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第53話 葬儀告別式

翌日、飛鳥井源右衛門の葬儀告別式が、しめやかなに執り行われる事となった 葬儀告別式の後は社葬を執り行う 飛鳥井家 真贋として生きた功績を称えて、社葬を執り行う 後日、源右衛門の旧友、関係者で偲ぶ会も執り行う予定だ 飛鳥井源右衛門の葬儀告別式は、飛鳥井の家族だけで行う予定だった 飛鳥井の家から源右衛門を送り出す だが、予想外の参列者に葬儀場で葬儀を執り行う事となった 防犯上、飛鳥井の家に大量の訪問客を来させる訳にはいかなかったからだ 源右衛門のご遺体が葬儀場に運ばれる スタッフが応接間を元に戻して葬儀場へと向かった 康太は飛鳥井の家真贋の喪の着物に袖を通した 榊原が「着せませしょうか?」と尋ねるのを押し止め、康太は一人で着物を着た 「オレに触れるな伊織」 「解ってます」 康太は慣れた手つきで着物を着ると、榊原のネクタイを手に取り 「ネクタイ結んでやろうか?」と問い掛けた 「良いのですか?」 「此処に座れよ」 康太は自分の前のベッドを指差した 榊原はベッドに座った 康太が慣れた手つきで榊原のネクタイを締めていく ネクタイを締めて、キュッと整えて、康太は榊原にキスを落とした 「オレの伊織だ…」 「ええ……全部君のモノです」 「……伊織……ありがとう…」 「何で……ですか?」 「力哉が倒れた……フラッシュバック……だ オレが恐怖に囚われないで生きていられるのは…… 伊織がいてくれるからだ……」 「……君はまだ悪夢を見ます…… 恐怖はまだ消えてない……誰よりも僕は近くで見てきました…」 「………伊織……」 「それでも立ち止まる時間なんてないんです…… 君が動けないのなら、僕が君を支えます」 康太の瞳から……涙が零れて落ちた 「………伊織……怖いよ…… あの時の恐怖を思うと……オレは今も…… 息が出来ねぇ……伊織だけのオレなのに…… 汚されたら……オレは生きていたくないと想うんだ……」 「…康太……僕は君が生きていてくれれば良い…」 「………源右衛門の姿を見た瞬間…… オレの記憶が蘇ったのは……確かだ…」 「大丈夫です!君には僕がいます」 「伊織がいてくれるから…オレは生きていける」 力哉は源右衛門の姿を見て……倒れた 意識を取り戻しても…混乱が抜けないから… 主治医の病院に入院させていた 康太だって……綺麗に忘れた訳じゃない 時々……恐怖が蘇って…叫ぶ時だってある 混乱した康太を抱き締めて……安定剤を飲ませる 落ち着くまで抱き締めて、支えてくれるのは榊原だった 「……康太……大丈夫ですか?」 「大丈夫だ……じぃちゃんを送り出すのはオレの務めだ 真贋だった人間は、真贋に送られて黄泉へと渡る、それが飛鳥井の仕来たりだからな」 「それでは行きましょうか?」 康太と榊原は支度をして、応接間へと顔を出した 祭壇は解体されてソファーが戻されていた 一生が康太に 「源右衛門は葬儀場へと移られた」 と告げた 「一生」 「あんだよ?」 「………力哉の傍にいなくて良いのかよ?」 「俺は俺のやる事がある 俺の第一優先は飛鳥井康太 それは昔も今も変わっちゃいねぇよ!」 「………一生……」 「おめぇは大丈夫なのかよ!」 「……オレは大丈夫だ…… 源右衛門を送るのはオレの務め……誰にも任せておけねぇんだ」 「聡一郎が力哉の変わりに動いてる 陣内と栗田を動かしたのは、おめぇか?」 「そうだ。これ以上飛鳥井の家に訪問客を入れる訳にはいかねぇからな…」 防犯上……間取りを把握されたり鍵を特定されたりは避けねばならない 「葬儀場へゆく…」 「俺も行く! 