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第58話 在るがままに‥
飛鳥井建設 副社長室をノックすると
「どーぞ!」
とドアを開ける気配はなく声だけした
ドアを開け中へ入ると……
居たたまれない……雰囲気に出くわす
副社長の榊原伊織は膝の上に妻……飛鳥井康太を乗せて仕事をしていた
物凄い集中力で仕事をする
時折、妻が榊原の顔を上げさせてキスをする
そんの時に……部屋に入った瞬間……目撃したくないキスシーンを目撃する事となる
膝の上に乗ってる飛鳥井家真贋は、至極幸せそうな顔して座っているから……
誰も何も言えずにいた
だが栗田一夫は……
「………副社長……よくそんなんで仕事が出来ますね」
「お構いなく!
要件は?」
「飛鳥井建設が今入ってるビルのリフォームの書類です!目を通して下さい」
栗田は書類を榊原に渡した
康太は栗田に
「しけた顔してんな一夫…」と声を掛けた
「………叔父さんには色々とあるです……」
煙に巻いて……出て行こうとする背中に……
「一度恵美に逢おうか?」と声を掛けた
栗田の足がピキッと止まった
「………康太……」
「鍵っ子……じゃあな……淋しいよな?」
「………会社に連れては来られませんから……」
「惠太が専業主婦になれば良いじゃんか」
「……無理です……家に大人しくしてるタイプじゃありません…」
「……ならお前が専業主婦になるか?」
「……俺は…貴方の駒でないでなら…生きていたくないです」
「なら今後の事を話し合うしかねぇな」
「解りました…」
栗田が観念すると榊原が
「康太、晟雅が来る頃です」と時間を告げた
「一夫、またな!」
康太はソファーに座って仕事をしている一生に声を掛けた
「一生、陣内を呼んでくれ」
「榮倉はどうするよ?」
「榮倉も呼んでくれ」
「あいよ!内線で構わねぇよな?」
「おー!内線入れて呼び出しといてくれ」
一生は内線で陣内と榮倉に副社長室に来るように言い付けた
栗田は副社長室を出て行った
すると入れ替わりに陣内と榮倉が、副社長室にやって来た
ソファーに座らせてお茶を入れる
一生は忙しそうに準備をした
「一生、源右衛門の百か日法要の宛名
全部お前が書いたんだってな…」
康太は拗ねた顔をした
翌日、菩提寺に行くと宛名は完了し、中に手紙を入れて郵送したと城之内が康太に告げた
「拗ねんな……そのお陰で旦那の膝の上で過ごせるだろうが…」
一生はしれっと言った
康太が文句言おうとすると一生の携帯が胸ポケットでブルブル震えた
一生は電話に出て何やら話すと立ち上がった
「神野が来たからな、迎えに行って来るわ」
一生は副社長室を出て行った
康太は榊原の膝の上から下りようとした
……が、榊原の腕が康太を離さなかった
「……伊織……」
「少し待ちなさい」
「待ってやっても良いけど、待たせた分あにくれんだよ?」
康太はニカッと笑って見上げた
榊原は康太の唇に……息も着かない接吻をした
「……ゃ……伊織……」
糸を引くような接吻をされて唇を離した
康太は赤くなり榊原を睨み付けた
「そんな可愛い顔で睨むと逆効果だと教えませんでしたか?」
康太はそっぽを向いた
陣内は笑って二人を見ていた
榮倉も本当に愛し合っている恋人同士を見ていた
一生が副社長室に神野を連れてやって来ると
榊原は康太を抱えたまま立ち上がった
神野は小鳥遊と共に飛鳥井建設の副社長室へとやって来た
部屋の中には陣内と榮倉がいて……
神野と小鳥遊は……何の話だろう……と不安を覚えた
榊原は康太をソファーに座らせると、その横に座った
榊原は神野と小鳥遊に
「お呼び立てして申し訳なかったですね」
と先に謝罪した
神野は「ご用件は?」と尋ねた
康太は瞳を閉じて……覚悟を決めると……口を開いた
「晟雅、オレはおめぇに跡継ぎをやるといったよな?」
康太は単刀直入に口にした
「はい。伺っております!」
「陣内の妻……榮倉の腹の子を……
お前らは貰い受けて育てろ」
康太の言葉に神野は唖然となった
小鳥遊は「それを陣内と榮倉は納得してるのですか?」と問い掛けた
「納得してる……」
「………我が子を……渡すと言うのですか?」
