55 / 100

第55話 苦悩

康太と榊原は子供達を託児所へ送って行った 託児所の保母に子供達を預けると保母は笑顔で子供達を中へと連れて行った 「……オムツって幾つで取れねぇと駄目とかあるのか聞きてぇんだが……」 康太は保母に問い掛けた 保母は笑顔で康太と榊原の悩みを聞いてくれた 「個人差はありますからね小学校入学前まで取れれば良いと思います」 「うちの子達は遅いって訳じゃねぇかな?」 「翔達は2歳半ですからね 取れなくても遅いと言う訳ではないと想いますよ 無理強いしてトラウマになる子もいますから強要はダメですよ プレッシャーになるような押し付けもダメです トレーニングして行くしかないですね」 保母が言うと榊原が 「そのトレーニングが……解らないんです… 僕達は子育ては初めてなので……何も解りません」 「帰るまでにオムツを外すトレーニングになるような資料をお渡しします 私達も協力はしますが……目が届かない場合もありますから……ご両親がやって下さるのが一番ですからね」 「うちの子は好き嫌いも多いんですが……」 「翔君達は偉いですよ 出された給食は総て食べてますからね 食べる努力をしています! これも様子を見て行きましょう!」 保母に心強い言葉を貰い、康太も榊原も胸を撫で下ろした 子供達を託児所に預けて病院へと向かう 玲香と北斗は慎一が病院へ乗せて行っている 子供達が車に乗ると定員オーバーなのだから… 「康太…僕もベンツじゃなくヴェルファイアに乗りましょうかね?」 「子供も大きくなるかんな…… でもオレは伊織はベンツに乗ってて欲しいな… 伊織の横で丸くなれる車が良い…… オレの我が儘なんだけどな……」 「康太……全然我が儘なんかじゃないです」 榊原は康太を引き寄せた 「子供達が大きくなったら、もう一台買えば良いのです それ位は稼いでみせます!」 「……伊織…」 「愛してます!奥さん」 「オレも愛してる伊織」 甘い言葉に染まりつつ……車は主治医の病院へと向かった 病院の駐車場には慎一の車が停まっていた 榊原はその横に車を停めた そして康太と共に病院へと向かう 待合室に行くと、慎一が康太の受け付けも済ませておいたと告げた 「お義母さんは入院になるかも知れませんね 今、検査に行ってますが……衰弱が激しいそうです 北斗も今、検査に行ってます」 「母ちゃんは入院させて体調を整えねぇとな…」 康太は呟いた ここ最近の玲香を見ていれば……衰弱が激しいのも解る 食事はしない 自分を責めて……無理して仕事をして気を紛らわせている 限界など、とうに超えて……自分を責めているのだ 待合室で待ってると「飛鳥井康太さん」と名を呼ばれた 康太は榊原と共に診察室に入って行った 久遠は康太の脈を取り、体重計に乗せた 「痩せたな」 久遠は体重計を見てそう言った 「…………少し……」 「最近ちゃんと食わせてるのか?」 久遠は榊原に問い掛けた 「……食べてますが…量は減ってます」 「嘔吐は?」 「それはないです でも、下剤飲まないと出なくて…… お腹痛いと蹲っています」 「内臓の働きが少し悪いと便秘になる…… 食事メニューを渡すから、当分はそれを食わせてくれ」 「解りました」 「吐血は避けてぇからな…」 「はい。」 