外に葬儀者の車が迎えに来てる」 一生は戸締まりを確認して、康太と榊原と共に飛鳥井の家を出た 葬儀者の車に乗り込み葬儀の準備に取り掛かる 安曇や堂嶋、三木や戸浪、相賀、須賀、神野が葬儀場へと顔を出した 康太は受け付けで皆を出迎えていた 桜林学園から神楽四季がやって来た 桜林学園OB会から高宮一臣がやって来た 「康太、お久し振りです」 高宮は深々と頭を下げた 「一臣…何時日本に帰って来たんだよ?」 「去年の暮れには日本に帰って参りました 伴侶を得られたとか……」 康太は何も言わず笑った 儚げな……今にも消えてなくなりそうな笑みだった 源右衛門の旧友、天羽司が康太の前に現れた 「飛鳥井源右衛門の友、天羽司も申します 貴殿の事は源右衛門から伺っておりました」 「オレは稀代の真贋……源右衛門とは格が違う」 康太は皮肉に嗤うと背を向けた 祭壇が綺麗に作られていた 康太は祭壇の傍に寄った すると栗田と陣内が近寄って来た 「何時でも貴方の思いのままに…」 栗田は深々と頭を下げた 「悪かったな…」 「いいえ、貴方の役に立てるなら……嬉しいです」 「……ありがとう一夫」 康太は栗田に挨拶して陣内に向き直った 「陣内……近いうちに時間を作ってくれ、話がある」 「解りました!俺は何時でも良いですので 貴方の都合の良い時に声をかけて下さい」 「………陣内……オレは罪ばかり作るな……」 「……康太……?」 陣内は言葉もなかった 「康太!」 康太は呼ばれた方を向いた すると菩提寺から紫雲龍騎が住職と共にやって来た 「龍騎………ありがとう…」 「康太……大丈夫なのか?」 「大丈夫だ……心配するな」 康太は笑った そして紫雲龍騎の横の住職に声をかけた 「永らくの修行、ご苦労であった」 「本日は飛鳥井源右衛門を送る為に参りました 今宵、源右衛門は黄泉に渡られるとか…… 菩提寺を上げて夜通し御経を上げさせて戴きます」 「……城之内……親父の後を継ぎ立派になられたな…」 城之内は髪を整え、葬儀用の袈裟に身を包み、何処から見ても立派な僧侶だった 聡一郎が康太を呼びに来た 「康太、そろそろ時間です」 「そうか……城之内宜しく頼むな」 康太は祭壇の横に立つとマイクを手にした 「本日は飛鳥井源右衛門の葬儀告別式にご足労戴きまして、本当にありがとうございます これより飛鳥井源右衛門の葬儀告別式を執り行います」 康太がマイクを置くと、城之内が僧侶達と姿を現し御経を読み始めた 参列者に康太は白い菊の花を手渡した 源右衛門の棺に花を手向けて貰う 安曇や堂嶋、三木、戸浪、須賀、相賀、神野 桜林学園から神楽四季 OB会も高宮一臣を筆頭に菊の花を手にしていた 源右衛門の親友も旧友も菊の花を手にしていた 源右衛門の棺に花が手向けられる 眠った様に穏やかな源右衛門の頬にキスを落として… 人々が別れを惜しむ 一時間以上掛けて一人一人が花を手向けた 清四郎ら真矢、笙、明日菜が花を手向けると 飛鳥井の家族が源右衛門に花を手向けた 玲香は「お義父様……お疲れ様でした…」と深々と頭を下げ 清隆は「父さん……安らかに眠って下さい」と縋り付いて泣いた 瑛太は言葉もなく……花を手向けた 京香も気丈に飛鳥井の女として花を手向けた   飛鳥井の家に来て何時も気に掛けてくれてた人だった 何時も何時も……優しく見守ってくれていた 京香は悲しみを堪え立っていた 榊原が源右衛門に花を手向けた 「……源右衛門……清香が待ってます…… やっと‥‥‥逢えますね 本当にお疲れ様でした……」 榊原は深々と頭を下げた 誰よりも理解者だった…… 男の伴侶など……認められないと想っていた だけど源右衛門は何も言わず受け入れてくれた 何時も優しく見守ってくれていた…… 榊原は……源右衛門の遺体に縋り付いて泣いた 「……翔達が小学生にあがるまで……いて欲しかった…」 早すぎる…… もう少し…… 誰もが抱いていた思いだった 康太は源右衛門の棺に花を手向け 「じぃちゃん……誠……見事な人生でした 飛鳥井家真贋として……オレは貴方を誇りに想います… だがな……じぃちゃん! 