小鳥遊は信じられず……口にした
「小鳥遊、榮倉と陣内が好きで手渡すと思ってるのか?」
康太は低い声で小鳥遊に問い質した
「………誰が……自分の子を………渡したいと想う!」
「ならば、何故ですか?」
「運命……だからだよ……
生まれ持った宿命を持った子供を縛り付けとく術なんてねぇんだよ」
「………宿命……ですか?」
「榮倉の腹の子は……陣内じゃねぇ……」
神野と小鳥遊は………驚愕の瞳を康太に向けた
そして……陣内と榮倉を見た
榮倉の瞳は覚悟を決めていた
陣内は妻を見ていた
妻の思い通りに………それしかなかった
「榮倉の腹の子は……弥勒東矢……だ」
康太は榮倉と東矢が愛し合い恋人同士だった事を告げた
だが東矢は星を詠み……自分が死に逝く定めだと知って…榮倉と別れた
榮倉の幸せだけ願って…東矢は黄泉を渡った……
一人で生む決意をした榮倉を支えてやりたくて……
陣内は結婚を申し込んだ……
腹の子も愛すつもりだった事を話した
榮倉は神野と小鳥遊を見つめ
「私は……弥勒東矢の子ですから……定めを持った子だと想いました
もし……お腹の子が定めを持って産まれるなら…
適材適所……配置して下さいと康太に頼みました」
神野と小鳥遊はなんと言って良いか解らなかった
陣内は………泣いていた
「………俺は榮倉を愛してます……
腹の子も……我が子以上に愛すと誓いました
大切な子なんです……榮倉の想いなんです
本当なら………手放したくなんかない……
だけど……産まれながらに宿命を持って産まれるなら……送り出してやるしかないじゃないですか……」
陣内は号泣だった
榮倉が優しく陣内の背中を撫でていた
二人は何処から見ても夫婦だった
「真奈美……」
「泣かないの……定めは……覆らないのよ……」
「………だって……お前の子なのに……」
「泣かないの……」
「お前が日々愛して語りかけてる子なのに……」
「………私は後悔なんてしていない……
あの人が………いたから、博司さん……貴方とも出逢えた
あの人が……私と貴方を出逢わせてくれたのだと想っています……」
「……俺は……誰かと恋愛なんてして来なかったから……
こんな時……どうしたら良いのか解らない……
真奈美を愛すしか出来ないんだ……」
「それだけで充分です……恥ずかしいじゃないの……」
直球勝負の陣内の言葉に………
榮倉は何度も救われた
陣内博司と言う男は……想ってる事しか言わない
上っ面の言葉は吐かない
だから幾度となく会社を辞めざるを得なくなった
もっと世渡りが上手い男なら……
適当にお茶を濁す位は出来ただろう……
あまりにも対人関係が出来なくて………康太に拾われて
3年我慢したらお前の本来の場所に置いてやる
そう言われて耐えて過ごした事を聞いた
こんな不器用な人だから……惹かれた
世渡り上手で、かなりのイケメンの陣内なら……
榮倉はそんな人種は安曇の秘書をしてる時に嫌という程に見て来たから近寄りもしなかった
顔は良いのに……顔なんて評価に値しない
こんな台詞が言える陣内だから惹かれた
愛しいと思った……
弥勒東矢とは違った想いだった
陣内を守りたい……
陣内に笑ってほしい…
かなり末期な想いで……笑えた
でも愛してるのだ
格好なんてつけてられない
形振り構わず愛するって事を知った
榮倉はそんな愛する人を手に入れて強くなった
康太は何も言わず黙って見ていた
神野は………どうしたら良いか解らずに康太を見た
「九曜芸能事務所は弥勒東矢の血を引く子供を社長に迎えて……更に躍進する」
「………それが定めだと言うのですか?」
「神野錠二は力持ちだった……
だから事務所をあれだけ大きく出来た
だがお前は……何も持たぬ人間だ……
更に上に行くなら、榮倉の腹の子は必要不可欠だ
オレは榮倉の子供を曲がった方向に行かせたくねぇんだ……
力持ちを自覚させて、力を使える本来の姿へ導く
翔達と修行させて、鍛えていけば本来の自分を受け入れられると想う
それには近くに来ねぇとな……出来ねぇんだよ」
「………康太……俺なんかが貰い受けて良いんですか?」
「晟雅、誰よりも強い親父になれ!
お前の背中を子供に見せていけ!
