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第59話 飛鳥井建設 引っ越し狂想曲

「こちら実況中継の一生です! とうとう飛鳥井建設が新社屋へ引っ越しする日がやって来ました 新社屋は地下2階、地上8階の高層ビルです 耐震構造で最先端の技術を使ってた新社屋です! 緑化計画のビルなので緑を取り入れたハイテクビル 設計者は脇田誠一 業者はサクサク荷物を運び込んでます」 一生は指示を出すボードを抱え、マジック片手に実況中継していた 「只今、副社長室の引っ越し作業中です 荷物が新社屋の副社長室へと次々と運ばれて行きます」 一生が指示を出し、荷物を運び込ませていた そんな引っ越し作業中なのに…… 榊原は康太を胸に抱いていた 康太も榊原に抱き着いていた 「伊織、新社屋は屋上に緑があってベンチも置いたらしいし……デートしような……」 「良いですね……でも、僕は副社長室で康太と……」 「…ぃ…嫌だ…それは……」 「何で?僕に触られるの嫌なんですか?」 「……だって……誰かが来たら困る… …なら……オレの……真贋の部屋で…」 康太は真っ赤な顔をして、そう言った 「それ良いですね 僕は何時でも何処でも君が欲しいのです」 「……伊織……オレも……」 ラブラブのカップルを尻目に…… 一生は忙しそうに動いていた それてブチ切れた…… 「………おい!………おめぇら……」 一生の低い声が背後からする 榊原はしれっとして 「何ですか?一生」 「副社長室の引っ越しは終わりだ! 新社屋へと行きやがれ!」 一生に発破を掛けられて、榊原は 「解りました!新社屋へ移ります 康太、新社屋へと行きましょうか?」 「おう!伊織、行こうぜ!」 榊原は康太のネクタイを直して…… 康太の髪を一筋手にすると…髪に口吻た 「行きますか?」 「おう!乗り切ろうな伊織…」 康太と榊原は連れだって出て行った 何処でも甘い空気を醸し出す2人には……困ったもんだ…と一生はため息を着いた 力哉が真贋の部屋の荷物をファイルごとに段ボールに入れていた 「力哉……よくアイツ等の傍で仕事が出来るな…」 「え?全然気になりませんよ? 康太がいた方が仕事が捗りますからね 何時も膝に乗せて仕事して欲しい位です」 力哉は副社長の秘書も兼ねていた 仕事が捗るなら……康太がいた方が良い……と言う 一生は言葉を失った 力哉が一生に発破をかける 一生は気を取り直して、引っ越しの指示へと戻った こんな時……力哉は大人だと思う 年が離れてるのもある 力哉は賢く……康太が貰い受けるなかったら……多分出逢える人間ではなかったと想う…… 何で力哉が傍にいてくれるのか……一生には不思議だった その時、一生の胸ポケットの携帯が鳴り響いた 「はい!」 『おめぇな、そんな事を考える方が力哉に失礼だと想わねぇのかよ?』 「………康太……」 『おめぇは滅多とナーバスにならねぇのに…… あにナーバスになってんだよ! ほれ、オレの所へ来いよ! 抱き締めてやるからよぉ! チューしてやっても良いぞ おめぇをこの世に引き止めてるのは飛鳥井康太、オレだろ?』 電話の向こうで康太は笑っていた こんな時の康太に救われる…… 「チューは遠慮しとく サクサク動きなはれ!」 一生は笑って電話を切った 気を取り直して次の作業に取り掛かろうとすると、慎一が現れた 「一生、ちょっと」 「あんだよ?」 聞くと同時にチューされた 慎一は笑って一生の口にチュッとキスを落とした 一生は慌てて抵抗した 「あにすんだよ?」 顔を真っ赤にして怒る 慎一は笑った 可愛すぎでしょ?この顔…… この弟がいてくれるから……楽に息が出来る…… 一生がいてくれるから…… 慎一は何時も想っていた 「康太から届けてくれと頼まれました」 「……な!頼まれたらチューしに来るのかよ?」 「はい!俺は主の為なら何でもするのです」 「………俺は忙しいんだよ!……」 「一生、肩の力を抜け 空元気なの……誰も気づいてないと想ってるのか?」 「………慎一 そんなつもりなかった…」 「康太がいる…伊織がいる、飛鳥井の家族がいる 俺らもいる……1人じゃねぇって忘れてない?」 「………忘れるかよ!