少し早いだろうが! オレの子が小学生になるまで……約束したじゃねぇかよ! 飛鳥井はオレが護る! だから安心してくれ‥‥」 康太は源右衛門に深々と頭を下げた 康太の嗚咽が……会場に響き渡った 榊原が康太を支えて……源右衛門の傍から引き離した お悔やみの言葉を……天羽司が友人代表として述べた 「源右衛門……御前とは一緒に飲み明かしたな 酒豪のお前とザルの私は友人から誘われない№1でしたね! 友人の財布を空にするまで飲み明かした日々が懐かしい 源右衛門……私の時間も……そんなに長くはない そしたら……向こうの世界で一緒に飲もう だから少し待ってて下さい 向こうには宗玄もいる……御前のお内裏もいる 飛鳥井源右衛門!お別れはいいません! また逢いましょう!」 天羽司の別れの言葉が終わると…… 飛鳥井家真贋の弔辞だった 「飛鳥井源右衛門はオレの育ての親でした 何時も厳しく大きな背中を見上げて過ごしました 祖父は大きな壁でした…… 何時か追い越してやろうと想っていました まだ……源右衛門を超えていないのに……… 源右衛門はまだ生きられる運命でした…… 過酷な改革の最中に……源右衛門は殺されました 刺されても……決して背は向けずに家族を守り通した……誠……見事な最後でした 飛鳥井源右衛門らしい最後でした だがオレは……まだ生きて欲しかった…… 往生させてやりたかった…… それだけが無念でなりません… 孫には甘い祖父でした 何時も幸せそうに孫を見守る祖父は……家族を愛して家を守り抜いて……逝きました 家族は予想もしなかった源右衛門の死を突然すぎて……受け入れられません 飛鳥井源右衛門が守り通した…家を家族を…… そして会社をオレは守って生きて行きます 決して屈する事なく改革を続ける事を…… じぃちゃんに誓います! じぃちゃん……お疲れ様でした 安らかに眠って下さい 喪主の言葉に変えてご挨拶とさせて戴きます 今日は本当にありがとうございました」 喪主の弔辞を述べて康太は深々と頭を下げた 源右衛門の棺が出棺される 旧友に 支えられて霊柩車に運ばれる 霊柩車に源右衛門の棺が運ばれると扉が閉まった ファーンとクラクションが鳴らされて霊柩車が走り出した 飛鳥井建設を通って、桜林学園を通って、斎場へと向かう 霊柩車には遺影を抱えて康太が乗り込んだ 榊原はバスに乗り込み、斎場へと向かう バスの中では瑛太が 「……康太は大丈夫ですか?」 と問い掛けた 「………気力だけで……立っている感じはします」 「そうですか……力哉は倒れてまだ混乱してるんですよね? 康太も……フラッシュバックしてもおかしくない……」 「康太は源右衛門を送るのは自分だと……何とか立っています」 「社葬は……父が喪主を務めます」 「そうして下さい…」 康太は今宵黄泉へと向かう…… 「……康太は黄泉へ逝くのでしょ?」 