小鳥遊、お前は誰よりも優しい母として接してやれ
お前らが育てて行かねぇと……事務所の明日はねぇという訳だ
オレはそんなに長生き出来ねぇかんな
ピンチだと言われても……
そうそうは出られる訳じゃねぇ……
オレのいなくなった時に……榮倉の子供は本領発揮するだろう」
「………康太……そんな事を言わないで……
いなくるなんて………そんなの嫌です……」
神野は泣いた
小鳥遊は神野の涙を拭いてやった
「………康太…こんな手の掛かる奴を置いて逝かないで下さい…」
「晟雅、親父になるんだ
おめぇが憎んで来た……親父と言う存在になるんだ
誰よりも愛して育てて逝け……いいな!」
「康太、俺は今は親父を憎んではいない
子供を貰い受けるなら……誰よりも愛します
子連れ社長として何処へでも連れて行きます
小鳥遊は誰よりも甘い母親になってくれるでしょう!
俺達の家族が増える…嬉しいですが……」
神野は………また泣き出した
陣内もつられて泣き出した
「……晟雅……俺の愛する榮倉の子供なんだぞ」
「解ってるよ……大事に育てて愛しまくる」
「………泣かせたら…返して貰うからな……」
「泣かせない……絶対に返さない……
九曜芸能事務所の社長は……お前から貰い受ける子供がなる……」
「……幸せに……してくれよ!」
陣内は怒鳴った
神野は陣内を抱き締めた
「また飲もう陣内……」
「……お前の驕りだぞ!」
「奢ってやるよ!
瑛太を奢るより安くつく」
「………社長は……ザルか?」
「瑛太は底なし……アイツに酒を奢ると……オケラになる……」
陣内はブルッと震えた
「………そこまで……」
「お前……付き合いないのか?」
「社長に?恐れ多い……」
「……なら康太に酒なんて奢るんじゃねぇぞ!」
「……え?………ザルの一族か?」
「…………源右衛門が酒豪だったからな……
何時もニコニコお酒を飲んでた記憶しかねぇな……」
亡き…源右衛門に想いを馳せる
神野も陣内もしんみり泣き出した
「今度、飲もうぜ晟雅」
「嗚呼……飲もうな博司!」
二人はかなり仲良かった
榮倉は小鳥遊を見て、ニコッと笑った
「榮倉さん……」
「小鳥遊さん、今度お茶しませんか?」
「良いですね!
美味しい紅茶の店なら任せて下さい」
二人は案外気が合いそうだった
康太はそれを嬉しそうに見ていた
「晟雅、オレは今年は白馬には行けねぇかも知れねぇ……」
康太は神野にそう言った
「………え?どうしてですか?」
「北斗のオペがある
飛鳥井建設の引っ越しがある……
今年は……無理かも知れねぇ…」
「北斗……オペに踏み切るのですか?」
「……今のままじゃ……車椅子しかねぇからな…」
動きたい盛りに……それは………
神野はまた泣き出した
「……北斗……可哀想に……
お見舞いに行きます」
「喜ぶと想う」
康太が呟くと榮倉が
「北斗……って一生の子供の?」と問い掛けた
「そう。オレが北斗を貰い受けて一生に預けた」
「お見舞いに行きます!私も!
北斗君ならご本持って行かなくっちゃ!」
「……あ、北斗に本を沢山くれたんだっけ
おりがとうな榮倉」
「一生が北斗君を何度か連れて来てたんですよ
その時にお話ししたんです」
「そっか……オレらは忙しかったからな…」
たわいもない話をして、その日の話し合いは終わりにした
「晟雅、話し合いは終わりだ!
今後、お前らは仲良く付き合っていけ!」
神野は立ち上がると康太に深々と頭を下げた
「康太……本当にありがとう」
「晟雅、今度飲みに連れて行け!」
「解りました……飲みに連れて行きます」
「ならな、晟雅、小鳥遊」
「はい!また今度時間を作って下さい
晟雅は淋しがってましたから!」
「解った!ならまたな!」
神野と小鳥遊は康太を抱き締めて帰って行った
康太は榮倉に
「我が子を託すに価する奴らだったか?」
と問い掛けた
「ええ。あの二人でしたら我が子を託したいと思います」
「………そっか!なら話しは勧めるか
それより榮倉、陣内に親姉妹を逢わせてやれ」
「………そう来ましたか!
