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第51話 別離の時 ①

横浜に戻ってから、康太や榊原は忙しく動き回っていた 瑛太も清隆も忙殺される忙しさだった 康太は兼ねてから謂っていたメインコンピューターの分散化と設置に力を入れていた 飛鳥井建設 全店のシステムを統合して、支社と本社との回線をホストコンピューターと直結させた 支社の情報がホストコンピューターに送られて来るシステムを作り上げた どんな事でも見逃さないチェック項目を作り、監視させる監視部を作り上げた 剣持陽人の教え子を派遣して貰い、チェック体制は万全となった 裁判も始まった 大阪支社は社員を全員解雇して、大々的に求人を募集した 大阪市が全面協力を約束してくれ、ハローワークと提携し、経験者を入社させた 能力に担った仕事を出来るとあって、100人の募集に1000人の求人が集まった 謂わばスペシャリストの集団の前に…… 会社に残留を求めていた社員は……残留を諦めるしかなかった 大阪支社が再始動を切った日 裁判が始まった 贈収賄、レイプ、横領、複数の裁判を天宮を筆頭とする弁護団が当たる事となった 不正は許さない 大阪支社をスケープゴートにして、全支店に知らしめる 大々的な賭けに打って出ていた 生き残るには絶対の信頼と団結力がないと乗り切れない 不景気なご時世に多少の犠牲は必要だった 飛鳥井建設の支社に火炎瓶や電源ケーブルの切断 色々な妨害ならば……日々在った 捕まえてみれば……殆どが大阪支社の元社員だった 何があるか解らない…… そんな緊張なら…… 日々感じていた イライラ……と鬱積した感情が…… 日々募って行くのを感じずにはいられなかった 康太は……副社長室の窓から外を見ていた 「……康太……どうしたのですか?」 背後から榊原は康太を抱き締めた 「………ずっと続いてる胸騒ぎが……収まらねぇんだ」 「……康太……胸騒ぎなら僕も在ります 多分飛鳥井の家族全員……感じていると想います」 「……動き出した歯車はもう……止まれねぇ…」 「……ええ……もう戻る道は在りません…」 榊原はキツく康太を抱き締めた 「……逝く道は楽じゃねぇ…」 「……康太……僕がいます!」 康太は榊原の腕を握り締めた 「………オレの怖いのは………最悪の終わりだ……」 「……最悪の終わりなど来ない…… そう祈って行きましょう……」 「……あぁ……伊織……抱き締めてくれ……」 榊原は康太を強く抱き締めた 飛鳥井源右衛門はその日家にいた 玲香と京香も家にいて、子供達と応接間にいた 家族は忙しそうに家に帰らない日もあった 康太や榊原も帰らない日が続いていた 子供達は不安定になっていた 保育園で些細な事で喧嘩して……今日は休ませる事にした 応接間でコオとイオリと仲良く遊んでる姿を見れば…… 玲香や京香は笑みが零れて来る 瑛智もハイハイを始め、お兄さんぶった翔や流生が世話をしていた 源右衛門はそんな光景を眺めていた 「じぃじ」 流生が源右衛門の膝をよじ登る 「どうした流生」 源右衛門は孫には甘いじぃじだった 「りゅーちゃね、じぃじらいちゅき」 流生は源右衛門の頬にチュッとキスを落とした 「どの子も本当に良い子に育った」 源右衛門は嬉しそうに……そう言った 「…………この子達の為に……」 命を賭しても構わない そんな想いが日々強くなる この子達の為に何が出来る? 源右衛門は何時もそう思っていた 愛しい孫や家族との 穏やかな時間 それをくれたのは康太だった もう……思い残す事はない程に…… 幸せだった ピンポーン インターフォンの音が鳴り響いた 源右衛門は「わしが出る」と立ち上がった 源右衛門は「玲香」と呼んだ 「何ですか?」 「孫達を頼む‥‥」 「はい。この命に変えても‥‥」 玲香は源右衛門と約束した 「さて客だからの、見て来るとするかのぉ 御前達は何があっても部屋から出てはならぬぞ!」 源右衛門はそう言い応接間を出て行った 「何方ですか?」 源右衛門は玄関を開けた すると3人の男が……源右衛門目掛けて…… ナイフを突き刺して来た 「退けよジジイ!」 暴漢は源右衛門を刺して家に入ろうとしていた だが源右衛門は頑固として動かなかった 「わしはここを動かん!」 源右衛門は叫んだ 「わしは死しても一歩も動かん!」 