「……はい…」 「………ならば無理させたくないですから……」 瑛太の愛だった 過酷な環境を生きねばならない瑛太の想いだった 車は斎場に到着し、飛鳥井の家族や榊原の家族 そして参列者がバスから下りた 榊原は康太の傍へと向かった 「………伊織……」 榊原は康太を抱き締めた 源右衛門の遺体が荼毘に付される 御経をあげられ源右衛門の棺が火葬炉に入れられる 火葬炉の扉が閉められ……源右衛門の遺体は火葬された 家族は火葬場の外に出て、上がっていく煙を見ていた モクモクと白い煙が天へと上がっていく 康太は翔を抱き上げると 「バイバーイっお別れするんだ翔…」 と言った 翔は何も知らず……無邪気にバイバーイと手をふっていた 流生も音弥も太陽も大空も、バイバーイと手をふっていた 白い煙の彼方に…… ずーっと手をふっていた 康太は……上がっていく煙を見送り…… 泣いていた 榊原は康太を抱き締めた 「………伊織……じぃちゃんが……」 本当にいなくなる……のだと突き付けられた 心のどこかで…… 夢だと想いたかった…… 榊原は康太を強く抱き締めた 「…今宵……源右衛門を黄泉に送りましょう」 「………伊織……一緒に逝ってくれ…」 「……ええ……解ってます」 康太は榊原の胸に顔を埋めた なくす……想いは癒えない 人は……哀しみを乗り越えて…… その先に逝かねばならない 何時か……優しい思い出になるまで…… 心に秘めて…… 生きていこう じぃちゃん……お疲れ様でした…… 飛鳥井の家は……オレが導いて逝くから…… 『頼むぞ』 肩を叩かれた……気がした 康太は周りを見渡した…… 子供達は笑っててをふっていた…… 飛鳥井源右衛門 飛鳥井家真贋として生きて来た生涯に幕を閉じた 葬儀告別式を終え、康太と伊織は一足先に飛鳥井の家に帰った 康太は源右衛門の部屋に入って行った 榊原が康太をそっと抱き締めた 「………黄泉に……送って行きますか?」 「おう!待たせたな!じぃちゃん……逝こうぜ…」 康太は……見えない空間に手を差し出した 「伊織、黄泉に繋げる……」 「ええ……」 康太は呪文を唱えると、空間が歪んだ グニャッと歪んだ空間の向こうに出ると…… そこは暗い……何も見えない世界だった 「………まさか……じぃちゃんと……黄泉に逝く道を通ろうとは……」 康太が呟くと…… 源右衛門の笑い声が響いた 『わしもお前に送られるとはな想ってもおらなんだわ』 飛鳥井源右衛門の姿が在った 「………じぃちゃん……ありがとう…」 『わしは家族を守りたかった…… その想いしかなかった……』 「……じぃちゃん……また早いだろうが……」 『……それでもな……わしは家族を護れて良かったと想う……』 「……じぃちゃん……」 『後は頼んだぞ康太…』 「じぃちゃん、次の転生は記憶を……消さずにおいてやんよ…… そんなに遠くない将来……じぃちゃんは飛鳥井の真贋として生まれ変わる…… それが飛鳥井家真贋としての最期の転生になる…」 『悔いのない人生を送った 康太、お前も悔いのない人生をな』 「………じぃちゃん……」 黄泉へと続く長い道程を歩いて逝った 天神の泉に到着すると、源右衛門の妻 清香が待っていた 『永らくのお務めご苦労様でした!』 清香は深々と頭を下げた 『清香……』 源右衛門は妻を抱き締めた 「清香、源右衛門を連れて来たぜ…… 予定より少し早くなかったけどな…… 飛鳥井源右衛門は愛されて惜しまれ… 逝った……」 清香は康太に深々と頭を下げた 『康太……本当にありがとう…』 「じぃちゃんとばぁちゃんは転生する為に眠りに入る 魂が転生する瞬間まで眠り……転生する オレは来世の転生はない…… これで……貴方達に逢うのも……最期です」 康太も深々と頭を下げた 『……精一杯生きられる事を……願っております』 源右衛門は康太を抱き締め……そう言った 「……じぃちゃん……」 『お前がいてくれてたから…… わしは悔いなく逝ける… 明日の飛鳥井を託すのは……飛鳥井康太…… お前にだ…… 頼むぞ康太……』 「………じぃちゃん……解ってる……」 『伊織……康太を頼んだぞ』 源右衛門は榊原にも声をかけた 榊原は源右衛門の手を取って…… 「この命に変えても……康太は守ります」 『思い残す事は何もない! 