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第68話 真実 ①

流生以外は保育園へと向かった 残された流生は康太の膝の上に乗っていた 一生と聡一郎は康太の代わりに会社に向かった 隼人は今日は撮影でいなかった 榊原は戸浪に電話を掛けた 「榊原伊織です 戸浪海里さんに話があるのですが…」 電話を取ったのは田代だった 田代は戸浪と電話を変わってくれた 「若旦那ですか? 康太が亜沙美さんと話がしたいと言ってます 今日、これから伺っても宜しいですか?」 『………亜沙美が……康太から電話があったらお逢いすると伝えてください……と言っていた 亜沙美は会社にいます 都合の良いお時間に会いに来て下さって構いません』 「解りました……9時半頃お伺い致します」 『お待ちしております』 戸浪はそう言い電話を切った 榊原は康太を見た 康太は慎一を見た 「慎一 一生は会社に行ったか?」 「はい。渋々行きました 本当なら貴方と共に行きたかったと思います」 康太は何も言わずに立ち上がった 榊原が康太を引き寄せた 「行きますか?」 「おう!トナミ海運に行こうぜ!」 康太は流生を抱き上げた 「流生、お昼はお子様ランチ食うか?」 「りゅーちゃ ちなときゃなとかけゆとおとたんと たべゆ」 一人では食べないと流生は言った 「なら保育園は早めに終わって飯食いに出掛けるか!」 康太が言うと榊原が嬉しそうに 「それは良いですね」と答えた 優しい子に育った… 兄弟想いの優しい子に…… 人の痛みの解る優しい子に…… 親の願いを一身に受けて、優しい子に育っていた 5人……仲良く…… 助け合って生きて行ってくれ…… とぅちゃとかぁちゃは…… お前達が大きくなるまで生きられないかも知れないから…… お前達は助け合って生きて行ってくれ…… それが康太の願いだった 遺して逝かねばならない……現実を感じて生きている康太の想いだった 康太は流生を高く高く……掲げた 「流生……強くなれ……」 腕の痛みは子供の成長を教えてくれる 抱き上げると重くなった 高く掲げると……もうじき……それが出来ないと想う 日々の成長が嬉しくもあり…… 悲しかった トナミ海運に行き、受付嬢に挨拶に行くと 「飛鳥井康太様 社長から伺っております どうぞ、お通り下さい」 「ありがとう! 流生、バイバイは?」 流生は受付嬢にバイバイした 子供に関しては一切問い掛けるな……と通達が来ていた 飛鳥井康太が子供を連れていても決して子供に関して尋ねてはならぬ! ……と、言われていた 受付嬢は流生に手を振って笑顔で見送った エレベーターに乗り込むと最上階を目指した 最上階に到着しエレベーターから下りると…… 戸浪亜沙美がドアの前に待ち構えていた 「お待ちしておりました」 亜沙美は康太に深々と頭を下げた 「………貴方に確かめたい事があります」 「はい……そろそろお越しになる頃かと想っておりました」 亜沙美は自分の部屋のドアを開けると、康太達を迎え入れた 亜沙美は康太と手を繋いで歩く子供に瞳を止めた ニコッと微笑むと流生も笑った 流生はペコッと頭を下げ 「りゅーちゃ!」と自己紹介した 亜沙美は「お利口ね……」と流生の頭を撫でた 康太は流生を慎一に預けた 「……単刀直入に聞く…… 貴方は女神の力がおありか?」 「………何故……そう思われるんですか?」 「流生は封印せねばならぬ程の力を持って生まれた 元々の力の他に…女神の力を持って生まれた コントロール出来ないのは解っていたから封印した 力を剥奪されたとしたら……出ては来ない筈だ 流生は封印しても尚……強い力を秘めてる 貴方も流生を目にすれば解る筈だ… だとしたら……この先……貴方の望む様に来世の生を終えた後昇華すると約束したが……反故にするしか出来なくなる このまま……子供を妊娠したなら……間引く……この世に産み出させる事は出来ない 人の世に神を産み落とせば…… この世は歪んで行くしかない」 「炎帝、貴方の予想通り、私は力も記憶も失ってはおりません ………せめて……もう一度……愛する人と……愛し合いたい……と閻魔に頼みました 閻魔は逢えるとは保障しない……と言いました でも私は……飛鳥井康太に所縁の地に根を下ろした 何時か……赤龍に逢えたとしたら……もう一度……赤龍を愛したかった 赤龍の子が欲しかった 次代の赤龍を継げる子が欲しかった それ故が……私の存在理由だったのです ……あの人の子をこの世に産み落とした今‥‥ もう思い残す事はありません 私を昇華して下さって構いません……」 「………女神……お前の娘は力なき者になり地龍に嫁いだ」 「………置いて来た……銘が何時も気掛かりでした…… それを聞いて安心しました 愛してやれなかった子でした 貴方に託すしか……出来なかった 貴方は……私との約束を守ってくれました 本当に……ありがとうございました……」 「…………女神……力を……」 「はい。」 「記憶はどうする?」 「記憶は遺しておいて下さい 私の子供を忘れたくはないのです…… 逢えなくても……私は何時も我が子の幸せは願っております」 「………どうして閻魔は貴方を…… そのまま人の世に堕とした?」 「情けに御座います 愛してやれなかった……せめてもの罪滅ぼしだと言われました 炎帝が……何時か私の前に現れる時…… その時は力は消える……それでよいな…と謂われました 私はそれで良いと了解し人の世に墜ちました 今……炎帝、貴方が私の目の前に現れた 私は力をなくす…… 私は流生をこの世に産み堕とせて本当に良かったと想ってます」 「女神……閻魔はこの日の為だけに…… 天帝を人の世に堕とした 人の再生の神……天帝が人の世にいると言う事は……そう言う事なんだと想う」 「………私は赤龍に愛されて幸せでした 閻魔には大切にされ…… 愛されこそしなかったけど…… 大切にして戴け……幸せです」 「………兄者を許してやってくれ…… 兄者を苦しめたのは……総ては炎帝のせいだ…」 「違います……炎帝 閻魔の総ては……炎帝を護る為に在るのです あの方の心にはそれしかない 深い愛の総ては炎帝……貴方が占めてる 