ゲホッと口から血を流し…源右衛門は言い切った 刺した暴漢が……源右衛門の迫力に……押される 偶然にも側を通りかかった兵藤が……血だらけの源右衛門を目撃して直ぐ様、警察に連絡を入れた そして暴漢の背後に回り、3人の暴漢を打ちのめした 「……わしは……死しても一歩も動かん……」 源右衛門の目は……もう見えてはいなかった 仁王立ちで玄関に立っている源右衛門は…… 警察が到着しても…… ずっと微動だにせず立っていた 脈を取ると……源右衛門は…… 息絶えていた それでも家族を守る為に……源右衛門は一歩も崩れる事なく…… 玄関に仁王立ちで立っていた 警察が家族に連絡を入れ、家族が慌てて飛鳥井にやって来て……… 目にしたのは……… 仁王立ちで玄関に立つ源右衛門だった 玲香が異変に気付いて……玄関に出ると……源右衛門は血塗れになっていた 源右衛門の立つ足下には血溜まりが出来ていた 清隆は源右衛門に近寄った 「………父さん……」 震える手で……源右衛門に触れると…… まだ暖かかった 瑛太も源右衛門に近寄った 兵藤は源右衛門の最期を……2人に伝えた 「……誠……見事な最期でした」 決して背を向ける事なく……刺されても尚 家族を守る為に刃を受けた 一歩も動く事なく……源右衛門は家族を守り家を守った 康太は泣いていた 「……じぃちゃん!目ぇ醒ませよ!」 康太の声が張り裂けそうに辛かった 榊原は康太を抱き締めて…… 「………もう……寝かせてあげましょう」 と言った 榊原は源右衛門を抱き締めた そして持ち上げようとした 地面に踏ん張り息絶えた源右衛門は一人では動かせなかった 清隆と瑛太と榊原で源右衛門を玄関に寝かせた 開いた目を……康太が閉じさせた 「………じぃちゃんがいなきゃ……オレの子供達や母ちゃんや京香が………殺されてた…… じぃちゃんが守ってくれたんだ……」 康太は源右衛門を抱き締め……天を仰いだ 「……オレは現真贋として源右衛門の魂を黄泉に送る 源右衛門を清香に合わせてやる…… 飛鳥井家真贋 飛鳥井源右衛門の葬儀告別式を執り行った後、黄泉へと渡る!」 康太が言うと榊原も 「僕も一緒に逝きます……」 と告げた 「見事な最期でした 飛鳥井の為に生きて…… 飛鳥井の為に散った人生です」 「……まだ…オレの子が小学校に上がるまでは生きられたんだ! オレが強引な改革なんてしたから……」 康太は悔いていた 胸騒ぎは収まらなかった 最悪の現状を考えて、家族を避難させておけば良かった 「オレの所為だ‥‥」 康太は魘された様に謂った 「それは違います! 君のせいじゃありません…… 自分を責めないで……康太……」 警察が源右衛門の所に近寄ろうとすると… 康太は源右衛門の前に立ちはだかり近づけなかった 「………ご遺体を……」 「嫌だ!じぃちゃんの遺体は飛鳥井の主治医が診る! それ以外には触らせねぇ!」 榊原は久遠に電話を入れた 「久遠先生頼みが在ります!」 榊原も泣いていた 「伴侶殿……どうされました?」 「飛鳥井源右衛門が逝きました 暴漢に刺し殺され一歩も動く事なく逝きました 康太は貴方以外に源右衛門の遺体は触らせないと言ってます…… 久遠先生……源右衛門の遺体を……お願い出来ませんか?」 久遠はあまりの事に頭が着いて行かなかった だが事態は一刻を争うと決断を下した 『解った!源右衛門を連れて来い! 警察も一緒に連れて来い』 榊原は警察に事情を話した 警察は飛鳥井の家の要望を総て聞き入れた 瑛太は葬儀屋に連絡を入れた、飛鳥井源右衛門を病院へ連れて行ってくれと頼んだ 病院で検死をした後、葬儀告別式を執り行う 葬儀屋は飛鳥井の家に駆け付け、源右衛門の遺体を車に乗せた 「病院の検死が終わり次第、家に戻って参ります 葬儀はどちらでやられますか?」 葬儀屋が問い掛けると、康太か 「飛鳥井源右衛門はこの家から冥土に旅立つ この家で葬儀の準備をしてくれ!」 と頼んだ 瑛太がそれに付け加えて 「飛鳥井源右衛門は荼毘に伏した後、社葬を行います!」 と告げた 清隆は父親に抱き着いて泣いていた 瑛太は榊原に 「清四郎さんに教えてください 清四郎さんは、飛鳥井源右衛門の息子ですから! 知らせる義務があります!」 と言った 榊原は胸ポケットから携帯を取り出すと…… 清四郎に電話を入れた 「父さんは今……何をなさってますか?」 『今は撮影の休憩中です』 「話すお時間……ありますか?」 『……伊織……何がありました?』 「………飛鳥井源右衛門が亡くなりました……」 『………え?