口にすれば……未練は多々とある…… わしは……何時だって……御前の子の幸せを願っておる』 「……じぃちゃん……」 水神が源右衛門の傍に寄って来た 「別れは済んだか?」 『嗚呼…別れは終わった』 「これより、飛鳥井源右衛門の魂は転生の準備に入る 飛鳥井清香、お前も共に転生の準備に入れ」 『はい!』 清香は嬉しそうに返事をした 源右衛門と清香は手を繋いで…… 水神の前へと進んだ 『呼ばれる日まで眠れ』 水神が呪文を唱えると……… 源右衛門と清香は姿を消した 水神の手には綺麗な水晶体が二つ輝いていた 水神はその水晶体を天へと放り投げた 「飛鳥井源右衛門、清香は転生の準備に入った」 「……水神、ありがとう」 「炎帝……大丈夫か?」 「………オレはあの人に育てられたんだ…… 人としての哀しみや……想いは……誰よりも深い オレは……源右衛門を往生させてやりたかった…」 「………後3年生きながらえた命を…… 総て賭けて……その命の灯を……消した 天晴れな最期………だと……我は想う」 「水神……」 「二人は転生の準備に入られた…… 閻魔に顔を見せて……帰られよ」 康太は首をふった 「……もう帰る……」 康太は泣きながら……そう言った 「おいおい!薄情な事を言ってやるなよ」 と、声がして振り向くと黒龍が立っていた 「………黒龍……」 「閻魔の邸宅には父も母も来ている 少しだけ顔を出してやってくれ…」 「今は逢いたい気分じゃねぇ…」 「………炎帝………?」 黒龍は困った顔をした 榊原は康太の頬に手を当てた 「康太……少しだけでも顔を見せに行きませんか?」 康太は首をふって……グラッと倒れた 榊原が康太を抱き止めた 「康太!大丈夫ですか?」 「………大丈夫だ……済まなかった…」 「少し……休んで行きましょう…」 「………ん……」 康太が頷くと榊原は 「兄さん、龍になって僕達を閻魔の邸宅まで乗せて行って下さい」 「………そう来たか…」 「僕が龍になって乗せてる最中に堕ちたらどうするんですか!」 黒龍は諦めて、龍へと姿を変えた 榊原は康太と共に黒龍の頭に乗った 「大丈夫ですか?康太…」 「大丈夫だ伊織」 「しっかり掴まってて下さいね」 「ん……伊織……愛してる…」 「僕も愛してます…奥さん」 甘い言葉が飛び交う中、黒龍はやってられるか……と想い閻魔の邸宅目がけて、飛んでいた 水神の湖から閻魔の邸宅は然程離れてはいないから あっという間に閻魔の邸宅の庭に、榊原と康太を下ろした 黒龍は姿を変えてボヤいた 「………俺の頭の上で……愛の語らいかよ?」 榊原は笑って 「愛が溢れているのです……」と言葉にした 閻魔が出迎えに出て来た 金龍、銀龍も共に出迎えに出て来ていた 閻魔は青白い炎帝の顔に……青龍に 「……どうしたんですか?」と尋ねた 「………祖父を亡くされてからの康太は気の休まる日はなかった……ので……」 閻魔は炎帝の気持ちが痛い程に解った 閻魔の邸宅の応接間に当たる部屋に通されると康太は榊原の膝の上に丸くなって眠りに着いた 銀龍は「………炎ちゃんなの?」と問い掛けた 「ええ……炎帝です」 「人の世の炎ちゃんは……こんなに小さいのね…」 銀龍は今更乍らに……口にした 金龍は「立っていれば存在感は半端ない……何処の誰よりも大きく見える……」と呟いた どれ程の精神力で自分を奮い立たせて大きく見せてるのか…… 閻魔は「………少し炎帝を休ませてあげて下さい」と青龍に頼んだ 「そんなに長居は出来ませんが……」 金龍は青龍を見ていた 少し窶れた? そんな息子の心労を感じていた 「青龍、龍の涙だ……お前にやっと渡せるな」 金龍は青龍に小瓶を渡した 「父さん…」 「願って飲ませなさい」 「……はい。