「それと、北斗な、夏休み前にはオペに踏み切ろう このままじゃ歩けなくなる日も近い 骨が体躯の成長について行ってねぇ…… 薬で少しは強化出来て来られてもな……厳しい 骨を補強して普通の生活位は出来るように……」 「本当にありがとうございます……」 榊原は久遠に深々と頭を下げた 「総合病院から応援が来る そしたらオペ日を決めて入院して貰う」 「解りました どうか宜しくお願いします」 「隣の部屋で点滴をして帰ってくれ」 「解りました 康太、行きますよ」 康太は儚げな顔をして榊原を見上げた まるで……子供の様な顔で……久遠は胸が痛んだ 榊原に手を引かれて処置室へと向かう 処置室で点滴をして貰う康太の頭を、榊原はずっと撫でていた 慎一が顔を出すと、榊原は 「北斗はオペになります」と慎一に告げた 「………可哀想ですが……仕方ありませんね 北斗は……歩けば激痛で……我慢して歩いてます 学校でも皆と同じようにやりたくて我慢しているのです……何度も倒れたと連絡が入ってて…… 一生はその度に学校へ行って……一生も限界です 北斗を貰い受けましょうか?」 「慎一、北斗は一生の子供として生きて行くが定め その定めは覆らない……一生が親でないなら…… 北斗は牧場は継げねぇ……」 「………一生は許容範囲超えてます……」 慎一は一生の現状を訴えた 「解ってんよ! だからオレが来たんだろうが! 慎一、オレは点滴が終わったら力哉に逢う」 「………力哉に……喜びます 安西力哉をこの世に引き留めるは…… 飛鳥井康太、唯一人……一生だって叶いませんよ」 「………オレは一生の愛で……力哉を生かせてやって欲しいと想っていた…… 二人は離れられないんだろ? なら一生が頑張るしかねぇだろう…と見てたんだがな 無理そうだからな……来たんだよ」 「……一生は倒れそうですよ 馬鹿ですからね……一人で抱えようと躍起になってる 北斗の事も、力哉の事も……」 「一人じゃねぇって解らせてやらねぇとな」 康太はそう言い笑った 子供みたいな笑みに……慎一は堪えきれずに泣いた 榊原は康太の横の席に慎一を座らせた 「あに泣いてんだよ?」 康太はそう言い慎一の頭を撫でた 「……貴方のそんな顔…最近見てませんでした」 「オレ等は……それでも生きて逝かねぇとならねぇかんな……泣いてばかりじゃ先に進めねぇ」 慎一は「はい!」と言い何度も頷いた 「風は悪い方には吹いてねぇ この流れに乗って進ませねぇと……逝けなくなる」 「解りました!」 慎一は気合いを入れた この人がいてくれる限り…… 俺は生きて逝ける この人と共に生きていたいと願う 願わくば……ずっと共に在りたいと…… 心が願う 貴方と共に…… 俺の主は未来永劫、貴方だけだ 点滴が終わると康太は力哉の所へと行った コンコンとノックすると、一生がドアを開けた 一生は唖然として…… 動けなかった 康太は一生を押し退けて病室へ入った そして力哉のベッドの横へと座って足を組んだ 「力哉、寝て過ごす時間なんてねぇって解ってるか?」 康太はそう言いニカッと笑った 力哉は康太を唖然として見ていた 「………康太……」 力哉は手を伸ばした 康太に触れると……暖かな体温が伝わって…… 本物の康太だと解った 「オレは歩みを止められねぇ! オレが動いてるのに秘書のおめぇが寝ててどうするのさ? おめぇはオレの秘書じゃねぇのかよ?」 康太の姿は……絶対的な強さが在った 康太だって無傷な訳じゃない 力哉と共に……   いいや……目的は康太だったのだ 康太の方が……酷く扱われた 体躯を切り刻まれて……今だって傷跡は生々しい フラッシュバックだって在ると言う だけど康太は立ち止まってはいなかった 力哉は泣きながら 「……ごめん……康太……」 と謝った 康太はベッドに腰掛けると力哉を抱き締めた 「おめぇにはオレがいる」 強く………力哉を抱き締めて……… 康太は力哉を離した 力哉の瞳から……涙が止め処なく溢れて流れていた 「………康太……僕は飛鳥井康太の秘書でいたい!」 力哉は言葉を振り絞った 「ならオレの秘書でいろよ!」 「康太……ごめん……怖くて……パニックになっていた」 「それでもな、オレ等はて先へと逝かねぇとならねぇんだ! 