呼んだ 「何ですか?康太」 「太陽と大空、隼人と音弥は腹減りだ」 「………隼人も腹減りですか?」 「……慎一、倒れそうなのだ……」 隼人が言うと音弥は「なのだ」と真似をした 「かぁちゃ!」 流生が康太を見付けて飛んできた 翔も一緒に走って来た 一生が慌てて止めに行こうとするが…… 流生と翔は捕まらなかった 「走ると転ぶぞ流生」 康太が流生を抱き上げ、榊原が翔を抱き上げた 「オレの子の流生と翔だ」 康太が紹介すると流生は 「ちく!」と元気に言った 一生が「……康太すまねぇ……話に行くんだろ?」と謝った 「構わねぇ!流生、ポンポン減ってないのか?」 康太が聞くと流生は 「ぽこぽこ!」と答えた ペコペコ……だったみたいだ 「部屋に移って、食わせるか…」 康太は流生を抱っこしたまま歩いた 一生は翔と音弥を抱き上げ 榊原は太陽と大空を抱き上げていた 慎一は北斗を抱き上げて部屋へと移動した 清四郎と真矢は長瀬や子供達と共に部屋へと向かった 部屋に行くと康太はソファーに座り、子供達を抱き締めた 「流生、この子は、そこにいる緑川一生の子供だ 翔、この子は兄の子供だ 太陽と大空は、伊織の母、真矢さんがオレに託してくれた 音弥は隼人の妻がオレに託してくれた子だ 飛鳥井康太の子供として、この子達は明日の飛鳥井の礎になって生きてゆく 飛鳥井に組み込まれし存在なんだ」 康太の言葉は……重かった 「北斗は……一生の子として生きている 本当なら……死んでもおかしくない……状態だった この子は生まれて直ぐに喋った 赤い髪に……鬼の角を持って生まれた…… 名を……雪と言う その子を魔界に送り、北斗として生をなさせた それが北斗だ……だから…体にハンデは背負っている だが、この子は牧場を継ぐ後継者として育てている オレは適材適所、配置する為に…… 飛鳥井に生まれて来たんだ」 康太の言葉を聞いて朝陽は…… 「………我が子……悠斗が何故……飛鳥井に還るのか…… 教えて戴きたいのです」 と、凛と胸を張って問い掛けた 「長瀬匡哉の母親は飛鳥井の一族の者だ 巫女てして目を持ち仕えし者だったが、婚姻と同時に飛鳥井を抜けた そんなお前の母親は……自分の命を賭してでもオレの所へと来た 飛鳥井を出たのに……頼める立場ではないのが…… 恥を忍んで参りました……と逢いに来た そして、お前の母親は……オレにお前の行く末を頼んで死んでいった」 …………え?…………母さんが…… 長瀬は知らなかった 婿養子に入って親とは連絡を取らなかった 「………息子のお前だけが気掛かり……だと言われて… お前の未来をオレは視た お前は飛鳥井に還り子を成す その子は先祖返りの眼を持つ者となる だから天宮を派遣して影ながらお前を支えた 朝陽との間に出来た、お前の次男 あの長瀬の家で出来た子……限定だった それの、どれか一つでも狂うと……飛鳥井に還る子は産まれない お前の家を取り戻したのは、そんな経緯があったからだ お前は朝陽と結婚して、長瀬の家で子を成した それを見届けて……眼を持つ子が生まれた……それこそが定めだと謂う事だ」 康太は長瀬と朝陽に詳しく話して聞かせた 長瀬と朝陽は黙ってそれを聞いていた 悠斗は康太の顔を見ると、ニャッと嗤った そして嗄れた老人の様な声で 「久方ぶりだな真贋」と言った ……悠斗の声でも…… 悠斗の話し方でもなかった 「先の転生から100年ぶりだな!」 「もうそんなに経つのかえ?  久方ぶり過ぎてどれだけ経ってるのかさえ解らぬがな!」 「先祖返りの眼を持つ者よ 飛鳥井で未来を見通すか?」 「それが我が生まれた理由なれば、違えば出来ぬ……それは一番お主が知っておろう!」 「ならば……飛鳥井に還るか?」 「それしかあるまいて!」 悠斗がそう言うと康太は 「だがな、お前の両親は納得してねぇぞ! 強引に事を進めれば……永久の別れとなりうる事だってある それは悠斗があまりにも可哀想だろ? だから俺は長瀬に事の経緯を伝えている 無視すれば……悠斗は暖かな手すら失う事となる」 と説得した 悠斗は両親の方に向いて深々と頭を下げた 「定め故……お許し下され!」 長瀬も朝陽も何も謂えずにいた 何が言えよう…… 康太が助け舟を出した 「定めを持った子はどれだけ遠回りしようとも、己の道に必ずや戻る! 