愛とかそんな簡単なモノなら妬けて嫉妬も出来るのですが…… あの方の想いはそんなに簡単なモノではない 命より大切な存在に妬く理由すら思い付かない 私は目の前に現れた簡単な男を愛した 私だけを愛して…… 未来永劫……愛を誓ってくれる男を愛した 私はその愛だけで生きて逝ける ………未来永劫、私の愛は赤龍に捧げました ですから誰も愛せはしない…… 炎帝、 今世私の生が尽きたなら昇華して下さい 来世の命など私には不要です 私の魂の球体は赤龍に渡して下さい 姿形はなくなろうとも私は赤龍の傍にいたいのです せめてもの情けを下さい……」 「……女神……お前が望むなら… オレは……冥府で夫婦にさせても良いと想っている…」 「………炎帝……貴方が皇帝炎帝になられた時……私の魂を解放して下さい 赤龍は貴方の傍を離れない 貴方のいない魔界にに逝る事は皆無です…… 赤龍は弟 青龍を誇りに想っています そして炎帝……貴方に総てを捧げている そんな男が貴方のいない世界で生きて逝けるとは思いません」 「………なれば……オレが冥府に還る時 冥府の片隅に……置いてやろう 冥府には……カタチあるものは生息は出来ない…… 無の世界に……誰も入れはしない だが赤龍は来るだろ? オレと共に何処でも来るだろ? なれば冥府に来れば良い その時……お前達は夫婦として結ばれよ」 女神は深々と頭を下げた 「………炎帝……貴方の情け深さには…… 言葉もありません……」 「……だから今は泣いてくれ……」 「炎帝、私は幸せで御座います この世に赤龍がいる 結ばれなくても……あの人を見ていられる 私はそれだけで……幸せで御座います」 「女神、お前は視れば解るだろ? 流生の継がれし力を……」 「歴代最高の赤龍になれる事間違いなし……で御座います 我が息子……流生は貴方の子供として生きられて幸せです」 康太は流生の背中を押した 「流生、亜沙美だぞ」 「あちゃみ?」 「そう、抱っこして貰うと良い」 流生はトコトコ歩いて行き亜沙美に手を伸ばした 「あちゃみ、らっこ」 手を伸ばす我が子が愛しかった こんなに大きくて育って…… 亜沙美は流生を抱き上げた 「あちゃみ」 「流生、良い子ね」 「りゅーちゃ あちゃみ ちゅき」 流生はそう言い亜沙美の頬にキスした 亜沙美は絶えきれなくなって泣いた 「………流生……強い子になるのですよ……」 母は………何時も貴方の幸せを願っています 貴方を手放した母を…… 恨んでも良いから…… 強く………育って…… 貴方が泣いていても……苦しんでいても…… 母は……抱き締めてあげられない ごめんね………流生…… 流生…… 流生……… 我が子を目の前にして…… 親だと名乗れぬ一生は……辛かろう 一生の方が辛い道を逝かせてしまった 「あちゃみ きょれ かじゅきゅれたの」 流生はキラキラ光るネックレスを亜沙美に見せた 流生の首には銀色のネックレスがあった ネームプレートには…… RYUUSEI ASUKAIと名前が刻んであった 流生はネックレスを首から外すと亜沙美に差し出した 「きょれ あげゆ」 亜沙美は信じられなかった 「くれるの?」 流生は頷いた 「きょれ かじゅきゅれたの」 一生…… こんなにも貴方の想いが……愛が伝わる 貴方は……私の分もこの子を愛して護っているのですね…… 一生……いいえ……赤龍…… 私は貴方を愛して良かった 愛したのが貴方で良かった…… 亜沙美は流生を強く………抱き締めた 離したくない…… 我が子なのだから…… だけど……この手で育てられない…… 銘も…… 流生も…… 赤龍……貴方の子は…… 私の腕をすり抜けて逝く…… だけど確かな愛があった 赤龍……貴方が愛してくれているのね それなら…… それで良い 貴方がこの子を護って育てて下さい 貴方の愛です 「流生……かじゅ……好き?」 「ちゅき!かじゅらいちゅき!」 亜沙美は流生の頬にキスを落とした 康太と榊原はそれを静かに見ていた 慎一は一生の分も…… 流生と亜沙美を見ていた 一生……お前…… こんなにも愛されてるぞ お前だけを想って お前だけに愛を誓っている 愛を貫いている 慎一は静かに涙を流した 康太は重い口を開いた 「………亜沙美……日取りは決めて良いか?」 「はい……何時でも構いません この記憶さえ遺っていれば良いのです この想いさえ忘れなければ……良いのです……」 「なら伊織が部屋を取る…… そこへ……来てくれ……」 「解りました…」 「伊織……近日中の予定で部屋を取ってくれ……」 「解りました 電話で予約を取ります」 榊原はホテルニューグランドへ電話を入れた フロントとやりとりして予約を取ると手帳にメモして康太に渡した 康太はそれを亜沙美に渡した 「………じゃ……待ってる…… 明後日は一日……ホテルにいるから心の整理が着いたら来てくれ……」 「解りました……」 「………お前を苦しめたい訳じゃない…… 誰よりも幸せになれと祈ってる兄者の為に……幸せになってくれ……」 「………あの方に……もう心苦しめる必要はないとお伝えください…… 私は幸せで御座います……」 亜沙美はそう言い深々と頭を下げた 「女神……幸せになれ…… 今世……命尽きる時……オレはお前の魂を昇華してやる お前の魂を球体にして愛する男に届けてやる」 亜沙美は美しく気高く微笑んだ 女神として君臨してい顔をしていた 「私の人生は幸せに満ちております 愛した男を愛し抜ける…… その事以上の幸せなど御座いません」 「………そっか…… 明後日……待ってるぞ」 「はい。必ず伺います」 亜沙美は流生を康太へ差し出した 流生は嬉しそうな顔をして 「かぁちゃ!」と言い抱き着いた 「流生、亜沙美を忘れるな……」 流生はニコッと笑って頷いた 榊原は康太の手から流生を受け取った 「とぅちゃ!」 「還りますよ流生」 流生は「あい!」と言い頷いた 「流生はオレ達が愛して育てて逝く…」 「はい!