立ち止まれる時間なんてねぇんだ……」 力哉は何度も何度も頷いた 「………康太……現実と……過去と……… 過去の恐怖にばかり囚われていた……」 「オレも……怖いぜ力哉…… オレも総て忘れた訳じゃねぇ…… オレは伊織以外に犯られたら死んでいた…… 実際……色んな男の精液にまみれた自分は… もう伊織に愛されちゃいけねぇんだ……と想っていた それでも! 伊織はオレを愛してくれてた……… そんな伊織の側にいる…… それがオレの愛だと想ってる…… だが……あの日……凌辱された……想いは悪夢になって…いまだに出る時がある…… オレはそのたびに……死にたい気持ちになる…… オレは伊織しか要らねぇ……なのに……… それでも生きてるのは伊織の愛だ…… 力哉、おめぇには一生がいるんじゃねぇのかよ! なら、もう後ろは向くな…良いな?」 力哉は康太に抱き着いて泣いた 「……ごめん康太……… 辛い事を言わせた…」 「おめぇは大切なオレの秘書だかんな 戻って来てくれねぇと困るんだよ!」 「戻るよ……僕は飛鳥井康太の秘書だから!」 力哉はその言葉を胸に刻んだ 辛くても逃げ道は用意しない飛鳥井康太の秘書なのだ 何を楽な道を探して苦しんでいたんだろ? この道を逝くと決めたのに… 康太と共に在ろうと……決めたのに 「……康太、今すぐ退院して秘書に戻るよ!」 力哉が言うと康太は笑った 「なら今日は退院して、一生と過ごせ 心配かけた恋人にサービスしとけよ!」 「……康太……」 康太は力哉の指輪の上に……指輪をはめた 「………え?……」 「苦しくなったら、指輪を触ってろ おめぇの恋人の愛と、主の愛だ」 「康太……」 「おめぇの主は飛鳥井康太 それ以外のモノになどならねぇ証だ」 「……ありがとう……康太…」 「所詮モノしかねぇどけな そのモノが勇気をくれる時もある」 康太は力哉の指輪を指でなぞった 「………康太……」 「何も言わなくて良い」 康太の胸で力哉は泣いていた 力哉はそうして再生される 何度でも………何度でも……… 主によって再生される…… 他の誰かじゃダメなのだ 一生はそんな力哉を見て泣いていた 「ならな、力哉…… 母ちゃんの入院の準備があるから、オレは行くな」 「………お義母さん……入院されるのですか?」 「………自分を責めて……飯も食わねぇからな… 後、北斗の調整もしねぇとならねぇからな…」 「北斗……調子悪いの?」 「オペに踏み切る」 「………オペ……」 「そしたら少しは良くなる 少しだけ歩くのが苦痛でならなくなる……… 北斗をこの世に生かしてるのはオレだかんな…」 「……僕がやります! 北斗の入院の調整も、義母さんの入院の準備も僕がやります!」 「おめぇは少し休め」 「康太……」 「そしたら休む暇なく働いて貰うかんな」 力哉は何度も頷いた 一生は康太に「体調はどうなんだよ?」と問い掛けた 「一生、人の心配してる暇に力哉の退院の手続きして来いよ!」 康太はそう言い背を向けた そして片手をあげて……病室を出て行った 一生は後を追ったが…… もう康太の姿は何処にもなかった 一生は力哉の退院の手続きの為に久遠に逢いに行った 久遠の所には慎一がいた 「消化の良いのを食わせろ! でねぇとまた吐血……なんだよ?一生?」 久遠は一生の姿に説明を辞めた そして慎一に書類を渡した 「………康太……具合悪いのか?」 一生は久遠に食ってかかった 慎一は「康太の事は伊織がする」と言い捨てた 久遠は一生に 「食生活の事は慎一がやる! おめぇのすべき事は他にあるんだろ?」 と釘を刺した 一生はグッと堪え吐き捨てた 「…………俺にとって……飛鳥井康太が第1優先だ!」 「康太はそんな事望んでません」 慎一は一蹴した 「それより用があったんじゃないんですか?」 慎一が一生に問い掛けた 「………力哉、退院させて良いかな…」 「混乱さえなくなれば退院して構わねぇ 康太が逢いにいったんだろ? なら退院して構わねぇぞ! 