ありがとう慎一」 「お兄ちゃんって呼んでごらん?」 慎一が言うと一生は真っ赤な顔をした 「そんな可愛い顔してると力哉に犯されますよ?」 「……ばっ!……」 一生が怒ろうとすると力哉が 「良いですね!今度犯してみます!」 「力哉、頑張って下さい!」 慎一はニコッと笑って部屋を出て行った 一生は危ないと想って……部屋を飛び出した 「……んとによぉ……」 気を取り直してサクサク動いた 康太は新社屋を、榊原と共に見回りに行った 各フロアには防犯カメラが着いていた 非常階段にも階段にも防犯カメラが着いていた 顔認証システムを導入した 外部の人間以外が侵入したら割り出して通報するシステムだ 康太が狙われて……瀕死の重傷を負った 本来あってはならない事だった 今度の防犯システムは挙動な動作も割り出して知らせるシステムを入れてあった 勿論 社員には話してある 要は挙動な動作をしなければ良い 康太は社員にそう告げた 社員は防犯上の事なので賛同した 防犯システムがちゃんとしていても……飛鳥井の家には暴漢が押し入った これ以上の痛手は……避ける為です 副社長である榊原に訴えられたら……何も言えなかった 康太は地下2階から結界を張りながら見回っていた 地下2階は倉庫、機材置き場として使用する 駐車場1階は駐車場だった 1階はレストランだった 2階は託児所として使用する 3階は営業部 建築 施工 製図部 4階は総務部 人事 経理 人材育成部 5階は広報宣伝室 社員食堂 6階は役員室 会長室 社長室 副部長室 真贋室 7階は最新のモニターを導入した会議室と、商談室を導入して半分を緑地化した 木々を植え 花を植え 日本庭園の様な憩いの空間が作られていた 商談の後に憩いの空間を提供する為に茶室も作らせた 各部署には緑用のベランダが誂えてあり雨水を取り入れて給水出来る、飛鳥井の家の様なシステムが取り入れてあった 屋上にはヘリポートが作ってあった 防犯上の為、新社屋の取材はNGとなった 何処に何があるか……解るのは避けたかった 社内を回っていると、栗田が康太の横に来た 「貴方……顔色が悪い……」 「一夫……気にするな」 「寝てないんですか?」 「……北斗がオペした……」 「……え?……」 「主治医の病院も移転したんだよ 新しい病院は大学病院に劣らぬ最新の機材を使って開業している そこに北斗は入院したんだよ」 「そうですか……俺もお見舞いに行きます」 「一夫、無理しなくて良い…」 「無理じゃないです…」 「一夫…」 「何ですか?」 「……見舞いに来るなら……恵美を連れて来い」 栗田は康太の顔を見た そして覚悟を決める 「……宜しくお願いします」と深々と頭を下げた 栗田は康太の傍を離れて仕事に戻った 康太はレストランを見に1階に下りた レストランは大きな窓と緑に囲まれ、異空間を醸し出していた ゆったりとした席は間仕切りはないが要所要所置かれた植木が特別な空間を作っていた 地下を少し掘り下げて、中2階的な空間を作り、集客数を多めに取れる様にした 今度は社員食堂とは切り離した お客様だけお迎えして接待する 勝負時だった 飛鳥井玲香はレストランの総指揮に当たっていた 今回、レストランの社員もバイトも増やした 入社前にみっちり社員教育を受けて、開店から働ける様にした 今度の飛鳥井建設は少し敷地面積を広くした 飛鳥井建設の隣のビルは源右衛門の持ちビルだった 飛鳥井建設の建て替えが決まる前から空き地として空けてあった 飛鳥井建設の新社屋建設は広大な敷地を生かした製図を脇田誠一が引いた 康太は新社屋を見上げて 「継ぎの100年は安泰かな?」 と問い掛けた 「翔達の継ぐ会社ですからね 安泰じゃないと困ります 我が子に託す会社の礎は揺るぎません」 「……伊織……折り返し地点は来たかな……」 「まだですよ……まだ折り返し地点は来てません 翔達が……高校に上がるまではね……」 「………ん……翔達の成人式 見てぇな……」 「弱気にならないで下さい」 「………ん……伊織……」 レストランの視察を終えて、2階に上がる 2階は託児所 今回は飛鳥井建設の出入り口と託児所の出入り口は別にした 託児所専用通路を設け、託児所から飛鳥井建設に入れない様にした 飛鳥井建設、正面玄関から入ると受付嬢が待ち構えて案内してくれる 正面玄関とレストランは入り口を別々に設けた 会社として独立性を高め セキュリティを高めた 2階は託児所のみとなり、エレベーターは2階には止まらない 階段で上がって行っても、壁に囲まれ託児所へは行けなかった 3階は建設 施工 製図部 見て回っていると城田琢哉が康太の前に来た 「康太さん  こんにちは!」 