………伊織……もう一回言って下さい……』 榊原は泣いていた 榊原の嗚咽が……漏れる…… 「父さん……飛鳥井源右衛門が他界しました……」 『………本当に……』 「……ええ……これより検死に向かい……葬儀告別式の準備に入ります 父さん……飛鳥井に来て……源右衛門にお別れをしてください」 『………直ぐに……飛鳥井に向かいます…』 榊原は電話を切ると康太の側に行った 康太は兵藤に支えられなければ立っていられない程だった…… 康太の瞳からは止め処なく……涙が溢れていた 菩提寺から紫雲龍騎がやって来た 「康太……飛鳥井源右衛門を送らせて戴きます」 飛鳥井の家族に深々と頭を下げた 「龍騎……オレが源右衛門は黄泉へと送る!」 「………康太……」 「龍騎……源右衛門には指一本触らせねぇ……帰れ」 「……飛鳥井家真贋 飛鳥井源右衛門を敬い葬送の儀に則って送らせて戴きます」 「………こんなに早く……逝く予定じゃなかった…… オレが殺した…… 強引な改革さえしなければ…… 飛鳥井源右衛門は死ぬ事はなかった……」 紫雲は「………それは違う……康太……」と謂った だが康太は聞き入れる事はなかった 「違わねぇよ!」 康太は自分を責めていた 自分が源右衛門の寿命を縮めた 康太は拳を握り締めて……泣いていた 榊原が抱き締めようとしても、その手を振り解いて…… 手負いの獣の様だった 葬儀屋が飛鳥井の家にやって来ると……康太は清隆や瑛太と共に……源右衛門を車に乗せた 榊原が「………行きますよ康太」と言い強引にベンツに乗せて主治医の病院へと向かった 主治医の病院に到着すると、病院の職員が出迎えていた 源右衛門の遺体が運ばれると深々と頭を下げて…… 哀悼の意を示した 久遠が待ち構えていて、警察と共にオペ室に入って行った 瑛太は康太を抱き締めた その手を……康太は振り解いた 「…………触るな!オレに触るな!」 康太は誰の手も必要とはしなかった 久遠が病理解剖をしてオペ室から出て来て…… 康太の姿に……危惧した 自分を責めて……悪化しなければ良いが…… 「飛鳥井源右衛門は17カ所刺されていました 致命傷は心臓の下に刺さった傷でした 出血多量、心肺停止状態でした…即死に近かった」 17カ所…… 刺されて…… 源右衛門は背を向ける事なく家族や家を守った 「見事な最期でした!」 飛鳥井義恭が飛鳥井の家族に深々と頭を下げた 飛鳥井源右衛門の遺体は、飛鳥井の家に運ばれて 葬儀屋の手により、死に化粧される 康太は久遠に「……悪かった」と謝った 「坊主、近いうちに診察に来い」 康太は何も答えなかった 慎一が「必ず…診察に参ります」と約束をした 康太は源右衛門の遺体が飛鳥井の家に運ばれると同時に病院を後にした 飛鳥井の家に帰り…… 康太は源右衛門の部屋から純白の真贋の衣装を持って来た 葬儀屋に「……これを着せてくれ!」と頼んだ 葬儀屋は「承知致しました」と引き受けてくれ…… 体躯を清めて……死に装束に着替えさせた 源右衛門の死に装束は、飛鳥井家真贋の衣装だった 飛鳥井家真贋として生まれて来て 飛鳥井家真贋として、この世を去る 源右衛門に相応しい姿だった 康太はそれを黙って見届けていた 清四郎が飛鳥井の家にやって来て…… 源右衛門と対面した 源右衛門は眠っている様に… 穏やかな……笑った顔をしていた 「…父さん……」 清四郎は源右衛門の頬を撫でた 真矢は……清四郎を抱き締めた 源右衛門の傍に正座した康太に目がつき…… 清四郎は声をかけた ……………何の反応もなかった…… 「………康太?……」 康太の瞳には何も映してはいなかった 「………伊織……康太は?」 「……康太は源右衛門を殺したのは自分だと…… 責めています………」 「………え?……なぜそんな事を……」 「………大阪支社の改革をかなり強引に進めたので…… 責任を感じているのです……」 「………逆恨み……?」 「………ええ……犯人は……大阪支社を解雇した社員でした……」 「………康太のせいなどではありません……」 「………何度もいいました…… 飛鳥井康太を育てたのは……飛鳥井源右衛門です…… 康太は……往生させてやりたかった想いが強いのです」 康太の想いを想えば… 清四郎は何も言えなかった 康太は、すくっと立ち上がった 「源右衛門を黄泉へと送って参ります」 そう言い……家族や清四郎達に背を向けた 清四郎は康太を抱き締めた 「………康太……今送らなくても良いのでしょ? 