精算して帰って構わねぇ!事務方に言っておく」 一生は退院手続きをしに行った 精算して力哉と共に飛鳥井の家に還っていった 康太と榊原は玲香の病室にいた 「母ちゃん、体力が戻るまで病院にいろよ」 玲香は康太の方が辛いのに……… 情けない……と涙した フラッシュバックしない訳がないのだ 力哉は混乱して……現実と過去とが解らずに入院した 康太は源右衛門の遺体を抱き締めて……血だらけになりながらも…… 源右衛門を寝かせて、瞳を閉じさせていた 源右衛門を送る為に喪主になり葬儀をあげて 黄泉まで源右衛門を送っていった 現 飛鳥井家 真贋として立派に役目を果たしていた 「………康太………すまない……」 「母ちゃん、源右衛門は転生する その命は終わらねぇ 死は終わりじゃねぇんだよ母ちゃん 源右衛門は星を詠んでいた 自分の最期を……星は告げていた それを受け入れたのは源右衛門だ だから悔やむな………母ちゃん」 「………解っておるがな……… 何も出来なかったのじゃ……」 「あの日……母ちゃんが玄関に出たら…… 今頃は流生達は生きていなかった…… 源右衛門が守ったんだよ! 母ちゃんは源右衛門に守られた命を……じぃちゃんに報いる為に生きねぇとな」 「…………そうであったな……」 「母ちゃん、翔がいる 流生も音弥も太陽も大空もいる…… アイツ等にとって、ばぁちゃは母ちゃんしかいねぇじゃねぇかよ!」 「………そうであったな…… すまない康太……我はまだ休んでいる暇などなかった……」 「音弥がばぁちゃは?と探してる でも病院には子供は連れて来られねぇ…… 早く退院して抱き締めてやってくれ!」 「………解っておる……我はあの子達をこの手で抱き締めて離したりはせぬ……」 康太は玲香を抱き締めた 「母ちゃん大好きだ 弱い母ちゃんも良いけど…… 飛鳥井玲香は強くねぇとな」 「でなくば、うちの男どもは好き放題するからのぉ! 「そうそう!父ちゃんや瑛兄は旧友と飲んだくれて帰ってばかりだぜ! 母ちゃんが見てねぇと二日酔いで仕事もしやがらねぇかんな!」 「そうなのか! 早く治して見張ってねばならぬな!」 玲香は笑った 本当に楽しそうな笑みだった 「母ちゃん、後で父ちゃんが来る 真矢さんも来てくれるかんな! 母ちゃんは一人じゃねぇ!」 「解っておる 真矢は身重の身……無理などさせられはせぬ」 「なら母ちゃんが元気にならねぇとな」 「解っておる! もぉ退院して帰りたくなったわ」 「それは久遠が許さねぇよ 久遠を納得させるのは至難技だぜ!」 「………義恭よりも……手強いではないか…」 康太は笑った 「母ちゃん、久遠の許可が出るまで良い子にして治せ!良いな!」 「解っておる…手間をかけたのぉ康太、伊織…」 榊原は玲香を抱き締めた 「義母さん、手間だなんて想っていません 義母さんがいてくれないと……僕達だけじゃ子育てに悩んで……どうして良いか解りません…」 「帰りたいのぉ……孫に逢いたい…」 「すぐに逢えます ですから少しだけ休んで下さい」 「ありがとう伊織…」 康太と榊原は玲香を抱き締めた 「母ちゃん……北斗はオペになる……」 「………まだ…… あんなに小さいのに……」 「歩けば激痛だかんな……少しは緩和されるならオペに踏み切るしかねぇ……」 「………ならば……我が支えようぞ……」 「頼むな母ちゃん」 「解っておる……我は飛鳥井の女…… 陰で……支えるためにおるのだ」 玲香は康太を強く抱き締めた 玲香の瞳はもう空虚な色をしていなかった 精気に満ち溢れて、先を見ている瞳をしていた 康太と榊原はその瞳を見て……安心した 玲香の病室に真矢と明日菜が尋ねて来てくれた どっちも妊娠中で……無理などさせられない…… と想っていると少し遅れて清四郎と笙がやって来た 病室をノックしてドアを開けたのが榊原だったから、清四郎は我が息子を抱き締めた 「………伊織……」 「父さんどうしたのですか?」 