姉には今度逢わせます
両親は………帰ってくる気配もないですからね」
「追々、逢わせてやれ」
「はい!今日は本当にありがとうございました!」
陣内と榮倉は副社長室を出て行った
康太は……ソファーに丸くなった
「疲れましたか?」
「………違う……何か痛いんだ……」
「何処が……ですか?」
康太は鳩尾の辺りを押さえた
榊原は立ち上がると電話を掛けた
主治医の久遠に康太の体調を話すと、すぐに連れて来いと言われた
榊原が康太を抱き上げると、一生がドアを開けた
「エレベーター押さえとく!」
そう言い一生は走って行った
「何時から痛いんですか?」
「………朝から……」
「もっと早く言って下さい」
「……伊織に心配掛けたくなかった……」
「……康太、少し待って下さい!」
榊原は走った
一生が止めておいてくれたエレベーターに乗り込み、地下駐車場まで向かう
地下駐車場で慎一と聡一郎に出くわし……
慎一は車から下りる事なく病院へと着いて行く事にした
榊原は康太を助手席に乗せた
一生は後部座席に乗り込むと、榊原は車を走らせた
主治医の病院へ到着すると久遠が待ち受けていた
榊原に「どんな様子なんだよ?」と問い掛けた
「お腹が痛いって言い出して苦しい顔をしていたのです」
「検査してみねぇと解らねぇな…
伴侶殿、康太を連れて来てくれ!」
そう言い久遠は走って院内に入って行った
検査の準備をする為だ
榊原が院内に入って行くと、看護士が待ち構えていた
「ドクターが待ってます!此方へ!」
案内されて着いていく
一生や聡一郎、慎一も後を追った
検査室の前に行くと久遠が康太を受け取り連れて行った
「伴侶殿は、少し待ってて下さい」
そう言い久遠は検査室の中へと入って行った
榊原は検査室の前の椅子に座った
一生は「康太、調子悪かったのかよ?」と問い掛けた
「僕は忙しくて康太を見ていませんでした……
食事をしていたのかも解りません……」
榊原は自分を責めた
「旦那……やっぱし康太は旦那がいねぇと食事もしねぇんだよ
俺等も気を付けて見てたけどな……少し口を着けて……
食べなくなっていた
無理強い出来ねぇしな……相談しようと想っていた所だった……」
「………失敗出来ませんでしたからね……」
今も……忙しくて……榊原は康太を乗せて仕事しているが……集中してしまえば……淋しい思いをさせる
「旦那のせいじゃねぇ……」
榊原は息を詰めて……康太の無事を祈った
かなり長い時間待たされて………
やっと検査室のドアが開いた
中から出て来た久遠は榊原の顔を見て
「………伴侶殿……康太を食わせてやってくれ…」
と頼んだ
「………検査の結果は……?」
榊原は不安そうな顔をで久遠に問い質した
「胃の粘膜が………ない!」
久遠はキッパリ言い切った
「………え?……」
「あんな胃をしていたら……お茶飲むだけでも胃の負担になる!」
「………康太は食べていなかったのですか?」
「………最近食ってねぇだろ?と聞いたら頷いた」
「最近……忙しかったので……会社に寝泊まりしてました……」
「……当分点滴に通って戴けますか?」
「解りました………あの北斗のオペも近いですから……病院へ来なければなりません」
「北斗は来週オペの日程を入れたぜ!」
「そうでしたか……宜しくお願いします」
榊原は久遠に頭を下げた
「康太はこの後点滴だ
それが終わったら帰って良い」
「………あの痛みは?」
「止まってると想う
何かあったら連れて来い」
「解りました!」
「この病院も引っ越しで、てんてこ舞いしてる時期なんだよ
何かあったら呼んでくれ駆け付けるから!
来月には飛鳥井の家の近くに引っ越す」
「……あぁ、そうでしたね
お忙しい時に……すみませんでした」
「忙しいのは良い気にするな
康太は当分栄養薬を出しとくから、薄めて飲ませてやってくれ!
でねぇと胃が受け付けず……嘔吐するだろうからな」
「解りました。」
「栄養指導の書類はまた慎一に渡しとくな」
「はい。ありがとう御座いました」
榊原は胸を撫で下ろした
康太は点滴を打ち、終わると帰る事にした
帰りの車の中で康太は榊原に謝った
「……伊織……ごめん……
忙しいなら一生が病院に連れて行く
おめぇは仕事をしてて構わねぇ…」
「康太、君以上に大切な存在なんていない
君を他に任せる気はありません!