ありがとうございます」 青龍は小瓶を受け取った 少し休むと炎帝は目を醒ました ムクッと起きて青龍の膝に向かえ合わせに乗って 青龍の胸に顔を埋めた 青龍は炎帝の背中を優しく撫でた 「炎帝、父から龍の涙を戴きました」 「……龍の涙?……」 炎帝は首を傾げた 金龍が「炎ちゃん、龍の涙とは、願って飲ませれば願が叶う……と言う伝説の涙です 龍は本来泣く事がないので……集めるのに時間が要しました…」と苦悩を明かした 「金龍…心配掛けたな…」 「いいえ!炎ちゃんが少しでも生き長らえてくれる事だけが我が息子の願いなのです 今世は……一分一秒でも長く生きて下さい…」 「金龍……近いうちに次代の赤龍に逢わせたい… オレは龍の事は解らねぇ……金龍……流生を見てくれねぇか? 流生は女神と龍の血が濃く出て閻魔に封印させた だが……その封印も……完全じゃねぇかも知れねぇ…流生の力を見極めて欲しい……」 「……赤龍の子に……逢っても良いのですか?」 「………人の子でいる間はオレの子だ…… 赤龍は父とは名乗れねぇ……それを頭に入れといてくれるなら……」 「………解っております 不用意な事など言うつもりは御座いません」 「……虹龍に匹敵する力を秘めてる…… オレの青龍の方が強いけどな……劣らず強いと想う」 サラッと惚気られて……金龍は苦笑した 「炎ちゃん……惚気てますか?」 「………バレたか……でもな本当にオレは青龍以上に美しい龍は見たことないんだ」 青龍は嬉しそうに炎帝を抱き締めた 「僕だけ見てれば良いです 僕だけ見てて下さいね」 「お前しかオレは要らねぇよ」 青龍は炎帝に口吻た 黒龍は「………相変わらず甘い……人の世に落ちて10000年は経つであろうに……新婚は変わらぬな」とボヤいた 「未来永劫、オレらは新婚だせ!」 炎帝はそう言いニカッと笑った 黒龍は肩を竦めた 金龍は爆笑した 青龍はうっとりとして 「炎帝!龍の涙を願って飲んで下さいね」 と言った 「……願って?」 「長生き出来ます様に!と願って下さいね! じじぃの康太でも僕は愛する事が出来ます ヨボヨボでも僕の愛は怯みません!」 「………伊織……ヨボヨボで犯るのか? ……流石にオレはそれは遠慮してぇな……」 「大丈夫です!それでも僕の愛は怯みません!」 「伊織……オレもお前がヨボヨボでも……股は開けるぜ どんなお前でもオレは愛せる!」 「なら、ちゃんと願って飲んで下さいね!」 炎帝は小瓶を手にすると『長生きさせて下さい』と願って飲み干した 青龍はニコッと笑って炎帝を抱き締めた 炎帝は兄 閻魔を見て 「兄者、流生が魔界に来る時に隼人も連れて来る」 「………九曜の星の子か?」 「そう……定めは覆らないみたいだ…… オレと共に還りたいと……言われた 何も知らないのにな……ビックリした」 「定めは……幾ら足掻いても……変えられはせぬ 九曜星のモノならば……9つ……全部揃うのか?」 「…………みてぇだな…… オレが還る魔界は……絶対のモノになるべく存在が顕れる 虹龍もその一つ……九曜星もその一つ……」 「……なれば定めを受け入れるしかあるまいて……」 「………兄者……それでも逆らうのがオレじゃねぇかよ!」 炎帝は嗤った 「………絶対の魔界を築いて…… オレは冥府に還る……」 「それは無理でしょ?」 閻魔はそう言い笑った 「炎帝、腹拵えはしないんですか?」 「する!何か食って還らねぇと……倒れる」 「どちらで食べますか?」 「食堂に行く その前に銀龍、懐妊おめでとう」 「………え??炎ちゃん……」 銀龍は首を傾げて……金龍を見た 「腹に天龍が入ってる」 炎帝が言うと金龍は「本当か?」