「少し窶れた君を見ていて……堪らない気持ちになっていました……」 葬儀の時……倒れそうな息子の姿に……清四郎は側に行って抱き締めてあげたくて……堪らなかった 「父さん、義母さんを見舞いに来たのでしょ?」 「君の顔を見たら……抱き締めたくなったのです」 榊原は嬉しそうに笑った 病室の中へ榊原が案内すると康太が玲香の横にいた 清四郎は康太を抱き締めた 「……康太……体調は?」 「大丈夫だ清四郎さん」 康太も榊原同様……倒れそうな顔をしていた それを見ているしか出来なくて……清四郎は哀しかった 「清四郎さん、母ちゃんのお見舞いに来て下さって本当にありがとうございます」 「康太……」 清四郎は康太を離して、玲香の傍へと行った 康太と榊原は立ち上がった 「母ちゃん、会社に顔を出さねぇとならねぇから逝くとするわ!」 「行くのかえ?」 「おう!休んでる暇なんてねぇかんな!」 「気をつけてな」 「おう!母ちゃんはゆっくり休め!」 康太はそう言いニカッと笑った 「伊織、逝くかんな!」 「ええ。解りました 義母さん、また来ます」 康太と榊原は病室を後にした 病室を出ると京香と出くわした 「康太、会社に行くのか?」 京香は問い掛けた 京香は玲香の入院に必要な荷物を両手に持っていた 「京香……瑛智は?」 「託児所に預けてある」 「朝一緒に連れて行けば良かったな…」 「構わぬ……おんな重いの持つのは大変だ」 「………瑛智……育ちすぎだろ? ひょっとして翔よりもデカいか?」 「翔もデカいが……瑛智はその上を行っておるな…」 「……あんまり大変ならヘルパーを頼むとかしねぇと、京香に倒れられると本当に困る……」 「大丈夫だ! 最近はベビーカーを車に積んでおる 車から下ろしたらベビーカーに乗せる」 「無理するなよ……良いな」 「解っておる!康太も伊織も無理するでないぞ!」 京香は荷物を床に下ろすと、康太を抱き締めた そして榊原も抱き締めて…… 「伊織は少し痩せた……瑛太も気にしていた…」 「大丈夫ですよ京香」 「義母様の事は心配せずとも良い」 「頼むな京香」康太は京香に言った 榊原も「頼みますね、今、榊原の家族が来てます」と伝えた 「明日菜も?」 「ええ。明日菜もいました」 「明日菜がいるなら美智留を予防接種させとかないとな」 「京香は本当に良いお母さんだな」 「……?我より康太の方が良いお母さんだと我は思うぞ」 「……それ嬉しいかも……」 康太は榊原を見上げた 榊原はそっと康太を抱き寄せた 「君は良いお母さんだと、何時も言ってるでしょ?」 康太はニコッと笑って 「京香、母ちゃんを頼むな」 と頼んで病院を後にした 駐車場に行き、車に乗り込もうとすると、背後から抱き付かれた 「あんだよ?一生……」 「駐車場に出たら車があったからな待ってたんだよ」 「力哉を連れて帰ってやれよ」 「帰るさ……でもその前に……お前不足だ!」 一生は康太を強く抱き締めた 榊原は一生に 「ファミレス、久しぶりに行きますか?」 と尋ねた 一生は康太を離すと、携帯を取り出した 「聡一郎、お前、何処にいるよ?」 『僕?僕は飛鳥井の家にまだいますが?』 「隼人は?」 『横にいます……隼人が泣いているんです』 「今から行くから玄関に出て待ってろよ」 『………解りました』 聡一郎は電話を切った 「………康太、隼人が泣いてるって……」 「………菜々子を亡くした想いが……蘇ってるんだよ 神野が仕事にならねぇ……ってボヤいてた」 「……そうか……」 一生が……悲しそうに返事をすると、榊原は運転席に乗り込んだ 「一生、飛鳥井に迎えに行きます 君達はファミレスで待ってて下さい」 康太は助手席のドアを開けて乗り込んだ 「一生、ファミレスで待ってろよ!」 