それが出来ないのでしたら……僕は副社長を辞めます」
「……伊織……」
「君が護るモノを護りたいんです
総ては君の為……そう思って来たのに……
君を蔑ろにするなら……総てを擲っても構わない」
「………ごめん伊織……」
「僕がいなくても食べて下さい
僕は君がいなくても食べる努力はします
倒れて君を泣かせてからは、そうしてます
君も僕を泣かせたくないなら……食べて下さい」
「……解った……伊織がいなくても食べる」
「後、一人で移動しないで下さい
君にガードをつけます!」
「……え?何で……」
「飛鳥井家真贋を手に入れたら世界を手中に収められる
なんて考えてる奴等が絶えない今……
君を一人で動かすのは危険なんです
クロフォードのいるボディーガードの会社を買収しました!
来週には日本を拠点に仕事を始めると想います」
「………え?何時買ったの?」
「蔵持善之介さんに話を持ち掛けました
日本に本格的なボディーガードを導入しませんか?って。
そしたら善之介さんも考えていたらしくて話に乗ってくれたのです
依頼人は絶対に護るボディーガードは、これから日本でも必要不可欠になってきます
今ニューヨークに竜童先輩がいるんですよ
外資で働いてるので、少し動いて貰いました
高い買い物をしましたが……元は取れると踏みました」
「………善之介?……」
「ええ。飛鳥井も出資します
義兄さんに決済を出して貰いました!
若旦那も一口乗って戴きました
日本で本格的なボディーガードを導入させます
既に会社として立ち上げはしてあります」
「…………知らなかった……」
「隠してませんよ
僕は何時でも君に総てを晒して生きてます」
榊原は嬉しそうに、そう言った
「君が運転したいなら運転してもいい
だけどガードは付けて下さい
でないと僕の寿命が縮みます」
「……伊織……ごめん…」
「元気になって下さい
沢山愛してあげますから……
僕に愛されて可愛く笑ってて下さい」
「………ん…」
「愛してます康太」
「オレも愛してる伊織…」
「飛鳥井建設の引っ越しも始まります
気は抜けませんよ!
引っ越しは君が陣頭指揮を取らなければならないんですよ?」
「解ってる伊織!
引っ越しも、北斗のオペもあるしな
まだ弱ってる暇はねぇって事だろ?」
「そうです!
飛鳥井建設に真贋在り
それを知らしめる為の新社屋完成披露パーティーなんですからね!
総ては君の為の下拵えなんですからね!」
榊原の愛が伝わって来る
全身全霊賭けて……愛する者の為だけに生きている証だった
「伊織、道場も完成したし、心身ともに鍛え上げようと想うんだ
翔達も鍛えてオレも鍛え上げようと想う」
「真壁のビルに道場は入ったんでしたね」
「おう!あの道場からオリンピック選手を出す
その為の礎だ……じぃちゃんの願いをオレが引き継ぐ!
あのビルにはスポーツジムもエアロビ教室もヨガ教室も入る事が決まってる」
「僕も手伝います」
榊原は優しく笑った
「康太、在るがままに受け入れて行きましょう
真実を見つめて歪めずに生きでも行きましょう
それが僕達の役目です」
「………伊織……」
「君だけに辛い役割なんてさせません!」
「………飛鳥井は新社屋から営業部がトップに躍り出て活躍する
その為に今年、赤沢誠二を育てて還した」
「赤沢先輩は営業向きですからね
あのひたむきな誠実さは飛鳥井の信頼に繋がるでしょう」
「倉敷美和を営業の統括本部長に任命する」
「ヨシカズさんは適任ですね
君の駒ですからね活躍してくれると想います」
「三つ葉も経理部で手腕を振るってる
大阪社の不正を見付けたのバイトしてた三つ葉だもんな……恐ろしいよな……あの計算機の頭脳は」
「君が適材適所、配置したんでしょ?
君は二人を見るなりスカウトした
そしてバイトさせて、入社試験を受けさせた
群を抜いて三ツ池先輩は1位入社でしたね」
「………伊織……オレは飛鳥井に入社しなくても良いって想ったんだ……」
「でも定めですよ康太
あの二人は飛鳥井の礎に入っていた
飛鳥井建設と言う膨大な歯車の中に組み込まれし人材だったんですよ
嫌なら他の会社の入社試験を受けていたでしょ?」
「………伊織…」
「だから君は何も気にする必要なんてないんですよ
君は体躯を整える事だけ考えていれば良いんです
そして僕の事だけ想っていれば良いんです」
康太は榊原にもたれ掛かった
「伊織……ごめん……」
「忙しくなりますよ!