「お!城田、元気か?」 「俺は頗る元気です! 貴方は………体調悪そうですね…」 「……忙しくてな……」 「貴方が倒れたら俺泣きます ですから倒れないで下さいね!」 「………それって……どう言う屁理屈よ?」 「俺にとって貴方は特別なんですよ 俺は貴方を護る為だけに、この会社にいると言う事です」 康太は笑った 「期待してんぜ!城田!」 康太は城田の肩を叩くと、傍を離れた 建設は仕事に出て空に近かった 施工も仕事に出て空に近かった 製図部はガラス窓で仕切られた防音の部屋で製図を引いていた 康太は邪魔しない様に、3階を後にした 4階は総務部 人事 人材育成 顔を出すと飛鳥井蒼太が康太に近寄った 「康太、引っ越しは順調です! ………君……顔色悪くない?」 「蒼兄、気にするな 引っ越し順調なら良かった どうよ?仲良くやってる?」 「ええ。最近忙しくて、時間を作り一緒の時間を作ってます」 「それは良かった また遊びに来いよ」 「ええ。建て替えてから行ってませんから…… 今度遊びに行かせて貰います」 「母ちゃん 喜ぶぜ」 康太は蒼太の胸をポンッと叩くと、フロアを見回り、上へと行った 榊原は康太に 「蒼太さん 幸せそうで良かったですね」 「ん……2人は離して正解だったな 蒼兄には幸せでいて欲しいかんな」 「大丈夫ですよ 君は僕が幸せにします」 「………伊織…」 「何ですか?」 「……そんな台詞……抱き付きたくなる……」 「……では2人の時に、また言ってあげます」 榊原は優しい笑みを浮かべて笑っていた 康太はその顔に……泣きたくなった 愛してる 愛する人の一挙一動…… 自分に向けられていると……泣きたくなる程に…… 幸せで嬉しかった 「そんな顔……外でしたらダメです…」 榊原は苦しそうに……そう言った 「……え?どんな顔?」 自分では解らない…… 榊原は康太を階段の影に引きずって行った 「男を……そんな誘うような瞳で見たらいけないと言ってるでしょ?」 榊原は苦しそうに言うと……康太を抱き締めた 「……オレは何時も伊織が欲しい……」 「………僕も……何時だって君が欲しい…」 「……伊織……視察……」 榊原は康太に滾る股間を押し付けた 「………ぁ……熱い……」 「君を手にすれば……僕は正気ではいられません」 ストイックな男の欲望を知らされて……康太は榊原の胸に顔を埋めた 「………伊織……愛してる」 「僕も愛してます」 榊原は康太に接吻した 深い接吻をして……離した 榊原は大きく深呼吸すると、自分を建て直した 「……危うく……イキそうになりました」 互いに触るのは気持ち良すぎるのだ…… 「……オレも……」 「……此処は……誰が来るか解りません」 「……ん……解ってる…」 康太は榊原から離れた 榊原と並んで、5階の広報宣伝室へと上がって行く 5階に行くと矢野千秋と一色和正が忙しいそうに動いていた 「あ!康太くん!」 矢野は康太を見付けると嬉しそうに近寄った 「今度の広報宣伝室は広くなし、プレゼンも此処で出来る様に会議室も作った 3Dスクリーン搭載だぜ 7階には企業向けの商談室やホールの会議室もある、活用して頑張ってくれ!」 「康太くん!あまりにも凄くて! 興奮しまくりだよ!」 嬉しそうに康太に抱き着く矢野を、一色は引っ張って引き寄せた 「真贋、社員も増やされ……設備も拡大 プレッシャーかけてます?」 「一色、おめぇはプレッシャーなんて跳ね飛ばし進んで行くだろ?」 康太はそう言い笑った 「流石!対価の仕事はする! それに相応しいステージ位にしか想いません」 「頼むぞ」 康太はそう言い広報宣伝室を後にした 社員食堂に顔を出すと、おばちゃん達が顔を出した 「康太ちゃん!