心配などしておりません」 亜沙美は流生のネックレスを康太に差し出した 「貰ってやれ…… 流生があげゆ……と言ったんだ貰ってやってくれ……」 「………それでは一生が……」 「……一生はそれで良いと想うだろ… 流生がする事にアイツは何も言わない」 「……そうですか……なれば……身に付けます」 「………流生も……アイツも喜ぶと想う…」 亜沙美はネックレスを胸に抱いた 康太は亜沙美に背を向けた 慎一がドアを開けると、後ろを振り返る事なく…… 康太は部屋を出た 榊原は流生を抱っこして康太の後を追った 慎一はネックレスを胸に抱き静かに泣く人を見て………静かにドアを閉めた 亜沙美の部屋を出て還ろうとすると田代に捕まった 「康太さん……そのまま帰る気ですか? 社長はウキウキ待っておいでです」 「………今日は流生もいる」 田代は流生を榊原から貰って抱き上げた 「流生、田代のおじちゃんだぞ! 康太さん達は社長室にどうぞ!」 康太は笑って社長室のドアをノックした 社長室の中から戸浪が笑顔で出て来た 「康太、待ってました!」 「若旦那、忙しくないのか?」 「もぉね、忙しすぎて……多少サボりたいのです…… 田代も逃げました……外にいませんでした?」 「田代なら流生を連れて行った」 「流生が来ているのですか! 田代の奴……私よりも先に流生に逢うなんて!」 戸浪は怒りながら田代を探しに行き、流生を奪還して来た 「流生、海里おじちゃんですよ!」 「きゃいり!」 戸浪はデレデレだった 「久しぶりに翔達にも逢いたいです 流生がこんなに大きくなってるって事は、翔や音弥、太陽と大空も大きくなったんでしょうね 沙羅が逢いたがってました」 「海……もうじき1歳か……」 「はい……」 「煌星を貰い受ける時が近付くな……」 戸浪は苦しそうに……頷いた 「流生、来年桜林の幼稚舎に通うんですよね?」 「その予定だ」 「入園式、ご一緒しても良いですか?」 「構わねぇ…って言うか助かる 5人も入園式だかんな大変なんだよ」 「5人全員……愛されて育ってますね」 「………愛してるけど……淋しい想いもさせてる……」 ニューヨークに行って一ヶ月留守にした事を言ってるのだろう 「幾ら淋しくても……この子達は……君達夫婦を愛してますよ 流生、かぁちゃととぅちゃ好きですか?」 「りゅーちゃ とぅちゃ かぁちゃ らいちゅき!」 流生はニコッと笑って答えた 「こんなに愛されて…… 亜沙美は……喜んでます」 「………若旦那……」 「少し仕事が落ち着いたら飛鳥井に遊びに行きますね! 夜明けまで飲み明かしたいですね!」 「待ってるかんな!」 「流生達に逢うのが……私も楽しみなんです 君達は……私の理想だと言っても良い…… 煌星を引き取り……明日へと繋げる日々の支えは……康太……君です」 「んな難しく考えるな…… オレは我が子が愛しい 何時か憎まれる日が来ても…… オレは我が子から目を離したくないだけだ…… オレは……我が子が成人するまで生きられないかも知れねぇかんな…… 日々を無駄にしたくねぇんだ」 「……康太!そんな事……言わないで下さい 君のいない日々など……想像したくもない……」 「………若旦那……流生、重くなったろ?」 「ええ……こんなに大きくなって……」 「……亜沙美の手から渡されて3年だ……」 「初等科の入学式にはランドセルを贈らせて下さい!」 「なら今から受け付けとくな 何でか皆……初等科入学の時に贈ってくれると言ってるかんな!」 「………誰が言ってるのですか?」 「神野に相賀、須賀、安曇勝也、蔵持善之助に脇田誠一、堂嶋正義に三木繁雄……栗田に陣内……朝倉に……藍崎……他にもいるけどな……我が子の入学式にはプレゼントしたいと行ってきてる……」 「……藍崎もですか……元気ですか?」 愛してやれなかった…… 泣かせて……捨てた 最低の男だけど……幸せになって欲しいと祈ってた人だった…… 「………藍崎……倒れたんだよ 今 入院してる……」 「………え???」 戸浪は顔色をなくした 「容態は……」 「……んな命に関わるもんじゃねぇ…… 忙しすぎて飯食わなかったからな…… ぶっ倒れた 篠崎を今、一生の牧場に行かせてるからな 白馬は藍崎が責任者としてやってる 責任感が強いからな……許容量を超えて仕事していた 怒って休養を言いつけといたかんな…… 暫く休めば大丈夫だ アイツには今愛する奴もいるからな大丈夫だ」 「………そうですか…… 泣かせてばかりでしたからね… 幸せでいて欲しいと願ってます」 「……大丈夫だ若旦那……苦しまなくて良い……」 康太は戸浪を抱き締めた 流生は康太に抱き着いて笑っていた 「かぁちゃ」 流生はキャッキャと笑っていた 飛鳥井康太の懐の深さに…… 甘えて護られて…… こんなに泣き虫になってしまった…… 「……君は私を弱くする……」 康太は笑った 戸浪の頭をグシャッと掻き回し撫でた 「愛してやれ…… 藍崎にやれなかった分……沙羅を愛して煌星を愛してやれ……」 「………はい……」 康太は流生を慎一に預けると、戸浪をギュッと抱き締めた 亜沙美と何を話したのか…… 戸浪は一切聞かない 康太のする事に…… 戸浪は疑問を問い掛けない 在るがまま受け入れて…… 前を向いていく 「若旦那、野坂って作家知ってる?」 「野坂知輝?」 「そう!彼の書いてる熱き想い って作品知ってる?」 「はい!読んでます」 「あれな、映画化する 榊 清四郎が主演で脚本は榊原伊織 伴侶が書く」 「………君が言っていた……伴侶が書く作品で映画化すると言う…… あの時の話が……具現化するのですか?」 「覚えていてくれたんだ」 「熱き想い……確かにあの作品は読んでて榊 清四郎を思い浮かべさせます」 「あの作品は……この世に出す気はなく野坂が書いてた作品なんだ その作品を……愛する男の為にこの世に出した…… 野坂の愛だ その愛が……どの様に化学変化をおこしラストへ向かっていくか…… 楽しみにしてる作品なんだ 完結まで1年はある 2年間野坂は誰に見せる事なく書いていた きっとラストは野坂も想像も付かない終わりになるんだろう 完結を迎えた後、映画化する権利は得た 根回しは完璧だ…… 後は……伊織に脚本を書かせて映画化にする やっと射程範囲内に……見えて来た」 「映画化の時にはトナミ海運は全面協力させて戴きます それがトナミの命を永らえさせて下さった貴方への恩返しになるのなら…… トナミはスポンサーとして名乗り上げます」 「………ありがとう……」 康太は嬉しそうに笑った 戸浪は蔵持善之助と飲む機会に話そうと思った 安曇にも堂嶋にも教えないと恨まれるか…… 三木なんか教えないと恨みそうだし…… そっか……皆を呼んで飲めば一石二鳥か…… 相賀や須賀、神野も呼べば良い 戸浪はニコニコ笑っていた 「じゃ、若旦那、帰るな」 「えぇ!