君は仕事以外は僕の膝の上にいなさい!」
「ん。」
「花火大会、流生達を連れて行きますよ!」
「うん!喜ぶだろうな…」
「今度から遅くなるなら副社長室に子供を連れて来ようと想ってます
親子の時間は大切ですからね」
「……伊織…」
「僕は妻と子供を護ります
この命に変えても、護ります」
「オレも伊織と子供は護る
絶対にな!」
「奥さん、その前に花火大会です
5人いますからね……迷子にならない様に気を付けないといけません!」
「………そこなんだよな……」
「花火見てる間にヨチヨチ動かれたら……アウトです」
「……天使の羽根したハネース着けるか……」
「………そこなんですよ……
僕は今、仕事より……それが悩みなんです」
「………伊織……」
「一人ずつ抱き締めて花火見るしかないですかね…
もし迷子になったら……怖くて泣きます……
そんな想いはさせたくないのです……」
親の悩みは尽きなかった
康太も榊原も間近に迫った花火大会に悩んでいた
飛鳥井建設は大忙しなのに……
動き回る子供との時間を悩んでいる
嬉しい時間だった
子供の事を考えるのは……親の特権だから……
それでも会社に戻ると仕事は山のようにあり
忙殺される
だが、そんな多忙な時間の心の拠り所は愛する妻と子供だった
榊原の机の上には子供の写真が飾ってあった
副社長室の棚には子供の成長過程が解る写真が飾ってあった
妻と子供と過ごした時間が確かに在った
想いは……寂しがらせてる我が子に……
榊原は忙しそうに仕事をしていた
康太も忙しそうに仕事をしていた
想いは一つ
愛する人のため
「引っ越しは一生が頑張んべ?」
「…え?俺があんで頑張るんだよ?」
副社長室にいた一生は文句を言う
「だぁってよぉ!おめぇ実況解説したりして活躍してたやん」
「………それを言うか……」
何だか引っ越しってワクワクしてくる
一生は中等部からすっと寮で過ごしたせいか、引っ越しが好きだった
次のステップに移れる様に変われる引っ越し!
飛鳥井で初めて体験した
「………解ったよ!頑張るよ」
「頼りにしてんぜ一生」
康太はそう言い一生に抱き着いた
この男は何時も変わりなく康太を優先する
遥か昔も……
変わる事なく傍にいた
変わらない……
「………赤龍……酷な事ばかりするな……オレは…」
一生は康太を強く抱き締めた
「あに言うんだよ!ビックリするな…」
「……お前の臭い……遥か昔から変わらねぇからな…」
「……何か人を臭いみたいに言うな……」
「………遥か昔から……」
「風呂には入ってるぜ」
「………おめぇは長風呂好きだったよな…」
「おめぇは烏の行水だな!」
一生は笑った
康太の言いたい事は解っていた
たけど罪悪感なんて抱いて貰いたくないのだ
「引っ越しかぁ、何かワクワクしねぇ?」
「………面倒でやりたくねぇよな?」
「あに言ってんだよ!
引っ越しだぜ!」
「………一生、そのモチベーションで乗り切ってくれ!」
「任せとけ!」
「伊織、一生がいれば飛鳥井の引っ越しは安泰だな」
康太は笑っていた
子供みたいな笑顔で笑っていた
そんな顔見せられたら……
頑張るしかない
「うし!頑張るか!」
一生は闘志に燃えていた
「俺、引っ越しのスケジュール考えたんだよ
どの部署から移動したら効率良く荷物が運べるか」
一生は、ジャジャジャーン!と言い書類を康太に見せた
榊原も覗き込み、書類を見た
榊原はその書類を見て一言
「perfect!」と、絶賛した
康太も「すげぇな伊織、このスケジュール通りに動いて貰う様にコピって引っ越し業者に渡しといて!」
「解りました!一生、これコピって来るまで貸しといて下さい」
「構わねぇぜ!」
最近一生は何やらPCに使って考え事をしてるかと思ったら、こんな引っ越しスケジュールを考えていたとは……
康太は一生に抱き着いた
榊原も一生に抱き着いた
「一生大好きだ」
「僕も大好きですよ兄さん」
一生は照れて……
「何だよ!急に……」
と暴れた
「頼りにしてんぜ一生!」
「頼りにしてます兄さん」
一生はいたたまれなくなる……
「あんだよ?……止めろよ……もぉ!」
康太は笑っていた
大切な存在がいてくれる
それだけで強くなれる
康太と榊原は顔を見合わせ、笑った
そして、両方から……
一生の頬にキスをした
ともだちにシェアしよう!