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第60話 暫しの休養
榊原は引っ越しの片付けを終わると、翔達を託児所に引き取りに行った
康太と榊原の顔を見ると、子供達は飛び出して来て喜んだ
流生が「かぁちゃ!」と駆けてくる
音弥が必死な顔で「かぁちゃ!」と走って来た
翔も「かぁちゃ」とリュックを取りに行った
太陽と大空は榊原の足に抱き着いて離れなかった
康太が「帰る支度して来いよ」と言うと、皆一斉にリュックを取りに行った
リュックを保母さんに手伝って貰って背負う
そして靴をはいてワクワク笑顔で、とぅちゃとかぁちゃを見上げていた
康太は子供と同じ視線にしゃがむと
「楽しかったか?」
と尋ねた
翔は頷き
流生は「かぁちゃ」と甘え
音弥は「おうた」と歌っていた
太陽は「かぁちゃ」と言いポンポンを叩いた
大空は「きゃなも」と言いやはりポンポンを叩いた
お腹が減っているのだ……
「うし!ファミレスに寄って飯食って帰るか?」
康太が言うと榊原は慎一に連絡を入れた
食事の世話を一手に引き受けてるのは慎一だったから、夜は要りません、と連絡した
慎一は解りました!と言い電話を切った
保母さんに「さよなら」をして託児所を後にする
我が子はちゃんと保母さんにさよならが言えていた
5人は整列すると「「「「「ちゃよにゃら」」」」」と言いペコッとお辞儀をした
保母さんは笑顔で「また明日ね」と手をふった
託児所を出ると榊原は
「奥さん、歩道の所で待ってて下さい
僕は車を取りに行って来ます」
と言い会社の中へ入って行った
康太と子供達は榊原を待った
榊原はベンツが路肩に停めると、運転席から下りた
「後ろに5人……大丈夫ですかね?」
「どうだろ?チャイルドシート要るのか?」
「義母さんと京香の車からチャイルドシートは取れましたよね?」
「なら大丈夫かな?」
新米とぅちゃとかぁちゃは不安ばかりだった
榊原は我が子を後部座席に座らせた
そして扉を閉めると、康太を助手席に座らせた
運転席に乗り込むと、我が子に振り向いた
「ちゃんと座ってるんですよ?」
榊原が言うと子供達は
「「「「「 あい! 」」」」」と返事した
榊原は笑顔で康太を見た
「それでは行きますか?奥さん」
「おう!行こうぜ」
家族で過ごす時間
とても大切な時間だった
翔達とは離れて過ごした時間が長い
飛鳥井にいると危険だと離して暮らした時間が長い……
康太は子供達に「お子様ランチだぜ!」と言うと
「ちょれ、にゃに?」と流生が聞いてきた
「………お子様ランチ……食わせてなかったけ?」
「外食に連れて行ってませんからね…」
「これからは時々、連れて行かねぇとな…」
しみじみ康太は語った
何時ものファミレスに到着すると、見慣れた車が停まっていた
「伊織、あれって、一生のだよな?」
「ええ。あのナンバーは一生のですよね?」
榊原は車を停めると運転席から下りた
そして後部座席のドアを開けると、子供達を車から下ろした
康太も車から下りると、子供達と手を繋いで、店内へと向かった
ヨチヨチ 子供達の歩調で歩いていく
ファミレスの階段も、手伝えば上れる成長ぶりだった
「すげぇな……」
かぁちゃは感激して…涙が零れた
「康太……」
「子供の成長って嬉しいけど……淋しいな」
「まだまだ……これからですよ?」
「……ん……嬉しくって…」
康太は涙を拭って店内に入って行った
店員が近付くよりも早く一生が康太に近付いた
「来るだろうと想って待ってた」
一生はニカッと笑ってそう言った
一生と共にテーブルの方へと向かう
テーブルには子供の座る椅子が5個用意してあった
康太と榊原と一生は子供達を椅子に座らせた
テーブルに着くと、聡一郎と慎一に混じって瑛太も一緒にいた
「瑛兄、車はどうしたよ?」
最近乗ってる車は康太のプレゼントしたベンツだった
康太は中学の時に潰したベンツをやっとこさ瑛太にプレゼントしていた
「車は飛鳥井の家です
1台あれば事足りるので一生の車で来ました」
「たまには良いよな」
「そうですね
翔達が嬉しそうです」
瑛太は子供達を見て笑顔を溢れさせた
「……あれ?流生……どうしました?」
流生は泣きそうな顔をしていた
康太は流生の顔をのぞき込んだ
「どうしたよ?流生」
流生は下を向いた
「流生、お子様ランチだぜ!