もうですか?」 「午後から会食あるんだろ? その前に会議が入ってるんじゃねぇのか? 貴重な時間を使わせて悪かった」 「………君といられない時間が恨みがましいです」 「また逢えるさ……」 「絶対ですよ!」 「おう!今日は本当にオレの我が儘を聞いてくれてありがとう」 「亜沙美が決めた事です 私は何もしてません 君に逢えたからラッキーでしたが……」 康太は立ち上がると、榊原も立ち上がった 榊原は慎一から流生を受け取ると、床に下ろした 流生はとぅちゃと手を繋いだ 康太は背を向けると片手をあげた 慎一はドアを開けた 康太は社長室を後にした 慎一がエレベーターのボタンを押すと、ドアが開いた 康太は流生を抱き上げて 「バイバイしろ!」と言った 流生はバイバイと手を振った 亜沙美はドアから顔を出し……流生に手を振った さよなら…… さよなら…… 亜沙美は手を振った エレベーターのドアが閉まると……流生は見えなくなった 亜沙美はそれでも1階にエレベーターが到着するまで手を振っていた そして窓へ向かった 階下の駐車場は見えなかった だが、あの子は……還って逝く…… 亜沙美は何時までも……窓の外を見ていた 流生…… 顔が……一生にソックリだった 男の子は母さん似の方が幸せになれるというのにね…… 亜沙美は何時までも一生似の流生を思い浮かべていた 大人になったら……一生の様に…… 亜沙美は流生のくれたネックレスを胸に抱き…… 我が子を想った 康太は会社に顔を出すと一生が待ち構えていた 康太は流生を一生に渡した 一生は流生を抱き締めた すると……懐かしい…… 愛しい香りがした 愛したあの人の香りだった 一生は康太を見た 康太は背を向けて一生を見ていなかった 慎一は康太を座らせ、プリンを前に置いた 主の為ならば……いつ何時何があろうとも……慎一は主の為に欲しいモノを用意する 慎一は康太の前に立つと……一生からの視線を塞いだ 一生は流生の首にネックレスがないのに気付いた 「……あれ?……」 一生が言うと流生はニコッと笑って 「あちゃみにあぎぇた」と答えた 一生は絶句した やはりこの香りは…… 一生は康太を見た たが……慎一が康太の立っていて……見えなかった 「かじゅ ぎょめん……」 大切なネックレスを亜沙美にあげてしまって一生が怒ってると想って謝った 「亜沙美……喜んでたか?」 流生は頷いた 「そっか……なら怒らない 流生があげたかったんだろ?」 流生は頷いた 「良かったな、喜んでもらえて……」 亜沙美…… 手元に置けぬ子を見て…… 何を想った? 亜沙美…… 康太は一生を見ていた 「伊織……一生と二人だけにして欲しい……」 榊原は立ち上がると流生を抱き上げた 「隣の君の部屋にいます」 そう言い慎一と共に副社長を後にした 「………一生……お前……に話がある 亜沙美は来世の命を放棄した…… 今世命が尽きたらオレが昇華しに行く 亜沙美の魂をお前に渡す…… お前はどうする? 来世……力哉を魔界に連れて行くなら…… 力哉は苦しい想いをするだろう……」 「………亜沙美の魂を……俺に?」 「それが亜沙美の願いだ……」 「…………俺は……」 「答えは急がなくて良い だが……オレが冥府に還る時…… お前はどうするよ?」 「……着いて逝く…… 冥府では存在すら出来ないと解っていても……お前と共に逝く!」 「………なれば冥府の片隅に置いてやろう 女神と……夫婦になって暮らすが良い…」 心が揺れる…… 優柔不断な心が揺れる…… 力哉にくれてやると言ったのに…… 愛した女といたいと想う…… 「………力哉を連れて行きたいと想う気持ちは嘘じゃねぇ……」 「お前は何時も本気だ…… 解ってる そんなに器用に立ち回れる奴じゃない」 一生は黙り込んだ そしてやっと一言 「…………俺……少し考えたい……」と答えた 「考えれば良い 時間はタップリとあるんだからな 力哉の事を愛してるなら勘付かせるな… 出来るな?一生」 「………解ってる…… でもアイツ……勘は良いからな……」 「なら消えろよ 考えが纏まるまで……消えてて構わねぇよ」 「………康太……」 「話はそれだけだ……」 康太はそう言うと隣の部屋をノックした 榊原が顔を出し、康太を抱き寄せた 流生は走って一生に抱き着いた 「かじゅ ぎぇんちない?」 「おっ?俺は元気だせ?」 「かじゅ きょれかちてあげゆ」 流生はポケットからラピスを取り出した ビー玉より大きいラピスの球体 それは流生の宝物だった それを貸してあげると言った 「これは流生の宝物だろ?」 「ちょお!かじゅぎぇんちないきゃら……かちてあげゆ」 流生はそう言った 一生はラピスを受け取り…… 「………借りるな……」と言い副社長を出て行った 榊原は康太を抱き締めた 「………悩ませたくねぇんだけどな……」 康太は呟いた 「………遅かれ早かれ……こうなったんです 君は悩まなくて良い………」 「オレは……青龍しか愛さないからな…… 他の存在など許しはしない…… 醜い自分しか知らない………」 「僕も君しか愛せません 他など要らないので……解りません」 「………上手く行かねぇな……」 康太が呟くと慎一が口を開いた 「康太、一生がケリを着けなきゃいけない事です…… 貴方は悩まなくても良い」 「………アイツは手が掛かる奴だからな昔から…… 泣きたいのに泣けなくて……黒龍が何時も心配してた…… オレ…黒龍にも逢ってくるわ……」 「何時行きます?」 「今夜……子供達が眠ったら魔界に逝く 明後日の約束までに戻って来る」 「では貴方に変わって準備を整えておきます」 「………頼むな慎一」 慎一は康太に一礼した 「慎一、聡一郎を拾って子ども達と外食に出るもんよー」 「解りました! では聡一郎を拾って来ます」 「ならオレは伊織と子供を迎えに逝くかんな!」 