ニカッと笑われ……一生は頷いていた 榊原は飛鳥井の家に向かって車を走らせた 「………隼人……大丈夫ですかね?」 「哀しみに囚われたままじゃ……何処へも逝けねぇよ……それが解らねぇとな……」 「………亡くすのは………後を追いたい程に苦しいのです……」 何度も愛する人を見送った者にしか言えない台詞だった 「………伊織……それでも………」 「先に進まないとダメなのは…… 自分が1番解ってる事だと想います」 「……伊織……」 「………僕達は……見守るしか出来ません…」 隼人の心まで……左右など出来ないのだから…… 飛鳥井の家に行くと、聡一郎と隼人が玄関の前に出ていた 榊原のベンツが停まると、聡一郎は嬉しそうに笑った 後部座席のドアを開け、隼人を先に車に乗せて、自分は後から乗り込んだ 「一生が来るんだと想ってました」 「力哉が退院したからなファミレスに先に行ってると思うぜ」 康太の言葉に……聡一郎は唖然となった 「………力哉……退院したのですか?」 「ファミレスに行けば逢えるぜ」 「………力哉は康太が再生させて生かせてるんですからね……やはり、君が出れば…… 力哉は正気に戻りますか……」 「止まってる時間なんてねぇからな!」 「………ええ……」 だけど……君みたいに強くはなれない…… 君が強い訳じゃないのは知っている…… 誰よりも儚くて……弱い……部分を知っている それでも君は立ち向かって行く 愛してる 男に支えられて… 血反吐を吐きながらも…… 君は進んで逝く…… 僕は……そんな君が羨ましい 憧れて止まない だがら君を追い掛けて……逝くんだと想う 聡一郎は隼人を抱き締めた 君はそんな飛鳥井康太の長男なんですよ……と語りかけ 隼人を抱き締めた ファミレスに行くと、一生と力哉が駐車場で待っていた 「あんだよ?席取っておいてくれても良いのによぉ」 「んなに混じゃいねぇからな!」 康太は一生の肩に手をかけた 「一生、んなにオレが恋しいかよ?」 康太は笑って一生に問い掛けた 一生は唇を尖らせた 「………その顔……流生が拗ねた時にソックリじゃんか」 康太は笑った 康太は隼人に手を差し出すと、隼人は康太の手を取った 「泣くな隼人……プリン奢ってやるかんな!」 「康太……アラモードが良いのだ…」 隼人はプリンアラモードが良いのだ……とちゃっかり要求した 「仕方がねぇな!ならプリンアラモードを奢ってやんよ」 「嬉しいのだ…康太」 「隼人、お歌、歌わねぇのかよ?」 「………それは音弥なのだ……」 「子守唄、歌ってやれよ いっそ、レコーディングしちまえよ!」 「……………考えておく」 隼人がそう言うと康太は爆笑した 席に座って、康太は「……慎一、忘れて来た」と呟いた 榊原は携帯を取り出すと 「慎一、今何処にいますか?」 『俺は今、病院から帰る所です』 「ならば、ファミレスに来て下さい 皆いますから!」 『解りました』 慎一は電話を切った 榊原は康太に 「慎一はすぐに来ます」と伝えた 「良かった……皆いるのに慎一がいねぇとな」 誰一人欠けても………嫌なのだ 仲間も子供も……両親も……清四郎達も 誰一人欠けても……しっくり来ないのだ 暫くすると慎一がファミレスに現れた 「………久し振りですね……こうして皆が集まるの…」 一つの家にいても……バラバラだった 皆が集まるのは……稀になっていた 「だろ?皆がいるのに慎一いねぇとな!」 康太は笑っていた 親しい人にしか向けない笑顔で笑っていた 慎一はその顔を見ると嬉しくなる 皆で久し振りにバカ話して盛り上がった 大学では……藤森と同じキャンパスになり……兵藤は屈辱だ……と騒いでいた そんなたわいもない話をして過ごした とても楽しい時間だった 皆 笑っていた

ともだちにシェアしよう!