呼んでくれてありがとう」 桜林学園の学食を作っていたおばちゃん達は、今年定年で学園を去る事になっていた 康太はおばちゃん達に飛鳥井建設で働いてくれねぇか?と話し掛けた おばちゃん達は二つ返事で社員食堂にやって来た おばちゃん達は午前中と午後4時まで社員食堂で食事を作る 午後4時以降は男性に変わり、午後10時まで社員食堂で食事が出来る様になっていた 「明日からヨロシクな、おばちゃん」 「任せておいてよ!康太ちゃん お袋の味を食べさせてやりたいわ」 「おばちゃん達の作る飯は美味ぇからな社員は喜ぶと想う」 「康太ちゃん……本当にありがとう…」 退職となれば先の見通しは着かなかった 年金が入るけど……誰かのために作ってきた人生だった それがなくなるのは……寂しかった 生き甲斐…… それが繋がった おばちゃん達は生き生きとしていた 「食いに来るかんな!」 「なら康太ちゃんにはオマケだね!」 おばちゃん達は笑っていた そして急がしそうに明日の仕込みを始めた 社員食堂の管理は慎一がする メニューから材料まで慎一が目を通し、管理する 康太と榊原は6階へと上がって行った 6階は役員室だった 役員専用のエレベーターを備え付けた そのエレベーターには役員や許可した者しか乗れない 役員室に簡単に出入り出来る環境をなくした 社員の乗るエレベーターは、2階と6階には止まらなかった 階段からも役員室へは入れない様にしてあった 暴漢が簡単に押しいれる環境は避けたかった 役員室に用がある時は、事前にアポを取って呼びに行く それを徹底する 悲しいけど……そうするしかなかった 「康太、疲れましたか?」 「大丈夫だ」 榊原は康太をお姫様だっこした 「君はすぐに無理しますからね」 るんるんとスキップしそうな勢いで榊原は康太を副社長室へと運び込んだ 何処へ行くにも小脇に抱えて運ぶ 長い移動はお姫様だっこ 流石と「やり過ぎた……伊織…」と康太はボヤいた 「そうですか?」 榊原は聞く耳を持たず、副社長室へと入って行った そしてソファーに康太を、そっと座らせた 「伊織…」 「何ですか?」 「会長室と社長室……見に行かなきゃ…」 「紅茶飲む位…後にした方が良いんですよ」 榊原は康太に紅茶を煎れて差し出した 康太は紅茶を受け取り飲んだ 「………最近の伊織は離してくれねぇ……」 「君が元気になったら離してあげますよ」 「……オレは元気だ……」 「その台詞を言うには少し元気が足りませんよ?」 「…………伊織にも仕事がある…」 「僕は仕事より君が大切です」 キッパリ言われて康太は……何も言えなくなった 最近の榊原は心配性で康太を離さない 「…………ちゃんと……薬飲んでる……」 「早く良くなって下さいね!」 「伊織……」 「こんなに弱った君を抱き潰す訳にもいかない…」 「潰して構わねぇ…」 「この忙しさ……では無理ですよ 会社もやっと本来の処へ戻りました…… これからが正念場です」 「………伊織……」 榊原は康太を抱き寄せた 「気弱にならないで……康太」 「なってねぇよ! 伊織がオレを簡単に逝かせるなんて想ってねぇよ!」 康太はそう言い笑った 紅茶を飲み終えると、榊原は立ち上がった そして康太に手を差し出した 康太はその手を取って、立ち上がった 「逝くぜ伊織! 瑛兄の処は……榮倉だけじゃ重荷だ 腹の子も……そろそろだからな無理させられない」 「そうですね……佐伯は今仕事に復帰したんですよね?」 「………美智留を託児所に預けて働いてる でも……佐伯も妊娠中だかんな……無理は禁物だ」 「飛鳥井建設の社長の秘書になると……懐妊になる 噂でも流してみますかね?」 「お!それ良いな!」 「我が社はお腹の大きい人……結構いますよね?」 「2人目産んでも託児所あるかんな ギリギリまで働いて産むって女性が増えた 託児所が預かるのは半年経たねぇと受け入れねぇけど 半年後には仕事復帰してる」 「そう言う社員が増えて、社内は活気に溢れてましたね」 「良い事だ 活気に満ち溢れる先に希望が灯る 社員は自分の力を発揮できるチャンスを得られる」 「先陣を切って走る君も元気にならいとね」 「………顔色が悪いのは……伊織のせいじゃねぇかよ」 「…………抜けませんでしたからね……辛いですか?」 