慎一は副社長室を出て行った 榊原は康太を強く抱き締めた 「………まさかな……こんな展開になるなんてな……」 「定めなのです仕方在りません」 「………酷な定めばかり用意する…… 赤龍が可哀想だ……」 「………赤龍が作った罪です……」 「………罪とか言うな…… お前だけは赤龍を責めてやるな……」 榊原は康太を抱き上げた 「僕は君さえいれば良いのです」 康太は榊原の首に腕を回した 「康太、我が子を迎えに行きますよ」 「だな!」 康太は床に下りた そして流生と手を繋いだ 流生は康太の涙を拭いてくれた 「かぁちゃ…きゃなちいの?」 「流生……」 康太は流生を強く抱き締めた 「………きゅるちぃ……」と言われて、流生を離した 「流生、何食うよ?」 「りゅーちゃ おきょこちゃま!」 「お!良いなお子様ランチか!」 手を繋いで康太は副社長室を出た 榊原はニコッとして康太と共に歩いていた 途中で陣内と出くわした 「康太!逢いたかったです!」 陣内は康太に抱き着いた ポンポンと足を叩かれて下を見ると…… 流生が陣内を見ていた 「………一生をミニチュアにした様な顔…… 流生ですか?この子?」 「お!すげぇな陣内!ビンゴだ」 「康太……神野に……託す子を……連れて行って下さい……」 「………悪かったな…… 予定よりも大分遅れたな」 「………本当なら渡したくはないのです……」 「須賀の所に、お前の所の子供と同じくらいに生まれた子が貰われる 今度逢わせてやる お前と須賀は案外仲良くなれそうだしな」 「……康太、この子触って良いですか?」 「良いぞ」 康太が良いと言うと陣内は流生の目の高さまでしゃがんだ 「陣内と言います」 陣内は自己紹介した 「ちんない?」 「………陣内だよ?」 「ちんない りゅーちゃ」 流生は元気よく右手をあげた 「可愛いな……康太の子だ……」 「あい!」 流生は手を上げて答えた 「今度玩具買いに行こうな!」 「りゅーちゃ おはにゃちゅき」 「お花か……綺麗なものはおじさんも大好きだぞ!」 「いっちょ!」 流生はキャッキャと笑って陣内の手を叩いた 「陣内、近いうちにお前んちに行く」 「待ってます」 康太は流生の手を繋ぐと歩き出した エレベーターで地下駐車場まで行くと、今度は栗田にでくわした 「康太!」 栗田は康太に抱き着いた 栗田の隣には城田がいて、城田はしゃがんで流生に声を掛けた 「城田お兄さんだよ!」 「ちろた?」 「お名前は?」 「りゅーちゃ!」 「りゅーちゃんか、良い名前だね」 流生と仲良く話す城田に康太は声を掛けた 「お前が子供好きとはな…」 「俺の子供がちょうどりゅーちゃん位なので!」 「………お前……結婚したっけ?」 「してません! 姉が……先の震災で亡くなったんです 姉さんの子供は入院してて助かった でも俺達は施設の出なんで、頼れる人がいないんです だから俺が引き取り親になった」 「……子供は何処に預かってる?」 「本当なら会社で預かって貰えれば良いんですけど…何処にも預けられなくて…… 家で留守番させてます」 「城田、明日保育園へ連れて行け 正式な手続きは来週頭に副社長室に来い! 今週は予定が詰まってるかんな!」 「………え?留守番出来るので大丈夫です」 「心細いに決まってるだろ? これ位の子供には仲間も必要だ 一人で背負わなくても良い…… バカだなお前は……」 康太は城田の頭を撫でた 城田は堪えきれなくなって…泣いた 「………貴方は本当に…俺を泣かせるのが上手い……」 「そうか? 重荷に潰される前に手を差し伸べられて良かった……」 康太は城田の精神状態を見抜いて言った 「………本当に……何と言って良いか……」 「保育園のお金は払えよ?」 「当たり前です!」 「保育園の方には話は通しておいてやる 明日から通わせろ! 子供は人と触れて成長するんだ お前はその子の成長を妨げる事は出来ない…」 「………解ってます……」 「バッタリでくわして良かったろ?」 康太は笑った 「じゃあ、一夫、城田!」 康太はそう言い流生の手を引っ張って歩いて行った 保育園へ顔を出すと音弥が康太に飛び付いて来た 「かぁちゃ!」 嬉しそうに抱きつく音弥を、康太は抱き締めた 太陽と大空も榊原に抱き着いた 翔は少し離れた所に立っていた 「翔、おいで!」 康太が呼ぶと翔は走って康太に飛び込んだ 「翔、ファミレスに行くぞ!」 「かけゆ、ちゅてーき」 「………おい……お子様じゃねぇのかよ?」 「かけゆ、おにゅくちゅき」 「………ステーキって……おい!」 怒りマークを付けた康太に榊原は 「好きなのを食べさせましょう!」と取り成した 「………まだオムツはめてる癖に……」 「……康太……僻みが入ってますよ?」 「………違うもん……僻みじゃねぇかんな!」 康太はムキになって 「ならオレもステーキだかんな!」と訴えた 「………君の体躯では無理です 今日はこのまま帰って病院に行きますか?」 「……今日は子供といる……」 保母に明日から新しい子が通うから……と連絡を入れ帰宅する 地下駐車場に行くと聡一郎と慎一が待っていた 「慎一、近いうちに病院に行かねぇとな」 「……体調が悪いのですか?」 「違う!一ヶ月近く病院に通ってねぇかんな 病院に顔出して定期検査して貰おうと想ってな」 「それが良いです 子ども達の事は大丈夫です 見れる手は沢山あります」 慎一は隼人の車に乗り込んだ 康太は榊原の車に乗り込み、榊原は子供を後部座席に乗せた 翔と流生と音弥を乗せてシートベルトを締めた 聡一郎の車の後部座席に太陽と大空を乗せてシートベルトを締めた 「聡一郎、何時も行くファミレスです」 「一生は?」 聡一郎は榊原に問い掛けた 「………いません……後で話します」 そう言い榊原はベンツの運転席に乗り込んだ 聡一郎は慎一に「何があった?」と問い掛けた 「………康太から聞くと良い……」 「……康太からも聞くけど……傍にいたんだろ?教えてくれよ」 慎一は女神の力が遺ってるのを話した そして女神は今世で命を終えたら炎帝が昇華して魂の球体を赤龍に渡す……と言う事を話した 聡一郎は「……やっぱり女神の力は遺っていたか……」と呟いた 「知っていたのか?」 「流生を見れば……受け継いだ力は半端ない あれで封印してあるって言うんだからな…… 解放したら……赤龍を遙かに超す存在になる その力……虹龍をも脅かす存在となる……」 こう言う話をすると……聡一郎も魔界の者だと知らされる 「……女神の力は……消されるそうだ 今世に何故が天帝と言う神が墜ちてるそうだ……」 「………天帝!