源右衛門は家族といたいと想いますよ 家族でお別れをした後に……送れば良いんですよ」 「………清四郎さん……」 「私は父を誇りに思います 家族や家を守った父を誇りに思います だから康太……悔やんではいけません 会社の改革は必要な事なんです 腐ってしまった体質を変えるのは並大抵な事ではダメなのです 源右衛門は君を恨んでなんていません!」 だから自分を責めないで…… と清四郎は康太を抱き締めた 飛鳥井源右衛門 刺殺事件はテレビで報道され 安曇や堂嶋、三木、神野、須賀、相賀、が駆け付けた 少し遅れて戸浪海里も飛鳥井の家に駆け付けた 康太の姿は……痛々しくて…… 声すら……かけられなかった 康太は祖父 飛鳥井源右衛門の横に座っていた その瞳には何も映さず…… 祖父の傍にいた 康太の子供達も、その横に座っていた 遊びたい盛りの子供達が、康太の横で黙って座っていた 「………じぃじ……ねんね……」 源右衛門の頬を撫でる流生の姿が…… 涙を誘った 「瑛兄…」 「何ですか?康太」 「オレの子の映像は一切テレビに流すなと…… 報道規制……掛けてくれねぇか……」 子供に危害が及ぶのは…… 何がなんでも避けなければ…… 子供達を守って死んだ源右衛門の為にも…… 子供達を守らねば… 安曇勝也が康太に 「私が報道規制を引きましょう! 飛鳥井康太の子供の姿は放送しない もし映ったならモザイクをいれろ……と要請して来ます」 「……勝也……」 「源右衛門が守った命 私達にも守らせて下さい康太…」 「………ありがとう……」 安曇は康太を抱き締めた 「………康太……悲しみに沈まないで…」 父親の愛だった 康太は安曇から離れた 誰の手も必要もしなかった…… 誰かの手に甘えてはダメだと……自分を律していた 音弥が覚えたての歌を源右衛門に聴かせていた 「…じぃじ……じゅっときかちぇてあげゆ」 音弥が源右衛門の頬にキスを落として言っていた 流生は源右衛門の手を撫でていた 流生は源右衛門のゴツゴツした手が大好きだった 「じぃじ……いいこちて……」 撫でて欲しくて……訴えていた 翔は康太の横で堪えるように座っていた 太陽と大空は……不安そうな顔して……康太の手を握っていた 「かぁちゃ……ろこへも……」 「いにゃにゃいで……ね」 「かな、ひな……母ちゃんは何処へも行かねぇ…」 康太は太陽と大空を抱き締めた この子達の為に… 生きて逝かねばならぬ使命があった 明日の飛鳥井の礎を築いて、この子達に託す その気力だけで……康太は奮い立っていた 戸浪が康太に声を掛けた 「………康太……」 瞳を戸浪に向けるけど……康太は何も言わなかった 戸浪は堪えきれなくなり……嗚咽を漏らした 榊原が戸浪を抱き締めた 「若旦那……大丈夫ですか?」 「………源右衛門は暴漢に刺し殺されたのですか?」 榊原は戸浪に総てを話した 逆恨み………だと榊原は言った 康太は責任を感じて……自分を責めてる……と。 「………康太のせいではないのに……」 「………改革のたびに……康太は逆恨みに遭ってます 暴行を受けて……殺されかかった傷も癒えてません 今度は源右衛門です…… 改革に乗り出せば逆恨みを買う…… 僕達は胸騒ぎをずっと感じていました…… でも……此処で止まれないのです…… 此処で止まれば改革は終わってしまう それは出来ないのです……」 戸浪には痛い程解った 戸浪も改革途中だ…… 逆恨みした社員が……営業所に火を付けて倉庫を全焼させた 荷物も焼けて大損害を出したばかりだった 「………それでも逝かねば……なりません……」 もう………これ以上……立ち上がれない…… そんな想いをしても…… 立ち上がり……戦場へくり出て逝かねばならない この命を賭して…… 明日を築かねばならない 「………若旦那……大変な時に……悪かった…」 「………いいえ……我が父 宗玄を送って下さったのは貴方だ…… 源右衛門は我が父の親友 トナミ海運があるのは飛鳥井源右衛門の御陰です 我が社をあげて追悼の意を示したいと想っています」 戸浪も疲れ果てた顔をしていた 田代も疲労困憊は隠せなかった 戸浪は康太を抱き締めた 康太はその手を……そっと外した 「………康太……?」 戸浪の膝に流生がよじ登った 「かぁちゃ……いぢめりゅのらめ」 康太は笑って流生に 「かぁちゃは大丈夫だ 戸浪のおじちゃんは心配してくれてるんだ」と言い聞かせた 戸浪は流生を抱き上げた 「……優しい子ですね…」 「おう!