生まれて初めて食うんだろ?」
康太が言うと流生は顔を上げて笑った
「ちょれ!たべゆ」
康太は流生の頭を撫でた
「家に帰ったら、かぁちゃと風呂に入ろうぜ!」
「りゅーちゃ みゃきぇにゃい」
お風呂場で水鉄砲であそぶのが、かぁちゃとのお風呂だった
かぁちゃとお風呂場に入ると、遊んでくれる
とぅちゃとお風呂場に入ると、静かに入る
子供達は楽しそうだった
「一生」
「あんだよ?」
「おめぇ……あからさま過ぎなんだよ」
康太は一生に釘を刺した
地震があった時、怖がる流生を一番抱き上げて連れて行った時
音弥は一番最後だった
その時の事を音弥に言われた
かじゅ ちらい
とまで言われた
かじゅ ちゅきにゃのは りゅーちゃらけ
この台詞には堪えた
どの子も変わりなく接して来たつもりなのに……
我が子だけ……依怙贔屓してたのか?
以来……少し流生に触るのが怖くなった
康太はそれを言ってるのだ
一生は流生の頭を撫でた
「かじゅ……」
「お子様ランチだぜ!
俺が食いたい程のやつなんだぜ?」
「りゅーちゃの かじゅ あげゆ」
「カズは自分の頼んだからな流生が食え」
流生は頷いた
「音弥、風邪か?」
一生は音弥の鼻水を拭いた
「おとたん らいじょうぶ」
一生に鼻水を拭いて貰って音弥はご機嫌だった
「聡一郎、永遠は?」
康太は聡一郎に問い掛けた
「永遠は風邪気味なので、京香が瑛智と一緒に見てるから、行ってらっしゃいって言ってくれたんだ」
「風邪気味なのか?
病院に連れて行ったかよ?」
「まだです、明日悪化してたら悠太に連れて行く様に言っておきます」
「おめぇが連れて行けばいいやん」
「明日はパーティーです
そして明明後日から数日間、僕は横浜にはいません」
「……あ、そっか白馬が本格的に始動したからな」
副社長の佐々木文弥に任せっきり、と言う訳にはいかなかった
「聡一郎、永遠は誰か見るだろ?心配するな」
「ええ。心配してません」
聡一郎は笑ってそう答えた
お子様ランチが運ばれて子供達のテンションは上がる
流生がお子様ランチを見て目を輝かせていた
「にゃに きょれ!」
音弥が「りゅーちゃ」と呼ぶと
流生が「おとたん」と返した
太陽が「きゃけゆ」と声が裏返っていた
翔が「ちな きゃな……」と名前を呼んだ
大空が「ちゅごい」と叫んだ
太陽が「きょれ…にゃに?」と興奮していた
一生がご飯の旗を取ってやると、全員 瞳を輝かせてプレートを見ていた
ピラフ プリン スパゲッティ ハンバーグ
子供の好きなのが全部乗ってるプレートだった
翔が静かにハンバーグに食らいついた
他の子供達も、それを皮切りにお子様ランチを食べ始めた
お口をスパゲッティのソースでベタベタにして必死に食べて行く
康太はそんな子供達を幸せな顔で見ていた
サラダとスパゲッティとグラタンが来ると、榊原は康太と半分ずつにして取り分けて行った
「食べれるだけで良いですからね」
「おう!皆で食うと美味しいな」
康太は笑っていた
流生はプリンをスプーンに救うと、かぁちゃに差し出した
「流生、全部食え!」
「かぁちゃ…」
康太は必死にスプーンを差し出す流生の所へ行くと、プリンを食べた
「美味ぇな!ほれ流生も食え」
康太が流生のスプーンを持つと流生に食べさせた
「おぃちぃ、ねっ!」
流生は首をかしげて、ねっ!と言った
そんな時の顔が堪らなく可愛かった
康太が席に着くと榊原が、康太にスプーンを差し出した
「あ~ん して下さいね」
「……伊織……」
「流生だけなんて、ズルいです」
「………え??……伊織…」
康太が躊躇してると一生が
「早くお口を開けなはれ」
とダメ押しした
康太は仕方なく……お口を開けた
すると榊原の食べてるドリアを康太に食べさせた
流生は「いっちょ!」と喜んでいた
康太は顔を真っ赤にしていた
「可愛いだけです」
「………伊織……外では止めろよ…」
「気にしなくても大丈夫です」
榊原は嬉しそうな顔で笑っていた
康太はそれ以上……何も言えなくなった
食事を終えると、瑛太が支払いに行った
「……え……義兄さん……」
「私がいる時は奢られておきなさい」
瑛太はそう言いレシートを持って精算に行った
康太は流生を持ち上げると一生に渡した
翔を持ち上げると聡一郎に渡し
太陽を持ち上げると慎一に渡した
榊原に大空を渡して、康太は音弥を抱き上げた
「ポンポン膨れたか?」
康太が聞くと音弥は頷いた
「あにょにぇ…」
「あんだよ?音弥?」
「おとたん……ほくちょ…あいちゃい」
逢いたいと音弥は言った
康太は慎一を見た
「………子供って病院はダメなんだよな?」
「待合室に北斗を連れて行けば逢えます」
「……大丈夫か?」
「北斗に逢ってやって下さい」
慎一はそう言った
「瑛兄はどうするよ?」
康太が聞くと瑛太は