………間違いなく天帝か?」 「………そんなに天帝と言う神は凄いのか?」 「……人の再生を司る 朱雀と違って人の細部に渡って再生出来る神だ 記憶を消すなら容易く消すだろう…… 朱雀は人は生き返せるが、人の再生は無理だ ましてや細部に渡る再生や昇華は難しい 天帝は、そう言う神だ…… 再生を司る神だからな…… そうか……閻魔は…女神の力を剥奪させる為だけに天帝を今世人の世に堕としたか… 五帝不在の今…魔界のバランスは崩れるな 四龍も四神も不在だしな… 閻魔は何を考えておられるのか…… 炎帝は魔界に渡られる……か……」 「今宵魔界に逝かれるそうです 女神には明後日……お逢いになります」 「………で、一生は岐路に立たされたか…… 今愛する存在か…… 未来永劫愛を誓った女神か…… 究極の選択ですね」 「………一生はどうするんですかね……」 「それは一生が……嫌……赤龍が出さねばならない答えだ…… 僕は関与は出来ぬ……」 「………誰も……関与は出来ませんよね……」 「………関与すべきではない だから康太は時間を与えて逝かせたんだよ 自分が答えを出すしかないからね きっと…炎帝は…黒龍にも逢いに行くんだろうな」 「……黒龍……彼は炎帝にとって特別なんですか?」 「何も持たぬ炎帝の傍には兄の閻魔と黒龍だけだった 破壊神と謂われし炎帝は恐怖だった 誰も傍には近寄れなかった………」 「………聡一郎も?」 「…………僕は端っから傍に寄る気はなかった…… 僕は炎帝を馬鹿にして嫌っていたんです」 「………人の世に堕ちて来てる程慕ってるのに?」 「司命 司録は閻魔の側近で、閻魔の弟には興味もなかった 神が作りし化け物など……と馬鹿にして相手にしなかった なのに……彼は処刑される僕達を救ってくれた あの日から僕達は炎帝に仕える事にした だから……魔界では僕達は一緒には過ごしてないんです」 炎帝の孤独が窺えられる…… 誰よりも孤独で…… 誰よりも傷付いて生きていた だから康太は優しいのだ…… 慎一は聡一郎を見た 「………一生は還って来るでしょうか…」 「アイツは康太のいない場所では生きられない…… 還って来るしかないんだ……」 慎一はこの空の何処かにいる一生を思った 一生…… 還って来いよ…… 慎一は心の中で叫んだ ファミレスに到着すると康太は車から下りた 子ども達を車から下ろし、聡一郎の方へ行った 聡一郎の車から太陽と大空を下ろし、ファミレスの中へと入っていった 席に案内されて康太は子ども達と同席した 子ども達は、それそれ好きなのを注文し 康太は……消化にいいモノを食べた 「伊織…」 「何ですか?」 「東栄社の脇坂に電話をしてくれ 脇坂が出たら変わってくれ……」 「解りました」 榊原は東栄社出版の脇坂篤史に電話を入れた 脇坂が電話に出ると康太に変わった 「脇坂か?飛鳥井康太だ!」 『康太さん……僕に用ですか?』 「お前の編集部に円城寺健っているか?」 『はい。います』 「電話、変わってもらえる?」 『はい!健に変わります』 「………悪いな脇坂……」 『気にならずとも良いです』 脇坂はそう言うと円城寺健を呼んだ 「健、電話です!」 呼ばれて円城寺健は脇坂の所まで行った とても小さな男は脇坂は見上げた 「誰ですか?」 「飛鳥井康太さんからだ……」 健は息を飲んだ…… 『はい……お電話変わりました』 「天帝か?」 『………はい!そうです』 「お前の仕事をしてくれ…… 明後日、ホテルニューグランドに来てくれ フロントに飛鳥井康太に逢いに来たと告げれば案内してくれる様に手配しとく」 『解りました オレの本来の仕事を完遂致します……』 「今夜……兄者に逢ってくる……」 『………宜しくお伝え下さい』 「………天帝……明後日逢おう!」 『はい!必ずお伺い致します』 円城寺健はそう約束して電話を切った 「………今宵……兄者に逢ってくる」 康太が言うと聡一郎は 「今頃ワクワク待ってるんでしょうね…」 と溜息交じりに呟いた 「兄者をとっちめてやる! ったく……人に仕事を押しつけやがって……」 「まぁまぁそう言わないでやってください」 流石、司命……閻魔の下で働く者の言葉だった 「………兄者に優しいのは主だからか?」 「僕の主は貴方です 僕と司禄は貴方にしか仕えておりません」 「………でもお前は兄者には優しいよな…」 「……優しいのではないです あの方は大人げないので……優しくしとこうと想って手心を加えているのです」 聡一郎がそう言うと康太は爆笑した 榊原は「言い得てるだけに……」と笑いを堪えた ダラダラと話をして食事をした 子ども達もモリモリと食べて…… 食べた後は眠そうだった 食事を終えると飛鳥井に還って行った 眠った子ども達を抱っこして子供部屋に連れて行き寝かせた 康太は慎一に「部屋には誰も入れるな」と言い部屋に帰った 慎一は言い付けを守って、康太と榊原の寝室には誰も通さなかった 部屋に戻ると康太は榊原と共に寝室に入った 「伊織、直接魔界に入る!」 「………閻魔の邸宅に直接逝くのですか?」 「あぁ……時間が勿体ないかんな!」 「……君の体躯に負担が掛かります……」 「大丈夫だ!病院にも行くし!」 「………本当なら……今日、病院に行く予定でしたよ?」 「言うな……子ども達といたかったんだ…」 「…………淋しい想いさせましたからね……」 「もっと傍にいてやりたいがな……」 「………ええ……でも……中々……想うようには行きませんね……」 榊原は康太を抱き締めた 「………伊織……」 「明後日には還ります」 「そう……だからな還りは水神の所から来ようぜ!」 康太は悪戯っぽく笑うと雷帝の剣を出した 「時空を切ったら逝くぜ伊織!」 「ええ。何時でも大丈夫です」 康太は時空を切った 閃光が辺りを包むと…目が眩んだ バチバチ……と電気の走る音が響いた 暗闇を切り裂き……時空を切り裂いた 一歩踏み出すと……そこは閻魔の邸宅だった 真っ赤な金糸をふんだんに使った閻魔の衣装に身を包んだ閻魔が笑って立っていた 「今宵辺りに来ると想っていた」 閻魔は康太に飛び付いて抱き締めた 「兄者、話が在るんだ」 「炎帝んちに行きましょうか?」 