オレの子はどの子も優しい…」 「流生……」 戸浪が呼ぶと流生は手を上げて 「はーい!」と返事をした 戸浪は流生を抱き締めて……泣いた 三木が康太の傍にやって来た 「………康太……」 三木は康太を抱き締めて…泣いた 「………康太……何でも買ってあげますから…」 「国会議事堂でもか?」 「……それは売りに出してません…… 買えるものなら買ってあげます だから……泣いて良いです……泣いて下さい……」 「繁雄……おめぇに初めて逢った日 オレは源右衛門に手を引かれて……三木の家へ行った 源右衛門にオレは育てられたんだ…」 「………覚えています…… 源右衛門は君を愛してました 不器用な男だから……上手く伝えられないんだ…… と、父 敦夫に話していたのを覚えています 黄泉には父もいます……源右衛門の妻もいます… だから…泣いて……ねぇ康太…我慢される方が辛いんですよ……」 戸浪も「……そうです……康太……泣いて良いんですよ」と訴えた 安曇も相賀も須賀も…堂嶋も…… 康太を抱き締めた 「かぁちゃ!おとたん……」 音弥はかぁちゃが盗られそうで……叫んだ 「音弥、大丈夫だ…… かぁちゃは何処にもいかねぇ…」 音弥は、かぁちゃぁ……と言い泣いた 翔が近寄って来て音弥を撫でた 「オレは……この命を懸けて…… 我が子を守る…… 源右衛門が守ってくれた我が子を守るんだ」 「この子達には指一本、触れさせはしない!」 相賀がそう言った 「相賀……」 「この命に懸けても守り通す! 君も……子供達も…… 私達にも守らせて下さい!」 相賀の言葉には覚悟が伺えれた 飛鳥井の家に東都日報の東城洋人が尋ねて来た 康太は……東城に逢うのを……拒んだ 「………飛鳥井源右衛門を静かに送りてぇんだ…」 康太はそう言った 榊原が東城に逢いに行った 一階の応接間を通夜の式場にした為、榊原は3階まで来て貰った 「取り込んでいます……どの様な御用件で?」 「………康太さんは?」 「………精神的に参ってます 気力だけで立っている……状態です」 「………そうですか…… 私は間違った報道がされない為に来ました 今後、パパラッチ対策も視野に入れて…… 報道協定を結ぶつもりです」 「報道規制は安曇さんの方から引いて貰うつもりでした…」 「解ってます! それで参りました……」 「………飛鳥井康太の子供がいます 明日の飛鳥井を担う子達です 子供達に危害を加えられたくないのです…」 「私達も微力ながら、飛鳥井康太の力になりたくて参りました 「………康太は……自分を責めています 強引な改革をしたから……逆恨みで源右衛門を殺した……そう自分を責めて……誰の手も……拒んでいます」 東城は……胸を痛めた 「……康太さんの守るべき……お子さんは…… 絶対に公には出さない! 各局の報道協定を結びました 康太さんの子供が狙われる……それだけは避けねばなりません……」 「………源右衛門の最期を……知ってお見えか?」 「暴漢に一歩も引くことなく……家や子を守って…… 仁王立ちになってらした………とお聞き伺いました 現場に到着した警察は……飛鳥井源右衛門の気迫に…死んでいるとは想わなかった……と言ってまし」 「………犯人は?」 「現行犯で兵藤貴史さんが捕まえて警察に突き出した……そうですね 飛鳥井建設の元社員だったとか……」 「大阪支社の改革に当たりました…… 前回……本社の改革の時……康太は 暴漢に……切り刻まれて……瀕死の重傷でした…… そして……今回は……源右衛門が……… 何故……ですか? そんな想いなら……誰よりも強い……」 東城は榊原の肩に手を掛けて 「……もう良いです……榊原さん…… 言わせてしまいました…… 貴方達のお役に立とうと……参りましたのに…… 本当に済みませんでした」 と謝罪した 「東城さん……今はそっとしておいて下さい 静かに源右衛門を送らせて下さい‥‥」 「報道は飛び交ってます‥‥ 真実を伝えるのも‥‥我等が責任だと思っています」 「それを決めるのは飛鳥井家真贋です ですが康太なれば謂うでしょう 真実を書いて下さい……と。 捏造ではなく……苦しんでる飛鳥井の……リアルな現実を……書いて下さい」 「承知しました……」 「僕は康太に付いていたいので……これで……」 「……葬儀の……取材は……」 「…………今夜は…遠慮下さい……」 「………明日……駄目ですか?」 