「怠い……伊織がもっと早く抜いてくれたら……こんなに挟まってる感はなかった」 「愛が募りすぎてるのです……許しなさい」 「許してるけどよぉ……顔色が悪いって言われると……困る…」 「体調が本調子じゃないのもありますよ?」 「………それは否めねぇ……」 「早く元気になりなさい…」 榊原は康太を強く抱き締めた 「さてと、義兄さんの部屋と義父さんの部屋と、どっちから先に行くのですか?」 「父ちゃん」 「では行きますか」 榊原は康太を抱き抱えると、会長室へと向かった 「伊織……下ろせ…」 「……荷物のように担がれたいですか?」 「……それは嫌だ」 「なら大人しくしてなさい どうせ、元気になったらこんな事、させてくれないんでしょ?」 「伊織がしてぇなら……何時でもして良い」 「本当に君は……可愛すぎます」 イチャイチャしながら会長室へと向かう 会長室のドアを叩くと佐伯がドアを開けた 会社では佐伯で通していた 榊原と名乗ると……伊織が迷惑する……と、明日菜は佐伯で通していた 「佐伯、会長室は片付きましたか?」 部屋の中に入ると慎一が片付けていた 康太は「………慎一 駆り出されたか?」と問い掛けた 「はい。佐伯に電話で呼び出されました 瑛兄さんの方は一生と聡一郎が捕まってました」 「一生?引っ越しの指揮はどうしたよ?」 「荷物が総て運び込まれれば……後は片付けだけです 暇ですよね……と、榮倉が引っ張って行きました」 「……そうか……慎一悪かったな」 「構いません 片付けちゃいますね……」 慎一は片付けに戻った 会長室を後にして、社長室のドアをノックすると 榮倉がニコッと笑ってドアを開けた 社長室の中には一生と聡一郎が急がしそうに動き回っていた 瑛太はクシュン……として机の中を整頓していた 「瑛兄……」 「康太……兄は……」 瑛太は康太に抱き着いた 「……京香呼んで来るか?」 「………妻も対して変わりません 飛鳥井にいる女性は皆……男前ですからね」 瑛太は愚痴った 「………京香……夫の事なら片付けねぇか?」 「……片付けます……でも怒られます……」 「………京香も男前だかんな…… もう少し優しくする様に言っておくな」 「良いです……京香は精一杯やってます これ以上……苦しめたくはないです」 「瑛兄……」 「……引っ越し……兄は生きてるうちはもう……したくはありません…」 「もう引っ越しなんてねぇよ!」 康太は笑った 瑛太は康太から離れると片付けを始めた 「伊織、副社長室は片付いたのですか?」 「まだです…… 会社の中を視察と結界張ったりとしてました」 「私の処は……手伝いがいます ですから大丈夫です」 「なら僕は片付け行きます」 榊原はそう言うと康太を抱き上げた 「奥さんは寝てなさい」 「なら家に帰る」 「セキュリティガードが来るのが来週からです 今週は僕の横にいなさい」 「ならいる 瑛兄、またな」 「飛鳥井建設の副社長は妻を持ち運びしてる と、社員が言ってました……本当の事だったんですね」 「………大切な妻ですので! では、義兄さん頑張って下さい」 榊原はそう言い社長室を出て行った 一生はそれを見送り 「………伊織が康太の傍を離れねぇんだよ…」 とボヤいた 瑛太は「弱ってる今、一人にしたくないんでしょ?」と二人を見送り、そう言った 「にしても、やり過ぎ」 一生がボヤくと聡一郎が 「伊織には伊織の考えがあるんですよ 昼行灯の様に妻にかまけてると想ってると…… 手痛い思いしますよ? 多分……それを見せてるだけです スパイでも入ってますかね……」 とニャッと嗤った 瑛太は「このビルは要塞並みの頑丈さがあります しかも迷路……ネズミの捕獲は容易いと想いますよ?」と告げた それにしても、らしくはないのは確かだ 深読みし過ぎる瑛太達を余所に 榊原は何の思惑もなく康太を大切にしていた 康太と伊織は副社長室に戻り、片付けを始めた 「康太、これは真ん中の棚の端にお願いします」 言われる通りに康太は棚にファイルを片づけた ある程度片づけて、榊原は康太を抱き上げた 「お腹、減ってませんか?」 