「………兄者の家じゃなく?」 「あんな肩の凝る場所など……来てもつまりません」 閻魔は炎帝を引っ張って炎帝宅に連れて行った 執事の雪が炎帝の還りを待っていた 「雪、ただいま」 「お帰りなさい炎帝、青龍 今お茶の準備をします」 雪は嬉しそうに奥へと引っ込んで行った 炎帝は青龍と共にソファーに座ると、閻魔に向き直った 「兄者、人の世に天帝がおるのは何故じゃ?」 「もう解っておるであろうて……」 「………女神の力をそのままに人の世に堕としたな……」 「お前達も……本来なら……骸にして総てを奪って堕とすべきなのだ だけど、お前達は力を持ったまま人の世に堕ちた 女神も情けだった…… 赤龍しか愛せないと言った だから人の世に堕とした まさか……人の世に赤龍が堕ちて…… 愛し合うとは……予測していなかった 次代の赤龍を設ける事は予測不可能だ」 「………それは良い…… オレが来たのは天帝を何故人の世に堕とした?」 「………総てはお前が適材適所配置するが為…… 女神の希望でもあった……」 「魔界に五帝を失って……?」 「魔界に五帝いようがいまいが…… 今更……だったから…人の世に堕とした 人の世は高々80年そこそこ…… 魔界ではくしゃみした位にしかならぬ」 「………兄者……」 「………魔界が滅ぶならば…… それでも仕方ないと想っていた お前を解放させられるなら…… こんな魔界など……滅びてしまえば良い」 「………そんな事言うな兄者……」 「………それでもね……兄は……そう思ったのです…… お前のいない魔界など護る魅力もない… そう思っていた……」 「オレの還る魔界を護るんじゃねぇのかよ?」 閻魔は炎帝の頬に優しく手を掛けた 「お前が還るのであれば……何としてでも守り通すと決めている 人の世に……お前が一人で堕ちたならば……もっと早く還れと言っていた お前には青龍がいる 青龍と共に生きるのであれば……魔界へ還る必要などないと想っていた…… 炎帝……兄は……お前が幸せなら…… それで良い……と想っていた お前が幸せなら……魔界などどうなっても構わない……」 閻魔の苦悩が手に取る様に解った 護りたい…… だが炎帝の還らぬ魔界など滅んでしまえば良い…… そう想う矛盾 願うのは弟の幸せだけ…… 神々のエゴで生み出された弟 兄はお前が産み落とされた日に…… 何があっても守り通すと誓ったのだ 炎帝を護ると決めたのに…… 生きるのに疲れた炎帝の暴走を食い止めれずに人の世に堕とした 一つだけ救いがあるとするならば…… 炎帝の傍に青龍がいてくれた事…… 一人で気の遠くなる程の月日を生きなくて済んだ事…… 想いもしなかった 青龍には妻がいた 何処で炎帝と繋がっていたのか…… 黒龍に聞いても…… 黒龍すら知らなかった…… 炎帝が青龍を好いている事は知っていた 青龍の家の湖から青龍を見ていると黒龍に聞いた 炎帝の片思いだと想っていたのに…… 炎帝の傍に青龍がいてくれる奇跡 閻魔は泣き叫びたい程に、その奇跡に感謝した 炎帝を一人にしないで済んだ…… 愛を知らない子供が…… 愛を知り……大人になった 愛を知った炎帝は誰よりも美しく気高かった 何時も何時も……弟を見てきた 「………兄者……魔界は続く……」 「ええ。君が還って来るのなら明日へと繋げます…… 自暴自棄になってた時があるというだけです……」 閻魔はバツの悪そうな顔をした その時、炎帝の家の応接間に黒龍が通された 「………邸宅で待ってたんだけど? 閻魔は何処かへ消えてしまった 弟の匂いが魔界でするから来てみれば…… 行方不明の閻魔がいるとは…… 雷帝、俺の約束はどうしたよ?」 黒龍は怒り狂って閻魔を羽交い締めにした 「……黒龍……ギブ……」 閻魔は苦しそうだった 青龍は黒龍を止めた 「………兄さん……まだ生かしておいて下さい」 「青龍、おめぇ来たなら声くらい掛けろよ 炎帝、おめぇもよぉ!」 黒龍は拗ねていた 炎帝は笑って黒龍に抱き着いた 「黒龍、拗ねるな可愛いだろ?」 「………いつ来たんだよ?」 「今」 「………え?」 「だから今来たんだよ おめぇには銘を連れて来て貰いたくて呼ぼうと想ってた所だ」 「……銘?」 「あぁ、銘を連れて人の世に来てくれ黒龍」 「………それはまた……突拍子もねぇ事だな」 「後……赤龍が来るかも知れねぇ……」 「………何があった?」 「………女神は今世の命が尽きた時、昇華してくれと言った 昇華して魂を赤龍に渡してくれと……言ってきた それを赤龍に伝えた 赤龍は魔界に連れて来ようと想ってる恋人がいるからな……悩んでる」 黒龍は顔を覆った 「………あちゃぁーツケが全部来ちゃった?」 「オレと青龍は互いしか知らないからな… 赤龍の想いに対してアドバイスは出来ない」 「お前は遥か昔から青龍しか見てなかったからな…… お前の初恋は青龍だもんな」 黒龍はサラッと言った 青龍は今更ながらに赤面した こうして聞くと少し恥ずかしい それを兄黒龍が知っていて炎帝の傍にいたと言う事の方が驚きだった 兄黒龍は誰よりも炎帝を大切にして来た 誰よりも炎帝を愛していた…… その想いは赤龍よりも深く…… 青龍は想いを振り払った 「青龍、金龍んちに行くぜ!」 ボーッと考え事をしてる間に何故が金龍の家に行く事になっていた 閻魔も乗り気で 「青龍、金龍んちに行きますよ!」と率先して部屋を出て行った 炎帝は青龍に「どうしたよ?」と問い掛けた 「どうもしません 初恋が僕なんだと聞いて胸が熱くなってました」 青龍が言うと炎帝は頬を染めた 「オレは青龍しか見ていねぇ…」 「僕も君しか見ていません!」 青龍もウキウキと炎帝と手を繋ぎ、部屋を後にした 厩舎へと向かい馬を見ると風馬と天馬が仲良くイチャイチャしていた 「………風馬……君の鼻の下……伸びすぎです」 青龍が嫌みを言うと風馬は嬉しそうにヒヒヒィーンと鳴いた 「青龍!お帰り!」 「まだ還ってません……」 「何処かへ行くんでしょ?」 風馬はウキウキと背中を指し出した 天馬は拗ねて……そっぽを向いていた 「青龍、一緒に乗って行くか?」 炎帝が言うと天馬は 「えええええ!俺の背中に乗らねぇのかよ!」