「……僕だけでは決められません…… この家の決め事は……真贋がします……」 「…………逢わせて戴けますか?」 「……こちらへ!」 榊原は応接間へと東城を連れて行った 康太は東城を待ち構えていていた 「東城……今夜は家族がじぃちゃんを偲びてぇんだ 遠慮してくれねぇか? 告別式…は明日だ… だが告別式には子供も参列するから、報道は絶対に入れる気はねぇ! だがその後……社葬……をやる…… 社葬には子供は出さねぇから… それで良いなら取材は構わねぇ…… 我が子は絶対に表に出す気はねぇ! それで良いなら、その目で見た事を書けば良い」 「承知しております」 「………なら……社葬……取材に来れば良い…」 東城は分厚い香典を……康太に渡そうとした 康太は受け取らず………瑛太を呼んだ 「………瑛兄……」 「……東城さんですね」 瑛太は会釈をした 東城は康太に渡した香典を瑛太に渡した 「東都日報の社員から……預かって来た香典です お納め下さい……」 瑛太は香典を受け取った 「瑛兄……社葬は取材に入る……」 「解りました…… 康太……喪主に付いてですが……」 「………オレがやる……」 「そう言うと想っておりました」 「飛鳥井家 現真贋はオレだ オレが喪主にならねぇで……源右衛門は送れねぇ」 康太の疲れ切った顔を見て……東城は胸を痛めた それでも立ち向かうのが飛鳥井康太なのだ…… 血を吐き……倒れても…… 這い上がり立ち上がる そんな強さを見せ付けられて…… 東城は何も言えなくなった 東城は香典を渡すと帰って行った 康太が源右衛門の所へ戻ろうとすると、久遠が来たのを慎一が告げた 「康太、久遠先生がおみえです」 「………久遠?」 呼んだのか?と康太は榊原を見た 榊原は「僕は呼んでませんよ?」と康太に言った 久遠は康太の寝室の隣のリビングにやって来た 「久遠……どうしたよ?」 康太を見るなり久遠は 「どう見ても許容範囲超えてるからな来た」と告げた 「……え?」 「ほれ!腕出せ! 栄養剤打ってやるからよぉ!」 久遠が言うと榊原がせっせと、康太の服を捲った 「………伊織……」 「先生、助かります」 康太の言う事は聞かずに、榊原は久遠の言う通りにした 久遠は康太の腕を消毒して、注射を打った そして点滴をぶっ刺した 「全部堕ちるまで一時間 何かかけてやっくれ!」 久遠が言うと榊原は寝室の毛布を取りに行き、康太に掛けた 榊原は康太の横に座った 榊原の指が康太の頭を撫でる 「………伊織……」 「何ですか?」 「………膝枕……して……」 「良いですよ、此処にいらっしゃい」 榊原は康太の頭を膝の上に乗せた 「………少し熱っぽいですね……」 「………ん……少し怠い…」 「眠りなさい……僕がちゃんと起こしてあげますから……」 「………伊織……ん……疲れた……」 康太は榊原の指を握り締め……眠りに落ちた 久遠は榊原に 「今夜は寝かせてやれ」 「はい。助かりました」 「注射で眠らせた 点滴は本当に栄養剤だ」 「久遠先生には……本当にお世話になります…」 「……昼間の坊主を見てな……悪化だけはさせたくねぇと想ったんだよ」 「自分を責める康太に……為す術がありませんでした 眠らせて貰えて助かります」 「点滴が総て落ちたら帰る 今、親父が源右衛門に逢いに行ってる 明日は喪に服す為に病院は休みだ だが何かあれば電話して来い」 「ありがとうございます……」 「………俺も……坊主には……無償の愛を貰っているからな… 自分の出来る範囲で……何かしてぇんだ」 「………康太が……倒れてしまうと……想ってました」 「伴侶殿、少し病院に通わせて下さい」 「解りました……お願いします」 「伴侶殿、俺も含めて……我が子は飛鳥井になりました 桜林学園に通わせる事になりました…… 話は事前に通っていたらしく……学長か待っていましたよ……と迎え入れてくれました」 「良かったですね では譲先生とお呼びした方が?」 「久遠で良い 康太は総て知っていて久遠……と呼んだんだ」 「では。変わりなくお呼びします」 榊原と話をしてる間に…… 点滴は落ちて、久遠は康太の点滴を抜いて、処置をしてから通夜の席へと戻って行った 康太を抱き上げて寝室へ連れて行った パジャマを着せて、ベッドの中へ入れる 「慎一、康太を見てて下さい」 榊原はそう言い寝室を出て行った 応接間に行くと一生が榊原を待っていた 「康太は?」 