と問い掛けた 「本当だ、もう少ししたら自覚があるだろ? 体躯を大切にな銀龍」 銀龍は頬を染めた まさか……この年で妊娠だなんて…… あの……ぬれぬれのヌルヌルの時の子だと言われた様なものだった 金龍は嬉しそうに笑っていた 銀龍は頬を染めて……それでも嬉しそうだった 黒龍は「………んとに……やってられねぇ…」とボヤいた 「黒龍、そうボヤくな…」 炎帝は青龍の膝から下りると、黒龍を抱き締めた 「………炎帝……俺も結婚したいかも…」 「しろよ!誰かいい人いねぇのかよ?」 「…………最近は探すのも億劫だわ… 俺は最近は子供が還らねぇからな崑崙山に行って息子達に逢っているんだよ」 「…へぇ…どうよ?親子仲良くなりそうか?」 「俺の子だなぁ……と想う時が多々とある そんな発見が嬉しくてな……嫁より子供に逢いに行ってる」 「オレはおめぇの幸せを誰よりも願ってる 幸せに……誰よりも幸せになれ黒龍」 「炎帝……俺はそれなりに幸せだ お前が還って来て、赤龍や朱雀が還って来る そんな日々を楽しみに待っている」 「人の世は高々80も届かない…… オレの寿命は……更に短い…… そんなに待たせる事なく逢えると想うぜ」 「……… 待ってもいいからな…… 長生きしろよ! 弟を悲しませたくないからな……長生きしてくれ」 「あんだよ?それは…」 炎帝は笑った 立ち上がると食堂に行き、食事を始めた ガツガツ食べる炎帝の横で、静かに食べる青龍がいた 「兄者、近いうちに……魔界を訪れる その時に金龍を呼んでおいてくれ」 「解った!他は?ないのか?」 「その時、隼人も来るけど、隼人には構わなくて良い 兄者……頼み事ばかりで悪いな……」 「構わぬ!お前のいない魔界は静かすぎるからな お前の顔が見れてラッキーだと想っておる」 閻魔はそう言い笑った 「青龍、炎帝の部屋をリフォーム致しました 二人で寝ても大丈夫なベッドを入れて 龍になっても大丈夫な様にリビングの天井を高くしました」 ニコやかに言われて青龍は…… どんなリアクションを取って良いのか悩んだ 「………閻魔……ありがとうございます」 「新婚生活を送られる様に準備万端です 盛大な結婚式の準備も着々と進んでおります」 「結婚式……僕と炎帝の結婚式……」 青龍はうっとりと言った 「炎帝は姫のドレスを母上が用意しております 我が家の姫として嫁に出します」 ひ……炎帝は言葉を失った 「姫のドレス……それを着た炎帝が見たいです」 「喜んで戴けて良かった」 青龍と閻魔で盛り上がる…… 炎帝は黙々と食事をしていた 食事を終えると炎帝は立ち上がった 「兄者、黒龍、金龍、銀龍……暫しのお別れだ」 金龍と銀龍は深々と頭を下げた 閻魔は「庭に出なさい」と炎帝と言った 「兄が飛鳥井の家と繋いでしんぜよう!」 「……兄者……助かる」 炎帝と青龍は手を繋いで庭へと出て行った 閻魔が呪文を唱えて…時空を歪ませると……見慣れた部屋が見えて来た 「閉じる前に行きなさい」 閻魔は時空を開いて飛鳥井の康太達の寝室と繋げていた 康太と榊原は時空を潜った すると目の前の空間がグニャッと歪んで閉じた 閉じる瞬間、黒龍の声が「またな!」と聞こえた 康太は息を吐くと……ソファーに座った 「康太、大丈夫ですか?」 「おう……大丈夫だ」 「魔界で倒れそうになったでしょ?」 「……少し休めば大丈夫だ…」 「無理はさせたくないんです……」 「………伊織……じぃちゃんの部屋……片づけねぇとな」 「………まだ良いでしょう……」 「………じぃちゃんは……解っていたみてぇだからな…… 遺書……在ると想うんだ……」 「………遺書……ですか?」 