俺が飛鳥井家真贋として生きている様に、俺の子の翔も次代の飛鳥井家真贋として生きねばならぬ! それが定めだ………だから理解して送り出してやって欲しい 悠斗から親を取り上げるような事はしたくねぇんだよ………」 康太の言葉は悲痛な響きを秘めて、長瀬と朝陽の胸に響いた 真矢はあまりにも過酷な現実を目にして身動きが取れずにいる朝陽の横に行き抱き締めた 「私はね……次男の伊織が同じ性を持つ子を愛していると聞いた時、康太が子を望めば康太に託そうと決めていたのよ」 真矢が謂うと朝陽は「え?……」と驚いた瞳を真矢に向けた 「私は病院に出向き検査をしました その結果まだ妊娠が可能だと言われて……私は嬉しかった…… それからは子を作せる様に夫と愛し合いました 人生で一番愛し愛されたと感じられた日々でした そんな愛を感じた日々の結果妊娠したのです 私は十月十日お腹の中で大切に育て……生まれた子を康太に託しました 以来私は康太の子達の祖母として生きて来ました これからも……そうして生きて行くつもりです 我が子を手放すのは辛いでしょうね でもね定めを持った子は逝かねばならぬ所へ行けなくなったら、萎れた花の様に目的を失って輝きすら忘れてしまう……  我が子がそうであるように……貴方の子も定めに則って生きているのね…… 辛いだろうけど、見守るのも愛だと想うの……」 真矢はそう言い朝陽の頬に優しく触れた 「貴方は………辛くなかったのですか?」 我が子を手放して………辛くなかったのですか? 「お腹を痛めた我が子を………愛しく想っていないとお想いですか?」 「違っ………違います……そうじゃなくて……貴方はどんな想いで愛する我が子を託したのか……… 考えただけで………心が痛いです……」 朝陽はそう言い胸を掻きむしる様に瞳を瞑った 「見守る事だって愛だと想うの……… 我が子を見守り……我が子の幸せを祈る それと同じ位……飛鳥井のどの子も愛しいのよ どの子も変わらず愛しいのよ だからね、私は近くで見守ると決めてるの 辛くたって苦しくたって………康太の子や他の子を逢いすると決めてるの」 「貴方の様に生きられない………私は悠斗を手放す事さえ嫌だと思ってしまうんだから……」 朝陽は声を上げて泣いていた 真矢は優しく朝陽を抱き締めて背を撫でていた 朝陽は一頻り真矢の胸で泣いた後、顔を上げた 悠斗の手を強く握り締め 「忘れないで……貴方を逢いしている母を……」と言った 「忘れません…‥」 その声は悠斗の声だった 長瀬も我が子を抱き締めて 「お前を逢いしている父も忘れないで下さい……」 「忘れません…父さん、母さん、兄弟の事……絶対に忘れません」 朝陽は顔を押さえて 「逢いに来てね」と泣きながら言った 「はい!」 その言葉を受けて長瀬は覚悟を決めた瞳を康太に向けた  「悠斗の逝くべき道は悠斗が決めればいい…… 我等は……悠斗の逝く道を応援して送り出す所存です……」 「親子の縁は切らなくて良い……ずっとずっとお前達は悠斗の親だから、愛してやってくれ! だけど此れより逝くべき道は………飛鳥井へと還る事となる! それが悠斗の進むべき明日であり、悠斗の果てだ!」 「はい!何処へ行こうとも我が子に御座います」 「話はそれだけだ! まだ今直ぐという訳じゃねぇかんな! また修行を始めたとしても、即座に別れとなる訳じゃねぇ ただ逝く道が決まってるだけだ 違えぬのはら、それで悠斗の明日は繋がったも同然だと言える」 「ありがとう御座いました……」 「手始めに修行を始める事となる そして完全な眼を持った時、悠斗は菩提寺の一體てして欠かせぬ存在となる それはお前の母の願いでもあり、お前の母は宿命でもあった 悪いな長瀬……そうなった時、悠斗は菩提寺に還らねばならない だが親子の縁は切らないでやってくれ……」 「はい!承知しております」 「話はそれだけだ………時が来れば悠斗は動き出す それまでは今暫く……親子の時を過ごすと良い」 「はい!それでは失礼します」 長瀬はそう云うと朝陽と悠斗を連れて部屋を出て行った 長瀬親子を見送って康太は息を吐き出した 榊原は「お疲れ様でした」と労いの言葉を掛けた 康太は真矢と清四郎に 「ありがとう御座いました」と礼を述べた 真矢は「私は何もしていないわよ」と言い笑った 清四郎は「さぁ腹減りにご飯を食べさせますよ!」と言い部屋を出て瑛太を呼びに行った 家族で食事をして楽しい夜は更けた 胸が軋もうとも……… 明日へ繋げる布石は確実に打たれ、明日の飛鳥井の礎となった

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