「久遠先生が眠らせてくれました」 「…………寝かせたのか……良かった……」 一生は胸を撫で下ろした 「気張って……気力だけで立ってるのが解るからな……見てて辛かった……」 榊原は一生の肩を叩いて、応接間に入って行った 瑛太が榊原を見て近寄って来た 「康太は寝かせましたか?」 「ええ。久遠先生が眠らせてくれました」 「……あのままでは……倒れてしまわないか……心配でした」 「安曇さん達……食事させないと駄目ですね」 「……あ………家族も……何も食べてませんでした」 「翔達は?」 「………食べてません……」 「では何か食べさせて寝かせます 義兄さんは通夜の席の方々に食事をお願いします」 「解りました 康太と君の分も取っておきます」 「康太の眠りは浅い……起きたら食べさせます」 榊原は我が子の傍へと寄った 「一生、子供の食事をお願いします」 「慎一と変わって来るわ」 一生はそう言い応接間を出て行った 応接間は源右衛門が寝かされて通夜の席になっていた ソファーは源右衛門の部屋に持って行き、通夜の席になっていた 清四郎は榊原の姿を見ると…… 「……康太は?」と問い掛けた 「久遠先生が眠らせてくれました」 「そうですか……良かったです」 「父さんは今宵はどうしますか?」 「泊まって行きます……父さんと別れをします」 「客間に……布団敷きましょうか?」 「………要りません……」 清四郎はそう言い源右衛門の傍へと行った 榊原は真矢に声を掛けた 「母さん、お腹の子に悪いです……」 「………伊織……あんなに弱った清四郎を……」 「母さん、康太が還してくれた子です 大切になさって下さい」 「…………伊織……そうね……」 榊原は源右衛門の傍に座る玲香に気付いた 「義母さん、休んで下さい」 玲香は首を振るだけだった 目の前で……源右衛門の最期を見たのだ…… 源右衛門が刺されている間…… 腰が抜けて……声も出なかった……助けも求められなかった…… 「義母さん……」 「我の事は……放って置いてくれて構わぬ…」 康太同様、自分を責める玲香に家族はどうして良いか解らずにいた 榊原は飛鳥井義恭と共にいる久遠に…… 「………久遠先生……お願いがあります」 と頼み込んだ 「……飛鳥井玲香……か?」 「………あのままでは……参ってしまいます…」 「解った!寝室に連れて行け!」 久遠はそう言った 「義母さん、寝室に行きますよ」 「……我に触るな!」 玲香は榊原の手を振り解いた 清隆が玲香の傍に近寄った 「………義父さん……義母さんを寝室に連れて行って下さい…… 義母さんは康太同様……自分を責めてます このままでは……倒れてしまいます」 「………伊織……ありがとう……」 清隆は玲香を抱き締めた 「……玲香……もう良い……」 強く…強く………抱き締められて………玲香は泣いた 玲香を寝室に連れて行き、久遠に処置をして貰うと 榊原は真矢を3階の榊原と康太の部屋のリビングに連れて行った、 寝室の隣に誂えられたゲストルームに真矢を寝かせた 「母さん、少し寝て……」 「……伊織……」 「母さん、階段は危ないので、誰かいない時に降りて行かないで下さいね 父さんに知らせて来ますから!」 「ゴメンナサイね伊織……」 「お腹の子が不安がります……」 真矢は頷いて、ベッドに入った 榊原は部屋から出ると1階に下りて行き、玲香の部屋を覗いた 「義父さん、義母さんは?」 「伊織……今……点滴を打って貰ってます」 「………目の前で源右衛門を亡くしています…… 康太同様……自分を責めて……しまっています」 「………誰のせいでもない…… 強引な改革がなければ……大阪支社は地検の手入れを食らって……ダメージはかなり大きい…… また……のさばらせていたら……中から腐っていますからね……遅かれ早かれ改革は必要だったのです」 「………義父さん……」 「伊織、君も少し休みなさい 康太の横に入って……眠りなさい」 清隆は榊原を抱き締めた 榊原は清隆の頭を下げると、応接間へと向かった 「父さん」 榊原は清四郎を呼んだ 「伊織……何ですか?」 「母さんを寝かせました 3階のゲストルームに寝ています」 「………なら私も真矢の傍に行きます」 応接間は……桜林の源右衛門の旧友が集っていた 安曇や三木、堂嶋、相賀、須賀、戸浪は明日の葬儀に参列する為に帰って行った 源右衛門の旧友は、源右衛門と明日の朝まで共にいる と言うから、応接間はそのままにして…… 家族は各部屋に帰って行った 清四郎は榊原と共に3階まで行った ゲストルームをノックすると真矢がドアを開けた 「あなた……」 「真矢……体躯は大丈夫ですか?」 