「私も北斗に逢いに行きます」と答えた
駐車場へ行き子供達を後部座席に乗せると、榊原は妻を助手席に乗せた
妻にキスを送ってドアを開けると榊原は運転席に乗り込んだ
エンジンを掛けて主治医の病院へと向かう
主治医の病院は移転していた
地下二階の駐車場を完備したビルだった
地下二階は住民
地下一階は病院の来院者専用駐車場だった
榊原は主治医の病院へ向かう
車を地下駐車場へと入れて駐車すると車から下りた
子供達を後部座席から下ろすと康太のドアを開けた
康太は何処かへ行かない様に注意しながら、エレベーターへと向かった
慎一が康太の傍に来ると
「俺が北斗を連れて来ます
康太達は待ってて下さい」
と告げた
エレベーターに乗り込み一階で下りた
1階は診察
2階と3階に検査の機材を大学病院に並みに備え
3階から5階までは入院施設となっていた
当初、ワンフロアーで終わらせるつもりが、最新の機材を入れたせいで場所を取って入院施設を3階から5階まで広げねばならなくなった
北斗は移転した病院に入院していた
慎一も一階で下りて面会の申し込みをした
そしてエレベーターで病室へと向かった
暫くすると車椅子に乗った北斗が待合室にやって来た
北斗は顔色も良く、ニコニコ笑っていた
康太は北斗に近寄った
「顔色も良いな……痛くはねぇか?」
「康太くん、大丈夫だよ
父さんが毎日来てくれるんだ
飛鳥井の人も、会社の人もお見舞いに来てくれる
ボク……物凄く恵まれてるって想うんだ…」
「北斗、今日は流生達がおめぇに逢いに来たぜ」
流生は北斗目掛けて走った
「ほくちょ……」
「りゅーちゃん元気だった?」
北斗は流生を撫でた
「ほくちょ…」
翔も泣きながら北斗の手を取った
「かけるくん 修業…頑張ってる?」
北斗の周りに子供達が囲んだ
「ほくちょ……ぎょほん……」
音弥が泣きながら訴えた
「退院したら、ご本読みに行くからね
もう少しだけ待っててね」
音弥は頷いた
「ほくちょ……おほちちゃま…」
太陽は北斗が教えてくれるお星様が好きだった
「またお星様見ようね!ひなちゃん」
太陽は頷いた
「ほくちょ……ちゃみちぃ…」
大空は訴えた
「かなちゃん……ボクも淋しいよ……」
北斗は泣き出した
気張っていたのに……
心配掛けない様に……頑張っていたのに……
康太は北斗の頭を撫でた
「……ボク……帰りたい……」
初めて聞く北斗の弱音だった
一生は北斗を抱き締めた
「治ったら……帰れる……
あと少しだ北斗……」
一生は北斗を抱き締めた
「父さん…少しは……歩けるかな?
何時も父さんに迷惑掛けるから……」
掛けない様になれるかな……
北斗は呟いた
「父さんは迷惑だなんて想ってない
北斗は大切な息子だ…そうだろ?北斗」
「………父さん……」
「弱音吐いても良い
頑張らなくても良い
年相応で良い……俺に迷惑だなんて想わなくて良い
父さんは北斗が大切だ……
北斗の為なら……何だって出来るんだからな…」
「……父さん……」
「北斗が我が儘言ったって父さんは揺るぎねぇ…」
「嘘ばっかし…直ぐに康太くんに助けを求める癖に…」
「何を、コイツ…」
一生は北斗の頭をクシャッと撫でた
「疲れたろ?もう部屋に行って眠れ」
「大丈夫だよ!」
北斗は康太の子供達と仲良く遊んでいた
嬉しそうに遊ぶ姿は、優しいお兄さんだった
「ほくちょ……りゅーちゃ…まっちぇる」
北斗は流生を撫でた
「待っててね
そしたら沢山ご本読んであげるからね」
北斗と別れて、瑛太と聡一郎は歩いて帰ると、先に帰った
慎一と一生は北斗と共に病室へと戻った
康太と榊原は我が子を連れて駐車場まで向かった
駐車場へ行き我が子を車に乗せる
そして妻を助手席に乗せて飛鳥井の家へと向かった
子供達は眠そうだった
駐車場に車を停めて、飛鳥井の家へと入って行く
飛鳥井の家へと入ると、榊原は子供部屋へと向かった
子供達をパジャマに着替えさせて、歯を磨く
そしてベッドに入れた
流生は眠かったのか……
ベッドに入ると寝息を立てていた
他の子供達も、眠りに落ちた
補助灯だけ点して、康太と榊原は子供部屋を後にした
子供部屋を出る時
チャイルドロックを掛けて部屋から出られない様にした
ヨチヨチ歩く子供達が目を醒ましても部屋から出られない様にしてあった
防犯上、それは必要不可欠だった
榊原は確認して子供部屋を後にした
寝室に戻りスーツを脱ぐと、康太はベッドに潜り込んだ
「寝ちゃうんですか?」
「……ん……疲れた…」
「夫婦の時間ですよ?」
と、話してる最中にも……
康太の寝息が聞こえた
榊原は諦めて……大人しくベッドに入った
愛する妻を抱き締めて……眠りに落ちた
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