と毒突いた 「主の姿を見ても知らん顔してる馬の背中に乗ったら振り落とされるじゃねぇか!」 ギロッと睨み付けられれば…… 炎帝を乗せて走っていた過去が蘇る 甘くはない男だが、惚れ込んで着いてきた 乗ってよ!と背中を指しだして駆け抜けた日々は確かに在った 天馬は炎帝の服を噛んで引っ張った 「乗ってよ!」 「淋しかったか?天馬」 天馬は涙を流して「淋しかった!」と訴えた 「ほら、オレを乗せろ!」 天馬は背中を差しだして喜んだ 炎帝は天馬に乗り、青龍は風馬に乗り 金龍の家へと向かう 金龍の家に着くと黒龍が一足早く入って行った 応接間で寛いでイチャイチャしてる両親に黒龍はピキッとなりつつも 「親父殿、お袋、今日は客人を連れて来た」と声を掛けた 金龍は黒龍を見て「………閻魔殿か……」と問い掛けた 「閻魔もそうですが、閻魔の弟殿が弟と共に来たのですよ」 黒龍は遠回しに言った 金龍は跳びあがり「炎ちゃん!」と叫んだ そして息子を押しのけて炎帝を抱き締めた 「炎ちゃん いらっしゃい」 「金龍、邪魔する」 「炎ちゃん何時でも遊びに来て下さい」 青龍は父親を剥がして、炎帝を抱き締めてソファーに座った 金龍は「……んとに小さい……」と呟いた 炎帝はソファーに座るなり単刀直入に金龍に問い掛けた 「金龍は魔界の行く末に不安はないか?」 金龍は面食らったが、人を食った様な嗤いをした 「炎帝は魔界の行く末に不安がおありか?」 「四神、四龍、五帝を欠いだ現状に不安がないか?と問うたつもりだ…」 「我が魔界には炎帝、貴方が還る 我が息子青龍も還れば四龍と四神は蘇る 五帝は貴方が皇帝を名乗れば良いだけの事だ! 皇帝炎帝となられよ! そうすれば貴方が二帝名乗る事になる すれば五帝は揃う! 虹龍も還る……何を不安に想う事がある? 貴方が還る、それだけで魔族は活気を取り戻し在るべき道を逝く! 貴方が描く絵図に我らは乗るだけだ」 金龍はキッパリと言い切った 「………金龍……天帝が人の世に堕ちたのは知ってるのか?」 「閻魔の都合により堕ちたのであろう? だが、それがどうした? 天帝一人消えようとも我等はびくともせん!」 「………金龍……お前の前向きさ…… お前達の息子に何故 引き継がれなかった?」 「………んなのは知りません 我が息子は地龍以外は貴方命ですから……」 「あ!そうだ、銘を人の世に連れて逝く」 「構いません、貴方のお好きになさい!」 「………悪いな……」 「構いません! なんなら黒龍も連れて行きますか?」 「………金龍……大盤振る舞い過ぎだろ?」 「黒龍に流生を逢わせてくれ……」 「流生を?」 「女神の力は閻魔が押さえられるだろう…だが龍の力は……龍しか封印は掛けられぬ 黒龍が行って流生の龍の力を封印する… 龍の力など……人の世に生きる子に不要 それより……流生の如意宝珠はどうした?」 「流生の如意宝珠は金庫にしまってある… 流石に渡せねぇだろ? 女神が……流生と一緒に持たせて来たかんな 渡せねぇけど大切に保管してある」 「ならば、その如意宝珠は黒龍が持って還ろうか? 流生が赤龍として魔界の地に降り立つ時… 流生に渡すとしよう!」 「………良いのか?金龍」 「流生は我が孫! 赤龍が愛してやまぬ子だ…… その赤龍……岐路に立たされましたか?」 「………共鳴したか?」 「………赤龍は鳴いております……」 「………金龍……すまねぇな…… オレは何時も赤龍に辛い現実しか与えねぇ……」 「それでも君の傍で逝きたいと願ったのです 我が子の覚悟を……お受け止めください」 「………赤龍を幸せにしてやりてぇと想ってるのに……… 現実は何時も……赤龍に試練しか与えねぇ」 「……貴方が与える幸せの中でぬくぬくと過ごせぬ性分なのです 気になさる必要など在りません 赤龍の魂が……限界だと叫ぶなら…… 地龍も黒龍も飛んでいきます 青龍 お前も兄の元に逝くのであろう?」 「はい!我等兄弟は常に共にあります」 「………青龍……赤龍は……脆い……」 「だが誰よりも強いのです父上 弱いのは人の痛みを知っているから…… 優柔不断なのは人の哀しみを知っているから…… だが兄はそれても自分の足で進んで逝ける 兄は……炎帝さえいたら生きて逝けます」 「………お前の口から……赤龍の事が聞けるとは……」 誰よりも青龍は赤龍を嫌っていた…… なのに今は誰よりも赤龍を解っていた 赤龍が命を懸けても良い程に炎帝を愛してるのを知っていて…… 青龍は赤龍を傍にいさせる 共に……哀しみも苦しみも分かち合い…… 生きているというのか? 「………傷付いて還って来たら炎帝と共に抱いてあげます 父上は心配なさらずとも良い」 青龍はサラッと恐ろしいことを言った 金龍は黒龍を見た 「赤龍は何度も二人に抱かれて癒やされて生きてるんですよ父者……」 「………赤龍の奴め……こんなに大切にされよって……」 少し羨ましくも在った 揺るぎない関係が…… 金龍は黒龍に「銘を連れて参れ」と伝えた 黒龍はリビングを出て行った 金龍は炎帝に「体調はどうだい?」と問い掛けた 「……悪くはねぇけどな……力を使えば…… 飛鳥井康太の体躯も寿命も縮めてるのは解るんだ…… そんなに長生き出来ねぇかんな……子供達には厳しく教えねば……と想っちまう 教える事なら……山ほど在るのにな…… 子供達が……成人するまでは……いられねぇと想うとな……」 「………炎ちゃん!息子は諦めておりません! 貴方も諦めないで下さい……」 金龍は泣き出した 銀龍は優しく夫を撫でた 「……銀龍……すまぬ……」 「炎ちゃん……青龍は愛する貴方を離しはしません……」 「………オレも離す気は皆無だ…… 青龍はオレの奇跡だかんな…… 共に……人の世に堕ちてくれるなんて想っていなかった……」 「青龍は一途な男です 不器用で融通が効かない…… だけど決めた事は譲らない 貴方と人の世に堕ちたのは信じられなかったけど……青龍は愛を貫いたのだと想ったら……嬉しく思いました あの子に……そんな感情がある事を…… だから……諦めないで…… 私達も……貴方を魔界に簡単には来させないわ」 銀龍はそう言い笑った 銀龍の母の愛が滲み出ていた

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