「ええ…」 清四郎は妻を抱き締めた 「父さん、母さん、お休みなさい」 「康太の傍に……」真矢は榊原の手を握り締めた 「いてあげて下さい」清四郎も真矢の手の上から握り締めた 「はい。お休みなさい」 榊原はそう言いゲストルームを出た そして寝室へ向かうと一生が康太の横にいた 友を護る様にして一生は、康太の眠りを護っていた 「一生、子供達を寝かせて下さい」 「慎一が子供部屋に連れて行ってると思うぜ! 後で覗いて起きてたら寝かすわ」 「頼みますね…」 「任せとけ! 康太の事……頼むな……」 一生は榊原を強く抱き締めて、寝室を後にした 榊原は寝室のドアをロックすると 服を脱いで、ベッドに上がった 康太のパジャマを脱がせて……康太を抱き締める 互いの熱が伝わる 榊原は康太の熱に安堵した 抱き寄せ強く抱き締める 康太……1人で苦しまないで…… 僕は君の荷物を背負う為にいるんですよ? 何故……僕に頼ってくれない? 康太…… 康太…… 愛してます 榊原は康太を抱き締めて、旋毛にキスを落とした 康太は榊原の温もりに目を醒ました 愛する男の温もりに……浸って胸に顔を埋めた 「康太…」 「伊織…」 「起こしてしまいましたか?」 「伊織の温もりがなきゃ眠れねぇよ」 「僕も君がいなきゃ眠れません…」 「伊織……抱き締めて…」 榊原は強く康太を抱き締めた 「伊織…愛してる」 「僕も愛してます」 榊原は康太の唇に口吻た 「僕の手は……要りませんか?」 一人で立っていられなくなりそうで… 誰の手も拒んだ 「………伊織……オレは……」 「君は僕が欲しいですか?」 「欲しい……伊織しか愛せない」 「なら僕の手を掴んで…」 康太は榊原の手を掴んだ 「離さないで下さいね」 「………伊織……ごめん……」 「君が総てを否定する事は…… 僕も否定してるんですよ?」 「………伊織……伊織……オレは総てをなくしたとしても……伊織だけはなくしたくない……」 「僕もそうです 康太、愛してるから離れたくないのです ならば……総てを拒絶しないで下さい」 康太は何度も頷いた 「ご飯、食べてないでしょ?」 「……ん…子供にも食わせてなかった」 「僕と君との子ども達です 愛して育てて行かなければなりません 源右衛門が守ってくれた命を…… 明日へと繋げて……生きて逝かねばなりません」 「……解ってる伊織……」 「君の瞳に何が映っていますか?」 「伊織」 「ちゃんと僕が映っていますか?」 「ん!愛する男が映ってる」 「なら良いです」 榊原は康太を抱き締めた 「伊織、子供部屋を覗いて、飯を食おうぜ」 「そうですね 夜が明けたら……源右衛門の告別式です その後、社葬があります 源右衛門の旧友や桜林のOBから、飛鳥井源右衛門を偲ぶ会をやってくれ……と言われます 当分は追悼でバタバタします」 「伊織……ありがとう…… オレは伊織がいてくれて本当に良かったと想う 伊織がいなきゃ……オレは壊れてた」 「君には僕がいます」 「ん……伊織…」 二人は口吻て、ベッドを下りた 服を着て、子供部屋を覗くと…… 流生が泣いていた 康太は流生をベッドから抱き上げた 「流生、どうしたよ?」 「かぁちゃ……にゃんだか……かなちぃの」 「泣き止め、飯食うか?」 「うん!りゅーちゃ……ポンポン……ちゅいた」 「なら飯食おうぜ!」 起きてる子供を確認すると……全員起きていた 太陽と大空は……正座して起きていた 「……おい……どうしたよ?」 「じぃじがね」 「よちよち、ちてくれた」 二人は顔を見合わせて、ねー!と言った 「………この二人に……そんな能力あったけ?」 「………僕に聞かれても解りません…」 翔も「じぃじ……よちよちってちてくれた」と話した 音弥も「おとたんもよちよち、ちてくれた」と泣いていた 五人全員……じぃじに、よちよちしてもらっていた 慎一が子供部屋の様子を見に来た 一生も慎一の後ろから顔を出した 「慎一、腹減ってる オレも子ども達も……」 「用意してありますよ」 慎一はそう言い康太の手から流生を貰い受けると一生に渡した 慎一は音弥と翔を抱き上げ 榊原は太陽と大空を抱き上げた 「……オレは?」 「君は点滴打ったので……無理してはいけません」

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