「少し…」 「慎一が君の食事は用意してますよ」 あまり食べれない康太の食事は執事である慎一がやっていた 「最近は固形物食える様になった 沢庵まで……あと少しかな…… 翔の野郎……オムツしてるのに井筒屋の沢庵食いやがって……」 康太は悔しそうに言った 「翔は君に良く似てるんですよ」 「……瑛兄じゃなく?」 「義兄さんより康太に似てます…… 康太……犯ってませんよね?」 「オレは伊織じゃねぇと勃起しねぇよ! しかも……ボイン嫌いなんだよオレは…… あの胸で抱き着かれると……死ぬかと想う…」 康太の言いぐさに榊原は笑った 「井筒屋の沢庵を食べれる様になって下さい…」 榊原は康太に口吻た 「うん……伊織の為に頑張る…」 甘い時間を送っているとドアがノックされた 「はい。どうぞ」 声を掛けると一生だった 一生は副社長室に顔を覗かせると 「慎一が食事にしましょう!と言ってる 会長室へ行くぜ!皆待ってるからな」 康太は一生の背中によじ登ると、一生は仕方なくおんぶした 「………おめぇよぉ…流生じゃあるまいし……」 一生は笑った 一生は康太を背負ったまま会長室に顔を出した 会長室には玲香、京香、聡一郎、慎一 がいた 瑛太は秘書に絞られて疲れてソファーに座っていた 清隆は一生の背中の康太を抱き上げると 「とうとう引っ越しは終わりますね この地に飛鳥井が還って来ました」 「明日は新社屋披露パーティーだかんな」 「ええ。解ってます 沢山食べてモトは取りましょうね!」 「だな。オレは子供に食わせねぇとな…」 「子供達にはガードを付けます 写真一枚撮らせる気はありません」 清隆は言い捨てた 何時になく強気な姿勢に 「父ちゃん、無理してねぇ?」と問い掛けた 「康太、私の大切な孫です 君達夫婦の大切な子供達です 守るに決まってるでしょ?」 「京香、今度から帰りはオレ等が迎えに行く おめぇは瑛智だけ連れて帰れ」 「それなら瑛智も連れて行って欲しい」 「嫌だ…重いんだもん」 「嫌うでない 瑛太の子供であろうて…」 「嫌ってねぇけどな重いんだよ!んとに! なら瑛兄が連れて帰れば良いじゃんか‥」 康太の言い草に瑛太は慌てた 「………康太……私は泣かれたらどうして良いか…… パニックになります…辞めて下さい」 情けない瑛太の言い草に玲香は怒って 「ええい!役に立たぬな! 我が瑛智と美智留は連れて帰ろうぞ」 と申し出た 京香は慌てた 「お義母さん……瑛智と美智留は……自殺行為です」 「………京香……一人ずつ連れ帰るしかあるまいて…」 「ですね……翔達は康太が連れ帰るなら、少しは楽が出来ますね!お義母さん」 「京香、お前はもう少し楽しても良いぞ」 「いいえ!我も飛鳥井の女です! お義母さんと共に明日の飛鳥井を築かねばなりません」 「京香……」 「お義母さん…」 2人は抱き合って……苦労を分かち合っていた 康太は慎一に用意されたご飯を食べていた 総て柔らかめな食事に…… 「………井筒屋の沢庵……」 と哀しそうに呟いた 玲香は「食べさせてやたいのぉ~」と目頭を押さえた 京香は「我の命で……元気になるなら……」と泣いた 「京香、食え!んな事ばっかし考えなくていいかんな!」 京香は泣きながら食事を始めた 「京香、明日は社長夫人として凜としてろよ 母ちゃんも明日のドレス用意したのかよ?」 「康太、美緒に手伝って貰って京香と一緒に作りに行ったわい!」 と玲香は嬉しそうに話題を変えた 京香も「明日は我の本気を見せてやる!」と瞳をキランッと光らせた 「楽しみだな」 「明日は父も正装します」 清隆もウキウキと康太に言った 「お!父ちゃんの正装かぁ……久し振りだな」 「康太は何を着るんですか?」 「オレは正装のスーツでいいや……」 「駄目です!飛鳥井の顔ですからね君は」 「……オレ……子供と過ごしてるからいい」 「駄目です!ちゃんと真贋として仕事して下さい! 父が君に変わって子守はします!」 「……あ、ずりぃ……父ちゃん……」 「瑛太と伊織と康太がいれば父は暇な存在で良いのです」 清隆はそう言い笑った 瑛太も玲香も京香も笑っていた 康太も榊原も聡一郎も、一生も慎一も笑っていた 引っ越しの暫しの休憩だった

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