「星が視えてたと想う……でなきゃ…… 何時も誰が来たって玄関を開けに行かねぇ…… じぃちゃんが玄関を開けにいく筈がねぇ…… 星が指し示す先を……じぃちゃんは視たんだと想う」 言われてみれば…… 源右衛門が玄関まで行くと言う事は滅多とない 「…………少しずつ整頓して遺書を見つけねぇとな… 母ちゃんが壊れちまうんだ……」 目の当たりにした玲香は自分を責めて…… 苦しんでいる 「……解りました……僕も手伝います だから……無理だけはしないで……」 康太は榊原の首に腕を回した 「無理はしねぇ……約束する」 榊原は康太の唇に口吻た リビングのドアをノックして慎一が入って来た 「康太、還ってましたか……」 「慎一、皆は?」 「瑛兄さんと清隆さんは社葬の準備に行ってます 社葬は調整を付けて会社をあげて盛大にやるそうです ですので現真贋の貴方には必ず出て戴かない始まらないので、体調を整えて欲しいと瑛兄さんに頼まれました 病院の予約を取ってあります 玲香さんと共に受診しましょう」 「慎一、母ちゃんは?」 「………倒れました 夜も寝ずに自分を責めてたら……倒れて当たり前ですよね?」 「慎一 じぃちゃんの部屋を片づけようと想うんだ………手伝ってくれ…」 「………もう……片づけるのですか?」 「今、伊織にも話していた じぃちゃんは星詠みだ じぃちゃんは視えていたんだよ…… 星が指し示す……自分の星の終わりを…… だから遺書があると想う…… それを母ちゃんに見せねぇと本当に母ちゃんは壊れちまう……」 慎一は納得した 「では貴方を病院に連れて行ってから整頓します 貴方は寝てて下さい……無理されたくないんです」 「………解った」 「お腹減ってませんか?」 「………大丈夫だ……今何時よ?」 「今は葬儀の翌日の午前9時50分です」 「………案外早く帰れたな……」 康太は榊原を見た 「………そうですね…あの方やりましたね…」 魔界の時間の流れと、人の世の時間の流れは違う 誤差なく還すには相当の力を要す その力を削り……寿命を削る事となる 「………伊織……」 「あの方の愛です……」 康太は頷いた そして顔を覆った 「伊織……疲れた……病院に行って眠りたい」 「解りました 病院に行きますか?」 「……ん……母ちゃんを連れて行くしかねぇよな?」 康太が呟くと……慎一は 「………力哉がまだ……入院してます」 「力哉……酷いのか?」 「現実と過去とが入り交じって…一生が付き添ってます」 「………一生でダメなら……一度会うしかねぇか……」 「今は……玲香さんも……大変ですし…… 貴方も……本調子でない…… 一生に頑張らせるしかないと想います」 慎一は現実を……述べた あれもこれも…担うには荷物は大きすぎるから…… 「だな……オレも疲れた…… 眠りてぇ……」 「……久遠先生にお暇になったら往診をお願いしますので……寝てますか? 往診は夕方になると想います」 「……ん……眠りてぇかんな、そうする」 眠らずに魔界に行って、還って来て……魔界との時差に……体躯は重かった 榊原は康太を抱き上げると 「では夕方まで眠ります」と言い寝室に向かった 慎一は「お休みなさい」と言いリビングを出て行った 康太と榊原は……服を脱ぎ捨てるとベッドに潜り込んだ 互いのぬくもりを確認するかの様に……抱き合い眠りに落ちた 心安まる日はなかった 悲しみに暮れ 背負う重さに……押し潰されそうな重圧感に…… 気は休まらなかった 源右衛門を黄泉へと送る…… その為だけに気張っていた その心が…… 崩れ落ちる 伊織…… 伊織…… オレを掴んでていてくれ…… でねぇと崩れそうなんだ……

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